「はぁあ!」
翻されるジンの重斬刀を躱して接近。
懐へと潜り込むようにしてビームサーベルを振り抜き、ヤヨイのセイバーがジンを上下に両断した。
「くっ、数が多いうえに一人一人の練度が高い……テロリスト風情がこのような──ですが!」
再び襲い掛かってくる光の束を躱し、セイバーを変形。
「これ以上はやらせません!」
巡航形態となって速力に任せて距離を取ると、敵の意識の隙を突くように遠距離からアムフォルタスプラズマ収束ビーム砲で2機のジンを爆散させる。
「えぇい!」
ルナマリアもまた迫りくる光条を躱しながらオルトロスを発射。
ジンの脚部を射抜いた瞬間にスラスターをフル稼働。スパイクシールドで全力の体当たりをぶちかまし、衝角でジンのコクピットを貫いた。
「機体をぶつけるなら体当たりとかが普通よね……ザクでキックとか、ホント頭悪いと思うんだけど」
コクピットで小さくルナマリアは呟いた。
先程眼前で見せられたザラ隊とカオス等の攻防。
その最中アスランが見せた、ザクの脚部によるアビスへのキック……VPS装甲持ちには効果があるはずもない。
勿論態勢を崩すという意味合いがあるだろうが、だったら脚部にだけ負荷をかけるキックより体当たりの方がよっぽどいいのではないか──ルナマリアは訝しんだ。
しかし見ていてカッコいい等とルナマリアが思ってしまったことも事実。先程もキックしてしまいたくなる衝動に駆られていたのは間違いがなかった。
パイロットは男も女も等しく、少年の心を持ち合わせているのかもしれない。
「あぁ、もう! 集中!」
疑問と微かな高揚感を抱えながら、ルナマリアはメテオブレイカーを狙うジンへ、再びオルトロスを構えるのだった。
ビームライフルでジンを牽制しながらメテオブレイカーを防衛し続けるジュール隊。
「ボルテール、残っているメテオブレイカーの数は?」
『残り6基です!』
「ちぃ、作業を急がせろ!」
思いの他多い残数の報告に、イザークは苦々しく指示を下した。
最初の奇襲で数基を失ったが、現在は作業を確実に進め、いくつかのメテオブレイカーがユニウスセブンの地下深くへと埋め込まれていた。
しかし、効果が見られない。
メテオブレイカーは作動し、地下深くで強烈な爆発を起こしているはずだが、その効果は未だ見られず。
依然としてユニウスセブンは形を保ったままであった。
「ミネルバの部隊も奮戦はしているが……これ以上破壊される様な事があれば下手するとこのまま何の効果も出せずに落下させることになるぞ」
そうなれば地球は終わりだろう。
沸き起こってくる嫌な想像を振り払い、イザークは通信を開いた。
「ミゲル、ミネルバの新人達で3基の防衛をさせろ!」
「おう、そんで俺達でそれぞれ1基ずつか?」
「その通りだ。良いなディアッカ!」
「あいよ! きついが何とかして見せるさ」
言うや否や3人は散開。
ミゲルは受け持つメテオブレイカーの防衛に回りながら、通信を開いた。
『特務隊ミゲル・アイマンよりミネルバのMS部隊へ。お前達にマーキングしたメテオブレイカーの防衛を任せる。ヒヨッコ達には厳しい任務かもしれんが、大勢の命が掛かってる。死ぬ気で守り切れ』
ジュール隊の隊長であるイザークに、ミネルバの彼らへの命令権は無い。
隊を跨いで指揮権限を持つ特務隊のミゲルより、シン達へと命令を下した。
「了解しました、ミゲル・アイマン──ですが、ヒヨッコ達は余計です」
『ん、その声……ヤヨイか? 久しぶりだな』
「今はそんな事を話している時では無いでしょう。それと────帰ったら1発殴らせてください」
『あん、なんだよ急に……久々に会ったと思ったら何でキレてんだ』
「失礼、ただの八つ当たりです」
『てめぇ、良い度胸じゃねえか』
「それでは、皆に伝えるので通信を終わります」
『あ、おい!』
ぴしゃりと言われ、プツンと切られた通信に、ミゲルはそれなりの怒りを感じて首を傾げた。
「──反抗期か?」
