機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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少し難産だった。
なんていうか、納得しない人も出てきそうな幕間ですが
これが作者の描きたい形です。
お楽しみいただければと思います。


幕間 剥き出しの声

 

 

「君が胸の内に抱える全てを────僕に教えて欲しい」

 

 

 投げられた言葉に、シンは静かに瞠目した。

 

 普段であれば、何でお前なんかにそんな話を……となるところであったかもしれない。

 しかし、いくらタケルの事を大嫌いだと公言するシンでも、今はそんな事を言えなかった。

 

 自身が何をしてしまったのかは、自分が良くわかっていた。

 虚ろな意識の中、それでも明確な意思を以て、シンはインド洋前線基地を破壊し、それを止めようとしたタケルまでも敵と見なして攻撃してしまったのだから。

 

 何故そんな事をしてしまったのか、と自問すれば、それはシンの中で簡単に答えが出た。

 

 ただ、止められなかった。

 

 討たれる謂れのない人に、無情の刃を突き立てる愚者達。

 必死に生き延びようとする罪なき人々を、容赦なく撃つひとでなし共。

 それらを憎み、根絶やしにしようとする己の怒りが────止められなかった。

 

 敵はただ“敵”となり、それを邪魔する者もまたシンの中で“敵”となった。

 

 

「──僕が相手では、話し辛いかな?」

 

 

 シンに向けられたのは、驚くほどに優しい声音。今ここで初めてシンは、タケル・アマノの本当の素顔を知ることとなった。

 

 MS隊の隊長としての顔。オーブ軍人としての顔。

 シンが見て来たそれらが形成するイメージを払拭する優しい気配に、張りつめていた緊張が解れていく。

 

 

 “聞きたければ自分で聞くと良い。今みたいな態度なら、あいつは親身になって君の言葉を聞いてくれるさ。俺なんかよりよっぽど口が上手くて────優しい奴だからな”

 

 

 あぁ、なるほどと、シンは静かに納得した。

 宇宙でアスラン・ザラが言っていた事は決して嘘ではなかったのだと、シンはこの時理解する。

 自分がしでかした事は理解して居るつもりである。タケルが、シンが持つイメージ通りの人間であれば、目覚めと同時に厳しい叱責を受けたはずだ。

 事実、その経験がシンにはあった。こんな風に優しい声をかけられるはずがない。

 

 だが今目の前にいる、本物のタケル・アマノは違う。

 見せるのは責め立てる気配ではなく、いっそ慮る気配────彼は、シンの事を心配してくれていた。

 生意気で、愚かであるはずの自分を、まっすぐ見つめて話を聞こうとしてくれていた。

 

 不思議とシンの気持ちは素直になっていった。

 静かに。ぽつぽつと。シンは己の内を吐露し始めた。

 

「その……こんな事、信じてもらえるかわかんないですけど……あの時の俺、正直自分でもよくわかんない状態で。何であんなことしたのか、何であんた……じゃない、隊長にまで攻撃しちゃったのか……はっきり覚えてるんだけど、わけわかんなくて」

 

 酷い答えだと、シンは己の言葉に内心で慌てた。

 少しでもしっかりとした受け答えをしたかったと言うのに、焦りが言葉を詰まらせ、思考を渋滞させる。

 実際問題、彼自身良くわかっていないのだが、そうであってもタケルが求める答えにまるで辿り着いていない。

 

「それはどうにも……わかんないことだらけだね」

 

 そんな、まるでわからないシンの言葉に、タケルは苦笑で返した。

 まぁそれもそうだろうな、と言うのがタケルの正直な感想である。

 

 普通の感性であればいくら気に喰わなくても、いかに嫌いであっても、そうそう命を奪うような所業にまでは至らない。相手が敵でなければ尚更だ。

 タケル自身も、シンがそれ程に分別のつかない人間だとは考えていない。

 少なくとも彼は沈んでいたヤヨイを想って、タケルの部屋へと怒鳴り込んでくるくらいはやってのける人間なのである。

 少なくとも身内に真なる殺意を向けられるタイプではない。

 

「まぁ、僕も決してカウンセラーとかではないんだけど……君自身がわからないのなら、まずは事実を確認して、そこから君の心を紐解いていこうか」

「事実を……確認、ですか?」

 

