機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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話の進行が途轍もないくらい遅いですが、何故かというなら、原作とは違うやり取りで色々と変化しているキャラクター達を描きたいからです。
雑に原作通りの展開なんで、と地の分で終わらせる事はしたくないのです。
進行遅いなと思う人は多いと思いますが、ご容赦ください。


PHASE-36 戦士の条件

 

「────っと、こんな感じで良いのか?」

 

 

 ミネルバのブリーフィングルームにて。

 どこかおずおずと言った様子で、まだ幼さの残る少女は説明を終えた。

 少女が振り返った先。問いかけられたタケルは静かに頷いて返すと、少女に代わって集まった者達の前へと躍り出る。

 

「ご説明頂き感謝します、ミス・コニール。お陰で戦場の詳しい地形が把握できました」

「このデータは、使わない……んだよな?」

「せっかくの提供なのはありがたいですが、有効利用できそうにない。気持ちだけ受け取っておきますよ」

 

 タケルの言葉に、少女コニール・アルメタは少しだけ不安そうな表情を浮かべた。

 彼女はいわゆる現地協力者である。

 ガルナハンを攻略する上で、ザフトが協力を仰いだ、レジスタンスの1人であった。

 

 彼女が提供してくれたのは、戦場となるローエングリン砲台周辺の仔細な地形と画像データ。そして、地元の人間もあまり知らない古い坑道の存在。

 ローエングリン砲台の近傍へと出られるその坑道より接近し、砲台を破壊しようとの提案であった。

 

 ローエングリン砲台の守りは鉄壁の布陣であり、多数のMSと迎撃設備。更にはオーブ海戦でその威力をまざまざと見せつけられた陽電子リフレクターを備える大型MAが居た。

 遠距離からの攻撃では有効打撃にならず、接近しようにもローエングリン砲台によって全滅する。

 ラドル隊がガルナハンを攻略できないのは、この金城とも言える布陣が故だ。

 機体を分割し戦闘機として動けるインパルスであれば、坑道を抜けて砲台を叩けるかもしれない。が、タケルはコニールからのデータを受け取らず別の作戦を立案していた。

 どうするつもりなのか……先のラドル隊の失敗があるだけに、コニールに不安は尽きなかった。

 

「ミス・コニール。作戦の可否については十分に勝算がありますので、ご心配なく」

「ほ、本当か!」

「はい。あとはこちらにお任せを」

 

 言って、タケルは少女から視線をパイロット組へと向ける。

 居並ぶ顔ぶれには少女同様にどうするつもりなのかと訝しむ気配が伺えた。

 

「さて、本当ならデータの提供を受けて楽をしたい所であったが……些か不安が大きくてな。別の作戦を立案させてもらった」

「不安……でありますか?」

 

 慣れない敬語を付け加えながらシンが問う。

 

「あぁ。狭い坑道、データ頼りの飛行はルナマリアには荷が重い。どこかで壁にぶつかってドカンとなりそうでな」

「ちょっと! それは酷くないですか隊長!!」

「そうむくれるなルナマリア。レイでもヤヨイでも、私は同じ選択をした。これができるのはお前達の中でも反応速度に優れるシンだけだと思うのだが……シン、言っておくがインパルスには乗せないからな」

「なっ!? 何でですか隊長!」

「言われなければわからないか? 早く座れ」

 

 淡い期待を抱きかけるシンへ釘を差しながら、今一度自戒の念を押させるようにタケルは視線で促した。

 シン自身も、あの日己がしでかした事を理解できていた分──何より、随分な温情で今もパイロットとして居られている事があり、大人しく引き下がる。

 聞き分けの良いシンに多少周囲が驚く中、タケルはつづけた。

 

「はぁ……仮にシンがインパルスに乗っていたとしてもだ。それ頼みの作戦はリスキーだろう。坑道のデータは古い。今は地形が変わっている可能性もあるし、坑道の存在を認知していて出口を固めている可能性だってあり得る。

 不確定要素は抜きにして正攻法で行く事にした」

「正攻法って、それはラドル隊が散々やったんじゃ……ないんですか?」

 

 少しだけ不満の空気が漏れるのをシンの声音から感じながら、しかし同様の疑問は他のMS隊の面々にも見られ、タケルは小さく被りを振った。

 見れば艦長の代わりでこの場に来ていたアーサー・トラインも同様の表情である。

 