などと、タケルが聞けばこれまたキレられそうな事を考えながら、ミゲルはメテオブレイカー防衛戦を開始していく。
「ちょっとヤヨイ! アイマンさんに何て口きいてんのよ!」
「私情は挟まないでくださいルナマリア。ザフトに階級はありません」
「私情バリバリの通信をしておいて何言って──」
「シン、レイ、ルナマリア。それぞれでメテオブレイカーを受け持って下さい。機動力の高いセイバーで、私が援護に入ります」
「あ、あぁ。わかった」
「了解だ」
「ちょっと、話を聞きなさ──」
「それでは散開。各自任務の遂行を」
ルナマリアの言葉を完全にスルーして、ヤヨイはセイバーを変形。
速力を上げて、向かい来るジンへと狙いを定め戦闘に入っていく。
「あの小娘! スカしやがってぇ……」
「ルナマリア。憧れの人とヤヨイが仲良さげだからと言って嫉妬は良くないと思うが」
「何か言ったレイ?」
「いや何も……気のせいだろう」
「何怒ってんだよルナ」
「怒ってないわよ!」
怒声を残しながら、メテオブレイカー防衛に就いて行くルナマリア。
そんな彼女を見送り、シンは首を傾げた。
「やっぱ怒ってんじゃん。わけわかんねぇ」
「お前も大概だな、シン」
「はぁ? 何が──」
「行くぞ。これ以上メテオブレイカーを破壊されるわけにはいかない」
「お、おい! 何がだよ、レイ!」
飛び去っていく例のザクを見送りながら、シンはどうにも気持ちの悪いもどかしさを抱えて、自身が受け持つメテオブレイカーへと向かった。
彼らが防衛に入っていくのと同時。
埋め込まれた新たなメテオブレイカーによって、地響きをたてながら遂にユニウスセブンが真っ二つに割れる。
「ようやく半分、か」
「グゥレイト! やったぜ!!」
「気を抜くなディアッカ。この程度ではまだ足りん!」
ジンを駆る者達は怒りを。
ジュール隊の面々はその光景に、ようやくの破砕作業の効果を見て小さく喜びを露わにした。
しかし、そんな中────ユニウスセブンの状態など気に留める事のない激闘が、近くでは繰り広げられていた。
「うぉおお!」
「はぁああ!」
ビームアックスとビームサーベルが火花を散らす。
出力の差を受け流して、ザクはディザスターを引きつけると、シールドを前面に出して殴打。
しかし、それを予期したユリスは瞬間的にディザスターを後退。即座にシュヴァイツァを構えて光の奔流を吐き出した。
「甘い!」
ザクは機体をのけ反らせて回避。その軌道に隠れるように、腰のハンドグレネードを手に取らせ、2機の間に放った。
爆発するハンドグレネード。
発生した爆炎が視界を塞ぎ、ユリスが警戒を強める中、煙の中を突っ切る様にザクが強襲。
再びビームアックスを振り下ろし、ディザスターのシールドを削る。
間髪入れずに、アスランは必死にザクを動かし続けた。
距離を取られればザクの武装でディザスターの相手をするのは難しい。
ユリス・ラングベルトは射撃の精度とて尋常ではないのだ。スペックで劣り射撃兵装に乏しいブレイズ装備のザクでは一度距離を取られたら手の打ちようがなくなる。
「くっ、やるじゃない! 大口叩くだけの事はあるわね」
「言ったはずだ。嘗めるなと!」
「ふん、それなら本気で行かせてもらうわよ!」
──種が開く。
ユリス・ラングベルトもまた、アスランと同様にSEEDを発現。
圧倒的な脳領域の拡張に、世界の見方を変える。
「(圧が変わった……来るか!)」
気配を察知して、アスランは身構える。
ディザスターは両腕部のビームサーベルを出力し、全力でアスランを刈り取るべく、機体を翻すと、ザクへと向けて突撃させた。
「ここだ!」
「ちっ、この!」
再び、腰のハンドグレネードを投擲。
突撃してくるディザスターの眼前でグレネードが爆発。
ユリスは、先に見せられたザクの突撃を警戒して後退を余儀なくされた。
「小賢しい真似を!」
再び爆炎を突き破って出てくるかと身構えたユリスであったが、その気配はなく。
