機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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正直余り大事な戦闘でもないからって言うのはあるんだよね。
一話完結戦闘となります。


PHASE-37 ローエングリンを討て

 

 飛翔する。

 

 どんどんと高度を上げ、白い雲を突き破り。タケルが駆るエスペラントとヤヨイが乗るセイバーは上空へと至った。

 

 敵部隊とて2機の発進は捕捉している事だろう。

 それが射程圏外へと飛び出して遥か彼方の上空へと飛んでいけば、何をしてくるのかと警戒も一入。

 

 2人はこれから、そんな警戒も厳しい防衛網の中へと吶喊しなくてはならない。

 僅かに、ヤヨイは緊張に身を固くした。

 彼女とてまだ新兵。脳裏に過る戦いの記憶は幾つもあるが、彼女自身が持つ記憶にこれ程の敵部隊へと吶喊していくものはない。

 必然、怖れが彼女の胸には湧きあがってくる。

 それを払拭するかのように、ヤヨイは先んじてタケルへと告げた。

 

「──私は右翼から行きます」

「ならば左翼から狙おう。先んじるのは私だ」

「了解です」

 

 互いに動きを決める。それが終われば、始動のタイミングはヤヨイではなくタケルの手の中である。

 ヤヨイはすっと一息吸い込んで覚悟を決めた。

 

 直後、2機はスラスターを切り自由落下へと切り替えた。

 落ち始める機体を微細に制御し互いのルートに乗り始める。

 

 空気を裂き、落下速度を上げていく機体の中で、ヤヨイは必死に弾けそうな緊張感を御し続けた。

 まだ、射程圏外────敵部隊に動きは無い。

 少しずつ近づいてくる地上に、脳内で秒読みのカウントが過った。

 

 

 3,2,1……今! 

 

 

 それは地表の迎撃兵器が射程圏内に2機を捕捉し射撃を始めようとする寸前であった。

 エスペラントとセイバーのスラスターがフルスロットルに入り、自由落下からかけ離れた速度で動き出す。

 その軌跡は綺麗に、砲台の両翼を狙って分かたれたものであった。

 

 

「さぁ、こっちを向いてもらおう!」

 

 エスペラントがガラディンを展開──形態は高出力狙撃モード。

 その類稀な射程は高高度からでも十分に届くものであり、タケルは放たれる砲火を躱しながらそのまま数か所の迎撃砲を狙い打った。

 

 

「(なんて出鱈目な……これだけの高速機動中に狙撃なんて信じられません。ですが────私も!!)」

 

 

 触発される様に、巡航形態のセイバーは最大火力を持つアムフォルタスプラズマ収束砲を発射。

 不運にも射線上に居た数機のダガーを破壊しながら、岩肌を穿った。

 

 エスペラントとセイバー。共にその高い機動性を以て接近を続け、更には高出力の火砲がある事を知らしめる。

 必然、それはローエングリン砲台にとって大きな脅威となり連合の部隊は2機へと意識を向ける事となった。

 

 そこへ────

 

「てぇー!!」

 

 アーサー・トラインの号令の下ミネルバの艦砲射撃が放たれた。

 艦尾両舷に備えられた高出力ビーム砲トリスタン。艦首の副砲イゾルデ。更にはミサイル発射管に装填されたパルジファル。

 それに合わせる様にラドル隊からも一斉掃射で放たれた艦砲は、ローエングリン砲台ではなくその周囲を一斉に面で押す制圧射撃となって連合の部隊に迫る。

 

 上空からくる脅威と、前面から放たれる脅威。

 僅かに、防御に回ろうとするゲルズゲーの動きが迷いを見せたかのように鈍った。

 

「後手に回ったようだ──吶喊!」

「了解です!」

 

 その隙を見逃さぬように、速度を上げてエスペラントとセイバーが急速に接近。

 敵MS部隊の射線を躱す迂回の軌道から、直線での接近にルートを変更。

 最速を以て、砲台へと向かい始めた。

 

