機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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ようやく進み……あんまりかなぁ


PHASE-17 混迷の大地

 

 

 

 ブレイク・ザ・ワールド。

 

 

 世界的にそう呼ばれる事となった、かの日から数日。

 

 世界はまだこの悲劇を嘆くどころかどれだけの被害が出たかもわかっていない。

 

 混乱、錯綜、不審、疑念。

 次々と巡る情報と負の感情に、世界は揺れ動いていた。

 

 

 

 オーブとて、その例外ではない。

 

 代表首長が不在の中で起こった国の危機。

 

 国防軍の迅速な動きもあり、国民の避難は早かった。先の大戦の経験が活きた結果と言えるだろう。

 しかし、ユーラシア東部へ落ちた破片の一部が太平洋へと落下。

 津波による被害が、島国であるオーブを襲った。

 幸いとして規模は小さかったものの、沿岸部にはそれなりの被害が出てしまう。

 

 戦後、急速に復興を遂げてきたオーブと国民にとって、辛い現実であった。

 

 

 

 

 そんな中、オーブ首長国連邦のオノゴロ島へとミネルバは到着する。

 

 事前に代表であるカガリから通達され、更には先んじて帰国していたアークエンジェルのマリューからも、キサカを通じてミネルバの事を伝えられていたおかげか、オノゴロへの入港はスムーズに行われた。

 

 

「ドックへの入港、完了しました」

「指示があるまでは艦内待機よ。アーサー、交代で休息に入らせておいて」

「了解!」

 

 タリアはようやくの落ち着ける状況に安堵の息を漏らした。

 

「────はぁ、ようやくね」

「大分お疲れの様だな、グラディス艦長」

「えっ……あぁ、はい。そうですね……確かに疲れましたわ」

「すまなかった。色々と艦長には迷惑を掛けた」

 

 デュランダルも含めて、1国の代表が2人も。

 

 それもルーキーだらけの新造艦に同乗し、戦闘を経て来たのだ。

 そんな艦を任される事になってしまった彼女の心労と言ったら、どれ程のものだったのか。

 カガリは嘗てのマリュー・ラミアスを思い出して、申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「いえ、アスハ代表。こちらこそ多大なご迷惑をおかけしたこと、申し訳なく思います。また、シン・アスカが起こした諸々について、寛大な温情を頂けたこと、お礼申し上げますわ」

「あぁ、それは良いんだ……原因はこちらにもあったしな。彼のお陰で色々と丸く収まった部分もある」

「そうですか……ありがとうございます」

 

 深々と頭を下げるタリアに、カガリは困り顔を見せた。

 カガリ自身、シンとのことは本当に気にしてはいないのだ。

 格納庫での一件はシンの暴言なんかより、サヤの生存の驚きの方が大きかったし、先のタケルに対しての暴行は、いっそ目を覚ましてくれた事に感謝までしていた。

 

「だがまぁ、あの思慮の浅さは問題かもしれないな──これから兵士として戦うのだとしたら」

「きつく、言い含めておきます」

「アスランからも聞いたんだが、ザフトはあまり上下関係がないのだろう? 艦長である貴女がストッパーになるしかないと思うぞ」

「言って聞いてくれるのなら、多分ここまでで問題を起こしてもいないでしょう」

「それもそうか……まぁ、彼が成長してくれる事を願っておくよ」

 

 前途多難な気配の拭いきれないタリアに、カガリは苦笑で返すことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 時は少し遡る。

 ミネルバの格納庫では熱い戦いが繰り広げられていた。

 

「それ撃墜判定。これで12戦12勝────君の全敗だな、シン・アスカ」

「だぁあ! くそっ、また負けた!」

 

 格納庫の隅っこに置かれた訓練用シミュレーター。

 現在そこはシン達ミネルバのMS部隊とタケル・アマノの戦場と化していた。

 開始してから既にそれなりの時間が経過しているのだろう。

 周囲で控えるレイやルナマリア、ヤヨイには疲労の気配が色濃く出ていた。

 

 しかし何故、彼等の中にタケル・アマノが混ざっているのだろうか。

 シン達はわかる。軍人で在る以上、有事以外では訓練規定があるのは至極当然だ。

 そこに何故、タケルまで参加しているのか。それもとんでもない回数の模擬戦を、シンと行う程に。

 

