長すぎわろた
地球、衛星軌道上──ユニウスセブン残骸宙域。
「こうやってみると……でかいよな」
しみじみと──艦橋から見えるユニウスセブン残骸の姿に、ディアッカ・エルスマンは呟いた。
「当たり前だバカ者。俺達は同様の構造体に住んでいるんだぞ」
「腑抜けた声出すなよディアッカ。真面目にやれ」
隊長であるイザーク・ジュール。そしてザフト特務隊FAITHのミゲル・アイマンは、そんなディアッカに厳しい苦言を呈した。
「今回の任務の重要さを、改めて思い知ったってだけだよ」
妙にピリ付く2人に、ディアッカは肩を竦めた。
ユニウスセブンの落下に対応するべく、早急に動いたプラントが派遣した部隊──それが、イザークを部隊長とするジュール隊と、特務隊所属のミゲル・アイマンであった。
母艦であるナスカ級ボルテールと随伴艦としてルソーが伴い、艦にはこの事態に対応するべく、“メテオブレイカー”と呼ばれる特殊掘削機械を積載してきた。
そうして宇宙空間にある内に、ユニウスセブンを細かく砕く算段である。
「ミネルバもすぐ応援に来るだろう。先に設置個所をマーキングして準備を進めておくとするか。行くぞディアッカ」
「あいよ」
「時間は多くあるわけでは無い。手際よく動けよ」
ボルテールの艦橋から出ていく2人を見送り、イザークは再び眼前のユニウスセブンを見つめた。
地球圏某所。
大きく薄暗い部屋。
眼前には大量のモニタが並ぶその部屋で、男は豪勢な椅子に座りながら、ひざ元の猫を撫でつけていた。
『さて、とんでもない事になったな』
『地球滅亡のシナリオか……』
『書いたものが居るとでも?』
眼前のモニタの一部に並ぶのは、地球圏において大きな影響力を持つ者達の顔。
軍事、金融、化学、穀物と言った多岐に渡り、且つ大きな経済資本を動かすことのできる産業の代表者達────いわば、地球を動かせる者達である。
「その点の調査については、ファントムペインに命じて戻らせましたよ」
『大丈夫なのか?』
『今更なんぞ、役に立つものか。そんな事を調べたとて』
「それを調べるのですよ」
どこか、芝居がかった論調で、男は身振りを交えて言った。
また始まったかと言わんばかりの視線がモニタから向けられるが、彼にはそれが届いていないようだ。
『して、この召集はなんだ“ジブリール”。大西洋連邦を始めとする各国政府がよもやあれをあのまま落とすとは思っておらんが……避難や対策に皆忙しいというのに』
ジブリール──男はそう呼ばれた。
察するに、このモニタ越しの会議は彼が求めた様だ。
ユニウスセブンの落下と言う未曽有の災害に備え、地球圏は現在てんやわんやといった騒ぎだというのに、こんなところで余計な時間など割いては居られない。
嫌味が見え隠れする言葉に僅かに目を細め、ジブリールはまたも芝居掛かった面持ちで目を伏せる。
「この度の件。正直申し上げて私も大変ショックを受けております────ユニウスセブンが? まさかそんな、何故、とね」
『前置きは良い。ジブリール』
「いえ、ここが肝心なのです!」
横槍を入れるな、と。
そう言いたげな声で、ジブリールは力説した。
「やがてこの事態は世界中の誰もが思う事になるでしょう。なれば、その答えを我々は与えてやらねばなりません」
『やれやれ、既に事の先の算段と言うわけか』
「原因が何であれ、あの無様でバカな塊が間もなく地球へ、我らの頭上へと落ちてくる──どういうことですこれは! あんなものの為に、我らが顔色を変えて対応し逃げ回らねばならないとは!」
声高に論ずるジブリールの言いたい事──それが見えて来て、モニタに映る地球を動かせる者達は眉を顰めた。
『つまりは──報復と?』
