ディオキア編長すぎ問題。
これからがどんどん話が展開されて行くのでお許しを。
目を見開く。
タケルは目の前の少女が呼んだ名前に驚愕を浮かべ、混乱に陥っていた。
ユリス・ラングベルト────タケル・アマノと同じ遺伝子を持つ、正に同体の人間である。
タケル自身、彼女と出会った時はその相似性の高さに驚いたものであった。
そんな彼女の名前が、タケルを誰かと見間違えた少女の口から発せられたのである。
「ユリス? タケルさんが家族と似ているのでしょうか……」
何も知らないメイリンが少女の言動に首を傾げる。
少女もまた、そんなメイリンの言葉に、同様に疑問符を浮かべる。
「タケル? ユリス……じゃない?」
「はい、そうですよ。この人はタケルさん。貴女が知ってるユリスさんじゃないんです」
少女の拙い受け答えにあわせてメイリンは事実を淡々と教え込んでいく。
そんな2人の会話を聞きながら、タケルは混乱する思考を回して落ち着きを取り戻そうとしていた。
「(僕を誰かと見間違う程度ならいくらでもあり得る……だが、その見間違えた先が同名の別人なんてことはまずあり得ない……この子は)」
「タケルさん?」
「あっ、ゴメン。この子の家族はどこかなって……」
「そうですよね。近くにそれらしい人は見当たりませんし……ねぇ、ユリスさんは近くに居るの?」
少しでもこの後起こる事への可能性を予期して、タケルは少女の答えを待った。
彼女が……ユリスが近くに居ると先んじて知れただけでも僥倖だ。
何も知らずに邂逅してしまえば、最悪街中で被害をもたらす事すらあり得る。
「ユリス、一緒に居る。スティング、アウルも」
「スティングさんにアウルさんも一緒なんですね。それじゃ、三人組のご家族とかを探せば良さそうですかね……あの、タケルさん?」
問いかけるも返答の無いタケルに、メイリンが訝しんだ。
しかし、タケルは必死に最悪を想定して、今何をするべきかを模索している。メイリンの声など、まるで届いていない状態だ。
「(どうする……確証は無い。でも、あのユリスが一般人と知り合いなど……それもこんな思わず飛びついていく程親しい間柄の人間など、居るとは思えない。あの時アーモリーワンを襲撃した部隊。インド洋でユリスが出てきたことからも大西洋連邦の所属である事は確定的だ。想定するにこの子は……)」
「あっ、タケルさん。あの人……この子の言うユリスさんじゃないですか? 髪の色、タケルさんともそっくりですし、こっちに走ってきますよ」
メイリンが迎えに行こうと動き出す中、ゾクリと総毛立つ程の恐怖をタケルは抱いた。
メイリンが歩いて行くその先、疾走してこちらへと向かってくる仇敵の姿を、タケルは捉えていた。
「ユリスさーん、こっちですよ!」
「下がれ、メイリン!!」
「えっ────きゃあ!?」
「ちっ!」
立ち上がり、タケルがメイリンを引き寄せるよりも早く、彼女ユリス・ラングベルトはメイリンの腕を掴んで引き寄せると、その腕に抱えて懐から取り出したナイフを突き付ける。
瞬時にタケルも腕の中に居た少女を盾にするように抱え込むと、細い首に手を添えた。
「動くな!!」
「動かないで!!」
互いに牽制の言葉を吐くのは同時であった。
ユリス・ラングベルトはメイリンにナイフを突きつけており、タケルは少女の首に手をかけいつでもその首を折れるように示す。
どちらもが突き付けられた現実を理解し、2人は動きを止める。
「──こんなところで会うとは思わなかったわよ、兄さん」
「僕もお前とここで再会するとは夢にも思わなかった。ユリス」
潮風が、2人の間を吹き抜けた。
ブリュッセル。
位置としてはヨーロッパの西に位置し、ユーラシア連邦の首都であると同時に、高度な経済域にある都市だ。
海中を航行していたアークエンジェルは大西洋側の海域にて潜伏。
カガリとラクスを連れたフレイはそこから船舶を使い密かにベルギーへと上陸。ブリュッセルへと向かった。
ヨーロッパ圏ではキサカの容姿が目立つ為に、護衛にはサイとキラ、それとチャンドラが付いて、ブリュッセルへと辿り着けば、そこから先はフレイの手配で車に乗せられ行政府へ向かう。