 シンの答えに少し肩を落としつつ、タケルは静かに用意していた情報端末を取り出した。

 そして、心なしか緊張した面持ちを見せる。

 

「少し──今の君には覚悟がいるよ」

「覚悟?」

「これから見せるのは、ミネルバが記録していた先の戦闘の全てだからね」

 

 僅かに、シンは目を見開いた。

 悪い事をした自覚があるだけに、それを見せつけられる事は覚悟がいる事だ。

 自らが起こした罪の証。喜んで見る様な奇特な人間はまず居ない。誰もが普通は、そこから目を背けたがる。

 痛みから逃れようとするのは、人が持つ絶対的な心理だ──心身を問わずに。

 

 だが、逃げるつもりはないのか。

 小さく息を呑んだシンは静かにタケルが持つ端末へと視線をやった。

 そこに垣間見える覚悟を感じて、タケルは微かに勇気づける様に口元を緩めた。

 

「うん、今この時だけは、君のその負けん気を褒めてあげる────いくよ」

「──はい」

 

 

 そうして映し出された戦闘記録。シンは己の罪を見つめた。

 

 出撃した直後、直前の訓練もあってか冷静に戦えていたはずの自分。

 ネオのウインダムに釣りだされるも、どうにか冷静に対処し、必死に戦っていた。

 そこへガイアが乱入。同時に前線基地を発見し、そして──

 

「うっ!?」

 

 思わず感じた吐き気に、シンは口元を抑えた。

 

 シンも記憶としては、自身が何をしたのか覚えていた。

 だが、映像として見せられるシンとインパルスの所業。それがまるで自身の意志に反しているような気がしてならなかった。

 それ程までに。自分がやった事とは思えない程に────凄惨な光景がそこには映っていた。

 

 自走砲から何から徹底的に破壊し、逃げ惑う生身の兵士達を相手にMSの兵装を向けてばら撒く。

 自らの所業でなければ、この光景に再び怒り狂っていたかもしれない。

 

「これを……本当に俺が……」

「うん。そしてこれの後は……」

 

 映像は続いていく。

 明らかに動きを変えたインパルスは、ネオのウインダムを封殺。そのままガイアを無力化し、更には乱入してきたディザスターすら退けて見せる。

 

 そして、最後に対峙するのは、タケルが駆るエスペラント。

 空へと上がり、向き合う2機。

 曖昧な記憶の中に確かにある、エスペラントとの戦い。

 

「流石……ですね、隊長。この時の俺、オーブ沖の戦いの時と同じ感覚だったのに。全然、相手にもなってない」

 

 圧倒的な動きで。文字通りインパルスを叩きのめすエスペラントを見て、シンは小さく呟いた。

 どこか清々しい声音である。散々噛みついて、どうにか打ち負かそうと躍起になっていた相手との、彼我の実力差を悟ったが故だった。

 そんなシンの呟きに、タケルは僅か眉を寄せた。

 

 予想はしていたが、シンはやはりSEEDに陥っていたのだと言質が取れた。

 今回のシンの変調には、その原因の一端にSEEDが絡んでいる可能性があるわけだ。

 納得しながら、タケルは嘆息してシンへと言葉を返していく。

 

「君には悪いと思うけどね。僕もこの時はホントの本気だったよ。手加減は一切無し。なんなら君と同じくらい、殺すつもりで攻めた────僕にも決して、余裕なんかは無かったんだ」

 

 タケルにとって、SEEDを深めるのは本当に最終手段。陥れば例に漏れず意識を落とす、正に諸刃の剣だ。

 世界の命運を賭けたユリスとの戦いと、ザクでディザスターを相手にする無謀を覆すための2度しか陥ってはいない。

 続く3度目が必要なほど、SEED下におけるシン・アスカのポテンシャルは高かったのである。

 

 

 パイロットが意識を落とし、動かなくなったインパルスをエスペラントが捕まえたところで、戦闘記録は終了した。

 

「っと、これが先の戦闘の全てだ。少しは思い出してきた?」

「はい……なんとか」

 

 自信は無さげではあるが、頷きながらシンは返した。

 落ち着いて自分がやった事を見つめ直すことにも繋がったのか、その気配は先ほどまでよりも幾分かしっかりしている。

 

