機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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ちょっとメンタルヘタレて書けなくなってました。
アスランの事バカにできないですね。
そして相変わらず話の進行は……



PHASE-20 束の間

 

 オーブ首長国連邦。

 

 

 国政を担う五大氏族ともなれば、やはりそれなりに裕福になるものだ。

 代表首長であるカガリ・ユラ・アスハの家は豪邸と呼ぶに相応しく、別荘と呼べるものも幾つか所有している。

 職務に忙しい当主に代わり、家を任される使用人だって片手で数えるには足りないだろう。

 尤も、別荘については贅沢と言うよりは備え、と言った方が正しいかもしれないが。

 

 とにもかくにも、アスハ同様に五大氏族となったセイランもまたその例に漏れず立派な家を所有しているわけだ。

 

 そんな豪邸の一室で顔を突き合わせるは、ウナト・エマとユウナ・ロマの親子。

 緊張に富んだ閣議を終え、2人揃って帰宅して、静かな一時を過ごしていた。

 

「全く、迂闊だよ父さん。あの事はカガリの前では禁句だって、わかってたじゃないか」

「ふんっ、未だ父の不義を否定して良く吠えるものだ……小娘が」

 

 猛々しく返してくる父の顔に浮かぶ侮蔑。

 理解の浅い父の言葉に、ユウナは胸中で溜め息を吐いた。

 

 ユウナにとって、宰相となった父ウナト・エマは無能ではないが凡庸な人間だ。

 だからこそあのように不用意な発言が飛び出る。

 あの場をユウナが取り持たなければ、彼が小娘と見下すカガリに気圧されて、宰相の立場にいる父が発言の撤回を余儀なくされた事だろう。

 そしてその先には、ウズミの決定に奮起し、戦場で武勇を誇ったカガリに心酔しきっている武官達が、ウナトの発言を聞き及んで猛反発したに違いない。

 それは彼等にとって大いに避けなければならない事態であった。

 

 大西洋連邦との同盟締結。これは何も文官だけが望んでいる事では無い。

 どんな誇り高い信念を掲げようが、理想は争いを起こさない事である。欲を言うなら、オーブの決定によって戦いが巻き起こるのだけは避けたいわけだ。

 これは、文官武官の共通認識と言える。

 

 同盟締結で争いを回避できるのなら、それに越したことは無い。

 武官連中との余計な対立など生み出したくはないのがユウナの本音だ。

 残念ながら、カガリの口ぶりから察するに、同盟締結には断固として反対する姿勢が垣間見える。

 ウナトとユウナはどうにかしてその姿勢を崩し、利を説かなければならなかった。

 

「とは言え、どうにも聞き分けの無い子だね。カガリは」

「聞き分けと言えば、今は他人でしかない自称兄もだな────お前との婚姻が進めば、少しは御し易くもなるだろうに」

「少なくともカガリからは悪い印象を持たれては居ないんだけどね……兄妹揃ってまだ子供なのか、個人の感情を優先しすぎだとは、僕も思うよ」

「立場を考えて欲しいものだな。プラントの……それも主戦派であったパトリック・ザラの息子と一緒になるなど。

 中立のオーブの姿勢を疑われる様なスキャンダルだぞ」

 

 ただでさえ大西洋連邦とは、プラントとの関係性を問われ緊張状態にあるというのに。

 亡命したとは言え元ザフトで、先の大戦においてジェネシスに因る大量虐殺を主導した人間の息子であるアスラン。

 そんな彼と、中立であるオーブの代表のカガリが一緒になること等、あってはならない。

 本来であれば、傍に置く事すら憚られる関係性なのだ。

 

「ともかく、明日は少し慎重に話を進めないと。今回の同盟締結……断れば相応にオーブは危うくなるからね」

「わかっておる。既に賽は投げられたのだからな」

「まぁ、危うくなった時はその責任を押し付けて、カガリを丸め込む事も考えられなくは無いけど」

 

 意気込むウナトとは対称的に、ユウナは薄ら笑いを貼り付けた。

 明日には同盟締結について、その方針が定まる事だろう。無論、彼等は同盟締結を押し進めるつもりではある。

 だが、ユウナとしてはそれほど大きな意味を持たなかった。どちらに転んだとしても、少しは今の状況から進むことができるのだ。

 

