機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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ようやく動き出すって感じの流れ。



PHESE-24 運命

 

 

『昨日午後、大西洋連邦をはじめとする地球連合各国は、プラントに対し宣戦を布告。戦闘開始から約1時間後、ミサイルによる核攻撃を行いました。

 しかし、防衛にあたったザフト軍はデュランダル最高評議会議長指揮の下、最終防衛ラインで此れを撃破。

 現在地球軍は月基地へと撤退し攻撃は停止していますが、情勢は未だ緊迫した空気を孕んでいます』

 

 

 プラント市街を走る車の中で、タケルとミゲルは放送されるニュースの報を聞く。

 再びの核攻撃──それも最終防衛ラインで辛くもの迎撃。

 先の大戦と動きを同じくする大西洋連邦の行いは、嘗ての戦争の恐怖を呼び起こすには十分な事実だ。

 

 ここまで素直な発表は皆の恐怖と不安を煽るだけではないかと、タケルは僅か訝しんだ。

 

「隠すことはしない人だ。プラントに住む人にとって大事な事だからな────その上で挙がる声を受け止める姿勢なのさ議長は」

「サヤの事が無ければ、僕だって素直に彼を信じていただろうね……」

 

 言いながら、タケルは自問自答した。

 アーモリーワンで初めて相対した時から、タケルの彼への第一印象は良くは無い。

 未だタケルは、カガリを工廠へとわざわざ連れ出したデュランダルに対して悪態の1つでも吐きたい気持ちである。

 しかし、彼の政治家としての姿は真摯と言える。

 アーモリーワンでの事態からユニウスセブンの件まで。同じ艦内で過ごしたからこそ、少なくとも彼の国や世界を憂う想いは、カガリと変わらないものだとタケルは感じてはいた。

 

「っと、着いたぞ」

「あ、うん。ありがと」

 

 どこか気の抜けた返事をしながらも、タケルとミゲルはプラント最高評議会のある建物へと辿り着く。

 ミゲルは勝手知ったると言うように受付へと赴いていった。

 

「特務隊、ミゲル・アイマンだ。デュランダル議長から呼び出されてきたんだが、話は通っているか?」

「お待ちください────確認しました。特務隊、ミゲル・アイマン3FのA区画でお待ちをとの事です」

「ん、サンキュ」

「あの……そちらの方は?」

「議長が呼んだ客人だ。極秘でオーブから来られてる。今日は案内を仰せつかってんだ」

「はぁ……そうですか」

 

 タケルを見て僅かに訝しむ受付であったが、ミゲルの言葉に渋々と頷いた。

 ミゲルが来ることは予定通りだったためか、何とか嘘は通った様だ。

 いけしゃあしゃあとよくもそんな嘘を、と後ろでタケルが肩を竦めていたのは内緒である。

 

 そうして、指定された区画にて待つ事数十分。

 少々予定より早く来てしまったのだろう。

 待たされてる間に貴重な機会と周囲を見回していたタケルは、近くで挙がる声を聞いた。

 

「まぁ、ミゲルさんではありませんか! 貴方が今日の護衛なのですか?」

 

 届いた声に目を開く。良く聞き覚えのある声音であった。

 記憶にある気配とは随分と違うが、その声は確かにタケルが良く知る声。

 そしてここにはいるはずのない女性の声である。

 

「おっと、これはどうも“ラクス・クライン”。俺なんかを覚えてくれているとは……光栄です」

「忘れるはずないですわ。つい先日だってお世話になったのですから」

 

 長い桃色の髪。鈴の音の様な声。天使を思わせる程可憐な素顔。

 ミゲルと相対していたのは、紛れもなくラクス・クラインの姿をした“誰か”であった。

 

「ラ……クス? 何でここに」

「あら? そちらの方はどなたですか?」

「あ、えっと……僕は……」

 

 予想外過ぎた事態に思考が回らず、タケルはしどろもどろと言った様子で返した。

 そんなタケルの様子に不審な表情を見せる、ラクスらしき人物に、タケルは彼女が本人ではない確信だけは抱いた。

 少なくとも、彼女とは初対面である筈が無いのだ。

 対外的な演技をするにしても何かしかの含みが合って良いだろう。

 今目の前でタケルを見る彼女にそれはない。

 

「ミゲル……彼女は一体……」

「言いたいことは分かるけど落ち着けよ。後で説明して──」

「ミゲル、遅れてしまってすまなかったね。随分と待たせてしまったかな?」

 

