ネタです。本気にしないでください。
方向性としてはseed編の砂漠の一幕を思い出す。あそこまでは行かないけど。
笑って貰えたら嬉しいですか。
ホテルの一室を前に、タケルは戸惑いながらもドアへと手を伸ばした。
翻した手の甲が、コンコンと渇いた音がを鳴らして部屋の主人へと来客を告げる。
「ミゲル、私だ」
「おっ、来た来た。入れよ、開いてるぜ」
中から聞こえる答えに促され、タケルは自身を呼びつけた男、ミゲル・アイマンの宿泊部屋へと踏み入った。
「失礼す──」
「おらぁ!!」
「ふぶっ!?」
まだドアが開き切ってない。視界を塞がれていたところでいきなりに手を伸ばされ、掴まれ、そして引き寄せられる。
タケルの頭はそのまま抱え込まれヘッドロックをかけられて、そうして部屋の中へと連れ込まれていった。
「なっ、ミゲル何を……って、君はハイネ・ヴェステンフルス……君も居たのか、って酒くさ!?」
一体なんのつもりだと叫ぼうとしたタケルの視界の奥にはミゲルが缶飲料片手にタケルを笑っている。
そして今現在、タケルを抱え込んでいる男はテラスにて顔を合わせたミネルバの補充パイロット、ハイネ・ヴェステンフルスであった。
タケルがいうように彼からは……というより踏み入ったミゲルの部屋全体が酒精の匂いを溜め込んでおり、どうやら随分と勢い良く飲んでいる途上のようだ。
「ハイネ、いきなりご挨拶だな。とりあえず放して──」
「ったくよぉ、クルース。お前って奴は議長相手にあんな舐めた態度取りやがって! 俺がどれだけハラハラしてたかわかってんのかぁ!」
「(うっわぁ、開幕から絡み酒かよこいつ……)」
明らかに面倒くさい気配を声音から感じ取り、タケルは心底嫌そうに表情を歪めた。勿論仮面で隠れて見えてはいない。
「ほらタケル、お前も早くこっち来いよ!」
「いや、待てミゲル。それにハイネも。君達が私を呼んだ理由はもう察したが、私は飲めないんだ」
「ばっかお前、もうガキじゃねえんだからちょっとくらい大丈夫に決まってんだろ」
「いや、そう言う問題では──」
「それとも何か? 先輩の酒が飲めねえってのか?」
「くっ、なんだこの構図は。と言うか君達、なんというか随分と似た者同士だな!」
外見が似ているわけでは無いが、話し方、スタンス、更には声色に至るまで。どことなく似ているミゲルとハイネ。
さながらタケルは、見分けがつかない程似ている双子を相手にしている気分である。
「おう、昔っからこいつとは気が合うんだよな」
「FAITHになったのも同じ時期だしよ」
なははは、などと高笑い……否、バカ笑いをしてみせる2人に、タケルは呆れながら額に手をやった。
どうやら随分と勢い良く飲んで、更には随分と出来上がってる様である。
「ミゲル、呼んだ理由が酒盛りだと言うのなら私は帰るぞ」
「ばっか、逃がすかよ! ハイネ!」
「任せなミゲル! つーわけで、ほら飲め飲めー!」
「いやだから、僕はお酒だめ──がぼっ!?」
ハイネが手にする缶が傾けられ、口へと流し込まれる液体。
溢れさせるわけにもと嚥下してしまえば運の尽き。タケル・アマノも酒盛りの仲間入り(強制)となった。
「んっ、んく……はぁっ! お、おい君達、いくらなんでも強引すぎやしないか」
「何言ってんのよって。これからお前と同じでミネルバに乗るんだぜ、FAITH同士親睦を深めておこうって話よ」
「こんなのんびりしていられるのも久しぶりだしな。ミネルバでのヤヨイの事とかも聞きたかったし……付き合ってくれって、親友」
「むっ……」
なんだかんだで、ミネルバの配属となったヤヨイの事を、ミゲルも心配していたのだろう。
ヤヨイ・キサラギを一番気にしてるはずのタケルから、これまでを聞きたいと思うミゲルの言葉にタケルは毒気を抜かれた。
責任感と言うべきか。ミゲルなりにサヤの事を気にかけてくれているとわかると、タケルとしても意固地にはなれない。
タケルは仕方ないと言う風に大きくため息をついて、友の要望に応えるのであった。
