先は長いですね。
“ミネルバは、ジブラルタルへと向かいスエズ攻略中の駐留軍を支援せよ。”
プラント本国からの指令を受け、ミネルバはカーペンタリアにて修理を施した後、目的地となるジブラルタルへと向かう事となる。
カーペンタリアにてボズゴロフ級潜水母艦“ニーラゴンゴ”を引き連れ西進。インド洋を横断する。
しかし、この動きは既に大西洋連邦に察知されていた。
地球軍空母J.P.ジョーンズ。
「くぅ〜、やっぱり地上は良いわね。地に足がつく感じがして」
空母の広い甲板に出たユリス・ラングベルトは、呑気に伸びをしながら大海原を見やった。
天気は見事なまでに快晴。気持ちの良い日和と共に目に映る景色は、世界の情勢など忘れさせる程に穏やかである。
「それにしても、宇宙から降ろされたかと思えば早々にザフトの新造艦を討ちにいけ、ね…………上のクソ共は随分と焦ってるらしい」
静かに、ユリスは落ち着いたはずの心で侮蔑を吐き捨てた。
ファントムペインに宛てがわれる任務の重要性は高い。下される指令はいずれも、戦局を変える様な作戦ばかりである。
高いコストをかけて生み出した強化人間達を有しているのだから、当然と言えば当然の運用だろう。
そんな彼らに回された指示がミネルバの撃沈となれば、大西洋連邦にとって目下最大の標的と言うところだろうか。
本国の防衛に成功し、積極的自衛権の行使などと言う形骸化した言葉の裏で、着実に地上へと歩を進めているザフトの動きを見れば────連合が慌てるのも無理はない。
強引な開戦からここまで、プラントにもオーブにもしてやられた連合の立場は苦しく、地球圏に蔓延するはずだった反コーディネーター感情はやや鎮静の向きにあった。
少しでも戦果を取り沙汰にし、地球圏での世論を煽らなくてはならない。
「白羽の矢が立つのは良いけど、やる気出ないわね」
ふぅ、と小さくため息を吐きながらユリスは呟いた。
元来、彼女は戦場が……戦うことが好きな人間である。
今でこそエクステンデッドである3人のお目付役が板に付いてきているが、戦場にいる時こそ自分が最も自由で最も生きている時なのだと実感している。
宇宙でタケルとやり合う事が出来たのは、彼女にとって久方ぶりの幸福な時間だったと言って良いだろう。
故に、今回の作戦には気が乗らなかった。
引き連れているのはとても歴戦とは言えない新兵上がりのパイロットのみ。機体こそ量産機の中ではウインダムと言う最新のものだが、そもそもナチュラルのパイロットでまともにMSを扱える者は少ない。それが新兵上がりなら猶更だ。
精々がライフルで数頼みの弾幕くらいしか期待できまい。
必然、作戦の要はファントムペイン────引いては、ユリスが監督役を仰せつかる彼等が担う。
となれば、彼女は一歩引いて彼等の面倒を見る側だ。自由奔放に戦う事は出来ない。
「あーもう、これも全部兄さんのせいよ! 2年ぶりだって言うのに全然衰えずに私に応えてくれるんだもの。あの戦いのせいで疼いちゃって仕方ない」
そうだ。宇宙でタケルとやり合う前まではスティング達の強奪作戦の監視であったり、艦内待機であったりと難なくこなせていたはずなのだ。
だがしかし、落ち着くことを覚えたばかりの彼女にとって久方ぶりの宿敵との死闘はご褒美に過ぎた。
一瞬でも気を抜けば墜とされるであろう、限界ギリギリの命のやり取り。
互いに微かな繋がりがあるからこそ、互いが込める殺意が感じられる。
まるで麻薬の様に、ユリスはタケルとの戦いを思い出しては、あの命を取り合う死闘を求めてしまうようになっていた。
「はぁ、ステラの顔でも見に行こうかしら────ん?」
ユリスの耳が小さな諍いの声を聞きつけた。
微かに聞こえた声に目を向ければ、広い甲板の端の方で見慣れた少年と少女を見つけた。
「やめときなよ、俺ら第81独立機動軍でさ。ボーっとしてっけど、そいつもキレるとまーじ怖いよぉ」