 きっかけは、ヤヨイの一言から始まった。

 

 

『アマノ三佐』

『ん? なんだろうか?』

『サヤ・アマノのパイロットとしての腕前は、今の私と比べてどの程度だったのでしょうか?』

 

 色々と昔話に花を咲かせ、色々とわだかまりも解けた頃合いに、ヤヨイはタケルから聞き出したサヤについて興味を抱き、そして問いかけた。

 

 言うなれば、嘗ての自分と今の自分との比較である。

 勿論、ヤヨイからすればザフトのアカデミーで自ら研鑽を積んで来た自負がある。

 記憶を失ったとて、嘗ての己に負けるつもりは無かった。

 しかし──

 

『う~ん、そうだね。6:4でサヤかな』

『なっ!?』

 

 ほぼ互角には近いが、それでも敗北の評価。

 さしものヤヨイもその評価には黙っていられず、それならば一度シミュレーターで模擬戦をして改めて評価して見ろと、タケルに喧嘩を売ったわけだ。

 

 ミネルバにあるシミュレーターで対戦でのシミュレーションができると聞いて、タケルはがぜん興味が湧き二つ返事で了承。

 

 そうして格納庫へと赴き、やる気満々なヤヨイをボコボコにしたところで我らが問題児シン・アスカが到着。

 シミュレーションとは言えボコボコのポコポコにされたヤヨイを見て、対抗意識を燃やした彼がタケルへとこれまた挑戦状を叩きつけた。

 タケルはタケルで、ザフトが作り出したシミュレーターに触り続けられるとシンの挑戦を快諾。

 結果、30秒以内で狩られては諦めず挑み続けるシンとのエンドレス模擬戦に突入していた。

 ちなみにだが、合間にレイやルナマリアも、シンをシミュレーターから叩き出して参戦している。

 折角の実力者との模擬戦と言う機会。彼等としても逃すわけにはいかなかった。

 

「(う~ん、流石にウチの技術は流れてなさそうだけど……ミゲルが頑張って必要性を訴えたのかなぁ。かなり精巧な出来だねこれ)」

 

 たっぷりと使わせてもらったシミュレーターの感触に、タケルは胸中でごちる。

 以前、ミゲル達がオーブへ訪れた際に見せたタケル謹製のシミュレーター。

 その出来栄えと効果の程にミゲルがえらく感心していたのは印象深い記憶だった。

 プラントへと戻ったミゲルがその有用性を訴えてここまでの形にしたのだろうか……そんな推測が過ぎる。

 

「ふむ……なかなかだな」

「なっ、バカにしてんのかアンタは!」

「むっ? いや、そんな事はないつもりだが……」

「こっちは1分もまともに戦えてないんだぞ。それでなかなかもクソもないだろう!」

「ん? あぁそっちの事か。そりゃそうだろう、年季が違うのだから」

「くぬぅうう!!」

 

 怒りを覚えるも、言い返せない上、一分の反撃もできないシンは唸る事しかできなかった。

 

「はぁ、やれやれ。少し落ち着けよシン・アスカ。とりあえず君はまずザクに乗る事から始めた方が良いぞ」

「はぁ? 俺じゃインパルスは扱い切れないって言うのかよ!」

「そうは言ってないだろう。ただ、君達は未だ粗削りな部分が多い。ザクはその点、非常にまとまった汎用機で癖が少ない機体だ。ザクやインパルスという括りでは無く、MSと言う括りでザクへの慣熟をすればその感覚は他の機体でも通用するものになる」

 

ふと過るのは、テストパイロットである彼女達。

その真髄は徹底的に鍛え上げた、機体の挙動を把握する能力。

兵器としての性能ではなく、人型機動兵器としての動作能力。その全てを把握して扱い切るのが彼女達の役目であり、それを追求した結果が今の彼女達の強さに繋がっている。

インパルスは確かに性能高い機体ではあるが、その分シンは機体スペックに任せた動きが多いわけだ。

尖りのない機体であるザクでMSの挙動を十分に学べば、インパルスでの動きも化けるであろう目算がタケルにはあった。

 