「それじゃあ、ゆっくり紐解いていこう────記憶がはっきりしているのはどこまで?」

「えっと…………訓練で言われたこともあって、最初は冷静でした。その、ぶっちゃけ言われっぱなしだったのは嫌だったし、隊長が言った様に冷静に戦ってやるって思って」

「うん、ミネルバを守る事を念頭に前に出過ぎなかったのは良い判断だったね。僕もヤヨイも捉まっちゃってたし」

「それで、向こうの指揮官とやり合って、なんとか上手く戦って。でも良いところでガイアが乱入してきて…………ここまでは、はっきりと覚えています」

「ふむ、ちょっと待ってね」

 

 タケルは今度、シンには見えない様にしながら、今の証言に合わせて戦闘記録を再確認していった。

 ウインダムと戦い、ガイアの乱入を躱して…………確かにここまでは、素直にシンがミネルバを守るべく必死に頑張っていると受け取れる動きであった。

 

「なるほど……という事は、ターニングポイントはここかな?」

 

 前線基地へと突撃していくその直前。

 数秒の間ではあるが、動きを止めていたインパルス。

 その映像から、シンの変調の起点を見つけ出した。

 

「ゆっくりで良いよ。何をしたのか。何を思ったのか。思い返し、そして言葉にして」

「はい────まず前線基地を見つけたからミネルバに報告をしました。周囲に母艦は居なかったし、敵はここから来ていたんじゃないかって。

 それで、艦長から規模はって聞かれて、光学映像を拡大したんです……そしたら」

 

 僅か、シンは躊躇を見せる。

 苦々しい記憶の想起に、シンの心は揺れた。

 思い出すのは虐殺の光景。目に浮かんだのは大切な家族の死。

 知らず、シンの呼吸は早まっていった。

 

「シン?」

 

 詰まったシンに、タケルは心配の顔を覗かせる。それを首を横に振ってシンは返す。

 

「大丈夫です…………拡大したら、敵前線基地の敷地内に大量の民間人が居たんです」

「民間人? それは見間違いとかではなく?」

「はい。軍服も着ていませんでしたし、基地を囲う柵の外には家族と思われる人たちが沢山居ました」

「──なるほど、人と物の大規模な動きを見せれば基地建設が露見する。秘匿する為にできる限り現地で賄ったのだろうね」

「そうして……俺は見たんです。

 近くで戦闘が始まって逃げ出そうとする彼等を、地球軍は次々と撃って殺していった。逃げ出した男達を……待ち構えていた家族の人達を、皆!」

 

 無防備な背中を撃たれる人々、その悲鳴をシンは聞いてるはずもないのに思い出した。

 見てしまった記憶が、その声を想像させて、いつの間にかシンは、涙と共に怒りを表に溢れさせていた。

 

「だから、前線基地を……いや、地球軍を許せなかったという事か」

「当たり前じゃないですか! あいつらの所業に俺、あの日を思い出してたんだ! 俺はもう2度と、あんな事は許せなくて! 何もできない自分が許せなくて! だから力が欲しくて!! そう思ったらもう、頭の中はそれだけで一杯になっちゃって! 気がつけばオーブ沖での戦闘みたいに、キレて突撃してて……」

 

 溢れ出る感情を吐き出す様に、シンは矢継ぎ早に口にしていく。

 

「でも……でも俺……結局……」

 

 苦悶を乗せて。シンの声は萎んでいく。

 

「──誰も、助けられなかったんですよ」

 

 地球軍による虐殺にあった人。戦闘の余波に巻き込まれる人々。

 ガイアを躱して辿り着いたシンが必死に基地を破壊しようとも。戦場の只中に巻き込まれた彼等の犠牲は防げなかった。

 インパルスを狙った自走砲が大地を穿ち、空中からインパルスを狙ったウインダムの攻撃が人々を焼いた。

 

 奪われてはならない命を。力を得て強くなったはずの今でも──シンは助けられなかった。

 それはSEEDの先鋭化された思考の中で、奪う者達への更なる憎しみに繋がり、阻む者にすら牙を剥く事となった。

 

 消え入りそうな声で呟くシンの姿に、タケルは嘗ての己を幻視する。

 