 

 彼が望むのはオーブの平和でも政権でもなく────カガリ・ユラ・アスハ唯1人なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オーブの本島ヤラファスの海岸線にある岬。

 

 そこにアスハの所有する別荘があり、現在はラクスやマルキオ、ヤマト一家が身寄りの無い子供達と共に暮らしている。

 ブレイク・ザ・ワールドで、これまで住んでいた住居兼孤児院であったコテージが流されてしまった為、急遽で間借りしているというわけだ。

 

 

「それ、本当なの? アスラン」

 

 

 そんな屋敷のリビングで顔を並べるのは、キラとラクス。そして、帰ってきたアスランの3人であった。

 

「あぁ……タケルが見間違えるはずも無いし、彼女自身もタケルと再会したことで、記憶を少しではあるが思い出してきていた様だ」

「そうですか。サヤが……それは本当に良いニュースですわ。ね、キラ」

「うん……本当に、良かった」

 

 聞き及んだサヤ・アマノ生存の報告に、キラは心の底から嬉しそうに安堵の息を吐いた。

 

 タケル程ではないがキラとて、彼女を目の前で喪い大きな悲しみに暮れていた。

 彼女を守ることがタケルへの恩返しだと胸に誓っていた分、自責の念は余程強かっただろう。

 終戦直後の弱りきったタケルの姿に、キラもまた胸を押し潰されそうであったのだ。

 記憶を失っているとはいえ、彼女が生きていたと知れて、嬉しくないはずが無かった。

 

「それ故に、タケルはプラントへ向かうつもり、と言うことですか……」

「あぁ。多分今頃、バジルールさんと話してる頃だと思う」

「でも……プラントに行ってどうする気なんだろう。サヤはもう、ザフトに入っちゃってるんでしょ?」

「そこまではわからない。まずは彼女のこれまでの経緯を調べるつもりらしいが……」

 

 アスランの言葉を皮切りに、沈黙が降りた。

 既に夜の帷も降りており、子供達は夢の中。

 寝かしつけに行ってるヤマト夫妻やマルキオも居ない中では、会話が途切れればその場を静寂が包む。

 

 各々が少し考え込む素振りを見せる中、キラがおずおずと口を開いた。

 

 

「────僕も、付いていったらダメかな?」

 

 

 ふと、漏らすキラの言葉にラクスもアスランも驚きの表情を浮かべた。

 

「キラ? 彼女の事で責任を感じていた事はわかりますが、それは──」

「無茶を言うなキラ。気持ちはわかるが……お前が行ったところで」

「分かってるけど。でも……少しでもあの2人の力になれるなら……」

 

 守るはずだった──助けてあげるはずだったのだ。

 己の存在が生み出した悲しき事実を背負う兄を。

 

 だというのに、結局何もできず、自責の念に弱っていくだけの彼を救う事もできず。

 キラ・ヤマトは無力であった。

 

 取り戻せるのなら──過去を払拭できるのなら。今、この時では無いのだろうか。

 

「落ち着け、キラ。タケルと違って、キラにはプラントでの伝手が無いだろう」

「それに、今のこの情勢下でタケルがオーブを離れるのも、本当ならあまり良くは無いのではありませんか? 今ここでキラまで離れるのは、それこそタケルの不安が増すことになります」

「────そう、だよね」

 

 思い立っても、何もできない。

 その事実がキラの苦痛を膨れさせる。

 

「あまり思い詰めるなよ。タケルはキラがそんな風に自分を責める事を良しとはしないはずだろう」

「──自分は自責の念で雁字搦めな癖にね」

「あぁ、その通りだよ全く」

 

 キラの言葉に、どこか悪態を吐くようにしてアスランは顔を顰めた。

 雁字搦め──その通りだ。

 国を奪われた歴史を繰り返さない様、全身全霊で国防の強化を図り、なおかつサヤを守れなかった責を誤魔化すかのように、代表となったカガリを手助けすべく、政務にまで目を向けている。

 潰れる前にきっちり舵取りをしてくれるナタルが居なければ、今のタケルは今よりもずっとボロボロに擦り切れた精神であっただろう。

 

