ザフト軍戦艦ヴェサリウス艦内。
本国を出発しユニウスセブンへと向かう途上、ヴェサリウスは進路上で同様の方向へと向かう地球連合の艦隊を発見していた。
「どうした、アデス?」
「隊長、地球軍の艦隊です。こんな宙域で一体何を……」
「ふむ」
ラウは大方の予想は付いた。
ヴェサリウスとの進路がかなり近しいという事は、向かう先はユニウスセブン。
このタイミングでそこに向かうとなれば、潜伏している可能性があると踏んでいるアークエンジェルへの合流が狙いだろう。
「捕捉はされていないな?」
「はい」
「ならばしばらく様子を見よう」
「様子見、ですか?」
「あの艦隊、我らの水先案内人となってくれるやもしれん」
「という事は、まさか!?」
「慎重に距離を保て。捕捉されたら逃げられる」
「了解しました」
仮面の奥で小さな笑みを浮かべながらラウは艦橋を後にした。
一方その頃。
アークエンジェルはデブリ帯を離れ、連絡がついた第8艦隊先遣隊との合流へ舵を切っていた。
「方位45、マーク10アルファへ進路修正。機関60%」
操舵士ノイマンによって必要進路が取られアークエンジェルは補給も無事に終えて出発した。
少しの時が経てば、有視界での通信領域にも入り
艦橋でモニターには、先遣隊の旗艦であるモントゴメリーと通信が繋がっていた。
モニターに映るのは艦長のコープマンと大西洋連邦事務次官、ジョージ・アルスターである。
「本艦隊のランデブーポイントは到達時刻は予定通りだ。アークエンジェルは合流後、本艦隊の指揮下に入り、本隊との合流地点へと向かう。
あと僅かだ。無事の到達を祈る」
「えー大西洋連邦事務次官、ジョージ・アルスターだ。まずは民間人の救助に尽力してくれたことに礼を言いたい。
それと、救助した民間人名簿の中に我が娘、フレイ・アルスターの名があった事に喜んでいる。できれば顔を見せてもらえるとありがたいのだが……」
親バカとでも言えばよいのだろうか。
軍務の最中、大事な通信で、気持ちはわかるが娘を出して欲しいと言われるとは思っていなかったのか、マリューもナタルも小さく驚きを見せていた。
ジョージと唯一の知己であるフレイの婚約者。サイ・アーガイルだけはさして驚いた様子も見せず“こういう人なんだよな、フレイのお父さん”と苦笑交じりに呟いていた。
隣にいるコープマンから窘められ、ジョージはそのまま引き下がるものの通信中、終始そわそわと落ち着きが無いようであった。
格納庫ではキラとタケルが自機のチェックを進めていた。
2人とも、ある意味十分な休息が取れ元気一杯である。
起きた時には奇しくも同じような羞恥に見舞われ、慌てて部屋を退出したところまで実は同じだったりする。
「おーい、坊主ども。調子はどうだー!」
格納庫に響き渡るマードックの声にコクピットから出ると、2人は一度集まった。
「オフセット値に合わせてちょっと調整してるだけですから。タケルは?」
「こっちはストライクのパーツの流用で直した脚部だから、細かな重量バランスの調整と駆動レスポンス、それに内部フレームへの影響何かを計算してたよ」
「どうだったんだ?」
「さすがにストライクのパーツを使わせてもらっただけあって、もとより動きは良くなりそうです。ただ、脚部だけなので、全体とのバランスは崩れますけどね」
「でも、もうすぐ艦隊と合流できるんですよね。こんな調整してても意味ないんじゃ」
「ははっ、意味ない事なんてあるもんか。合流できようができまいが、この宇宙で航行する以上、ザフトの襲撃はありえるんだからな。いつ何時襲撃がきても良いようにできる事はやっとくもんだ」
「確かに、そうですよね。それで堕とされちゃ話にならないですし」
おっ、とキラの言葉にタケルもマードックも不思議そうな顔を見せた。
何か違う。どこか違う。そんな違和感をキラから感じ取ったのだ。
「えっ、なんですか?」
「いや、なんつーかよ」
「今の前向きな発言もそうだけど、ちょっと強い感じになったかなって」
