機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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体調不良継続中でしんどい。


PHASE-16 世界の終わる時

 

 

 

 音の届かぬ宇宙空間で。

 しかし地響きを感じさせながら、ユニウスセブンが割れていく。

 

 その背景に地球さえなければ、巨大な質量を持つ物体の大きな動きに感嘆するかもしれない。

 しかし、事態はそんな暢気な事を言える状況ではない。

 

 

 半分、そしてもう半分。

 メテオブレイカーによって4分割されたユニウスセブンの姿に、モニタリングしていたミネルバ艦橋では小さく安堵の声が漏れた。

 

「ふむ、ようやくと言ったところか」

「だが、まだこの程度では被害規模は大きいままだ。もっと細かく砕かなくては……」

「そうですね……バート、限界高度までの時間は?」

「あと、10分です」

 

 ──10分。

 

 それが長いのか短いのか。為政者でしかないデュランダルには見当がつかないが、カガリとタリアは表情を引き締めなおしていた。

 勿論、この事態に対応する時間として短い事は間違いないのだが、それでもまだ砕くのに充分な時間は残されている。

 

 だが、微妙な時間である。

 4分割したとはいえプラント構造体のサイズを考えれば、破片はまだまだ大きい。

 メテオブレイカーは全機作動し、残るはアークエンジェルが積んできた特殊弾頭のみ。

 

 ここから限界高度に至るまでにどれだけ削ることができるか。

 

 

「議長方……この事態に心苦しいとは思いますが、ボルテールへと移乗して頂けますか?」

「タリア?」

「何を言って──」

「ミネルバはこのまま大気圏に突入し、限界までの艦主砲による対象の破砕を行いたいと思います」

「えぇ!? 艦長、それは……」

 

 アーサーの驚きの声が上がる。

 それは艦橋内のオペレーター皆が同じ気持ちであった。

 

 大気圏突入とは本来、非常に危険で繊細な作業なのである。

 大気との摩擦熱への考慮は勿論、突入角度と姿勢を正しく制御せねば、意図も容易く機体や艦船はバラバラに空中分解する。

 

 少なくとも、何かをしながらする事ではない。

 ましてや、破砕作業となれば破片艦体に当たり損傷する可能性だってある。

 

 タリアが意図するのはつまり、命懸けのミッションになるから責任者達は降りろ、と言う事なのだ。

 

「タリア……本当に?」

「どこまで出来るかは分かりませんが。でも出来るだけの力を持っているのに、やらずに見ているだけなど──後味悪いですから」

「しかし──」

「私はこれでも運の強い女です。お任せください」

 

 譲らないタリアの気配に、デュランダルは静かに頷くことしかできなかった。

 彼女がそう決めたのなら聞かない事は、彼自身良く知っている。

 こんな任務を任せるしかない事が、僅かにデュランダルの顔を歪ませた。

 

「すまない、タリア……ありがとう」

「いえ、議長もお急ぎください──ボルテールにデュランダル議長とアスハ代表の移乗を通達して!」

「では、代表──」

「申し訳ないが、私は残らせてもらう」

 

 カガリへと手を差し出したデュランダルの声を、静かにカガリは否で返した。

 

「代表、何故です?」

「私も悪運は強いからな。命懸けで破砕作業をしてくれるミネルバを守りたい。それに、バカ2人がまだあそこに居る」

「しかし、為政者の方にはまだ他にお仕事が──」

「そうだ、こんな事態となって私は仕事が山積みだ。だから一刻も早く国に帰りたい。この惨状ではボルテールに移ってからも直ぐ地球に降りるわけにはいかないだろう? だから、このままミネルバでオーブへと送り届けてもらいたい」

「代表。そんな無茶を──」

「その代わり──国に帰れた暁にはミネルバの勇姿を、プラントの助力を。私から世界に公表させてもらう」

 

 続くカガリの言葉にデュランダルとタリアはハッとして表情を変えた。

 無茶苦茶な要望を、と思った矢先。カガリが言うそれは、既に事が終えた先の話である。

 

 被害が出るであろう事が確実な地球で、この事態を争いの火種としないための最大限の融和策。

 目前で、命懸けの破砕ミッションを目にしたカガリの言葉となれば信憑性は増すだろう。獅子の娘としてオーブの復興を十分に果たしてきているカガリの声は、地球圏においても十分に影響力を持っている。

