機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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多分だけど、ここまでで運命編3分の1くらいだよね。



PHASE-38 喧騒と安らぎ

 雄大な海の中、白亜の戦艦は進んでいく。

 

 

 オーブを出たアークエンジェルは、ユーラシア連邦の首都ブリュッセルを目指して海中航行の真っ只中であった。

 

 嘗ての逃避行を想えば静かなもので、緊急の事態も起きない為に艦橋に張り付く人員も最低限。

 シートに空きが沢山ある中、CIC席に座るカガリは艦橋から覗ける海中を眺めて耽っていた。

 

「もうカガリ、酷い顔してるよ。タケルが見たら間抜け面晒すなって頬をつねりそうなくらいの」

「一応聞いておくが……それはどんな顔だ、キラ」

 

 艦橋に入ってきて開口一番。女性に対して酷い顔などと失礼な弟に、カガリは視線を尖らせた。

 

「ふふ、仕方ないですわキラ。こうもやる事が無くて、何も起きないようでは、誰でも暇を持て余してしまいますもの。ねぇ、カガリさん」

「だったら、トレーニングでもしてれば良いのに……今はパイロットの為の訓練エリアも充実させてるよ。代表の仕事で忙しくて、身体なまってない?」

「インドア派のキラにそれを言われるのは釈然としないな。そっちこそ、ずっとのんびり生活で腕は錆び付いていないのか?」

「一応僕、この間の防衛戦にも出てるんだけど……」

「奇遇だな、私も最前線に出張っている」

「そんな無鉄砲な代表に率いられる国防軍はきっと大変だろうね」

「兄も弟も総じて無鉄砲だったからな。移ってしまったんだろうさ」

「流石にタケルと一緒にしないでよ」

「似た者同士じゃないのか?」

「ふふ、御二人とも相変わらず仲がよろしいですわね────私、妬いてしまいますわ」

 

 下らない言い合いになりそうな気配を沈める一声。

 キラは慌てて弁明する様にラクスへと振り返るし、カガリはこれ以上変に勘繰られてたまるかとキラから視線を逸らす。

 果たしてこの結果が彼女の目論見通りなのかはわからないが、姦しくなりそうな双子の姉弟を一声で黙らせる辺り、流石はラクス・クラインという所であろうか。

 

「ら、ラクス! 僕は別に──」

「はいはい、慌てないのキラ君。ラクスさんは変な意味で言ったわけじゃないわよ」

「そ、そうですか……」

 

 変な意味? と小首を傾げるラクスに、キラは一先ず安堵の息と共に胸をなでおろした。

 

「はは、今からそんな調子じゃ尻に敷かれそうだな、キラ」

「そんな事……それこそカガリと一緒になるならアスランの方がよっぽどじゃない?」

「何! アスランを悪く言うなよ。あいつはちゃんと頼れる奴だぞ」

「そうかな……でもそれにしたって、タケルに比べたら僕なんてマシだと思うけど」

「ほぅ、失礼な事を言ってくれるなヤマト。私はタケルを尻に敷くような付き合い方はしていないが?」

 

 思わず肩を震わせて、キラは聞こえてきた声へと振り返る。

 

「うぇ!? ナタルさん、いつの間に!」

「今しがた丁度来たところだ。それで? 私とタケルがなんだって?」

 

 凛々しい彼女に相応しい、鋭い双眸が細められ、キラを射抜いた。

 視線だけで撃沈されそうなキラはおずおずと言った様子でなんでもないですと返すことしかできず、ラクスの傍へと寄り添う形でナタルの眼前から退いていく。

 

「あらあら、相変わらずねナタル。タケル君の事になると沸点が低いんだから」

「相変わらずも何も無いでしょう。嘗てこの艦に居た時から、タケルはこだわる所は譲らない質ですから。それは私相手でも変わりません」

「そこに惚れこんじゃったんだもんね」

「その通りですが、何か?」

「そんな睨まないでよ」

「もうからかわれるのにも慣れただけです。それで、カガリは何をそんなに呆けているんだ?」

「義姉さん……いや、何も起きないのってホント退屈だなぁって。どうにも落ち着かなくてさ」

 