「敵MSを取りつかせるな! 迎撃を上空の2機に集中。敵艦はローエングリンで牽制しろ!」

 

 しかし、敵もさるもの。

 脅威度としては小回りの利くMSの方が高いと判断しエスペラントとセイバーの迎撃に部隊の大部分を回す。

 手薄となった前面のミネルバとラドル隊には虎の子のローエングリンで追い払う作戦を取った。

 ザフト側に陽電子リフレクターは無い。つまりはローエングリンを防ぐ手立ては無く、そして動きの鈍い艦船にとって、ローエングリン砲台を向けられるのはこれ以上にないプレッシャーとなる。

 

「ちっ、迎撃が集中してきたか────ヤヨイ、反転だ!」

「くっ、了解!」

「敵砲台、本艦を照準!」

「機関最大、降下! マリク、躱して見せなさい!!」

「了解!」

 

 ザフトの構成は一転して、回避軌道へと変わった。

 エスペラントとセイバーはゲルズゲーを僅かに引き寄せるも集中した迎撃砲火に晒され反転。

 ミネルバもまた、タンホイザーでゲルズゲーへと牽制をかけるまえにローエングリン砲台に狙われ、艦を大きく降下させての回避軌道を取った。

 

 攻め手が緩めば、今度は連合側の攻勢となる。

 

 エスペラントとセイバーを仕留める様にウインダム部隊が追従。

 ラドル隊と並ぶ様な形となったミネルバにもまた、遠距離からの砲火が降り注いだ。

 

「ちっ、この想定を超える数……」

「呼び寄せていたのね……あちらも戦力を」

 

 タケルとタリアが奇しくも同じタイミングで状況の悪化を悟った。

 想定を軽く超える敵部隊からの攻撃。

 大西洋連邦はミネルバの来着に併せて、増援部隊を呼んでいたのだ。

 まるで湧いてくるように山岳の奥から捕捉されていなかったMS部隊が出現。エスペラントとセイバーに向けて更に苛烈な攻撃を向けていく。

 

「隊長!」

「砲台はルナマリア達に任せる。私達は敵MSを迎撃だ!」

「ちぃ!」

 

 思わしくない状況の言質が取れ、ヤヨイは苦々しく舌打ちしながらも、巡航形態からMS形態へと変形。

 空戦特化のセイバーを相手にしてわざわざ空へと飛翔してくるウインダム部隊へ、その機動性をまざまざと見せつける様に敵陣を駆け抜け光の刃を翻した。

 タケルもまた、ガラディンとビームソードを展開。

 駆け抜け、切り裂き、撃ち落とす。

 遠近共に隙の無い動きでウインダムを次々と屠りながら、僅かに割いた意識で戦況を確認した。

 

 

「MSは誘引した。しっかりやってよ────ルナマリア」

 

 

 向けられた意識の先には、密かにミネルバを発進していたインパルスとザクが、地表スレスレを飛行して砲台へと接近していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザフトレッド。

 それは、アカデミーにおける成績優秀者の証。

 今後の活躍を期待された、英雄の卵とも言える者達だ。

 しかし、軍服にもパイロットスーツにも反映されたその赤が、それを着込んだ今の彼女には重たいものであった。

 

 ブラストシルエットを装備したインパルスのコクピットの中で、ルナマリア・ホークは焦燥に目を見開き、緊張に表情を固め、そして不安に胸が押しつぶされそうであった。

 

 作戦を決めるであろう1射。それも、敵に悟られない様にある程度接近しながら、射程ギリギリで行う遠距離射撃。

 

「(うぅ……勘弁してよホントぉ。射撃は苦手だってちゃんと言ってあったじゃない! 簡単に訓練はしただろ、みたいなこと言っちゃって。それでできる様になるなら苦労はしないっつーの!!)」

「────ルナマリア」

 

