機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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先に告げておきますが、早合点はしないでください。

難産だけど、気合い入れて書きました一幕。どうぞお楽しみください。


PHASE-46 代償

 

 

 戦場となっているダーダネルス海峡付近の海域にて。

 海中へと身を潜めたアークエンジェルの艦内には重苦しい空気が流れていた。

 

 

 先刻、一時浮上したアークエンジェルより出撃していったフリーダム。

 そして今戦場で相対しているであろう、見知った者達同士の戦いを想えば、それも当然の空気と言えよう。

 

「はぁ……」

 

 特に、キラやタケルとは兄弟でありアスランとは互いを想い合う中であるカガリにとっては辛い現実であった。

 

 元より彼女がオーブの代表を追われる様な事態にならなければこんな事にはならなかっただろう。

 後ろ暗い思惑と工作によって成った事とは言え、それを想定できず対応できなかったのは偏に自身の不徳が齎した事だ。

 

 その結果が今。となってはやはり、カガリは悔やんでも悔やみきれぬ事であった。

 

「カガリさん、御心配ですか?」

「ラクス……あ、あぁそれはまぁ、な……当然だ。兄様達が敵となって撃ち合うなんて事……考えても見なかったし」

「私たちが良く知る者達同士の戦い。何も思わぬわけはないですね」

「ラクスは、心配じゃないのか?」

 

 普段と特段変わらないように見えるラクスの雰囲気に、カガリは不思議そうに問いかけた。

 キラだけでなく、タケルやアスランはラクスにとっても十分に強い縁のある人だと言えるはずだ。

 

 アスランとは元婚約者で、キラとの関係性が出来上がるまでは将来を約束された仲として好いていた筈。

 タケルについてもキラの兄としての関係性は勿論の事、オーブの暮らしの中では子供達のためにと何かと世話を焼いてくれた存在である。

 情に厚く、なおかつ子供受けが良い彼は何かにつけてマルキオに援助を願い出ていた。ラクス自身、マルキオと共に深く感謝している。

 

 ラクスが強い事は良く知っているが、この状況で澄ました顔で居られる彼女に、カガリは驚嘆を禁じ得なかった。

 しかし、そんなカガリの疑問に、ラクスは首を振って返した。

 

「カガリさん。私もまた取り繕っているだけなのです。

 見知った者達同士が命を懸けて撃ち合う……そんな事にはならないだろうと。そうして私はタカを括り、ただ平和を享受し、安穏としていた罰なのかもしれません」

「そんな……それじゃまるでラクスには平穏など許されないみたいじゃないか」

「デュランダル議長は、暗にそう言いたかったのでしょう」

 

 ラクスの言葉に押し黙るカガリ。

 確かにデュランダルが言う事には、その意図が見え隠れしていた。

 姿をくらましたラクス・クライン。プラントに居る皆を見捨てて平穏を選んだ彼女を非難する意図が。

 そんな身勝手な、ともカガリは思うが、逆を言えば彼女が戦後そのままプラントに居たのなら、今の世界はまだ平和だった可能性もある。

 全てはたらればの話だが、そうなりうるだけの影響力がある事は、カガリもデュランダルも共通の見解だろう。

 何とも言えず、カガリは顔を顰める事しかできなかった。

 

「ふふふ、そんな顔しないで下さいな。私は何も、後悔などしていないのですから。

 オーブで過ごしてきた時間は、私にとってかけがえのない大切な時間ですわ」

「だが……」

「それに、私たちが今できること等、信じて待つ事くらいでしょう? なら、信じて待っていましょう────キラが、何とかしてくれることを」

 

 そんな人任せな、と口を開きかけて、カガリはまたも押し黙った。

 やはり彼女の言葉は強い。信じさせる何かを持っていて、またも言い募る事ができず、カガリは静かに頷いた。

 いくら騒ごうとも、今自身にできる事は何もない。

 カガリのアカツキはモルゲンレーテにあるし、アークエンジェルに搭載されているMSにはアイシャが乗るルージュがあるが、あれで鉄火場となった戦場にノコノコ出ていくこと等、カガリに許されるはずもなかった。

 

 待つしか、ないのだ。

 

「それに、今のキラは以前よりずっと強いですから。だから、大丈夫です」

「えっ? どういう事だラクス?」

 

 何ともなしに述べられた奇妙な根拠に、カガリは問い返した。

 キラが卓越したパイロットとしての技量を持っている事は周知の事実だ。それは以前からである。

 その以前よりも、ずっと強い? 