 静かに呟いたカガリの言葉に、一同目を合わせ、そしてそれはもう盛大なため息を吐いた。

 あの兄にしてこの妹ありと言う所だろうか。

 はっきり言って病気である。ワーカーホリックも大概にして欲しいものだ。

 

「カガリ、仕方ないと言えば仕方ないが……普通の人間には余暇時間と言うものがある。誰もがのんびりして自分を休めて良い時間がな」

「若い身空で国を背負ってたから、貴方もタケル君もずっとそれが当たり前だったのでしょうけど……少なくとも今はそれから解放されてるのよ。これからまた大変になるんだし、こういう時くらいゆっくりしても良いんじゃないかしら?」

「義姉さん、ラミアス艦長……」

「せっかく気のおけぬ知人たちと居るんだ。ゆっくりして、楽しい時間を過ごしても、罰は当たらないだろう」

「良い、のか……そんなのんびりしてて」

「良いと、私達はお答えいたします。カガリさん」

 

「だったら丁度いい映像があるぞ、ホレ」

 

 操艦の席に座っていたバルトフェルドが口を挟むと、端末を操作して艦橋モニターに映像を回した。

 

「えっ」

「これって」

「どうして」

 

 そして一同、映し出された映像にまた目を丸くさせる。

 

 

『親愛なるザフト軍兵士の皆さ~ん! 平和の為、私達もがんばりま~す! 皆さんもお気をつけて!』

 

 

 そこに映るのは見知った顔の、知らない人の姿であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 激動する情勢の中、大西洋連邦に制圧されたスエズの攻略作戦を命じられたミネルバは、ガルナハンにてこれを撃破。

 ユーラシア北西部山中に築かれた地球連合の一大拠点を陥落し、それによってジブラルタルより進軍したザフトは黒海沿岸地帯を地大西洋連邦の支配から解放。

 

 戦勲を挙げたミネルバは、解放された黒海沿岸都市の1つであるディオキアに入ろうとしていた。

 

 

 

『こちらディオキアポートコントロール。ミネルバ、アプローチそのまま。貴艦の入港を歓迎する』

『ありがとう、コントロール』

 

 操艦担当のマリクがディオキア基地の管制とやり取りをする中、ゆっくりと接舷。

 カーペンタリアから激戦続きであったミネルバに、静かな安心が広がった。

 

 味方の基地という安心感はやはり大きいものであるのだろう。

 観光地としても有数と言える黒海沿岸地帯に来たと言うのもあり、クルー達の中には休息を夢見た期待感が募っている。

 

「ディオキアかぁ、綺麗な街ですよね。なんだか随分と久しぶりですよ。こういう所は」

「海に山に、続いてまた海。こんな所ばかりで自然には事欠かないわね、私達は。少しゆっくりできれば皆も喜ぶでしょう────でも、これは?」

 

 言葉を濁らせるタリアに、アーサーも眉を顰めた。

 艦内ではない。外から来る感触ではあるが、何やら浮ついた空気と騒がしい喧騒を感じられる。

 

「はぁ、何なんでしょうね、一体」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉおおお!!!」

 

 接舷し、ミネルバを降りて来たクルー達を出迎えるのは怒号とも思える程熱く大きな声であった。

 

「すげー、あっちあっち!!」

「早く行こうぜ!!」

 

 次々とそこへ向かう兵士達の見る先に────桃色に塗装されたザクの掌の上で、少女が歌う。

 

 

 長く風に流れる桃色の髪。

 愛らしく、美しく、まるで可憐な花を思わせるその容姿。

 

 プラントの歌姫、ラクス・クラインである。

 

 

「おー! 早く行こうヨウラン!」

「おぅ、なんとしても最前席で見てえ!」

 

