機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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難しくなってくる……作者としては。
ギャグと言うか、のほほんとした展開が真面目の合間に入ってきます。

劇場版の話で盛り上がっているので先に宣言しておきます。
作者はseed編の執筆段階で運命編まで結末と展開を決めております。
これからどんな展開になろうとも、劇場版に影響とかされていませんので、ご理解の程お願いいたします。



PHASE-33 動き出す悪意

 

 

 

 CE73年11月

 

 オーブ首長国連邦代表首長、カガリ・ユラ・アスハは代表首長の地位を退く事となる。

 

 

 大きな理由としては、中立を維持する為に強行な姿勢を貫き、自国を危険に晒したこと。

 国防軍の強化を図り、戦力を増強し、主戦派と言わざるを得ない戦力体制を敷き続ける事への非難が挙がっていた。

 

 先の防衛戦で大なり小なりの国防軍への被害が出た事から、犠牲となった者達の遺族が騒ぎ、その声が大きな潮流となって、反アスハの風潮を作り出す。

 更に、国政を担う各首長等からも追い討ちの如く退陣の声が挙げられ、文官たちは勿論の事武官達ですらカガリの姿勢を糾弾した。

 それは偏に、戦争を回避する道を模索しなかったカガリに向けた、確かな非難であった。

 

 

 そうして、突如として振って湧いて来たような反アスハの論調に押される様に、カガリ・ユラ・アスハは代表首長の座を追われる事となったのだ。

 

 

 

 

 

 

「本当に良かったのか、カガリ?」

 

 対面するソファーで向かい合うアスランからの声に、カガリは答える事無く窓から見える外の景色を見つめていた。

 

 場所はタケル・アマノの自宅。

 タケルがオーブに居ない今、ナタル・バジル―ルが1人で暮らすこの家に、政界を追われた元代表はなんともなしに訪ねて来ていた

 

 

『えぇ、そう言う事です。つまりこの場合、その他の譲歩案を見せて戦闘を回避する手段はあり、アスハ元代表の執った道は──』

 

 

 テレビから聞こえてくるのは、話題の渦中になっている自身の事。

 どこぞの評論家が好き放題に言ってくれるのを聞き流しながら、カガリは物憂げに外を見つめ続けた。

 

「なんともまぁ……随分力の抜けた顔だな、カガリ」

 

 聞こえた声にそっと振り返れば、ティーセットを用意したナタルがテーブルに着くところであった。

 籍こそ入れていないがタケルとナタルの関係性は言わずもがな。

 ナタルにとっても大切な妹となったカガリの来訪に、幾分か上擦った気配である。

 

「義姉さん……別に、腑抜けになっちゃいないさ」

「強がることもないだろう。これまでずっと走り続けて来たのだから、少しくらいは気が抜けたって良いはずだ」

「すいませんバジル―ルさん。急に押しかけてしまって……カガリが急に思い立って、ここに来ると言って聞かなくて」

「ふっ、さしずめ、どうすれば良いかわからなくなって、タケルの所に来てしまったと言う所か?」

「そっ、そんなんじゃない! ただ、私は代表となった日にここで……このソファで。兄様と国を守っていくと誓ったから。

 ここでもう一度、気持ちを新たにしたかっただけだ」

 

 そう言って、どこか照れ臭そうにカガリは窓の外へとまた視線を向けた。

 眼前に広がる大海原を見れば、少しは気持ちも晴れるものだが、如何せんカガリの憂鬱の種はそう簡単に消えてくれるものでもなかった。

 

「──しかし、これからどうするつもりなんだ?」

 

 ナタルの問いに、カガリもアスランも僅かに身を固くした。

 

 どうするのか。

 それは代表を退き、政界から追放されながらも、国の為に動き続ける意思は変わらないカガリへの、まっすぐな問いかけであった。

 