 確実に出てくる反プラントの声を、ミネルバをこの事態の英雄へと仕立て上げて封殺しようと言うのだ。

 それは、この事態を引き起こしたのがコーディネーターである事が確実だとわかっている今。プラントにとってこれ以上はないと言える対応だろう。

 

「しかし姫、それも全ては無事に降りられたらの話でしょう。些かリスクが大きい気がしますが……」

「この場にはアマノ三佐とアスランがいる。私が乗るこの艦を死なせはしないさ。私を艦から降ろさなければ、生き残る確率も上がると言うものだ」

「しかし────本当に良いのですか、姫?」

「あぁ、構わない」

 

 覚悟を問うてくるデュランダルの目に、カガリは毅然とした表情で返した。

 

 カガリの言う事は、この事態を引き起こしたプラントの味方をすると言っている事と同義だ。

 それは間違いなく、大西洋連邦にとってオーブに付け入る大きな材料となるだろう。

 最悪は、再びオーブ侵攻すら招きかねない。

 

 だが、事態に全力で対応し、さらには命懸けの破砕作業を敢行するミネルバとプラントの協力を、カガリは有耶無耶にはできなかった。

 この行動で地球に住むどれだけの命が救われるのか──それは想像してもしきれない。

 

 ユニウスセブンを落としたのは“テロリスト”であり、プラントは地球を救った英雄である。

 コーディネーターやナチュラルの括りを持たぬ、オーブの代表だからこそ。カガリはこの事態を機にプラントへ弓引く者達を止めなければならない。

 それが、地球にある自国を救われたカガリの矜持である。

 

「わかりました……代表の御決断に感謝を」

「それはこちらも同じだ議長。プラントの対応とミネルバの決断に感謝する」

「ありがとうございます。それでは」

 

 急ぎ足で、デュランダルは艦橋を後にしていく。

 それを見送ると、カガリは少しだけ表情を柔らかくしてタリアへと向き直った。

 

「そういうわけで、失敗は許されなくなってしまったが……頼むよ、グラディス艦長」

「なんともまぁ、肩に力が入ってしまう事態にしてくれましたわね。それに──無茶もなさって」

「無茶は2年前に慣れてしまったよ。ヤキンで出撃する前はもっと覚悟が必要だったさ」

「ふふ、無事に降りることが出来ましたら、是非ともゆっくりお話を聞かせて欲しいものです」

「時間があれば、だな」

 

 小さくタリアはカガリに釣られるように笑った。

 無茶を言う。だがその無茶がどこか心地良い──そんな気がした。

 きっとこれが彼女の魅力なのだろう。

 為政者として。かつて国を失い誰よりも平和を願うが故に……彼女の言葉の奥には、平和を求める声があり、皆を惹き付ける願いがある。

 普通の感性であれば、誰も戦争を望んだりなどしないのだから。

 

「メイリン、モビルスーツ隊に打電。アークエンジェルと連携して破砕作業を協力する様に伝えて。フェイズ2までには戻るようにも指示を。機関始動、アークエンジェルの左舷に付く。アーサー、タンホイザーの起動シークエンスだけ進めておいて頂戴」

「了解」

「は、はい!」

 

 

 デュランダルを乗せたシャトルが発進したところで、ユニウスセブンから距離を取っていたミネルバが動き出す。

 向かう先はアークエンジェルの隣。

 

 地球の危機を前に、天使と女神が肩を並べて立ち向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユニウスセブンの破砕を確認!」

「ザフト艦よりメテオブレイカーは全機作動との事!」

 

 アークエンジェルの艦内では、割れたメテオブレイカーと飛び込んできた報告に再び動きを見せていた。

 

「バスカーク、残りの弾頭の数は!」

「格納庫に残数16!」

「アストレイ隊は先の12発を全て撃ち込んだ模様!」

 

 残り16発。破片は4つ。

 やはり時間も物も足りないこの事態では、完全破砕は難しい状況であった。

 それでも、出来ることを最大限続ける──マリューはプランの修正舵を切った。

 

「ザフト艦に打電。特殊弾頭のデータを送ってあちらのMS隊に作業を任せます」

「ハウ! ザフトのMS部隊は何機だ」

「──7機確認! あちらからも作業支援の指示が出ているようです」

「格納庫より残弾を全て射出しろ。アストレイ隊とアマノ三佐に4本ずつ受け持たせて、各破片の破砕作業に当たらせる。ザフトにはその支援を要請」

「了解!」

「カズイ君、4発で出せる最大効率で各破片の破砕ポイントを再計算して頂戴!」

「既に計算中です! データは直ぐにアストレイ隊とアマノ三佐に送信します」

 