 憧れのアイドルのライブ。ファンとしては垂涎ものだろう。

 明らかに興奮しているヴィーノやヨウランが駆け出していくのを見送りながら、タケルは喧騒から離れる様に近くの木陰へと向かうとその場で座り込んだ。

 そうして眼前の歌姫へと視線を向ければ、やはり漏れ出てくるのは溜め息である。

 

「(この間ヴィーノやヨウランが言ってたけど、本当ラクスと方向性違うじゃんあの子。

 ラクスはもっと静かと言うかお淑やかと言うか……あんな快活じゃないし。あんな際どい衣装着ないよ……多分。と言うかもしかしてあの衣装、議長の趣味だったりする? もしそうならちょっと軽蔑するんだけど。

 そもそもラクスってそんな騒ぐほど可愛いかな? 確かに歌姫って呼ばれてるくらいだし、十分可愛いとは思うけど……僕からすればナタルの方がよっぽど美人だし、カガリやサヤの方が可愛いと思うけどなぁ)」

 

 この男、身内に対する評価がガバガバのガバである。

 疲れた心地の中で兄馬鹿を存分に発揮しながら群れるザフト兵達を流し見て、やっぱりカガリが一番だよね、等と脳内で完結させてからその視線を外した。

 

 何はともあれだ。

 楽しそうに目の前で繰り広げられる歌姫のライブ。

 とてもじゃないがそんな事を楽しめる様な気分に、タケルは成れなかった。

 彼女が本物のラクス・クラインではないのを知っている事もあるし、何よりも今のタケルはそれ以上に頭を悩ませる事を抱えている。

 

 

 

 “先日、アスハ代表がオーブの代表首長から退いたそうよ”

 

 “それと同時に、新代表首長のウナト・エマ・セイランが大西洋連邦との同盟を推し進めこれを締結。オーブは、中立の立場を放棄したみたい”

 

 

 タリアに呼び出され、聞かされたオーブの情報。

 タケルの思考はぐちゃぐちゃにかき乱された。

 

 何があったか。どうしてそうなったか。

 そんな事は推し量る事しかできないし、国元を離れていたタケルはその判断材料に乏しすぎる。

 考えても考えても、答えなどまるで見えてこず、ここ数日のタケルは明らかに疲れ切った状態で日々を過ごしていた。

 

「隊長……隊長は見なくてよろしいのですか?」

「男連中は、皆行っちゃいましたよ」

「お姉ちゃん、別に見に行かなきゃいけないわけでもないでしょ。そうですよね、ラウラ隊長?」

 

 ヤヨイ、ルナマリア、メイリンと揃って不機嫌そうな気配を醸し出しながら、周囲の浮ついた空気に辟易する様にタケルへと声をかけて来た。

 さしずめラクス・クラインに浮ついた気配を見せないタケルが丁度良い話し相手になったと言う所だろうか。

 仲間を見つけたとでも言わんばかりであった。

 

「ああいう場は苦手なんだ。内向的という訳ではないが、偶像にうつつを抜かすと言うのはどうにもな」

「偶像って……」

「そんな事こんなところで言っちゃったら命が幾つあっても足りないですよ」

「仕方ないだろうルナマリア。事実なんだから」

 

 タケルは実態を知っているだけに、偶像と言うのはあながち間違っては居ない。

 目の前に居るのはラクス・クラインという偶像に夢を抱き焦がれる者達。

 それは本物である彼女も。また、今彼女を演じているであろう別の彼女も見ていない。

 そう考えると、どこか虚しくなる気がして、タケルは努めてライブ会場から目を逸らした。

 そんな様子に、3人の少女は訝しむ。

 

「隊長……差し出がましいとは思いますが、少々お疲れなのではありませんか?」

「ヤヨイ? いや、そんな自覚はないが……」

「だとしたら重症ですね。ここ数日、私達の訓練でも全然気が入ってなかったですし。折角苦手意識も克服してどんなもんだって見せつけてやろうとしたのに……全然張り合いが無かったんですから」

