でも本作としてはとても大事なお話を描いております。
彼、ユウナ・ロマ・セイランは決して優秀な人間ではなかった。
オーブの中でも裕福である氏族の家庭に生まれた彼は、何不自由なく幼少期を過ごし、自身は特別な生まれの特別な人間であることを幼いながらも自覚した。
父ウナトに厳しさが薄い部分もあって、彼が増長するのは極当たり前の流れであったと言えるだろう。
使用人を目下のものと見下し、同年代を貧困の民と蔑み。彼の周囲にはそれに物申す人間はおらず。ユウナ・ロマ・セイランは実に愚かな大人へと育っていった。
そんな彼にとって。婚約者となったカガリとの出会いは衝撃であった。
カガリ・ユラ・アスハ────オーブを導くアスハの家の子。
親同士が取り決めた婚姻の下、彼女と出会ったのはユウナが19の時。
後少しの時で成人を迎える歳の頃である。
ウズミに連れられ、不承不承という様に会合の場に現れたのは、太陽の様な輝きを持つ少女であった。
光を反射する金色の髪。茜を思わせる瞳。
まだ少女の殻を破りきれてないにも関わらず、どこか母性を感じさせる大らかな雰囲気。反する様に、無邪気な気配が見え隠れしていた。
一目で、ユウナは心を奪われた。
会う直前までは、アスハとは言えまだ15の少女。夫になってやるのだから光栄に思えとでも言って、ユウナの後ろに
それがどうだろうか。ユウナはまるで言葉が出ないまま小さく唸るばかりで、対するカガリはそんなユウナを怪訝に見ながらも物怖じせずに落ち着き払っている。
「お父様…………本当にこの男なのか?」
本人を前に随分と失礼な物言いである。
投げられた声には大いに気落ちの声が含まれていて、向けられてくる視線にはいっそ侮蔑と呼べそうな冷めた気配があった。
「なっ、年下のくせに生意気な奴だな。僕を誰だと思ってるんだ!」
たまらず、ユウナは怒り混じりに返した。いくら心を奪われかけたとは言え、あからさまに馬鹿にされるのはユウナも我慢がならなかった。
「ユウナ・ロマ・セイラン。年齢は19。セイラン家の跡取り。学業は15までで以降は父ウナトに付き政治の道へ。これくらいは聞いてるし調べてきている。
逆に聞くが、私の事はどれだけ知っているんだ?」
「そ、それは……」
知らない。知る気がなかった。
こうして会うまでは興味すら抱いていなかったのだ。
親同士の取り決めで結ばれるのは氏族ではよくある話。親の顔に泥を塗らぬ様断る気はなかったが、年下の少女と将来を約束されたところで何が変わるわけでも無いと思っていた。
「な、名前くらいは!」
「名前? ふんっ、つまりお前にとって婚約者とはその程度の間柄というわけか。それだけわかれば十分だ────お父様、互いにその気は無い様なので私はこれで失礼させてもらいます」
「待ちなさい、カガリ」
「待ちません!」
ウズミの制止も聞かず、そのままカガリは肩を怒らせて場を後にした。
後に残されるのは呆然とするユウナと、頭を抱える2人の父のみ。
こうしてユウナは、最悪な運命の出会いを果たした。
ちなみにこの日以降。ユウナ・ロマ・セイランは度々、背筋が寒くなる様な嫌な視線を感じる様になったという。
悪いものにでも憑かれたかとお祓いをしてみるも効果はなく、その気配とはかれこれ3年の付き合いになる。
その後はどうにかこうにか、ウズミとウナトが熱心に間を取り持ち、2人は何度か会う事を繰り返した。
最初はつっけんどんであったカガリだったが、回を重ねるうちに会話を交わすくらいはできる様に。
まともに話せる様になってようやく、ユウナはカガリと仲良くなってやろうと躍起になったが、そこにはまた大きく分厚い壁が立ちはだかる事となる。
タケル・アマノ────彼女の兄の存在である。
なんと言ってもこの兄、コーディネーターの中でも優秀な部類であった。
元々はアスハの子で双子だったと言う。カガリは自身と比較して優秀にすぎる兄のことを良くユウナに自慢するのだった。
彼女自身に悪気は無いのだろうが、同じ男として意中の女性がこうも他の男性の事を語るのは面白くない。
聞かされるユウナは自然と、己と彼の事を比較した。
鬼才、ユウキ・アマノの息子。
14歳。当時で1年前に国防軍に所属となり、開発分野では既に数々の功績を挙げていた。