 逡巡。カガリはナタルが入れた紅茶を口に含み、静かな時間を取った。

 それを見守るナタルとアスランがカガリの答えを待つ中、カガリはゆっくりと重く閉ざしていた口を開いていく。

 

「義姉さん、アスラン。今回の動きをどう捉えている?」

「今回の動き、とはカガリが代表を追われた事か?」

「俺は正直な所、腑に落ちないとは思っている。防衛戦を終えて後処理をしている間に、気が付けば後の祭りだった」

「そうだな。私もそこには同感だ。まるで定められたような展開。カガリが代表を追われる道筋が元々出来上がっていたかのような早さで、国内の情勢は定まっていった」

 

 始まりから終わりまで、唐突であり急であり、何よりカガリへの非難が断定的であった。

 弁解の余地。抗弁の隙間すらない程。僅かな合間に民衆の声は大きくなり、各首長たちの言論は統制されていた。

 

 

「────国内に、扇動している者がいる」

 

 

 カガリが静かに漏らした言葉に、ナタルとアスランは得心いったのか表情を険しくさせた。

 

「見当は?」

「今の所全く。どこからの介入か。誰が関与しているかなどわからない。

 私も兄様も、表舞台での戦いしか知らないし、国と国民に真っ直ぐ向かい合う事が正しい事だと信じていたからな。

 だが、これだけわかり易い結果を見れば嫌でも実感する。これは外部からの工作によるものの筈だ」

「となれば、政界の中にも手が及んでいると見るべきだな。各首長たちまでも意見が統制されていたんだ。根は深いだろう」

 

 ナタルの言葉で、沈黙が降りた。

 そう、民衆だけならある程度扇動する事は簡単だ。潜入して情報を流布していくだけでそれなりの効果は見込める。

 だが、政界内にまで影響を与えているとなると別だ。

 外部からの介入……それでいきなり政界にまで手を出せるはずがない。必然、そこには内通者、協力者の影がちらつく。

 それはつまり、オーブの政治を担う者達に今回の事態を画策した者が居るのと同義である。

 オーブの未来を決める中枢に、既に外部からの手が食い込んでいるわけだ。

 

「これからどうするか……そんな事は分からないが、どうにかしなきゃいけない。

 お父様達の国を、好き勝手にされてたまるものか」

「だが、動こうにもそれを探るような伝手、俺達には無いぞ。どうするつもりだ?」

「それは──」

 

「カガリ、伏せろ!!」

 

 言いかけたカガリの声を、飛び込んで来た護衛のキサカの声が遮った。

 瞬間、カガリの対面に座っていたアスランは窓の外の光景に戦慄した。

 

 家の敷地の外。塀の向こうに垣間見える黒い車。

 そしてそこから身を乗り出し、何らかの武器を構える男達の姿があった。

 

「カガリ!!」

 

 反射的に、アスランはソファーの間に在ったテーブルを蹴り上げる。

 同時、カガリの手を引いてナタルと共に背後のソファの陰へと倒れ込んだ。

 

 

 

 直後、アマノ邸を爆音と衝撃が揺らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──以上が、シン・アスカの行動についての報告になります」

 

 真っ直ぐに見つめる……と言うのは仮面を着けているせいで語弊があるが、タケルはタリアに視線を向けながら、全ての報告を終えた。

 

 シン・アスカの変調──その理由と、経緯を。

 

「はぁ……SEED、ねぇ。俄かには信じ難いのだけれど」

「私を含め、知る限りでは4名。そしてシンとヤヨイを含めれば6名の事例があります。その存在を否定はできません……とは言え、学会でも日の目を見なかった論文ですし認知も皆無。現実にある事とは言え、これをザフト上層部に放り投げることはできません」

「そうね……こんなの真面目に報告でもしようものなら、私と貴方の方が疑われるわ。だから、秘匿しようとしたわけね」

 