 正に1秒とて無駄にできない状況。

 プランの修正がありながらも、各々が迅速に対応を進めていく。

 

「ナタル、ローエングリンスタンバイよ。フェイズ2までにMS部隊の作業を終わらせるように厳命しておいて」

「了解」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アークエンジェルより射出された特殊弾頭を受け取るアストレイ隊。

 しかし、16本は3機だけで保持できる数ではない。

 

 丁度そこへ、ミネルバより指示を受けたザフトのMS部隊が合流する。

 

「あ、アサギ……ザフトのMS隊よ」

「OK、私が話すよ」

『こちらザフト特務隊、ミゲル・アイマンだ。破砕作業の指示を願う』

「えっ、ミゲル・アイマン?」

『ん? その声、アサギ・コードウェルか?』

「そうそう、久しぶりー! 元気だった?」

『おう、久しぶりだな。元気だ──』

 

『そんな事言ってる場合じゃないでしょ、アサギにバカミゲル』

 

 アサギとミゲルの通信に割り込んでくる、タケルの声。

 見ればシロガネとフリーダムも、敵勢力の殲滅を終えて合流してきていた。

 

「アサギ、旧交を温めたい気持ちはわかるけど、今がどういう状況なのかよく考えて。バカミゲルも」

「なんだよ……ヤヨイと言いお前と言い、俺なんかしたか?」

「正しくそのヤヨイが原因だけど……とにかく今はそんなの後。破砕プランは聞いてるよね?」

「あぁ、その特殊弾頭でやるんだろう?」

「破片は4つ。アサギ達と僕でそれぞれの破片に回るからザフトの皆も分散して支援に回ってもらうよ。キラは残党が居ないか、周囲の警戒を」

「あいよ」

「うん、わかった」

「限界高度まで残り8分──時間は無い、急ごう!」

 

 

 言って、彼等は即座に動き出す。

 弾頭装着用のアタッチメントをつけてるカゼキリは4発の弾頭を装備。そこにミゲルとイザーク、ディアッカがそれぞれ作業支援に回った。

 それを見送ると、タケルは残されたミネルバの面々に通信を繋ぐ。

 

「こちらタケル・アマノ。ミネルバの部隊は僕と一緒だ。それぞれ1発ずつ特殊弾頭を持ったら破砕作業に向かうからついてきて」

「あ〜やっぱりその機体、アマノ三佐だったんですね」

「了解しました」

「了解です」

 

 タケルの指示に、各々応えるが1人だけ応答がない。

 その反応に、ルナマリアはまたかと頭を抱える。

 

「シン・アスカ、返事はどうした?」

「──了解しました」

 

 まだ、己の感情を御しきれていないのだろう。

 僅か数秒だが、何と答えるべきか──シンとて否は無いのだが、応答の言葉に迷って口を開けなかったのだ。

 

「今は余計な事を考えてる場合じゃないよ。自分の感情は捨てて任務に集中してくれないと困る」

「わ、わかってますよ!」

「よし、それじゃいくよ。向かいながら作業を教えるから」

 

 

 タケルがそう言うと、5機もすぐさま破砕作業へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 破片へと向かう道中。

 ザフトの面々は特殊弾頭の使用方法を各々の相方から教わっていく。

 

 アサギとイザーク。

 マユラとミゲル。

 ジュリとディアッカ。

 そしてタケルとミネルバ隊の組み合わせである。

 

 

 

「っと、こんな感じで起動すれば良いから。簡単でしょ?」

「簡単でしょ、などと簡単に言うなバカ者! この状況、1つも失敗は許されないのだぞ」

「私が言った通りにやれば大丈夫だってー、もうイザークは心配性だなぁ」

「うるさい! 相変わらずの能天気女め」

「あー、何それ酷いー」

「くっ、なぜ俺がこの女と……」

 

 緊張感のないアサギに、イザークが苦労していたり。

 

 

「ミゲル、また何かアマノ三佐にしたの? あの感じ、かなり怒ってると思うけど……」

「覚えがねぇ。オーブでの事とか考えると、思い当たることは多いが」

「そこら辺ではアマノ三佐根に持たないと思うけど……他に何かやらかしてない?」

「アイツの教え子であるお前達に手を出したら、あのくらい怒りそうだが」

「えっ、まさかミゲル……いつの間にか2人に手を?」

「んなわけあるか! つーか2人共に手出すわけもねえだろうが!」

「本当? ミゲルって結構遊んでそうに見えるけど……」

 

