機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

173 / 330
また1週間以上あけてしまった。ごめんなさい。
前回の更新でちょっとなんだかなぁって思うコメントと評価をいただきまして悩んでました。
一応弁解させてもらいますが主人公はオーブを捨ててプラントに着くって話ではないのでそこはご理解を。
確かに立場ある人間として軽率な判断ではありますが、それについても今回でちゃんと補足はされます。



PHESE-25 希望を胸に

 

 

 

 薄暗い室内。

 

 静かで、勝手に誰かが入ってくることもない。

 最高評議会議長の執務室と言う静寂の場で、部屋の主であるギルバート・デュランダルは小さく笑みを浮かべていた。

 

 先刻、彼は大きな賭けに勝ったのだ。

 その表情と雰囲気に緩んだものが出てくるのも無理は無い。

 

 無論、賭けとはつまり先刻までここに居た彼等……厳密には彼とのやり取りの事だ。

 

 タケル・アマノ────嘗ての大戦の英雄にして、この世界で恐らく比肩し得るものが皆無に等しいと思える戦士である。

 その彼をザフトへ……己の手の内へと引き込めたのだ。

 妹と併せきわめて優秀な駒である。喜びも一入だ。

 

 

「やはり、これは運命なのだろうな……私と、そして彼等の」

 

 

 ヤヨイ・キサラギ──否、サヤ・アマノの獲得は偶然の産物であった。

 

 

 大戦の終息直後。プラントには地球からの移民者が多く流れ込んできていた。

 シン・アスカの様にオーブが侵攻された事で流れて来た者もいたが、多くは地球に住んでいたコーディネーター達の移民である。

 

 大戦末期の地球における反コーディネーター感情は苛烈に過ぎたもので、ただでさえ迫害の色が強かった地球に住むコーディネーターの人々は、住むところを追われる状態となっていた。

 コーディネーターである事を隠しながら生きるよりも、プラントへと移住した方が良いと考える者が出てくるのは当然の帰結である。

 

 そしてこれは、ただでさえ人口の減少が懸念される中、戦争で多くの若者の命を散らしたプラントにとって渡りに船と言った状況であった。

 遺伝子の相性で繋がる婚姻統制──しかし、その実態はお世辞にも出生率の向上には至れていない。

 そんな折、外から新たな遺伝子を持つ者達を受け入れる事が出来たのだ。

 閉鎖的な遺伝子の組み合わせであった婚姻統制に新たな風が吹き込んだのである。

 

 遺伝子学の権威として、終戦直後のデュランダルは新たにプラント市民となった者達の、データの収集と解析に追われていた。

 同時に、彼等の遺伝子が見せる適正までも。

 

 そんな中で、彼を釘付けとする遺伝子を持つ者が居た。

 

 たまたま戦域を漂っていた所をミゲル・アイマンが発見し、そうして病院へと箱ばれた少女────サヤ・アマノである。

 

 運び込まれたのは偶然にも、デュランダルが解析に追われる研究所の付属病院。

 デュランダルは、データで見た彼女を目にするべく病室へと急いだ。

 そうして彼は、彼女と出会ったのだ。

 

 顔以外は包帯に包まれた、人形の様な容姿の少女。体格も決して恵まれてはいない。

 可憐という言葉が相応しい見た目が、あのラクス・クラインを思わせた。

 しかしその実、彼女の遺伝子が見せるのは絶対的なまでの戦士としての適性。

 適正などと軽いものではない。それはもう運命づけられていると言っても過言ではない程のものである。

 

 

 ────欲しい。

 

 

 その言葉が過った。

 自身が目論む計画。それを成す為には優秀な人物が多く必要であった。

 幸運にも、戦闘と怪我のショックで彼女は記憶を失っており、戦場で拾われた故に彼女はまだ身辺調査も行われておらず、今後の対応は定まっていなかった。

 デュランダルは、彼女をナチュラルの優秀な遺伝子サンプルの検体として研究所の預かりとし、彼女に関する痕跡の全てを隠滅した。

 そうして、記憶喪失により身元不明となったヤヨイ・キサラギが生まれたのだ。

 