 全身に緊張で嫌な汗をかきながらも、入ってきた通信にルナマリアは僅かに息を吐いた。

 随伴しているザクファントムに乗るレイの声は普段と何も変わらず落ち着き払っていて、それが不安だらけの彼女をもまた落ち着かせた。

 

「な、なによレイ」

「らしくない程緊張してそうだったからな。少し助け舟をだしてやろうかと思った」

「別に……緊張なんて」

「ルナマリア、隊長に訓練で見てもらったはずだ。お前の射撃は別におかしくないと。当たらないのは苦手意識によるものでしかないとな」

「そんなこと言ったって、苦手だと思ってるんだから、それこそどうしようもないわよ」

 

 簡単に言ってくれるなと、ルナマリアは不満を声に表してぶつけた。

 

 実際問題として、彼女の射撃成績はすこぶる悪い。それは確かな事である。

 こうして作戦の要となる射撃を彼女に回したのは、少々意地が悪いとも捉えられるかもしれない。

 しかし、タケルがミネルバに来て彼女の訓練を見たときに思った事は“もったいない”であった。

 空間認識能力は問題なく、目測もできてるし狙いだって彼女は正確ではあるのだ。

 どこで付き始めたかはわからない苦手意識が、彼女の身を強張らせ、トリガー時に余計な力が入りその命中精度を落としているだけなのである。

 その焦りはMS戦においても顕著に表れ、彼女は機械頼りで狙いをしっかりつけたとしても、その射撃タイミングの拙さで命中率を落としていた。

 

 故に、タケルが彼女に、これまで課した課題は1つ。

 “撃つな”、であった。

 狙いを定め、もう撃つだけという状況下において、撃たずに対象に狙いを定め続ける訓練である。

 それが一体何の訓練になるのかと訝しんだルナマリアであったが、少しやるうちにその意味を理解した。

 撃たずにいるから。撃たなくて良いから。焦りを覚える事が無かった。

 ただ動き続けるタケルの機体を相手に、照準を定めるだけ。

 そうして狙いをつけていると照準とは別に見えてくるものがあった。

 敵の動き────呼吸と言うべき、その動きのリズムだ。

 少しずつ、ルナマリアはタケルが駆る機体の動きに順応する様になっていった。それは訓練を共にしたシンや、ヤヨイ、レイを相手にしても同様。脳内でトリガーを引けば、ルナマリアは百発百中であった。

 

 しかし、それはあくまで訓練で得た経験でしかない。

 此れよりは実戦。その中で苦手としている射撃を肝ととした作戦を遂行するのである。

 ルナマリアの緊張は、簡単に解けてはくれなかった。

 

「相手は動けぬ固定砲台だ。狙いを定めれば確実に当たる。敵の妨害は俺が食い止める。恐れる事は無いだろう。

 そもそも、お前は失敗とかを恐れるタイプでは無いはずだ。失敗したら当たるまでやってやるくらいの気持ちで居れば良い。ダメでもその時は、次の手となるシンに任せれば良いだけだ」

 

 シンに任せる────レイにそう言われて、素直にそうだなと、ルナマリアは頷けなかった。

 記憶に新しい、シンとインパルスの暴走。

 MS隊の面々はあの戦闘記録を閲覧こそしてはいないが、シンがとんでもない事をしでかした事。そしてそうするに至る程何かに追い詰められていた事は理解して居た。

 

 今は立ち直っているようだが、果たしてそれが本当であるのかは疑問が残る。

 同期として、同じ艦に居る仲間として、今のシン・アスカに重いものを背負わせたくはないと思っているのは確かな事である。

 

 静かに、ルナマリア・ホークは腹を括った。

 

「ま、失敗して隊長にどやされたくもないしね────上等じゃない、あの生意気小僧に出番何か譲ってやらないわよ」

「ふっ、そうだな。なら、しっかりやってみせるとしよう!」

「えぇ! 私も赤だって事を、隊長にしっかり証明してやるんだから!」

 

 一気呵成。意気揚々と声を挙げ、ルナマリアは地表スレスレで飛んでいた機体を翻した。

 