「ファ、ファントムペイン!!」
「うわぁ!」
ぼんやりと海を眺めていたステラにちょっかいを掛ける愚か者達が居たのだろう。
たっぷり脅しをくれてやりながら、アウルが追い払う光景を見て、ユリスの口元がほんのり緩む。
嘗ての彼等……ブーステッドマンと同じ消耗品扱いでありながら、少なくとも彼等にはしっかりとした仲間意識がある。
スティングは年上らしくステラの事を良く気に掛けてくれるし、口は悪いがアウルだって今の様にステラを助けてくれるのだ。先程の場合助けられたのはステラなのか、逃げて行った彼等なのかは微妙なところではあるが。
そしてユリスとしても、柄にもなく彼等を仲間として認識してしまっている。
ユニウスセブンの戦いで彼等が討たれそうになった時、らしくもなく動揺と怒りに染まったのは、以前の彼女ではありえなかった事である。
「へ~面白いものが見れた。立派なナイト気取りじゃない、アウル」
「げっ、ユリス……」
「ユリス!」
まるで飼い主を見つけた子犬の様に顔を輝かせて駆け寄ってくるステラを抱き止めながら、ユリスは厭らしい笑みでアウルを見やった。
「アウルがあんなことをするなんて予想外だったけど、ありがとね。ステラが問題を起こせば、色々とまずい事にも成り兼ねないから助かったわ」
彼等は人間兵器だ。
MSを扱う生体部品であり、消耗品。軍部に害をなすのであれば、処分だってあり得る。
無論、先程の様な些細な事ではそんな話に至るわけもないだろうが、エクステンデッドの評価に影響する事は変わらない。
正規部隊とのいざこざなど御免である。
「別に……助けたとかそんなんじゃねえよ」
「照れるな照れるな」
「ちょっ!? おま、撫でんなよ! そんな事より、ネオから呼びだしだぜ」
「呼び出し? ブリーフィングかしら」
「なんでも丁度いいところに使える戦力があったから作戦を変えるんだってさ」
「ふぅん……了解。それじゃステラ、行くわよ」
「うん!」
「あ、待てよユリス。置いてくなって!」
ステラの隣へと並び立ち、今度はどれだけ戦果を挙げられるだろうなと。そんな事を笑顔で語るアウルとステラを見て。
ユリス・ラングベルトは柄にもなく、彼等を庇護する事を胸に留めるのであった。
「────撃墜判定、戦闘終了だな。また君の負けだシン・アスカ。君はもう少し冷静に戦えないものか?」
ミネルバ艦内の訓練エリア。
シミュレーターにて撃墜判定を受けたシンが小さく唸る中、訓練相手であったクルース……もといタケルは筐体より出て来るとシンへと歩み寄った。
相変わらず生意気な気配は消えていないが少なくとも上官として認識はしているのだろう。
負けず嫌いが高じてタケルへと挑戦するところは変わらないが、以前よりは素直に敗北を受け止めている様子である。
「ぐぬぬ、あんた……じゃなくて、隊長! 訓練なんだからもう少し手加減してくださいよ!」
「バカを言うな。そんな訓練がなんの役に立つ」
「だからって、これ見よがしにこっちの攻撃を避けてカウンターで撃墜って、やられてる俺はおちょくられてるみたいでムカつきますって!」
タケルを見上げながら、不平不満をぶつくさと述べるシン。
だがタケルとしてはSEEDの発現に至ったシンからあの強烈な全能感を払拭するため、完膚なきまでに叩くつもりであったので当然だ。
既にヤヨイは先んじてその洗礼を受けている──表向きは隊長となるタケルが彼等の力量を把握するためと言う名目であった。
そんなタケルの思惑など露知らずだろうが、そうは言っても負けず嫌いで生意気盛りなシン・アスカにとって、大人げない程全力で仕留めに来るタケルのやり方は気に入らなかった。
「はぁ、あのなぁシン。カウンターを喰らって撃墜って事は君の動きがわかりやすいんだ。だから動きが読まれてカウンターを取られる。言っただろう、もう少し冷静に戦えと。レイを見習え。
ほら、次が待っている。早くシミュレーターから降りろ────次、ルナマリアだ。準備してくれ」