 混乱するタケルを尻目に、その場に新たな声が掛かった。

 待ち人来る──プラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルの来着である。

 

「議長。いえ、大した時間ではありません」

 

 即座に敬礼で迎えるミゲル。

 そして、そんな彼の後ろで佇むタケルを見止めて、デュランダルは驚きの表情を──次いで小さく口元を緩めた。

 

「おや、これはまた驚きだな────タケル・アマノ君、どうしてまたこんな所に?」

 

 驚きはそこそこに、予想外な人物の登場をどこか楽しむ様な。そんな気配であった。

 

「どうも、先日ぶりですデュランダル議長……知己であるミゲルに無理を言って、議長にお会いすると言う彼に同行させてもらいました」

「ふむ──という事は目的は私。さしあたっては、今後のプラントの動きを聞いておきたい、と言う所か? アスハ代表からの特使ということでよろしいかな?」

 

 一を聞いて十を知ると言わんばかりに、僅かな情報だけでそこまでを予見する辺りは、流石はプラントの代表と言う所か。

 確かに現在の情勢を踏まえれば、カガリからの信頼が厚いタケルが極秘で彼を訪ねる理由にも見当が付く。

 実際には全くそんな理由ではないのだが、尤もらしい理由と言える。

 

「そんな公的な用事であればちゃんとご連絡しますよ。こんなドッキリ紛いに会いに来たりはしません」

「ふむ、であれば私的な要件であると?」

 

 再び、デュランダルは面白そうに口元を緩めて、目を細めた。

 他国の軍人がアポイントも無しに一国の代表へと私的な用件……普通であれば、バカを言うなと追い返される話だが、デュランダルは怒りのいの字も見せずに笑う。

 タケルはそれに、何故か底知れぬ恐怖を覚えた。

 

「この状況下ですから、御多忙で時間が取れないと言うのなら日は改めます。ですが、どうしても議長本人に確認したいことがあって来ました」

「それはもしや、ミネルバに乗る彼女の事かね?」

 

 ハッとした様に、タケルとミゲルは目を見開いた。

 タケルが聞きたいことを予見しているかの様なデュランダルの言葉。一つの傍証として、彼の発言は、サヤ・アマノの存在を知っていたことへの疑念を深くさせた。

 瞬間的に、タケルの視線は細く鋭くなり、気配は剣呑としたものへと変わっていく。

 

「落ち着いて欲しい。タケル・アマノ君……君と彼女の事は、私もタリアから聞かされて知ったのだ」

「──どういう、事ですか?」

 

 タリア・グラディスから聞かされた? 

 推測が追い付かない話に、タケルもミゲルも疑問符を浮かべた。

 

「ミネルバに君達が同乗した際に、ザフトの新兵である彼女と君が私的な会談をしていた事はモニタリングされていたのだ。失礼な事だとは思うが、他国の軍人との密談など、良からぬ事である可能性は捨てきれない……艦長としてタリアは取るべき対応をし、そうして私に知らせてくれたという事だ」

 

 静かに、タケルは納得を見せる。

 確かに、戦艦内には監視カメラがあるのは普通だ。艦内状況を把握するためには当然の設備であるし、それで自国の軍人と他国の軍人が密会などして怪しい動きを見せていたのなら、監視するのも当然だろう。

 

「──知っているのであれば、私がここに来た理由も、貴方にお聞きしたいこともお判りでしょう」

「全てを……という訳ではないが、概ね理解はしているとも。私としても君には申し開きのしようが無い。

 一先ずここでは少し話し難い事だろう。アマノ君、私の執務室で話しをしないかね? ミゲル、君は彼女の後見人だったな。君も一緒に来たまえ」

「了解です」

「わかりました」

 

 剣呑となった気配を抑え込み、タケルはデュランダルの言葉に了承を示す。

 それはミゲルも同様で、デュランダルはそれに満足する様に頷いて返すと、置いてけぼりとなっていた、ラクス・クラインへと向き直った。

 

「それではラクス・クライン。準備の方をお願いします」

「はい、わかりましたわ!」

 

 タケルが知るラクスとは違う、はきはきと元気の良い返事を聞いて、タケルは聞くべきことがもう一つ増えたと胸中でデュランダルへの警戒度を引き上げた。

 