そう、嘗てのエイプリルフール・クライシスの様に。
世界を襲うこの災害の後に、その声を挙げる。
再びの戦火────それが、彼の。
否、口には出さないが彼等の望む事であった。
「この屈辱はどうあっても晴らさねばなりますまい。誰に? 当然、あんなものをドカドカと宇宙に作ったコーディネーター共にです! 違いますか?」
『だが事の次第では被った被害に戦争するだけの体力も残らんぞ』
「だからこそ、今日はお集り頂いたのです! 避難も脱出もよろしいですが、その後には我々は一気に打って出ます。例のプランで……その事を抱けは、皆様にもご承知おき頂きたいと」
猫をどけて、立ち上がり、そして恭しく礼を見せた。
あくまで彼は、ここで提案する立場。礼を失しては機嫌を損ねる。
『なるほど……』
『できると思うてか……強気だな』
『コーディネーター憎しで、かえって沸くかもしれん。民衆は』
『その民衆が残っていればな』
『残りを集めるのでしょう? 憎しみと言う名の愛で』
返ってくる声は、応ずるものであった。
ジブリールは見えぬところで小さく笑みを浮かべる。
『うむ……皆プランに異存は無いようじゃの、ジブリール』
「ありがとうございます」
『では次は事態の後じゃな。君にはそれまでに詳細な具体案を提出してもらう』
「はい」
話が終われば早いものである。
次々と消えていくモニタ。会議は数秒の間に幕を下ろした。
瞬間、ジブリールはここまでに見せてきた道化の顔を消し去る。
座っていた椅子の傍らにあった、琥珀を湛えるグラスを手に取ると、気が触れたように壁へと叩きつける。
「──あの老いぼれ共が!!」
垣間見える激情家の顔。
先程までのが見事な演技だとわかるだろう。これが彼の本来の素顔なのだ。
「気に喰わん。驕り高ぶる気配を隠そうともしない──見下しおって!」
それでも、利用しなければならない。
世界を思う通りに動かすには、彼等の助力と認可が必要であった。
その為に仮面を貼り付け道化を演じているのだ。
僅かに荒くなった息を整えて、ジブリールは落ち着きを取り戻すと小さく笑った。
「──ふぅ。さて、次はどう動くかね……ギルバート・デュランダル」
薄暗い部屋の中で、ジブリールの妖しい瞳が微かな光を湛えていた。
ユニウスセブン残骸が漂う宙域まで、もう間もなくと言う所。
ミネルバの艦橋には、デュランダルとカガリ──そしてカガリから謹慎命令を喰らったタケル・アマノが入っていた。
何故謹慎命令を喰らったかと問われれば、ザクを限界ギリギリまで酷使しておまけに自分自身まで昏睡状態で帰ってくる危険極まりないバカに、これ以上勝手をさせられるか、という事である。
カガリ自身、タケルがユリスと戦うために出撃したことは理解しているし、あの状況でそれが必要な事もわかっている。
が、対外的に見れば無鉄砲極まりない彼の戦いに疑問の声が挙がるのは仕方のない事だ。
ヤヨイが驚嘆した様に、異次元の戦いをしていようと、パイロットとして直接相対でもしない限りそこの程度は判らない。そうして、意気揚々と出撃しておきながら、気絶して帰ってきた結果だけが残る。
もう一人の大戦の英雄、アスラン・ザラに白羽の矢が立つのも当然であった。
「ボルテールとルソーがメテオブレイカーを持って先行しております」
「あぁ、こちらも急ごうタリア」
「議長……この事態に、地球軍からも動きはないのか?」
カガリの問いに、デュランダルは難しい顔を見せて返す。
「現状では何も。事態の把握はしているでしょうが……月からの緊急発進ではもう間に合いますまい。あとは地表からの攻撃で多少の破砕はできるでしょうが、表面を焼くばかりでは大きな効果は見込めません」
