機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

182 / 330
お仕事忙しいし夏バテとかで体調悪いし、もう散々な状態。

そして今回はきっと悪い意味で反響のありそうな話。
心してお読みください。


PHASE-32 胸に宿る悪夢

 

 

「おらぁ!!」

 

 高度より強襲してくるカオス。

 その脚部に備わるビームクロウを、ヤヨイはセイバーをのけぞらせて回避する。

 

「くっ、空中戦でこのセイバーを相手によくも」

 

 宇宙でやり合った時よりもカオスのパイロットの練度が上がっていた。

 成す術なく敗北を喫したユニウスセブンでの戦いが効いたのか、相当機体への慣熟をしてきている事が感じられ、ヤヨイは僅か焦燥を覚えながらもセイバーを駆って反撃に転ずる。

 

「やぁああ!!」

 

 のけ反る勢いに併せて、セイバーの脚部でカオスをかち上げる。同時にビームサーベルを出力し、躯体を捻らせるように回転させて光の刃を翻した。

 

「ちっ、させるかよ!!」

 

 対してスティングはカオスの脚部を折り曲げる事で対応。ビームサーベルとビームクロウが火花を散らしてぶつかり合う。

 

「ここ!」

「もらった!」

 

 瞬間、セイバーは背部のフォルティスビーム砲を接射。

 カオスも起動兵装ポッドを稼働させてビーム砲を放つ。

 互いが放つ光条は交差し、カオスはビームクロウを出力していた脚部を。セイバーはビームサーベルを保持していた右腕部を撃ち抜かれる。

 

 小さな爆発を起こして2機は距離を取った。

 

「くっ……決して軽くない損傷。ですが!」

「このまま引き下がるわけにはいかねえだろうよ!」

 

 武装を扱う大半を担う腕部の破損。

 空中戦においてもっとも重要な、機体バランスを大きく損なう脚部の破損。

 どちらも、戦闘続行に多大な影響を与える損傷であるにもかかわらず、ヤヨイとスティングは撤退を善しとせずに、激闘を再開する。

 

 どちらもが、自分の担う戦力の大きさを把握しているが故だろう。

 数の少ないミネルバの部隊は、MS1機の撤退で戦力低下が著しい。

 対するファントムペインも、数だけは居たウインダム部隊の損耗が激しく、ミネルバのMS隊と渡り合える者が他に居ない。

 

 どちらもが引くに引けない戦力事情なのだ。

 

「宇宙での決着、ここでつけます!」

「カリはここで返させてもらう!!」

 

 互いに僅かなりとも因縁を抱く相手。その相手との戦いに、ヤヨイとスティングは熱を上げていく。

 

 そうして再び2人が銃火を交えようとする刹那。

 

『ダメっ、ステラ!!』

『避けろ! シン!!』

 

 通信越しに飛び込んでくる声は、彼等の仲間が見せる、焦燥を孕んだ声であった。

 

 

 

 

 

 

 戦闘の火蓋が切って落とされてから。

 シン・アスカはその時までどうにか冷静に戦い続けて居た。

 

 

 1つにはタケル・アマノ────もとい、クルース・ラウラの存在が大きいだろう。

 彼にとっては悔しいし気に喰わない話ではあるが、その実力は明白で圧倒的。

 彼の存在は、これまで必死に艦を守る為奔走していたパイロット達にとって、大きな心の支えとなった。

 それはシンとて例外ではなく、訓練で散々打ちのめされたからこそ、彼の実力は本物だと知り、故に直前の訓練で呈された苦言は、戦闘に入る前のシンを落ち着かせてくれた。

 

 ──冷静に戦え。

 

 齎された苦言は、シンにとってどこか枷の様でありながら、事実助言となりシンの戦いに落ち着きを与えていた。

 

 1対1の形となった敵指揮官機とのドックファイト。

 釣りだされた、と言うよりは捉まったと言う方が正しいが、相手の思惑通りに出来上がった戦いの中で、シンは少しずつネオ・ロアノークが駆るウインダムに順応を始めていく。

 

「そこっ!」

「何っ!?」

 

 隙を見出し放たれた光条が、ウインダムのライフルを破壊する。

 僅かな手ごたえを感じながら、即座に攻勢に転じたシンは、インパルスの高い推力を以て接近。

 ビームサーベルでの白兵戦へと移行する。

 

 しかし、そんなインパルスを牽制する様に光の矢が奔った。

 

