機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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イチャイチャぁああ


PHASE-18 疑心と献心

 

 オノゴロ郊外。

 

 夕暮れがオーブを茜に染める中、海岸沿いの丘の上に建てられた大きな住居の前に1台の車が止まった。

 

「着いたぞ」

「わざわざありがとね、アスラン」

「別にこの程度、何てことはないさ」

 

 帰国早々やることづくめなカガリとは対照的に、護衛であったタケルとアスランは家路へと就いていた。

 そうしてタケルはアスランの車で自宅まで送って貰ったわけだ。

 

「──タケル、お前はどうするつもりだ?」

 

 車を降りたタケルへと、アスランは静かな声音で問いかけた。

 真剣な面持ち。タケルはアスランの問いの意味を汲み取る。

 

「答えは、決まってるんだけどね……この後ナタルと話をしない限りは何とも。この情勢下だし」

「──そうか」

「アスランは、どうするつもり?」

「こんなことがあった後ではな、下手に動く事もできない。場合によっては拉致監禁でもされかねないし」

「はは、君が大人しく捕まるタマ?」

「それはまぁ……ないな」

「だよね。まぁそれでも、下手に刺激はできないか」

「そう言う事だ」

 

 互いに神妙な顔をして押し黙る。

 察するに今後の事。2人共が、何か厄介事を抱えているような気配であった。

 

「はぁ、苦労するね……お互いに」

「心外だな、お前よりはマシだと思ってるさ」

「やめよう、そう言うの不毛だから──とりあえず、帰ってキラやラクスに相談してみたら?」

「あぁ、そうするよ」

「ん、それじゃ」

「ゆっくり休めよ」

 

 別れ際の挨拶を交わして、タケルは踵を返しアスランも車を走らせた。

 

 遠ざかっていく甲高いエキゾーストにタケルは僅か顔を顰めた。

 

「アスランめ……また車に変な改造を施したな。近所迷惑だって言うのに」

 

 苦々しく、タケルは遠ざかっていく車を見やる。

 アスランは元々機械系に強いとは聞いていたが、まさか車を好き勝手改造する事に喜びを覚える変態だとは、タケルも思っていなかった。カガリに車の改造についての法律を作るべきだと訴えたのは記憶に新しい事である。

 車よりMSを弄る方がよっぽど楽しい派のタケルとは相容れぬ存在であった。

 

 対するアスランも好き好んで兵器を弄る様な変態と一緒にされたくはないと、タケルの意見を否定。

 両者の間には決して埋まらない、深すぎる溝があった。

 

「良いや、騒音問題でカガリとラクスに苦情を送っておこう」

 

 一泡吹かせるべく下らない制裁を脳裏に描きながら、タケルは家の玄関を開けた。

 

 

 

 

 

 

 ナタル・バジルールは現在、とても────それはもう、とってもご機嫌であった。

 

 その度合いがどれ程かと問うのなら、彼女が鼻歌混じりに台所で料理をしていると述べれば、その度合いがよくわかる事だろう。

 あのナタル・バジルールが鼻歌を歌っているのである。

 ちなみに、曲目はラクス・クラインの『水の証』だ。

 戦後潰れかけていたタケルを支えてくれたラクスの歌でもある。

 

 

 台所には芳しい香りが立ち込めていた。

 アークエンジェルに乗ってオーブへと帰還した翌日。

 ミネルバ入港の報せを聞き及び、ナタルはそれはもう張り切って夕食の準備に勤しんでいるというわけだ。

 

 タケルがカガリと共にプラントへ出立してから約2週間。

 色々と不穏な事態の報せもあり戦々恐々としていたナタルからすれば、タケルが無事に戻ってきてくれたことに喜びも一入。

 彼を労って栄養たっぷりな献立を考える事も仕方ないと言えよう。

 

「む……少し、作り過ぎてしまったか?」

 

 キッチンを見回して、ナタルはハッとした様に呟いた。

 