「そんな低い認識では困るなシン・アスカ。

 最新鋭の戦艦であるミネルバ。最新鋭であるセカンドステージの機体を3機も保有するMS隊。これらを要して、この程度の状況を正面から突破できない等と……そんな悲しい事を言ってくれるな」

 

 少なくともMSの性能では連合のウインダムなど足元にも及ばない。それはセカンドステージに限らず、ザクでも同じだ。

 更に言えば、パイロットの能力とOSの問題がある。

 技術が多少進んだとはいえ、コーディネーターとナチュラルの能力差は埋まらない。

 その高い能力に合わせて高度なOSを積んでいるザフトのMSは、連合のMSと純然たる開きがあるのだ。

 コーディネーターとナチュラルの両者が居るオーブで開発畑に居たタケルにとって、それは紛れもない事実なのである。

 

「悪いが、そんな事ではインパルスのパイロットに戻ることなど夢のまた夢だぞ」

「はぁ!? 誰もできないなんて言ってないですよ!」

「どうせなら楽勝くらいは言ってもらいたいものだ」

「えぇ、勿論ですよ。楽勝に決まってるじゃないですか!」

「よし、ならばお前に任せよう」

「うぇえ!?」

 

 売り言葉に買い言葉で大口を叩いてしまったシンは素っ頓狂な声を挙げた。

 

「えっ、いやちょっと隊長!」

「真に受けるな。冗談に決まってるだろ」

「っ!? あんたって人は──」

「隊長、話が進まないのでシンで遊ぶのはやめて下さい」

「失礼な。楽勝くらい言って欲しいのは本気だ」

 

 ぶち切れ寸前のシンをルナマリアが宥めすかし、ヤヨイが呆れ顔でタケルへと苦言を呈する。

 1人静かなレイは静かであるものの、面白いものを見る様な目でタケルとシンへ視線を行ったり来たりとさせている。

 これから戦闘に出る前のブリーフィングとは思えないなんとも気の抜けた空気に、アーサー・トラインは静かにため息を吐くばかりである。

 

 

「さて、肩の力は抜けたか? それでは、本題に移るとしよう────プランを3つ、3段階で用意させてもらった」

 

 

 タケルの言葉に、いよいよかと全員の表情が引き締まる。

 そんな空気に満足しながら、タケルはまずヤヨイへと視線を向けた。

 

「ファーストアタックは機動性の高いセイバーとエスペラントによる直上からの強襲だ。敵の迎撃を掻い潜りMAを撃破。敵の盾を砕いた後にミネルバの砲撃で砲台を沈める」

「敵の迎撃も集中すると思います。厳しいと言わざるを得ません」

 

 当然の対応をして来るだろうと、ヤヨイは即座に切り返した。

 予想通りという様に続いてタケルはルナマリアへと視線を向ける。

 

「そうなった時はセカンドアタックだ。

 敵MAがエスペラントとセイバーに意識を向けたところで、インパルスのブラストシルエットで砲台を破壊する。射程距離までの随伴にはレイのザクが着け」

「え、えぇ!? 私が決めるの! しかもブラストシルエットで射撃ですか!」

「訓練はつけてやっただろう。今更射撃が苦手とか言わないでくれ」

「ですが隊長、射撃が苦手と自負しているルナマリアにそれを任せるのは少々酷と言いますか、不安も大きいと思いますが」

 

 静かに、今度はレイが反論する。

 彼女の射撃成績を知っている同期なだけに、その不安は間違いなく的を射ている事だろう。

 タケルはそのまま3つ目のプランを提示するべくシンへと顔を向けた。

 

「それでも仕留めきれなかったらサードアタックだ────シン、ブレイズ装備のザクで砲台に向けて吶喊し破壊しろ」

「はぁ!? ちょっとあんた、最後だけ雑過ぎるだろ!」

 

 最後だけ……シンにだけどこか投げやりな声音が感じられたのはこの場に居た者全員の共通認識であっただろう。

 その気配を感じ取り、思わずシンは不満の声を挙げる。

 

「バカを言うな。真面目も真面目、大真面目な作戦だ」

「どこがですか! 明らかに大雑把で適当な──」

「セイバー、エスペラントによる直上からの強襲。ブラストインパルスによる別方向からの高出力砲撃────仮に防げたとしても、敵の陣営は十分に崩れ意識が散漫になるだろう。そうでなくとも、ミネルバの主砲は十分な脅威として認識されてるだろうしな。

 そうして必死に、向こうが全てに対応してくるのであれば、こちらもそれで手一杯となる。そうなれば、膠着した戦況で文字通りお前が最後の一矢だ」

 