 戦闘中に少しずつ流されてきたのだろうか。

 いつの間にか、陸地に接近しており、海岸の浅瀬で待ち構えていた黒い機体、ガイアがインパルスを狙い撃ったのだ。

 

「ネオ!」

「ステラ、助かったぞ!」

「ガイア……それに陸地が」

 

 海上での戦いであったことから、無意識のうちにガイアが出てくる可能性を除外していた。

 形成が不利となるこの事態に、シンの胸の内には僅かな焦りが過る。

 だがそんな事より、シンの目を引くものがそこにはあった。

 

「────あれは、まさか前線基地か?」

 

 浅瀬で佇むガイアの直ぐ背後。

 目の当たりにするのはまだ建設途中ではあるものの、シンがそう判断するに足る設備を幾つも備えた施設であった。

 

「あいつら、ここから……ミネルバ!」

 

 すぐさまシンはミネルバへと回線を繋いだ。

 

「ミネルバ、敵の前線基地らしきものを発見した!」

『なんですって。前線基地……こんな所に』

「敵は恐らくここから──はっ!?」

 

 動きを止めたインパルスへと、ネオのウインダムが強襲する。

 タリアからの返事を聞く余裕もなく、再びシンはネオとの戦いを余儀なくされる。

 

『シン、敵前線基地の規模は?』

「くっ、規模って言ったって──」

 

 そんなもの、どう報告すれば良いのか。

 基地面積か? それとも次々と展開されていく対空砲や自走砲の数か? 

 

 思考を回しながらも、ネオのウインダムをライフルの連射で退けて、シンは今一度前線基地を見やった。

 

 

 そうしてシンは、彼に取って最も見てはいけない光景を見てしまう。

 

 

 敷地と思われる広いエリアを大きな鉄柵が囲み、その内側には明らかに民間人と思われる者達が大勢いた。

 突然MS同士が撃ち合う戦闘がすぐ近くで巻き起こり、皆必死に助けを乞い、柵の外へと逃げ出そうとしていた。

 

「なんで、あんなところに民間人が────まさか!?」

 

 強制労働──その言葉がシンの頭をよぎる。

 柵の内側に居る彼等に手を伸ばすように、家族であろう者達が柵の外側に大勢いたのだ。

 そのうちに、彼等は柵を乗り越えようとしよじ登り始めた。

 

 そして、そんな逃げ出そうとする者達へと。

 基地に居た地球軍の兵士たちはライフルで発砲を始めたのだ。

 威嚇などではないそれは、悪意が込められた明確な虐殺。

 

 次々と撃ち抜かれ、物言わぬ骸へと変わっていく人々。

 その光景が。無残な姿に成り果てた人々が。

 

 シンの脳裏に、忌まわしき記憶を蘇らせた。

 

「あっ……あぁ……あぁあああ」

 

 虚ろな瞳となりながら、シンは幻視する。

 焼け爛れた皮膚。面影も無い程にひしゃげた肉体。

 

 無残に飛び散った、小さな(マユ)の手を。

 

 

 

 

 

 ──種が開いた。

 

 

 

「うぁあぁあああ!!」

 

 

 

 獣の如き咆哮を挙げて、シン・アスカはインパルスを駆った。

 

 向かう先は無論、人々が撃たれている眼前の前線基地へと。

 

 

「何っ、いきなり基地に……行かせるかよ。ステラ!!」

「わかった!」

 

 いきなり動き出したインパルスに出遅れたネオは、ステラに指示を下した。

 少しでも足止めをすれば自分も追いつける。後は数の利でどうにでも抑えられる算段であった。

 

 しかし──

 

「えっ?」

 

 高い戦意と共に躍り出てきたMA形態のガイアを、インパルスはまるで意に介さないと言わんばかりに透り抜けた。

 

 飛び掛かろうとするガイアのすぐ傍を、最小限の動きで、最短で。

 それはいっそ見惚れる程に綺麗で無駄を省いた、最速の回避軌道。

 

 機体の勢いを全く殺すことなく、突撃の勢いそのままにガイアを抜いたのだ。

 

 

 そして────

 

 

「う、うわあああ!!」

 

 

 辿り着いた先。インド洋前線基地に降り立ったインパルスは、その勢いのまま巨体でもって居並ぶ地球軍兵士達を踏みつぶした。

 舗装された路面に赤黒い染みを作り、シンは微かに嗤う。

 降り立ったインパルスに恐怖し、更には目の前で仲間が圧死したのを見て、既に地球軍兵士は我先にと逃げ回る様相となっている。

 少なくともこれで、目の前で撃たれる人々は救われるはずだ。

 