 その後のザフトへの誘導は簡単であった。

 彼女がコクピットから発見された事から、MSに関わる事で記憶を想起しやすいのではないかと言い含めるだけで事足りる。

 

 タケルが疑念を抱いたように、サヤ・アマノである事が露見すれば一大事ではあったが、彼女が発見されたコクピットも、パイロットスーツも。無論、彼女が所有していた認識票も、既に宇宙の彼方である。

 証拠は何一つとして残っていない。どこまで行ってもその疑念は推測の域を出ないだろう。

 

 デュランダルはサヤ・アマノを手に入れたのだった。

 そして、運命は彼に味方する様に回り始める。

 

 オーブの代表、カガリ・ユラ・アスハとの会談において勃発した襲撃事件。

 その場に彼が……タケル・アマノが居合わせてくれた。

 ミネルバに乗り込み、サヤ・アマノとの邂逅を果たしてくれたのだ。

 

 デュランダルにとって千載一遇であった。

 絶対に手に入れる事の出来ない存在。

 彼の優秀さは知れ渡っている事だが、同時にオーブを愛し、オーブを護るために生きて来た事も周知の事実である。

 彼が国元を離れること等、本来であればあり得ない。

 が、そのオーブと同じくらい彼にとって大事なものがデュランダルの手元に在るのなら、懐柔の余地はあった。

 

 邂逅し、そして彼が最も欲しがる言葉を投げた。

 苦悩する彼の心に寄り添い、理解していると呼びかける。

 完全な信頼とまでは恐らくいかないだろう。現に、彼の視線には疑念の欠片は垣間見えた。

 それでも、彼にとってデュランダルの提案は抗い難い誘惑となった。

 

 自責の念に押しつぶされ続けてきた彼が、己の罪を贖罪する機会が与えられるなら、飛びつくのも致し方ない。

 

 

 “どうか、僕に力を貸してください”

 

 

 真摯に頭を下げる彼を見て、デュランダルは胸中で安堵と歓喜に笑った。

 

 

 

「君にはできなかった事だな、友よ────だが代わりに、彼には君になってもらうつもりだ。

 見ていてくれたまえ。この世界の行く末を」

 

 

 

 静寂の部屋で紡がれた声音は、酷く弱弱しく、だが希望に満ちたものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デュランダルとの会談を終えて。

 

 タケルとミゲルの2人は、ミゲル宅へと帰ってきた。

 

「あー、もう最悪だぁ」

 

 陰鬱とした空気を隠そうともしないタケルの姿に、ミゲルもまた表情を険しくさせた。

 

 ザフトへと入隊する────プラント国民であれば、何らおかしい話ではないだろう。

 しかしそれが目の前の友であれば、逆におかしくない事がない。

 タケル・アマノはオーブ国防軍三佐。肩書としては十分なものがあり、その上オーブの軍事を支える兵器開発設計局の統括。

 その立場は決して軽くはない。

 

「タケル……お前自分がどれだけ馬鹿な事を議長に頼んだのか、わかってるのかよ?」

 

 自然と、ミゲルから向けられる追求の声は厳しい声音となっていた。

 

「わかってるよミゲル…………僕だって、良くわかってる。だから、一応の体裁として、議長から“これ”を貰ってきたわけだし」

 

 そう言ってタケルは、手に持っているある物をミゲルへと見せつけた。

 それはミゲルにとってもある種馴染み深い物である。

 

「議長とあの人が親しい間柄だったと言うのは、驚きだったね」

 

 それは、今は亡き男の私物だ。

 ギルバート・デュランダルにとって友であり、ミゲルにとってはザフトの上官であり、タケルにとっては同胞とも敵とも言える不思議な間柄の人物────ラウ・ル・クルーゼが付けていた、顔を隠す仮面であった。

 