「──協力も援護も難しい、か」
本来なら地球軍こそが動くべきであろう。
しかし、これだけの事態に直ぐ動くことは簡単ではない。
対処法にだって協議が必要だし、動くのにだっていくつもの承認が要る。
母体が大きい組織程、腰は重いのが普通だ。
遣る瀬無い現実に、カガリは落胆を禁じ得なかった。
「素直に手を取り合えない理由も、往々にしてありましょう。
ともあれ、地球は我等にとっても母なる大地だ。その未曽有の危機に我々もできるだけの事を致します」
「感謝する、議長……地球の民を代表して」
地球に住む者の代表として、誠心誠意の礼をカガリは述べた。
そんなカガリの姿に僅か口元を緩めると、すぐにデュランダルは真剣な表情を作り出す。
「この艦の装備ではできる事もそう多くはないかもしれないが、我々の動きに多くの命運が掛かっている。全力で事態にあたってくれ!」
「はっ!」
デュランダルの鼓舞する声に応じて、艦橋内の空気が引き締まる。
誰もから、この任務に全身全霊を掛ける様な意気込みを感じた。
カガリはまた一つ、胸が温かくなる想いだった。
「あのぉ~」
そんな空気を破る様に、恐る恐ると言った様子で、オペレーター席のメイリンが声を挙げる。
「どうしたの、メイリン?」
「アマノ三佐が乗っていたザクは、アレックス……アスランさんが乗るという事で、本当によろしいんですか?」
艦長であるタリアと、そして後ろに座るカガリへと向けて、メイリンは疑問の声を挙げた。
「私も、艦長も承知しているよメイリン・ホーク。問題は無いと言っておこう」
「私は承知していないが」
「うぇえ!?」
この場における一番の権力者。デュランダルの肯定に、タケルは不満げに呟いた。
思わずメイリンは奇妙な声を挙げるが、即座にカガリがタケルを抑えつける。
「黙っていろ三佐」
「──失礼した」
鶴の一声という奴だ。
何かをこらえる様に大きく息を吐くと、タケルは不機嫌さをどうにか押し込めて、黙り込む。
「しかし、姫。本当に間に合うのですか?」
「確約はできない。準備に手間取れば、それまでだろう……」
「代表、何の話を──」
「貴官は大人しく座ってろ、三佐」
「──はい」
デュランダルとカガリのやり取りに疑問を浮かべるも、即座に黙らせられるタケル・アマノ国防三佐。
少し俯き気味に黙り込むタケルの姿に、メイリンは母親に叱られる子供の印象を抱いていた。
「ユニウスセブン、光学映像出ます!」
そんなやり取りをしているうちに、マリクが宙域への到着を告げる。
一斉に、艦橋がまた緊張に引き締まる中、タリアは直ぐに声を挙げた。
「ボルテールとの回線は開ける?」
「いえ、通常回線はまだ」
「通信が取れ次第、MS部隊の発進準備を。作業はジュール隊の支援とします」
「はい!」
指示を受け、メイリンから格納庫へとアナウンスがされる。
もう少し接近したところでMS部隊の発進。任務の開始となるだろう。
慌ただしくなる艦橋のやり取りを、タケルは静かに見つめ続けているのだった。
格納庫では、各々が自分の機体の準備を終え、整備士達と乗り込む前の最後の確認を行っていた。
「粉砕作業の支援って言ったって、何すれば良いのよ」
「基本的にはボルテールから指示が出るって」
ザクのコクピットの前で、ヴィーノと状況を確認していたルナマリアは、少しだけ憂鬱さを醸し出していた。
彼女は元来細かな作業が苦手なタイプである。
作業支援、と聞いて余り良い印象を抱けないのは仕方の無い事だろう。
「あっ、あれ……」
ふと目に留まった光景。
ザフトのパイロットスーツを来たアスランが、ザクへと向かう姿があった。