 

 ──あとは、逃げ惑う目の前の人でなし共を処分するだけ。

 

 

「────居なくて良いんだ、お前達は」

 

 頭部のCIWSのトリガーに指を掛ける。

 照準を定める事無く、引き鉄は引かれ、鋼鉄の弾丸が前線基地のあちこちで弾けた。

 

「お前達の様な存在は、生きていちゃいけないんだ」

 

 吐き出される弾丸と、基地を焼く光条。

 インパルスによって、インド洋前線基地は凄惨を窮める地獄絵図と化した。

 

 巨大な弾丸に穿たれ肉塊へと変わっていく兵士達。

 破壊しつくされていく基地建造物。

 もっと、もっと、とシンは沸き上がった激情をぶつける様に破壊に傾倒していった。

 

「なんてことを……やめろ、貴様!!」

 

 ネオのウインダムがインパルスへと接近。

 その機体の質量に任せた体当たりでインパルスを浅瀬へと押し出した。

 

 衝突の衝撃で大きくコクピットを揺らされ、シンの意識が飛び掛けるも、直ぐに状況を把握。

 海中に押し倒された機体を起こすと、その憎しみの鎌首を乱入者へと向けた。

 

「邪魔……すんなよ」

 

 無造作に、無遠慮に、インパルスはウインダムの懐へと飛び込んでいく。

 迎撃に放たれる近接防御火器をVPSで雑に受け止め、有無を言わさず接近。

 後退していくウインダムへシールドを投げると同時、シールドへとビームライフルを放った反射射撃でメインカメラを撃ち抜いた。

 

「なんだと!?」

 

 ネオが慄いた時にはもう遅い。

 インパルスは懐にまで飛び込んできており、ビームサーベルで両腕を瞬く間に切り落とされる。

 

「ネオっ、いやぁ!!」

 

 ネオが乗るウインダムの危機に、ステラは悲痛な叫びを挙げてインパルスへと吶喊していく。

 それを流し見てシンは即座にインパルスを動かした。

 両腕を失ったウインダムをガイアの方へと蹴りつける。

 接近に夢中だったステラはこれを回避しきれずに直撃。諸共に海面へと叩きつけられた。

 

「──許されると思うな」

 

 起き上がる時間を与える気はない。

 シンはそのまま2機が落ちた浅瀬へと追従し、起き上がろうとしたガイアを踏みつけ抑えつける。

 

「きゃっ!? このっ、あぐっ!?」

「ステラ! ちっ、動けよ!!」

 

 再び起き上がろうとするガイアを再度踏みつけ、そしてインパルスはビームサーベルを振りかぶった。

 一緒に落ちたネオのウインダムは先の衝撃でシステムがダウンし身動きも取れない。

 

「いや、いやぁ……ネオ、ユリス……助けて……」

 

 冷たい気配が否応にも伝わり、ガイアのコクピットの中で死を感じたステラが身を震わせた。

 それをSEEDによる知覚で、シンは僅かに感じ取り。そしてより一層に、怒りを募らせた。

 

 命の危機に助けを乞う人々を、無惨に殺したのは誰だ。

 必死に生き延びようとする命を、容易く摘み取っていくのは誰だ。

 

「お前達の行い────許されると思うなぁ!!」

 

 激情のままに、シンはインパルスを動かし、光の刃が振り下ろされた。

 それがガイアを断たんとする刹那、インパルスのコクピットに緊急の通信が届く。

 

『避けろ! シン!!』

 

 焦燥に駆られた声音は、タケルのものであり、シンは直感的にインパルスを下がらせる。

 

 その瞬間、太い閃光がインパルスの跡を焼いた。

 直ぐにインパルスのセンサー類が拾う情報を確認してシンは表情を険しくさせる。

 

 接近してくる紫の機体。ディザスターによる介入であった。

 

「はぁああ!!」

 

 ディザスターは腕部のビームサーベルを出力。

 突撃の勢いのままに、インパルスへと叩きつける。

 それをサーベルでそのまま迎え撃ちながらも、インパルスは更に後退。

 結果的にユリスは、ステラやネオからインパルスを遠ざける事に成功した。

 

「スティング、アウル、撤退よ! 大佐とステラを回収しなさい!」

『あぁ? なんだってんだ急に』

『こっちは良い所なんだぜ!』

 