 知る限りではキラに訓練をしていた覚えは無く、カガリは首を傾げた。

 

「カガリさんは直接お聞きになったのではありませんか? キラがサヤと交わした、大切な約束を」

「約束? なんだ、それ?」

 

 そもそもキラとサヤにそれ程の接点があっただろうか。カガリは訝しんだ。

 う~ん、とわかり易く唸ってカガリは思考を巡らせていく。

 

「あっ、もしかしてあれか?」

 

 記憶を掬い、辿り、そうして行きつく先は、2年前のクサナギでの一幕。

 タケルとキラ。2人の出生と関係を聞かされた時の事である。

 

 

 “うん。だからね────今度はタケルのために、僕が君を守るよ”

 

 “サヤとて父上に育てられたアマノの軍人。自分より弱いものに守られる程無様な事がありましょうか。私を守ると嘯くのであれば、せめてMS無しの格闘術でサヤを圧倒できる様になってからお願いします”

 

 

 あぁ、と嘆息しながらカガリはそれを思い出した。

 なし崩し的に軍人となり、そうしてMSで戦う事しかできないキラが、不遜にも軍人として遥か高みにいるサヤを前にして発した言葉。

 それに不服を示して、無理難題と言わんばかりな条件を突きつけたサヤ。

 

 ラクスはそれを、サヤの生存を知ったキラより聞き及んでいたのだろう。

 

「サヤが生きているとわかり、タケルが抑えられずザフトへ向かってしまったように。キラもまた、約束を果たすために随分と意気込んでいました」

 

 MSの事だけではない。

 今度こそと誓ったキラはインドア派な己を捨てて、アスランに指南してもらい、戦闘訓練を開始したのだ。

 一朝一夕で見につくものでは無いが、キラは一段と逞しくなったとは、マリューの談である。

 そのやる気がすぐ隣にいるラクスではなく、生きていたサヤの為と言う所は、ラクスとしては面白くない所だが、それでもキラが以前にも増して、身も心も強くなっている事は確かであった。

 

「今のキラはきっと、以前よりもずっと強くなっていると思います────正直、サヤに嫉妬してしまいますわ」

「あ、あはは、それはまた……サヤも災難だな」

 

 いつぞや、キラとの関係性を問われラクスに冷たい視線を向けられたサヤ。

 あの時の事を思い出し、カガリは僅か身震いした。

 普段から温厚な者が怒った時が一番恐ろしいとは良く言うが、彼女ほどそれが当てはまる者もそういないだろう。

 

「だから、大丈夫ですわ。今のキラならきっと……成すべきことを果たしてくる筈です」

「そう、だな。きっとキラなら。兄様達の戦いを……」

 

 大切な者達の撃ち合いを止めてくれるだろう。

 疑いなく信じる事も出来ないが、悲観ばかりするべきではないと、カガリは一度被りを振って不安を振り払った。

 

 そんな2人を、マリューとナタルは静かに見つめる────言い知れぬ不安を、胸に秘めながら。

 

 

 

 悪夢が現実とならない事を、声に出さずに願いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦場は苛烈となり激しさを増していく。

 

 ミネルバを墜とさんとする連合の勢いは凄まじく、光に群がる虫の様に次々とウインダムの部隊が攻撃を仕掛けていく。

 

 それを必死でありながらも捌けるのは、最新鋭の戦艦が成せる業だろうか。

 ミサイル、対空防御、そして主力となるビーム砲。

 多くの迎撃兵装がフル稼働となり、必死にウインダムを追い払っていくミネルバ。

 甲板に居る2機のザク。レイとルナマリアもオルトロスを次々と放ち、幾つものウインダムを撃墜している。

 

「2時の方向、MS数4!」

「レイ、ルナマリア、何としても退けて頂戴!!」

「了解!」

「墜とせて1機ですよ!!」

 

 数の暴力にどうにか抗い続けるも、それは薄氷を渡る心地である。

 外せぬ状況で次々とオルトロスを撃っては、ルナマリアはウインダムを墜としていく。

 これも訓練の賜物と言う所であろうか。射撃が苦手と公言する彼女はもうそこには居なかった。

 