 シンのインパルスを抑えるその前に、タケルが告げた指示────戦闘記録の破棄。

 皆目見当のつかなかった指示の理由に、合点がいってタリアは納得する様に頷いた。

 

「あの時点ではシンがSEED下にあるとは把握していませんでした。申し上げた通り、隊長である私の管理問題となるからですよ」

「貴方にはザフトで守りたい地位など無いでしょう。見え透いた嘘ですこと」

 

 タリアの抗弁にタケルは肩を竦めて返す。

 彼女が言う様に、タケルにとってザフトでの地位や立場。そう言った部分にはあまり意味がない。

 あえて言うならサヤ。アマノを取り戻すために、ミネルバに居られれば良いだけだ。

 取り繕ってまで、自身への責任問題の可能性を回避する必要はないだろう。

 

「では、前途有望な若者の未来を潰したくなかったという事で、ここは1つ」

「貴方も十分若いのよ? まぁ、私としてはありがたい事ではあるけど…………現在のシンの様子は?」

「起きて自分がやったことを自覚した時はそれなりに沈んでいましたけど。最終的に別れ際にはいつもの調子で吠えていましたよ。問題は無いでしょう」

 

 そう、とタリアは少しだけ安堵した様に肩を落とした。

 やはり疲れと、それから心労を感じられて、タケルは苦笑する。

 新兵だらけのこの艦で、最前線をひた走る運命にある彼女の姿に、やはりタケルの脳裏にはマリュー・ラミアスの面影が重なった。

 

「でも懸念は残るわね。同じような状況となった時、また暴走しないとも限らないわ」

 

 タリアの言う事に、タケルも胸中で頷いた。

 確かに、依然としてシンの心にはその可能性が燻っているだろう。

 そのきっかけが、戦争の中では至る所に転がっている。

 今回の事が収まったからと言って、手放しに喜んでいい状況でもなかった。

 

「ですが今回の件で彼自身、自分の胸の内にある怒りや憎しみをしっかり自覚したはずです。認識しているのと、していないのとでは大きな違いがあります。少しずつ、御し切る様になってくれる事を期待しましょう」

「それをこれから制御できる様に、貴方が仕向けてくれるのかしら?」

「いやですねぇ。何で私があの生意気坊主の為にそこまでしてやらなければいけないんですか。御断りですよ」

 

 期待の込められたタリアの視線を、タケルはやんわりと受け流しながら答えた。

 

「あら? 何とかしてあげたいからこんな提案をしてきたのでしょう?」

 

 タリアは艦長室のテーブルに置かれた1枚の紙に目をやった。

 そこには今回の件の処分として、シンをインパルスから降ろす事と、しばらくの間パイロット訓練のみとして出撃の許可を出さない旨が記されていた。

 無論、その出所はタケルからである。

 

 普通であれば暴走の危険性があるパイロットの出撃など許可できないし、そんな人間に最新鋭機を乗せておく理由もない。至極当然の提案と言えるだろう。

 だが、目の前の彼が提案してきた余りにも当然な対応は、逆に別の理由がある事をタリアに告げている気がしてならなかった。

 

「──あくまで出来たら、の話です。トラウマの克服など、私も専門ではありませんから」

「そう……まぁ、期待させてもらうわ。

 ところで、何故シンの代わりがルナマリアなのかしら? 実力で順当に行くのならレイだと、私は考えるのだけど?」

 

 不思議そうに問いかけてくるタリアに、あぁとタケルは小さく頷きながら口を開いた。

 

「それについては勿論、理由はあります。

 ルナマリアはシンと同じで感覚派。レイやヤヨイは理論派だからです」

「感覚派と、理論派?」

 

 MSパイロットではなく艦長故、全容の掴めない言葉にタリアは訝しんだ。

 

「えぇ。機体を動かすとき、シンやルナマリアはその挙動を自身の感覚で捉えて体で覚えるタイプなんです。要するに習うより慣れろタイプと言いますか。

 対してレイやヤヨイは理論派。機体に乗る前にスペックや武装データ。あらかじめしっかりと予習を行い、機体の動きも観測される挙動数値を意識して理詰めで覚えて機体を動かしていきます」