 ヤヨイのセイバーと未だ接戦を繰り広げるスティングは勿論。

 海中を進み、ニーラゴンゴを墜としていたアウルは、続くレイのザクへと標的を定めて意気揚々としていた所であった。

 

「急ぎなさい! これ以上はもう──」

「邪魔を、するなぁ」

「くっ、こいつ!」

 

 それを封殺するかのように、通信越しでユリスの焦りの声を聞き、スティングとアウルは事態の緊急性を察した。

 見ればディザスターが、インパルスの推力に押し負けて後退させられていた。

 

「ちっ、まじかよ……アウル!」

「わかってんよ。ガイアは俺が拾っていく!」

 

 ウインダムとガイアの状況を確認した2人は、それぞれに回収対象を決めた。

 カオスのポッドに備えられたミサイルの一斉射で弾幕を張りセイバーを退けると、即座に反転。

 カオスは両腕を失いバックパックもパージしたウインダムを回収していき、海中では追いつける者の居ないアビスは、そのまま浅瀬へと到着すると、ガイアを回収してそのまま海へと引き摺り込んでいった。

 

「全機、ジョーンズまで後退だ急げ!」

 

 最後にネオから部隊全員に撤退の指示が下り、ミネルバを狙っていたウインダム部隊は次々と撤退していく。

 

 そうして、その場にはインパルスとディザスター。そして少し遅れて追い付いてきたエスペラントだけが残った。

 

「シン、一度下がれ。そいつが相手では──」

「うるさい!!」

 

 ユリスの相手をさせる危険性を考え、下がらせようとするタケルの声をシンは一蹴した。

 一蹴するのはそれだけにとどまらず、ディザスターを押し切ると、蹴りつけて墜とし、更にビームライフルによる追撃。

 回避先を限定する様な4連射の最後で、遂にディザスターの脚部を撃ち抜いた。

 

「なっ!? 嘘でしょ!」

 

 ユリスを驚愕の表情が染める。

 

 タケルとの戦闘中から彼女のSEEDは解けていたし、彼女と相応に張り合えるものなど、タケルやキラと言った本当に一部のパイロットのみ。

 その侮りが、インパルスとシンを過小評価していた事実は否めないだろう。

 だがそれでも、彼女は地球連合内における最強を欲しいままにするパイロットであり、ディザスターもまた、セカンドステージの機体群に後れを取らぬ高性能機。

 

 そこから導き出される大概の予測を、シンとインパルスは上回って見せたのだ。

 

「ちぃっ!! こんな隠し玉……聞いてないわよ兄さん!」

 

 聞かせるつもりの無い悪態を吐いて、ユリスは海面に叩きつけられる前にディザスターの姿勢を制御すると、旗艦ジョーンズの居る座標へと撤退していった。

 

「逃げるなよ」

「待てシン! 無暗に追撃などしては──っ!?」

 

 ディザスターに追い縋ろうとするインパルス。

 そしてそれを止めようとしたタケルのエスペラントに、インド洋前線基地から最後の抵抗と言わんばかりの攻撃が放たれていた。

 

 生き残っていた対空砲の幾つかが起動し、基地に破壊の限りを尽くしたインパルスへと狙いが向けられている。

 

 その光景に、タケルは眉間に皺が寄るのを感じた。

 自走砲や対空砲。確かに多少の威力はあるだろうが、VPS装甲を持つインパルスやエスペラントにまともな効果は見込めない。

 増してや今しがた主力となるMS部隊が全て撤退していったのだ。

 この状況で無為な攻撃など、何の意味も無いだろう。

 

「あいつら……」

「ちっ、MSも無しになんのつもりだ地球軍は。無駄だという事が──」

「俺が基地を破壊してきます」

「何? 何をするつもりだ──お、おいシンっ!?」

 

 どこか抑揚の無い声で言い放ったシンの言葉が理解しきれず戸惑うタケルを余所目に、シンはインパルスを走らせた。

 再び大地へ降り立ち。そして繰り返されるのは過剰なまでの反撃。

 自走砲を踏みつぶし、対空砲を破壊し、逃げ惑う基地の兵士達を散々に撃ち抜く。

 

 その光景に、タケルは数秒の間呆けてしまった。

 それは全くの予想だにしない行動である。

 嗜虐の色すら垣間見える凄惨な行いは、戦争という最中にあっても決して許されるはずのない行為。

 少なくともタケル自身、シンの行いに嫌悪感を抱くのは間違いがなかった。

 