 1つ目、2つ目とプランを提示しながらも、タケルはこれで決まる等と断言する事は無かった。

 裏を返せば、この程度までは相手も十分に対応できるであろう可能性を見込んでいるという事である。

 勿論、対応しきれずヤヨイやルナマリアが仕留められれば良いが、そうならなかったときは、タケルが言う様にシンこそが最後の一矢…………頼みの綱となる。

 

 急に双肩の重みが増したような気がして、シンは思わず息を呑んだ。

 

「怖気づいたか? さっき言ったように楽勝くらいは言って欲しいのだがな」

「だ、誰が! やってやりますって! 楽勝ですよ!」

 

 いくら生意気坊主であろうとも、部隊の生死が掛かりそうな責任。まだまだ新兵に変わりがないシンには重たいものである。

 空元気であるのは察したが誰も口を挟むことは無かった。

 

「あぁ、その意気だ。尤も、私はお前どころかルナマリアまで回す気も無いが」

「やる気になっているところ悪いですがシン、作戦はファーストアタックで終わらせますのでご安心を」

「はっ、良いのかよヤヨイそんな事言って。後で隊長と一緒に恥をかいても知らないからな」

「何を言っているのですか? 私は失敗したとしてもそのまま貴方の露払いとなるだけですよ。恥も何もありません」

「そもそも初手は相手の迎撃が一番に集中してくるだろうからな。シンが吶喊するときとはまるで状況が違う」

 

 ヤヨイとタケルが揃ってシンへと返した言葉に、ルナマリアは思わず何とも言えない表情を浮かべた。

 何と嫌な兄妹であろう。ヤヨイにその自覚がないと言うのに、ここまで息ぴったりでシンに返す辺り、やはり兄妹なのだとルナマリアはおもった。

 

「うわ~、清々しい程予防線張ってるわねこの2人……」

「良かったなルナマリア。セカンドアタックと言う中途半端な立ち位置だから、お前がとやかく言われることは無いだろう」

「ちょっとレイ、それどういう意味よ! 私は居ても居なくても同じとでも言いたいわけ?」

「いや、何も気にせず作戦の遂行だけに集中できるということだ。最初でも最後でもないから余計なプレッシャーも無いだろう。

 そうだな……隊長の言葉を借りるなら前にも後ろにも仲間がいるんだから気負わずやれ、ってところか」

 

 へっ、と僅かに呆けてルナマリアは間抜け面を晒す。

 そこを笑わない辺りは流石は堅物のレイ・ザ・バレルという所だ。

 

「い、いつになく優しい言葉じゃない。隊長の言葉じゃなかったらレイに惚れるところだったわ」

「それは困る」

「はぁ!? それはそれで聞き捨てならないんですけど!」

 

 別の方向から辛辣なレイの言葉に、収まりかけた怒りは再燃。

 シンとヤヨイが言い合う中に、レイへと言い募るルナマリアという構図が追加される。

 

 ブリーフィングルームはさながら、いつまでも静かにならない教室の様相を呈し始めていた。

 

 

「な、なぁ副長さん。本当に大丈夫なのかこれ?」

「えっ? あ、あぁ。大丈夫……じゃないかなぁ……多分?」

「えぇ……」

 

 

 少女は静かに、これはもうだめかもしれない……と諦めの境地へ達するのだった。

 

 

 

 

 

『コンディションレッド発令。パイロットは搭乗機にて待機せよ!』

 

 

 気の抜けたブリーフィングが終わりを迎える頃、漸くの戦闘地域への到達を、メイリン・ホークの艦内放送が知らせる。

 

「時間だ────各位機体に搭乗、発進準備を進めろ」

「了解!」

 

 いくら騒いでいようが、事が至れば鶴の一声と言う所。

 タケルの号令にパイロット達は了承の声を揃えて返すと、一斉にブリーフィングルームを出ていく。

 

 そんな綺麗な変わり身に、コニールは目を丸くさせた。

 

「心配ですか、ミス・コニール?」

「えっ? あっ、いや」

 

 見事に狼狽えて表情を崩すコニールに、タケルは視線を合わせる様にしゃがみこんだ。

 少女にとってこのミネルバの作戦が、まさに生き死にをかけた大事なものだというのは、状況も込みで良く理解していた。

 先立って行われたラドル隊の攻略作戦。それに呼応する様に砲台の先にある街でレジスタンスが蜂起したのだ。

 結果はラドル隊の敗北により街を大西洋連邦から解放することは叶わず。レジスタンスだけでなく街の人々もかなり手酷く弾圧されている。

 もしまたこの作戦が失敗すれば……いよいよを持ってレジスタンスは大西洋連邦に反旗の声を挙げられなくなるだろう。

 

