機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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作者は識者ではありません。
色々と綴られる難しい話は、話半分で流してください。


PHASE-40 ロゴス

 

「今後の……これからの世界と戦いについてだ」

 

 

 自分達に向けられたその言葉に。事の大きさを……重さを感じ取り、一同は閉口した。

 今この時、この場に集められそれを聞かされる事が、デュランダルがミネルバに掛ける期待の大きさを示していると言えるだろう。

 

 少し重苦しくなった空気を払拭する様に、タリアは静かに口を開く。

 

「今後の戦い……ですか。そう言えば、私達は成り行きで地球へと降りてしまいそのままでしたが、宇宙の方は今どうなってますの? 月の地球軍などは」

「相変わらずだよ。時折小規模な戦闘はあるが、まあそれだけだ。そして地上は地上で何がどうなっているのかさっぱり判らないときている。この辺りの都市のように連合に抵抗し、我々に助けを求めてくる地域もあるし────オーブの様に陣営を表明する国も多い」

 

 びくっと微かに肩を揺らしたタケルに気が付いたのはデュランダルだけであった。

 それを流して、2人の会話は続いていく。

 

「停戦、終戦に向けての動きはありませんの?」

「残念ながらね。連合側は何一つ譲歩しようとしない。戦争などしていたくはないが、これではこちらとしてもどうにもできんさ。いや、軍人の君達にする話ではないかもしれんがね。戦いを終わらせる、戦わない道を選ぶということは、戦うと決めるより遙かに難しいものさ。やはりね」

「でも……」

 

 勝手に口が開いてしまったという様に、シンは意図せず声を漏らした。

 控えろ。余計な口を挟むなと言いたげな両隣(兄妹)からのプレッシャーがシンを襲う。

 

「あっ……すみません」

「いや構わんよ。思うことがあったのなら遠慮なく言ってくれたまえ。実際、前線で戦う君達の意見は貴重だ。私もそれを聞きたくて君達に来てもらったようなものだし。さあ」

 

 しかし、言い淀んだシンにデュランダルは軽い声音でもって促した。

 流石にお偉いさん本人がそれを認めるとあっては、黙っていろとは言えないと、彼に掛かっていたプレッシャーも霧散していく。

 

 漏れ出た思いを言葉に変えて、シンは呟くように口を開いた。

 

「その……確かに戦わないようにすることは大切だと思います。でも、その理想の為に大切な何かを……もっと大切な誰かを喪うくらいなら、迷うべきではないと自分は考えます。それが、身勝手な理屈で起こされる争いであるのなら尚更。そんな争いで関係のない人達が犠牲にならない為に、自分達はいるはずです────普通に、平和に暮らしている人達は守られるべきだと思います」

 

 デュランダルへ視線を真っ直ぐに返して、シンは己の内を述べた。

 嘗ての大戦で全てを失い、今も尚何もできなかった無力さに喘いでいるからこその、想いがそこには垣間見えた。

 

 ほぅ、と僅かに感嘆の息を吐くタリア。

 これまでを鑑みればどうしても、シン・アスカへの評価は感情を抑え入れない幼い印象をもってしまうものだ。

 しかし、プラント最高評議会議長を前にして、しっかりと自身の戦争観を述べて見せるシンの姿にタリアは驚きを隠せなかった。

 インド洋での一件は、やはり彼自身を顧みる良い機会になったのだ。

 

「ふむ、なるほど……では、君はどう考えるクルース。是非、君の意見も聞かせてくれ」

 

 仮面の奥で目を見開く。が、そこで何故自分に振るのか等とは言えるわけもなく。届かぬ視線できつくデュランダルを睨みつけながら、タケルは静かに立ち上がった。

 恐らくは先の大戦を戦い抜いたものとして、意見を聞かせて欲しい。言外にそう言っているのだと感じ取り、タケルは数秒想いの丈を言葉に変換しながら口を開いた。

 