「──なっ、何をしているシン・アスカ! 今すぐ攻撃を中止しろ!」

 

 語気を強めて通信越しにタケルがシンへと命令を下すも、インパルスに停まる気配は無い。

 タケルの胸中が怒りに染まりそうになったその時、通信越しで微かに聞こえるシンの声を聞いた。

 

 

『お前達が居たから、父さんも、母さんも……マユも……』

 

 

 それは戦争が生んだ悲劇の証。

 戦いが齎した悲しき結果。

 

 

『守るんだ……もう2度と、あんな想いをする人がでないように……』

 

 

 うわ言の様に呟かれるその声音に。秘められた憎しみに。

 タケルは僅か恐怖し、そして悲しみに暮れた。

 

 宇宙では正面から反論して見せたが、それでも彼の人生を壊してしまったのは自分(オーブ)だ。

 己の力不足が、彼の様な犠牲者を生んでしまった。

 それは巡り巡って、今目の前で行われた殺戮の一端を担っている。

 

「ごめん、ね……シン・アスカ」

 

 誰にも聞こえない様な微かな呟き。僅かに居た堪れなくなってしまったタケルは自己満足の謝罪を口にした。

 直後、タケルはクルース・ラウラの仮面を被り直し、エスペラントを走らせる。

 

 インパルスが破壊の限りを尽くす前線基地へと降り立ち、今再び放たれ地表を焼こうとしていたビームライフルをシールドで防いで見せた。

 

「──なんの、つもりですか?」

 

 眼前に現れ攻撃を防いだエスペラントを見て、シンの表情は怪訝なものへと変わる。

 脳内を埋め尽くすのは、守る為に湧きあがり続ける破壊衝動。

 その行為への妨害が、シンの頭を苛つかせた。

 

「貴様こそ何のつもりだ、シン・アスカ。命令違反に独断専行。更には虐殺行為……簡単に済ませられはしないぞ」

「討たなきゃ討たれる……それはアンタも知ってるだろ」

「既に戦う意志も力も彼等には無い。貴様のやっている事は作戦行動でもなんでもない、唯の破壊行為だ────攻撃を中止して今すぐミネルバに帰投しろ」

 

 エスペラントのビームライフルを突きつけて、タケルはシンへ帰投を促した。

 これ以上やるのであれば撃つ。その姿勢を見せられたシンは、操縦桿を握る手を振るわせながら、燻る感情を吐き出す。

 

「あんただって言ったはずだ。悪いのは連合だって……攻めて来た奴等だって。あんたもそれで戦ったんだろ! なのに何で──っ!?」

 

 瞬間、インパルスのメインカメラのすぐ横を閃光が奔った。

 放たれたビームライフル────無論、その引き金を引いたのはタケルだ。

 最後の警告と言わんばかりの行いに、シンの胸中は更に荒れた。

 

「──次は当てる。メインカメラを破壊した後は、コアスプレンダーだけを残してインパルスを解体し、無理やりにでもミネルバに連れ帰る。

 そうなりたくなければ自らの意志で帰投しろ、シン・アスカ」

 

 不遜な物言いに、シンの怒りは振り切れていく。

 守れなかった者が。守ってくれなかった者が────今更何を偉そうに。

 

 お前が討てなかったから国を奪われたのではないのか。

 お前が敵を討ってくれれば、家族は死ななくて済んだのではないか。

 

 力無い者の言葉に価値など無い。

 

 SEEDに陥ったが為に。SEEDを発現したが故に。

 シン・アスカはその先鋭化した思考の中で、自身の怒りの源となる“敵”の存在を生かしておいてはならない悪と断じる。

 彼が胸に抱く敵とは、何の罪もない人々を犠牲にする者達であり、またそれを庇い立てするような者も等しく彼の中で敵となった。

 

 即ち──

 

「そうやってあんたは。全部分かった気になって。知ったような事を言って!!」

「──何?」

「何でも全部自分が正しいと、思うなよ!!」

 

 ビームライフルを構え、そして撃つ。

 その簡単な動作を、しかしシンは恐るべき速さと精度でこなして、エスペラントを狙い撃った。

 察知したタケルはエスペラントを飛翔させ、空へと後退させる。

 

「命令違反の次は、上官殺しか……どこまで罪を重ねるつもりだ」

「黙れ!!」

 