 どこか和やかな空気だったブリーフィングに少女が不安を覚えるのは当然であった。

 そして、不安を覚える少女の心を安心させるように、タケルはその声音を素の自身へと変える。

 

「心配する事はないよ、大丈夫だ。彼等は本当に優秀だからね。特に、さっき騒いでたシン・アスカは先の大戦の英雄達と比べても遜色ない程の実力者だから」

「あんな、ガキっぽいのにか?」

 

 思わず吹き出しそうになる少女の返答に、タケルは必死になって緩みそうな口元を引き締めた。

 全くよく見ている。ここに居た僅かな時間の内に、少女はシン・アスカの大半を掴んだと言って過言ではあるまい。

 

「ガキっぽくても腕は確かだよ。

 仮に……もし彼等が及ばす、本当にもう駄目だってなった時は最後、僕が全て何とかするから」

「なんとかするって……隊長1人でか?」

「できるよ────それだけの力を持たされているからね」

 

 十分な勝算────それは先程述べたように、機体とパイロットの差からくるものもある。

 タケルは自身が言った事に、十分に信憑性を持って今回の作戦を提案しているし、事実として作戦は成功するだろう。

 だが、本当にもし……何かの間違いがあって、それが成されなかった時。

 

 その時は、SEEDの奥へと至りその超越した認識能力で全ての攻撃を掻い潜って、タケルがローエングリン砲台を破壊するだけだ。

 それを成せる機体と経験が、タケル・アマノにはある。

 如何せんリスクが高すぎる選択肢なだけにタケルとしては絶対に執りたくはない手段だが、最後の保険としてこれ以上は無いだろう。

 ユリス・ラングベルトの様な対抗馬がいないこの戦場で、連合のMSやMAがSEED下におけるタケル・アマノを墜とせるわけがないのだ。

 

 

「だから安心して大船に乗ったつもりで戦況を見ててよ」

 

 

 少女の不安を払拭しながら、タケルもまた静かにブリーフィングルームを後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 こうして、ガルナハン攻略作戦は幕を上げる。

 

 

 ローエングリン砲台へと迫るザフト軍。

 空中からはミネルバが。地上からはラドル隊が並んで進軍していく布陣。

 

 対するは、ローエングリン砲台を守る様に配備された大西洋連邦の部隊。

 陽電子リフレクターを備えるYMFG-X7Dゲルズゲーを筆頭に、ウインダムやダガーがひしめき、更には岩肌に迎撃用の火砲が幾つも顔を出している。

 正に要塞と言える場所となっている。

 

 

 互いに警戒の色を濃くしながら、そろそろ射程圏内へと踏み込もうとするところであった。

 

 

 

 

「申し訳ありません、遅れました!」

「アーサー! MS隊のブリーフィングにどれだけ時間を掛けているの!」

「えぇ!? い、いや、すいません! なにぶんラウラ隊長の作戦が面白かったもので……」

「早くシートに座りなさい。それから、艦橋への作戦の共有、急いで!」

「は、はい!!」

 

 艦橋へと戻り、火器管制を担当する副長の席に付いたアーサーは次々と指示を下しながらブリーフィングで定まった作戦を艦橋内に共有。

 作戦成功の為に必要なミネルバの動きを伝えていった。

 

 

 一方格納庫では、パイロット達が到着した続々と発進に向けてMSが動き始める。

 

 

『セイバー、エスペラント、発進スタンバイ』

 

 第一陣となるヤヨイのセイバーとタケルのエスペラントが、カタパルトに乗せられて発進シークエンスへと入っていた。

 

「メイリン、敵部隊の数はどの程度ですか?」

『現段階でMS35、例のMAが1機確認されています』

「中々多いですね……オーブ沖の戦いに比べればマシですが」

『あの日の様な戦果を期待するよ、ヤヨイ』

「無論です。任せてくださいメイリン」

「メイリン・ホーク、セイバーとエスペラント発進後、後続の発進は2分待て。ミネルバの艦砲とタイミングを合わせて強襲する。インパルスとザクはその後だ────ヤヨイ・キサラギ、発進後は一気に上昇し敵の射程外へと上がるぞ、良いな」