「シンの言う事は正しいでしょう。戦わなければ守れない。戦わなければ生き残れない。当然の帰結だと思います────ですが、その先に平和は無いのではないかと、最近の私は考える様になりました」

 

 俄かにシンが喜色を浮かべそうになるも、続く言葉にシンの表情は対称的なものへと変わっていった。

 

「──隊長?」

「ほう? それはどういう事かな」

「争い合う────競い、妬み、憎んで。そうして果て無い憎しみの連鎖に囚われ、有史以来人はずっと戦い続けて来ました。

 どれだけ高尚な言葉で説こうが、争いの一点から生まれるものは同じです。その結果行きつく先がどうなるのかを、私は良く知っています」

 

 嘗て世界を憎んだ男の事を。今は亡き仮面の主を思い出して、タケルは述べた。

 ナチュラル、コーディネーター。その垣根が無い時ですら、人は争いをやめる事はなかった。

 1つ終えてはまた次へ。次を終えたらその先で。

 連綿と続けられてきた争いは遂に、先の大戦で世界を滅ぼしかねないものとなった。

 

 しかしそれは技術がそれに値するところまで上り詰めただけにすぎない。

 争いの根幹は今までもこれからも何ら変わりがないのである。

 

「────彼の言う通り、人類の何かが変わらなければ、きっと滅びの時まで人類は戦いを止める事はできないのだと、私は思います」

 

 どこか悲し気に、タケルは締めくくった。

 (ラウ)とユリスを討ち、そうして踏みとどまったはずの世界で、今また変わらず争いが引き起こされている。

 嘗て必死にそれを止めようとしただけに、今の世界にタケルが諦念を持つのは仕方の無い事なのかもしれない。

 

 戦後必死にオーブを守る為戦い続けて来たタケルだが、その行き先は結局のところ武力だ。

 2度と奪われるものかと力を作り続けて来た。磨いて来た。

 それは大戦で全てを失い、力を欲するシンと同じ行き先であり、争いが再び起こる事を想起していたのと同義だ。

 

 絶えることの無い争いの中で、いかにその被害を受けずに生き延びるか。それこそが、大切なものを失わない為にタケルができる、唯一の抗いであった。

 

「あぁ、そうだ。問題はそこになるだろう。

 何故我々はこうまで戦い続けるのか。何故戦争はこうまでなくならないのか。戦争は嫌だといつの時代も人は叫び続けているのにね。君は何故だと思う、ヤヨイ?」

「それはやはり、いつの時代も身勝手で愚かな者達がいて、ブルーコスモスや大西洋連邦みたいに、争いを引き起こす輩が消えないから、では無いでしょうか?」

「──いや、まあそうだね。それもある。誰かの持ち物が欲しい。自分たちと違う、憎い、怖い、間違っている。そんな理由で戦い続けているのも確かだ、人は。

 だが、もっとどうしようもない、救いようのない一面もあるのだよ、戦争には」

 

 救い様のない一面。

 意図の読めない言葉に、パイロット達だけでなくタリアもまた疑問符を浮かべた。

 そんな彼等の反応に答え合わせでもするかのように、デュランダルはホテルの敷地内で警備に立っているMSを見やった。

 橙赤色に染められた、ザクの類型と思わしきMSである。

 

「たとえばあの機体、ZGMF-X2000グフイグナイテッド。つい先日、軍事工廠からロールアウトしたばかりの機体だ。今は戦争中だからね。こうして新しい機体が次々と作られる。

 戦場ではミサイルが撃たれ、モビルスーツが撃たれる。様々なものが破壊されていく。

 故に工場では次々と新しい機体を作り、ミサイルを作り戦場へ送る。両軍ともね。生産ラインは要求に追われ追いつかないほどだ」

 

 タリアとタケル、傍らに控えるハイネはそこまでを聞いて、薄々と彼が述べる先に気が付き眉を顰めた。

 戦争時における需要と供給。

 いくら作っても追いつかない程の需要。それにどうにか応えなければならない供給。

 そこから見える事は1つ────軍需産業である。

 