「それは……つまり?」

「理論派のレイならインパルスをある程度乗りこなせるでしょうが、それはザクに乗ってる時の延長にしかならず、得られるものは余り多くありません。彼を成長させるのは、偏にこれから積んでいく戦闘の経験です。

 対してシンとルナマリアは異なる機体の異なる挙動を体で覚えていきます。全身で捉え、挙動を把握する感覚を養えば、機体を性能の限界まで自在に動かせるようになるでしょう。乗り換えをさせるならあの2人でやらせた方が有意義です」

「へぇ。流石に良く見ているというわけね。まだ来たばかりだと言うのに」

「伊達に長い事教官をやっていませんよ」

 

 少しだけ誇らしげに、タケルは口元に弧を作って笑った。

 何と言っても、彼の最初の教え子であるモルゲンレーテの3人がそうであった。

 

 アサギは完全に感覚派。理論めいた話にはアレルギー反応を起こすタイプであったが、その分機体の挙動を掴む事に長けていた。

 ジュリは反対に理論派。機体スペックを覚え、出来る事を覚え、機体の挙動をデータとして体に落とし込んでいくタイプである。

 そして理論と感覚でハイブリッドなマユラ。理詰めで頭にデータを叩き込みながらも、操縦の際には自身の感覚に身を委ね、データとの擦り合わせをしていく。

 そんな彼女達を見ていた経験が、大いに役立っていた。

 

「わかりました。そう言う理由であれば納得もできます。インパルスのパイロットにはルナマリアを。交代でシンにはザクという事で私も了承するわ」

「ありがとうございます」

「本当に、貴方が居てくれて助かったわね…………あの子を止めてくれたことも含めて、ね」

「お陰で酷い頭痛でしたよ。戦闘直後でグラディス艦長と通信していた時は特に」

「あら、そうとは知らずごめんなさい」

「いえ、必要な通信でしたから────では、これで」

「えぇ、報告ありがとう」

「失礼します」

 

 退室していくタケルを見送り、タリアはまた緊張を解いて、大きく息を吐いた。

 

 別段タケルとのやり取りに緊張すると言うわけでは無いが、話題が話題だけにどうしても肩肘は張る。

 その上、言ってくることがタリアの理解の及ばない事も多い。丁寧に説明をしてくれるが、必然タリアは必死に思考を巡らせる。

 今回の報告にしても、SEED等と言う荒唐無稽を理解するのに大分時間を要してしまった。

 

「何と言うか……疲れたわね、ホント」

 

 艦長室で呟かれたタリアの言葉は、静寂の中に消えていく。

 進宙式の予定をすっ飛ばしてアーモリーワンを出て来てからこれまで、とにかく特異な事ばかりであるこの艦に、タリアは改めて疲れを感じ大きなため息を吐いた。

 きっとこれからもこんな状況は変わらないのだろう。

 そんな諦めの境地に至りながら、せめて今夜はゆっくり休もうと決めて、自室へと向かうべく艦長室を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから3日の時を置いて。

 

 シン・アスカは謹慎から戻り復帰。

 その報せと共にクルース・ラウラから報告事項がありという事で、パイロット組と整備班は格納庫へと集められた。

 

 

 

「──と、いうわけで。今後インパルスはルナマリア・ホークが乗る事となる。代わりにルナマリアのザクにはシン・アスカだ。

 エイブス主任、両機をパイロットに合わせて調整しておいてくれ」

「は、はい。それは勿論承りますが……本当に良いんですか、ラウラ隊長? シンの実力は十分証明されていますし、ザクではシンの実力は活かしきれないのではと思いますが」

「そうですよ隊長! エイブス主任の言う通り、ザクじゃ俺の力は痛”ぁあ!?」

 