「それにしても……お忍び全開とは言えもう少し着飾っても良かったんじゃないの、2人共」
車中で対面に座っていたフレイは、ラクスとカガリを見て少しだけ不服そうに口をとがらせていた。
以下の2人は地味も地味。目深に被った帽子に暗い色のロングコート。目元はサングラスと、エージェントみたいな風体である。
「バカを言うな。バレたら一大事なんだぞ。オーブの代表であった私が、内密にユーラシア連邦政府と会談など」
「私は地球圏での知名度はそれほどではあったのですが……最近はあの方の事がありますので」
「そう言えば、最近は地球でも随分な騒ぎだものね……あの偽物」
言って、僅かな侮蔑の気配を纏い、フレイは車内のモニターを点けた。
丁度よくユーラシア西地域の解放にあたりプラントのラクス・クラインが慰問に訪れた事をニュースが取りあげていた。
聴衆へと明るい笑顔を振り撒くラクス・クラインは、目の前にいる本物と比べても、決して見分けがつかないような見た目だ。
雰囲気というか気配というか……そう言った内面的なところから来るものは身近な人間にしかわからないものである。聴衆がそれを見分けるのは困難であろう。
強いてわかるところを挙げるのであれば────胸、であろうか。
「フレイさん?」
「っ!? ま、全く、失礼しちゃうわよね。本人の許可も無しにこんなの!」
「どうしたんだフレイ? 急に慌てて?」
「なんでも無いわ! ちょっと寒気がしただけよ。それより、カガリはこれの事本当に知らないの?」
「言っただろう、全然知らないって。
用意したのはデュランダル議長だと思うが、一体何を考えてこんなのを用意したんだろうな……私にも良くわからないよ」
「カガリさん、アーモリーワンでは何か?」
「これについては何にも。まぁ、それどころではなかった事もあるし」
「そうですか……どうにも、あちらの考えが読めませんわ」
沈黙が車内を包みこんだ。
これから向かうはブリュッセルの連邦行政府。
そして、秘密裏に入るのはフレイに招かれた彼女達だけではない。
渦中の人物、ギルバート・デュランダルもまた、別ルートから行政府入りを果たしていた。
目的地へと到着したカガリ達はそのまま地下駐車場へと入り、更にはそのまま行政府が所有する緊急用に作られた地下シェルターへ。
正に公にできない秘密裏の会合に相応しい、地下深くの議場へと案内された。
広い通路を進み、大きな扉が待ち構える。
フレイが先頭に立ち、開け放たれた扉を潜れば、そこにはユーラシア連邦事務次官、ボルト・ミュラーが待ち構えていた。
フレイは勝手知ったるというようにミュラーの元へ。
そしてカガリとラクスは面持ちも厳しく対面する老齢の偉丈夫と視線を交わした。
軍人上がりの事務次官。かと言って暴威的な気配は皆無。いっそ見た目に似合わぬ賢人に思えた。
「お初にお目にかかりますわ。ラクス・クラインです」
「こちらも、初めまして……カガリ・ユラ・アスハです」
「初めまして、ではあるか。アルスターから散々話は聞いているがな……ユーラシア事務次官のボルト・ミュラーだ。今日はよろしく頼む」
余計な形式を省いた真っ直ぐな言葉に、カガリとラクスは俄かに気圧されるのだった。
互いに人質となる者を腕の中に捉え、タケルとユリスは睨み合う。
静寂を破り先に口を開いたのはユリス・ラングベルトであった。
「兄さん、何でここに? とは言っても、私は昨日ミネルバが停泊していたのは見ているけど……それでも、何でまたこんな所にいるのかしら?」
「隊の皆から気を遣われてね。与えられた休暇を満喫していた所だ。そしたらこの子がここの崖から落ちそうになって、それを助けた」
「あら、それじゃ兄さんには感謝しなくちゃいけないかしら。ステラを助けてくれてありがとう」
「そう思うならメイリンを放せ」
「言える立場? 武器を持たずにステラをやれるとでも?」
「お前のナイフがメイリンを殺めるのと同じくらい、僕がこの細い首を握りつぶすのは容易い──状況は同じだ」
試してみるかと言わんばかりに、タケルはステラと呼ばれた少女の首を僅かに締めた。