「強い感じって……そんな事無いと思うけど」
「いいや、俺にはわかる。坊主、何かあっただろ?」
「どうやらあのお姫様に随分癒してもらったみたいだね、キラ」
にやにやと嫌らしい笑みを隠す気もなく見せるタケルに、キラはタケルが言わんとしてることを理解した。
「なっ!? ちがっ!?」
「おいおいおい、何の話だアマノさんよ。この坊主、あのプラントのお姫様と何かあったって言うのか?」
「そうなんですよ、聞いてくださいマードック軍曹。もう直接あの子から聞いてきた情報何ですがキラってば──」
「わーわーわー! ちょっとタケル! 自分からあの子をけしかけておいてそれは性質が悪いよ!」
「恥ずかしがることないじゃないか。整備班から1つか2つ妬みを買うだけだって」
「悪魔か君は!?」
「おーおー、詳しく聞かせてくれやアマノ二尉。あのカワイ子ちゃんと坊主がどうしたって?」
「それはもう、んぎゃ!?」
突然奇妙な声と共にタケルが倒れた。
ビクリとしてキラとマードックが目を見開くと、そこには拳を振りかざし、タケルを殴りつけたであろうカガリの姿があった。
「自分も同じような状況だった癖に、よくもまぁキラをからかう事ができたものだな、兄様」
「か、カガリ……さすがに背後から後頭部を強打はちょっと殺意を感じる気がするんだけど?」
「なんでぇ、アマノ二尉も同じ穴のムジナかよ」
「ちょっとタケル最低じゃないかな?」
「待って、ちょっとからかっただけだからそこまで本気の視線はやめて」
「自業自得だろう」
「はぁ、しょんぼりだよ全く。それでこんな所に顔を出したって事は何か用があったんじゃないの、カガリ?」
「ん? あぁ、そうだった」
落ち着いた所で、用件を問うタケルの言葉でカガリは用を思い出したのかキラへと向き直る。
「キラ、お前にフレイ・アルスターから話があるそうだ」
「えっ、フレイ……から?」
びくりと肩が震えるキラを見て、カガリは安心させるようにその手を取った。
「そう心配するな。フレイはキラにちゃんと謝りたい……他の皆にもちゃんとそれを見届けて欲しいって。サイやミリアリア達と一緒に食堂で待ってるそうだ」
確かに、トールやサイもいてくれるならキラとしても一つ安心できることではあった。
だが、これまでのフレイを見る限り彼等が居ようともフレイの言動が変わることはないとも思えた。
行って、また傷つくようなら行かない方が良い──キラが二の足を踏んでいる様子がタケルにもカガリにも見てとれる。
「キラ……フレイは、間違いに気づいて正そうとしている……だから、怖いかもしれないけど行ってやって欲しい。きっとキラ達にとって大切な事だと思うから」
「────うん、わかったよ。伝えてくれてありがとう、カガリ」
「あぁ」
カガリの言葉に決心した様に格納庫を後にするキラ。
それを見送ったタケルは、微妙な表情をしていた。
「カガリ、本当? あの子が間違いを正そうとしているって?」
「私にだってわからないさそんな事」
「おいおい嬢ちゃん、さっきお前坊主に──」
「私は、信じてやりたいだけだ。アイツ等ならきっと、ちゃんと互いを思いやる事ができるって」
タケルはキラを見送るカガリの横顔を覗いた。
曇りのない。疑念を抱いていない表情であった。
少なからず昨日、タケルにも影響を与えたフレイの発言に僅かながら憤りも感じていたはずのカガリが、何の疑いも抱いていない。
その姿が、タケルに1つの劣等感を抱かせた。
「(敵わないよね、ホント……僕なんてカガリ本人に否定してもらっても、完全に疑念を払拭することができなかったっていうのに。
過ちを正せる……正せることを信じる。それはきっとカガリみたいに心が強くないとできない事だ)」
「なんだ兄様、ジロジロと……」
「いや、カガリはホント強いなぁ、って思って」
「意味が分からない。ほら、兄様も行くぞ。ちゃんと見届けないと」
「わかってるよ。僕も彼女の口から聞きたいしね」