「はぁ、わかったよ────ミゲル、ハイネは僕の事わかるかな?」
「んあ? どう言う事だ」
「僕の事を知らないのなら、仮面を外しても良いかなって。本当なら自分の部屋でゆっくり休むつもりだったからさ。自分を偽るのは疲れるからね」
「あぁ、そう言う事なら大丈夫だろ。流石にお前もプラントで知られてるのは名前だけだしな」
「そっか、それじゃ──ふぅ」
パチっと留め具を外してタケルはラウの仮面を取った。
曝されるその素顔。ハイネは興味津々にこれまで隠されていたそれを覗き込んだ。
傷も火傷の痕なども無い。群青の瞳が特徴的なくらいで、タケルの顔は決して隠す様な顔つきではなかった。
訝しむ様に、ハイネは眉を顰める。
「へぇ、隠したい理由があるのかと思っていたが、そう言うわけじゃ無いんだな。別に傷とかあるわけじゃ無さそうだし」
「隠したい理由はあるよ。ハイネの前ではそれが無いだけ」
「ふぅーん…………つかお前、幼い顔してんなぁ。確か俺たちのちょい下くらいだよな? ぱっと見15、6に見えるじゃねえか。今日来てたシンとかと同じくらいに見えるぞ」
「気にしてるんだから言わないでくれる? そのせいで舐められない様に口調も作ってるんだからさ」
「あぁ〜じゃ、今までのは演技で、今のそれが素なわけね」
「だがなハイネ、こいつはこんな顔となりだが……それでも股間にぶら下がってるブツは本物だぜ」
「ぶっ!? ミゲル、のっけから何を言ってるんだ君は!」
「なっ、マジかよクルース……」
「それを聞いてまじまじと凝視しないでくれるかな!」
「どれクルース、ちょっとズボン脱いでみろって」
「バカを言わないでくれ! 君達はもしや、既に前後不覚になるまで酔っ払っているのか!」
「バッカお前、この程度じゃ俺たちはまだシラフ同然だぜ! なぁミゲル」
「おうよ。安心しろってクルース。ズボンまでしか脱がさねえからよ」
「そう言う問題じゃな、脱がすな! ちょっ!? 2人して詰め寄ってこないでって……待って、待って……やめろぉおお!!」
悪ノリが過ぎる。
必死に2人から逃げようとするタケルであるが、ミゲルとハイネもまた軍人。数の不利は如何ともし難く、タケルは追い詰められていく。
そうして、赤服のズボンに手をかけられた所で────
「ミゲル、お休み中に申し訳ありません。明日の予定について変更がありますので少しお話を──」
哀れ、男達の悪ノリの中に可憐な花は舞い込んでしまう。
桃色の長い髪を流し、どこかこの部屋を訪問することに嬉しさを見せる少女、ラクス・クラインの影武者ミーア・キャンベルが、ミゲルの部屋のドアを開け放ち、顔を覗かせて居た。
「えっ?」
「あっ!?」
「んっ?」
「うぇ!?」
4者4様。その場を沈黙が支配する。
ミーアは目にした光景に処理が追いつかなくて呆けており。
ミゲルはやってしまったと言わんばかりに表情を引き攣らせ。
ハイネは後ろを向いていたためか、闖入者は誰だと疑問符を浮かべる。
そしてズボンを脱がされかけていた被害者であるタケルは、こんな時に訪れた予想外の人物に驚きを見せた。
「あ……えっと、こ、これはですねラクス様……」
しどろもどろで口の回らないミゲルの声が聞こえる中、静寂は続いた。
ミーアの目の前では、ミゲルが背後からタケルを羽交締めにしており、ハイネがタケルの足を掴みズボンを引き剥がそうとしている。
そしてタケルは必死の抵抗の気配を見せながら、明らかに嫌がる姿であった。なんならその表情がどこか嗜虐心を煽る様で、ミーアには涙すら浮かべてる様に見えた。
「────し、失礼、しましたわ」
長い沈黙の後に、ミーア・キャンベルは思考を放棄してドアを閉めた。