 やはり最初に抱いた印象のままに、ギルバート・デュランダルは底の知れない人物であると、タケルの心は警鐘を鳴らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 太平洋オーブ領海近傍。

 

 

 一面を海の青が埋め尽くすはずのその場を、今は無骨な鉄の塊が牛耳っていた。

 

 大西洋連邦が派遣した、オーブ侵攻軍。

 艦船が30を超え、搭載されているMSの数は夥しいと言えるだろう。

 

 

 対峙するは、領海線ギリギリで待ち構えていたオーブ国防軍。

 旗艦であるタケミカヅチと、特殊MS運用艦アマテラスを筆頭に、護衛艦群10隻の陣容であった。

 

 陣頭指揮は無論、タケミカヅチの甲板にてその存在感を示す金色のMSアカツキに搭乗している彼女。

 オーブ首長国連邦代表カガリ・ユラ・アスハその人である。

 

 

「トダカ一佐、ミネルバの国外退去は?」

『あと15分以内にオノゴロより出港予定です』

「キサカ一佐、アマテラスの準備は?」

『指示があればすぐにでも動けます』

 

 タケミカヅチ艦長のトダカと、アマテラス艦長であるキサカへと通信を飛ばし状況を確認。

 2人からの返答は万事抜かりないと言わんばかりであった。

 

 アカツキのコクピットの中で、カガリはまた1つ戦いへの歩を進めた。

 

 

「全軍、即応準備で待機だ──戦端が開かれる前に、私が最後の抵抗をする。指示を出すまで、決して動きを見せるな。良いか?」

 

 はっ! と、応ずる声が幾つも届き、カガリは頼もしさを覚えながらもアカツキを駆った。

 

 ORB-01、機体名アカツキ。

 大戦後、シロガネ同様技術革新に伴い機体に用いられる技術のブラッシュアップを行い改修を施している。

 背部バックパックはサヤが乗ったM2アストレイオオトリ装備のデータをベースに、新たにオオワシ装備と呼ばれるバックパックを製造。

 大型ビーム砲塔2門と、アカツキの主兵装である光波防御帯発生装置アメノイワトをオオワシ装備にも備える形となり、アカツキの前面だけでなく全周囲を防御フィールドで覆うことができる。

 正に絶対防御を体現するMSだ。

 

 

 スラスターを吹かし、タケミカヅチより飛び立ったアカツキは、オーブ艦隊の前へと躍り出て大西洋連邦艦隊と対峙する。

 そしてカガリはそのまま、全周波での通信を開いた。

 

 

 

『私はオーブ首長国連邦代表、カガリ・ユラ・アスハだ。

 侵攻中の大西洋連邦艦隊に告げる。其方等は我がオーブの領海を目前にし、我らが父祖の地を侵そうとしている。

 我が国はいかなる理由があろうとも、許可なき軍事力の侵入を許しはしない。直ちに転進し、軍を引け!』

 

 

 

 力強く発せられるカガリの声に、返されるのは沈黙であった。

 大西洋連邦からすれば、既にオーブはプラント支援国家。その声に聞く耳すら持たない……そう言う事なのかもしれない。

 通信回線が開く音すら、カガリに届きはしなかった。

 

 

『プラントを攻め、中立である我が国へと侵攻する其方等の所業は、嘗てと同じ……例え今世界に否の声が挙がらなくとも、後の世界で許されはしない。

 其方等が再び、嘗ての過ちを繰り返すと言うのであれば──』

 

 

 スッと呼気が漏れ出る。

 大きく吸った呼吸の音。それは次なる言葉の準備。

 居並ぶ大西洋連邦艦隊に────此度は反撃の声ではなく、強者としての慈悲深き警告の声を、カガリは叩きつける。

 

 

『我等もまた、繰り返そう! 

 我等オーブは全てを賭して其方等に抗い、そして此度は、貴様等大西洋連邦の悉くを伏せ、父祖の地を守り抜いて見せよう!』

 

 

 それは、勝鬨になり得る声であった。

 不遜にも、小さな島国であるオーブが大西洋連邦という国際母体を相手取り、歯牙にもかけぬと言わんばかりの姿勢。

 だがそれを、信ずるに足る根拠がある。信ずるに足る皆の代表が居る。

 

 何故ならここに居るのは、不可能を可能とした伝説の防衛戦を成し遂げた英雄なのだから。

 

 

 カガリの後方より応じる声は猛き炎となって伝播していく。

 対して、前方より応じる声は無機質な金属音で返された。

 