「ん? あぁ、今回はあの人が出るんだって。作業支援なら一機でも多い方が良いし」
「アマノ三佐は?」
「先の戦闘で無茶したから、代表から謹慎喰らってるらしいよ。他国のMSを使ってまで無茶しやがって、とかなんとか」
「あぁ、そう言えば……ヤヨイが血相変えて運んでいたわね」
思い返して、ルナマリアは少しだけ怪訝な表情を見せた。
あの時、いつも済ました顔のヤヨイが慌てふためいて帰還し、ザクから気絶していたタケルを引きずり出したのだ。
確かに、ミネルバの為に戦ってくれたことに感謝と言うのはわかるし、そのせいで怪我なりなんなりされたとあれば胸中穏やかでは居られないだろう。
だがそれにしても、切羽詰まった表情は彼女らしくなかった。
「まぁ、アスラン・ザラならMSの扱いは十分実績があるだろうしね」
「と言うか、何なら私のザクもアマノ三佐に代わってもらった方が良い気がするんだけど?」
「バカな事言うなって、これは俺達ザフトの仕事だろ」
「へー、言うじゃない。ヴィーノの癖に」
責任や使命感といった気配を感じて、ルナマリアは同期の少年を笑った。
それは決して悪い意味合いを含ませず、釣られてヴィーノも笑顔を見せる。
そうして確認作業を終えた2人は散開して、ルナマリアはザクへと乗り込むのだった。
「ヤヨイ?」
セイバーの前で静かに佇むヤヨイを見て、シンは思わず声をかけた。
きっと彼女にも色々と心配をかけただろう。
自身がらしくもなく落ち込んでいたせいで、仲間思いな彼女に余計な不安を抱かせてはいないかと、シンは気掛かりであった。
「ん? シン、どうしましたか?」
「いや、何か……後ろ姿が元気無い気がして」
「大丈夫ですよ。少しこの事態に気負っているだけです。失敗は許されないでしょうからね」
「本当か? レクリエーションルームでタケル・アマノに言われた事を気にしてたりとか──」
「関係ないですよ、シン──あの人と私は、何も関係ありません」
急に、機械的な問答をするヤヨイ。だが、微かに見えるのは何というか、何かを振り切ろうとする様な気配────シンは訝しんだ。
「ヤヨイ?」
「さぁ、行きましょう。発進の指示がそろそろ出ます」
どこか誤魔化す様に、ヤヨイは確認が終わったらしいセイバーへと乗り込んでいく。
「ヤヨイ……」
そんな彼女を、シンはどこかもの憂げに見つめるのだった。
白いザクファントムの状態を、ヨウランとともに確認しているレイ。
だが、作業を進めるヨウランは少しだけそわそわと落ち着きがなかった。
「──どうした、ヨウラン?」
「あ、いや……」
問われて、自分が落ち着きがない状態な事に気がついたのだろう。
ヨウランはハッとした様な表情を見せると、数秒手を止めて、気持ちを落ち着けようと深呼吸を何度か繰り返す。
「気にし過ぎだ。少なくとも、この事態はお前のせいではない。
確かに先は不適切な発言をしたかもしれないが、シンの様に代表を侮辱したならともかく、末端の一兵士の発言でザフトがどうこうとはならない」
やはり不安はあったのだろう。
一国の代表から強い叱責を受けたのは、組織でも新人で末端の1人に過ぎない彼には大きな事実であった。
必然、どんな問題になるのか────もしかしたら、の不安が過ぎる。
「そう、なのか?」
「そんな事より、自分の仕事をしっかりこなした方が賢明だ」
「あぁ……まぁ、そうだよな。おし、ザクの準備は万端だ。作業支援、頼むぞレイ!」
「あぁ、できる限りをして来るさ」
レイの言葉に救われた気持ちとなって、ヨウランは自信を取り戻すと作業を終了。
気持ちの良い声音と共に、ザクへと乗り込むレイを送り出す。
各々が発進準備を完了する頃。
格納庫にメイリン・ホークの通信が飛び込んでくる。