「はーい。お手柔らかにお願いします」
待ち構えていたであろうルナマリアが立ち上がり筐体へと向かう。
そんな彼女の間延びした声と様子に、タケルは頭を押さえて呻いた。
「君は普段通り過ぎる。もう少し緊張感を持ってくれないか?」
「その仮面を外してくれるなら考えますよ」
「じゃあ良い。その代わり不足している部分を徹底的に叩かせてもらう」
正体が割れ、更にパイロットの中でルナマリアだけはタケルの素の顔を知っている。
故に距離感の近いルナマリアだが、いつまでもそれを許しておく気はないと、タケルは声音に厳しいものを乗せてルナマリアへと返した。
いっそシンを叩く時よりマジな雰囲気のタケルに、ルナマリアはつぅと冷や汗を伝わせる。
「ひぇ!? やだなぁ、冗談ですよ」
「訓練中に冗談とは余裕だな。やはり本気でいく必要がありそうだ」
残念ながら彼女の定めは変わらない様である。
数分後には少女の悲痛な悲鳴が響き渡ることになった。
「くっそー、全然敵わない。俺の時だけマジになって……まだアスハに文句を言ったことを根に持ってるのかよアイツ」
ヤヨイの次にタケルに打ちのめされて休憩中のレイの元へと歩み寄りながら、収まらない不機嫌さを出してシンは座った。
「そんな事はないと思うがな。少なくとも、冷静に戦えと言うのは今のお前にとって最も大事な事だと俺も思う。むしろ、お前の方が色々と根に持って気持ちが動きに乗っていないか?」
「そんな事…………」
言われて、少し先程の訓練を振り返る。
確かに、いきなりFAITHになって現れたタケルに納得できない気持ちはあった。
そもそもシンは彼の事が嫌いである。訓練だろうが隊長だろうが負かしてやると言う腹積もりでいた。
その為か、気持ちが逸って動きが前のめりであったことは否定できないだろう。
「あの人の助言は的確だ。俺も先程、勝てる確率を上げる術を持てと言われた」
「勝てる確率を上げろって……そんなのは当たり前の事だろ?」
「お前が考える勝てる確率とは別の事だ。俺にとっては間違いなく金言だ」
「別の事って、どう言う事なんだ?」
興味津々と言った感じで、シンはレイを見やった。
彼我の実力差をこれでもかと叩きこまれた今、少しでも力となる何かが欲しいのだろう。
別段隠す意味もないレイは、肩を竦めながらそれに応じていやった。
「俺は敵と相対する時、無意識に賭けを避ける傾向にあるらしい」
「賭け?」
「あぁ……接近して勝負に出る。攻勢を強めて勝負を決める。そう言う、戦いを決める時の事だ。
俺は目算で8割勝てる様な勝負には出られるが、6割では安全をとって動けなくなる。要するに思い切りがないわけだ。それを、あの人は見抜いていた」
「そんなの、戦いの中じゃ普通な話だろ。失敗したら落とされるわけだし」
「だが強敵相手にそんな事を言ってはいられまい。だからこそ、勝負に踏み込むための勝てる要素を身につける必要がある」
「勝てる要素って?」
「ライフル一つ取っても、連射、狙撃、接射、牽制と撃ち方はいくらでもある。要するに、手段を増やせと言う事だな。そうして切り札を増やすことが、勝負所で強さに繋がると言う事だ」
「ふぅ~ん、レイでもそんな感じなのか。じゃあやっぱり俺も──」
「ですが、冷静に成れというのは戦いにおける心構えの事でしょう。逆を言えば実となる戦闘技術において、シンに大きな改善点が無いと言う事かもしれませんよ」
2人の会話に割って入るように、ヤヨイの声が飛び込んでくる。
シン同様、全力で叩きのめされた故やや不機嫌さを露わにしているが彼程ではない。敗北を素直に受け止めつつ、やはり悔しさはあるといった所であろうか。
「ふっ、そんなお優しい評価なわけがないだろう。あの人が俺達とやり合って、問題点を見つけられないはずがない」
「むっ、何ですかレイ。妙にあの男の肩を持ちますね」
「別に、そんなつもりは無いんだが……」
