機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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ディオキア編描き始めて思う事。
この辺、日常回的なシーン多くて好き


PHASE-39 賛辞

 

 

『みんな〜ありがとうー! 一日も早く戦争が終わる様に、私も切に願ってやみません! その日の為に、皆でこれからも頑張っていきましょう!!』

 

 

 聞こえてくるのは人々を励ます明るい声。

 宴の終わりの気配を告げながらも、それは見る人と聞く人の心を上向かせてくれる。

 そんなラクス・クラインの弾ける声を聞き流しながら、4人の少年少女達は、柵越しにそれを見つめた。

 

「ったく、やれやれだな」

「つーか、またあの艦いるじゃん」

「ほら、あんまり見過ぎないの。注意を引くわよ。スティング、出して」

「あいよ」

 

 ユリスに指示され、路肩に止めていたジープを走らせるスティング。

 ザフトの動向を探る為、ファントムペインの彼等はディオキアの街へと潜入中であった。

 しかし来てみれば、ラクス・クラインの慰問ライブという事で大騒ぎ。

 音に敏感なステラは顔を顰めて耳を塞ぐし、敵視も一丁前なアウルはミネルバを発見して不穏な空気を纏うしであまりよろしくない状況となり、慌ててその場を離脱していく。

 

「全く、とりあえず今日はのんびりしてても良いわね。こんなバカ騒ぎしてる様じゃ、それこそ警備も厳重だろうし」

「良いのかそれで?」

「良いのよアウル。あの歌姫が来てるのよ。怪しい動き何かしてたら即拘束。警備担当は相当ピリピリしてるはずだから」

 

 要人。重要人物が来てるとなれば、その警備体制が厳重なのは当然。

 増してや、来訪しているのはプラントにおいて絶対的なカリスマを持つ歌姫なのだ。その程度が推し量れるというもの。

 ユリスの予想は、十分に的を射ているだろう…………歌姫の護衛担当が仕事そっちのけでフラフラしている事以外は。

 

「うわぁ、きれー」

「そもそもさ、俺達ってまだあの艦狙うわけ?」

 

 海を見ては無邪気に感嘆の声を漏らすステラを流し見ながら、何ともなしにアウルは疑問を溢した。

 アーモリーワンから続く因縁。そう言えば聞こえは良いが、ただ状況的にやり合っていたに過ぎないのも事実。

 欲しかったセカンドステージの機体は強奪できているのだ。予定外のインパルスやセイバーの存在はあったが、戦端が開かれた今となってはそれらを奪取、或いは破壊するのは簡単ではない。

 たかが1つの部隊でしかないミネルバに固執する必要は無いのではなかろうか────アウルはその疑問を呈した。

 

「まっ、ネオはその気だしよ。俺達にとって重要なのは、やるかやられるかだけだ。戦況とか情勢とか、そんなのは関係ないだろ」

 

 戦争を決める。情勢を決める。そんな世界の行く末を決める様な大仰な話ではなく。

 彼等に課せられるのは、与えられた戦いにただ勝つ事。ただそれだけである。

 戦う目的、作戦の目的を考えるのは、彼等の役割ではない。

 スティングの言葉に、アウルは小さく頷いた。

 

「そりゃあ、まあね」

「なのにここんとこずっと黒星だろ? あの艦に関しては」

「負けてはいないぜ!」

「勝てなきゃダメなのよ。私達は……それしか、生きている価値はないんだから」

 

 それはユリスの首輪が。そしてスティング達の身体が証明していた。

 使えなければ、利用価値が無ければ、薄く細い生命線は断たれる。

 何もかもが、使う側の手の内であるのだ。

 忌々しそうに、ユリスは首元へと指をかけては苛立ちを抑える様にステラを見やる。

 

「そう言う訳だ────ファントムペインに、負けは許されねえんだよ」

「──わかってるよ」

 

 改めて、自分達の存在意義を理解した4人はディオキアの街へと繰り出していく。

 

 

 その背後に、姦しい喧騒を背負いながら。

 

 

 因縁の敵との次なる邂逅を、脳裏に描きながら。

 

 

 

 

 

 

 

 ラクス・クラインのライブステージも終わり、時刻は昼時を過ぎた頃。

 

 デュランダルたっての希望で、ミネルバ艦長タリア・グラディスとレイ・ザ・バレルの2人は、彼が宿泊するホテルのテラスで顔を合わせていた。

 

「まったく、呆れたものですわね。こんなところに御出とは」

「はっはっはっ。驚いたかね?」

「ええ。驚きましたとも。まぁ、今に始まったことじゃありませんけど」

「元気そうだね。活躍は聞いている。嬉しいよ」

 

