特務隊クルース・ラウラ。
そう名乗った目の前の人物に、レイ・ザ・バレルは胸中を荒れさせた。
彼が着けている仮面。それはレイの良く知る人物、ラウ・ル・クルーゼのものだ。
そして彼が名乗った名は間違いなく、彼を意識したものであろう。
自分と同じ関係者だろうか……一瞬過る考えを即座に否定する。
目の前の人物に自身と似通った点は存在しない。間違いなく、“他人”のはずである。
自然と鋭くなっていく視線と共に、レイは口を開いた。
「どういう──」
「どういうつもりなのですか?」
しかし、レイの声に被せる様に隣から先んじて声が挙がった。
見ればレイと同様に剣呑とした視線を向ける少女が居た。
「どういうつもりか、とはどういう意味だろうか。質問の意図が──」
「もう一度聞きます。こんな所にわざわざ仮面までつけてやって来て、一体どういうつもりなのですか────タケル・アマノ」
驚きに、格納庫が俄かに騒がしくなる。
それは彼を怪しんでいたレイも同様であり、まさかの人物の名が出てきたことに、先程までの疑念が飛んでいく。
「(あ〜うぅ……さすがは我が妹。隠しておきたいことをズケズケと。嬉しくもあるけどもう少し手心を加えて欲しいなぁ)」
仮面で隠れてる裏で、タケルは眉間に皺を寄せた。
すぐさま気が付いてくれた事に少し嬉しさを覚えている辺り流石は兄馬鹿と言う所だ。
だがしかし、この程度はタケルとて想定内。
そもそも直近で共に艦内にいて、あまつさえ共闘した仲なのだ。初出撃からずっと一緒だったのだから、ザフトの友軍等よりも余程縁深い存在である。
仮面程度で誤魔化せようはずもないだろう。
「何を言っているのかよくわからないな。私の名はクルース・ラウラだと告げたと思うが?」
よって、タケルができる事は唯一つ。設定を貫き通すのみ────つまりはゴリ押しだ。
幸いにも仮面で素顔は隠れている。いくら声が似ていても、いくら雰囲気が似ていようとも、いくらそれっぽく見えても。
自認をせずに、素顔を隠し続けていればそれは100%にはなり得ない。
ミネルバに、タケル・アマノは乗っていないのである。
無論、そんな解答をタケルの目の前にいる少女が許すはずも無かった。
「白を切りますか。良いでしょう。その仮面と一緒に化けの皮を剥いで──」
「ちょっ、バカ! 落ち着きなさいヤヨイ!」
「放して下さいルナマリア。この人は絶対──」
「何らしくない程テンパってんのよ。あの人は特務隊って言ったでしょうが! 上官にいきなり手をあげるなんて大問題になるわよ」
正に飛び掛からんばかりに身構えたヤヨイを、ルナマリアが慌てて制した。
普段の彼女であれば……レイと並んで同期から堅物と評される彼女であれば、このような問題行為とされる様な事はしないだろう。
冷静であるはずの彼女がそんな姿を見せる程、目の前の男は彼女の琴線に触れる存在であった。
「くっ、肩書を盾に取るとは卑怯な……」
「いや、流石にそんなつもりは無いのだが」
「シンじゃないんだからボケるのも大概にしなさい! アンタが勝手に突っかかろうとしてるだけでしょうが!」
「お、おいルナ……それは酷いだろ!」
「うっさい狂犬!」
流れ矢に当たりシン・アスカは撃沈。
戦勝の立役者であるはずの少年は意気消沈となり床に崩れ落ちた。
どうでも良いが狂犬はもう周知の呼び名の様である。
「ルナマリア、彼女をそのまま抑えておいてくれ。私は艦長に話があるのでな」
「了解しました。その代わり、後でお話させてくださいね」
「詮索はさせないが?」
「詮索されて困る様な事があるのですか?」
ほぅ、とタケルは小さく息を吐く。
詮索されて困るような事……無論、タケルとしては多くある。が、クルース・ラウラとしてであれば特に問題はない。経歴はデュランダルが脚本を取って作ってくれたしデータベース等にも登録済みだ。
タケル自身がボロを出さない限りは問題ないだろう。
つまりルナマリアはちゃんとクルース・ラウラとしてタケルを扱ってくれるという事への言質であった。
「そうか、時間が空いたら世間話ぐらいは付き合ってやるさ────艦長は艦橋か? できれば艦長室で話をしたいんだが」