 整備班をまとめるマッド・エイブスの問いに便乗するシンへ、タケルは拳骨を落として黙らせる。

 

「エイブス主任、安心して欲しい。ザクは十分に性能の高い機体だ。今のシンじゃザクの限界すら引き出せん。ザクではシンの実力を活かしきれないのではない。シンではザクを活かし切れないんだ。

 まぁこれは無論、ルナマリアとインパルスにも言えるがな」

「そう、ですか……了解しました。よし、お前等集まれ! 作業を指示するぞ!!」

 

 

 エイブスの声に整備班が次々と動き出していく。

 そうして作業が始まると、その場にはパイロット組だけが残った。

 

「──そう睨むな、2人共」

 

 当然の事ながら、ルナマリアとシンからは鋭い視線が向けられタケルはやれやれと言う様に肩を落とした。

 ちなみにシンは頭を抑えながら若干の涙目である。

 

「酷くないですか隊長。私達じゃ機体性能を引き出せない、何て……整備班の皆の前であんなはっきり言わなくても良いじゃないですか」

「そうっすよ! 大体ルナはともかく、俺は──」

「何がルナはともかくよ! あんたも一緒だっつーの!」

「痛ってぇ!? ちょっ、やり過ぎだろルナ! 今のは隊長のより痛かったぞ!」

「ふんっ! あんたの口が悪いのがいけないのよ」

 

 姦しく、既にタケルのこと等眼中になく騒ぎ合う2人にまた一つ大きなため息を吐いてから、タケルはレイとヤヨイの方へと視線を向けた。

 

「レイ、君からは何かあるか?」

「いえ、自分は隊長の決定に従うまでです」

「畏まらなくていい。あのバカ2人の言葉よりは、君の言葉を真剣に聞くつもりだ」

 

 真摯な姿勢で、タケルはレイとヤヨイに対して向き合った。

 インパルスを降ろされはしたが、実質的にシンはお咎めなし。いわば特別扱いとも言える。

 そうなれば他の者達から不平不満が出ないとも限らない。

 艦橋クルーはタリアが聞くだろうし、整備班は取り纏めているエイブスがケアするだろう。

 となれば、パイロット組はタケルの受け持ちだ。

 ルナマリアは見ての通りで心配はないが、気持ちを表に出しそうにないこの2人には十分に配慮する必要があった。

 

 言外に、不満があるなら言って良い。そう促されたレイは逡巡してから口を開いた。

 

「──では、僭越ながらお聞きしたいのですが、シンの処遇は本当に大丈夫なのでしょうか?」

「むっ、処遇?」

「命令違反に独断専行。更には味方への攻撃。とてもあんな風に騒いでいられる状況ではないと考えますが」

「そんなことが気になっているのか。全くお人好しで仲間思いな事だ」

「その言葉、隊長にだけは言われたくないですね」

「済ました顔でなかなか言ってくれるな…………とりあえず処遇については本当に安心して良い。今日までの謹慎とインパルスから降ろされる事で終わりだ。あぁもう一つ、本人には言ってなかったがミネルバのトイレ掃除をやらせる予定だな」

「そんな……そんな事で本当に?」

「そもそも表向きにはその様な事実はないと言う事だ……これ以上は言わせないでくれよ」

 

 意味深な言葉にレイも、割り込もうとしていたヤヨイもまた口を噤んで黙り込んだ。

 彼らにとっても、同期の仲間が重い処罰を受けないのであれば是非もない。

 変に追求して藪を突いて余計なものを飛び出させる様な事はできなかった。

 

「ふむ、良さそうだな…………ではヤヨイ、君は今回のことで何か言いたい事があるか?」

 

 

 少しだけ気配が柔らかくなり、そしてどこか温かな声音を向けられ。

 相変わらずタケルへ向ける視線は鋭いままなヤヨイの脳裏に、何かが過った。

 

 