14の頃と言えばユウナはまだ、家柄に引き寄せられた取り巻きを連れて王様気分に浸っていた時代である。
親の敷いたレールを既定路線で歩んで来たユウナはその時点で、何かを成した功績はなかった。
これまた自然と、ユウナの胸に劣等感と嫉妬の感情がよぎった。
「なんだよユウナ。そんな顔して」
聞こえて来た声に、自身がしかめっ面を見せていたのだと自覚する。
「別に……」
「気に喰わないか? 私が兄様の話をすることが」
気に喰わない──そう言えたら良いが、そんな情けない嫉妬の気配を見せたくもない。
ユウナは答えに困った。
「言っておくが、私は意図してこの話をしているからな」
「えっ?」
意図して? それはつまり、自身がこうして嫉妬や劣等感を抱く事を意図しているというなのか。
どういうつもりだとユウナの胸に憤りが宿り始めた。
「それは、一体どういうつもり──」
「私は、兄様に負けないように必死だ。小さい頃から勉強も運動も適わず、こうして成長してからはオーブの為に生きる兄様の功績を眺めているばかりだ」
溢されたのは、ユウナと同じ様なカガリの劣等感であった。
「だが、人は万能ではない。ナチュラルであろうがコーディネーターであろうが、全てにおいて優れている人間などいない。
だから、私は兄様にできない事で勝とうと躍起になっている」
「それを、何故僕に?」
意図して齎されるタケル・アマノの話。意図して明かされる、彼女の胸中。
そこに込められる言の葉に、ユウナは見当がつかなかった。
問われたカガリは、ここで初めてユウナと真正面から対峙し、視線を交わした。
何かを告げる気配にユウナも居住まいを正した。
「はっきり言う──私はユウナを認めていない。
父の敷いたレールに従い、ただただ流れのままに生きて来たお前を、私の伴侶等と認めるのものか……聞いた素行も、すこぶる良くない話ばかりだったし」
「なっ!? そんな事父上達が許すはずが──」
「父親の取り決めが全てか? だったらお前はこれからも、ただ敷かれたレールを歩み続けるだけなのだろうな。そんなの……私は御免だ。尚の事、私とお前は相容れないだろう」
「──だったら、どうしろと?」
気に喰わない。カガリの物言いが、まるで自分と彼女の間に大きな隔たりがある様に思わせてならなかった。
ユウナはどこか睨みつける様な視線で、カガリを見つめた。
「必死に生きてみせろ。自ら考え、何を成すべきかを考えろ。私が敬愛する兄の様に。
お前が自ら成すべきことを見定めた時には、一緒に食事くらいは行ってやるさ。そこから先は────ユウナ次第だな」
少しだけ晴れやかな表情で、カガリはユウナへと告げた。
その時ユウナは、誇張抜きにドクンと心臓が脈打ったのを感じ取った。
少し強めの日差しを背負いながら言ったカガリの美しさに見惚れたか。
兄に負けじと自らを高める彼女の姿勢に心惹かれたか。
どちらも正しく、どちらも誤りと言える。
欲しくなったのだ。この魅力的な少女の全てが。
身も心も、彼女の内を占める全てを追い出して自身の色に染めたい。
出会う時に抱いていたように、自身の背後に傅かせて見せたい。
だから────ならば、必死に生きて見せよう。
これまで一つとして成した事のないユウナ・ロマ・セイランの、厳しい戦いが幕を開けたのだった。
父の傍で政務を学び、自ら進む道を見定める。
国の為に何を成すべきか、それを考え始めた。
そうは言っても、ユウナには特筆する優れた点は無い。
そもそもコーディネーターとは元より手にしている能力が違う。
身体を使う事も、頭を使う事も、これまでを惰性で生きて来たユウナに、優れている資質などなかった。
だが、万能な人間が居ないからこそ、無能な人間も居ない。
セイランの家は氏族であり、彼は本心と裏腹に社交性に富んだ生活を強いられてきた。
家柄に引き寄せられた取り巻きを内心では見下しながらも引き連れていた過去がある。
ユウナは、心と身体を切り離すことが得意になっていた。
如何に馬鹿で愚かな相手でも、心にも無い言葉で褒め称える事が出来た。
如何にはらわたが煮えくり返ろうとも、意識すれば笑みを作れた。
それはこれまで、必死になる事が無かった……真剣に生きる事が無かった彼の人生の弊害だったのかもしれない。