 スラスターを全開にして一気に上昇。

 インパルスはローエングリン砲台を狙える高さまで上がると、主兵装であるケルベロスを腰だめに構えた。

 射程ギリギリの距離からの狙撃。

 決して精密射撃を得意とする兵装ではないが、威力が十二分でないと巨大な砲台の破壊も成らない。

 狙いは定まり、そしてエネルギーのチャージが完了する。

 

 不思議と、ルナマリアの胸に苦手意識は欠片も湧いてこなかった。

 

 エスペラントとセイバー。そしてミネルバとラドル隊への応戦に部隊の大半が回っていたところで現れる次なる手。

 ケルベロスを構えたブラストインパルスの登場に、近くにいたダガーの何機が対応に向かおうとするも、それはレイのザクが放つビーム突撃銃に牽制され出鼻を挫かれる。

 

「レイ、ちゃんと守っててよ!」

「ふっ、了解だ」

 

 軽口の間に燐光がケルベロスの砲門へと収束。

 ルナマリアはそのまま狙いを定めてその砲火を放った。

 

 巨大な閃光が迸り、ローエングリン砲台へと向かう。

 ルナマリアは命中を確信して、僅かに口元を緩めた。

 

「やらせるものか!」

 

 間一髪。ゲルズゲーが間に割って入り防御。

 ケルベロスの閃光は霧散し、ローエングリン砲台は健在の儘でセカンドアタックも終えた。

 

「うっそぉ!」

「惜しかったな。防がれなければ当たっていただろうに……」

「こんのぉ、よくも私の一世一代のシューティングを!! だったらレイが言う通り当たるまでやってやるっての。行くわよ、レイ!」

「無理をするなよ。脅威となるカードを示した以上、今度はあちらも全力で向かってくる」

「わかってるわよ!」

 

 失敗したこと等頭の片隅に追いやり、奮起するルナマリアにレイは僅かな頼もしさを覚えながらもザクを動かした。

 迫りくるウインダムとダガー部隊を睥睨して、2人もまた生意気坊主の露払いと成るべく、戦場を駆け始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『シン、セカンドアタックも失敗。レイとルナマリアも敵部隊との混戦となったわ────準備は良いわね?』

「了解」

 

 投げ込まれるタリアからの通信に、小さく落ち着いた声音でシンは返した。

 少なくとも緊張に強張った声音ではない事に、タリアも含めた艦橋クルー達は否応なしに、シン・アスカへ期待を寄せた。

 問題は確かに多い少年だ。しかし、それ以上に鮮烈な戦果を見せてくれたのも事実。

 彼にその力が備わっているという事は、ミネルバの皆が知る所である。

 

 故に、シン・アスカは落ち着いて自分を顧みた。

 

 ここで再び暴走、何てことになれば自分はもう戦えなくなるだろう。

 皆の期待を、裏切るような事はできない。

 そう思うと、また1つ肩が重くなった気がした。

 だが、同時にシンの胸は1つ軽くなった気がした。

 

 

 “君は強くなったんだ、シン・アスカ”

 

 

 認めてくれたのだ、彼は。

 託してくれたのだ、彼は。

 

 自分を強いと言ってくれた彼の言葉を、シンは嘘にしたくなかった。

 

 ならば信じよう。自分は強いのだと。

 この程度の戦い、楽勝で切り抜けられるのだと。

 未だ嘗てない程の集中力を以て、シンは眼前の戦場を見つめた。

 

『シン・アスカ、ザクウォーリア発進願います────進路クリア、発進どうぞ』

「シン・アスカ。ザク、行きます!」

 

 メイリンのオペレートに従いカタパルトから射出される。

 砂色に塗装されたブレイズ装備のザクウォーリアは砲台目掛けて地表付近を疾走し始めた。

 

 

「シンが出て来たか! MS隊全機、ザクの露払いだ、派手に暴れて見せろ!!」

 