「ザフト所属のクルース・ラウラ……ね。完全に隊長の名前をもじってるだろ」

「僕に言わないでよ。偽名を決めたのは議長だし」

 

 そう、タケルがザフトへと入る上でそのままタケル・アマノとして入隊するのは余りにも外聞が悪すぎる。

 オーブからの出向などではない以上、軍人として二重の登録となる事は許されない。

 元よりタケルとしては、ザフトの為ではなくヤヨイの為。もっと言うならサヤ・アマノの為に入隊するだけなのだ。これについてデュランダルも理解してザフトへの入隊を勧めてくれた。

 最低限を取り繕うとして、タケルがザフトに籍を置く際の人物情報を創り上げてくれる手筈となった。

 

 その結果が、ザフト所属の“クルース・ラウラ”と言う架空の人物であり、併せてデュランダルからはこの仮面を手渡されたのだ。

 

 “これは私の友人が遺していったものなのだがね、ザフトに入隊する君が付けてくれるのなら彼も本望だろう”

 

 などと言われて手渡されてしまったタケルは、なんとも言えない表情で返すことしかできなかった。

 デュランダルは知り得ない話であろうが、タケルとラウもまた、ある種縁の深い間柄だ。

 人の欲望が生み出した、創られた命。人の悪意が齎したその、結果。

 世界の全てを憎んだ彼に、タケルは一度手を差し伸べられ────そして、その手を振り払った。

 似た境遇を持ちながらも、道を違えた2人はそうして相容れぬ敵となり討ち合ったのだ。

 

 仮に彼が生きていたのなら、この仮面をタケルがつけることなど望みはしないだろう。

 

「タケル? どうした?」

「えっ、あ、ううん。なんでもないよ。ちょっと付けるの抵抗あるなぁって思っただけ」

「そりゃあな…………つーか、本当に良いのかって。さっき聞いたけどオーブだって大変な事になってるじゃねえか。お前が居なくてどうすんだよ」

 

 先刻、デュランダルから聞き及んだ大西洋連邦のオーブへの侵攻。

 プラントに続いて早すぎる大西洋連邦の動きに、タケルが心底驚いた様子を見せていたのをミゲルは見逃さなかった。

 ヤヨイの事があるとはいえ、プラントでのんびりしてる場合じゃないだろうと、ミゲルは暗に訴えかける。

 

「僕の代わりは託してきたから……アスランにね。それに、こんな事態は今更危機感を覚えるほどでもないよ。僕がどれだけ準備してきたと思ってるのさ」

「そりゃあまぁ…………お前は根に持つタイプだしな。一度してやられたとなれば、お前のことだろうから相当対策してそうだけどよ」

「万全を期してきたよ。大体、ユニウスの被害だけでも相当苦しいはずなのに強引に開戦してプラントへの侵攻。その上オーブ? 馬鹿も休み休み言って欲しいね。

 全身全霊を掛けて戦力を揃えてこないなんて、嘗められたものだよ。前回だって、国防軍は実質的には負けてないっていうのにさ。片手間で落とせると思われてるのは心外だ」

 

 少なくとも、嘗ての侵攻と同じ様な戦力比にはならないだろう。

 声明を出したユーラシア連邦によって、地球圏は一枚岩では無くなっている。ただでさえユニウスセブンの被害に各国が対応を優先している時に、軍事行動を展開する余力など、そう捻りだせるものでは無い。

 その上でプラントへの侵攻に併せてのオーブへの侵攻となれば、その侵攻戦力などたかが知れると言って良い。

 対してオーブ国防軍は、嘗て国の喪失となった結果を重く受け止め奮起している事だろう。

 結果は、火を見るより明らかである。

 

「そんな事より、こっちの方が僕にとっては大問題だ」

「だからそうだろうって。オーブ軍人であるお前がザフトになんて──」

「違うよミゲル。そこも確かに問題だけど、この仮面と偽名があるなら、正直そこについてはどうでも良いんだ。

 問題は、デュランダル議長が言ってた事だよ」

「議長の事? なんだよ、まだ何か引っかかってんのか?」

 