苦しいとは感じない、首が多少圧迫されただけなので、ステラが表情を歪めることは無かったが、ユリスにはその意味が理解できて、悔しそうに唇を噛む。
「────ステラを放すのならこの子を解放してあげるわ。交換条件よ」
「そっちが先だ。僕はお前の言葉を信用していない」
嫌悪を交えた瞳が、ユリスに向けられる。
それを、人質となり、向かい合う位置関係となったメイリンは、まじまじと見つめていた。
未だ嘗て知らない、タケル・アマノの素顔。
敵意を剥き出しにして、隙1つ見せない臨戦態勢。これまでの優しい彼からは決して想像できない険悪さに、メイリンは人質の恐怖に晒されながら驚きも隠せなかった。
「ユリスー!」
「おい、何だよこれ!」
そこへ、状況を読み取って来たのかアウルとスティングが駆けつけてくる。
向かい合うタケルとユリスに、2人も即座に警戒を見せて身構えた。
「下がってなさい2人共。ステラの命を握られてる……余計な手出しはしないで」
「握られてるって……ステラ、お前も何でそんないいようにされてんだよ!」
「黙っていろと言っている! この人と白兵戦をしようものならあんた達2人で掛かったってまるで相手にならないわよ。死にたくなかったら引っ込んでなさい」
一喝しながら、ユリスは飛びだしそうなアウルを厳しい声音で抑えつけた。
不服を言う暇を与えないその物言いに、アウルは言われた事を事実と理解して不服そうにしながらも引き下がる。
外野の懸念が消えたところで、ユリスは再びタケルへと視線を戻して睨み合った。
「────信じて、良いんでしょうね?」
「僕は君の様な人間になるつもりはない」
たっぷり時間を置いて呟かれた言葉。
本来なら互いに人質を取ったこの場面で先に手放すなどあり得ないのだが、ユリスは目の前の愚者があまっちょろい偽善者である事を知っている。
少なくとも、ユリスとタケルの諍いの中に、別の誰かを巻き込むような事は良しとしないだろう。
それは、信頼とも言える確かな事であった。
「まぁ良いわ。兄さんが私を信じてなくても、私は兄さんを信じてあげる────はい」
ナイフをしまい、ユリスはメイリンを解放した。
警戒をしながら静かに戻って来るメイリンの手を引いて、タケルは自分の背後に隠して安全を確保する。
「さっ、ステラを放してよ兄さん」
言われて逡巡。タケルはステラを抑えていた腕の力を緩めると、そのまま彼女を立たせた。
「ステラ、痛くしてゴメンね。ほら、戻ってあげて」
衣服に着いた汚れを軽く落としながら、申し訳なさそうにステラへと謝罪の言葉を口にする。
それにステラは理解が及んでいないように首を傾げた。
「タケル……ユリス嫌い?」
自身が人質にされたこと等……命を握られていたこと等欠片も思っていない様子であった。
彼女にとって、ユリス・ラングベルトは心の底から信用のおける存在なのだろう。
故に、同じ遺伝子を持ち、同じ顔をしているタケルを無条件で同列の存在として受け取っている。
いわば、大好きな両親の喧嘩を目の当たりにした子供の様であった。
「嫌い?」
「そう、かもね。ほら、早く行ってあげて」
「ユリスも、タケル嫌い?」
「嫌いよ、そんな人。だから早く戻ってきなさい」
呼ばれて、おずおずとステラはユリスの元へと戻っていく。
手の届くところまで来たステラを抱き寄せて、ユリスは安堵の息を吐いた。
「ステラ! もう、心配かけて」
「ユリス、痛い」
「あっ、ごめん。とにかく、スティング達とホテルに戻ってなさい」
「──うん」
どこか、まだ納得いかない様な気配でタケルへと振り返るも、指示された通りにスティング達と共にステラはその場を離れていく。
それをタケルは、睨みつけながら見送った。
「言っておくけど、後をつけたりしたらその子が死ぬことになるわよ」
「心配しなくていい。今の僕は何も武器を持っていない」
「そう? 兄さんなら素手で私達を制圧できそうだけど」
「させる気も無い癖に何を言っている」
ふんっ、と鼻息も荒くユリスはタケルへと一瞥をくれて振り返ろうとした。
「────彼女達は、僕等と同じなのか?」
だが、聞こえた声に。掛けられて問いに。