 タケルは指示と共に、エスペラントのガラディンを展開。

 大口径カノンモードでミネルバの眼前にある地面へと狙いをつけると、トリガーを引いた。

 

 放たれる巨大な閃光が地面を抉り、エスペラントはそのまま閃光を吐き出しながら射線を変更。

 ローエングリン砲台へとその凶悪な光の奔流を薙ぎ払う。

 

 当然ながら砲台の前にはゲルズゲーが待ち構えて砲撃を無力化してみせる。

 しかし、そんな事は織り込み済みである。

 

「道は敷いてあげたよ──後は君次第だ、シン!」

 

 巻き上がった粉塵で視界を塞がれる中、ガラディンによって抉られた地面の溝をシンのザクが駆け抜ける。

 既に連合のMS部隊の意識は先程の射撃でエスペラントにくぎ付けとなり、セイバーやインパルス。レイのザクによって、完全な混戦模様となっている。

 粉塵の中を全開機動で駆け抜けるザクなど、誰も意に介してない。

 

 

「──壁。ここからだ!!」

 

 

 その内にザクはローエングリン砲台が設置されてる岸壁の麓へと到着。

 そこから垂直上昇で一気に粉塵地帯を抜けると、ガラディンを防いでそのまま待機していたゲルズゲーの眼前へと躍り出た。

 

「例のMAか! でも、ここまで来れば!」

 

 意を決してシンはザクをゲルズゲーへと突撃させた。

 

「ヤヨイ!!」

「わかっています!!」

 

 エスペラントとセイバーは周囲のウインダムを薙ぎ払うと即座に巨大な砲身を展開。

 シンのザクへと向かおうとするダガー部隊を射抜いていく。

 

「レイ、私達も!」

「わかっている!」

 

 ブレイズ装備のファイヤービーが放たれ、ミサイルの雨が追撃のダガー部隊を壊滅させると、ルナマリアはブラストシルエットの全兵装をフルオープン。

 今回は狙いなどつける必要は無い。シンのザクとゲルズゲーが居る位置を中心にして、まるで寄せ付けないように一斉掃射で弾幕を張る。

 これにより、ゲルズゲーの援護に向かおうとしてダガー部隊を封殺して見せる。

 

「決めなさい、シン!」

 

「うぉおおお!!」

 

 仲間たちの援護を背に受けて、シンはザクを駆った。

 ゲルズゲーが両手に持つビームライフルからの閃光を躱し、地面へと着地。

 そのまま再びの突撃。

 

「やらせん!」

 

 振りかぶられるは地面を抉るゲルズゲーの鋭い脚部のクロー。

 右を、そして左の脚部を掻い潜る。

 

「嘗めるな!!」

 

 ゲルズゲーのパイロットも負けじと機体を翻した。

 前面の2脚を避けられたところで、後方4脚はまだ健在。

 掻い潜り、真下へと潜ったザクの両側から挟み込むようにクローが迫った。

 

「そんなもんに、当たるかぁ!!」

 

 潜り込んだ勢いのままザクは微小なスラスタ噴射で姿勢を制御しながら地面スレスレのスライディングを敢行。

 迫りくるクローは空を切った。

 

「なにぃ!?」

「もらったぁ!」

 

 ザクはビーム突撃銃で真下からゲルズゲーのコクピットを射抜くとそのまま離脱。

 

 背後で爆散するゲルズゲーを置き去りにして、ローエングリン砲台を目の前にする。

 

 

「これで──終わりだあ!!」

 

 

 放たれるビーム突撃銃とファイヤービーのミサイル。

 遠慮も無しに一斉に放たれた砲火が、ローエングリン砲台を爆炎で包み込む。

 

 

 

 こうして、ガルナハン攻略作戦はザフト側の勝利で幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 破壊された砲台が見降ろしていた渓谷を抜けたその先。

 

 

 ガルナハンの街は喜びに狂乱する空気に包まれていた。

 