 釜を開ければ、艶やかに輝く炊き立てご飯。隣に座すはけんちん汁。

 小さい鍋には味のしっかり染みた筍の煮物。

 豪勢に買い揃えた魚の刺身の盛り合わせに、旬の野菜で彩った添え物。少し甘めな出汁巻き卵も追加である。

 メインディッシュには、鰻の蒲焼だ。

 

 一体どこの料亭かと思いながらも、任務から帰還したタケルの事を思えばこれくらい許容範囲だろうと、ナタルは自分を納得させる。

 

 聞くところによればアーモリーワンからザフトの艦船に乗せられることになり、軍用の食事しかとれていないはずだ。

 それと比べれば…………食事を目にしたタケルの嬉しそうな顔が、脳裏に浮かぶようであった。

 

 

「ただいまー」

 

 

 待ち人来る。

 柄にもなく嬉しそうな表情を湛えて、ナタルは声のする方へと足を向けた。

 パタパタとスリッパが鳴らす音が小気味良く、そのリズムが早いのは、やはり彼女が彼の帰宅を今か今かと待ちわびていた証左であろう。

 そうして向かう先で目に入るのは、愛しい人の姿。

 

「あぁ、おかえりタケル」

「ナタル、ただいま!」

 

 出迎えてくれたナタルに、タケルもまた満面の笑みを浮かべた。

 ミネルバの面々には見せられないその笑顔……彼女の前だからこそ見せる。彼女が最も好きな、タケルの屈託のない笑みだった。

 

「予定外に帰りが遅くなっちゃってごめんね」

「構わないさ。事情も状況も、もう把握している」

 

 久方ぶりに顔を会わせることができたタケルの嬉しそうな様子に、ナタルは我慢できずタケルへと唇を落とした。

 

「んっ────あはは、嬉しいけどちょっと照れ臭いよ、ナタル」

「心配したんだぞ。タケルがまた戦っているのだと聞いて……気が気ではなかった」

 

 重ねた唇の感触にホッとした様に……次いで照れ臭そうにナタルも微笑んだ。

 

 終戦直後のタケルの姿を思えば、再び戦場に出た彼を心配するのも当然と言えよう。

 彼の心の弱さを……ナタルは良く、深く理解している。

 故に心配は尽きなかったが、元気な姿で帰ってきたタケルを見られて、喜びもまた大きい。

 

「あはは、ごめんね、心配かけちゃって。でもこの通り、元気だから」

「その顔を見ればわかるよ。でも、また色々と抱えてはいそうだな────疲れているだろう。お湯はもう張ってあるから先に入ってくると良い」

「うん、ありがとう。お言葉に甘えるよ」

 

 荷物をナタルに預けて…………離れる前に、今度はタケルからも唇を重ねた。

 嬉しいのは、喜びが大きいのはタケルとて同じ。

 緊急の事態とは言え、最愛の人が再び戦場に立った事は、タケルにとって十分に恐怖する話だ。本来であれば二度と戦場に等立って欲しくなかったのである。

 無事な様子に安心と言うのは、タケルにとっても同じなのだ。

 

「ふっ、どうせなら一緒に入らないか?」

「ぶっ!? お風呂で疲れさせようとしないでくれる!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────聞き間違いか? お前達、今なんと言った?」

 

 

 オーブ行政府閣議場。

 そこで、唸るようなカガリの声が周囲を威圧する様に投げられた。

 

「大西洋連邦との新たなる同盟条約の締結……今、そう言ったか?」

「えぇ、相違なく」

 

 澱みなく答えるのはオーブの議員タツキ・マシマ。文官として行政を支える閣僚の1人だ。

 平然と馬鹿げた言葉を放った彼に対して、溢れそうな怒りを必死に抑えつけながら、カガリは努めて冷静に言葉を返す。

 

「地球圏が大変な被害を被ったこの時に、一体何を言っている。今は被災地への救援、救助こそが我々の急務の筈だ」

「だからこそですよ、代表」

「何だと?」

 

 だからこそ? 