「その一機、一体の価格を考えてみてくれたまえ。これをただ産業としてとらえるのなら、これほど回転がよく、また利益の上がるものは他にないだろう」

「戦争経済、ですか。議長そんなお話……」

「パイロット達の前でそのような話はやめて下さい。戦場に出る彼等を迷わせるおつもりですか」

 

 タケルは苛立ち交じりに吠えた。

 経済の概念。パイロット達の身近に落とし込むなら製造コストの概念。

 MS1機の経済的価値。ミサイル一発の重み。それらを認識し、知ってしまえば何も考えずに戦う事は難しくなる可能性がある。

 極論を言えば、戦争とは無駄の極致。何ら生産性の無い行いであり、進めれば消費だけをもたらすものだ。

 人も、資源も、浪費し国は疲弊する。

 無駄弾を減らさなければ…………機体の損傷を抑えなければ。そんな認識が芽生えてしまえば、思い切りの在る戦いなどできないだろう。

 

 それを気にするべきなのは作る側だけで良い。使うものに認識させてはいけない。

 前線で戦う者達にコストの概念を知らせるのは、戦闘において躊躇を生む可能性がある。

 

「すまないねクルース。だが、知っておいて欲しいのだよ。戦争である以上それは当たり前。仕方のないことだ。戦うのであれば、それで動くものを考えなければならない」

 

 だが、デュランダルの言葉も間違いとは言えない。

 戦う者達に、戦争の根を教える。

 古くは兵站であり、現代では国力や経済力に当たるそれを知れば、効果的に戦える事もまた事実。

 決して悪い事ばかりではない。

 

「そして、本題はここからだ。

 人というものは、それで儲かると解ると逆も考えるものさ。これも仕方のないことでね」

「逆……ですか?」

 

 代表してシンが問うのを、ルナマリア達も小さく頷いた。

 

「戦争が終われば兵器は要らない。それでは儲からない。だが戦争になれば自分たちは儲かるのだ。

 ならば戦争はそんな彼等にとっては是非ともやって欲しいこととなるのではないのかね?」

「彼、等? それって一体」

 

 何かが見える。答えが得られる。

 そんな気配を感じて、身を乗り出さんばかりにシンは問い続ける。

 それにデュランダルは為政者に相応しい、力のある声で返した。

 

「あれは敵だ、危険だ、戦おう、撃たれた、許せない、戦おう。人類の歴史にはずっとそう人々に叫び、常に産業として戦争を考え作ってきた者達がいるのだよ。自分たちに利益のためにね。

 今度のこの戦争の裏にも間違いなく彼等────死の商人“ロゴス”がいるだろう」

 

 ロゴス。

 反芻されるその名前を、皆が呑み込み胸に刻んだ。

 争いを起こす元凶。死の商人。

 その言葉が意味する罪の深さは、計り知れないだろう。

 

「議長……それは、先の大戦もまた、それ等の望んだままに引き起こされたと。そういう事ですか?」

「そう考えて相違ないだろう。彼等こそがあのブルーコスモスの母体でもあるのだからね」

 

 タケルの問いに、デュランダルは迷わず返した。

 ブルーコスモスの母体──それは至極わかり易い回答である。

 コーディネーターを排斥しようとする過激派の集まり。先の大戦の引き金となったユニウスセブンの悲劇も彼等によるものであるとの話だ。

 戦争を引き起こした者であることに、何ら間違いはなく、疑いもない。

 

 拳を震わせ、タケルは慄いた。

 2人の父を喪い、国を喪い、大切な妹を死なせた愚かな戦争が……よもや誰かの意志で引き起こされていたなどと。

 そう簡単に御し切れる事実ではなかった。

 

「彼等に踊らされている限り、プラントと地球は……いや、この世界はこれからも戦い続けていくだろう。私達はこの状況をなんとかしなければならない。今後の世界。これからの戦いには彼等との戦いが待ち受けるはずだ。世界を戦争へと導こうとする者達との戦いがね。