 今の彼は、嘗て軌道上でオーブ国民が乗るシャトルを撃たせてしまった自身と同じであった。

 守れなかった事に、犠牲を出してしまった事に強く己を責めている。

 その結果、タケルは自責の念に狂い最も大切な存在であるカガリを傷つけてしまった。

 

 タケルは撃ち落とされたシャトルに乗ってたはずの幼い少女を想って壊れかけ、シンもまた撃たれた民間人の姿に嘗て失った家族がフラッシュバックし、自分を保てなくなってしまった。

 

 タケルが意図せずカガリを傷つけてしまったように、シンはSEED下での回る思考の怒りに振り回され、結果タケルをも敵と認識してしまった。

 

 

 

 自然とタケルはあの日の事を思い出し、静かに動き出した。

 

 独房のロックを解除。音もなくシンが座るベッドの前に立ち、シンと目線を合わせる様にしゃがみこむ。

 

「──シン」

「はい」

 

 いつの間にか目の前にまで来ていたタケルに面食らうシン。その頭へとタケルは軽く手を乗せてやった。

 

「まずはこの言葉を送ろう。

 君のご家族の事も、基地に居た民間人達の犠牲も、君のせいではない」

 

 瞬間、シンは言われた事を理解するまで呆けた。

 自身を責める────似た光景に家族を喪った痛みをぶり返したシンは、守れる力を手にした分だけ自責の念を蓄えていた。

 それをタケルは、嘗ての想い人と同じ様に切って捨てた。

 

「でも……でも俺は」

「守れたはず? そうだね、そうかもしれない。でも守れないものもこの世界にはあるんだ。君がどれだけ頑張ろうとも。

 2年前のあの日、君が家族を守る術を持っていなかった様にね」

「それじゃあ俺は、結局……」

 

 結局何も変わっていないのか。

 無力なままで、何も守れなくて、生意気を言って喚くだけの……

 俯くシンに、しかしタケルは首を振った。

 

「言っただろ、憎しみや怒りを向ける矛先を間違えるなって。

 君のご家族を守れなかったのは僕達オーブ国防軍だ。民間人である彼等が犠牲になったのは、それを強いた地球連合だ。どちらも、君のせいじゃない。君が……守れなかったわけじゃない」

「たい……ちょう……」

 

 目を見開いたシンに、タケルは静かに頷いた。

 落ちっぱなしの両肩へと手を添えて、少しだけ勇気づける様に力を込めた。

 

「繰り返したくなかったんだろ? もう2度と失うものかと決めてこれまで生きてきたんだろ? 

 なら、そうして生きて来た自分の気持ちを信じてやれ。君のその気持ちが守ってきたものが、ここには確かに在る筈だ」

「守ってきた、もの?」

 

 不思議そうに、現実感の無さそうな表情を見せるシンに、タケルは再び頷いた。

 

「君が強くなれたから、ミネルバは今こうして存在している。艦の皆が今こうして生きている事が、君が強く成れた事の何よりの証明の筈だ」

 

 すっと染み入る様に、シンはタケルの言葉を事実として受け止めた。

 記憶に新しい、絶体絶命を覆した戦い。

 ヤヨイと共に、群がる連合の艦隊を討ち、大切な居場所となったミネルバを救った。

 

 守る事が出来たのだ。

 

 

「これを僕から言うのは烏滸がましいのかもしれない。けど、僕達のせいで全てを喪った君に言わせて欲しい──」

 

 オーブ戦役で全てを失い。憎しみに身を染めながらも。必死に強くなることを目指して生きて来た少年に、タケルは言葉を送った。

 

 認めてあげなければならない。喪う恐怖に怯え、必死に生きて来た筈の少年の努力を。

 報いてやらなければならない。自身の力不足が生んでしまった、孤独な少年の人生に。

 嘗て、想い人(ナタル)亡き父(ユウキ)が自分にそうしてくれたように。

 

 

「君は強くなったんだ、シン・アスカ」

 

 

 

 

 つぅ、とシンの頬には涙が伝った。

 

 必死であった。脇目も降らずで生きて来た。

 喪ってから……喪ったから。

 奪った者を憎み、守れなかった者を恨み──そうしてそれを糧に、生き続けてきた。

 

 それを認められた。

 