 ユーラシア連邦から奪われたこの地域を早期に制圧し大西洋連邦はジブラルタルへの足掛かりへとしたかった。その為にも反抗の象徴であるレジスタンスや街の住人への弾圧と言うのは見せしめ目的で繰り返し行われていたのだ。

 

 それが──今この時になってひっくり返っていた。

 

 

 大西洋連邦の支配からの解放に街は歓声に包まれ、そして人の業は繰り返される。

 

 

「まぁ、聞いてはいたけどね……この地域の惨状は」

 

 

 街へと降り立ったエスペラントのコクピット内で、タケルは歓声に包まれる街の影を見つめていた。

 拘束され、私刑され、そして処刑される────この街を支配していた大西洋連邦の敗残兵たちの姿を。

 眼下にはザクより降り立ったMS隊の皆が、住人達から英雄の様に持て囃されていた。

 

 目の前に見せつけられる、戦勝の光と影に、遣る瀬無くなってタケルは目を逸らすことしかできなかった。

 

『よくやってくれたわ、ラウラ隊長。後の事はラドル隊に任せて私達はマハムールへと一度帰還します。シン達を連れて帰投して頂戴』

「了解です艦長。街はお祭り騒ぎなので、少々連れ帰るのに難儀しそうですが急ぎます」

『混ざって来ても良いのよ』

「はは、まさか────御免ですよ」

 

 言って、タケルは通信機を切るとコクピットから降りていく。

 

 

 

 

「うわぁあ!!」

「よくやってくれたぜ!」

「感謝してるよ軍人さん!!」

 

 コクピットを降りると、喜びの歓声が直ぐにタケルの耳に入って来た。

 しかし一方で──

 

「大西洋連邦は皆殺しだ!」

「一人も逃がすなよ!」

 

 未だ冷めやらぬ後ろ暗い部分の音も良く聞こえていた。

 努めて戦勝の空気を害さない様に、タケルは表情を取り繕ってMS隊の元へと歩み寄った。

 

「あっラウラ隊長……お疲れ様です」

「あぁ、ヤヨイ。大事は無いか?」

「はい。隊長こそご無事ですか?」

「被弾は皆無だ。まぁ、皆同じようなものだろう」

 

 MS隊ではルナマリアのインパルスが軽微な損傷を受けたくらいで、他は消耗こそすれ敵機からの被弾はゼロ。

 作戦の成功と併せて、タケルとしても大いに満足できる結果であった。

 

「隊長!」

「お疲れ様です」

「ルナマリア、レイ。2人ともよくやってくれた」

「案の定、決められなかったですけどね」

「だが、次なる手の布石にはなったさ。シンへの援護射撃も良かったしな」

 

 ケルベロスによる砲台の撃破こそならなかったが、その後のインパルスは十分にエースに相応しい働きであった。

 特にシンのザクを後押しする兵装のフルオープンは、ブラストシルエットが出来ることを十分に理解した援護射撃と言えるだろう。

 慣れぬ素直な称賛の声に、ルナマリアは照れ臭そうに頬を掻いた。

 そんならしくない彼女から視線を巡らせ、タケルは今回の戦勝の立役者へと目を向けた。

 

「さて────シン! いつまでそうしているつもりだ。帰投命令が出ている。ミネルバに戻るぞ」

 

 住人達にもみくちゃにされているシンへと、タケルは声を張り上げた。

 ビクリと肩を震わせて振り返ったシンは、タケルを見るなり狂犬モードならぬ忠犬モードへと移行。

 どこかブンブンと振られる尻尾を幻視させながらタケル達の元へと駆け寄ってきた。

 余談だがこの時、ヤヨイ・キサラギが不機嫌モードに移行していた事を記しておく。

 

「隊長! 作戦、成功でしたね」

 

 第一声。妙に爽やかな笑顔を見せながら言ってくるシンに、タケルを含めMS隊の面々は目を見開いた。

 端的にいうなら誰だお前は、と言った所だ。

 シン・アスカはこんな普通の少年の様な笑みを浮かべる人間だっただろうか。

 一体どんな心境の変化だと皆が目を疑う。

 