 だから、その尖兵となるであろう君達には、その存在を知っておいてもらいたかった。これが、今日ここに来てもらった理由だ」

 

 誰も何も口を挟めない空気の中、デュランダルもそこで話を終えた。

 沈黙がその場を支配していた。

 

 ただ、敵となるものを……敵意をもって攻めてくるものを討ち払う。

 プラントが専守防衛を謳う以上、それが彼等の戦いであるはずだった。

 しかし、今ここで聞かされたのは、これまでの世界と、これからの世界を覆す戦いの話。

 正に世界を変えるための戦いを目の前に提示され、その規模の大きさと待ち受けるであろう戦いの厳しさを感じ取っていた。

 

 いつの間にか日は傾き始め、快晴だった青空は少しずつ茜を指し始めている。

 徐々に光を失っていく世界が、彼等の胸の内を表しているかのようであった。

 

 

「どうやら少し混乱させてしまったようだね。今日はここまでとしよう────クルース、君は少し残ってもらえるかな」

 

 

 誰も何も言わなくなったその場は、デュランダルの一言でお開きとなるのだった。

 

 

 

 

 

 

 薄暗い執務室。

 

 今やオーブの代表となったウナト・エマ・セイランに代わり、オーブの宰相となったユウナ・ロマ・セイランの執務室である。

 

 その執務室で、ユウナは静かに思考に耽っていた。

 

「(現状では首長たちの大半が黒……白を見つけ出す方が難しい。とは言え、父上の腰巾着であった僕に中立推進派がそれを示してくるわけもないか。下手に目をつけられれば自分の立場も危うくなると、カガリが証明しちゃってるしね)」

 

 カガリ達がアークエンジェルで脱出してから暫く。

 目下の優先事項は仲間を見つけ出す事だ。

 仲間とは即ち、カガリ・ユラ・アスハを信奉し絶対的に尽くす気概の在る、中立推進派の者達。

 それ等と密かに、気取られることなくコンタクトを取らなければならない。

 オーブ国内には潜入した“彼等”の監視の目が幾重にも張り巡らされているだろう。

 怪しまれない為には父ウナトと同じ陣営に立っている必要があり、そうなればコンタクトは取りにくいと言うジレンマの中であった。

 

「ユウナ、入るぞ」

 

 来客を告げるノックの音。そして聞こえる声音。

 ユウナは思考の海から浮き上がり声を返した。

 

「どうぞ。開いてるよ」

「失礼する」

 

 入ってくるのは仏頂面を引っ提げた男。

 一応の変装替わりに暗いバイザーで目元を隠したアスラン・ザラであった。

 

「お疲れ様、アレックス。訓練の調子はどうだい?」

「バカを言うな。いくらタケルの代わりだからと言って、俺がモルゲンレーテで国防軍の訓練を見られるわけがないだろう」

「バカを言ってるのは君だよ。僕が聞いてるのは君の調子の話。ここ2年の間、まともに訓練などしてなかったんだろ? この間の防衛戦は何とかなったみたいだけど、あの男の代わりを演じてもらうからには相応の実力が必要なはずだ。ブランクは埋めてもらわなきゃ困る」

「そっちの事なら心配無用だ。俺はアイツに負けるつもりは無いからな」

「その言葉、信じて良いのかい? 僕は詳しく無いけど、彼は世界でも相当な実力者なんだろ?」

「有事の際に証明してやるさ」

「へぇ、それは楽しみだね。まぁ、正にそれだよアレックス。残念だけど、今日呼んだのはその有事とやらの話だ」

 

 言ってユウナは紙の束を取り出した。

 差し出された紙の束に、アスランは静かに目を通していく……すると、その表情は驚愕へと染まっていった。

 

「ユウナ……これは」

「一応、出所は父上……だが、影響されてる可能性は大きいだろうね」

 

 それは、一つの命令が記された指示書であった。

 

 “ザフト撃破作戦に向けた国防軍の黒海への派兵”