きっと今のは幻覚だ。自分は何も見ていない。きっと今日のステージで疲れているのだ。寝よう。寝れば起きた時にはきっとこの記憶は消えている。そうだ、今日は大好きな本物のラクス・クラインの歌を聴きながら眠りに着こう。そうすればきっと余計な思考など頭の片隅に追いやってぐっすり眠れるはずだ。そうだそうしよう。だってさっきの光景はありえないはずの光景だもの。男が3人も居て組んず解れつなんて、そんな事あって良いわけがない。ミゲルさんもハイネさんも女の子に人気なのですから引き手数多でしょう? だのにそんないたいけな少年を捕まえて卑猥な行動に走るなど、そんな事があってはザフトの恥ですもの。それくらいの分別はついていますでしょう。まさかそんな、男が好きなんてことあるわけが…………
いくつもの虚しい言い訳を並べて現実を否定し、そのまま踵を返して、全速力で自身の部屋へと駆け出していくミーア。
それを見送り、再びミゲルの部屋を沈黙が支配した。
「あー、もしかしてこれって、色々と勘違いされてねえか?」
「や、やべえ……どうすっかなこれ……」
「────あぁ、とりあえずさ。君達2人共殺して良いかな?」
タケルの静かな殺気が充満していく中、ディオキアの夜は更けていくのだった。
ミネルバ艦内。
ディオキアに着いたということで、明日から艦の点検整備が始まるし、クルー達の休暇の予定もスケジュールしておかなければならない。
彼女自身にも休みの日は設けられているが、残念ながらそう暇でもなかった。
「あっ、艦長。エイブスさんからインパルスとザクの整備について報告がありました」
「報告? あぁ、きっとパイロットの事ね。聞かせてちょうだい」
「はい。ラウラ隊長より休暇明けからインパルスとザクのパイロットを戻すとの指示。併せて両パイロットに合わせた整備を依頼されているとの事です。ただ、整備班も順次休暇に入るとの事で、一度基地内のハンガーへと運び、オーバーホールと併せてあちらで取り掛かる予定だそうです」
艦橋に上がってきたタリアを見て、不在の間に聞き及んだ報告を挙げるメイリン。
味方の基地に入った事で艦橋に常駐しているクルーも少なく、報告の声はやたらと響いて聞こえる。
内容を把握して、タリアは頷く。
「えぇ、わかったわ。その様の動いてもらって。整備班の休暇スケジュールは?」
「エイブスさんから提出されています」
「送ってもらえるかしら」
「はい」
艦長席手元の端末に表示されるファイルを見ながら、タリアは先の予定を思案していく。
と、そんなタリアの耳に少し緩んだ声が入ってきた。
「んっ、ん〜〜……はぁ」
見れば強張った身体を伸びで解しているメイリンの姿があった。
「悪いわね、メイリン。遅くまで艦橋に入ってもらっちゃって」
「えっ? あ、あぁいえこのくらいは。明日休暇をいただいていますし、大丈夫ですよ」
「そう? ふふ、若いわね。羨ましいわ」
「そんな! 艦長だってまだまだお若いと思いますよ」
「良いわよ、そんな気を遣わなくても。最近どうにも、疲れが抜けてくれないのよね」
「それは……年齢ではなく艦長職のせいだと思いますが……」
メイリンとて昨今の情勢を知らないわけでは無い。ミネルバが進んできた道。乗り越えてきた戦いは、他の部隊の何倍も厳しく辛い戦いであった。
そのミネルバの艦長を務める重責たるや、生半ではないはず。
気苦労が絶えないとはよく言ったもので、休暇明けもまた厳しい道のりとなっているのだろう。
可哀想にと、メイリンはタリアへ同情を覚えてしまう。
「とりあえず、もうすぐアーサーも来るから、そしたらゆっくり休みなさい。明日の休暇ものんびりしてきて頂戴」
「はい、ありがとうございます!」
流石に年頃の娘である。
休暇を前に気持ちが上がり、嬉しそうな顔を見せるメイリンに、タリアも自然と頬を緩めた。
歳を食った分だけ抱えるものも増えて、休暇くらいじゃそれほど気持ちが上擦る事もないのが、悲しい事実である。
そんなタリアの目の前で、メイリンは明日をどう過ごそうかと思考に耽っていく。
チラホラ聞こえてくるのは、どこを見にいく、何を買うと、遊びたい盛りである事がよくわかる様な内容であった。
そこまで意識してふと、タリアは何かを思い出したかの様に表情を変える。