 意図の読めない返しにカガリは眉を顰めた。

 

「それにこれは大西洋連邦との、ではありません。呼び掛けは確かに大西洋連邦から行われておりますが、それは地球上のあらゆる国家に対してです」

 

 地球上のあらゆる国家。

 それはつまり、連合や中立の別けも無く、ましてやユーラシア連邦と大西洋連邦と言った隔たりもない。

 それは確かに、本当の意味で地球圏全域への呼びかけという事だろう。

 

「約定の中には無論、被災地への救助、救援も盛り込まれております。これはむしろ、そういった活動を効率良く行える様結ぼうというものです」

「であれば、その同盟にはプラントも組み込まれているのだろうな?」

 

 被災地への救援と救助──そして支援。

 既にプラントは、ユニウスセブンが落ちる前より準備をし、現在は被災地に数多の援助をしている。

 救助活動を密にし、効率よくと考えるのであれば、被害が無く一番動きやすいであろうプラントを外す理由がない。

 増してやプラントは、ユニウスセブン落下の原因を間接的にとは言え作ってる立場だ。

 デュランダルが打ち出す支援には惜しみが無く、救助に際して同盟を組むのであれば、この同盟から外す事こそ愚策。

 

 無論、カガリは組み込まれている訳がないと踏んでいたが、その答えは眼前の彼らの表情を見れば直ぐにわかった。

 

「ずっとザフトの艦に乗っておられた代表には、現在の状況が今一つ御理解頂けてないのかもしれませんな」

 

 ウナトがため息一つ吐いてモニタに表示させる。

 映し出された映像にカガリは悟られぬ様隠しながら、胸中で息を呑んだ。

 

 被害を受けた北京や、大西洋沿岸部の映像。

 いくら被害を減らしたとは言っても、規模が規模だ。未曾有の大災害というのは誇張でも何でも無く事実であった。

 

「地球が被った被害はかなりのものです──そしてこれだ」

「──っ!?」

 

 次いで映し出されるのは、ユニウスセブンで見たジンの部隊。

 そして、ユニウスセブンを動かした大量のフレアモーター。

 

「我等……つまり地球に住む者達は皆、既にこれを知っております」

「この情報の出所は?」

「大西洋連邦から出た情報です。そして、プラントも既にこれは真実と大筋では認めています。どうやら、代表も既にご存知だったようですね」

 

 ユウナからの問いに、カガリはわずかに顔を歪めながらも頷いた。

 知っていた。理解していた。

 この事態が、コーディネーターによって引き起こされた事は。

 

「──そうだな、知っている。だがこれは一部のテロリストの所業だ。プラント全体の考えではない。

 現に、事態を知ったプラントはその破砕作業に全力を挙げてくれた。作業者であるミネルバのクルーは命懸けでな。だからこそ、今回の被害は大きく軽減されたと言える」

「それも、解ってはいますがね。だが実際に被災した何十万という人々にそれが言えますか?」

「では何十万の人々の嘆きを、地球を救ってくれたプラントに押し付けようと言うのか」

 

 睨め付ける様に、カガリは一同を見回す。その視線には怒りが多分に含まれていた。

 確かに、直接被災した人々にはそんな理屈は通用しないだろう。

 だが、大局を見るべき者達が同じ目線でどうするというのか。

 

 コーディネーターだろうがナチュラルだろうが、テロリストはテロリスト。

 そこに国家の意思は介在しない。

 にも関わらず、一部のコーディネーターの蛮行をプラントの意思と決めつけ国の舵取りをする事ほど愚かな事は無い。

 