そして彼は愚かな人間であった分、愚かな人間の思考が理解できた。
馬鹿は馬鹿にされることを嫌う。逆に賢人は馬鹿にされることを善しとする。
自らの至らない点を顧みる事ができる人間は賢いのである。
ユウナは少しずつ、ウナトが築いてきたコネクションの中に己を浸透させていった。
幸いにも、真に優秀な者というのは極稀であった。
相手を見下さず、少し褒め称えてやれば扱うのは簡単であった。
そうして少しずつ、ユウナ・ロマ・セイランは政治家としての力を身に着けていった。
必死に……ただ1つの目的である、彼女の全てを手に入れる為に。
第3次オーブ防衛戦から数日後。
オーブ国内繁華街。
夜の帳も降りた頃。とある料理店でとある3人が会して食事をしていた。
1人はカガリ・ユラ・アスハ。
言わずと知れたオーブ首長国連邦の代表である。
もう1人はアスラン・ザラ。またの名をアレックス・ディノ。
名目は無論、お忍びで来ているカガリの護衛だ。共に食事をしながらも、周囲への警戒を怠ってはいない。
そして最後の1人に────ユウナ・ロマ・セイラン。
流石はオーブの上流階級である五大氏族と言ったところか。カガリの対面に座り、品のある所作で食事を進めていた。
「
「おい、カガリ。行儀が悪いぞ」
「カガリ。僕は品の無い子は嫌いだよ」
口に食事を頬張りながらユウナへと問いかけるカガリに、2人が顔を顰めながら窘めた。
恐らくは目の前で気取った動きを見せるユウナへの当てつけなのだろう。
或いはカガリ・ユラ・アスハである事を誤魔化すカモフラージュか。
一国の代表ともあろう者がこんな粗雑な食事の仕方などするまいと、普通であればだれもが思う事だ。効果は高いかもしれない。
だがこの時ばかりはユウナと意見を同じくして、アスランは頭を抑えて呻いた。
「んっ、んぐ! それで、どういうつもりだ一体。いきなり私を食事に誘ってくるなどと。そんな事、今までなかっただろ?」
そうだ。何故この3人が揃って食事を共にする状況となっているのか。
発端は先日の国防本部での一幕の後の事だ。
屈強な軍人達に叩き出されて、その場でしょぼくれていたユウナであったが、指示を終えて出て来たカガリと対面。
少し疲れたカガリの様子に何を思ったのか、ユウナは今度食事でもどうだろうかと誘いを溢した。
無論、政敵とも言えるユウナからの誘いに易々と乗ることなどできず、カガリはきっぱりと断って見せたが────この男、カガリに張られた頬が痛い等と言ってカガリを強請り始めた。
カガリ自身、感情的になり手が出た事を悪く思い謝罪もしてしまっている。悪いと思っている以上、その事を持ち出されると強くは出れなかった。
公にされれば大なり小なりの問題となる。
オーブ国内においても色々と微妙な情勢の中、余計な問題など起こしたくなかったカガリは、極めて遺憾ながらも、アスランの護衛付きという条件でユウナの申し出を了承した。
とは言っても、決して本意ではない食事の約束。楽しい気分など欠片もありはしない。
不機嫌さをこれでもかと見せて、カガリは食事にありついているわけだ。
その結果が、先の粗雑な食べ方となったのだろう。
「言っておくが、何をしてきても私は懐柔などされない。私は絶対に、オーブを守って──」
「こんな場所でそんな話を。それも聞こえる様な声でするもんじゃないよ。
今日は婚約者として素直に、食事を楽しませて欲しいな」
「対面して食事を楽しむような間柄ではないだろう……私達は」
「心外だなぁ。僕は婚約者としてこれでもかってくらいカガリの事を愛しているのに」
「やめろと言っている。気色悪い」
「カガリ、それは流石に言いすぎじゃないか。いくら何でもセイランさんが──」
「ユウナで良いよ、アレックス。同じカガリを愛する者同士だ。ここは公の場でもないし、フランクに接してくれて構わないよ」
「い、いえ、そう言うわけには」
何故だろうか。今日のユウナは妙に上機嫌と言うか、やはりカガリが言う様に気色悪いくらいである。
嫌味の1つも飛んでこない。
何かを企んでるのではないかと勘繰るレベルであった。
俄かに、カガリは視線を鋭くさせていく。
「早く言えよ、ユウナ。一体何を企んでいるんだ」