 ミゲルがマユラに濡れ衣を着せられていたり。

 

 

「久しぶりだな、ジュリ」

「うん、久しぶり。元気そうだね……あと、相変わらず苦労してそうな感じかな?」

「わかってくれるか。イザークは相変わらずだし、ミゲルも相変わらずだし、一緒にいると頼もしいけど疲れることも多くてよ」

「ふふ、目に浮かぶ様だね。あ、そう言えばミリアリアとはどう?」

「うぐっ……それは聞かないでくれ」

「えっ? なんか不味かった?」

 

 ディアッカがジュリの些細な質問に、酷く精神的なダメージを受けていたりしたが、概ね問題は無いと言って良いだろう。

 

 彼らは歴戦のパイロット達だ。

 この程度のミッション、こなせないわけもない。

 

 

 そしてそれはシン達を引率するタケルも同様。

 

「以上が、破砕作業の手順だ」

 

 タケルはきっちり丁寧な説明を終えた。

 元々この特殊弾頭はタケルの提案の下、カズイが作り上げたものだ。

 宇宙空間における資源衛星の破砕────ヘリオポリスを失ったオーブの新たな宇宙コロニー開発のためである。

 当然、そのスペックはタケル自身も良く知っている。

 

 これが完全破砕には、まるで足りないと言う事も……

 

「──質問はあるか?」

「ありません」

「私もです」

「俺も問題ありません」

「──大丈夫、です」

「なら総員散開。破砕ポイントはマーキングしてあるから、それぞれ担当箇所へ向かい順次弾頭を起動。起動後は直ぐにミネルバに帰還だ。僕達の破砕作業が終わればミネルバとアークエンジェルの艦首砲で最後の抵抗を行う────遅れても容赦なく撃つからな。巻き込まれたくなければ急ぐんだ」

 

 全てを通達すると、タケルはシロガネを翻した。

 

「ちょっ、あんたは何するんだよ!」

「僕とキラもまた、最後の抵抗をする。それだけだよ────君達ザフトの頑張りに報いるためにもね」

 

 静かな声音。そこにシンは、並々ならぬ覚悟を感じた。

 何をするかなど予想がつく。

 きっとシロガネとフリーダムは最後の最後まで、破砕作業を行い続けるのだろう。

 MSに搭載された火器で。

 

「──皆、急いで終わらせよう!」

「何よシン。急にやる気出しちゃって」

 

 シンもまた静かに、己のなすべき事を見定めた。

 今できる事は、命じられた破砕作業を確実に終わらせる事。

 それ以上は望まれることではない。

 

「ではこちら側の2つは私とルナマリアで。あちらはシンとレイに任せます。急がなければならないとは言え、2人1組でそれぞれ回る時間はあるでしょう。確実に終わらせるべきです」

「わかった、その案で行こう。ルナ、ヤヨイ、そっちは頼んだ」

「ヤヨイ、ルナの手綱を上手く引いてくれ。ルナマリアは存外抜けているところがある」

「はぁ!?」

「わかりました。レイ達もしっかりお願いします」

「ちょっ、何がわかりましたよ。私は──」

「ではいくぞ。シン、まずはこっちのポイントからだ」

「あ、あぁ」

「待ちなさいよ、レイー!」

「ほら、早く行きますよルナマリア」

 

 ルナマリアの怒声が通信越しに響き続ける中、シン達も破砕作業に取り掛かる。

 

 こうして、残り僅かな時間の間に16発の特殊破砕弾を起動。

 ユニウスセブンの4つの破片は大きく抉られた。

 

 しかしそれでも、完全破砕には足りない。

 カズイの開発した特殊弾頭は、メテオブレイカーの様に割るのではなく、一定範囲を抉り取るものだ。

 巨大な破片を、割って小さくするものではない。

 破片としての質量は大きく削がれただろう。だが、プラント構造体の外縁部にあたる部分が残る。

 それはつまり、破片のサイズとしては、ほぼ変化が起きない事を指す。

 

 

 

「アストレイ1、アストレイ2、アストレイ3。弾頭の打ち込みを完了。帰投します!」

「ザフト艦からも入電。作戦支援を完了。MS隊は順次帰投中との事!」

 

 艦橋に飛び込んでくる報告に、マリューは改めてユニウスセブンの破片を見やる。

 大きな破片が4つ。かなりの部分を抉られ薄くなってはいるが、サイズ感は変わらない。

 