 ミゲルは俄かに眉を顰めた。

 会談の前はそれこそ、デュランダルへの疑念で一杯だったタケルも、最終的にザフトへの入隊の事で彼へと真摯に頭を下げていた。

 タケルの議長への疑念は解消されたのだと、ミゲルは捉えていたのだ。

 

「ねぇ、ミゲル……僕や君みたいに、大戦の英雄なんて呼ばれるには、何が必要だと思う?」

「んあ? なんだ急に……そんなもん、俺達みたいにパイロットとして優秀な奴だとか、作戦立案に優れてるだとか、色々あるだろ」

「うん、確かに能力と言うのは必要だろうね。でもその前に大前提として絶対的に必要なものがある」

「大前提?」

 

 疑問符を浮かべて聞き返すミゲルに、タケルはまたも陰鬱とした表情で口を開いていった。

 

「“戦い”だよ。どんなにパイロットとして優れていようが、どれほど指揮能力に長けていようが、それを活かす戦場が無ければそれが評価される様な事はない」

「そりゃあお前……確かにそうだが。その話と議長がどう繋がってくるんだ?」

「あの人は言った──シン・アスカとヤヨイ・キサラギは何れザフトを背負って立つ戦士になると。

 でもさ、議長は穏健派として今回の開戦に積極的に応じる姿勢ではないと公表しているよね。

 それなら何で、あの子達が戦士として大成すると確信しているの?」

「それは……」

 

 思い至り、ミゲルは思案に耽っていく。

 確かにそれも妙な話ではある。少なくとも、これまでの議長の対応は戦火の拡大を恐れて防ぐ姿勢である。

 大きな戦いを引き起こそうとする意思は皆無のはずだ。

 

「彼は既に、開かれたこの戦端が大きな戦火となる事を予見している。或いは、知っているのかもしれない。そうじゃなきゃ、確信めいたあの発言は出てこない。

 そして大きくなった戦火の中で嬉々として、ミネルバを激しい戦場へと送るはずだ……自らが見出した最高の逸材達の開花を夢見て」

「おいおいタケル。流石にそれは発想が飛躍しすぎてねえか? 

 俺達は再び核攻撃を受けたんだぜ。それ相応に応じるのは当然だし、その為に戦いが起こるのも必然だろう。それでようやく進宙式を迎えた新造艦のミネルバに活躍を求めるのだって、議長じゃなくてもそう考えるはずだ」

「うん……そうかもね。でも、議長の場合は違う。

 プラントを守る為と言う大義名分だって胸の内にはあるだろうけど、彼にとってはミネルバとあの2人の活躍こそが本当に求めるもの。戦火自体はきっとその手段に過ぎない」

 

 だからこそデュランダルは、アーモリー・ワンからそのまま危険も顧みずにミネルバへと乗り込んだ。

 自ら見定めた者達の行先を見据える為に。

 国の代表としての責任感────それだけでは取るに取れないはずの選択肢の奥には、彼が本当に見定めたいものがやはりあったのだ。

 

「ミゲル、あの人が僕に発信してきたのは警告だよ」

「警告だって?」

「うん。記憶が戻らない──つまりはヤヨイ・キサラギでいる限り、あの子はザフトのものだと。

 そして、あの子にはこれから厳しい戦場が待っているのだと、言外の伝えてきたんだ」

「それはいくらなんでも──」

「そう言う意図がないとしても、意味は同じだよ。記憶を失った大切な妹が何も知らず戦火の真っ只中に放り込まれる……そんな事を聞かされて、動かずにいられるわけがない。

 僕はあの子の側に行って、記憶を取り戻さなければならないんだ」

「だから、ザフトへ入る事に?」

「幸いにもあの人が権力者なおかげで色々と融通は聞いてくれるしね。後はミネルバに行ってどうにかするしかない。

 だからミゲル、プラントでの警戒をお願いしていい?」

「警戒? またなんのだ?」

 