「そうだわメイリン。明日の休暇だけど、もし良ければ頼みを聞いてもらっても良いかしら?」
翌朝。
素晴らしいホテルの部屋で、しっかりたっぷりと眠って疲れをとる事ができたルナマリア・ホークは、朝もそれなりに早い時間から赤服を着込み、ホテルの通路を歩いていた。
道すがらに同期であるヤヨイ・キサラギを
向かう先はそう、ザフト特務隊所属のミゲル・アイマンの部屋である。
ルナマリアにとっては正に憧れの先輩。ヤヨイにとっても、自身を引き取り面倒を見てもらった、いわば兄貴分という所。
せっかく同じホテルにいるのだし、朝食でも共にしながらお話をしたいなどと、彼女は密かに狙っていたわけだ。
だが、その目論見は全くの予想外で、全くの理解できない展開によって、脆くも崩れ去ることとなる。
辿り着いたミゲル・アイマンがいるであろう一室。そこには先客が居て、更には甚だ迷惑と思えるほど騒がしい様相を呈していた。
部屋のドアの前で正座させられている男が2人。そしてその真正面で仁王立ちし、怒髪天を突く勢いで叱りつける桃色の歌姫の姿があったのだ。
「全く、信じられませんわ! 良い大人が友人とは言え、嫌がる者にあの様な所業。それも……あ、あんな破廉恥な……」
ラクス・クライン、否ミーア・キャンベルはラクスとしての体裁を取り繕いつつ、その身をわなわなと震わせながら怒りを露わにする。
どうしてこんな事になっているのかと言えば、昨晩伝えられなかった要件を済ませようと朝の内に思い立ったミーアがミゲルの部屋を訪ね、そしてタイミングが悪い事にミゲルの部屋を退室しようと出てきたタケルと鉢合わせしたのだ。
げっそりと疲れた様子のタケルを見て、そしてドアの奥から垣間見えるだらしのない2人のFAITHの姿を見て。昨夜の光景がフラッシュバックし、色々とあらぬ想像を膨らませる。
ちなみにタケルがげっそりとしている理由だが、大概まともに眠らせて貰えなかったことと、酒精に負けて気持ちが悪いだけである。断じて、変な事はしていない。
しかし、昨夜の事態ならぬ痴態を思い出して……結果、ミーアの怒りは爆発した。
「うん、もっと言ってくださいラクス嬢。私が言ってもこの2人、絶対反省しないんで」
「何被害者ぶってるんだよクルース」
「ハイネさん? お分かりでない様なので言わせていただきますが、ラウラさんは歴とした被害者です!」
「いや、あれは何つーか、ちょっとふざけていただけで決して嫌がらせとかいじめとかじゃ…………って言うかこいつ怒ったらいっそ一番怖ぇやつだし」
「ミゲルさん?」
「うっ…………すんません」
絶対零度の瞳を向けられ、ミゲルも撃沈。頭を落として項垂れる。
しかし、未だ怒りの冷めやらぬミーアは侮蔑の籠った目で2人を睨みつけると、そっぽを向いた。
「二人とも、よぉーく、じっくりと反省なさってください。ご友人に何をしたかをちゃんと理解なさいます様に────ラウラさん、ラウンジに行きましょう。朝食は私と共に。それならば次なる被害はありませんわ」
「えっ、あっ、うん。了解です」
喧騒が過ぎ去り、その場を歌姫と仮面隊長が離れていく。
後には叱られてしょげる良い大人が2人と、そして何が何やらわからず困惑の極みに陥った少女2人だけが残るのだった。
「一体、何があったのかしら?」
「さぁ、あれだけでは何とも」
静かなホテルの廊下に、少女達の呟きは溶けて消えていくのだった。
結局、この空気の中で朝食を一緒にどうですか、などと言えるはずもなく、ルナマリアはシンの部屋を経由して彼も回収。素直に同期で集まってラウンジへ行く事にした。
ミーアと共にラウンジへと来たタケルはそのまま2人で朝食を取る事に。
普通であればプラントの歌姫との相席など考えられない所だが、他ならぬ彼女によって強引にも同席する事を促され、タケルは仕方なく頷いた。
そうして、未だ怒りの収まらぬミーアを宥めながら、朝食を済ませていた。
「へぇ、それではラウラさんとミゲルさんは先の大戦からのご友人なのですか」