 

 ザフトを討つべしとの指示が連合より出されたのだろう。そしてそれを受けたオーブ政府は国防軍の派兵を決定。

 旗艦をタケミカヅチとして、総大将にユウナ・ロマ・セイラン。艦長にはトダカが就き、要のMS隊にタケル・アマノ率いる国防軍の精鋭だけを集めたライトニング隊。

 オーブが誇る最高戦力の投入と言えるだろう。

 

「こんな……どうして」

「笑っちゃうよね、最初は10隻からなる艦隊を派兵する気でいたんだから。思わず父上をぶん殴りそうになったよ」

「という事は?」

「国防の要である国防軍をそんなにたくさん国から引き離してどうするんだと言ってやった。出すなら数ではなく質で応えて戦果を見せた方が良いともね。

 ザフトは粒ぞろいだ。数を頼みに行って大きな被害を受けるよりは、少ない戦力でこちらの強さを見せた方が、結果も派兵の意義も、国民に明確に示せるだろう」

 

 戦いはやはり、前提として数を頼みとする。だからこそ、数を覆す少数精鋭は戦果のインパクトは強いのだ。

 シロガネを駆るアスランと、最新鋭の量産機カゼキリを十全に使いこなせる国防軍のエースパイロット達。

 決して、ザフトの精鋭ミネルバの戦力であろうと劣りはしないだろう。

 

「つまりは、俺に戦果を示せと……そう言うことか?」

「その通り。だからここに呼んで、調子はどうかと尋ねたんだよ。ザフトの最新鋭機と渡り合うのは君を置いて他にいないだろう?」

「言っただろ。俺はアイツに負ける気はない。少なくともMSのパイロットとしてはな」

「なら期待させてもらうよ。カガリが代表から退いて、連中はオーブが御し易くなったと思っているはずだ……先日の防衛戦があるからいきなり大胆な動きはしないと思うけど、力を示せなければ再び連中に付け入る隙を与える。オーブを属国にするような動きをね」

「そうならないようにする為に残ったんだ。任せろ──それより、そっちの進捗はどうなんだ?」

 

 返された問いに、ユウナは両手(もろて)をあげてため息をついた。

 何やら疲れた様子に、アスランは訝しむ。

 

「全く頭が痛い話だよ。誰と話しても腹の見えない探り合いさ。どいつもこいつも黒に見える」

「そうなのか。大変だとは思うが政界に留まれてるお前だけが頼りなんだ。何としてもカガリが戻──」

 

 言いかけたアスランの眼前に手を出して、ユウナはそれを制した。

 そのままユウナはアスランへと顔を寄せて声を潜める。

 

「それ以上は口にしちゃダメだろ。どこに耳があるかもわからないんだから」

「──すまない」

「全く、君は意外と腹芸が苦手だね。そんなんじゃ派兵先で合流した時に舐められるよ」

「安心しろ。総大将がお前って時点でそれは同じだ。それに、舐められるのなら結果で返してやるだけだろ」

「そうだね、だからこそ面白い。とりあえず、出立までにちゃんと仕上げておいてくれよ」

「そっちこそ、作戦指揮の練習くらいはしておくんだな」

「無論だよ。僕の失態でカガリの顔に泥を塗りたくは無いからね」

 

 互いに自信の片鱗を見せながら、2人は会合を終えた。

 外部からオーブを取り込もうとする魔の手を阻み、オーブを保ち続ける為の戦い。

 カガリが戻り、オーブがあるべき中立の姿を取り戻すまで、なんとしても守ると決めたのだ。

 

 闘志を潜めながら、2人は待ち構える戦いの時を幻視していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デュランダルの好意もあって、ミネルバのパイロット達はホテルで休息がてらそのまま宿泊することとなった。

 艦長のタリアと、有事の際に誰かが居なければとレイがミネルバへと戻り、その他の面々は手配された部屋へと通され休息に入る。

 

 その中でタケルだけは依然としてテラスに残り、デュランダルと向き合っていた。

 