 再び、タケルが言うことの意図を読み取れず、ミゲルは疑問符を浮かべた。

 

「あの人はきっと、大きな何かを目論んでる。

 優秀な人間を手元に欲するだけなら、ミゲルにイザーク、ディアッカみたいに候補はいくらでも居るはずだ。敢えてまだ可能性しか見出せないシン・アスカやヤヨイを重用して執心するのには、きっと別の理由がある」

「別の理由って……なんだよ?」

「そこまではわからないよ。ただあの人は、クルーゼさんよりも更に考えてる事が読めない人だ。

 簡単に想像がつく様な事じゃないよきっと。だから、ガチガチに疑えって言うわけじゃないけど、何か抱えてる事くらいは頭に留めて警戒しておいて」

「あぁ…………まぁそのくらいなら」

 

 結局のところ、タケルが抱えていたデュランダルへの疑念は晴れる事はなく、ミゲルとしても信ずるはずの彼にはやはり様々な疑問を残すこととなった。

 渋々とではあるがタケルの言に頷いたミゲルは、盲信だけはしない事を胸に留める事にした。

 

「さっ、とりあえず明日にまた来いって言われたし今日はここでゆっくり休ませてもらうよ」

「あいよ、ゆっくりしてけ。ついでにあの美人奥さんとどうなってるのか聞かせろよ」

「あっ、聞きたい? 最近はね──」

 

 こうして、2人は僅かばかりの友としての時間を喜んだ。

 タケルはオーブやサヤの事。ミゲルはプラントとデュランダルの事。

 諸々の心配事を抱えて、胸の内が完全に晴れる事はなかったが、それでも穏やかに過ごせた時間は貴重で幾分か安らげる事ができた。

 

 きっと明日からまたしばらくは、大変な日々になるとわかっているから。

 2人は楽しい時間に、舌鼓を打つのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『オーブ軍、開戦だ!!』

 

 

 カガリ・ユラ・アスハが挙げた開戦の声に、第3次オーブ防衛戦の火蓋が切って落とされた。

 

 

『全軍、戦闘開始。タケミカヅチより各艦へ、MS部隊全機起動』

『艦隊、対MS戦闘用意。支援砲撃を開始せよ』

『カガリ様より通達。アマテラス及びライトニング隊は直ちに進軍。先鋒を務めよ』

 

 

 カガリの声を受け、旗艦タケミカヅチのオペレーターが慌ただしく動き出していく。

 

 

 

「見ておられますかウズミ様。以前にも増して猛々しいカガリの姿を…………こちらも奮わんと、だな」

 

 タケミカヅチより飛んでくる指示に、艦船アマテラスの艦長レドニル・キサカ一佐もまた即座に声を発した。

 

「アマテラス、前に出るぞ。ライトニング隊は直ちに発進! 大西洋連邦に嘗ての苦い記憶を思い出させてやれ!」

 

 

 

 

 

 アマテラス格納庫にて、眩い白銀が鎮座する。

 出撃準備を終えたシロガネに乗るアスラン・ザラは、発進の指示に視線を鋭くさせた。

 

「艦長、発進後の動きは?」

「あいつに倣え。それが今の君に課せられた使命だ」

 

 キサカからの、厳しい声音であり厳しい指示であった。

 

 その指示が意味するところは1つ。

 ORB-00シロガネを駆り、タケル・アマノを魅せてみよと────タケルからオーブを託され、カガリを託された男に向けられる、ハードルの高い要求である。

 

「了解しました」

 

 が、それに応ずるアスランの声は潔く、一切怯んだ気配を見せていない。

 いっそ望むところだと言わんばかりである。

 それもそのはずだ。

 政務に四苦八苦するカガリを傍で見て来た。

 国を守る為必死に駆けずり回っているタケルを遠くから見ていた。

 オーブで必死に生き急ぐ、危なっかしい兄妹を……彼は指をくわえて見ている事しかできなかった。

 

 アスラン・ザラと言う境遇に甘んじて、成りを潜めていた自身の葛藤。

 今この時を以て、彼はそれから解放されるのだ。

 