それじゃ、とマードックと一言交わし、タケルとカガリも食堂へと向かう。
「全く、こんな荒んだ戦艦内で……青春だねぇ」
1人残されたマードックはしみじみとそんな言葉を呟くのだった。
食堂にはカガリが言う通り、フレイを始めキラの友人となる一同が集まっていた。
「キラ、来るかな?」
「来るだろ。あのカガリって子が連れてくるって言い切ったし」
「まぁ、割と強引と言うか強い子だもんね。最悪は引っ張ってきそう」
「なぁ、皆。俺だけ状況が良くわかってないんだけど……」
「あー、後でね」
「トール……」
「フレイの事だからサイは関係あると言えばあるけど、本人達の問題だし、ね」
「ミリアリアまで……」
カズイ、トール、ミリアリア。
事情を知っている者達の中、1人その場におらずただこの場に呼ばれたサイが状況の説明を求めるも、どうせ当人達から聞けるだろうと3人はぶん投げた。
決意と恐怖がないまぜになった奇妙な雰囲気のまま、そわそわし続けるフレイが食堂の中央で待ち構え、残りの皆は壁際でそれを見守っている。
まるでフレイを囲うステージのような、奇妙な状態であった。
足音が近づいてくるのがわかる。やや小走りの音が聞こえ、呼ばれて急いで来たのだという事が仲間達にはわかった。
食堂手前、足音が緩やかになり来訪の時をフレイは察知した。顔を上げて真剣な面持ちへと変わっていく。
キラに直接謝る。心から……それをちゃんとサイ達に見届けてもらわなければならない。
変わらなければいけないのだ。昨日までの自分から。
「──フレイ、呼んでるってカガリから聞いて」
少しだけ、自身が無さそうな声で食堂へと顔を出したキラであった。
仕方ない反応だ。フレイが放った言葉は深く深くキラの心を抉った。
防衛本能が働いて、彼女に近づくのを怖がっても無理はない。
「来てくれてありがとう、キラ。あの子から聞いてるかもしれないけど、昨日の件……ううん、今までの事も含めて、私は貴方にちゃんと謝らなければいけないと思って、ここに呼んでもらったの」
「その、僕は別に……気にしてないから」
「待ってキラ。気にしてないなんて嘘をつかないで──お願い、ちゃんと私がしたことを認めさせて、謝らせて」
フレイは何処か怯えた様子のキラの前に一歩踏み出すと、大きく頭を下げた。
「キラ、本当にごめんなさい」
深く、深く、頭を下げる。
謝罪の一言に乗せた精一杯の謝意を動作で示す。
ゆっくりと顔を上げたフレイは、静かに口を開いた。
「私は、コーディネーターを忌み嫌っていました。病気でもないのに遺伝子を操作した人間。自然の摂理から反した、同じ人間ではない、と」
「──うん」
こうして改めて、コーディネーターという存在を否定され、またキラの胸が痛む。
やはり来るべきではなかった。そんな思いがキラの頭をよぎった。
「でも、そんな事は全然なかった」
「えっ?」
「私は、コーディネーターとちゃんと接したこともないのに……聞いただけの言葉に染まり、自分で見る事も、自分の頭で考える事も忘れ……ただ、コーディネーターだからの一括りで、間違った存在だと決めつけて」
感情が揺れ動く。フレイの懺悔は涙を伴い続いていく。
「数々の暴言を吐きました。貴方に向けたつもりじゃないと言い訳しても、私は貴方も含めたコーディネーターを一括りにして忌み嫌っていました。私達の為に必死に……心を殺して必死に戦っているキラですら……私の中に作られた、一括りのコーディネーターでしかなかったんです。都合よくキラは違うなんて言った所で、その本質は変わらない」
「一括りの、コーディネーター……」
コーディネーターとは言え、様々いる。
フレイが恐怖し本来忌み嫌っていた、ナチュラルとは隔絶された能力を持つものから、ナチュラルより多少免疫が強いだけのコーディネーターまで。コーディネートの具合は人それぞれだ。
だがフレイにとっては、全てが同じコーディネーターであった。
どんな能力だろうが、どんな性格だろうが。コーディネーターである以上は同じであった。