 そこから少し離れた所では、アビスと撃ち合うインパルス。

 そして手負いの状態でありながら、その機動性でカオスを翻弄し続けるセイバー。

 近くの陸地ではハイネのグフがガイアと互角の戦いを繰り広げていた。

 

 

 

 そんな中、連合艦隊の方でも動きが見られる。

 

 否、正確には動きと言うより騒ぎという方が適切かもしれない。

 

 

「3番艦被弾! 航行不能!」

「6番艦、轟沈! 7番艦より救助要請!」

 

 

 次々と上がる被害報告。

 それが何を意味するものか。それは誰もが理解して居ながら、その理由には誰もが理解の追いつかぬ現実であった。

 

 全ては、たった4機のMS同士が巻き起こす戦いに、巻き込まれているだけなのだから。

 

 

 

 

「キラぁああ!!」

 

 放たれる。シロガネのキョクヤによる閃光。

 狙われたフリーダムはそれを寸での所で躱すが、追撃にディザスターが迫る。

 

「墜ちなさい!」

「やらせるか!」

 

 しかし、エスペラントがディザスターを急襲。

 ビームライフルでシロガネに牽制の射撃を放ち退かせると、ビームサーベルでディザスターに切りかかった。

 

 瞬時、フリーダムはフルバーストの体勢。

 エスペラントがディザスターと距離を取った瞬間に、2機をロックオン。

 幾つもの光条が2機に迫るが、それを高い機動性で回避。

 その背後で、連合艦隊の1隻がまた1つ沈黙した。

 

 

 状況は正に混沌を窮めていた。

 

 

 キラ、タケル、アスラン、ユリス。

 ぱっと見では4人の戦いは2対2。少なくとも、状況から両陣営のトップ達はそう結論をづけている事だろう。

 

 しかし、その内では各々の思惑が絡み合う。

 

 シロガネを駆るアスランの目的はミネルバの撃破。

 ひいてはその戦果を以て、オーブの立場を守る事にある。

 その為には、ユリスに好き勝手されるわけにもいかず。アスランはオーブ軍を狙うキラを相手にしながらユリスの動向にも常に意識を割かなければならなかった。

 そして、それはユリスも同様。同じ戦功目標としてミネルバを掲げるが、彼女とて連合内の立場を考えると、アスランに好き放題させられない。

 陣営を同じくしながらも、味方となり得ない2人はただ肩を並べるだけに留まり、連携も無いままフリーダムとエスペラントを相手取る。

 

 対して。キラの狙いは戦場に居るオーブ軍の無力化だ。

 ここから遠く離れたオーブより派遣された遠征軍。物資も万全と言えるほどではないだろう。

 搭載されたMSが全機戦闘不能状態にまで陥れば、戦闘継続は厳しくなり国へと帰還する他ない。

 オーブにミネルバを討たせないまま、それを成すことがキラの戦功目標である。言ってみれば、ミネルバを守る為ではないし、連合を討つ必要もない。

 であれば、キラにとって戦うべきはシロガネを駆るアスランだが、戦場にタケルとサヤが居る以上、ユリスを放置する事も出来なかった。

 結果、エスペラントを援護する形でシロガネとディザスター両機の完封を狙う。

 そしてタケルはと言えば、サヤが居て、今や仲間と言えるミネルバの皆を守る事が第一目標だ。

 その為にはキラと協力してアスランとユリスを相手取りたいが、単独で介入してきたキラの行動に理解が及ばない為、全幅の信頼まではおけない。

 何をするかのかわからない不安が、結果的にタケルの中でキラを味方へと落とし込むことはできずに、ユリスとアスランを相手取る事になっていた。

 

 2対2の盤面でありながら、4人共に味方の居ない戦いとして、現状を認識していた。

 

 そうして出来上がるは苛烈に撃ち合う4機の構図。

 4人共に、敵として定めている2機へと苛烈に責め立て仕留めに掛かる熾烈な争い。

 

 交錯する光の刃が、戦場にまたも火花を散らした。

 

 共鳴する様にSEEDへと陥った4人は、その常人には埒外な戦闘能力を以て誰も入り込めない領域の戦いへと突入していく。

 

「うぉおお!」

 

 突撃していくシロガネ。

 それを良い囮と言わんばかりに、ディザスターはシロガネを隠れ蓑にして、その背後からシュヴァイツァでエスペラントを狙った。

 

「ちぃ!」

 