 ずっと忘れていた、懐かしい感覚がシンを包んだ。

 幼い頃、些細な事で褒めてくれた両親との記憶が呼び起こされ、シンの胸の内を温かな熱が埋めていく。

 

 

 静かに、シンは声を押し殺して泣いた。

 大嫌いであったはずの男の目の前で、恥も外聞も忘れて泣いた。

 胸の内には流した涙の分だけ、温かな感情に満たされていった。

 両肩に乗せられる手に、父の大きな手を思い出した。

 

 

 喪い、忘れ去ってから久しい。

 無条件に与えられていたはずの、優しい熱の気配であった。

 

 

 

 

 

 

 

 似つかわしくない程に泣きじゃくるシンを見て、タケルはそっと嘆息する。

 

 涙を流しながら、胸の内に在る不安を吐き出すように、シンはしきりにごめんなさいと口にしていく。

 戦闘記録を見て、やはり胸の内につっかえていたのだろう。先の戦闘で攻撃してしまった事への謝罪だとタケルは受け取った。

 

「(本当に、昔の僕を見ているみたいだね)」

 

 ナタルに救われ、父に救われ、そうして自責の念を御して、今タケルは生きている。

 対してシンには、そのような存在は居ない────少なくとも今現在の所は。

 こうなるのは、半ば必然だったのかもしれない。

 

 シンにとって不幸だったのは、SEEDに至るトリガーが恐らく怒りや憎しみに起因するところだ。

 

 SEEDとは脳の覚醒領域の拡大。

 様々に意識を割き、膨大な情報を認識、処理する都合上、SEED下に置いて意識レベルは普段よりも低下する。

 タケルやキラ、アスランの様にその感覚に慣れていなければ、SEED下における動きは情報に対する反応と言うよりは反射。無意識的な動きに傾倒していく。

 

 それにより、シンが胸に宿す怒りや憎しみの感情は、SEED下において強烈な情報となって攻撃性へと変わっていった。

 過去のトラウマを刺激された少年は、抑えの利かない感情に振り回され、戦う者全てを敵と認識してしまったのだ。

 

「(すべては喪ったが故、か……僕達のせいである事は間違いないしね。宇宙ではあんな事言っちゃったけど、君の気持ちが僕には痛い程よくわかるよ)」

 

 ミネルバへと着艦した翌日に、タケルはルナマリアからシンの事を聞き及んでいる。

 彼がオーブを憎んでいた理由も。全てを喪った日の事も。

 

「(父さんに母さん。そして、妹のマユちゃんね)」

 

 戦闘中にうわ言の様にシンが呟いていた名前。

 マユ・アスカ────シンにとって最愛の妹であった。

 タケル自身、ヤキンの戦いでサヤを殺された時は完全に憎しみに囚われた。

 先の戦闘でシンが見せた時同様、他の全てをかなぐり捨てて仇のユリスを殺す事だけに傾倒したのだ。

 

 他ならぬ自分が、一度は彼と同じ道を辿っている。

 

「(ナタルと父上のお陰かな。大切な人を想って紡がれた言葉は、こうして受け継がれていくのかもしれないね)」

 

 そんな事を考えて、タケルは小さく笑みを浮かべた。

 また1つ、タケルは大切な思い出に感謝した。

 

「────すいません、隊長」

 

 気が付けば、シンは涙をどうにか収め、どこか憑き物が落ちたような顔つきとなっていた。

 

「気持ちが少しは晴れたかな? だとしたら、仮面まで外して君に相対した甲斐があったというものだ」

「それについても、すいません。本当は隠したかったはず……だったんですよね」

「う~ん、ここの監視は切ってあるし、僕の顔は映せて無いだろうからまぁ……後はシンが僕の素顔を見たと吹聴しない限りは」

「そ、そんなこと絶対しないですよ!」

 

 肩を竦めて見てくるタケルに、シンは慌ててタケルの懸念を否定した。

 散々迷惑を掛けたのだ。むしろ、吹聴して欲しくないのはシンの方である。

 あれだけ噛みついてた相手に諭され、恥ずかしげもなく大泣きしたのだから。

 

「隊長こそ、言い触らさないで下さいよ。プライバシーの侵害ってやつですから」

「はいはいはい。とりあえず、事情は概ね把握できた。今日はこれでお暇するとしよう。一先ずは、ゆっくり休むと良い。疲れてはいるはずだろう」

 