「本当はプラント行きだって俺がいくつもりだったんだ。俺の方が余程、プラントでは動きやすいはずだからな……なのにあいつは、カガリの傍から離れたら許さないよって体の良い事を言って……」

「待って。アスランはアスランでプラントに行くつもりだったの?」

「あぁ、そうだ。ユニウスセブン……俺達と戦ったジンの部隊が居たろ?」

「うん。破砕を邪魔してきた人達だよね」

 

 既に地球圏には件のジンの映像も出回っている。

 思い返す必要もない、周知の事実にキラとラクスは頷いて返した。

 

「連中は父上の……パトリック・ザラの信奉者だったんだ。父上の取った道こそが、コーディネーターにとって唯一の正しき道だと……そうしてナチュラルを滅ぼす名目で、今回の騒ぎを引き起こしたらしい」

「──そんな」

「地球にだって、コーディネーターは住んで居ますのに……どうして」

 

 沈痛な面持ちが、キラとラクスに浮かぶ。

 それはもはや、嘗ての大戦の続きといえる。

 ナチュラルとコーディネーターが袂を別ち、互いを滅ぼし合うあの戦争の、再開を願う事と同義だ。

 

 自然と、これから世界を巻き込む争いの気配に恐怖した。

 

「連中が言ってたよ──討たれた者達の嘆きを忘れて、何故討った者達と偽りの世界で笑うんだお前らは、って」

 

 再び、沈黙が支配した。

 問題の大きさもそうだが、その言葉を叩きつけられたアスランの胸中も不安と言える。

 亡くなった父の信奉者が世界を再び争いの渦中に引き込もうとしている。そんな事を知って、責任感の強い目の前の男が何も思わないわけがない。

 だからこそ、アスランもまた何かをするためにプラントへと行くつもりで居たのだろう。

 

「だが、そんな事があって……今のこんな状況でプラントに行くのは危険だってタケルに言われたんだ」

「そう、だろうね。行けばきっと、穏健派の象徴だったラクスと同じ様に……」

「パトリック・ザラの息子として、主戦派に担ぎ上げられるかもしれない……と言う事ですわね」

「あぁ。勿論俺は父上の遺志を継ぐことなど御免だ。だがそうなれば今度は、利用できない俺を消す事だって考えるだろう。

 旗頭になる可能性もあれば、連中にとっては特大のカウンターになる可能性もあるわけだからな」

 

 パトリックの息子が、反戦を唱える。

 主戦派の残党からすればこの上ない邪魔ものとなる──嘗てのフレイとブルーコスモスの様に。

 引き込めなければそれは反転して、自分達の論調を崩す影響を増すのだ。

 ユニウスセブンを落とそうとした様な連中が、今更厄介者を消す事に躊躇するはずも無い。

 アスランの身に危害が及ぶのは火を見るより明らかである。

 

「でもそうやって、また1人でタケルは抱え込むんだよね」

「──本当にな」

「度し難いですわね。あの悪い癖は」

 

 三者三様に愚痴をこぼすが、彼等の声音に責める気配は薄かった。

 

 抱え込む──それは何も、タケルに限った話ではない。

 現オーブの代表となったカガリも同様だ。

 ウズミからの教育もあり、国政を担うに足る人物ではあるが、それでもまだ成人すら迎えてない年齢で国家を背負っている。その重責は想像に難くない。

 あの兄妹は自身が国にとって大きな影響を持つ人間だと自覚し、故に様々を抱え込んでいた。

 

 でも、だからこそ彼等は。

 今この時に、2人の助けに成れないのが辛い。

 のんびりと平和を享受しているだけの自分達がもどかしい。

 この国において、力も立場も持っていない己が歯がゆかった。

 

 勿論、彼等にも事情はある。

 アスランもラクスも、その存在を公にはできない立場にいるし、キラもまた、地球圏で公的立場を持ち活躍するにはリスクの高い人間だ。

 未だ彼には、最高のコーディネーターとブルーコスモスというしがらみが付いて回る。

 

 彼等がこの国で静かに暮らしているのは、それが2人からの願いだからという部分も大きい。

 

「とりあえず、俺はカガリの所に戻るよ。今日の閣議の話も聞きたいしな」

「わかりましたわ。アスラン、タケルとカガリさんにお伝えくださいな──困った時は最大限の助力を致します、と」

「アスラン。僕もラクスと同じ気持ちだからね」

「あぁ、わかってるさ。ちゃんと伝えておく」

 