怪しい────妙な気配を見せるレイに、シンとヤヨイは訝しんだ。
何と言うか、今日のレイは機嫌が良い。すこぶる機嫌が良いと言えるだろうか。
更に言うなら、機嫌が良いだけでこれ程レイが彼を褒め称えるだろうか。
否だ。絶対に彼との間に何かがあったに違いない。
シンとヤヨイは、そう確信した。
「なぁなぁレイ~、あいつと何かあったのか?」
「私達は仲間の筈です。新しく来た人間の事を良く知るべきです。つまり、レイが得たあの人の情報は共有するべきだと考えます」
シンはタケルの弱点なりを探る目的で。
ヤヨイは堅物なはずのレイがいとも容易く手懐けられたその過程を知るべく。
興味津々と言った様子でレイへと迫った。
「やれやれ、2人してバカな事を──」
「うにゃあああ!!」
断ろうと口を開いたレイを阻むように、奇声をあげながらワインレッドの頭が飛び込んでくる。
闖入者は迷うことなく目的の人物である人形の様な少女に抱き着くと、わざとらしくすすり泣きを始めた。
「うぅ……うぅう……」
「ルナマリア? 一体なんの騒ぎですか?」
「うぅ、助けてヤヨイ。仮面を着けたお兄さんが苛めてくるの!」
「は? バカなことを言ってないで早く訓練に戻って下さい。少なくとも理不尽な訓練ではないはずです。そうでしょう、仮面を着けたお兄さん?」
彼女を連れ戻しに来たタケルへ向かって、ヤヨイは確認する様に言い放った。
この時仮面の奥で、タケルが小さく喜んでいたのは内緒である。
「ヤヨイの言う通りだ。決して理不尽な訓練はやらせていない」
「嘘だ! 私がメイリンやヤヨイと違って年下妹キャラじゃないから優しくしてくれないんだ!」
「ルナ、流石にそれは違うだろ」
「と言うか隊長からすればルナマリアだって年下だ。その理論ならメイリンやヤヨイと同じくお前も同じ妹枠だろう」
「へへ、試しに隊長をお兄ちゃんとか言ってみれば良いんじゃないか、ルナ」
「そっかその手が…………んんっ、“お兄ちゃん”」
哀れ、人はかくも容易く禁忌に身を染める。
「は?」
「あ”ぁ?」
「ひぃ!?」
瞬間、バカな提案をしたシンにはタケルから。それを実行に移したルナマリアにはヤヨイから。それぞれ絶対零度の視線を向けられて、2人は仲良く固まった。
向けられた視線だけでその身が凍り付いたと言っても良い。
上官からの圧に屈してシンの凍り付いた身体は小刻みに震え、同期の少女が向ける目元が全く笑っていない微笑に晒されルナマリアは恐怖に身を縮める。
「シン・アスカ、次出撃するときは背後に気を付ける事だ」
「ルナマリア、戦場での被弾の半分は味方からの誤射だという話を私は聞いたことがあります」
おふざけは災いの元である────バカ2人はそれを骨の髄まで理解させられる事となった。
「(何故ヤヨイが怒っているんだ?)」
利口な少年が1人、誰も突っ込まない奇妙な事実に頭をひねる。
訓練エリアはそのまま、誰も何も言葉を発することのできない極寒の空気へと突入していった。
そんな時である──
『コンディションレッド発令、コンディションレッド発令。パイロットは搭乗機にて待機せよ!』
そんな空気を吹き飛ばすように、メイリン・ホークの緊急アナウンスが流れるのだった。
ミネルバにコンディションレッドが発令される少し前。
地球軍空母J.P.ジョーンズでは、指揮官であるネオ・ロアノークがとある場所と通信を繋いでいた。
『当部隊のウィンダムを全機出せだと!? なにをふざけたことを!』
「ふざけてんのはどっちさ? 相手はボズゴロフ級とミネルバだぞぉ。それでも落とせるかどうか怪しいってのに。この間のオーブ沖会戦のデータ、あんた見てないのか?」
呆れ半分に聞こえて来る音声に返すネオ。
どうやら相手はどこかの部隊の司令官の様である。
『そういうことを言っているのではない! 我々はここに対カーペンタリア前線基地を造るために派遣された部隊だ。その任務もままならないまま、貴官にモビルスーツなど──』