「代表……言葉を慎んでください。同盟締結はあくまで今後の救助活動を円滑とするため。間違ってもプラントへと憎しみを向けて、討つ為のものではありません」

「見解の相違だな。私にはこの同盟条約が、大西洋連邦に降り、共にプラントを討てと言っているようにしか見えないが」

「代表……お言葉が過ぎます。そのような事態については盛り込まれておりません」

「同盟を締結した時点で我らの立場は定まる。それとも、事が起きた時には同盟を離脱するとでも言う気か? そんな事になれば、オーブは世界により敵を作る事になるだろう」

「ではこの呼びかけを蹴り、御父上と同じく再び国を焼くと……そう言うおつもりですか?」

 

 ドクンと心臓が脈打つのをカガリは感じ取った。

 目を見開き、そして許し難い暴言を吐いたウナト・エマへと視線を向ける。

 

「──取り消せ、ウナト・エマ・セイラン」

 

 圧巻であった。

 女性でありながら、低く唸る様な声音。

 視線は射殺す様に鋭さを増し、纏う気配はそれこそ怒れる獅子の如く。

 カガリ・ユラ・アスハの本気の怒りがそこにはあった。

 

「2年前──当時の行政府は戦火を回避する為最大限の手を打った。

 あの時、オーブがどのような対応をしても、戦いが起こり国が戦火に晒されたのは必定。全てにおいて、理不尽な理由のもと一方的な侵攻を開始した大西洋連邦に責がある。だからこそ、戦後の賠償にも大西洋連邦は応じた。

 これは幾度となく議論された末の結論の筈だ。今の我等に、嘗てのオーブ政府を否定する権利などは無い」

 

 声は粛々としていながら、語気は強く激しくなり、視線と気配は鋭さを増していく。

 文官連中では醸し出せないそれは、カガリが為政者でありながら戦場を知る戦士でもある事の証左である。

 

「発言の撤回をしろ、ウナト・エマ・セイラン──あの日の戦火の責を、今は亡きウズミ代表に被らせること。ウズミの娘としてでは無く、現代表として我慢ならん」

「落ち着きなよ、カガリ。父上もそんな意味で言ったわけじゃないよ。ただ、この呼びかけを蹴る事は、再びオーブを戦火に巻き込む危険性があると言いたかっただけさ」

 

 間を取り持つ様に──努めて落ち着いた声音で割り込むユウナに、カガリは彼を一瞥すると昂った気配を引っ込めた。

 

「──そうか。すまなかったな、少し逸って考えが及んでしまった」

 

 閣議の場に相応しくない声と物言い。

 感情に振り回されてしまった己の不足を感じ入り、カガリは素直に謝罪を溢した。

 その場にいた何人かは、鎮まってくれたカガリの気配に小さく安堵の息を漏らしたものもいる。

 

「やはり代表は少々お疲れの様だね。今日はここまでにしておこうか。一度落ち着いて、各々結論を持って明日にもう一度議論をするとしよう──いいね、カガリ?」

「──あぁ、わかった」

 

 静かに、吐き捨てるように言うと、カガリは閣議の場を後にした。

 胸に燻る激情を抑えられなかった自分に辟易しながらも、やはりカガリの心は熱を持ち叫ぶように震えていた。

 

 そのまま官邸を出たカガリは胸の内の想いを制するために、オノゴロへと車を走らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~、美味しかった」

 

 愛情の感じられる食事を終えてソファで寛ぐタケルは、満足感たっぷりに感嘆の声を吐き出した。

 

「ふふ、良く食べたな。その小柄な体で」

「もぅ、ナタル……身長の事は言わないでよ」

 

 口を尖らせて抗議するタケル。

 170㎝を超え、女性としては背の高いナタルに対して、タケル・アマノの身長は現在166㎝。

 そう、戦後2年間でいつの間にかナタルと並ぶようになったキラやアスランに対して、ほぼほぼ身長が変わらないのがこの男である。

 