 特に何かをするわけではない。

 少し大きめのテーブルを挟んで、デュランダルとタリア、そしてレイはどこか家族の様な雰囲気で雑談を交わす。

 勿論、それに値する関係性が彼等にはある。

 

 

 嘗て、デュランダルとタリアは恋仲の2人であった。結婚をし、1つとなることも夢見ていた関係である。

 諸々の事情でその夢は叶わなかったが、随分と時を経た今でも、胸の内に想いは残り燻っていた。

 そしてレイもまた、大切な家族を先の大戦で喪い天涯孤独の身となったところを、デュランダルに引き取られた間柄だ。

 デュランダルは言わば、レイにとって現存する唯一の家族である。

 そんな2人の関係性を知っているが故に、タリアとしてもレイには我が子に近い感情を抱いていた。

 

「ギル……」

「こうしてゆっくり会えるのも、久しぶりだな」

 

 ぱぁっと顔を輝かせると、レイはデュランダルへと駆け寄り、喜びを表す様に抱擁を交わした。

 普段のレイからは考えられない行動と表情ではあるが、これこそが家族にだけ見せるレイの素顔なのだろう。

 感情豊かなシンやルナマリア等となんら変わらない表情に、タリアは薄く笑んでデュランダルと抱擁を交わすレイを見守った。

 

 

 

 

 

 それから暫くの談笑をしていると、テラスに来客が現れる。

 

 

「失礼します。お呼びになったミネルバのパイロット達です」

 

 

 オレンジ色の髪。長身痩躯の絵に描いたような美男子と言うべきか。

 身に纏う赤服の胸にはFAITHのエンブレムを付けた男、“ハイネ・ヴェステンフルス”が、ミネルバのMS隊を伴って来ていた。

 

「おぉ、来てくれたか。さぁ、こっちに来たまえ」

 

 歓迎の声を上げるデュランダルに促され、シン、ルナマリア、ヤヨイの3人は席へと着いた。

 プラント最高評議会議長という、雲の上の様な人物との対面に、シンとルナマリアはおっかなびっくりという感じである。

 

「おや、タケ────クルース・ラウラはどうしたのだ? 彼にも来て欲しかったのだが」

「あぁ、それなら議長。今ミゲルの奴が連れてくるそうです。何でも、基地内を引き摺り回してるみたいでして」

「おやおや、相変わらず彼は奔放だね。それとも旧友に会えて喜びも一入、というところか」

「自覚が足りないんですよ。FAITHとしての…………ま、俺も人のことは言えませんけどね」

「ふっ、君もクルースとは顔を合わせて置きたいと言う所かな?」

「後でいつでもできますから急ぎませんよ。どんな奴か、興味は尽きないですが」

「楽しみにしておくと良い。実に面白い男だからね」

「そうですか……では、言う通りに楽しみにしておきます」

 

 ニヒルに笑うハイネ。2人の会話にまるでついて行けずに呆けるミネルバのパイロット達。

 そこへようやく、最後の待ち人も現れた。

 ミゲル・アイマンとクルース・ラウラの2人である。

 

「すいません議長。指示の通りクルースを連れて──」

「報告は良いから、君は早く自分の仕事に戻るべきだミゲル。ラクス嬢のステージはもうとっくに終わってるだろう。護衛の君が離れてて良いのか? と言うか、別に私は付き添ってもらう必要などなかったと言うのに」

「何だよ。それじゃお前、道中誰もいなくて寂しいだろうが」

「君は私を幼子か何かと勘違いしているのではないだろうな?」

「似た様なもんだろ?」

「──後で覚えておけよ、ミゲル」

「良いからホラ、行った行った」

 

 声音にたっぷりの怒りの気配を表して睨みつけてくるタケルの視線を躱し、ミゲルはどこ吹く風と言う様にタケルを前へと押し出してみせる。

 

「おいおい! お偉いさんを待たせていつまでバカなやり取りしてんだお前等。早くこいよクルース、お前待ちなんだからよ」

 

 テーブル傍で控えていたハイネが呼びつける声を聞いて、タケルは前方で待ち構える面々へと視線を向けた。

 

 呼び出した本人であるデュランダルは分かる。タケルが呼ばれたのだからタリアもミネルバ艦長として呼ばれるのは分かる。

 だがしかし、パイロット組まで揃い踏みとは予想外。タケルは僅かに訝しみながらも、ハイネの元へと歩み寄った。

 