「その基地も何も、すべてはザフトを討つためだろう? 寝ぼけたこと言ってないでとっとと全機だせ! そっちの防衛にはガイアを置いておいてやる」
『いやぁしかし』
「命令だ! 急げよ」
有無を言わさずで通信を切り、ネオは一息ついた。
先程の通信の相手…………それはインド洋を目の前にして構えている前線基地に配備されていた部隊の司令官であった。
基地とは言っても、ユニウスセブン落下以後から建設が始まっており、まだまだ未完成。
ザフトに察知されないために、大々的な人と物資の移動を嫌ったため現地人を無理やり招聘しての建設となり、作業は遅々として進んでいないのが現状である。
そんな、インド洋前線基地には来るべき侵攻作戦に備えウインダムが30機も配備されていた。
ネオ・ロアノークはこれ幸いと今回のミネルバ襲撃にこれを動員するべく、基地指令へと通達をしたわけである。
「はぁ、全く。少しは状況を察しろと言いたいねぇ────カオス、ガイア、アビスは?」
「全機発進準備完了です」
「ユリスとディザスターは?」
「それが……必要になったら呼べと」
「なんだって……ちっ、あの聞かん坊が。仕方ない、すぐに出られる様にしておけとだけ伝えておけ」
「はい!」
「よし、俺も出るからな。ジョーンズは所定の場所を動くなよ」
そう言い残して、ネオもまた自らの乗機へと向かい艦橋を出て行った。
「いいなぁみんな。ステラだけお留守番」
パイロットスーツを着込みながら、ステラはわずかに不満と言いたげな表情で呟いた。
普段はぼーっとしてる彼女にしては珍しく、その表情に気持ちが表れている。
「しょうがねえじゃん。ガイア飛べねえし、泳げねえし」
今から向かう場所は大海原での海戦。
必然、空を飛べず水中への適性もないガイアでは戦闘は厳しい。
ネオが先ほど指示を下していた様に、前線基地のお守りがステラに与えられた任務であった。
「まぁ、こればっかりは仕方ないわね」
「ユリス……でも……」
「海でも見ながらいい子で待ってな。好きなんだろ?」
「──うん」
スティングの言葉に渋々と言う感じではあるが、ステラは納得する様に頷いた。
ちなみにこの時、ユリスは気の利いた言葉もかけられずあまつさえスティングに先手を打たれた事に密かに傷心。
戦いしか知らない彼女の事を考えれば仕方ないと言えば仕方ないが、大事な妹分の心に欠片も寄り添えない自身に絶望した。
「ふんっ、やるじゃないスティング。今日のところは負けを認めておいてあげる」
「あ? 一体お前は何と争ってんだ?」
「その余裕も今のうちだけよ。覚えておきなさい」
「だから何だって──」
スティングの言葉に反応する事なく、敗北感に打ちひしがれた彼女は、愛機の元へそそくさと向かっていくのだった。
「なんなんだ、ユリスの奴」
「さぁな。俺にもわかんねえよ。とりあえず、俺たちも行くぞ」
「あいよ」
残されたアウルとスティングも、自身が乗る乗機へと向かった。
こうして、インド洋での戦いは幕を上げる。
インド洋前線基地からウインダム30機が飛び立ち、作戦の主力となるファントムペインからはネオの専用チューンされたウインダムにカオスとガイアのセカンドステージが発進。
そしてジョーンズで待機中であるユリスのディザスターが控えている。
これらを捕捉したミネルバもコンディションレッドを発令。
戦闘は避けられないものと判断して、迎撃体制を取り始める。
「艦長! MS反応…………数、30を超えます!」
「なんですって、機種は?」
「──地球軍ウインダム。他カオスの機影も確認できます」
「まさか、あの部隊だと言うの。一体どこから……付近に母艦は?」
「索敵……感無し。艦影、確認できません」
洋上での敵機の捕捉。近くに母艦がいなくては成立しない。
しかし、タリアの予測を裏切り、索敵は空を切った。