 通信による返答などない。

 大西洋連邦はプラントに向けたように無理難題を押し付ける様な事はしてきていない。

 オーブをプラント支援国家と決めつけ、此度は有無を言わさずの侵攻をしてきている。

 

 双方が睨み合うこの場が出来上がった以上、最初から話し合いの余地は存在していなかった。

 

 30を超える大艦隊が、一斉に射撃体勢を整えていた。

 

 

 

『言葉は持たないか、良いだろう。

 数に驕り、利に傾き、義も無く戦う其方等に。我等オーブが、軍の在るべき姿を示してくれる────オーブ全軍、戦闘態勢!!』

 

 

 

 背後に控えるオーブ軍が応じる──それは鶴の一声であった。

 元々即応体制ではあったのだろう。

 だが、カガリの一声から一糸乱れぬ姿で展開される艦船の砲。

 そして、甲板で起動していくMS達。

 その練度の高さは火を見るより明らかである。

 

 

 轟音が鳴った。

 身構えたオーブ軍の動きに触発されたように、準備万端を見せていた大西洋連邦艦隊は、カガリが乗るアカツキへとその砲火を重ねた。

 

 

 幾重にも重なって届く砲弾の雨。ミサイルの嵐。

 だが、それは嘗ての焼き増しでしかない。

 数十秒と立て続けに着弾していくそれらは、アカツキが備える光波防御帯によって防がれ、爆炎の中からは無傷のアカツキが姿を現した。

 

 

 

『オーブ軍────開戦だ!』

 

 

 

 平和の時を置いて今ここに。

 

 

 

 第三次オーブ防衛戦が開幕する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私は、ラクス・クラインです。

 皆さん、どうかお気持ちを静めて、私の話を聞いてください』

 

 

 プラントに響き渡る、可憐な声。

 ラクス・クライン────今はプラントに居ないはずの、彼女の声が。

 しかし紛れもなく本人の様相を以て、プラントの皆に届けられていた。

 

 

『この度のユニウスセブンの事。またそこから派生した昨日の地球連合からの宣戦布告。そして攻撃──実に悲しい出来事です。再び突然に核を撃たれ、驚き憤る気持ちは私も皆さんと同じ想いです。

 ですがどうか皆さん! 今はお気持ちを静めてください。怒りに駆られ、想いを叫べば……それはまた、新たなる戦いを呼ぶものとなります』

 

 

 タケルが、ラクスではないと断じた人物。

 傍目にはまるっきり本人と相違ない彼女が語る姿をモニタリングしながら、デュランダルの執務室へと通されたタケルとミゲルは、彼女の声を聞いていた。

 

 

『最高評議会は最悪の事態を避けるべく、今も賢明な努力を続けています。ですからどうか皆さん、常に平和を愛し、今またより良き道を模索している皆さんの代表、最高評議会デュランダル議長をどうか信じ、今は落ち着いてください』

 

 

 俄かに、映像を見ていたタケルの視線が鋭くなっていく。

 

「笑ってくれても構わないよ。タケル・アマノ君」

「──と、言いますと?」

「君は大戦末期、彼女と行動を共にしていたのだろう? ならばわかるはずだ、彼女が本人ではないと」

 

 どこか自嘲めいた表情で、デュランダルは笑った。

 確かに、すぐにわかった。タケル自身、本人の所在を知っているのだから。今映像に出ている彼女が本人でない事はとうに理解している。

 だがそれは、事情を知っているから。それを知らぬものからすれば、恐らく見分けなどつかないだろう。

 

「それを今ここで言ってくるという事は、ミゲルも?」

「あぁ。彼女の護衛の任を専属で任された時にな……」

「彼はザフトで唯一、その事情を知っている者だ。故に今回、この声明を出すにあたってまた周囲が騒がしくなるであろう彼女の護衛を任せる事となっている」

「──何故、彼女の替え玉を?」

 

 シーゲル・クラインの娘。前議長、アイリーン・カナーバ等を筆頭とした穏健派の象徴。その上、歌姫としての絶対的カリスマでもある。

 彼女の影響力が高いことは、重々理解できる。しかし、逆を言えばその偽物を用意するなど特大の爆弾だろう。

 露見すれば一気にプラント市民の心は離れ、デュランダルへの不信感へと繋がる事になる。

 リスクが大きすぎる……タケルには彼の思惑が読めなかった。

 