『発進停止。状況変化。ユニウスセブンにて、ジュール隊がアンノウンと交戦中!』
その言葉の意味を理解して、彼等の空気が一気に剣呑なものへと変わっていく。
交戦中──それはつまり、敵性勢力がいるという事だ。
『各機、対MS戦闘用に、装備を変更してください!』
不穏な気配が、宙域に漂い始めていた。
時は少し遡る。
ミネルバの到着を目前に控え、ジュール隊はユニウスセブンへと降り立ち、特殊掘削機械メテオブレイカーの設置準備に入っていた。
だがそこへ突如、正規軍とは違うカラーリングのジンを駆る部隊が襲来。
識別信号も不明なアンノウンの勢力が、ジュール隊へと襲いかかっていた。
「ちぃ! 一体どこのどいつだ!」
「ジンに乗ってるってのはどういう事だよ!」
「考えるのは後だディアッカ! メテオブレイカーを破壊されたら終わりだ。応戦するぞ!」
「おうよ!」
ディアッカのザクウォーリアと、ミゲルのザクファントムは即座に応戦。
ガナー装備のディアッカがオルトロスで狙い撃ち、ブレイズ装備のミゲルは、敵機へと接近して次々とビームアックスでジンを屠っていく。
「──アンノウンだと。どういう事だ!」
オペレーターからの報告に、ボルテールにいたイザークも驚愕の声を挙げた。
状況を確認すれば、ユニウスセブンのあちこちより、敵機の反応があり、既に何人かの部隊員がやられている。
状況は既に、急を要する事態となっていた。
「ちっ、このままでは作業もままならん、俺も出るぞ! ザクを準備させろ!
敵機への応戦はディアッカとミゲルに当たらせる。それからミネルバのMS部隊に応援を飛ばせ! こちらは破砕作業をできる限り進める、いいな!」
「はっ!」
矢継ぎ早に指示を下すと急いで艦橋を出て、イザークは格納庫へと向かうのだった。
「ここにザフトのMSとは、一体どういう事ですかね?」
そんな、戦場となったユニウスセブンから少し離れたところで、調査に赴いて来たガーティー・ルー艦長、イアン・リーは隣の指揮官へと問うた。
「さぁてな。もしかしたらこの騒動は、気まぐれな神の手に因るものではないのかもしれないな」
「──ふむ」
「スティング達を出せ、状況を把握したい。記録も録れるだけ録っておけよ」
ファントムペインもまた、事態を把握するべく動き出す。
更なる勢力の介入に、戦場は更に複雑さを増していった。
『状況確認。本艦の任務がジュール隊の支援である事に変わり無し。装備換装が終了次第、各機発進をお願いします』
メイリンの状況報告が流れて、再び格納庫ではMS部隊の発進準備となった。
状況の変遷を怪しく思いながら、アスランは乗り込んだザクのコクピットで、入ってくる情報を確認していく。
「イザーク達が来ているのか。敵性勢力のアンノウンはジンを使用している。更には、ボギーワンも…………状況は無茶苦茶だな」
MSに乗るのはかなり久しぶりだというのに、なかなかハードな状況である。
とは言っても、いきなりSEED全開で戦う必要があり、ぶっ倒れて帰ってくる友人よりかは幾分かマシだろう、とアスランは小さく笑った。
『状況が変わりましたけど、大丈夫なんですか? ブランクがあって錆び付いてたなんて言ったら笑いますよ』
飛び込んでくる通信音声。
見れば、あの生意気な少年が随分と元気になって軽口を向けて来ていた。
「ほう、良い度胸だなシン・アスカ。そういう反骨精神は嫌いじゃないが、喧嘩を売る相手は選べよ」
『べ、別に喧嘩を売ってるわけじゃ…………ちなみに何ですけど、あの人とあんた、どっちが上なんすか?』
興味をありありと表情に浮かべながら、シンはある種、禁断の話題を放り投げてくる。