それが友人であるキラであってもである。
「でも、カズイが言ったの。それなら、キラと他のコーディネーターは何が違うのかって……」
「カズイが……」
「言われて、自分で考えて、ようやく気が付いたの。そこに何も違いが無いことを……」
「それってつまり、結局僕もフレイが言う一括りのコーディネーターって事?」
「ううん、そうじゃないの。
違いが無いって言うのは、ナチュラルでもコーディネーターでも、キラがキラである事に違いはない。貴方が私達の為に必死で戦ってくれている事に違いは無い……そう気づいたのよ」
それはどこかカガリがタケルに抱いた想いに通じるものがあった。
キラはキラ。コーディネーターである前に同じ人間であり、キラが必死に戦っているのはナチュラルの為でもコーディネーターの為でもなく。
ただ、“友達”を守りたかったから。
その想いに、ナチュラルもコーディネーターも無いのだと。フレイは悟った。
「そっか……そう、なんだね」
「だから、もう一度謝らせて。
貴方を“キラ”としてではなく“コーディネーター”として見ていた事。私の心無い言葉のせいで、貴方を深く傷つけてしまった事……これを深くお詫びします」
再び、フレイは大きく頭を下げた。
「本当に……本当にごめんなさい」
静かな謝意が、食堂を静寂で包み込んだ。
どれほど沈黙が続いただろうか。
どこか壊れ物のような空気が食堂を支配し、誰もが言葉を発せないでいた。
「──ありがとう、フレイ」
沈黙を破ったのはキラだった。
「キラ……?」
「誠心誠意、謝ってくれて。どんな風に思っていたのか、ちゃんと伝えてくれて」
それは言葉にこそしていないものの、フレイの謝罪を受け入れ、許しを示した言葉であった。
その言葉に、フレイの瞳から涙が零れる。
許してもらえなくても良い。ちゃんと謝りたかった。
だがどこかで。許されない事に恐怖もしていた。
キラの言葉に、フレイの胸にはやはり安堵が広がっていた。
崩れるように足を折り、その場でフレイはうずくまった。
「フレイ!?」
思わず、成り行きを見守っていたサイはフレイの元へと駆け寄る。
その肩を抱き、泣き顔を隠すように胸を貸した。
経緯は知らなかったが、震える彼女を前にして、サイは自分にできる事をしたかった。
「大丈夫だから、サイ。大丈夫……安心しただけ」
「そっか、良かった」
「フレイ、僕の方こそごめん……ちょっとしたことで、小さなことで……君にそんな気は無いとわかっているのに、弱い僕は傷ついてしまって」
「ううん……そんなことない。
悪いのは何も考えずに言葉を口にしてた私なんだもの」
涙を流しサイに縋り、それでもキラへと謝意を繰り返すフレイに、周りも少しずつ居た堪れなくなってくる。
トールが、ミリアリアが……そしてあの時フレイに怒声を浴びせたカズイも、彼女の下へと集まってくる。
傷ついたのはキラ。傷つけたのはフレイ。
だが、今この場で友に囲まれ、慰められているのはフレイであった。
だけど、これで良いのだと……カガリと一緒に後ろで見守っていたタケルは思う。
カガリが言う通り、彼女は勇気を出して過ちを認め、それを正し、前を向こうとしている。
それはこれまでの自分との決別だ。言い換えればこれまでの人生が作ってきた自分の一部を殺すことだ。
その変化を受け入れるには痛みが伴う。
それを助ける友人に囲まれて何を悪い事があるか。
「カガリの言った通りになったね」
「別に、私は信じてただけだ」
「でも、僕の知らないところで彼等とはひと悶着あったんでしょ?」
「なっ!? なんでそれを知っている」
「甘いなぁ、カガリ。その反応はひと悶着あったと自ら証明している事に気が付かないかな?」
「なぁ!? 謀ったな、兄様!」
「ううん、ホントはちゃんと彼等から聞いたよ。キラの事……考えてくれてたんだよね?」
「──まぁ、な。アイツ弱弱しくて見てられなかったし」
照れ隠しにそっぽを向くカガリが妙にいじらしくて、タケルは笑みを浮かべる。