「あー、まぁ成功だな。だがシン、言っておくが今回の作戦は──」

「わかってます。ちゃんと理解してますよ…………隊長にヤヨイ、レイとルナが道を切り開いてくれたから砲台まで辿り着けた。だから、俺1人の力じゃないって」

「そ、そうか。それなら良いんだ」

 

 信じられない程の殊勝な態度に再び同期の皆から疑問の視線が向けられる。

 対してタケルは戦闘前の一幕を思い出し、ヤヨイへと意味深な視線を向けた。

 

「(見てみろ。今のシンなら思い上がる事はないと言った通りじゃないか)」

「(恐らくですがそうなる様に育てたのは隊長です。ですから、ちゃんと責任を持って今後も面倒を見てください)」

「(おいおい、私に押し付けようとしないでむしろ同期である君達こそが責任を持ってだな)」

「(部下の面倒を見るのは隊長の務めではないのですか?)」

「(それを言うなら不安定な仲間を助けるのも同期の務めだろう)」

「(不安定にさせたのも、安定させたのも他ならぬ隊長によるものだと私は考えます)」

「(待て待て、何を根拠に──)」

「あのー、ヤヨイも隊長もアイコンタクトで会話するのやめてもらって良いですかね?」

 

 ルナマリアがやんわりと割り込んだ事でタケルは慌てて視線を逸らすと、気を取り直す様に咳払いを1つ。

 

「んんっ! ではミネルバに帰投する。全員速やかに機体に搭乗し順次ミネルバに向かえ」

 

 今度こそタケルは帰投命令を下した。

 了承を示して機体へと乗り込んでいくパイロット達を見送りながら、最後に自分もエスペラントへと乗り込む。

 

 

「はぁ……大した戦いでもなかったのに、妙に疲れたなぁ。僕ってもしかして隊長向いてないのかなぁ」

 

 コクピットで1人になった瞬間、身体にドッとのしかかってくる疲労感に、タケルはごちた。

 一応ユウキ・アマノによって指揮官適性も十分に鍛え上げられているタケルは、不向きという事はないだろう。

 が、国防軍三佐の立場も、シロガネを駆り見せつけた戦果と、技術開発による貢献部分が大きい。

 タケル・アマノは通常の指揮系統の中で評価されてきたわけではない。

 教官職の延長線上で隊長の任をこなしているだけである。

 

 タケルの性格を考えれば、そんな不安が出てくるのも仕方のない事であった。

 それを隠し通せるラウの仮面に、タケルはまた一つ感謝した。

 

「さて、戻るとしよう。この後はジブラルタルに帰還だったな…………着いたら少しはゆっくりする時間が欲しい所だね。サヤの事もあるし、オーブの情勢もどうなってるか確認しないと」

 

 

 ミネルバには来たものの、本来の目的であるサヤを取り戻す事については、その進捗がイマイチと言えるだろう。

 配属されることとなった艦を沈めるわけにもいかずと思い、隊長職にかまけすぎであった事をタケルは思わず自戒する。

 

「早く、取り戻さないと……」

 

 新ためて己の目的を見つめたタケルは、静かに胸の内の想いを口にした。

 

 

 しかし、帰投したタケルは翌日にタリアより呼び出され悪夢の様な報せを聞かされることとなる。

 

 

 

 

 それは、オーブ首長国連邦と大西洋連邦が、改めて同盟締結へと至った報せであった。

 

 




ファースト、セカンド、サードの電撃戦。
波状攻撃により作戦時間はきっとかなり短い。

そして、狂犬から忠犬になる主人公。
原作でもこの戦いでは綺麗な笑顔を見せていました。

次回はディオキア。
次からまた、大事な話になり、面白くなると、思います。

作者のモチベになりますので、感想をどうぞよろしくお願いいたします。
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