ユリスはその動きを止め、そしてすぐさま怒りの気配を醸し出す。
「何? 同じ存在だったらどうなの? 同情? 吐き気がするからやめてくれる?」
「そんなつもりは無い。だけど、ステラはとても戦うような子には見えなかった」
「バカじゃないの。兄さんの物差しで勝手に測らないでよ。
私達は戦う事でしか生きられない。戦う事しか許されない存在……兄さんみたいに、皆が温かい場所で生きてると思わないで」
勘違いも甚だしい。
元よりタケルとユリスですら、同じ生まれであっても全く異なる人生を歩んで来たのだ。
言語化すれば特殊な生まれ。ただそれだけ。
たったそれだけの共通項で同じ存在と括り、哀れみを見せる様なタケルの言葉に、ユリスは侮蔑と憎しみを混ぜて返した。
「──ごめん」
「ふんっ! 苛立たしい……くだらない問答はここまでよ。失礼させてもらうわ」
山吹色の髪を揺らしながら、ユリスは歩き出す。
だがその背に、タケルはもう一度言葉を投げつけた。
「ユリス────君は今でも、世界を憎んでいるの?」
再び、ユリスの歩みは止まった。何かを思い──ユリスの歩みは止められた。
ラウが死に、人類と世界はギリギリのところで滅びの道を回避した。
今でもまだ世界を憎んでいるのかと問われれば、ユリスにとってそれはYesだろう。
ユリス・ラングベルトは依然として、クソッタレなこの世界が大嫌いである。
だが、タケルが問うそれは少し意味合いを異にしていた。
彼の問いを正確に汲み取るなら、今でもまだ世界の滅びを望んでいるのか、という事である。
それを理解して、ユリスは僅かに答えに惑った。
逡巡は数秒。まろび出た答えはらしく無い弱さを宿した声であった。
「私は────今更、何かを起こそうなんて気はないわよ。ただラウが望まなかった世界を、私は生きて、見届けたいだけ」
「それでも、まだ戦ってるのか」
「言ったでしょ。戦わなければ生きていけない。戦う事しか許されないのよ。私も……あの子達も。兄さんが思ってる程、世界は簡単じゃないの」
ラウを喪った寂しさを。戦いから逃れられないもどかしさを。
色んな感情をない交ぜにした声に、タケルはそれ以上口を開くのをやめた。
「──もう良いでしょ。次会うのは戦場よ。お仲間共々、全員覚悟しておくことね」
「負けやしないよ。2年前と同じく、僕には負けられない理由がある」
「ふんっ、言ってなさい」
今度こそ、ユリスは有無を言わさぬ気配でその場を後にした。
その場には成り行きを見守って不安に駆られたメイリンと、いつまでもユリスの背中を見つめるタケルが残る。
いつまでも動かないタケルを慮ってか、緊張した空気を霧散させようと、メイリンはおずおずと口を開いた。
「──あの、タケル、さん」
「あっ、怖い想いをさせてゴメンね、メイリン。今あった事は全部忘れて」
「えっ、でも」
「あぁ、服も靴も汚れちゃったね。本当にゴメン」
わざとらしく声を上げて、慌ててメイリンの服に着いたホコリを叩いて落としはじめるタケルの声音は、メイリンには空元気にしか見えなかった。
かと言って、それを指摘する気にもなれず、メイリンはだったら素直に応えようと笑みを見せた。
「いえ、これはほとんどステラって子を助けた時のですから……タケルさんのベルトを掴んだ時に座り込んだので」
「それじゃ、どっちにしろ指示を出した僕のせいだね。
この街にはもう数日滞在するし、クリーニングに出そうか。代わりの服は上から下まで全部今から買ってあげるから」
「えっ、えぇ!? そんな良いですよ別に!」
「良くないよ。こんな状態でミネルバに戻ったら、ルナマリアに何て言われるか……ね、どんな顔するか分かるでしょ?」
「そんな、別にそこまで……」
言って、メイリンは今朝方の出来事を思い出した。
デートの件を切り出した時のルナマリアの顔と言ったら、それはもうひどいもので、形容するなら鬼のようであったと言えるだろう。
「ね?」
「あ、あはは……その、粗暴な姉が申し訳ありません」
「じゃあ、行こうか。さっき街を見回った時にそれっぽいお店はいくつかあったよね」
「あっ、私覚えてます。何件かショーウインドウにお洒落なのが飾ってあったので」