「また、ミラージュコロイドでしょうか?」
「海で? ありえないわ」
アーサーの推測を、タリアは切って捨てる。
驚異的なステルス性を発揮するミラージュコロイドだが、ガス状のコロイド粒子を装甲表面に散布する性質上、水中では展開できない。仮に空中で展開したとしても、その場合は飛行維持の為に用いられるスラスター噴射によって熱反射を伴いステルス性を損なう。
コロイド展開中は、熱を伴わない移動を行う必要があるのだ。
即ち、海上でのミラージュコロイドは現実的ではない。
「あれこれ言ってる暇はないわ────ブリッジ遮蔽。対モビルスーツ戦闘用意。ニーラゴンゴとの回線固定」
『グラディス艦長』
そこへ、タケルから通信が飛び込み、エスペラントに乗り込んだタケルの姿が艦橋モニタに映し出された。
『敵は、地球軍ですか?』
「えぇ、どうやらまた待ち伏せされていたようだわ。かなりの数よ」
『数頼みは地球軍の常だから仕方ないでしょう』
「MS隊は任せて良いのかしら? 私に貴方への命令権はないのだけれど」
『無論。それならそちらは艦の方に集中してもらえれば。MS隊は私の方で指揮をとらせてもらいます。丁度実力も把握したところなので』
「頼もしいわね、本当に……では、お願いするわ」
『了解しました。まぁ、数の不利と艦の防衛には慣れたものです。ご安心を』
「そんなこと言って、油断していたら足元をすくわれるわよ」
『それはトライン副長に言うべきかと。私の発言で一喜一憂しているようなので』
「アーサー!」
「えっ、えぇえ!?」
『では、出撃させてもらいます』
通信を切ったタケルは即座にMS部隊とCICのメイリンに回線を繋いだ。
「ミネルバMS隊、これより艦防衛の為に出撃する。敵の数は多いが向こうも新兵だらけの事だろう。対して君達は優秀だ。機体とパイロットの格の違いを見せてやれ」
『了解しました』
『了解』
『わかりましたけど……後ろから撃たないで下さいよ!』
『ヤヨイ、あんたもだからね!』
頼もしい返事が聞こえたかと思えば、半分は奇妙な恐怖に染まっており、タケルはこんな時に何をと胸中で頭を抱えた。
戦闘中くらいは真面目になって欲しいと切に願いながら、意識して2人の発言をスルーすると、今度はメイリンへと意識を向ける。
「メイリン・ホーク、発進シークエンスを。私が先に出て進路を確保する。1分後にセイバーとインパルス。その後にザクだ。いけるな?」
『は、はい!』
「では、よろしく頼む」
繋いでいた回線を全てシャット。タケルはオペレートに従いカタパルトへと乗せられていくエスペラントの中で機体状況をチェックした。
「(エスペラントの初陣か。機体については隅々まで調べておいたけど変なところは無かった。盗聴器の類も無し。システム面でも何も細工は無い……一応、信用はあるのかな。単に利用したいだけかもしれないけど。とにかく、こんなところで墜とされるわけにもいかないし────)」
今やるべきこととして、目の前の戦いを見据え、タケルは目を見開いた。
「(悪いけど、手加減はしてやれないよ)」
『右舷ハッチ開放。エスペラント発進、どうぞ!』
「了解。クルース・ラウラ────エスペラント、出るぞ!」
純白に染まる装甲を煌かせ、希望の翼はインド洋の空を舞う。
エスペラント、出るぞ。という事で次回初陣。
でもまぁオリキャラの宿命というか、相手をするのはきっと彼女。
久方ぶりにステラ出てきてくれて嬉しい作者です。ほとんど返事しかしてないけど……
そしてアニメを見直してて思ったのが、アスランってセイバー乗ってる時変形ガチャガチャして遊んでばっかりですね。ほとんど真面目に戦ってなかったです。
そんなんだからフリーダムにさくっとバラバラにされるんだ。慣熟訓練しておきなさい全く。
というわけで次回もお楽しみに。感想よろしくお願いいたします。
また、たくさんのコメントと評価を頂けたことに感謝しております。