『こちらミネルバ。MS隊の帰投を確認。これより艦載砲による最大限の破砕作業を行います』

「こちらアークエンジェル。MS隊はこちらも間もなく帰投します。その後は本艦も同じく、艦載砲による破砕を行います────貴艦の尽力に感謝いたします」

 

 最後に、感謝の言葉を付け加えて。マリューは通信を終えた。

 嘗ては散々追い回されたザフトと肩を並べての作戦。

 無論、ここまで動いてくれたミネルバに変な疑いなど持ってはいないが、奇妙な気分ではあった。

 

「アストレイ隊帰投! アマノ三佐から入電。シロガネ、フリーダム両機は、チャージをした後、独自に破砕作業を継続するとの事です」

「わかりました──ナタル」

「了解。MCS起動! シロガネとフリーダムへのチャージをスタンバイ。目標照射ポイントを設定」

 

 ナタルの指示に応じて、アークエンジェル艦載砲ゴットフリート上部に追加された特殊兵装が稼働する。

 砲門と呼ぶにはやや小さいそれが顔を出すと同時に、待ち人来ると言わんばかりにシロガネとフリーダムがアークエンジェルの目前へと躍り出た。

 

「両機、照射ポイントで待機。いつでもいけます」

「よし──照射!!」

 

 瞬間、小さな砲門より青白いレーザー光の様なものが2機へと照射される。

 シロガネとフリーダムは胸部を展開して、そこに格納されていたリアクター部でレーザーを受け止める。

 次の瞬間、両機のエネルギーは最大値まで充填された。

 

 MCS(マイクロウェーブチャージシステム)。これが、核動力をオミットしたフリーダムの製造に伴い、タケルが考案した動力確保の手段であった。

 

 バッテリーや武装のエネルギー効率。

 いくら技術が進もうとも、核動力を前提として設計されたフリーダムをバッテリー駆動で実現させるのは困難を極めた。

 そしてオーブ国防を考えた時、物量で劣るオーブのMSには圧倒的な継戦能力が必要不可欠である。

 そこでシロガネやフリーダム、アサギ達のカゼキリ等、パイロットと機体に十分な戦力を期待できる者達のために用意されたのが、このMCSだ。

 艦の機関動力をマイクロウェーブへと変換して照射。それを機体胸部に備えられたリアクター部で受けて急速充電。

 戦場で、即座のエネルギー補給をする事が可能とした。

 

 これにより、エネルギー消費の激しいドラグーンを扱うシロガネや、高出力兵装のオンパレードなフリーダムにも、艦船との連携という条件付きで高い継戦能力を持たせたのである。

 

「エネルギー充填を確認!」

「こっちもいけるよ、タケル!」

「正念場ね。しっかりなさいな、坊や達!」

 

 同時に2機は破片の1つへと向かい飛翔。

 全兵装で僅かながらの破砕を開始する。

 

「全く楽しそうだねぇ、アイシャは」

「バルトフェルドさん、ヤキモチは後にしていただけますか?」

「これは手厳しい」

「あの女狐……タケルに余計な事をしていないだろうな……」

「ナ・タ・ル?」

「はっ、す、すいません! こちらも動くぞ、ローエングリン展開。照準、右舷前方構造体! バスカーク!」

「破砕ポイントから、最適な照準を入力──いけます!」

 

 アークエンジェルのローエングリンが展開。

 

「てぇー!」

 

 2門の陽電子砲が宇宙を裂き、破片の1つへと直撃した。

 

 

 

 

 

「アークエンジェル、艦載砲による破砕作業を開始!」

「こちらも動くわよ────アーサー!」

 

 動きを観測したバートの報告にタリアも強い声を上げた。

 

 残るはただ撃ち、砕くのみ。

 それで少しでも被害が減るのなら。少しでも、命が救われるのなら。

 

 これは、全てを擲ってでも、やるべき事だ。

 

「タンホイザー展開! 照準、左舷前方構造体。同時にトリスタン、イゾルデ起動。ミサイル発射菅全門ナイトハルト装填!」

 

 次々と起動していく艦載砲。その準備が整ったところで、タリアは一度だけカガリを見やった。

 振り返ったタリアに気がついたカガリは、小さく頷く。

 これを始めればもう後戻りはできない。大気圏突入という危険な作業の中、破砕作業を進め、艦を危険に晒す。

 そんな不安を、カガリの肯定する表情が吹き飛ばした。

 