「うん、どんなお店でも値段の事は気にしないで入っていいから。一応、開発畑の人間だからね」
えっ、と驚きながらも、メイリンはタケルの表情を見て色々と察して諦めた。
金銭感覚が違う────感じ取ったそれを半ば不変の事実として確信する。
元はアスハの家の子。幼少から不自由ない生活をしてきたはずだ。
更には、開発畑の人間という事で、タケルがこれまでにどれだけオーブで活躍しているかは火を見るより明らか。
技術を生み出す権化みたいな人間がその成果でどれだけ稼いでいるかなど、メイリンには想像すらつかない。
「メイリン?」
「あ、いえ……お手柔らかに、お願いします」
何はともあれ、2人はデートを再開した。
何件か店を回り、メイリンに似合う服を見繕う。
色々と感性のズレに警戒と懸念を抱いていたメイリンだったが、意外にもタケルはメイリンに本当に似合う服をしっかりと選んで見繕ってくれた。
どことなくその手腕には慣れを感じて、メイリンが聞いてみれば──
「昔からカガリを着せ替え人形にしてたからね」
との事である。
カガリが服には無頓着で飾らないから、兄として可愛い妹を必死に着飾らせたかったわけだ。侍女のマーナと画策して、小さい頃からそれはもうたくさんの服を選んでは送ってきた。
相変わらずこの男、妹に対しては本気である。
余談だが、ナタルと暮らすようになって、同じように服を選ぼうとしても、タケルはナタルに似合う服は選定できなかったらしい。どうやら選定眼は妹限定のようである。
カガリも含めて3人で出かけた時はその事でナタルが大層お冠であったとか、なかったとか。
そうして一通り服を揃えて、汚れた服をクリーニングに出せば、時刻は夕暮れ時へと迫っていた。
ミネルバへと向かう道の途上。
もうすぐでディオキア基地の敷地へと着くところで、改めてタケルはメイリンへと向き直った。
「今日は本当に楽しい一日だった。ありがとう、メイリン」
「い、いえ、私の方こそ。なんだか色々ともらっちゃってばかりで……こちらこそ、ありがとうございました。服だけの話じゃなくて、私もタケルさんから一杯楽しい時間をもらいましたし。それに、今日のタケルさんは、本当にのんびりしてる様子だったので、私も嬉しかったです」
「それなら良かったよ。どうやら僕は、皆の心配の種の様だからね……僕としては甚だ心外だけどさ」
はは、と自嘲気味に笑うタケルに、メイリンはどこか不満を覚えた。
なんというか嫌な笑いであった。そうなっちゃうのも仕方ない。わかってても変えられない。
そんな、諦めのような気配をメイリンはタケルの表情から感じ取っていた。
「────私、なんとなくわかった気がします」
何を思ったか。何故かメイリンの口はいつの間にか内なら気付きに……想いに突き動かされていた。
「ん? わかったって、何が?」
「アスハ代表が、タケルさんの傍で、いつも強く在れた理由です」
「カガリが、強く在れた理由?」
「タケルさんが言ってたように、アスハ代表が何にも負けずに強かったのはきっと、タケルさんが傍に居たからだと思います」
「僕が、居たから?」
オウム返しに聞いてくるタケルに、メイリンは小さく頷いた。
「何でもできて、いつも尊敬しているお兄さんが泣いてる時、唯一助けてあげられるのが自分だけだったから……危なっかしくて見ていられなくて、自分が守らなきゃ、きっと泣いたままだから。
だからアスハ代表はタケルさんの傍でずっと強く在れたんだと思います」
「はは、すっごい事になってきたね。つまり僕が弱かったからカガリは強く成れたって言う事?」
「はい! だってタケルさん、頼りになるし凄い人ですけど……いつも、とても細くてすぐ折れてしまいそうですから」
いきなり貶められて、タケルが僅かに面食らう。
でもきっと、これは間違いでは無いだろうとメイリンは思った。
ずっと感じていたのだ。
始めてミネルバで出会ってからずっと。タケル・アマノは強く頼れる存在……であろうとしている。
ピンと張りっぱなしの緊張状態。責任に、自身の想いに雁字搦めとなっており、片時も自分を緩める時がない。