「言葉遣い。もう少し気にしないといけないよ。君はオーブの代表なんだから」
「また殴られたいか?」
「わー、待って待って話すって。もぅ、短気な子なんだから。まぁそんなところも僕は好きだけど痛ったぁ!?」
口の減らない愚か者に、カガリは遠慮のない拳を叩き込んだ。
これはあれだ。暴力ではない。今彼女はハラスメントを受けていたから抵抗しただけなのだ。誓って暴力ではない。
カガリは胸の内で必死に言い訳を並べて、視線でユウナに話を促した。
痛む頭を抑えながら、ユウナはやれやれと言う様に肩を竦めると居住まいを正し、徐に口を開いていった。
「覚えているかいカガリ? 君が僕に約束してくれたこと」
「約束? お父様達が勝手に決めた婚約の事なら私がした約束ではないだろう」
「そんなんじゃないよ。君はいつか僕に言ってくれたね。
僕が成すべきことを見定めた暁には、一緒に食事くらいは行ってやるって」
そんな話をしていたのか? とアスランが静かにカガリを見やった。
対するカガリはキョトンとした表情を見せながら、次いで慌てて記憶を漁る。
「ん……あー、そんな事言った気がしないでも?」
「カガリ、それはいくら何でも酷くないか? セイランさんにとってはとても大事な約束の様だが」
何ともまぁ酷い話である。
ユウナにとっては正に己を、人生を変えさせられた約束であったと言うのに、当の本人は完全に頭の片隅に追いやっているではないか。
アスランの呆れた声に、冷や汗交じりで返したカガリを見て、ユウナも追撃を加えていく。
「あぁ、忘れているなんて君は本当に罪づくりな子だね。でも僕はちゃんと覚えている。そして、今日はその答えを示しに来たんだよ」
「答えって……それじゃ」
「あぁ。僕は君に……僕の成すべきことを示しに来た」
お茶らけた雰囲気はもう鳴りを潜め、ここ数年で大成した政治家の顔がそこにはあった。
一体何を、どんなことを告げてくるのか。
政敵であるユウナの答えに、カガリは固唾をのんでその言葉を待った。
「カガリ────オーブの政治より君を排斥する」
それは、全くの予想外で、全く理解の及ばない。
不可解だらけの提案であった。
「さて、よく来てくれたな──2人共」
静かな部屋で、直立不動なまま。
投げられた歓迎の言葉に、むすくれた表情と気配でそれぞれ敬礼を返すのはシン・アスカとヤヨイ・キサラギ。
そしてこの部屋はタケルの……クルース・ラウラに宛がわれた士官室である。
タリアとの会談の後、艦橋にて戦闘記録を確認したタケルは、日を改めてから2人を呼び出した。
無論理由は1つ。SEEDの発現に至った事を確認する為である。
「ラウラさん、一体全体何用でしょうか。私達は本日の訓練規定がまだなのですが」
「そうですよ。アンタが残していったカリキュラムのせいで、俺達毎日忙しいんですから」
「私が残した? 何のことだかよくわからないな」
「またそんな……しらばっくれて……」
呪詛の様に、シンは小さく吐き捨てた。
シンとてもう理解している。目の前の仮面野郎がタケル・アマノだという事実を。
そして彼がオーブでタリアに提出した訓練カリキュラムによって、シンには大いに厳しい訓練が課せられていた。
一言くらいは文句も言いたい所なのである。
「グラディス艦長から報告を受けた。君達2人は先の戦闘で随分と活躍したそうじゃないか。良ければその時の事を少し聞かせてもらえないか」
「戦闘の話? なんでそんなまた」
「聞かせろと言われましても、何を答えれば良いのでしょうか。もう少し具体的にお願いします」
「やれやれ、随分と嫌われたものだ。もう少し柔らかい対応にしてもらえないものか」
「どの口がそんな事を言いますか……」
ぼそりと、今度はヤヨイが吐き捨てる。
結局、ルナマリアにも止められ彼の正体を発覚させる証拠を手に入れられずじまいのヤヨイ。
どうにか仮面と共に化けの皮を剥いでやりたいとは思うものの、ルナマリアの言う通り上官に当たる彼に手荒い手段を繰り出せるわけもなく。ましてや目の前の男はそれを事も無げにあしらう事だろう。
燻る感情は鬱憤となって漏れ出ていた。
「はぁ……とにかく、話を聞かせてもらうぞ。
戦闘記録を確認した。2人は戦闘開始からある時を境に、反応速度が格段に向上していた。思い当たる節は無いか?」