タケルもアスランも、決して自身の強さというものにこだわりはない。
基本的には守りたいものを守る、強く在ろうとは思うが、強さ自体の執着はしていない2人だ。
だが、それが近しき者との比較となると、やはり譲れないものはある。
特にタケルとアスランは、未だカガリとの事で互いに一歩も譲らない睨み合いを続けているのだ。
タケルは自身を負かす男でなければカガリを渡さないと言い張るし、アスランはこれまでぶつかり合った中で、タケルに負けた事は無いだろうと言って引かなかった。
激しい睨み合いは決着の機会を作れず、今日まで続いていた。
「──本気でやったのは一度きり。それも引き分けで終わってる」
「うぇ……マジ?」
「何だその反応は。俺がタケルより劣るとでも思っていたのか?」
心外だとでも言わんばかりに、アスランは小さく唸った。
「劣るって言うか……あんたもあの人の事化け物って言ってたし」
「それ本人には言うなよ。そこそこ傷つくから。しかもすぐ泣くぞ」
「えぇ……なんかちょっとの間に、俺達が知ってる英雄像がどんどん崩れていってるんすけど……」
「大戦の英雄なんてイメージばかりが先行して嘘で塗り固められてるものだ。そんな英雄像、さっさと捨てることだな」
「なんか、複雑……」
シンとて、アカデミーの頃からよく聞いた彼等には密かに憧れたものである。
やはりその強さと、同時に聞かされる英雄譚。
空想の中では、そんな彼等の様に自身もなるのを夢見た事がある。
人の夢とは、儚いものであった。
『戦闘宙域へと到着。MS各機、発進願います』
発進の要請。シンはアスランとの通信を切り、コアスプレンダーは中央カタパルトへと運ばれていく。
同様に、ルナマリアとレイのザクもカタパルトへと乗せられ発進シークエンスが始まった。
「シン・アスカ──コアスプレンダー、行きます!」
「レイ・ザ・バレル──ザク、発進する!」
「ルナマリア・ホーク──ザク、出るわよ!」
「ヤヨイ・キサラギ──セイバー、出撃します!」
メイリンのアナウンスの後、次々とミネルバより飛び立っていくMS部隊。
最後に残されたアスランのザクも、カタパルトへ乗せられ、発進の合図を待つだけとなる。
その最中、アスランはザクのコクピットで嘗ての感覚を思い出して目を閉じた。
意識を集中していく────問題ない。集中して落ちていくあの感覚はいつでも引き出せそうであった。
タケルと同じ轍は踏みたくないので必要な時しか使うつもりはないが、いざという時の切り札には十分である。
『進路クリア──発進、どうぞ!』
届いたメイリンの声に目を見開くと、アスランは眼前の戦場を見据えた。
「アスラン・ザラ、出る!」
ミネルバよりザクが飛び出し、アスラン・ザラもまた戦場へと舞い戻るのだった。
哀しいと、苦しいと痛む傷は常に見えない胸の中。
互いに知り得ぬその深さが、更なる悲劇を呼ぶのだろうか。
誰もが心で望んだもの。それは平穏か、それとも復讐の業火か。
混迷する世界の中、英雄達は
次回、機動戦士ガンダムSEED DESTINY
『世界の終わる時』
漆黒の
いやだから、誰だこのデコリンは。勝手に喋るな。
何でコイツこんなコミュ力高くなってるんだ。
と思って気づいた、完全に主人公の影響だコレ。
捕虜になってカーペンタリアで敵だった連中と仲良く遊んだりできるコミュ力お化けな主人公の影響だコレ。
そして代表になったせいでカガリお姉ちゃんが主人公に厳しいです。
まぁコレには多少なりとも理由はありますけど。
さてさて、ここら辺から原作と乖離してオリジナル路線が増えてくる……かもしれませんね。
どうぞご期待ください。
感想よろしくお願いします。