「仕方あるまい。情けない事に、私よりも彼女の方が余程市民の心を動かす力が強いのだから」

「そんな事は無いでしょう。少なくとも、アーモリーワンからの議長の対応は、為政者としての判断力と決断力に優れるものでした。彼女は所詮偶像……本当の為政者ではありません。私もアスハ代表も、貴方の手腕には敬服しています」

「ふっ、わかりやすい世辞だね」

「寒い世辞を吐いてまで貴方に取り入る理由が私に在るとでも?」

「これは手厳しい」

 

 小さく笑って、デュランダルは肩を竦めた。

 柔らかい空気と応対に、タケルも一度意識して張りつめた空気を霧散させる。

 初めから疑念を交え、敵意を見せて問うても良いこと等何一つない。

 今しがた自身が放った言葉を否定して、タケルには彼へと取り入ってでも聞きたいことがあるのだ。

 

「失礼、言葉が過ぎました」

「だが本当の事だ。私よりも彼女の方が余程、市民を安心させるには適役だ。今のプラントにはどうしても、彼女の声が必要なのだよ」

「だから、仕方なく替え玉を用意するしかなかったと? 全く、良い年した大人が恥ずかしくないんですか。議長として選ばれたんですからご自身で矢面に立つべきだと僕は思いますが」

 

 口調を崩してきたタケルに、デュランダルは瞬間呆気にとられるも、また胡散臭い笑みを貼り付け直してタケルへと返していく。

 

「本当に、君は手厳しいね」

「ウチのカガリを見習ってください。カガリは国民と正面からちゃんと向き合ってます」

「私を彼女の様な大戦の英雄と一緒にしないでくれたまえ。最高評議会議長に選ばれようとも、私はただの学者だったのだ」

「それは体の良い言い訳ですね」

「これはまた辛辣だね。ではアスハ代表はこんな時どうすると言うのかな?」

「声明は出していたでしょう。プラントは地球を救った英雄だとね。ユニウスセブン落下を受けてあの声明がどれだけ国民の反感を買うか理解できるはずです。あれが国民と正面から向き合うって事だと僕は思います」

「ふむ、参ったよ降参しよう。これ以上私に現実を突きつけるのはやめてくれたまえ」

「おいおい、タケル。そこら辺でやめとけって」

「わかりました。友人であるミゲルに免じて、これ以上はやめておきます」

 

 いつの間にか胡散臭い笑みも貼り付けられなくなったデュランダルは、大きく肩を落としてうな垂れていた。

 親しみやすい空気を作るつもりが当初の目論見を完全に忘れたタケルは、アーモリーワンでカガリを工廠へと連れだし危険に巻き込んだデュランダルへの報復に傾注してしまっていたのだ。

 ハッとしたタケルは、ミゲルの言葉に素直に引き下がった────満足したとも言う。

 

「やれやれ。予期せぬ言葉にショックを隠し切れないな。私もまだまだだったという事か」

「議長、こいつはこういう奴なんで余り気にしない方が……」

「いや、金言をもらったと思っておくよ。それに、君は本来私を打ちのめしに来たわけでは無いのだろう?」

「ヤヨイの話次第ではもっと打ちのめすことも辞さないです」

「恐ろしいね……」

 

 苦笑いを見せつつ、デュランダルは本題に入ろうと居住まいを正した。

 

 

「さて、ふざけるのもここまでにしておこう。

 タケル・アマノ君……君が私に聞きたい事とは何だろうか?」

 

 

 問われた声に、タケルもまた真剣な表情へと切り替わる。

 

「ヤヨイ・キサラギ────あの子を最新鋭機のパイロットに任命し、ミネルバへと配属させた理由をお聞きしたいです。選定したのは議長だそうですね。

 戦後プラントに住まうこととなった“身元不明”の彼女に、軍の最新鋭機を任せる。身元が不明なままであるのなら、余りにもリスクの高い起用です。

 少なくとも現段階の情報では、貴方は彼女がオーブ国防軍の1人、サヤ・アマノである事を知っていた上でセイバーのパイロットに任命したと──ー僕はそう捉えています」

「他国の軍人である君にそれを語れるとでも?」

「あの子の家族である僕には、それを知る権利があります。勿論、記憶を失った彼女を引き取ってくれたミゲルにも」

「ミゲル、君はどう思っているのかね?」

「俺は────アイツの実力は知っていますからね。タケルみたいに疑問は持っちゃいませんが、確かに記憶を失い身元が不明なアイツを起用したのには、不安が無いとは言えないです」