「え、それじゃあ私がインパルスに乗っても十分戦えるんですか?」

「君が十分にザクを乗りこなしているならな、ルナマリア。残念ながら今の君にその気配は無いが……」

「えぇー、ショックぅ」

「では、俺はどうでしょうか?」

「レイか。君は現状ではザク向きのパイロットと言わざるを得ない」

「ザク向き、ですか?」

「機体は扱えてる。けど、教科書に縛られっぱなし。得意な戦いとかそういうの無いだろう?」

「えぇ、まぁ……」

「どんな人間にも得手不得手があるはずだ。だが優等生な君はその得意な部分に蓋をして、弱点の克服に力を注いできたのだろう。長所を捨てて短所だけ補っている状態もそれはそれで優秀にはなれるが、一級にはなれないと考えるよ」

「なるほど……」

 

 シン、ルナマリア、レイとそれぞれにダメ出しを受ける。

 1人は不服そうに睨みつけ、1人はガックリと肩を落とし、1人は小さく頷いては思案に耽る。

 三者三様の反応だが、何と無く教え子達を思い出してタケルはどこか懐かしい気分になった。

 

「(最近は優秀になってきちゃってこんな風に素直な反応してくれないもんね、アサギ達)」

 

今考えれば本当に成長したものである。

終戦して戦場に出る事が無くなっても、オーブのMS開発はずっと続いていたし、彼女達はテストパイロットとして研鑽を続けていた。

いっそ正規軍よりもずっと訓練期間が長いのだ。優秀にもなるというものだ。

 

「ではアマノ三佐、私は──」

「タケル、いつまで遊んでいるんだ。そろそろオーブに着く。代表からも退艦の準備をしろと言われていただろう」

 

 背後より掛けられる声に、タケルは慌てて振り返った。

 そもそもタケルはもうすぐでオーブに到着すると言うことで、最後の最後にヤヨイともう一度話をしておこうと考えていた所だった。

 いつのまにか模擬戦に巻き込まれて完全に目的を忘れていたが、ようやくオーブへの帰国と相成るわけである。

 

「あぁ、すまないアスラン。直ぐに戻る。と言うわけで悪いな君達、これまでだ。なかなか楽しかったよ」

 

 あまりのんびりしていては、またカガリにドヤされる事だろう。

 タケルは少しだけ足早となって、アスランと共に格納庫を出ていくのだった。

 

「あいつ、勝ち逃げかよ!」

「シンはまだ良いでしょう。たくさん相手をしてもらって、アドバイスまで…………全く、貴方がしつこいせいで私はただやられただけで終わってしまったではないですか」

 

 悪態つくシンへと、ヤヨイが仏頂面を向けた。

 

「あっ、その……ごめんヤヨイ……ついムキになって」

 

 いかにも怒っていますなヤヨイの顔に、シンは慌てて謝罪を述べるが、その程度ではサヤ・アマノに負けた事実と、シン達の様に助言をもらい損ねたことへの対価には足らない。

 不機嫌そうに、彼女はシンから目を逸らしてそっぽを向いた。

 

「何よヤヨイー、アマノ三佐を独り占めされてシンに八つ当たり?」

「──今の私をからかうとはいい度胸ですね、ルナマリア」

「へ?」

 

 ニヤニヤとからかい交じりな笑みを隠そうともしないルナマリアに、ヤヨイの不機嫌さが5割増しとなる。

 徐にタケルが使っていたシミュレーターへと潜り込むと、ルナマリアを視線で促した。

 

「準備してくださいルナマリア。ミネルバMS隊隊長として貴女に訓練を付けてあげます」

「あ、あはは……いやぁ、今日はもう遠慮したいなぁ、なんて」

「シンと違ってまだ数度しかやっていないでしょう? 訓練規定に準ずるには後3回は必要です。安心してください、1戦1戦たっぷりと時間をとってあげますよ」

「ふっ、ルナマリア……じっくり楽しむと良い。ヤヨイも喜んで付き合ってくれるようだからな」

「ちょ、ちょっとレイ! レイだってまだ──」

「俺は皆より先んじて既に終わらせている。規定数終わらせていないのはヤヨイとお前だけだ」

 