「では俺が艦橋に連絡をとって、艦長室に案内します。こちらへ」
「レイ・ザ・バレルだったな。では、よろしく頼むよ」
「はい」
返礼と同時に、レイは格納庫の連絡用端末から艦橋にいるタリアを呼び出し、タケルを艦長室へと連れていく事を通達。
そのまま先導してタケルと共に格納庫を後にした。
騒がしい格納庫から離れれば、一転して艦内は静寂の中である。
整備エリアやそれこそ艦橋は先の戦闘の事で忙しいだろうが、広い艦内において人が居て騒がしくなるエリアなどそう多くは無い。
互いに口を開く事もないまま、タケルとレイは通路を歩いていた。
しかし、静寂は静寂であるが、レイの胸中は決して穏やかではない。
隣を歩く男が見知った仮面を着けた、更には見知った人間であるのだ。
一体なぜ彼が、あの仮面を着けてザフトとなって……疑問は尽きず、それは様子を伺うような視線をタケルへと向けさせていた。
「──気になるか、レイ・ザ・バレル?」
「あっ、いえ……失礼しました」
「私はクルース・ラウラだ。君とは初対面……の筈だな?」
「それはそうなのですが……」
「初対面だが、気になる事があると?」
「──はい」
静かに、レイは肯定を見せた。
初対面でありながら……先程のルナマリアとのやり取りからもレイと手タケルに対しての応じ方は察しているだろう。
それでも尚、聞きたいことがある……タケルは視線をレイへと向けた。
「その仮面の持ち主を、俺は知っています。俺にとって大切な身内……と言うべき人です。そして、その人はもう──」
「生きてはいない。だから、何故私がこれを持っているのか……と言う所か」
「はい。それはギル……議長が持っていたものの筈です」
「相違ない。これは議長から手渡されたものだ。
今は亡き友人の形見だと言われてね……少々重たいものだが、私とて彼とは無関係ではない。素直に受け取らせてもらったよ」
「では、その名前は──」
「それ以上は私と議長だけの秘密とさせてもらう。申し訳ないが、易々と君に語る事はできない」
明確な拒絶に、レイはハッとしながらも押し黙った。
「わかりました。では、こちらが艦長室になります」
「あぁ、案内をありがとう。戦闘の直後なのだろう? 今は私も居る。ゆっくり休むと良い」
「はい。お気遣い感謝します」
艦長室への案内を終えて、レイは静かにその場を後にしていく。
心なしか落胆が見えたような気がしないでもない背中を見て、タケルは口を開いた。
「レイ・ザ・バレル」
「はい?」
「もし良ければ、で構わない。私と君が知る彼について、少し教えて貰えないか?
私にとって知らない仲ではないが、知った仲とも言い難い人なんだ彼は。この仮面を着けるからには、もう少し彼の事を知っておきたい」
「えっ……はい」
投げられた言葉に、レイは僅か呆気にとられるも、表情を微かに緩めて頷いた。
「それでは、後程時間を取らせてもらいます」
「頼むよ」
今度こそ、レイはその場を完全に後にした。
先より少しだけ軽くなったレイの足取りを見送りながら、タケルは続いて重苦しい雰囲気を纏っていそうな艦長室のドアを見つめる。
「はぁ……何て言われるのかなぁ。マリューさん級じゃない事を願うけど、トラインさんへの応対を見るにちょっと不安だ」
なんせこれからタリアには大いに迷惑と気を遣わせることになるのだ。
アークエンジェルで、散々艦長であるマリューに怒られた記憶が脳裏をよぎった。
あの時から幾分か成長したとはいえ、やはり艦長に座する者への負担はきっと増える事だろう。
そう思うと、タケルは心苦しく顔を顰める。
しかし、タケルとヤヨイの事情を知っているタリアには全てを明かす。それがデュランダルとの取り決めである。
緊急時に、ザフトの作戦目的とは別の目的で乗艦する事になるタケルとタリアの指揮がぶつからない様にする為である。
タリアとしては扱い難い事この上ない存在となるだろう。
「あぁ、唸っててもしょうがない。行くとしよう」
意を決して、タケルは艦長室のブザーを鳴らした。
「グラディス艦長、特務隊クルース・ラウラです」
返ってくる声は、予想通りの色合いを孕んでいた。
シン・アスカとヤヨイ・キサラギ。