時間と共に晴れていく視界の先には、随分と距離を取ったザクの姿があった。
右手にビームアックス、左手に肩のスパイクシールドを持たせたその姿。
まるで攻める気のない、完全なる防御姿勢だった。
「はっ? 何それ……こっちが本気でやりあおうって思った矢先にそれ?」
「こちらとしては、君とそんな死闘まがいの事をできる余裕が無いのでな。出鼻をくじかせてもらった」
オーブ戦役の時から、彼女の精神的な不安定さ……特に思い通りにいかないときの我慢弱さをアスランは知っている。
その気になったところで出鼻をくじき、アスランは揺さぶりを掛けたのだ。
「嫌な感じ……そうやって思わせぶりな態度みせて引きつけといて、その気になったところで手酷くフっていくとか、女の敵だわ。絶対いつか刺されるタイプ」
「なっ、そんな事……戦闘とは関係ないだろ!」
「ふんっ、どうだか──いいわ、それなら今度は本気で狩りに行く。覚悟しなさい!」
ずしりと重たくなる空気を纏って、ディザスターがビームライフルを構えた。
アスランも即座に気を引き締める。
ここまでは温情だ。機体性能の差をSEEDで埋めて、更には彼女がまだ楽しんでくれていただけ。
だがここからは違う。本気になったユリス・ラングベルトが全力でアスランのザクを仕留めに来る。
頬を冷や汗が伝うのを自覚しながら、しかしアスランも覚悟を決めた。
閃光が迸る。
動きの中で巧みに視線を誘導され、意識の隙を突くようにビームライフルが放たれていた。
「くっ!?」
回避先を限定する連続発射。
早速の追い込み具合に、アスランは恐怖を覚えながらもユリスの狙いを避けるように、ザクを動かしていく。
「逃がさないわよ!」
「やらせるか!」
アスランはザクの最後のグレネードを投擲。
ビームライフルに撃ち抜かせて、またも一瞬の猶予を作る。
そして今度は突っ込んでくるだろうディザスターに対して、ザクを向かわせた。
「うぉおお!」
「そんな突撃通用しないわよ!」
ビームアックスがシールドで受け止められ、更にディザスターの機体駆動に任せてはじき返される。
がら空きとなったザクのコクピットに向けて、ディザスターが至近距離でシュヴァイツァを構えた。
「まだだ!」
脚部を振り回し蹴りつける。そして、その重心の動きを利用して何とかザクを制動。
ついでにディザスターの肩を蹴り上げる事でシュヴァイツァの射線をずらした。
「このっ!? 往生際の悪い!」
苛立たし気に放たれたイーゲルシュテルンが、ザクの右脚部を撃ち抜いた。
更に左脚部がビームサーベルによって切り落とされ、アスランのザクは回避軌道すらが困難な状態へと陥る。
「これで──止め!」
振り下ろされるビームサーベル。
アスランはそれを、避けられないものとして見つめる。
だが同時に、ザクとディザスターのセンサーには、新たな熱源反応を示す警告音が鳴った。
「はっ、何!?」
「────間に合ったか」
太い光条がザクとディザスターの隙間を迸る。
「新手?」
驚愕に染まるユリスがディザスターを後退させ、攻撃の出所へと目をやる。
「宙域に、新たな熱源を確認──戦艦クラスと思われます!」
「この熱紋……まさか」
同時、ミネルバでもガーティー・ル―でもその存在は観測された。
それは、大気圏からやって来た。
漆黒の宇宙にこれでもかと主張を見せる、白亜の巨躯。
戦闘宙域へと至りながら威風堂々とその歩みを進め、見る者すべてが動きを止めた。
『こちらは宇宙特装艦アークエンジェルです────これより、ユニウスセブンの破砕作業に取り掛かります!』
嘗て、勇躍の限りを見せた戦艦────アークエンジェルの来着である。
眼前に広がる、戦場となった墓標を見つめる。
アークエンジェル艦長席に座るマリューは、嫌な予感が的中した現実に苦い顔を覗かせた。
今この時この場で戦闘が起こってるとなれば、やはりこの事態は天災ではなく人災。
そしてこれは、また新たな争いの火種となるだろう確信があった。