「ヤヨイ・キサラギの記憶はどうかね? 思い出す気配はあるのかな」

「えぇ、お陰様で。少しずつ、思い出してきているみたいです。とは言っても、未だあの子を明確に思わせる程ではありませんが」

「そうか……それでも進展がないよりはずっと良い」

 

 一安心と言うように、デュランダルは小さく笑みを浮かべる。

 記憶喪失の快復など、明確に治療法が確立されてるわけでも無い。少しずつ思い出しているなどと言っても、それは所詮主観での話でしか無いし、結果として確かなわけでも無い。

 

 慰めの様な言葉に気を遣ってもらっていることを感じ取り、タケルは感謝するように頭を下げた。

 

「──オーブの事は聞いたね」

「えぇ、ミゲルから少しは」

「あぁ、彼には少し話していたのだ。君を想って随分と心配していたからね────良い友人だな」

「そうですね。彼は本当に良い奴だと思います」

 

 嘗て命を救われたその時から、ミゲル・アイマンが敵でも見捨てられない程のお人好しだと言うことは明白。

 そんな彼と親しい友人で居られることは幸運なことなのだろう、とタケルは嬉しそうな気配を見せる。

 

「先程君が言った、戦果への褒賞だが…………私が掴んでいる情報を伝えておこう」

「情報、ですか?」

「まず第一に、君の大切なご家族は無事だよ。君と暮らしていた彼女も、アスハ元代表も。無事逃げおおせているとの事だ」

「そうですか。本当に、良かった……」

 

 ミゲルから聞かされた時と違い、崩れ落ちることはなかったが、それでもタケルは胸の内の大きな不安が解消されたことに安堵した。

 ミゲルと併せて、デュランダルからの情報となれば、信憑性は十分である。

 

「だが一方で、気になる噂も出ている」

「気になる噂、ですか?」

 

 安堵から一転。真剣な面持ちとなったデュランダルに、タケルも表情を固くする。

 

「まだ噂ではある。確定事では無いが……アスハ元代表は、アークエンジェルに乗ってオーブを脱出したとの噂だ。事件以後彼女は公の場に一度も姿を現してない。信憑性はある程度見積もる事の出来る情報になるだろう」

「アークエンジェルで……そんな、何で」

「そこまでは私も。だが、彼女がオーブに居ないとなれば、大西洋連邦側へと与したオーブが我々の敵となる事は避けられないだろう。

 ミネルバはいずれ、オーブと戦う事になる」

 

 懸念される未来の可能性に、タケルは目を見開いた。

 ミネルバがいずれ、オーブと戦う事になる。それは確かに、予想される事態であった。

 

 開戦からこれまで、連合は全てにおいて思わしく無い状況が続いている。

 プラントへの攻撃から始まり、地球のザフト基地への侵攻。更には同盟条約を蹴ったオーブへの侵攻。

 そして、ミネルバによるインド洋前線基地の壊滅にユーラシア西地域の奪還。

 敗北と劣勢をいくつも重ねている状況だ。

 そこに来て、カガリの代表退陣と同盟条約の改めての締結。

 オーブの軍事力は連合にとって喉から手が出るほどに欲しいものであり、陣営に加えられた今、状況を打開するためにそれを持ち出してくるのは必定。

 ミネルバの……タケルの前にオーブ軍が立ちはだかる未来は、遠く無い未来で起こりうる。

 

 タケルは恐れに身を震わせて俯いた。

 

「──戻りたいのなら、私は止めはしない」

 

 ハッとタケルが顔を上げれば、そこには鋭い視線を向けてくるデュランダルがいた。

 

「議長、それは」

「本来の居場所へ戻るだけ。おかしい事ではないはずだ」

「ですが」

「先程も言ったね。ミネルバの多大な戦果の源泉は君だと思っていると。僅かな時の間に、彼等を成長させ多大な戦果に見合うだけの実力者へと育て上げた君の手腕を、高く評価している。君は私が思う以上の結果を見せているのだ。