先の戦いにおける戦勝の役者であり、本来であれば意気揚々としていた筈の2人は、現在喜びとは正反対の心持ちとなっていた。
シンはルナマリアによって撃沈。
狂犬の名に似つかわしくない消沈の具合を見せている。
傍で先程の戦いの凄さを力説して励ますヴィーノの優しさが、どこか痛々しかった。
そしてヤヨイ・キサラギ。
人形の様に端正な容姿は、しかし細められて釣り上げられた双眸が台無しにしており、なんとも怖い表情を作り出す。
「むぅ……」
溜め息とも唸りとも取れそうな低い声が漏れ、隣に控える同期の少女を見た。
濃色の赤……ワインレッドの綺麗な髪を持つ頭が何よと言いたげに小さく揺れる。
「何よ?」
「いえ、何でもありません」
「言いたいことが顔に書いてあるけど?」
「そのような奇怪なペイントはしておりませんが」
「比喩表現にリアルで返すのはやめなさいよ。私がバカみたいじゃない」
「えっ?」
「何、違うのですか? みたいな顔してんのよ!」
振り下ろす先を求めて、ルナマリアの握られた拳がわなわなと震える。
極自然な反応で返してくるヤヨイの顔は憎らしいくらいに整っていて、憎らしいくらいに真顔であった。
「失礼……表情筋が死んでたみたいです」
「むしろ生き生きしてるからこそのその顔でしょうが!」
「ちょっ、お姉ちゃん! 落ち着いてよ」
「は、放しなさいメイリン! このスカしたガキに天誅を!」
艦橋より姉の無事を確認しに来たメイリンが、拳を握り締めるルナマリアの暴挙を必死に諫める。
それを澄ました顔で見つめながら、ヤヨイは胸の内にぐるぐると回る感情を鎮めていった。
そうして冷静になっていく中で再び過るのは、先程ミネルバに乗り込んで来た男の事。
タケル・アマノ。
オーブを守護する護国の剣。
サヤ・アマノの兄であり、ヤヨイ・キサラギとしても甚だ遺憾ではあるが知ってしまった以上は兄という関係性ではある。
何故……彼がここミネルバにやってきたのか。それもザフトの特務隊としてだ。
彼は約束した。
彼がミネルバを離れれば、自分達はもう他人であると。思い出しかけている記憶を忘れ、ヤヨイ・キサラギとして生きろと。そう言ったはずだ。
その時こそ多少のショックを受けたことは否めないが、後程の語らいで和解。
ヤヨイにとってタケル・アマノは、知り合い以上同期の仲間達未満くらいにはなった。
だがそれでも。
ヤヨイ・キサラギにとってタケルは、決して良い想いを抱くことができない相手である。
彼を目にすると、何かが己を責め立てる。
言い様の無い焦燥が彼女を苛み、奇妙な自責の念が彼女を襲う。
大馬鹿者と、脳裏で誰かが怒鳴り散らしている様な気分になるのだ。
仮面で顔を隠した程度では、ヤヨイにとって何の意味も無かった。
MSから降りて来た彼を見て、一目でわかった……あの男が彼だという事は。
直ぐに焦燥が胸に沸き立ってきた。叫び始める己の心に、ヤヨイは苛立ちを募らせた。
約束を反故にしてこんな所に一体何用だとヤヨイが剣呑となるのは無理のない事であった。
「はぁ……ったくヤヨイ、らしくないわよホント」
「私らしいとはどんなですか、ルナマリア?」
「そりゃあアンタ……」
くいと顎に手をやって考える素振りを見せるルナマリア。そのポンコツな頭で一体これからどんな言葉を捻りだしてくるのだろうと、ヤヨイは彼女の表情を流し見ながら待った。
「いつもスカして、年上の私よりも大人ぶって。でも結局大人には成り切れなくて、無表情のまま色々と抱え込んでは心の内で泣いてる、ってのがヤヨイって感じ」
「ルナマリア、私は遺憾の意を表明致します」
「そうそう、それよ。そうやって落ち着き払って静かに怒るくらいなのに、あの人には感情剥き出しじゃない? だかららしくないって言ってんの」
ルナマリアの答えに、ヤヨイは目を見開いた。
言われてみれば確かに、と言う所だ。
宇宙で。オーブへ暴言を吐いたシンを窘めた時だって、声こそ聞こえる様に大きくはなったものの、その声音はいたって落ち着いた気配であった。
彼女が感情を表に出して声を吐くなど、タケルが関わった時だけなのだ。
「お姉ちゃん、あの人ってさっき着艦した特務隊の?」