「状況を確認──ナタル、プランは?」
「敵性勢力を確認。プランをCに変えて破砕と敵の排除を同時に進めるべきかと」
打てば鳴る。
懐かしさを覚える、副長席からの淀みない答え。
僅かに口角が上がるのを抑えきれずマリューは笑みを浮かべてしまった。
「了解よ。それじゃあ予定通りに──MS隊、発進してください!」
「MS隊、発進願います!」
マリューの指示に、即座にCIC席のミリアリアが応じる。
ミリアリアのアナウンスが響き渡るアークエンジェルの格納庫では、蒼天の翼を持つMSがカタパルトで待機していた。
『ハッチオープン。“フリーダム”発進スタンバイ!』
カタパルトへと接続された機体──型式番号ORB-03。正式名称はアストレイ-F。
先の大戦でその殆どが破損し、かろうじて残っていたコクピットからZGMF-X10Aフリーダムのデータを抽出。
来たる有事の際にキラが駆る剣として、タケルとキラ自身の設計の下オーブで製造された、純オーブ製完全再現フリーダムである。
外交の爆弾とも言える核動力はタケルの意向でオミット。その代わり、パワーエクステンダーと新機軸の動力システムを搭載し、時と共に培われた技術革新に伴って、機体の至る所をフリーダムからブラッシュアップしている。
『キラ、プランはC。まずは敵勢力の排除に当たって』
「うん、わかったよミリアリア」
『進路クリア。フリーダム発進、どうぞ!』
発進タイミングをミリアリアから譲渡され、キラは1つ深呼吸。
久方ぶりとは言っても、この感覚は体が覚えていた。
この機体を作ってから実戦で使うのは初だが、タケルと散々に試したシミュレーションでは、元のフリーダムと操縦感覚は何も変わらず、存分に戦うことができるだろう。
アストレイ-Fはキラ・ヤマトの為に作られた剣なのだ。
全ては、地球とオーブを守るために。
「キラヤマト──フリーダム、行きます!」
変わらぬ誓いを胸に宿し、自由の翼は再び戦火の中に舞い戻った。
『続いてアストレイ隊、発進願います!』
フリーダムの発進が済むと、続いては彼女達の番だ。
モルゲンレーテ所属のテストパイロット。
アサギ・コードウェル。
マユラ・ラバッツ。
ジュリ・ニー・ウェン。
彼女達が乗る機体が、順次カタパルトへと運ばれていく。
M2アストレイの面影を残しながらも、そのデザインを一新し進化した機体。
新たなオーブの量産機──機体名アストレイ-A。
通称“カゼキリ”である。
先の大戦におけるオーブ国防の問題点。
それは、敵戦力の上陸を防ぐ手立てに乏しい事であった。
主戦力となる海軍の護衛艦群と陸軍のMS。しかしこれらでは空からの侵攻を防ぐことができず、また海からの侵攻を先んじて押し留めるにも足りない。
国を戦場としない為に……再びオーブの地を焼かないために、より広域での活動を視野に入れた量産機の開発が必要であった。
そこで、タケル・アマノが統括する設計局が弾き出した答え──それが新たな量産機カゼキリだ。機動力に特化した空戦MSであるシロガネの基本設計を元に、量産化へと落とし込んだ高機動MSである。
「アマノ三佐来てるんだっけ?」
「ザフトの戦艦に乗ってるって」
「相変わらず、数奇な運命を辿ってると言うか……」
相変わらずの姦しい様子を見せながら、いつもの3人は戦闘も激しい眼前の宙域を前に、程よい緊張を纏って発進の合図を待った。
彼女達もまた、大戦を生き抜いた英雄だ。
M2アストレイという機体を100%の性能で乗りこなし、あのヤキン・ドゥーエの攻防を戦い抜いた経験を持つ。
それは驕りではなく自信となって、確かに彼女達に根付いているものだった。
と言うか、驕りを覚えようものなら鬼教官に叩きのめされるので、未だ彼女達は発展途上である。
『進路クリア。アストレイ発進、どうぞ!』
ミリアリアのアナウンスに、示し合わせるでもなく3人は気持ちを切り替えて小さく頷く。
「アサギ・コードウェル、行きます!」