艦橋にて、タケルは先の戦闘記録を確認した。
余談だがこの時、オペレーターとしてメイリンが映像分析に一役買った事もあり、スムーズに事は運んだ。
終始上機嫌なメイリンが印象的だったと、艦橋にいたアーサー・トライン氏は語った。
それはさておき、戦闘記録から見られたシンとヤヨイの変化。
そこにはタケルの予見する通り、SEED発現の兆しが垣間見えていた。
敵機の動きに対する反応の速さ。戦場の隅々まで広がる視野の広さ。
そして、回避軌道一つ取ってもわかる、機体制御の精度。
確信をもって、タケルは2人へと問いかける。
「思い当たる節、でありますか? そんなこと言われても、何て言うか夢中だったっていうか」
「君は本当に感覚派だな。もう少しまともに論じる事はできないのか?」
「なっ、大きなお世話ですよ!」
「ヤヨイ・キサラギ、君はどうだ?」
「私は──」
数秒、考えをまとめる様に、ヤヨイは思考に耽ってから口を開いた。
「そう、ですね。
まず最初に雑念が消えました。シンが言う様に夢中になったと言うべきでしょうか……ミネルバの危機への焦燥、仲間の危機への不安。それらの雑念が消えて、100%戦闘行為だけに集中できたような没入感がありました」
「ふむ……シン・アスカ、どうだ?」
「俺も……そんな感じです。どんどんミネルバが攻撃を受けてヤバいって焦ってましたけど、そういうの全部消えて、ミネルバを守る為にできる事を全てやってやるって感じになって」
「なるほどね。他には?」
「他に……何て言うか、めちゃくちゃ頭が回る様になりました。コクピットに出てくる情報1つ1つに気を回せて、判断出来るようになったというか」
「俯瞰すると言うのでしょうか。戦場の状況が手に取るようにわかるような感覚を、私も覚えています」
いつの間にやら素直に答えを返してくる2人の言葉を聞きながら、タケルは胸中で可能性であった話を確定の事実へと書き換えた。
2人の言葉からも2人のあの変化がSEEDの発現である事に間違いは無いだろう。
そうなれば次なる問題が出てくる。
「2人共、目を閉じろ」
奇妙な指示に訝しげにしながらも、シンとヤヨイは一度顔を見合わせてから大人しくタケルの指示に従い目をとじた。
「な、なんなんですか一体」
「視界を閉じた方が記憶の想起はしやすい。
今度は答えを口にする必要は無い。考えるだけで良い────その変化に至る前、お前達は何を思っていた?」
何を、思っていた?
投げられた問いに疑問を抱きながらも、2人はゆっくりと閉ざされた視界の中で思案に耽っていく。
気を遣う様に物音ひとつ立てずタケルは2人を見守り、部屋には奇妙な沈黙が流れた。
記憶を辿っていく。
シン・アスカはあの変化へと至る前、己の無力さに絶望し、己の非力さに怒りを抱いた。
ヤヨイ・キサラギはあの時、シンの目の前で敵に墜とされ、大切な仲間に重荷を背負わせることを後悔した。大切な誰かの目の前で、落とされること等あってはならないと断じた。
「──目を開けろ」
記憶の整理が済んだ頃、タケルの声に現実へと帰ってきた2人。
揃って、どこか憑き物が落ちた様な……否、どちらかと言うと何かを宿した様な面持ちが2人の表情に垣間見えた。
「思い出せたか?」
「──はい」
「一応」
「それは語らなくていい。きっと君達2人にとっては大切な想いの筈だ」
静かに、だが大きく息を吐いて2人は肩を落としていく。
想起した記憶に、知らず肩に力が入っていた様であった。
「あの、一体何なんですか。ここまでの質問と言い、何か知ってるんですよね」
「知っているよ、多分。とは言っても私も経験則の域をでないが」
「では、貴方も同じような経験を?」
「戦場では何度かな。だからこれだけは言っておく。
決して、あの変化に縋るような事はするなよ。あれは自身の力と言うには似て非なるものだ。吞まれれば己を見失う────深みにはまれば、自らを傷つける。そう言う代物だ」
厳しい声音に、シンは小さく息を呑み、ヤヨイもまた視線を鋭くさせてタケルを見返した。
「なるほど、宇宙での貴方の変調はそれが原因だったのですね」
「手痛──何の話だ? 宇宙での変調と言うのは記憶にないが」