「あ、あぁ、すまない。少し考え事をしててな。訓練中に集中できていなかったのは事実だ。悪かった」

「その、本当に大丈夫なんですか? 仮面越しですけど……顔色も悪い様に見えますが」

「大丈夫だ、メイリン。ただの気疲れでしかないから。肉体的に影響はない。それより君達もせっかくの機会だからこの場を楽し──」

 

「おぉ、ようやく見つけたぜクルース! 元気だったか!」

 

 突然、快活な声が飛び込んで来て4人は振り返った。

 そこに居たのは指揮官用の白服を来た1人の男。

 

「──ミゲル」

「あ、アイマンさん!?」

「えぇ!? 何でここに」

 

 そう、ミゲル・アイマンその人である。

 ヤヨイ達がそれぞれに反応を見せる中、声を掛けられた張本人であるタケルは落ち着いた様子でそのまま立ち上がった。

 

「そうか……君は彼女の護衛だったな。ここに居て当然か」

「そう言う事だ。んで、ミネルバが入港したって言うからお前の面を拝んでやろうと思ってな。どうだ、調子は?」

「君を見るまではすこぶる良くなかったが、君のおかげで更に悪くなりそうだよ」

「おーおー、相変わらずツンデレだなお前は。要するに気の置けない俺が来てくれて嬉しいんだろ?」

「君はあれか? 聞いた言葉を都合よく解釈するシステムでもインストールしているのか?」

 

 呆れたようにタケルは返した。

 確かに、気の置けない友人と言うのは間違いではないし、自身の事情を知る彼とこうして話せる事は気持ちも楽になる事だろう。

 が、だからと言ってクルース・ラウラの仮面をこの場で剥がせるわけもない。

 だがミゲルはまるで意に介さない様で、タケルの肩を抱いて引き寄せて見せる。

 

「わかってるわかってるって、部下の前じゃ素直になれないもんな。んで、その部下であるヒヨッコ達はどうなんだよ?」

「嘗ての君に比べたら優秀だな。鬼ごっこもしないしかくれんぼもしない」

「あん? なんだよ、俺に逃げられたのまだ根に持ってんのか?」

「さて、何のことやら」

 

 とぼけるタケルから、ミゲルは今度ヤヨイへと視線を向けた。

 

「よぅ、ヤヨイ。ミネルバでの生活はどうだ?」

「悪くないです。お陰様でエースとして活躍させてもらっていますから」

「そうか。活躍で来てるなら一安心だ。んで、こっちの赤毛っ子は──」

「る、ルナマリア・ホークです。お噂はかねがね」

 

 次いで巡らせる視線を受けて、ルナマリアは居住まいを正し敬礼で答えた。

 

「噂? 俺が散々負け続けて来た事とか?」

「い、いえそんな! アイマンさんの数々の活躍を良く聞き及んでおります」

「と言うか君の評価がそんなものであるわけが無いだろう、君はもう少しザフトでの自分の評価を知っておくべきだ」

「それ、お前が言うか?」

「私とは比べるべくもないはずだが?」

「そりゃあ今のお前とはな……さて、こっちの赤毛っ子その2は」

「メイリン・ホークです。ミネルバではCICをやってます」

 

 最後となったメイリンもまた敬礼に併せて応じる。

 ルナマリア程ではないが、やはりFAITHとして名高い彼を前にしては、緊張も一入というところだろうか。

 

「ってぇと、ルナマリアの妹って事か。姉妹揃ってミネルバにねぇ……まぁ、こいつが上官じゃ大変だろうが頑張れよ」

「は、はい!」

「ミゲルが上官よりはマシだと思いますが? 少なくともラウラ隊長は指揮官としては十二分です」

「ちょっと、ヤヨイ! あんたなんて口の利き方を」

「良いって良いって。こいつとはそういう関係性だからな。どうやら部下からの信頼は厚い様じゃないか、なぁラウラ隊長?」

「含みを持たせるな。全てこれまでの結果だ」

「そうかい、とりあえずまぁ積もる話もあるし、場所変えて話そうぜ。つーわけで悪いなお前達。ちょっとこの隊長借りてくぞー」

 