 今の自分はタケル・アマノ────アスラン・ザラは、ここにはいない。

 それでも今この時、カガリを守り、オーブを護れるのは自分だけだ。

 

『ライトニング1、シロガネ発進準備完了──御武運を』

 

 アマテラスCICからの声で、シロガネのスラスターに火が入る。

 唸り始めるのはシロガネか、それともアスラン・ザラの胸の内か。

 

 居並ぶ大艦隊の只中に、無遠慮なまでに飛び込み、そして全てを薙ぎ払う。

 それが嘗て、彼が見せた雄姿である。

 今ここで、それを等しく望まれると言うのなら……

 

「(できない等と思ってくれるなよ──タケル!!)」

 

 託してくれた友に誓いを立てる。

 同時に、カタパルトの発進シグナルがグリーンに変わった。

 

 

「ライトニング1────シロガネ、発進する!」

 

 

 託された白銀を携え、アスラン・ザラが戦場へと飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

『ライトニング2、アストレイ-F発進準備完了──戦果を期待します』

「了解、発進します」

 

 そして白銀に続く彼もまた……今この時においては、彼に似つかわしくない程猛々しい気勢であった。

 

「アスラン、声だけでわかるよ、今の君の気持が……僕も負けてられないね」

 

 アスランと同じくキラも、またラクスもそうだった。

 立場と力。それを振るえる境遇でありながら、静かに生きる事を望んだ。

 それが悪い事だとは思っていなかったが、その分彼等の助けになれないことは辛かった。

 

 こうして事が及び、眼前に危機が訪れた以上。

 白亜の機体──新たに作られたフリーダムを駆り、己が使命を果たすときである。

 

 あの危なっかしい“3人”の兄妹の為に戦う事を、キラは2年前に誓っているのだ。

 

 

「キラ・ヤマト──フリーダム、行きます!」

 

 

 蒼天の翼を携えて、キラもまた誓いを果たすために空を翔けた。

 

 

 

 

 

 オーブが誇る新造艦アマテラス。

 その最たるところは、絶対的な防御能力を保有している事であり、単独での敵陣突破すらも可能な規格外の戦艦だ。

 敵艦の攻撃を全て受け止め、射線を引きつける。

 つまりは先鋒を担う艦である。

 故に、その更に先陣を切るアマテラスのMS部隊は高い練度を求められる。

 新たな戦術ドクトリンに併せて挙げられた単騎戦力構想。タケル・アマノとシロガネを隊長に据えたライトニング隊はその名称のままに、敵中を稲妻の如く駆け抜け蹂躙する事を目的に発足した先鋒部隊である。

 そうして一騎当千を体現する為与えられるのは、専用カスタマイズされたカザキリ。

 乗りこなすはオーブが保有する中でも最高峰のMSパイロットである彼女達だ。

 

『ライトニング3、ライトニング4、ライトニング5────発進準備完了。発進後はライトニング1に続いてください』

「了解しました。行くよ、マユラ、ジュリ!」

「焦って1人だけ突出しないでよね」

「マユラちゃん、そうなったら私が援護するから大丈夫だよ」

 

 相も変わらず姦しい……が、緊張でガチガチになってるよりは余程良いだろう。

 嘗てはまだ頼りなさもあった彼女達だが、大戦を経てその後も訓練を続けてきた自負が、自身と余裕を生み出していた。

 頼もしさすら感じられる声音に、キサカとCICのオペレーターは小さく笑みを浮かべている。

 

「アサギ・コードウェル、行きます!」

「マユラ・ラバッツ、出撃します!」

「ジュリ・ウー・ニェン、発進します!」

 

 シロガネ、フリーダムに続き、3人のカゼキリも発進。オーブの領海の空へと躍り出た。

 

 

 

 

 

 

「敵機接近!?」

「迎撃しろ!」

「ダメです、早過ぎます!!」

 