「マユラ・ラバッツ、出撃します!」
「ジュリ・ニー・ウェン、発進します!」
細身の軽やかな機体が、アークエンジェルより飛び立った。
そして……格納庫に残される最後の一機。
『シロガネ、発進準備願います』
ミリアリアのアナウンスに従い、カタパルトへと運ばれるは、白銀に輝く眩い機体。
ORB-00。機体名シロガネ。
大戦後から細かな改修を加え、ドラグーン兵装ジンライを腰のスカート部分に2基増設。更に背部のビャクライユニットも再製造。こちらも改修を加えてサブスラスターであるビャクライを8基に増設。機動力と殲滅力に拍車を掛けている。
『アイシャさん。彼を迎えに行ってあげてください──緊急事態なので弄るのは程々に』
「はいはい、わかってるわマリュー」
そんなシロガネの逆側で、もう一方のカタパルトに乗せられるビャクライユニット。
そのコクピットの中で、アイシャはマリューの言葉に肩を竦めて笑った。
そう、シロガネには現在誰も乗っていない。パイロットは未だ、ミネルバの中にいるのだ。
よって、彼を迎えに行くために、ビャクライユニットに乗り込んだアイシャが制御し、ミネルバまで向かうのである。
『アイシャ。戻ってきたらタケルに聴取するからな。悪戯は露見すると覚えておけ』
「ふふ、そんな怖い顔しなくても少ししかやらないわよナタル」
『少しだろうがやるなと言っている!』
『あぁもう。ミリアリアさん、早く発進させて!』
『あっ、はい──シロガネ、ビャクライユニット。発進どうぞ!』
こんな時に何を言い合っているのか。
先程まで抱いていた懐かしさを打ち消す、ナタルのらしくない姿にマリューは頭を抱えた。
人間、やはり恋をすると変わるものだと良くわかる事例であろう。嘗ての彼女であればこの状況でこんなバカな問答はしなかったはずだ。
「それじゃ、発進するわね」
相変わらずの軽い声で、アークエンジェルより発進していくアイシャ。
発進と同時にシステム制御でシロガネとドッキング。
ビャクライユニットのコクピットがシロガネへと押し出される形で、複座式へと切りかわる。
「さて……待っててね、坊や!」
最速を誇るMSがアークエンジェルを飛び出し、戦場を駆け抜けていく。
「なんとか、間に合ったか……」
戦場に驚きが広がる中、届いた声と目の前に見える現実にカガリは安堵のため息を吐いた。
正にギリギリ。あと僅かな時間遅ければユニウスセブンはこのまま落ちていた。
きっとこれは、世界の行く末を別ける事だろう。
間に合った以上、できる事は……救える命は、沢山あるはずだ。
「アークエンジェル……どうしてここに」
「アスハ代表。それでは手筈通りに」
「あぁ、よろしく頼む艦長。彼等と連携を取って破砕作業を進めてくれ」
「えっ? 手筈通りって……」
カガリとタリアの会話。そして、納得する様に小さく頷くデュランダル。
完全に1人だけ置いてけぼりな事態に、タケルは慌ててカガリへと詰め寄った。
「カガ──アスハ代表、どういうことですか? 察するに議長と艦長はこの事態を知ってたみたいですが、何故私には──」
「本艦に接近してくる熱源反応!」
バートの報告で艦橋に緊張が走る。
しかし、ミネルバの光学カメラが捉えた映像に、タケルは小さく息を漏らした。
「シロ……ガネ?」
そこに映るのは、アークエンジェルより発進して来た自身の愛機。
見紛うはずもないその輝きに、タケルは目を見開いて驚いていた。
「知ってたら三佐は彼等が来るまでずっとソワソワしてただろう? ミネルバの皆が必死に頑張ってくれているところで、そんな空気を出されてたまるものか」
そういう事だ。
ユニウスセブンの事態を知り、カガリがデュランダルへと願いでたのは、アスランのザクへの搭乗許可と、プラント経由でオーブに事態を知らせる事。
カガリからの言伝を聞けば、彼らが動く事を信じての先を見据えた対応であった。
そして、その事を知ってしまえばタケルは絶対に今か今かと、彼らの到着を待ち侘びて落ち着けないだろう。