「えぇ、クルース・ラウラだって。笑っちゃうわよホント、あんな仮面で誤魔化せると思ってるなんて」
「何を言っているんですかルナマリア。貴女もあの人の名前を聞いて驚いていたではないですか」
「ばっ、違うわよ! あれはヤヨイがいきなりぶっちゃけちゃうから……仮面で顔を隠すくらいなんだから秘匿しておきたいんだろうなって思った矢先でそれだったから驚いたのよ……ほ、ホントよ!」
白んだヤヨイからの視線がルナマリアを射抜いており、ルナマリアは僅かにどもりながらも返した。
全く、一切、これっぽっちもルナマリアの言葉を信じてなどいないヤヨイは小さく肩を竦める。
「そう言う事にしておいてあげましょう」
「えっと……もしかしてクルースさんって私達が知ってる人?」
ルナマリアとヤヨイの会話に、いまいち理解が及ばないメイリン。
彼女だけが状況を知らず、視線が疎外感を訴えていた。
「あぁ、置いてけぼりにしてしまってごめんなさいメイリン。
クルース・ラウラは偽名ですよ。彼の正体はオーブ国防軍のタケル・アマノです」
「タケル……アマノって……えぇえええ!?」
まさかの情報に、格納庫中にメイリンの悲鳴が木霊するのだった。
「──はぁ」
ミネルバ艦長室。そこに、部屋の主であるタリア・グラディスの大きな……それは大きなため息が流れた。
「そんなこれ見よがしにため息を吐かないで下さい」
「吐きたくもなるわよ。その原因である貴方が何を言いますか」
仮面を外し、素顔を晒したタケルを見て、タリアはもう一度大きく溜め息を吐いて目頭を押さえた。
デュランダルの協力を得て特務隊入りとなり、ヤヨイの記憶を取り戻すためミネルバへ配属となった。
聞けば聞くほどとんでもない状況に、タリアはもう一度現実を見つめ直してもう一度ため息を吐く。
目の前の彼も、プラントに居る彼も、一体全体何を考えてこんな馬鹿げた事をしているのやら。
タリアには全く理解が及ばない。
「グラディス艦長、事情と目的はあれですが私もミネルバの配属となった身。指揮下には入りますし、出来る事はさせてもらいます。新兵だらけのミネルバに対する保険という事で、議長も送り出してくれたわけですから」
「あの人は本当に……それで、私までFAITHに?」
言って、タリアは机の上に置かれたエンブレムを流し見た。
羽を模したFAITHの証。入室したタケルより渡された、デュランダルからの贈り物であった。
「こんな若造に艦長が何も言えない様ではね。その為の処置でしょう。なので、扱いにくいかもしれませんが私の事は遠慮なく使ってください。苦労は掛けないよう努めるつもりです」
「せめて確約して欲しいわね。苦労を掛けない事は」
「それは……ミネルバ次第かと」
それもそうか、とタリアは嘆息した。
殆どの場合、タリアに苦労を掛けるとしたら目の前にいる彼よりも、新兵だらけのクルー達の方だ。
ミネルバ次第とは言い得て妙である。
「はぁ……まぁ良いわ。とりあえず、必要であれば貴方も遠慮せず具申してちょうだい。私にも艦にも、為になる事が多いでしょうから」
「多分ですが、それが目的なのではと私は考えています」
「と、言うと?」
「これから戦地に赴くであろうミネルバ────この艦に、嘗てのアークエンジェルを演じて見せろ。その為の舞台は整えてやると」
「つまりは、ミネルバをこれからの戦いの尖兵として使うと────そう、それでこの指令というわけなのね」
机の上にある一枚の指令書。
そこに描かれていたのは、ミネルバの次なる任務であった。
“カーペンタリアで準備を終え次第、ミネルバはジブラルタルへと向かいスエズの攻略を行っている駐留軍を支援せよ”
「ご存知の通り、アークエンジェルは先の大戦で地球軍の士気を支える英雄艦でした。コーディネーター相手には勝てないのだと落ち続ける士気を支えた、最後の一線。彼の艦が落ちていたなら、戦争はもっと早期にプラントの勝利で幕を閉じていたでしょう」
「それを演じる為の部隊、ね。貴方が居るのは心強いけど、そんな事を言われても困るわよ」
ほとほと困り果てたというようなタリアの気配に、タケルは僅か苦笑した。
何と言うか似ているのだ。目の前の人と、嘗てのアークエンジェル艦長、マリュー・ラミアスは。