 肩を抱いたまま、まるで有無を言わさぬ勢いでミゲルはタケルと足並みを揃えてその場を去っていく。

 

「え、あ、はい」

「艦長にはミゲル・アイマンが連れ去ったと報告しておきます」

「え、えっと……お気をつけて!」

 

 まるで嵐の様に過ぎ去っていったミゲルを見送って、少女たちは1つため息を吐いてからタリアの元へと合流するのであった。

 

 

 

 

 

「──んで、どうなんだ進捗は?」

 

 小さな倉庫の類である場所へ連れてこられて、タケルはミゲルと相対した。

 周囲に他の人物の気配は無い。無論、タケルはミゲルを信じてはいるが、どこに他者の目があるとも限らない。警戒は必須である。

 

 数秒、沈黙したまま周囲を探った後に警戒を緩めたタケルは、静かに仮面を外した。

 

「お陰様で、と言った所かな。少しずつ、記憶は取り戻してきているみたい。そんな素振りは見られるようになってきたよ」

「ってことは、やっぱりあいつはお前の妹なんだな」

「うん……君には感謝してる。君が居たから僕はミネルバに来られたわけだし」

「その割には随分な憎まれ口だったじゃねえか。流石の俺も傷ついちゃったなー」

「よく言うよ。まるっきりダメージなんか受けてない癖にさ」

 

 悪友というべき立ち位置。そんな気配をみせるパフォーマンス。

 決して本音ではない事は、ミゲルは良く理解して居たし、タケルもまたあくまで仮面を被りクルース・ラウラとして対面したに過ぎない。

 互いに笑みを浮かべながら、2人は今一度再会を喜んで手を取った。

 

「それにしても驚いたよ。何でこのタイミングでこっちに? 解放されたばかりの都市だし、色々と危険も多い気がするけど……」

「俺もラクス様も、議長に併せてな。地上の戦線を塗り替えた部隊への慰安ってわけだ」

「という事は、議長もこっちに?」

「あぁ。一応今日は、この後にミネルバの面々との会談を予定してるはずだぜ」

「何それ聞いてないんだけど」

「そりゃあここに来て初めて通達されるだろうしな。それより──」

 

 ミゲルはフィンガーアクションでタケルを呼ぶと顔を寄せた。

 ミゲルの真剣な面持ちにタケルもまた居住まいを正して身を寄せる。

 

「オーブの話は聞いてるか?」

「あっ、うん……つい先日。お陰で今は精神的に参っちゃって……」

「だと思ったぜ、見るからに元気がなかったからな」

「あはは、ミゲルには敵わないね」

 

 容易く見抜かれていた事に、タケルは自嘲気味に笑った。

 先程の彼女達もそうだが、本当に隠し事ができないのだと痛感させられる。

 そんなタケルの様子にどこか迷いを見せつつミゲルは口を開いた。

 

「タケル……朗報、って言って良いかは分かんねえけどよ」

「朗報?」

「事実だけを告げれば、朗報ではないんだがな……オーブにあるお前の家。完全に吹っ飛ばされる程の襲撃を受けたらしい」

「えっ……そんな、どういう!?」

 

 愕然として、タケルはミゲルへと掴みかかる様に身を乗り出した。

 それをやんわりと抑えながら、ミゲルは言葉を続けていく。

 

「落ち着け! まだ話は続く。

 跡地に被害者の形跡は無し。死体どころか、血痕すらな……恐らくだが、察して先んじて逃げていたのかと思われてる。少なくとも、犠牲者は出ていない」

 

 ミゲルの言葉に、放心した様にタケルは膝から崩れ落ちた。

 一気に恐怖で顔を引き攣らせて、そして今また安堵に塗れて体を崩す。

 相変わらずその姿は脆いと言わざるを得ない。

 ミゲルはそんな強いけど弱い友を安心させるよう、その肩に手を置いた。

 