 もちろん嘘である。

 そもそもタケルとヤヨイがここにきて1番乗りで始めたのだ。相手も無しに先んじてレイが終わらせる事ができるはずがない。

 しかし、そんな事は追い詰められたルナマリアが思い至れるわけもない。

 

「さぁルナマリア、たっぷりやりましょうか」

「ひぃ、お助けぇええ!!」

 

 オーブに到着するまでの時間。ルナマリアは鬼となったヤヨイ・キサラギの猛攻から逃げ続ける、恐怖の鬼ごっこを繰り返すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オノゴロの軍港に係留されたミネルバ。

 それを出迎える様に待つ、オーブ行政府の人間。

 

 宰相である、ウナト・エマ・セイランである。

 先の大戦において行政を担う大部分の人材を失った為に、オーブの行政の中心たる5大氏族へと繰り上がったセイラン家。

 ウナトはその現当主であり、傍らにはその息子であるユウナが控えていた。

 

「ザフトの戦艦でご帰還とは……厄介な事をしてくれるものだな、代表も」

「仕方ありませんよ父上。こんな事態になる等と、あのいけ好かないお兄さんだって想像できてなかったんでしょうから」

 

 胡散臭く軽薄な笑みを讃えてユウナは肩を竦めた。

 そこにようやく帰ってきたカガリの無事を安堵する気配はない。

 どちらかと言えば、ウナトが言う様に厄介な帰国の仕方に不満の一つでも、と言った様子である。

 

「それに地球の為に戦い、代表を手ずから送ってくれた艦を、冷たくあしらうわけにもいかないでしょう。今の我々はまだ中立国なのですから」

「あぁ……今は、な」

 

 少し声を潜めて、2人だけの会話を成立させるセイラン親子。

 やはりどこか、嫌な空気を纏っている。

 

 

 

 そうこうしている内に、ミネルバのハッチが開かれ、彼等の待ち人が顔を見せた。

 

 金色の髪に琥珀の瞳。一国の代表らしく、威厳を持って出てくるのはオーブ首長国連邦の代表首長カガリ・ユラ・アスハその人である。

 背後にはタケルとアスラン。そしてその後ろにミネルバの面々も続いている。

 ちなみにアイシャはミネルバに着艦していたシロガネに乗って先んじて離脱。

 モルゲンレーテへと帰投している。

 

「カガリ!」

 

 ハッチから階段で降りてくるカガリを視界に収めると、ユウナは喜色の声を挙げて出迎えるように歩みを進めた。

 

「む、ユウナか……すまない、心配をかけたな」

「もう本当……全く君は心配ばっかりかけて──」

 

 諸手を広げてカガリを胸に掻き抱こうとするユウナであったが、その歩みはカガリとの距離が残り1mと言う所でピタリと止まった。

 

「──アマノ三佐。邪魔をしないでもらえるかな?」

「これは失礼。いきなり代表に抱き着こうとする不審者と見間違えました」

 

 まるで姫を守る騎士という様に、ユウナの前へと立ちはだかるのは我らがお兄ちゃん、タケル・アマノ国防三佐である。

 ありったけの侮蔑を込めたような視線が、眼前のユウナを射抜いていた。

 

「へぇ、君の目は随分と節穴の様だね。行政府の人間の証であるこの服を見て、君は僕が不審者だと?」

「これまた失礼。服装にまで目が行きませんでした。その気持ちの悪い顔だけで不審者だと勘違いしました故」

「顔で判断とはこれまた差別的だね。やはり容姿が整ってるのが当然なコーディネーターだとそういう感性なのかな?」

「私が言っているのはその品性のない薄ら笑いの事ですが。どうやら鏡の前でそのにやけ面をしたことは無いようですね。未婚の、それもまだうら若き代表にむやみやたらと抱き着こうとするその下劣で浅ましい性根が顔に出ているのではないですかな?」

「大切な代表の御身を心配すればこそという事がわからないかな? それでよく国防軍の佐官が務まるものだね」

「ここがザフトの皆さんもいる公の場だと理解できていないようですね。身内の事情を明け透けにすることの愚かさがわからないとは、それでよく政府の人間が務まるものだ」

 

 売り言葉に買い言葉の応酬。

 既にその場の空気は冷え込み、見送りに随伴してきたタリア達ミネルバの面々は目を丸くさせている。

 