故に、SEEDの疲労で寝込んでいた彼には一つとして伝えず、らしい理由を持ち出して謹慎処分としていたのだった。
「そう言う事ね──意地が悪いよ、全く」
「間に合うかどうかも定かでは無かったからな。仕方ないだろう。それで──彼等が来たと言うのにいつまでここで燻ってるつもりだ、三佐」
カガリの声音は挑戦的であった。
そしてタケルに向けられる視線はカガリだけのものでは無い。
デュランダルも、タリアも、アーサーや他の艦橋クルーも皆がタケルに目を向けた。
オーブ戦役────伝説的に語られる奇跡の防衛戦を成した者がそこにいる。
期待が込められるのは自然と言えよう。
今この時、地球を守る事は…………目の前の残骸を破壊する事は、タケル・アマノにとって、オーブを守る事と等しい。
任せろと、タケルの心は奮った。
「メイリン・ホーク。格納庫に連絡を。ハッチを開放しておいてくれ」
「はっ、はい!」
「難しいとは思う。が、地球を守ってくれ──兄様」
「大丈夫。僕がカガリの願いに応えないわけが無いでしょ」
互いに見せるのは、父から受け継いだ国を想う、双子の姿。
オーブの代表ではなく。国防軍三佐ではなく────カガリ・ユラ・アスハとタケル・アマノとしての言葉。
だからこそ、カガリはタケルを信じ、タケルはカガリに応える事ができる。
肩書より先に、彼らには大切な想いがあるから。
パイロットスーツを着たタケルは、ミネルバ艦内を駆け抜けて、格納庫へと向かった。
そうして格納庫へと飛び込めば、既に非常要員はエリアから退避しており、ハッチの先には愛機の輝きが垣間見える。
『遅いじゃない坊や、女性を待たせるのは減点』
「お待たせしてすいません。それと来てくれてありがとうございます、アイシャさん」
飛び込んでくる声に笑みを浮かべながら返して、タケルはシロガネのコクピットへと乗り込んだ。
久方ぶりの愛機のシート。懐かしさと同時に、僅かな高揚感が胸を満たしていく。
「さっ、行きましょう……私と坊やの初タッグね」
「後で虎さんに文句言われそうですよ」
「アンディも一緒に来てるから思う存分見せつけてあげましょ」
「はは、了解──それじゃ、ビャクライの制御はお願いします!」
「OK!」
シロガネとビャクライユニット──タケルとアイシャによる複座式。
それはタケル一人では不可能なジンライとビャクライ、2つのドラグーン兵装を同時運用し、単騎で一軍を相手にする事を想定した、超単騎戦力構想である。
ユニウス条約、そして平和となった世界において、戦力の量を揃える事はカガリの信念に反した。
故にタケルが戦後求めて来たのは、圧倒的な質の追求。
高性能量産機であるカザキリの開発や、パイロット一人一人の練度を追求するシミュレーター訓練室。
そして自分やキラの様に特異なパイロット能力を持つものへのワンオフ機。
それらが今、実を結んで国と地球を守るのである。
気持ちを静めてSEEDを発現。
タケルは目を見開くと、眼前の戦場を見据えた。
「タケル・アマノ──シロガネ、出撃する!!」
オーブを護る白銀の閃光が、再び戦場を駆け抜けた。
オリジナル路線突入。
ここからは原作の流れも踏襲しつつ、どんどん勝手な物語になっていくかと。
オリキャラも好き勝手、原作キャラも好き勝手やります。
前作キャラっていうのは続編で無双するんじゃなくて、こういうどうしようもない展開を覆すお助けマンで良いと思うっていう、個人的な意見。
まぁ本作においては、主人公はタケルだし、なんならカガリも主人公だしキラもそう。アスランもね。
無論シンとヤヨイも運命編では凄く大事な子。
誰が無双する、なんて話にはなりません。
前述した様にここからはフリーダムに物語が進んでいくと思うのでご承知ください。
原作に対してはある種のアンチテーゼな作品になります。
ついて来れるやつだけついて来い!(某ギア奏者風
感想よろしくお願いします。