 追撃に飛翔してくるインパルスのライフルを躱しながら、タケルは誘う様にエスペラントを海上へと誘導していく。

 機動性はエスペラントが僅かに上回る。逃げ回ることは決して難しくないだろう。

 だが、SEEDに陥ったシンの射撃精度は高く、回避軌道を取らされる分だけ、着実に彼我の距離は縮まっていった。

 

「シン、何をしているのですか! 馬鹿な事は──」

「下がっていろヤヨイ・キサラギ。MS隊は全員、ミネルバに帰投だ。命令に服せ、良いな!」

「し、しかし──」

「巻き添えを食う前に離れて居ろと言っている!」

 

 一喝されたヤヨイは肩を小さく震わせながら、了解の返事と共に戦場を去っていった。

 下手に巻き込んでしまえば、シンの心に大きな傷を負わせてしまうだろう。

 続ける様にタケルはミネルバに通信を繋いだ。

 

「グラディス艦長、状況はモニタリングしていますか?」

『──えぇ、しているわ』

 

 苦々しく、タリアはタケルの問いに返した。

 MS隊の帰投指示と共に判明した、インパルスとエスペラントの戦闘。

 当然の如く、メイリンから戦闘状況の報告が挙がり、艦橋では混乱が巻き起こっていた。

 

「今より5分前からの状況記録、その一切の破棄をお願いします。無論、これから起こる事も含めて全てです」

『どういうつもりかしら?』

「偏に私の指導不足ですので。不安材料は残しておきたくないと言う所です」

『そんな指示、許せると思って?』

「聞けないのであれば、後で勝手に消します」

 

 身も蓋もない返しに、タリアは目頭を押さえた。

 そんな無茶なと思いつつも、それをやってのけてしまいそうだから恐ろしい。

 しかし、だからと言って、はいそうですかと簡単に譲れない所は、タリアにもあった。

 

『はぁ……せめて報告だけは、仔細にお願いするわ』

「無論です──では」

 

 了承の意を取れた瞬間、タケルは躱し続けて居たインパルスへと意識を集中した。

 

 SEED領域下に置いて、感情が乗った動きは読みやすく、インパルスの未来を手に取る様に教えてくれる。

 

 接近してくるインパルスのサーベルを躱し、蹴り付けて距離を取った。

 

 稚拙な動きではある。が、その反応速度と機体制御には間違いなく目を見張るものがある。

 SEEDが解けていたとはいえ、ユリスを容易く退けて見せたシンの実力に、タケルの警戒度は引き上げられた。

 

「長引かせると君の傷を深くするだけだよね…………だから、悪いけど本気の本気で行くよ」

 

 今のシンがおかしい事は百も承知であった。まともな思考が回っておらず、心が幾つにも乖離しているかのようであった。

 故に、時間をかけずに終わらせる必要があるだろう。

 

 クルース・ラウラの仮面を剥ぎ、そしてタケルが本来表に出すはずのない…………殺意に類する気配に堕ちる。

 それはタケルにとって意識的に引き出すトリガーであった。

 

 嘗て、L4宙域でユリスを殺そうと決意した様に。

 嘗て、ヤキン・ドゥーエでユリスへの復讐に駆られた時の様に。

 

 SEEDがもたらす、脳の解放を深めるのである。

 

 

「無様は晒せないからね────30秒で終わらせる」

 

 

 瞬間、純白の機体は一陣の風となって空を翔けた。

 

 




まず第一に述べておきたいことが、シンを貶めたいわけではないですしアンチな訳でもないです。

SEEDの発現によって少しわかりにくいですが、今回のは作者の中で心的外傷ストレス障害。つまりはトラウマですね。これに値するものとして描いております。
原因はもちろん、家族を失った過去の光景。それに類する事象に対して情緒を崩し、思考に影響を及ぼしてしまう。
そして、付随してくる奪うもの達への強烈な怒りは、彼のSEEDに陥るトリガーとなって今回の様に暴走へと至ってしまいました。
SEEDへのトリガーが怒りなのは原作由来ですが、その上で本作としてはシンの内面を描いていく中で家族を奪われたあの瞬間の事を、より重く深くしたいと言う意図がありました。
縋る想いで伸ばした手の先に千切れ飛んだ妹の手があったとか、どう考えてもトラウマものでしょうし。
これが今後の彼の成長や、戦う理由への布石となっていく……予定です。

今後彼がどう変わっていくのか。どうなってしまうのか。
楽しみにしていただけたら、嬉しく思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。