 戦々恐々の報告が重ねられた直後、大西洋連邦艦隊の一隻は艦橋を潰されて沈黙した。

 

 戦域を翔けるは白銀の閃光。

 ORB-00シロガネを駆るアスラン・ザラである。

 大気圏内故に重量が嵩むビャクライユニットは無しだが、それでもスラスター技術の向上と増設されたジンライによる推力上昇は、嘗ての大戦の時で最速を誇ったシロガネの機動を更に引き上げていた。

 文字通り閃光。光が駆け抜ける度に艦船が次々と潰されていくその様は雷の如く。

 

「くっ!? シミュレーターは大分重ねてきたが、ここまで酷いかあの変態兄貴め」

 

 僅かに、苦痛を堪えてアスランの表情が歪む。

 最速で最短の軌跡を描いて、幾つもの敵艦を潰していく中、シロガネの異常な機動性によるGがアスランを苛んだ。

 彼以外の乗り手のことなどまるで考えていない……元々彼自身が自ら乗る為に開発された機体なのだからそれは当然ではあるが、それでもあの変態はこれを喜んで乗っていたのかと。

 MSパイロットとしての腕前で負けるつもりはないが、耐G能力に関して勝てる気がしないとアスランは苦笑した。

 こんなじゃじゃ馬を平然と乗り回すあの男はやはり生粋の変態だ。こうして今日乗ったのならしばらくは乗りたくない機体である。

 

『アスラン、平気?』

 

 シロガネとは違い、最短の手際で次々と敵MSを撃ち落としていくフリーダムのキラから、アスランを心配する通信が飛び込んで来た。

 

「あ、あぁ……なんとかな。全くタケルの奴、よくこんな機体乗り回してたよな」

『まぁ、完全に自分のためにって開発した機体だしね。僕も一度だけ乗ったことあったけど、すぐにドロップアウトだったよ。やっぱり鍛え方が違うって言うか』

「アイツの異常なんて今に始まった事じゃないが……これはやり過ぎだ」

『でも今は、それが必要だ』

 

 静かに、キラはその声音を冷たいものへと変えた。

 そう。今はそれだけの機体が必要である。

 オーブを護り、カガリを助ける為には──今ここで、絶対的な戦いを見せつける必要がある。

 

 2人はそれを意識しなおして、再び眼前の敵勢力を見据えた。

 

「行くぞキラ。自分達が誰に手を出してしまったのか……連中に叩き込んでやろう」

『うん。二度と、この国に侵攻する気が起きないくらいにね』

 

 憎悪が鎌首をもたげる。

 それは決してドス黒いものではないが、2人が胸の内に抱く思いは共通であった。

 大切な人達が住まう地。大切な人が守る地。目の前の愚者達はそれを土足で踏み躙ろうとしにきたのだ。

 やらせはしないと心が叫ぶ。

 

 

 

 ────種が開いた。

 

 

 

 絶対にオーブを護ると胸に誓うキラと。

 絶対にオーブを狙う愚者を討つと定めたアスラン。

 その心に従う様に、2人はそれへと陥っていく。

 SEED────人が持つ、新たな可能性へと。

 

 

 

 居並ぶ大艦隊へと、銀と白が突撃していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たまえ」

 

 ミゲルとのひと時を過ごしたタケルは翌日。

 諸々の準備が終わったとの連絡を受け、デュランダルの元へと呼び出された。

 そうして呼ばれたタケルは、彼の案内のもと工廠の格納庫へと案内される。

 

 ライトアップされる、格納庫で主を待つ機体。

 それを見上げたタケルは、僅かにため息を吐いた。

 

「この機体を、君に託そうと思う」

「議長、新開発の機体が6機目ですか? 本当、良くこんなに開発しましたね」

 