「────ふむ、そうか」

 

 ミゲルの言葉も聞いて、デュランダルは逡巡。

 2人の目の前で、しばらくの沈黙を保った。

 2人はそれを、静かに見つめて待ち続ける。

 今ここで、デュランダルは最良となる答えを脳内に描いている────そんな気配が見てとれた。

 

「────軍人として今を戦う君達には、これは不遜と思えるかもしれない」

 

 静かに、デュランダルは沈黙を破り口を開く。

 

「不遜、ですか?」

「あぁ、彼女をセイバーのパイロットにした事。それは無論、私が理由あって選んだものだ」

「それは──」

「だが君が懸念する、彼女の正体を知っていたからでは無い。それについては先ほども言ったように、タリアから聞かされて私も初めて知ったのだ」

「でしたら、何故?」

 

 ならば何故、記憶を失い身元のわからぬ彼女を選定したのか。

 タケルが言うように、確実にリスクの高い選定だ。それ相応の理由がなくては、納得には至れない。

 

「私の専門は知っているね?」

「え? えぇ、まぁ────遺伝子学の権威だったと」

「私の知見から、彼女の遺伝子は非常に優秀な戦士としての素養を持っていることが分かっていた。

 ザフトのアカデミーに入った折に、彼女の遺伝子情報は提供されていてね。彼女はあのアスランと比べても遜色無い。ともすれば、上回る可能性すら秘めていると」

「そんな事で……ですか? 遺伝子だけが、その人間を決める全てでは無いでしょう」

「そうだろうね。彼女が本当にただ優秀な遺伝子を持つ者というだけであれば、私もこの選択はしなかっただろう。

 だが、運命めいた事実が隣にあったのだ」

「運命めいた?」

 

 タケルは、デュランダルから吐かれた言葉に訝しんだ。

 この真面目な話をしている時に運命などと……空想や思い込みに近い単語だ。

 そんな事を根拠に提示されるとは思ってもみなかった。

 だが、対するデュランダルは、いっそそれこそが本題だとでも言うように、自信をその表情に貼り付けている。

 

「知っての通り、ここプラントでは出生率の問題から遺伝子的見解による婚姻統制が敷かれている。

 それでも尚、未だ出生率が低いのは課題ではあるが……少なくともデータ的見知からは遺伝子による人の相性がわかるのだ。

 そして、ヤヨイ・キサラギとシン・アスカ────彼等の遺伝子的相性は互いを高め合うことすらできるほど噛み合う、正に天文学的な確率での組み合わせだったのだよ」

 

 もたらされた情報。語られた言葉に。

 タケルもミゲルも驚きを隠せなかった。

 遺伝子的相性────オーブに住まうタケルからすれば馴染みはないが、ここプラントでは至極当然。と言うよりは、コーディネーターの存続をかけた義務的施策だ。

 遺伝子操作によって調整を受けたコーディネーター同士では、どうしてもその遺伝子的相性が邪魔をして子を成す確率が極端に低い。

 必然、子孫を残し繁栄するためにはその相性を見極めなければ、プラントの未来はないのである。

 未来を見据えたプラントの施策。そのデータ的見知は間違いなく高い精度を持つだろう。

 その結果導き出された、ヤヨイとシンの相性。

 戦士としての資質という点であれば、タケルとしても納得できる。

 彼女はユウキ・アマノの実子────その遺伝形質は軽くコーディネーターを凌駕するものであることに疑いがない。

 だが、シン・アスカとの相性などと言われては……タケルは、信じきれず疑念を抱かずにはいられなかった。

 

「────それは、本当なのですか? 

 そもそも、サヤはナチュラルです。ナチュラルである彼女との相性というのであれば、別段おかしい事では」

「その理論であれば、地球にいるナチュラルの人達は皆、コーディネーターに対して非常に噛み合う相性を持っているということになる。そんな事、あるわけないと君もわかるだろう。

 地球の誰であっても、シンとあれ程噛み合う遺伝子を持つものは居ないさ」

「ちょっと待ってください議長。いきなりシン・アスカの名前が出てきましたが、あの生意気坊主がなんだと言うんですか。ヤヨイに比べりゃまだまだガキで実力も半端。

 遺伝子的にヤヨイが凄いって話が本当だとして、シン・アスカとの相性がそんなに重要なんですか?」

「勿論だよミゲル。彼女の遺伝子が優秀だというのは述べたが、それをいうのであれば彼こそ……シン・アスカこそが、私が知る人類の中で最高峰の可能性を秘めた遺伝子を持つ者だ」