 そう言うや否や、タケルは仮面を付け直して退室の準備を始める。

 

「はい…………その、本当にすいませんでした」

「なに、部下の管理は隊長となった私の役目だ。気にしないでくれ────あっ、言うのを忘れてたが君の処分は後程追って通達する」

「えっ?」

 

 処分。

 その不穏な単語に、思わずシンは呆けて返す。

 少なくともさっきまでは感謝と謝罪に塗れ、それを素直に受け止めてくれる上官という素晴らしい関係性が垣間見える一幕であった。

 だというのに、処分? 処分と言ったのか。目の前のこの男は。

 安心し笑って終われる空気だっただけに、シンは聞き間違いかとタケルに視線を返した。

 

「処分って、な、なんで……」

「何を言っているんだ、当たり前のことだろう? 独断専行に命令無視。更には上官を撃ったんだからな」

「そ、それは、そうですが、今さっき隊長だって──」

「私は君が強くなった事を認めてはいるが、それとこの件はまた別問題だ。

 ここが軍組織である以上、君の問題行動には罰が必要になる。でなければ周りに示しがつかないからな。

 あぁ、安心すると良い。先の映像は私が責任を持って処分すると約束しよう。君の問題行動はひいては私や艦長の管理問題になる。流石に迷惑はごめん被るのでな。表向き残るのは発見した敵前線基地を制圧したという事実だけだ。君を軍法会議にかける様な事はしない」

 

 ホッと、シンは安心しながら小さく息を吐いた。

 表沙汰にして軍法会議にでもかけられようものなら、それこそシンには銃殺の可能性すらある。

 一先ずその可能性が消えただけでも御の字であった。

 

「じゃ、じゃあそんなに大した事には──」

「そうだな。一先ずはグラディス艦長に報告して決めるが…………とりあえずインパルスからは降ろすからそのつもりでいる事だ」

「なっ、そんな、なんで!?」

「当たり前だろう。またいつ暴走するかもわからないんだ。それだけの事をしたと言うのは自覚してもらう。代わりのパイロットにはルナマリアを宛てがうからお前には彼女のザクを回すとしよう」

「はぁー!! ちょっ、そんなの納得──」

「君が納得するかは関係ない。自覚をしてもらうと言っただろう。

 話はこれまでだ。謹慎期間も追って通達するから大人しくしておけよ。ではな」

 

 これ以上は取り合わんとばかりにキッパリと告げ、タケルは勾留室を出て行った。

 その横顔に、というか全身にシンを笑う様な気配を讃えて。

 

 

 静寂に包まれた勾留室に1人取り残されたシンは、小さくその身を震わせた。

 

 勿論それは、素晴らしい上官に向けて再び沸き立つ、抑えられぬ怒りに…………

 

 

「や、やっぱり…………やっぱり俺は……あんたが大っ嫌いだぁあああ!!」

 

 

 認められて素直になったはずの少年は、再び怒りの咆哮(こえ)を挙げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時期。

 オーブ首長国連邦にて。

 

 代表首長カガリ・ユラ・アスハは、突如辞任を表明。

 次期代表首長には宰相のウナト・エマ・セイランが任命され、オーブ政府は新たな政治体制に変わろうとしていた。

 

 

 

 

 世界は再び、大きな動きを見せ始める。

 

 

 




作者が思うシン・アスカへの救いと言うか。原作シンからの方向転換というか。
彼に最も必要だった事として。ずっと憎しみや怒りに囚われながら、2度と失うものかと強くなろうとしてきたその事を、手放しに誉めてあげる事。認めてあげる事だったのかなって。
これが、本作主人公であるタケルともすごく似通っている部分だと思って、今回の話が出来上がりました。
タケルもまた、できなかった守れなかったと嘆き続け、父ユウキに認められずに生きていたので。
作者としてはやはり、本作で描いていくキャラクターには愛されてほしい。そう願って描いています。
勿論、敵役悪役というのはいますのでそういうキャラにはその方向性での魅力を描いていくつもりです。
シンは、原作“主人公”なので今後もこういう形で成長物語を描いていきます。
ご承知いただきたいです。

感想、よろしくお願いいたします。
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