目の前ではようやくいつも通りの調子に戻れたか、少しずつ泣き顔が笑顔に変わりつつあるフレイと、重くのしかかっていた心の重石が取れたキラが、晴れやかな笑顔を見せていた。
それは在りし日、ヘリオポリスに居た頃を感じさせる、温かくて居心地の良いやり取りであった。
『総員、第1戦闘配備! 繰り返す、総員、第1戦闘配備』
穏やかな空気は続かなかった。
突如飛び込んできた艦内放送によって空気は一転する。
警報の発令を認識した瞬間に、タケルは艦内モニターを操作。艦橋へと繋いだ。
「ラミアス大尉! こちらタケルです。状況は?」
『アマノ二尉、現在本艦は襲撃を受けている先遣隊への援護の為、戦闘宙域へ向かっています』
「先遣隊が襲撃って……敵は!?」
『イージスを乗せた、あのナスカ級です。
アマノ二尉とキラ君はMSにて出撃準備を』
「了解です。急ぎ向かいます」
モニター通信を切ると、タケルは急いで振り返る。
見れば戦闘配備となっているのに彼らに動く気配が無かった。
「キラ! 急いで格納庫に!」
「うん、わかってる! フレイ、大丈夫だから。僕も行くし、タケルだって、フラガ大尉だっている」
動く気配がないキラに訝しんだタケルはキラの下まで走った。
「キラ、急がないと……って、フレイ・アルスター?」
見ればキラに縋るようにして、フレイは全身を震わせていた。
「アマノ二尉」
「サイ君、一体彼女はどうしたの?」
「先遣隊には、フレイのお父さんがいるんです。それで、さっきの話を聞いて動転しちゃって……」
この非常時に……余計な手間を取らせるなと叫びたくなるも、タケルとて気持ちは良くわかった。
大事な家族の危機となれば、気が動転するのも仕方ない。
1つ息を吐いて気持ちを落ち着けると、タケルは勤めて冷静に言葉を紡いだ。
「サイ君達は早く艦橋へ。彼女の事を想うなら戦闘に集中するんだ。キラも、出撃して余計な事に気を取られてたら堕とされるだけだよ。さぁ、早く行って」
「わ、わかりました」
「うん……わかった」
サイとキラが動くのを皮切りに、トール達も急いで艦橋へ向かう。
タケルは艦内通信でマードックを呼び出した。
「マードック軍曹。アストレイをカタパルトまで誘導しておいてください。僕が行ったらすぐ出撃できるように」
『そのくらいはしておくが、急げよ!』
「わかっています」
通信を切って、タケルはカガリへと向き直った。
「カガリ、彼女をお願い。側にいてあげて」
「わかっているさ。兄様も早く格納庫へ」
「──うん。
フレイ・アルスター。家族を失う怖さは、その怯え様を見れば良くわかるよ。けどね……戦場にいる以上、絶対は無い。僕達も全力で戦うけど……覚悟だけはしておいた方が良い」
「兄様、何で!!」
「必要な事なんだ! 失った時、壊れない為にも」
うずくまるフレイは既に周りの音も耳に入っていないのだろう。
小さくなって身体を震わせるばかりだった。
その怯え様──最悪を想定した時、とても耐えられるとは思えない危うさをタケルは感じた。
「戦場で命に係わる事なんだ。軽々しく大丈夫だなんて約束はできない……だから、守れなくてもキラだけは恨まないであげて欲しい」
それだけ告げると、タケルも急いで格納庫へと向かう。
「フレイ、ここでうずくまってても仕方ない。私の部屋にいこう。一緒にいてやるから」
「それじゃあ……私には待ってることしかできないの……」
「フレイ! 今は何も考えないで……気にしちゃいけない」
「お願い、お願いだから……私からパパを奪わないで……」
涙ながらに懇願するフレイを見るのがやるせなくて、カガリは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる事しかできなかった……
一難去って、また一難。そんなお話。
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