まるで強迫観念のように己を張り続ける姿こそが、メイリンが抱いた細くて折れてしまいそうな脆さの気配。
この人はきっと、頑張り続ける事でしか己を保てないのだと。
「だから私、決めました」
「う、うん?」
急に湧き上がってきた決心の声。
タケルが困惑に揺れる中、メイリンはタケルへと一歩踏み入り、大してついてない身長差でその顔を見上げる。
「お姉ちゃんみたいに一緒に戦えないですけど……アスハ代表みたいに隣には立てないですけど。
でもせめて、タケルさんが倒れないように、私は後ろから支えてあげられるようになります」
「う、うん?」
何を言われてるのか理解できないタケルは、曖昧に返すも、それを了承と受け取り、メイリンは拳を握った。
「見ててくださいタケルさん。私、がんばりますから!」
「う、うん…………うん?」
もはやタケルの答えは必要なかった。
強くやる気に満ちた背中を見せて、メイリン・ホークはその場を後にしていく。
タケルは身も心も置いてけぼりとなってその場に取り残されてしまった。
「────う、うん?」
わけもわからず、取り残されてしまった。
おまけ(ドラマCD風)
アークエンジェル艦内、食堂エリア。
ピシッ!
「──むっ、コップが」
「あら、どうしたのナタル…………割れてるわね」
「はい、割れてますね」
「何かの凶兆でしょうか……」
「と言うとタケル君絡みかしら」
「な、何故すぐそうなるのですか貴女は…………」
「だってナタルにとっての凶兆なんて、それ以外にある?」
「そ、それは……無いかもしれませんが」
「もしかして、浮気とか?」
「マリュー!!」
「ごめんなさい、冗談よ冗談」
「流石に言って良い事と悪い事があります!」
「義姉さん。あの兄様が義姉さん以外の女性にうつつを抜かすなんて、あるわけ無いだろう。それは近くで見て来た私が良く知ってる」
「あら、私だってよぉく知ってるわよ。貴女は知らないでしょうけど、タケル君たらナタルの事で気になる事ができるとすぐ私達の所に来て相談してたんだから。
それこそ、ナタルに別の男の気配がありそうで…………何て話を、もう10回は聞いたわ」
「そ、そんな事が……」
「だから気にするだけ無駄よ。貴方もあの子も、そんな軽い関係じゃないでしょ。まぁ……タケル君の場合、ナタルと違って押しに弱いからー、場合によってはどうなるかわからないかもねー、なん……て……」
「マリュぅー!!」
「あふん!?」
「はぁ……流石にからかい過ぎだ、ラミアス艦長」
強いよねぇ、メイリンがねぇ。
多分だけど、原作アスランに対しても、最終的にはこう言う感じの想いじゃないかなって。
書いた後で思いました。
ちなみに、主人公の公式設定は身長166cm。メイリンは160cmだそうです。
靴次第でほぼほぼ並ぶ悲しさ。シンより小さかった。
妹は着せ替え人形。主人公はやはり変態でした。
経済力と金銭感覚は、まぁそうなるでしょうって感じ。
設定とこれまでを見返せば、この主人公、技術特許だけでどれだけ稼げるのやら。
ステラ可愛いよステラ。
メイリンかわいいよメイリン。
ユリスネキはかっこいい系。
カガリはもう、逞しい?
サヤ&ヤヨイは、多分もどかしい系。
妹だらけじゃないの本作をこれからもよろしくお願いします。
感想も是非に、お願いします。
運命入ったし…本作における可愛い妹選手権
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地に足ついたカガリ
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お兄様大好きサヤ
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兄さん殺し隊ユリス
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ようやく出番メイリン
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本作では妹枠?ステラ