 お陰で未だにタケルはナタルを見上げ、ナタルはタケルを見降ろす位置関係なのだ。

 タケルも今や18歳。情勢の変化さえなければ、本来彼女との挙式も予定していた。

 名実共に、大人となる予定であったタケルにとって、伸びない身長はやはりコンプレックスであった。

 

「そう気にするな。私はタケルが小さくても何ら気にならないぞ」

「ナタルは男の子の気持ちってものがわかってないよ。小さいと言われて気にならない男の子は居ないんだよ」

「むぅ、そう言うものなのか?」

「そう言うものだよ」

 

 そう言ってはまた、タケルはご機嫌斜めと言う様に口を尖らせる。そういうところが子供っぽいのだが……とは思うもののナタルはそれを口にするのはやめた。

 代わりに、タケルの肩へ頭を乗せると、言葉にせずとも心のままに寄り掛かった。

 身長が低かろうと、タケルが優秀な事は変わらない。頼り甲斐がある事は変わらない。

 だから、そんな小さな事を気にするなと。ナタルは言外に告げた。

 

「──ありがとね、ナタル」

「それで、今度は何を抱えているのだ?」

「えっ?」

 

 突然の問いかけに、タケルは疑問符を浮かべた。

 

「私に話があるのだろう? 伝える事は決めているのに、いつ切りだそうかとずっと迷ってる……食事中からずっと、そんな顔をしている」

「あ、あはは……ナタルには敵わないなぁホント。全部筒抜けになっちゃう」

「当たり前だ。どれだけ君を見ていると思っているんだ」

「僕は全然読めないのにね」

「修行が足りないな」

 

 やはり彼女はエスパーなのかもしれない。

 これは隠し事ができないなとタケルは胸中でナタルの慧眼に慄きながら、おずおずと口を開いていく。

 

「ナタル、帰って来たばかりで申し訳ないんだけど……明日、プラントに向けて発つつもりなんだ」

 

 驚きは小さく漏れた呼吸の音だけだった。

 タケルが言いづらそうにしているのだからそれなりに大事だとはナタルも予見できていたのだろう。

 

「プラントに? それは一体」

「サヤが……あの子が生きてたんだ」

「サヤ……君のもう一人の妹だったな。ヤキンで亡くなったはずの」

 

 言って、少しだけナタルを後悔が埋める。

 見れば嘗てを思い返して、タケルが辛そうな表情を浮かべていた。

 未だ、タケルの自責の念は消えていない……それが見てとれた。

 

「生きてるはずがないと思ってた。でも、アストレイのコクピット機構を考えれば、可能性はゼロじゃない。

 そうして生きていたあの子は、記憶を失い……ヤヨイ・キサラギと言う名で、ザフトに居たんだ」

「ザフトに? それは一体どういう事だ。いくら記憶を失っていたとしても、別人としてなど──」

「そう、あり得ないはずなんだ。戦いの衝撃で記憶を失ったにしても、あの子は国防軍の1人。認識票だって持ってたはずだし、コクピットを解析すればオーブのものだと判る筈……たまたま拾われてプラントで治療されたところで、あの子がプラントで、ヤヨイ・キサラギとして生きているのは不可解だ」

 

 ミネルバで、タケルはヤヨイのこれまでを聞き及んでいた。

 目覚めた彼女は、誰ともわからず病院に居た。そして、()()()()なまま戦場で拾ってくれたミゲル・アイマンに引き取られ世話になったのだと言う。

 彼女の名前は、ミゲルがつけてくれたらしい。

 

「──キナ臭いな。少なくとも、全うな対応とは言い難い」

「プラントに行って確かめなきゃいけないんだ。幸いにも、あの子を拾ってくれて世話してくれたのがミゲルだったからさ。一先ずは彼を訪ねてみるつもり」

「それでわからなければ?」

「その時は少し無茶もするかも……」

「タケル……それは」

 