 どこか呆れた様に、タケルは隣で笑みを浮かべるデュランダルへと目を向けた。

 相変わらず読めない表情だが、どこか面白そうな気配は伺える。

 奪われたカオス、ガイア、アビス。そしてミネルバのセイバーとインパルス。

 5機もの最新鋭機に、カガリは苦言を呈していたが、まさかまだ隠し球があるとは、タケルは思っても見なかった。

 機体を用意すると言う話も、精々が専用チューンを施したザクだろうと。

 だがしかし、今タケルの目の前に鎮座するのは明らかにザク等とは意匠の異なる機体。

 その見た目は間違いなくセイバー等セカンドステージに類するものであった。

 

「ZGMF-X26S、機体名は“エスペラント“だ。詳細は後程マニュアルを読んでほしいが、まぁ君ならどうとでも乗りこなせる事だろう」

「良いんですか本当に? 別に僕は最新鋭の機体をもらわなくとも──」

「これからミネルバに行ってもらうと言うのに、そんな機体では行かせられないさ。それともう一つ、これも受け取ってもらいたい」

 

 すっとデュランダルが差し出すもの。

 綺麗なケースに収められた羽根を模した様なエンブレム────ザフト特務隊FAITHの証である。

 

「怒りますよ。僕にそんな権限を与えてどうするんですか?」

「君の妹を巻き込んでしまった、その償いだ……いざという時は、君の権限で戦闘への参加も止められるだろう」

「彼女が戦いから離れる事を望まない以上、僕にそれをする権利はありませんよ」

「であればそうだな…………私が愚かな指令を飛ばした時は、君がそれを止めてくれ」

 

 俄かに、タケルはデュランダルへと怪訝な表情を向けた。

 今のは彼からの命令に背くことすら許可する様な発言である。

 冗談なのか、それとも本気か。真偽のほどがわからずタケルは惑った。

 

「FAITHは本来、忠誠を誓う意の部隊ではあるがね。君が忠誠を誓うのはオーブであることに変わりはあるまい」

「無論です。決してザフトのために戦うつもりはありません」

「だからこそ、君には忠誠を願いたい。ザフトや私ではなく、君自身が今胸の内に留めている信念へとね」

「──何が、言いたいんですか?」

「君が彼女を守ってくれるのなら、私も大いに嬉しいことだ。情の深い君ならミネルバに赴けば彼らもまた君の庇護対象としてくれるだろう? 彼女にとって、大切な居場所なのだから」

「なるほど、上手く利用してくれますね」

「そのくらいの利があっても良いだろう? 君にとってもいざという時の権限は願ったり叶ったりというところじゃないかな」

「そうですね────わかりました、拝命しますよ」

 

 静かに納得を見せて、タケルは差し出されたエンブレムを受け取った。

 

「まずはカーペンタリアへと向かうと良い。ミネルバはオーブを離脱してそちらへ向かうとのことだ」

「了解です。それでは」

「あぁ、行ってくれ」

 

 敬礼一つで返し、タケルはエスペラントへと乗り込もうとしたところで、ふともう一度デュランダルへと振り返った。

 

「議長」

「ん? 何かな?」

「本当に、ありがとうございます」

 

 疑念はある。思うところはある。

 だがそれでも、今己が欲する立ち位置を与えてくれた彼に、タケルは今一度感謝の意を示した。

 少しくらいは、彼が望む結果を見せても良いと思えた。

 

「ふっ、それなら期待させてもらいたいな。アマノ君……いや、タケル君」

「それならこっちも期待させてください。オーブとは上手くやってくださいよ」

「勿論だとも。君に愛想を尽かされたくはない」

 

 小さく頷いて、今度こそタケルはエスペラントへと乗り込んだ。

 

 機体を起ち上げていく。

 起動シークエンスとともにモニターに映る、GUNDAMの頭文字。

 その間にタケルは、例の仮面をつける。

 

「なんか恥ずかしいけど……せっかくだしあの人みたいに装うとしようか」

 

 管制局からの指示を受けながら、セカンドステージ最後の一機エスペラントに今火が灯った。

 

 

 

「クルース・ラウラ──エスペラント、出るぞ!」

 

 

 

 VPS装甲が機能して機体が純白に染まると、エスペラントは宇宙へと飛び出した。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。