「やめないか、ユウナ」

「貴様もだ、アマノ三佐」

 

 救い主来たれり。

 家族の愚行を窘めるウナトとカガリの一声で、2人は静かに1歩下がった。

 

「ふっ、命拾いをしたね」

「そちらが、では?」

 

 今度は声も無くひっ叩かれて両者はようやく今度こそ睨み合いを収めた。

 

 ユウナ・ロマ・セイラン。

 タケルにとっては甚だ納得できないし認めてもいないが、一応はカガリの婚約者(仮)である。

 残念ながら今は亡きウズミによって定められた婚姻故に、未だその気でいるユウナを退けるには至らず。

 大切な妹であるカガリの幸せが絶対であるタケルにとって、これ程不快な事もない。

 身内贔屓抜きに、美人で清楚で可憐で母性に溢れるオーブ最高の女性であるカガリが、この様な軽薄で誠実さの欠片も無い男の元に嫁入りする事など、タケルからすれば世界の終わりである。

 

 タケルにとって、ユウナ・ロマ・セイランは目下最大の排除対象であった。

 

「ご無事に戻られて何よりです、代表。ようやく我等も安堵できましたぞ」

「ウナト・エマ。大事の時に不在にしてすまなかった。留守の間の采配、有難く思う────被害の状況は?」

「本島の沿岸部が多少津波に流されましたが、幸いにも破片の直撃は有りませんでした……詳しくは行政府にて」

「わかった──あぁ、そうだ。こちらにいるのが」

 

 カガリが振り返り視線をやると、その意図を汲み取ってタリアが一歩前へと出る。

 

「ザフト軍ミネルバ艦長、タリア・グラディスであります」

「同じく、副長のアーサー・トラインであります」

「オーブ連合首長国宰相、ウナト・エマ・セイランだ。この度は代表の帰国と、地球圏危機に尽力頂き、感謝する」

「いえ、我々こそ不測の事態とはいえアスハ代表や随員のお二方には多大なご迷惑をおかけしてしまい、大変遺憾に思っております。

 また、この度の災害につきましても、お見舞い申し上げます」

「お心遣い痛み入る。ともあれ、まずはゆっくりと休まれられよ。事情も予定も承知しておる。艦とクルーの方々には、出来得る限りの便宜を図らせていただきます」

 

 柔和な笑みを浮かべながら告げてくるウナトの言葉に、タリアは幾分か固めていた緊張を解した。

 代表であるカガリからも色良い言葉をもらっていた。

 邪険にされる様な事はないだろうと信じていたが、それでもやはりここは他国。それも中立国である。

 そしてミネルバは軍艦だ。簡単に歓迎できるはずも無い。

 ウナトからも快い応対を示してもらえるのは、一つの安堵に繋がるものだった。

 

「感謝いたします」

 

 タリアの言葉に小さく頷くと、ウナトは表情を固くさせて再びカガリを見やる。

 

「まずは行政府へ。御帰国早々で申し訳ありませんが、御報告せねばならない事が多々ございますので」

「あぁ、解っている」

 

 踵を返すウナトの後を追う形でカガリがその場より離れていくのを、タケルとアスランは鋭い視線で見送った。

 

「アマノ三佐、アレックス君、2人共ご苦労だったね。良くカガリを守ってくれた……ようやく帰国したんだ、ゆっくり休んでくれたまえ。報告書なんかも、後で構わないさ」

「それはどうも。ご配慮ありがとうございます」

「了解しました」

 

 相変わらずのいけ好かない気配に、タケルは再びキレそうになるも、それをアスランが背後から服を引っ張る事で押し留める。

 相変わらずカガリが絡むと見境がないなと、アスランはやや疲れたため息を吐き出した。

 

「ちっ、あの変態キザ野郎……」

「やめろよタケル。ミネルバの皆の前で」

「別に関係無いでしょ。彼等からすればわけわからない話だろうし」

 

 ボソボソと言い合う2人。

 もちろんアスランとしてもユウナの態度や、カガリに向ける視線は気に食わない所だが、そうは言ってもアスランはオーブにおいて肩書きも地位も無い。

 先程の場でも、発言権があるはずも無い。

 だからこそ、タケルの存在は心強いと言える。

 少なくともタケルがいる限り、ユウナの好きにはさせないだろうという確信があるのだ。

 