「君が話に聞いていたハイネ・ヴェステンフルスか。クルース・ラウラだ、これからよろしく頼──」

「いいから! 俺との挨拶なんて後回しだ。さっさと座れって!」

「何を怒っているんだ……こちらは呼びつけられた側で、議長は呼びつけた側。議長が私を待っているのは当然だろう」

「お前はまたなんつー態度を……だからと言って必要以上に待たせて良い訳も無いだろうが」

「それは確かにそうだが……必要以上と言う程ではないはずだ」

「あーもう良いから早く座れって!」

 

 着いて早々のお叱り。それもなぜか自身が悪いかのような物言いに納得しきれないながらも、タケルは渋々と席に着いた。

 ミゲルに連れ回されて基地内をあちこち引き摺り回されたのは本当のことである。遅れたのは決して自分のせいではない。

 そんな文句を飲み下して目線を呼びつけた男へと向ければ、デュランダルは相変わらずの何を考えているかわからない薄ら笑いを浮かべていた。

 

「ふふ、久しぶりだね、クルース」

「お久しぶりです、議長。わざわざ解放されたばかりの都市への訪問。少々不用心ではありませんか?」

「私の命で戦っている皆を労うのは当然ではないかな?」

「であれば、ジブラルタルかカーペンタリアの様に安全が確立されている基地の方がよろしいかと」

「それでは戦功を挙げた者に報いる事ができないではないか。そうだろう? シン・アスカにヤヨイ・キサラギ」

 

 流し目で向けられたデュランダルの視線と言葉に、蚊帳の外であったシンは慌てふためき、ヤヨイもまた呆けてしまう。

 

「あっ、えっと……ありがとうございます」

「──恐縮です」

 

 1秒の間を持って我に返った2人は、当たり障りのない応答で返すのだった。

 確かにシンとヤヨイ。それからインパルスとセイバーはオーブ沖の戦いで見せた目覚ましい戦果があるだろう。

 その後に続くインド洋での戦いも、そしてガルナハン攻略作戦でも、2人はその能力に相応しい十二分の活躍を見せている。

 デュランダルが言う戦功者として名前が挙がるのは当然であった。

 

 しかし、そんな言葉にタケルは気配を鋭くさせて口を開く。

 

「議長、ミネルバのMS隊は1つのチームです。確かにこれまでの2人の戦功が大きい部分はあるでしょう。ですが、ルナマリアやレイとてその働きが小さいわけではありません。それこそガルナハンでは、シンの戦功の為に皆がその背を守り一つとなりました。それ等の結果をもって、議長が賛辞を2人だけに向けると言うのであれば……隊を預かる身として捨て置けない話になります」

 

 明確に異をとなえるとして、タケルは立ち上がった。

 隊長として、また彼等の訓練を見て来たものとして。先程の言葉は流すことができないと断じる。

 タケル・アマノの教官としての矜持がそこには垣間見えた。

 

「そう怖い声を出さないでくれ。無論、君が言うようなつもりでは毛頭ないよ。

 だが、事実として出された結果には相応に報いらなければ。それこそ君にとっても捨て置ける話ではないはずだ。

 シンとヤヨイには叙勲の話もあった故、2人の名前を挙げさせてもらったに過ぎない」

「であれば、レイとルナマリアにもお褒めの言葉を」

「隊長、私は既に先程頂いております」

 

 先んじてタリアと共にデュランダルと会っていたレイは、お褒めの言葉とは言えないが、むしろそれよりも嬉しい言葉。嬉しい時間をもらっている。

 自分には不要だと進言してくるレイの言葉に、タケルは、であればとルナマリアを見た。

 

「ルナマリア──起立だ」

「えっ、あっ、はい!」

 

 突然の指示に一瞬惑いながらも、疑問を抱かず立ち上がるルナマリア。

 なんだかんだ教育はしっかり行き届いている様である。

 

「ルナマリア・ホークであります!」

 

 目を向けてくるデュランダルに敬礼を見せながら、ルナマリアは名乗りをあげた。

 デュランダルはそんなルナマリアと、先程から不満の見え隠れするタケルを微笑ましく見ながら、要望の通りに口を開いた。

 

「あぁ、報告書は読ませてもらってるよ。インパルスに乗っての初陣、例のローエングリンゲートでは素晴らしい活躍だったそうだね。

 聞けばクルースによる采配でザクから乗り換えたという事だが、君もインパルスを乗りこなしてくれたことには驚きを隠せなかった。同時に嬉しくもある。よくやってくれたね」

「い、いえ、そんな……ラウラ隊長の指導のお──」

「本人の努力の賜物です」

「あぁ、わかっているともクルース。額縁通りには受け取らないさ」

 