 

 再び、タケルとミゲルは驚きの表情を浮かべた。

 デュランダルから齎されるのは、力と万感の想いすら感じられる声音であった。

 

「彼は今後のプラントを……ザフトを背負う程の戦士となるだろう。それはきっと彼女も同じだ。

 彼等の遺伝子が見せてくれた可能性────その先にある未来を、私はより良いものにしたかったのだよ。

 その為に彼にはインパルスを。彼女にはセイバーを与え、共にミネルバへの配属とした。行き着く先で、その素養を開花させ、ザフトを背負う素晴らしい戦士となる事を夢見てね。

 これまでを生き、戦い抜いてきた君達には、遺伝子が見せる可能性などと言われても面白くはない事だろう。だが私にとっては、これは十分に可能性のある未来なのだ」

 

 自信と万感を込めた表情から一転。

 デュランダルは真剣な面持ちでタケルを見つめた。

 嘘偽りない気配を……タケルはそこに垣間見る。

 

「それでも……あの子は……」

「アマノ君。君達の事情を知った今、君が彼女を心配する理由は私も痛いほどわかるつもりだ。できることなら、家族である君の元へと────オーブへと返してあげたい思いだ。

 しかし、彼女は既に自らの意思でザフトへと入隊し、最新鋭の機体セイバーを駆って己が望む未来を紡ごうとしている。

 確かに、私の勝手が彼女を今の立ち位置へと導いてしまったが、それでも今彼女が戦うのは彼女自身の意思だ────君にも、無論私にも。彼女の意思に反してオーブへと連れ帰ることは許されはしないだろう」

「それは、確かにそうですが……」

 

 苦虫を噛み潰した様な表情で、タケルは俯いた。

 そうだ──記憶を失った彼女自身が選んだ道だ。ミネルバでも、彼女が今手にした繋がりであるミネルバの皆とミゲルとの縁を大事にしている事は言質が取れている。

 それに付随する、プラントへの想いも。

 少なくとも今を生きる彼女の意思を曲げてまで、オーブへと連れ帰る事はタケルにもできない。

 彼女自身が、それを望んではいない。

 

「──だが、君の手助けくらいなら、私にもできる」

 

 静かに切り出されたデュランダルの言葉に、タケルは顔を上げた。

 依然として変わらぬ真剣な瞳で見てくるデュランダルは、視線を交わしたタケルに言葉を続けていく。

 

「私の権限で君にザフトの籍を作ろう。同時に、君が扱う機体も」

「議長、それは──」

「僕に、ザフトに入って、貴方の為に戦えと……そういう事ですか?」

 

 タケルの訝しむ声に、デュランダルは小さく被りを振った。

 

「私の為ではない、“君達”の為に戦いなさい。

 彼女が今ミネルバに居て、セイバーに乗り戦うのは偏に私の責任だ。そして君もまた、彼女が記憶を失った責を自身に抱えているのだろう?」

 

 静かに、タケルは頷いた。

 やはりミネルバで監視はされていたのだろう。彼が知るはずのないタケルとサヤの事情であった。

 

「果たすべきは今ではないか? 君の手で、彼女のすぐそばで、今度こそ守り抜く為にも」

 

 ズキリと、タケルの胸が痛んだ。

 それは逃れられない事実。己の不甲斐なさが生んだ、最愛の妹を犠牲にしたという過去。

 それが生きて……生き延びてくれていた今。再び戦火に身を投じている彼女を守ることに、タケル・アマノが否の声を返すことなどあり得ない。

 

 静かに、タケルは立ち上がった。

 そして深く……深くその首を垂れた。

 

 

「デュランダル議長……どうか、僕に力を貸してください」

 

 

 静かに、願いと感謝を込める兄へと────ギルバート・デュランダルは小さく笑みを返すのだった。

 

 




ちょっと駆け足な感じもあるけど、議長との会談。
最後に彼が見せた小さな笑みはまぁ……きっとそういう事でしょう。

そして始まるオーブ防衛戦。
久々の戦闘描写になりますね。どうぞお楽しみに。

それでは、感想をぜひぜひお聞かせいただければ幸いです。
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