 

 行政府へと向かったカガリ達が見えなくなった所で、タケルとアスランは示し合わせた様に、ミネルバの面々へと向き直った。

 

「さて、改めてだがグラディス艦長────色々と世話になった」

「代表やアマノ三佐が、色々と無理を言って申し訳ありませんでした」

「ふふ、こちらこそよ。アスハ代表も含めて、貴方達とここまで来られたことはクルーにとって貴重な経験だったわ」

「アレックス、自分だけ良い顔しようとするなよ」

「悪いが俺は困らせる様な事を言った覚えは無いからな」

 

 困らせる様な事……アスランの言葉に、タケルは表情には出さずハッとした。

 思い返せば、艦長であるタリア以外にも困らせる様な事を言った覚えがタケルにはあった。

 

 逡巡して、タケルは彼らへと視線を巡らせると、目的の人物を見つける。

 

「そう言えば…………メイリン・ホーク!」

「えっ、あっ、ひゃい!?」

 

 タケルの声に反応する様に、どこか慌てた様に声を上げる赤毛の少女。

 その姿に、タケルは申し訳なさそうに苦笑をこぼした。

 

「あぁ、驚かせてすまない。別にそんな気はなかったんだが……」

「い、いえ……勝手に驚いただけですので」

「君には投げつける様な物言いで色々と言いつけてしまったな。申し訳なかった」

「いえ、そんな……」

 

 アーモリーワンを離れて最初の戦闘の時然り、シロガネに乗る時然りだ。

 MS発着の管制を担当する彼女には、切迫した状況なども相まってかなり厳しい声音で告げた覚えがあった。

 彼女とてシン達と同じルーキー。タケルから判断のつかない事を言いつけられて戸惑いもした事だろう。

 

「コクピットで聞いた君の声は良く通る落ち着いた声だった。不測の事態への対応も的確で滞りなく発進できたよ。ありがとう」

「きょ、恐縮です……ありがとう……ございます」

 

 突然の事態に受け止めきれなくなったか、気恥ずかしそうにメイリンは視線を落とした。

 そんな彼女の様子に、タケルは申し訳なさとは別にどこか面白そうに苦笑をこぼす。

 

「MS隊を支えるのは君のオペレートだ。彼らが落とされない様、助けてあげてくれ」

「はい────がんばり、ます」

 

 よし、と小さく告げてからもタケルは再びタリアを含めたミネルバの面々へと視線を向けた。

 

「ミネルバの皆、カガリをここまで守ってくれてありがとう。他国の軍人である身だが、共に戦った君達は僕にとって戦友だ。僕はもうここで艦を降りる身だが、ここオーブの地で、ミネルバの無事と戦功を祈っている」

 

 最後に敬礼を見せると、タリア達も揃って返礼した。

 互いにそれを最後の挨拶として、踵を返したタケルとアスランはその場を離れていく。

 

 

 ブレイク・ザ・ワールドで舞い上がった粉塵が空を覆う中、微かな陽の光が彼らを照らす様に差し込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 世界は変わる。そして動く。

 再び繰り返されそうになる戦火の火種

 吹き荒ぶは鎮火の風か、それとも大火の風か

 定まりかけた世界の中、カガリは世界に新たな産声を挙げる

 

 次回、機動戦士ガンダムSEED DESTINY

 

 『ジャンクション』

 

 暗雲の空、切り拓け、シロガネ! 

 




隙あらば教官。そして隙あらば妹を愛でる。メイリンかわいいよメイリン。
これが主人公という名の、作者の願望体現機

残念ながらユウナとの婚約はまだ生きている。
が、カガリが強いからまぁまず流されないだろうね……

次回から、今度こそ話が展開されていく……はず。

ただ気がついてしまったんだけど、SEED編からまんま運命編に入って登場キャラが倍増してるわけで、
どう足掻いてもキャラに対しての描写不足と、作品が長くなるのは避けられなそうです。

気長に、お付き合いいただけたらなって思います。
アンケにも載せましたが、作者の認識としてはやっぱり
本作の魅力として原作とは色々と変わったキャラクター達を描く事かと思っておりますので。
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