 割り込んだタケルへと苦笑いでかえしながら、デュランダルはもう一度良くやってくれたとルナマリアに述べた。

 まさか自分までもプラントのトップから褒められるなどと思っていなかったルナマリアは完全に萎縮。

 いっそ小さくなって消えてしまいたいとでも言う様に肩をすくめて被りを振り、席についた。

 

「これで良いかな、クルース?」

「とってつけたような物言いはやめて下さい。ですが、ありがとうございます。議長のお言葉でルナマリアは今後も励むことができるでしょう」

「それは良かった。では改めて…………シン、ヤヨイ、君達2人も良くやってくれたね」

 

 着席したルナマリアに代わり、今度はシンとヤヨイが席を立つ。

 2人へと笑みを向けながら、デュランダルは言葉を続けていく。

 

「叙勲の話が出たオーブ沖の戦闘の話はザフトの皆を驚かせた。これは本当の事だ。ザフトの中であれを成せるものはそうは居ない。英雄アスラン・ザラの再来と呼ぶものも出て来ている程だよ。本当に素晴らしい戦果だ」

「あっ……ありがとうございます!」

「過分な評価です。ありがとうございます」

 

 落ち着いて来たのか今度は素直に嬉しさを見せるシンと、冷静さを取り戻し変わらず無難な返しをするヤヨイ。

 

「今後も、ミネルバのエースとして、頑張ってほしい」

 

 これでMS隊は全員、その戦果を認めてもらえただろう。

 成果を認められるとは大事なことである。

 その機会を、逃せるはずもない。ましてやその相手が、プラントの議長であるなら是非もない。

 その言葉の価値は、末端の兵士には身に余るほど大きいものなのだ。

 満足そうに頷いたタケルではあるが、それを見たシンは遠慮がちに口を開いた。

 

「あ、あのぉ……」

「ん? 何だろうか、シン・アスカ」

「隊長は、お褒めの言葉を頂かなくても、良いのかなぁ……なんて」

 

 おずおずと、シンは申し訳なさそうに述べた。

 MS隊の面々からすれば、それこそ隊の戦功はそれを指揮した者によるところも大きいのだと理解している。

 ましてやタケルのパイロットとしての手腕に疑問を抱くものは居ない。その程は、散々に訓練で叩き込まれているのだ。

 しかし、この部下の気遣いを無にするのがこの男である。

 

「無用な心配だ、シン。私は評価される側ではなく評価する側の立場にいる。それに、君達と違い多大な戦果を挙げたというわけでもない。君達と比べれば、私の戦果など些末なも──」

「という事だシン。安心してくれ。私は彼にもまた、君達と同じく正当な評価をしている。それこそ、ミネルバの多大な戦果の源泉は、彼にあると考えるくらいにはね」

 

 割り込んで口を挟んだデュランダルに仮面の奥でタケルは顔を顰めた。

 

「議長、バカな事を言わないでください。後から乗り込んだ私に戦果も何もないでしょう」

「このように、素直に賛辞を受け取らないとわかっているからこの場では言及しないだけなのだ。君達の隊長を、私はしっかりと評価しているつもりなので、どうか安心して欲しい」

 

 しかし、タケルの気配など気にせずに、デュランダルは言いたいことをズケズケと続けていく。

 折角終わりそうだった所で余計な事をと、胸の内でタケルがシンに恨み節を吐いたのは内緒である。

 

「──はぁ、私と議長は素直な上下の関係ではなく持ちつ持たれつの関係でしょう。私は対価として戦っているだけです。評価も何もない」

「それでは私が受け取るばかりになってしまうな」

「甚だその見解は疑問ですが、もしそうお思いでしたら言葉は不要です。実を下さい」

「ならばこの後少し時間をもらえるだろうか」

「わかりました」

 

 図々しくも褒美をよこせと言い放つタケルに、タリアや傍で控えていたハイネが冷や汗をかくが、それを何事もなくでデュランダルは受け取った。

 

 着地を見せた会話に区切りをつけると。

 デュランダルは徐に席を立ち、並ぶ皆へと視線を巡らせた。

 

 

「では、そろそろ本題に入ろうか」

 

 

 それはこれから話す事こそが、ここに呼んだ目的である事を感じさせ、一同居住まいを正した。

 

 

 

「今後の……これからの世界と戦いについてだ」

 

 

 




日常パートはこれからね。
もう一つ真面目回入ったら休暇(作中)に入ります。
滲み出るハイネの苦労人感。

感想、高評価頂けたらモチベに繋がるので、
本作を楽しめていましたら是非よろしく願いいたします。
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