昨夜の事もあり、本当にミゲルとは友人関係であるのかと聞かれ、タケルはある程度掻い摘んでミゲルとのこれまでを聞かせてやった。
「まぁ、そうですね。彼とは最終的に命を預けあった仲です。お陰で今も良き友人として居てくれます」
「その様なご友人にあの様な……全く、ミゲルさんは」
「ま、まぁ……私も本気になれば彼等を叩き伏せて抵抗するくらいはできましたので、そろそろ怒りを収めてもらっても」
せっかくの食事も美味しくないでしょうと、タケルがやんわり窘めるが、今度は怒りから一転してどこか不安そうな表情をミーアは浮かべる。
「ラクス嬢、どうされましたか?」
タケルの問いにハッとしながら、しかしミーアはそれでも言うか言うまいかと戸惑いの気配を見せる。
やがて決心がついたのか、おずおずとタケルに向かって切り出した。
「その、ミゲルさんの友人である貴方にお聞きしたいのですが…………昨夜のアレを見るに、やはりあの噂は本当なのでしょうか。ラウラさんは、その……彼の噂についてご存知ありませんか?」
「噂、ですか? 特に聞き覚えはないですが……一体どんな話でしょう?」
「────彼が、男色という噂です」
「ぶっ!?」
危ない。
余りにも不意打ちに切り出された突拍子もない話に、タケルは口に含んだ水を吹き出しかけた。
驚きに気管へと入って咳き込む中、タケルはどうにかそれを落ち着けてから、焦った様にミーアへと視線を向けた。
「ら、ラクス嬢……まさかとは思いますが、それはつまり、ミゲルにとって私がその……そう言う事への対象であると……貴女はそのような認識でいると言う事でしょうか!?」
「えっ? い、いえ、違います!! そこまでは思い至って居ません。あくまで、噂通りなのであればそうなのかなと不安になってしまっただけで」
声にならない悲鳴をあげて、タケルは脳内で頭を抱えた。
昨夜。やはりあの時ブチ切れてでも反抗するべきであったのだ。
友人と仲間である2人にマジになって怒るのも憚られると遠慮したのが間違いであった。
お陰で現在、ミーアの頭の中では危険なお花畑が広がっている。
やめてくれ。そんな不安そうな顔をこちらに向けないでくれ。君が想像している様な事態は断じて無いのだと、声を高々にして否定したいが、今いる場所はそんな事を叫べる様な場所でもない。
湧き上がってくる憤慨を、どうにか抑え込み、タケルは大きく深呼吸をしてからミーアへと向き直った。
「ラクス嬢。今から私が言う事は間違いのない真実ですので、よぉく聞き取ってください」
「は、はい……わかりました」
覚悟を決めた様に、ミーアは真剣な面持ちで頷いた。
いっそその真剣さがタケルにとっては絶望的に不安を煽るが、この際気にしないことにした。
「ではまず、ミゲルの趣向についてですが……決してラクス嬢が気になさってる様な事はありません」
「ほ、本当ですか?」
「誓って……と言っても、何に誓えば良いかはわかりませんが、誓って本当です。
彼の趣向としては、これまでから察するに少し年下の女性が好みの様です。私と共通の知り合いの子が何人かいますが、仲は随分と良さげでした。付き合うならどんな子が良い、なんて話も一応したことがあります。まぁ、どこまで本気かは知りませんが、先日彼の家に招かれた際も、浮ついた話の一つも出てこないのは職務のせいであり、彼の本心としては添い遂げる女性の出現を欲している様です。
つまり、断じて私と彼はそんな仲ではありません────よろしいですね?」
タケルは最後、声音も重くしてミーアへと言い聞かせた。
聞き迫るその雰囲気に、ミーアは気圧されながらしきりに頷いて返す。
それを見てタケルはようやくと言う様に安堵の息を吐いた。
「そうですか……それなら安心ですわ」
「とと言う事は、ラクス嬢はもしやミゲルを?」
「えっ? い、いえ違いますわ。私はただ、私の護衛として付いてくれている彼が奇特な癖の持ち主だったりすると怖いと思いまして……本当に、それだけですから!」