「てぇー!!」

 

 

 ミネルバから放たれる巨大な閃光もまた、破片の1つへと直撃して砕いていく。

 

 

 

 

 

 

 同時に、アークエンジェルもミネルバも、艦首砲以外の全ての艦載砲を発射。

 陽電子砲で穿った破片に、更なる火砲の雨を降らせる。

 

 

「タケル!」

「わかってる!」

 

 

 それを察知したキラとタケルは即座に反転。

 アークエンジェルとミネルバに降り注ぎ始める破片を砕くべく、両艦の護衛に回った。

 

 

 

「アイシャさん!」

「わかってるわ!」

 

 ビャクライとジンライを全て射出。

 アイシャがビャクライを制御し、タケルがジンライを制御して迫り来る破片を全てロックオン。

 シロガネはミネルバの船体直上に躍り出ると、迫り来る全ての破片を砕いていった。

 

「ミネルバ! 飛んでくる破片は全てこちらで砕きます! 破砕作業に集中してください!」

「お、おい、そんな事──」

「アーサー! 彼を信じて全て破砕に回しなさい!」

「は、はい!」

 

 砕かれて迫り来る破片の数。

 そんなの100や200といった数ではない。

 しかも、小さく些細な破片ですら、損傷を受ければ大気圏突入において致命傷になりうる。

 とても無茶な防衛──だがタケルとアイシャは引かない。

 

 SEEDを発現。

 拡張された知覚領域の中で、全ての破片を意識に捉える。

 ビャクライとジンライ、合計16基からなるドラグーン兵装に加えて、背部のキョクヤとビームライフルのビャクヤをも展開。

 全兵装を以て、全てを撃ち落としていく。

 

 

「マリューさん! こっちも飛んでくる破片は僕が引き受けます! 破砕に集中してください!」

「わかったわ! バリアント、ゴットフリート照準──てぇ!」

 

 アークエンジェルの方でも、キラのフリーダムが徹底して破片を防御。

 全ての艦載砲をユニウスセブンの破砕へと向けた。

 

 

 

 残された僅かな時間。

 彼らは全てを賭して、ユニウスセブンの破砕を続ける。

 ミサイル。高出力のビーム砲。レールガン。更には近接防御火器すら用いて、降り注ぎ始める破片を砕く。

 

 

 

 

「くっ、これ以上は!」

 

 

「限界高度か!」

「坊や! 突入姿勢を取らないと、今度はこっちがバラバラになる番よ!」

 

 

「艦長、フェイズ3を突破。大気圏、突入します!」

 

 

「破砕作業を終了。全員、大気圏突入に備えて!」

 

 

 

 

 

 駆け抜けた僅かな時間。それで破砕できたのはどの程度か。

 これで齎される被害はどの程度か。

 

 

 それは誰にもわからなかった。

 

 

 ただ1つ言える事は。

 

 

 これが、新たなる争いの火種となる事だけは、確かであった。

 

 

 

 

 こうしてユニウスセブンは堕ちた。

 数多の死者をその(かいな)に抱えながら。

 

 争いの火種を、世界に振り撒きながら…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは謂われのない出来事。

 過去の闇からの声、炎。砕かれ、落ちたものこそ──平和か。

 再び燃え上がる大地に、世界が見出す答えは。

 

 次回、機動戦士ガンダムSEED DESTINY

 

 『混迷の大地』

 

 厚き大気、切り裂け! インパルス! 

 




長いユニウスセブン編終了。
そして、どっぷりオリジナル路線がスタートしてしまいます。大丈夫かなぁ。

MCS……デュートリオンのパクリとは言え、核動力無しで同じレベルの動力を確保するにはもうこれしかないよねっていう話。フリーダム再現の段階で、絶対何か考えるだろうと思いました。
でもデュートリオンの詳細は調べてもわからなかったので、素直にマイクロウェーブ送電システムにしました。

ちょっと体調不良続いてて執筆遅れ気味ですが、またホイホイ更新できる様に頑張るつもりです。
どうぞ今後ともよろしくお願いします。


ツイでも愚痴っちゃったけど、先日、原作沿いでつまらんとか言う理由で低評価もらって激萎えしてます。
原作沿い否定とか二次創作できんやん。何いってんだって感じ。
変に改変しないのは原作へのリスペクトだと言うことがお分かりにならないのかと。

と、イライラしてるので、作者に感想で元気を分けてください。お願いします。


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