「多分だが、自身が狙われてることを察知して代表を退いたんじゃねえかって、議長は考えているみたいだ。代表の傍にはアスランも居るんだろ? だったら、とりあえず命に別状は無いだろうさ」

「そっか……そう、だよね。アスランもいるし、襲撃されたなら、わざわざ狙われる様な立ち位置に居るわけにもいかない。周りに危害が及ぶかもしれない。カガリなら、そのくらいはきっと──」

「だろ? だから、とりあえずそこまで思いつめる様な顔してんなって話だ」

 

 ミゲルに言われて、タケルは少しだけ納得した様子を見せると、何度か深呼吸を繰り返して、努めて気分を落ち着ける。

 冷静になって見ればよくわかる。

 少なくとも、傍にアスランが居る以上、カガリの身の安全は随分な確率で保障される。

 アスラン・ザラは、護衛として十分にエキスパートなのだから。

 白兵戦、銃撃戦、危機回避能力等、ユウキに鍛え上げられたタケルと遜色ないのである。

 更に言うなら、カガリを大切にする想いもまた同じ。

 自分がカガリの傍で護衛していると思えば、もしもが起きること等あり得なかった。

 犠牲者が出ていないのであれば、家にいたであろうナタルも当然ながら無事のはずである。

 以前としてオーブの情勢は不明なままであるが、少なくとも大切な人達が無事であることは想定でき、タケルは安堵の息を漏らした。

 

「ありがとう、ミゲル。大分落ち着けたよ」

「相変わらずお前は思い込みっていうか、追い込まれてるっていうか。とにかくもう少し楽に生きられないもんかね。何でもかんでも自分のせいにするなよ」

「ほっといてよ。そういう生き方しかできないんだから」

「見てるこっちが胃に穴開きそうだぜ全く。あっ、そういやそんなお前に今度こそ朗報だ」

 

 思い出したかのように話題を転換していくミゲルに改めて感謝を覚えながら、タケルは興味ありと言う風に眉を顰めた。

 

「さっきのだって朗報には違いなかったけど、他にもまた朗報?」

「手放しに朗報だって事だよ。

 この街でミネルバにパイロットが補充される事になってるんだ。聞いて驚け、お前とグラディス艦長に続いて3人目のFAITHだ」

「えぇっと、それってどうなの? 指揮系統とか混乱しそうだし、特務隊ってどっちかって言うと単独任務の方が多いんじゃなかったっけ?」

 

 ミゲル然り、アスラン然り。

 特務隊とは通常の指揮系統には含まれず、且つ指揮権限は持っているザフトでも特異な人員である。

 その主な任務はミゲルの護衛任務であったり、アスランの単独工作任務であったり、基本的に部隊単位で当たるような事は多くない。

 タケルの疑問も当然と言えば当然である。

 

「んーまぁ、それはそうなんだが。議長はやっぱりミネルバにかなり期待してるみたいでな。戦力を充実させたいんだと」

「はぁ……それで、どんな人なの?」

 

 よくぞ聞いてくれた。

 そんな言葉が聞こえそうな気配を醸し出しながら、タケルの問いに、ミゲルは笑みと共に口を開いていく。

 

 

「名前は“ハイネ・ヴェステンフルス”。

 俺と同じ時期でFAITHになった、俺達と同じくヤキンを生き残った英雄だぜ」

 

 

 ミネルバに、新たな風が吹き込もうとしていた。

 

 

 

 

 




一応言っておきますが、ラクス嫌いとかじゃないですからね。
あくまで主人公はそう言う目線なだけです。
本作はキャラを大事にしてる(はずの)作品です。

次回はいよいよオレンジ兄貴2人目の登場です。
あ、あとハイネってフォックストロットノベンバーでFAITH入りらしいですが、本作ではミゲルが生きてて戦後FAITH入りしてるので、同時期の選出となっております。
ご了承ください。


次回もお楽しみに。感想よろしくお願いします。
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