「はぁ……そうですか。まぁミネルバにも彼に憧れを持つ子が居ますし、大変かとは思いますが、頑張ってください」
「で、ですから違うと言ってるではありませんか!」
からかい混じりに返せば、焦りと困惑と羞恥に表情を変えるミーア。
部屋で見せた怒りの形相であったり、先ほどの随分と不安を抱え込んだ表情だったりと、本物と比べると感情の起伏がしっかりしているなぁ、などと思いながらタケルは仮面の奥で小さく笑った。
ルナマリアにしてもそうだが、こうした感情豊かな子の方が、ミゲルにはお似合いだろうと胸中でどこか微笑ましく思う。
「えっ、それじゃ議長はもう発たれたの?」
「そうよ。まぁお忙しい立場でしょうし、当然でしょ」
「昨日あの様に、会談の場を設けられたことの方が不思議でしょう」
聞こえてくる声に目を向ければ、そこにはシンとルナマリアにヤヨイの3人がラウンジへと入ってくるのが見える。
それを見とめると、タケルは席を立った。
「ではラクス嬢。ご相席頂きありがとうございました。私は部下達と話があるのでこれにて。ついでに、彼が何か言いたそうなので話を聞いてあげてください」
「え、彼?」
タケルが視線を向ける先を追いかけてみれば、そこには反省の色を湛えた表情を見せるミゲル・アイマンの姿があった。
瞬間、ムスッとした表情を見せるあたり、彼女の気持ちはかなり本気なのだろうとわかる。
タケルは視線でその場を離れる事を告げ、それに答えるようにミゲルは2人が居たテーブルへと向かいはじめた。
「では、失礼します」
「はい。ありがとうございますわ、ラウラさん」
入れ替わる様にミゲルとすれ違いながら、タケルはその場を離れ。
そして、入れ替わったミゲル・アイマンはおずおずと、ミーアへと声をかけていくのであった。
「えっとだな……じゃなくて、えっとですね…………ラクス様、昨夜と今朝方は大変失礼致しました」
「反省は、されたのですか?」
「えぇ、それはもう」
「でしたら、私がこれ以上言う事はありません。ラウラさんも別段怒っては居ないようですので……どうぞお気になさらず。
貴方が気さくな方だと言うのは分かりますが、あのように恥ずかしい真似はもう少し時と場所を選んでください。良いですね?」
「あぁ、分かった、分かりましたって。ですから、これ以上は……」
「────そう言えば伝え忘れて居ました。ミゲルさん、こちらが本日の私の予定になります」
「えっ、あっ、はぁ。そう言えば確か予定が変更と…………って、打ち合わせの時間が少し後ろにズレ込む? これだけだったんですか?」
「むぅ! えぇ、そうです! たったそれだけの為にお部屋にお伺いしたのです! それが悪いのですか!」
「い、いえ! わざわざご足労をかけて申し訳ありません。ありがとうございます」
「ふんっ────もう、ミゲルなんて知らないんだから!」
最後に言い放ったそれは力強くも潜められた声で、ミゲルへと届く事はなかった。
それからしばらく。その場には無様な謝罪を繰り返す白服の姿があったそうな。
「おぉ、クルース。さっき振りだな」
のんびり優雅に朝食を済ませているハイネに呼ばれ、タケルは顔を顰めながら足を早めた。
テーブルには誘われたのかシン達が席を共にしており、ミネルバへの配属の件を聞き及んでいる様である。
「君はミゲルと違ってあまり反省の色が見られない様だな、ハイネ」
「ヒヨッコ達の前でそんな怖い声出すなよ。つーか、知られたら困るのはお前の方だろ?」
「君も困ると思うが?」
「ツンケンしてるねぇ」
一体この2人の間に何があったのだろうか。シン達はタケルとハイネのやり取りに疑問符を浮かべる。
「あのぉ、何かあったんですか、隊長」
「気にしないで良いシン。至極どうでもいい話だ」
「それよりも、先程ヴェステンフルスさんから聞きましたが、ミネルバに配属になるそうです。隊長は既にご存知だったのですか?」
「昨日の内に聞かされては居た。恐らくだが、激化する戦いに併せた戦力補強と見ているが……」
実際に指令を受けたはずのハイネへと、タケルはどうなのかと視線で促した。