 “サヤが言う事くらい、何でも聞いてあげるよ”

 

 

 今とは違う。

 もっとずっと、柔らかで優しい声音。

 目を輝かせるは自身とよく似た、少しだけ今より幼さを湛える少女。

 

 

 “大切な──妹なんだから”

 

 

 過る記憶と過る声に、ヤヨイの胸の奥から懐かしさと温かさが染み出してくる。

 

「どうした、ヤヨイ?」

「い、いえ!? なんでもありません! 私もレイと同じ様に、隊長の決定に異を唱える気はないです」

 

 記憶と重なりながらも、タケルが着ける仮面に現実へと引き戻され、ヤヨイは慌てて首を振って答えた。

 

「言いたいことがあるのなら言って良い。君達は私にとって大切な部下だからな。できる限りの具申は受付けよう。

 それが納得できるものであれば、だが」

「大丈夫です。ありがとうございます」

「では、解散としようか。今日の訓練は怠らないように。レイ、ザクの先達として君は少しシンの訓練に付き合っ──」

「隊長ー! 責任もって俺の訓練に付き合ってもらいますよ! あんたを負かしたら、インパルスを返してもらいます!」

 

 びしっ、と音が聞こえそうな勢いで目の前に突き付けられる指。

 格納庫を離れようとしたところで押し止められたタケルは僅かに呆けて、すぐさまやれやれと頭を振った。

 

「あのなぁ、シン・アスカ。お前は本当に……はぁ、まぁ良いやもう。相手をしてやる────直ぐに終わらせるからかかって来い」

「よっしゃ!」

「(なっ!?)」

 

 タケルは盛大なため息を吐きながらも満更でもないと言う様にシンの言葉に応じる姿勢を見せた。

 瞬間、ヤヨイ・キサラギは目の前でやり取りをする2人に驚きを隠せなかった。

 

 恐らくではあるが、シン・アスカとクルース・ラウラ……否、タケル・アマノは絶対的に仲が悪かったはずだ。

 正確にはシンの独り相撲だった気がしなくもないが、どちらも進んで友好を深めようとする気配は無かったはずである。

 

 だが今はどうであろうか。

 憎まれ口ではある。対抗意識も反骨心も見え隠れする。それでも尚、シンがタケルに向ける気配にはこれまでの嫌悪がまるで感じられなかった。

 自分と同じく、タケル・アマノを好意的に見られない者同士の鉄より硬い結束(シンにそんな認識はなかった)が、今は脆くも崩れ去っていた。

 

「(ど、どういうことなのですかシン! この数日の間にあの男と一体何が……な、なんですかそのちょっと相手してもらえて嬉しいみたいな雰囲気は。その顔をやめなさい。あぁ、尻尾が……ぶんぶん振られる尻尾が見えるようです。ダメ! 何を懐いているのですこの駄犬! いつもの狂犬に戻りなさい! えぇい、尻尾を振るな尻尾を! だから貴方は犬なのです!)」

「ヤヨイ……何百面相してんのよあんた」

 

 すぐ傍で、混乱の極みに達しているヤヨイを見ていたルナマリアは、まるで残念な子を見るかの様にドン引いていた。

 

「(くっ、この人もこの人でなぜこんな安請け合いを……いつも通り私やレイに相手をやらせれば良いはずではありませんか。何で急に弟を見る様な目になっているのです! あぁ、やめて下さい、そんな風にやる気を出してシンを喜ばせないで下さい! これ以上懐かせるな! 貴方は私だけの──)」

「おーい、ヤヨイ。帰ってきなさーい」

「(こうなれば、私もこの人に挑むしかありませんか……オーブ沖の戦いでの感覚を思い出せれば、この人とだって互角に……)」

「はぁ、だめだこりゃ。レイ、何だか3人で忙しそうだし私達は別でやりましょう」

「どうやら、その方が良さそうだな(ふむ、どうなるか少し興味があったのだが……)」

 