 お開きとなったその場を後にしていくアスランを見送り、キラとラクスは大きく溜め息をついた。

 そうは言ってもあの兄妹。決して素直に助けを求めはしないのだろう。

 カガリはまだ良い。国家の代表となって自分ができる範囲を理解している事もあり、出来ない事は少なくともできないと言える様になった。

 だがタケルは別だ。なまじ色々とできる事が多い分、自分で全部どうにかしようとするきらいがある。

 ラクスが言うように、本当に悪い癖であった。

 

「──ラクス、やっぱり僕もプラントへ」

「ダメですわ」

 

 気持ちがうずいて素直に引き下がれないのは、遺伝子的繋がりが無くとも兄弟故か。

 機先を制されたキラは、間髪入れず返してくるラクスの言葉に撃沈するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 

 モルゲンレーテ所有の艦船ドックにて、傷ついた艦体の修理を施されるミネルバ。

 搭乗中のクルー等には、オーブ行政府より上陸許可が出される事となる。

 

 思いがけぬ初陣から息つく間もない激戦と任務。

 新人が多いミネルバクルーはその疲れも一入だろうと、艦長のタリア・グラディスから出された外出許可に大喜びとなり、飛びついた。

 同期組で揃って、ホーク姉妹やヴィーノにヨウランは意気揚々とオーブの街へと繰り出す事にした。

 

 だがそこへ──

 

 

「むっ、君達はお出かけか?」

 

 ミネルバのハッチから出てきた彼等と、何故か訪れたタケル・アマノが邂逅する。

 

「アマノ三佐、お疲れ様です。昨日振りですね」

「そうだな、ルナマリア。それにヨウラン・ケントに、ヴィーノ・デュプレだったか」

「はい、お疲れ様です」

「お疲れ様です。先日は御不快な思いをさせてしまい申し訳ありませんでした」

 

 敬礼で答えるヴィーノ。そしてヨウランはユニウスセブンの件で漏らした問題発言の事を意図して、静かに頭を下げた。

 

 そんな素直な姿勢を見せるヨウランに、カガリからの叱責が良く効いているなどと想いながら、静かにタケルは笑みを浮かべて返した。

 

「過ぎた事だ。それに、失言の件はその働きで返してもらったさ」

「ありがとうございます」

「ところで、メイリン・ホークは何故ルナマリアの後ろに隠れているんだ?」

 

 疑問符を浮かべるタケルの視線の先──ルナマリアの背後からちらりと見える赤毛のおさげが2つ。

 隠し切れない、メイリン・ホークの特徴が見えていた。

 

「あー、その……気にしないでください。アマノ三佐がどうというわけでは無いので」

「だが……私が来た事に何か問題があるのでは?」

「最初に言ったじゃないですか。この子ミーハーで、アマノ三佐とアスハ代表のファンだって」

「ちょっ、ちょっとお姉ちゃん!!」

「そんなもので昨日、アマノ三佐に直接褒められて舞い上がっちゃってたから、思いがけぬ再会に顔を会わせられないんですよ」

「や、やめてってば!!」

 

 姉の非情な暴露に、メイリンは姦しく責め立てる。

 しかし、ルナマリアはなんのそのと言った様子である。

 と言うのも彼女。昨夜は非常に寝つきが悪かった。何故なら同室の妹が、あーだのうーだのと喜色に塗れた呻きを挙げ続けていたいたからだ。

 いつまでも煩い妹のせいで大概寝不足となった姉は、ここぞとばかりに復讐を果たしにかかる。

 そうして羞恥に塗れた妹の顔には、存分に良くなった血の巡りを表すように、朱色が差していた。

 

 対してタケルもまた、目の前で見せられるメイリンの反応に困った表情を見せる。

 

「えーっと……ヴィーノ・デュプレ、ヨウラン・ケント。こんな時どんな顔をすれば良いのだろうか?」

「うぇえっ!? そんな事聞かれても」

「笑いかけてやれば良いんじゃないすかね……」

「そう言うものなのか?」

 