「議長は安全な所にいる自分の護衛に特務隊を使うことは無駄でしかないとお考えだ。そんなのは護衛が仕事の人間に任せて、争いを終わらせるために戦って欲しい、だとよ」
「昨日言っていた、ロゴスの打倒……という事か」
再び、タケルはそれの事を考えて怒りを覚えた。
人類がどうしようもなく愚かであった理由。争いの元凶であるロゴス。
その存在を知らされて事で、これまで明確な形を持っていなかった戦争を引き起こす何かが形を持ってしまったのだ。
争いを憎む行き場の無い怒りは、遂に行き場を見つけタケルの中で蠢いていた。
「クルース。力むのはその時になってからだろ」
「わかっているさ」
必死に己の感情を律しようとしているタケルの気配を察して、皆それ以上何かを言う事は無かった。
「あっ、そういや聞いておきたいんだけどよ」
「ん? 何だろうか」
「お前がエスペラントだよな? んで、ヤヨイ・キサラギがセイバー。昨日居た金髪がザクファントム……でー、インパルスとザクウォーリアは結局どっちが乗ってんだ?」
居並ぶパイロット達を順繰りと指さしながら、ハイネはわかり易い話題の転換で疑問を呈した。
少し固くなった空気が緩み、タケルの気勢も削がれる。
そんなか彼の気遣いに感謝しながら、タケルは丁度いいとばかりにシンとルナマリアへと向き直った。
「丁度いいからここで伝えておこう。シン、ルナマリア。休暇明けからインパルスとザクのパイロットは元に戻す予定だ。エイブス主任にも伝えて、調整の方は済ませてもらう」
「えっ! ほ、本当ですか隊長!」
「え~、折角色々と覚えてきたところだったのに」
「文句なら後で聞いてやる。とりあえず2人とも、機体を変えたことで得られるものは多かったはずだ」
言われて、シンとルナマリアは思案しながら小さく頷いた。確かにその通りであった。
シンはザクに乗った事で、自身がこれまでどれだけ機体性能に胡坐をかいて楽をしていたかを理解した。
機体性能で劣るザクで、限られた選択肢の中で。戦果を出すためにより良い動きを求められる。
先を見通し動いていくための判断力を養えた。
更にザクはウィザードシステムによる装備換装を要とした機体であり、インパルスはその発展形だ。
シンにとっては多種多様の兵装を使いこなす良い練習台であった。
ルナマリアもまた、インパルスに乗った事で大きく見識を広げる事が出来た。
高い機体性能はその分制御を難しくさせる。より緻密に、より繊細に操縦することを求められるのだ。
乗り換えた最初こそ、まともに機動戦をするだけでも大変だったルナマリアだったが、最近になり漸くインパルスの挙動をものにしてきた。ガルナハンでの戦いはその結果だと言えるだろう。
繊細な操縦を覚えた今の自分なら、以前よりもっとずっと上手く、ザクを扱える気がしていた。
「今回で乗り換えの成果が出たら、エスペラントにも乗せるつもりだからな。覚悟しておくと良い」
「へぇ、良いんですか隊長。もしかしたら俺がエスペラントの正パイロットになっちゃうかもしれませんよ」
「バカシン。直ぐ調子に乗るんだから。あっ、でも隊長の乗るザクは、それはそれで見てみたいかも」
「一応アーモリーワンでシンには見せているんだがな……まぁ覚えているわけもないか」
「いやだなぁ、そんな事無いですよ。凄かったってことくらいはちゃんと覚えてますから」
「お前は頭より身体で反応するタイプで気楽なもんだよなホント」
「そうですか? いや、そう褒められると照れますね」
「褒められてるわけないでしょバカ」
姦しくやり取りする3人を見て、ハイネは呆れたように笑った。
先程まで肩に力が入っていたタケルの気配は一気に頼りになる上官のものに変わっている。
真面目が過ぎる隊長故に、知らずの内に彼は部下であるシン達に助けられている事も多いのだろうと感じた。
「なぁ、ヤヨイ。こいつら、いつもこんな感じなのか?」