手痛い所を突いてくる。そんな言葉が思わず出そうになって、慌ててタケルは取り繕った、
取り繕えているのかどうかは甚だ疑問ではあるが、とにかく取り繕った。
中々上手い誘導尋問である。タケルはヤヨイへの警戒度を引き上げた。
「あの……それ止めにしませんか? ぶっちゃけ面倒ですし」
「それとはなんだシン・アスカ。とりあえず聞きたいことは概ね聞けた。2人共訓練に戻ると良い。退室してくれ」
これ以上の追求は御免だとタケルは切り札、“出ていけ”を切った。
ここはザフトの艦内。そして曲がりなりにもタケルは上官の立ち位置に居る。
指示を下せば、彼等に拒否権は無い。
「そうですか。えぇ……わかりました、では失礼します」
「えっ? ちょっ、ヤヨイ?」
そんなタケルの姿に、ヤヨイは小さく含み笑いを見せながら敬礼。踵を返していく。
シンも慌ててその後に続いて部屋を退出していった。
危うい局面を回避したタケルは、静かになった部屋で大きく溜め息を吐くのだった。
「良いのかよ、ヤヨイ。あいつに何か言いたい事あるんだろ?」
通路で並び立って、少々不満げにシンはヤヨイへと声をかけた。
「良いも悪いもないでしょう。退室しろと言われたのなら従うだけです」
「まぁ、そりゃそうかもしれないけどさ……つーか良くわかったよな。あいつがオーブのタケル・アマノだって」
「わかるでしょう普通に。声も同じ、身体的特徴も一致。更にはMSを扱う技量まで同じです。同一人物に決まっています」
「声や身体的特徴は分かるけど……なんなんだよ、そのMSを扱う技量って」
「見なかったのですか? 格納庫に入って来た時のスラスターの加減の仕方を。吐き出される音は最小限に留め、着地の時も振動を極力減らす様な微調整────認めたくはないですがあれ程繊細な操縦をできるパイロットなど、あの人以外にそうは居ないはずです」
「ヤヨイ……お前いつもそんなとこ見てるのか?」
「そんなわけ無いでしょう。シンはもう少し疑う事を覚えた方が良いと思います」
「はぁ? なんだよそれ」
「何でもかんでも信用していては、いずれ誰かに利用されてしまいますよ。例えば、あの仮面の男とかに」
「はっ、絶対そんな事になるもんかよ。大体俺、アイツの事大っ嫌いだし」
「それは奇遇ですね。私も決して好──」
好き好む人間ではない。
そう言おうとして、しかし口が鋼の如く硬く動かなくなり、ヤヨイは言葉を止めた。
急に動きを止めたヤヨイを不思議そうに見つめるシンの視線を躱しながら数秒────奇妙な硬直は消え、金縛りの様に動かなくなったヤヨイの身体は自由を取り戻していく。
「どうしたんだ、ヤヨイ? 急に固まって」
「いえ、何でもないです。
シン、嫌いと言う気持ちは分からなくありませんが、それでも今後はあの人が上官です。軍内部において好きだの嫌いだので関係を構築するわけにはいきませんよ」
「そのくらい俺だってわかってるって。ルナみたいに言うなよな。最近は何かにつけて年上風というか先輩風というか……煩わしいんだよな」
「世の青少年が聞けば怒られますよ。シンには良いお姉さんだと思いますが」
「やめろって。そんなことより早く行こうぜ。あいつのせいで最近の訓練規定キツいんだからさ」
「それはシンとルナマリアだけです。私とレイはそこまで厳しくありません」
「はぁ! なんだよそれ!」
ヤヨイからもたらされる予想外な事実に不満たらたらな様子のシン。
そんな彼の様子に苦笑しながら、ヤヨイは共に並びたって訓練エリアへと急いだ。
いつの間にか、胸の内にあった彼への悪感情はどこかへと追いやられていた。
ユウナ優秀の理由とカガリ至上主義の理由。
元を辿ると主人公がいてカガリが影響されて、それが彼にもつながっていくという流れ。
気になるのがユウナはウナトの実子で良かったのだろうか。5大氏族は世襲じゃ無いらしいけど、他はどうなのだろう。それ次第でちょっと書き換えないとです。一応少し調べてみたけど、わざわざ養子とかの記述は見当たらなかったから実子と判断してます。
感想、評価、誠にありがとうございます。
お楽しみいただけている声をもらえて作者は嬉しいです。
シナリオは出来上がっていますので、モチベを維持して完結まで書き上げる所存です。