 無茶──その言葉を聞いて、ナタルは一気に不安を覚えた。

 タケルが無茶といえばできる事が多い分その可能性は多岐に渡る。

 そして彼が必要に駆られて無茶をするときは、本当に無茶しかしないのだ。

 それをナタルは、アークエンジェルで散々見てきた。

 

「ごめん、ナタル……でも、あの子を守れなかった僕の……いや、あの子に守られてしまった僕の責任だからさ」

「タケル……」

「ナタルには寂しい想いをさせちゃうけど、これだけは……」

 

 心配や不安。そんなものを彼女に覚えさせたくはない。

 それはタケルにとって絶対であるが、同時に己の罪の結果が現実に形となってある以上、タケルにそれを切り捨てることなどできない。

 例えナタルを悲しませても、失ったはずの妹のためなら……どんな事もする覚悟であった。

 

「そんな辛そうな顔をしないでくれ……タケル」

「ナタル?」

「私は面識ないが、サヤが君にとってどれだけ大切な存在なのか、良く理解している。私としても、君の背中を押してあげたい気持ちだ。だから、私の事なんか気にするな」

「私なんかって言わないでよ。僕にとってナタル程大切なものは無いんだよ?」

「それも良く知っている。君が私を想う気持ちを疑うこと等あり得ない。だから……私の言葉も信じてくれ。

 大切なものを取り戻そうとする君の背中を、私は押してあげたいのだから」

 

 そう言って、向き合って居たナタルは再びタケルの肩へと枝垂れかかった。

 載せられた頭の重さが心地よく、そして宣言通りに背中を押してくれている気がして、タケルは深呼吸────決意の表情を浮かべて前を見据えた。

 

「──ありがと、ナタル」

「良い顔になった。流石は私の旦那様だ」

「何言ってるのさ。ナタルがとっても良い奥さんだからだよ」

 

 覚悟を決めたかと思えば、仲睦まじく言葉を交わす。

 そしたらまた口付けを交わし、2人は今この時、久しぶりとなった触れ合いの時間を大切に過ごした。

 

「そういえば、カガリにはこの事を話したのか?」

「ううん、まだ。先にナタルに伝えなきゃと思って……」

「気持ちは嬉しいがこんな大事な事、カガリにも伝えなくては駄目だろう。呼ぶか?」

「あぁ、待って待って。きっとカガリは今忙しいから……明日朝一で伝えに行──」

 

 タケルの言葉を遮る様に、来客を告げるブザーの音が飛び込んできた。

 もう夜の帷も降りているこの時分。一体どちら様だろうか。

 タケルが立ち上がり来客の確認にインターフォンで応対した。

 

「はい、どちら様ですか?」

『兄様か? 私だ。相談があるのだが……』

 

 

 聞こえてきたのはたった今話の渦中にいた、大切な妹の声であった。

 

 




ヒロインと言うかもう完全に奥さん。
ナタルのファンには申し訳ないですけど、もうSEED編で描き切ったので彼女との色々は運命編では無いです。
こうして仲睦まじい姿を見せるだけですね。
運命編では誰が物語のヒロインとなるのか……まぁここまで読み進めてきた読者さんなら予想もつく事でしょう。
どうぞお楽しみに。

執筆に際してアニメ見直してるけど、アスラン運転荒すぎワラエナイ。
駐車場からハリウッド映画顔負けでぶっ飛ばしてた。そりゃ主人公もオコですってもんよ。

後更新ちょっと遅れ気味でごめんなさい。
頑張って書くけど仕事の環境変わるとなかなか難しいのです。
気長にお待ちくださいませ。

更に追記。
感想返信も遅れちゃってごめんなさい。
作者のルーチンとして次話投稿後に返信していく形でして、投稿遅れると今回みたいに返信遅くなっちゃってます。
一つには感想で次話の展開予想とかもあったりするので、触れないでおくためにこういった形をとってます。
展開予想するなと言うわけではなく、読者の楽しみを奪わないためという事で、返信が遅れる事もご容赦いただきたく思います。

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