 

 静かに、その場を離れていくレイとルナマリア。

 その場には盛り上がるシンと、そんな彼をシミュレーター室へと急かすタケル。そして一人悶々としながらぶつぶつと呟き続ける残念な少女だけが残されるのだった。

 

 

 色々とあったが、今日のミネルバはとても平和である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すぐ傍で聞こえる瓦礫の声。

 崩れ掛けたアマノ邸の中で、身じろぎする影が2つ。

 1つはアスラン・ザラ。ソファの陰へとカガリを引っ張り込み、撃ち込まれたロケット弾の衝撃から身を挺してカガリを守っていた。

 もう1つはレドニル・キサカ一佐。こちらも一緒にいたナタルをその巨躯で庇い、埃を被っている。

 

「キサカ一佐……ありがとうございます。御無事ですか?」

「あぁ、問題ない。それよりカガリは……」

「カガリ!!」

「あっ……うぅ……」

 

 僅かに痛みを湛える声。

 視線を向ければそこには、床に赤黒い染みを作った2人の姿があった。

 

「アスラン・ザラ、どうした!」

「俺は無事ですが、カガリが瓦礫で頭を!」

「何だとっ!?」

 

 慌ててキサカが駆け寄ろうとしたところで、しかしその場を銃声と新たな衝撃が襲う。

 

 追撃であった。爆煙でアマノ邸の内部まで状況は掴めていないであろうが念には念をと言ったところである。

 執拗な銃撃に晒され、カガリの怪我の確認もおいそれとできない状況にアスランとキサカは歯噛みした。

 

 この状況が続けば身動きも取れないまま、カガリの命を脅かされる。

 

 

「キサカ一佐、アスラン・ザラ、こっちだ!」

 

 応戦しようとアスランが銃を取り出したところで、その場を切り裂くようなナタルの声が挙がる。

 リビングから出た階段の奥、床から顔を覗かせるナタルの姿があった。

 

「地下シェルター? 全く流石はアイツの家って所だな……キサカ一佐!」

「応戦する! 行け!」

 

 動くのは同時。

 カガリを担いだアスランがソファの陰から飛び出す直前に、キサカが銃を取り応戦。僅かな攻撃の隙間を生み出したところでアスランがナタルのいるシェルターまで一息に疾走して飛び込んだ。

 

「キサカ一佐も、早く!」

「わかっている!」

 

 しんがりを受け持ったキサカも近くの食器棚を倒して壁にするとシェルターに向かって飛び込んだ。

 

 

 

 

 直後、2発目のロケット弾がアマノ邸へと着弾。

 シェルターの扉が閉じられたところで、アマノ邸のリビングは完全に吹き飛ばされるのであった。

 

 

 




シン:大っ嫌いだけど認めてくれたからとりあえず認めてる。実力も含めて頼りにしてる。ついでに訓練見てもらえるのは自分の成長に繋がるから嬉しい。わんこ
ヤヨイ:滲み出るサヤ・アマノ。タケルが関わる時限定で鉄面皮は剥がれおかしくなる。顔を合わせる機会が増えてきたことで記憶の想起も増えた。
レイ:ちょくちょくタケルと駄弁る仲。ラウの事を知っており、ラウと決して浅からぬ関係であるタケルに、上官への尊敬とは別に親近感を持っている。
ルナマリア:自身への評価に納得はできていないが間違いではないだろうと渋々飲み込んでいる。不意打ちでもなんでもいいのでいつか1発かましてやる事を夢見ている。オーブの事にヤヨイとサヤの事。その他諸々抱えているであろうタケルをパイロット組で唯一気に掛けている。

関係性は良好……ナノカナァ
タケル関係でポンコツになるヤヨイ。逆にそう言う時はお姉ちゃんだったりするルナマリア。

そしてオーブにて動き出す正に悪意。これからの展開に乞うご期待。

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