どちらもまともな歴の無い艦船の艦長を任命され、更には厳しい戦いが待ち構えている。
総じて、未来に不安しか抱けない環境は共通と言えよう。
そして、そんな艦を支える戦力として……タケル・アマノの立ち位置もまた、馴染みの深いものであった。
「できる限りのお力にはなります。どうぞ、これからよろしくお願いします」
「えぇ、頼りにさせてもらうわ」
疲れたように椅子の背もたれへと身体を預け、タリアは一度脱力した。
なってしまった以上は仕方ない。それに、タリアとしても保険と言う意味でタケルの配属は是非もない話だ。
丁度先刻、命からがらの戦いを制したばかりなのだから。
「そう言えば……早速で悪いのだけれど、聞いてもいいかしら?」
「えっ、はい。何でしょうか?」
真剣な気配へと変えてタリアが静かに切り出していく。
「貴方、戦闘中に何と言うか……意識が覚醒する様な事に覚えはある?」
「意識が覚醒? それはつまり、戦闘中に意識を落としてしまって目を覚ます、と言う話ですか?」
「あぁ、いえそうじゃないのよ。まぁ本質的にはそれに近いかもしれないけど……先程の戦闘で、シンとヤヨイが正に目の覚める様な活躍を見せたの。それも今貴方が言ったように、まるで落ちていた意識が目覚めたような動きの変わり様でね。
戦闘経験の豊富な貴方なら、同じような経験があるのではと思って」
瞬間、タケルは目を見開いた。
タリアが言う、正に目の覚めたような変化。タケルには無論心当たりがある。
そして、その可能性をタケルはデュランダルより聞かされていた。
シン・アスカとヤヨイ・キサラギは戦士として途轍もないポテンシャルを秘めている事を。
「──何か、有るのかしら?」
「そう、ですね……心当たりはあります。映像記録は?」
「艦橋に行けば確認できるわ。メイリンに言って頂戴」
「わかりました。では戦闘記録の確認後、本人達へのヒアリングもさせてください。私が思う通りであるのなら、喜ばしくもあるし、懸念も増えます」
「懸念も? ではわかり次第、報告をお願いしても良いかしら?」
「勿論です。それでは、失礼しますね」
「えぇ、よろしく頼むわ」
タリア同様に真剣な面持ちとなったタケルは、少し足早に艦長室を後にした。
SEED────その可能性が。その芽が。
彼等にもう芽吹いているかもしれない。
あれは決して万能ではない。
陥れば必要に応じて知らず深みへと足を取られていく。
忘れがたい全能感に振り回され、どこまでも手が届くような感覚に陥り、そして墜ちていく。
あの感覚は文字通り世界を変えるのである。
「はぁ、本当に早速だね全く。シン・アスカはともかくヤヨイまでとは……面白くない」
タケルは小さく吐き捨てた。
SEEDへの目覚め──これはまだ良い。
大切な妹までその領域へと辿り着けたのは、喜ばしい事でもあるのだから。
だが──
「シン・アスカと揃って? それは納得できない」
“そして、ヤヨイ・キサラギとシン・アスカ────彼等の遺伝子的相性は互いを高め合うことすらできるほど噛み合う、正に天文学的な確率での組み合わせだったのだよ”
脳裏に、デュランダルの言葉が過った。
天文学的な確率の相性? ふざけるなとタケルは憤りを覚える。
あんな生意気で考え無しで礼儀の欠片も知らない小僧が、大切な妹と遺伝子レベルで最高の組み合わせなどと、認められるわけがない。
止めなければならない──彼の野望を。
打ち砕かなければならない──彼の希望を。
タケルは通路の先を睨みつけるように目を細めると、戦闘記録を確認しに艦橋へと急ぐのであった。
これからはこんなやりとりが増えてくるでしょう。
なかなか話が進まずもどかしいと思いますが、作者としてはキャラ重視で描いておりますのでどうかご了承くださいませ。
赤評価ついに割れてしまいましたが、元々運命編で作品のレベルが落ちるのはわかっていましたので気にしないことにしました。
作者は原作ありきで書いてる人間なのでやっぱり粗があるのでしょう。
なのでどうぞ楽しんでる読者のお声をいただければありがたいです。楽しめていると、お教えくださいませ。
どうぞよろしくお願いいたします。