 彼等の成長は、ヤヨイ・キサラギへの不安を少しは拭えたのではないか?」

 

 根本を言うのであれば、タケルの願いはサヤ・アマノの記憶を取り戻し、オーブへと連れ帰りたい。

 だが目下の目的としてはまず、激戦の只中に放り込まれるであろう彼女の安全を確保する事。

 その為にデュランダルもエスペラントを託し、タケルをミネルバへと送ってくれた。

 おかげでミネルバのパイロット達は、確かな訓練の下に成長して新兵らしからぬ実力と成果を見せるようになっている。

 デュランダルがいうように、その実力はタケルの懸念をある程度は払拭してくれるものである。

 

 

 だが、沈黙の後…………タケルは静かに首を振った。

 

「──お気遣いありがとうございます議長。でも大丈夫です」

「良いのかね、本当に?」

 

 予想外の答えだったのだろう。

 驚きに染まるデュランダルに、タケルは頷いて返した。

 

「託してきました。僕がしてきたこと全てを。モルゲンレーテにも、国防軍にも────カガリとアスランにも」

 

 一度はヤヨイの幸せを願い、タケルは想いに蓋をして諦めた。

 だが、カガリはタケルのその決心を否定してみせた。理由をつけて本当の想いから逃げるなと。それはその場に居たアスランも、アイシャも、同じ様であった。

 キラも、ラクスも。もっと言うならマリューにバルトフェルド、エリカやアサギ達もそうだ。

 皆、タケル・アマノが脆く弱い事を知っている。

 切り捨てることなどできず、失う事を許容できない事を知っている。

 直接聞いたわけでは無いが、頼れと。助けてくれるとの意志を、タケルは聞き及んでいる。

 

「しかし、本当に──」

「僕が切り捨てることができないから、皆助けてくれてるんです。だから、今ここで僕があの子の傍を離れるわけにはいかない」

 

 皆の助けに報いるなら、それはタケルが目的を成す時だ。

 

「僕が戻るのは、皆が待ち望んでるあの子と一緒だって決めたんです」

 

 静かに、だが決意を持って。タケルは迷いを払拭し行く道を定めた。

 それが、守るべきはずの……妹と同じく切り捨てられないはずの祖国へ敵対する道だとしても。

 託して来た以上、今自身が成すべき事はこの一点であると、デュランダルに告げた。

 

「──そうか。私としては嬉しい限りではある。君がいてくれれば、私の大切な人の安全も担保できると言うものだからね。君がこちらに留まってくれることを、君と君の良き友人達に感謝しよう」

「僕も、感謝しかありません」

「だが……君の気持ちは理解したが、オーブとの戦闘となったら、どうするつもりかね?」

 

 いざとなった時戦えない、では困る。その懸念は当然だろう。

 切り捨てられないと明言しているタケルが、その時になって何もできなくなってしまう可能性は大いにありうるのだ。

 そんな不安の問いに、タケルは変わらずの表情で返した。

 

 

「戦いますよ────僕のやり方で、オーブを止めるために」

 

 

 

 戦火の中で、悲しき運命(さだめ)が交錯し始めるのだった。

 

 

 




なんと言うか、原作運命のダメだったところとして、世界の流れというか話の流れが、正直説明不足だなぁって。
seed編と違い、明確で分かりやすい情勢じゃ無いから、何がどうなってこの戦い起きてんのっていう部分が視聴者に伝わりにくいと思うんですよね。
どうにか本作では、理解できるように色々と書いていきたいですが、作者はおバカなので難しいです。
なので、どうか間違いとか意味不明な論理があってもやんわりとスルーか指摘してください。
基本は必死に生きてくキャラ達を描くことが目的なので。作者は戦争を主体としたいわけでは無いのです。

次回から運命編のオアシス、ディオキア休暇編。
ドタバタ、ハラハラ、シリアスの予定です。どうぞお楽しみに。

感想、どうぞよろしくお願いいたします。
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