 元来、タケル・アマノは卑屈で臆病な人間だ。

 それは嘗て叩き込まれた、父ユウキ・アマノの苛烈な教育に因るものではあるが、自己評価の低すぎるタケルにとって、ルナマリアが述べ、メイリンが抱く英雄像は過剰に過ぎた。

 タケルとしては何とも言えない恥ずかしさがある。

 

「そういえば、昨日退艦したというのに、アマノ三佐は何用ですか? ミネルバに用があってきたんですよね?」

「ん? あ、あぁその通りだ。ちょっとしたお礼と言うかだな……グラディス艦長に渡したいものがあって」

 

 そう言ってタケルは、手に持っていた書類の入った封筒を掲げた。

 

「ちなみにそれは……?」

「大したものじゃない。ただ、そちらは軍事機密であるはずの最新鋭機を我々に見せたわけだしな。それなりのお返しをしたいと思ったが、かと言ってこちらのデータを流出させるわけにもいかない。

 なので、昨日の訓練から得たルナマリア達パイロット組の評価と訓練計画を、グラディス艦長に提供しようかと……一応、MSパイロットの教官歴は長いのでな」

「今ここで少し拝見しても?」

「検分は必要だろう。隠すものでもないからどうぞ」

「では」

 

 言って、ルナマリアは差し出された封筒を開き、中の書類を取り出した。

 数枚取り出された書類をヨウラン、ヴィーノも手に取り、メイリン以外の3人が目を通していく。

 沈黙が10秒、20秒と続く内に、ルナマリアはその身を震わせて、ヴィーノとヨウランは感嘆のため息を漏らした。

 

「うへぇ、びっしり」

「何つーか、アカデミーでの総評価もらった時みたいだな」

「な、なんですかこれ。昨日の僅かなやり取りだけでなんでここまで詳細な分析を……何度もねだっていたシンだけならまだしも、レイやヤヨイの事まで。と言うか私の評価がひど過ぎません!?」

「君は色々と足りない部分が多かったのでな……つい筆が乗ってしまった」

「そんな小説家みたいな事を──そうだ、メイリン!」

 

 ヴィーノとヨウランから紙をひったくると、乱雑に封筒へと戻して、ルナマリアはメイリンを呼びつけた。

 

「な、何よお姉ちゃん……急に大きな声出して」

「はい、これ持ってアマノ三佐を艦長の所まで案内しなさい」

「な、何で私が! ていうか別に、持っていくだけで案内しなくても良いじゃない」

「ダメよ。非常に面白くないけど、ここに書かれてることは本当の事ばかり……この書類と併せて、アマノ三佐には艦長と色々話してもらった方がより私達には有益になるわ」

「そんな勝手に……アマノ三佐はこれを渡しに来ただけなんだから、勝手にそんな事を決めちゃダメだよお姉ちゃん」

「あー、実は個人的にグラディス艦長には話したい事もあってだな……メイリン・ホーク。案内してもらえると助かるのだが……」

 

 思わぬところからの援護射撃? に反論していたメイリンが押し黙った。

 彼女からすれば愚かな姉の気まぐれで迷惑を掛けるわけにもいかないと言う所であったが、肝心の本人がそれを臨むと言うのなら、是非も無し。

 むしろこれは非情な姉からの有情な援護射撃と言える。

 メイリンは表情を硬くしながら静かに頷いた。

 

「──わ、わかりました」

「よろしい。素直なところはきっと好印象だと思うわよ」

「う、うるさいバカお姉ちゃん!! それではアマノ三佐、艦長室までご案内致します」

「あぁ、無理を言って申し訳ない」

「それじゃ、私達は先に街に出てのんびりお茶して待ってるから。焦らなくて良いわよメイリン。

 さっ、行くわよヴィーノ、ヨウラン!」

「あ、あぁ……」

「良いのか、本当に?」

「良いから行くの! あ、それとアマノ三佐。やっぱりその口調は似合わないです」

「うるさいほっとけ!!」

 

 去り際に挑発めいた言葉を残したルナマリアへ、珍しく声を荒げて返すタケル。

 そんな、どこか仲良さげな2人に他3人は呆気にとられるが、驚くヴィーノとヨウランを連れて、ルナマリアがその場を離れていく。

 