「えっ? あぁ、まぁそうですね。手のかかる妹と弟、出来の良い兄と言う感じでしょうか。私やレイは余り隊長に手間をかける側ではないので。こう言ったやり取りは…………あっ、別に隊長が2人を贔屓しているというわけではありません」
「そのくらいは見てりゃ分かるよ。なるほどね……隊長として、優秀なわけだこりゃ」
仲が良い悪い、と言うよりは────信頼。
その言葉が相応しいだろうか。タケルがつぶさに彼等を見て、訓練を見て、そうして触れ合う事でちゃんと互いを理解している。
皆が一方通行なやり取りではなく相互に関係を持っている事がミネルバのMS隊の強さなのだろう。
彼等を見て、ハイネはその事実を噛み締める。
「そう言えば、ヴェステンフルスさんがミネルバに乗るとなれば、MS隊の隊長はどちらに……?」
「ハイネで良いぜ。呼びにくいだろ?」
「い、いえそんな事は無いですが」
「FAITHとしての先任は俺だけどな。ミネルバの配属としてはクルースが先任だ。お前達も隊としてしっかり形ができている以上、隊長は継続してクルースだろう」
「とは言っても、戦闘中は私が指揮をとれない事も多い。ハイネには頻繁に指揮権を譲渡することになる。その時は頼むよ、ハイネ」
「オーケー、任せな。そん時は俺ときっちり合わせてもらうぜお前等。んじゃ、俺の休暇は明日だし、とりあえず今日の内にミネルバに入っておくかな」
「それなら私も一緒に行こう。今日は休暇扱いだが、色々とやっておきたいことも多い」
むっ、とヤヨイは表情を険しくさせた。
休暇でありながらやる事が多い。その矛盾の様な状況に、以前にも抱いていた懸念が湧きあがる。
「まさかとは思いますが隊長…………また整備班の仕事を奪っているわけではありませんよね?」
ヤヨイからのどこか冷たい声に、タケルは肩を震わせた。
無論、タケルがやっておきたい事とは様々にあるが、その中でも再びの乗り換えに当たって色々と調整が必要であろうインパルスとザクの事が大きいだろう。
見事に読まれた予定に、タケルは顔を顰めた。
「そ、そんな事はしない。インパルスとザクのパラメーター調整で、2人に併せた数値の変更をエイブス主任に提出し──」
「本日隊長は休暇の筈です。ちゃんと休んでください。艦には代わりに私がハイネと戻ります」
「いや、だから私も色々とやる事が」
「今日やる必要も無いでしょう。これ以上言うのであれば、艦長に報告して──」
「あっ、見つけた! ラウラ隊長!!」
無理矢理にでも休ませますよ、とヤヨイが提言しようとしたところで、その場に飛び込んでくる聞き覚えのある声に皆が視線を向けた。
見れば、鮮やかな赤毛を揺らしてこちらへと向かって来るメイリン・ホークの姿がそこにあった。
「メイリン? どうしたのですか、そんなに急いだ様子で」
「ヤヨイ……おはよう。お姉ちゃんにシンも」
「えっ、あ、うん」
「おはようじゃないわよ。そんな急いでどうしたの? あんた、今日は休暇貰ってる日よね?」
「う、うん。その事で、ちょっとラウラ隊長にお話が……」
何故か……タケルはその時、言い知れぬ不安と嫌な予感を察知していた。
どこか緊張気味にタケルの元へと向かってくるメイリン。
両の手を握りしめ、肩には随分と力が入っている。
だがその目には強い決意と光を宿しており、なんというか覚悟の様なものが感じられた。
「ラウラ隊長──」
「な、何だろうか?」
すー、はー、と大きく深呼吸。
そして聞き間違いの無いようにと大きく口を開けて、メイリンはその言葉で禁断の扉を開けて見せる。
「今日一日、私とデートしてください!」
「────えっ?」
この日、タケル・アマノの世界はその身と共に凍り付くのであった。
「────えっ!?」
周囲も勿論、凍り付くのであった。
ギャグとか言いつつ、結構真面目成分多い。
そしてもう2度とミゲルとハイネは並べない、と思う。
多少は一緒に出てくる事もあるだろうけど、しっかり絡ませるのは今回だけ。
次回は修羅場…………予想外の方向でね。
どうぞお楽しみに。
感想、よろしくお願いいたします。