『了解しました!』

「了解」

 

 エスペラントへと搭乗したタケルもまた、発進後の動きを確認しながら迅速に機体の状況をチェックしていく。

 そんな中、同じく発進に向けて忙しいであろうヤヨイから、タケルへと秘匿通信が入った。

 

「──隊長」

「む、なんだ? ヤヨイ」

「先程のブリーフィング。シンへ発破をかけるにしても、私と隊長が前座扱いと言うのは些か納得がいきません」

「意外だな。君はそんな事気にしないと思っていたが」

「これで私達が仕留めきれずシンが仕留める様な事になればきっと彼は思い上がります」

「そのくらいは認めてやれば良いだろう? ザクで吶喊するのは中々骨が折れる事だろうし、それだけの頑張りは認めなくてはならない」

「そうなればまた、隊長が軽く見られますよ?」

「そうか? 今のシンはそんな事にならないと思うが……」

 

 予想外な言葉に戸惑いながらタケルは返した。

 思い上がる……隊長である自分を軽く見る。

 確かに以前のシン・アスカであればそんな未来も予想できるだろうか。だが、今のシンにタケルはそんな想像を微塵も抱けなかった。

 

「まぁ、もしそうなったらその時は……また徹底的に叩きのめしてやるから安心しろ」

「そう、ですか……」

 

 2度と調子に乗れなくなるように……と続いてそうな少し好戦的な気配を感じるタケルの声音に、ヤヨイは素直に引き下がって通信を切った。

 

 依然として、彼女の顔には不満の色が残っていた。

 面白くない……そう感じるのは何に対してか。

 自分の実力を過小評価されている事か。

 タケル共々、シンの前座と扱われている事か。

 それとも────タケルがまるで、自分よりもシンの事を見ているように感じるからであろうか。

 

 

 レイと並んでヤヨイは堅物な優等生と言うのが、同期である皆からの評価だ。

 対してシン・アスカの問題児っぷりと言えば…………ある種素晴らしいの一言。

 教官に噛みつくのは日常茶飯事であったし、同期の中でも何かと問題の絶えない少年だった。

 それが、凄惨な過去からくる抑えきれない感情の暴走である事も、なんとなくミネルバの同期達は理解して居た。

 

 故に、手のかかる部下となったシンを、上官となったタケルがみる機会が多くなるのは決しておかしい事では無い。

 

 だが、インド洋での1件以来明らかに親しいやり取りを増したタケルとシンを、ヤヨイはどこか面白くない目でみていた。

 しょうがない奴だと、どこか諦め半分な表情でシンへと向ける視線は、嘗て自分に向けられていたものではなかったか。

 そんな記憶はヤヨイ・キサラギには全く持って存在しないが、ヤヨイ・キサラギの過去(記憶)には存在していた。

 脳内に過るのは、慕ってくる妹を拒絶するわけにもいかず苦笑いで受け止める兄の姿。

 その光景が、シンを相手にするときのタケルと被って見えた。

 

 それがヤヨイを……酷く陰鬱な気持ちにさせた。

 

 

「────何を考えているのですか私は。これから戦場に出ると言うのに」

 

 

 数度、被りを振ってヤヨイは雑念を外へと追いやった。

 余計な事を考えていては無様を晒す。大切な仲間にそのツケを払わせることになる。

 それは、セイバーを任されてからずっと、ヤヨイが自身に課してきた在り方である。

 戦場に出るからには、意識を100%向けて切り換えなければ大切な何かを失うのだ。

 

 深呼吸を繰り返し、努めてヤヨイは機体の情報と戦場に意識を集中していった。

 

 

『進路クリア。セイバー、エスペラント、発進どうぞ!』

「ヤヨイ・キサラギ────セイバー、発進します!」

「クルース・ラウラ────エスペラント、出るぞ!」

 

 

 雑念を排して、ヤヨイ・キサラギが駆る真紅の機体は、ミネルバを飛び立つ。

 純白(エスペラント)の隣へと並び立ち戦場へと飛翔した。

 

 

 




シン、お前インパルス降りろ。の影響で作戦変更。
インド洋の一件で出撃禁止処分もありましたが、そこそこ長旅してるのでその間に終了してます。

インド洋の時も結構悩んだんですが、このオリジナルで戦場を描くのがとことん難しいですね。
原作との目的自体は同じでも、陣容もキャラクターも変化してるので。

どんな戦いとなるか、どうぞお楽しみに。

感想、どうぞよろしくお願いいたします。

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