「はぁ、全く……なんだか、すまないな」

「いえ、こちらこそ不詳の姉が失礼な事を……すいません」

「良いムードメーカーだろう。小隊には必要なタイプだ。それじゃ、案内を頼むよ」

「はい! こちらです」

 

 少しだけ疲れた心地を感じながら、タケルとメイリンもまたミネルバ艦内へと歩みを進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、街へと繰り出したルナマリア等3人。

 どこか良さげな店は無いかと視線を巡らす彼女とは対象的に、未だヴィーノとヨウランは驚きから帰ってこれなかった。

 

「なぁ、ルナマリア」

「何よ、ヴィーノ」

「いつの間にアマノ三佐と仲良くなったんだよ。もうお友達って感じじゃん」

「畏れ多いと言うか、怖いもの知らずと言うか……シンに対して怒った時とか凄かっただろあの人。なんでそんな気軽に接することができるんだよお前は」

 

 もはや呆れの色すら見えるヨウランの言葉。

 確かに、件の話ではシンに対して非常に冷たく、恐ろしいとすら思える気配を見せたタケル。

 ザフトに階級は無いが、それでも新兵である自分達と比べれば明らかに目上の立場にいるタケルに対してのルナマリアの態度は、問題行動の1歩手前というレベルだ。

 

「怖いって……あの人が? 何言ってるのよ、あのひとは重度のシスコンなだけよ」

「えっ?」

「はっ?」

 

 何を言っているのか。

 ルナマリアの言っている事が理解できないと言うような顔を見せる2人。そんな彼等にルナマリアは言葉を続ける。

 

「シンに対して怒ったのだって、妹のアスハ代表が責められるのが許せないってだけなのよあの人。もう完全に拗らせてる」

「うっそだ~」

「流石にそれは、信じられねえよな」

「そもそもヤヨ──」

 

 “ヤヨイへの態度を見ればわかるじゃない”

 

 そんな言葉を吐こうとして、ルナマリアは慌てて口を綴んだ。

 流石にこれは軽々しく明かすことでは無いだろう。2人の個人的な事情に関する事だ。

 

「ん? やよ?」

「何だよ?」

「ううん、何でもない。良いから行くわよ。折角の外出、思いっきり楽しまないと──あ痛っ!?」

 

 先導していたが故に、2人へ振り返っていたルナマリアが歩き出そうとしたところで、小さな痛みと衝撃を受ける。

 不運な事に他の通行人とぶつかってしまったようだ。

 弾かれた様に互いに尻もちをついて、路上に手を突く事態となってしまう。

 

「痛た……ごめんなさい、よそ見しちゃってて」

「いえ、こちらこそ不注意で……すいません」

 

 相手もまた前方不注意だったのだろう。

 似たような応対をしながら立ち上がったルナマリアが目を向けた先には、溌剌といった言葉が似合う女性がゆっくり立ち上がる所であった。

 

「もぅ、アサギってば知らない人に迷惑かけて!」

「すいません、大丈夫でしたか?」

 

 連れ合いであろう2人が慌てた様子で駆けて来ては、直ぐに頭を下げてくる。

 いえいえそんなと受け流すヴィーノとヨウランとは違い、ルナマリアは今しがた聞き及んだ名前に怪訝な表情を浮かべていた。

 

「──アサギ?」

 

 それは、つい最近聞いた名である。

 ユニウスセブンでの戦闘中──破砕作業の指示を受ける時に彼女の憧れであるミゲル・アイマンが口にしていた名であった。

 

「あの、もしかして……ユニウスセブンで破砕作業を手伝ってくれたパイロットの方達ですか?」

「へっ?」

「えっ?」

「あっ?」

 

 面白いくらいに異句な返答。

 だが表情は揃いも揃って似たような驚きを浮かべる3人の女性。

 

 ひょんなことから、共に戦場を駆けた彼女達は再会を果たすのであった。

 

 




さて、面白くなってきました。(話の展開というよりキャラのやり取りが)

まじでこの調子だと運命編完結がいつになる事やら。
まぁ、オリジナル路線強くなる分原作ほど長いシナリオにならない可能性も無きにしも非ずですが。

プロット見る限りはむしろ原作より長いと気がする。

どうぞ、気長にお楽しみいただければ幸いです。

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