 エスペラントが回避すると同時に、シロガネはビャクヤでもってエスペラントに切りかかる。

 

「させない!」

 

 機体を仰け反らせて躱したエスペラントと入れ替わる様にしてフリーダムが前に出ると、2本のサーベルを出力。

 そこから接近戦を囮にしてバラエーナをシロガネに浴びせる。

 

「くそっ……だが!」

 

 回避間に合わず、シロガネは鏡面装甲で光の奔流を受け流しながら後退。

 しかし、同時にディザスターのライフルとビャクヤによる閃光がフリーダムのバラエーナの砲塔を1つ潰した。

 爆発の衝撃に姿勢を崩すフリーダム。

 

「今だ!」

「仕留めさせてもらうわ!」

「やらせるか!」

 

 好機を見て動き出す2機。

 そこへお返しと言わんばかりに、エスペラントがガラディンの散弾砲を撃ち放つ。

 ディザスターは回避しきって見せるが、前面に出ていたシロガネはビャクヤの片方を撃ち抜かれる事となった。

 

 

「ちぃ、この程度!」

「有効打にはならないわよ!」

「逃したか……でも次こそは!」

「仕留める!」

 

 

 息を吐く暇もない互角の戦い。

 一歩も引かない攻防は、完全な膠着状態を作り、戦闘の趨勢を決めかねていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 閃光が奔る。

 

 それを直前で察知して、機体を翻した。

 すぐさま反撃にとライフルを放つが、その頃には既に敵が海中へと潜ってしまう。

 

 イタチごっこで繰り返される戦い。

 

 暴風の様に荒れ狂う4機とは対称的に、海中に潜みながら攻撃を仕掛けてくるアビスと戦うシンの戦場は静かで、彼自身もまた酷く冷静であった。

 

 次々と入ってくる状況報告。

 ミネルバは被弾を増やしていき、レイとルナマリアのザクは迎撃を損ねて機体の一部を損傷していた。

 

 ヤヨイのセイバーは言わずもがな。

 ユリスのディザスターによって腕を切り飛ばされた状態のまま、カオスと戦っている。

 

 万全な状態でミネルバを守れるのは己のインパルスとハイネのグフのみ。

 そして先のハイネの指示により、手負いでカオスと戦うヤヨイを助けろと言われて、シンはどこか……何かが胸の内に漲る感触を得ていた。

 

 それは求められている事と同義であった。

 それは認められている事と同義であった。

 

 自身は強くなったのだと。そう言ってくれた彼の言葉を証明するものであったのだ。

 

 自然と、シンはあの日と同じ感覚を手繰り寄せていた。

 縋ることなく、求むることなく。ただ願うは、自身が強くなりたいと願ったその理由を本当にするために。

 

 二度と、大切なものを失いたくないと強く願ったその想いは、彼の奥底に秘められた能力を開花させる。

 

 

 ──種が、開いた。

 

 

 戦場の全てが見える様なクリアな思考。

 放たれるアビスからの砲火を躱しながら、ビームライフルで次々とウインダム部隊を撃ち抜いていく。

 

 以前の様に鮮烈な、目を引く戦いではない。

 知覚する全ての情報から、最速、最短、最効率を求めた。正に理に適った動きの下、インパルスは敵機を迎撃していく。

 

 ふと彼が捉えるのはオーブ軍のMS──カゼキリ。

 フリーダムが仕留める事ができずに戦線に残って居た、ババ小隊であった。

 

 オーブ……嘗ては憎んだ国。

 しかし、今のシンに敵である事以外の感情は湧いてこなかった。

 何も思わぬ無感情のまま、ウインダムとは比べるべくもない脅威であるカゼキリへと狙いを定めて、インパルスを走らせる。

 

「隊長、ザフト機が!?」

「真正面からとは、血迷ったか!」

 

 防御も回避も想定していない様な突撃姿勢に、ババ小隊は固まってインパルスへとビームライフルを放った。

 しかし、SEED領域下におけるシンは射線すら見えている様で、すり抜ける様に僅かな挙動で光条を回避して見せる。

 

 スラスターを全開。瞬発力を増したインパルスはそのままババ小隊へと肉薄し、すれ違い様に2機のカゼキリを切り捨てた。

 

 そのまま振り返りビームライフルの1射で3機目も……と言う所で下方より放たれるアビスの兵装一斉射がインパルスを襲う。

 迫りくる光の束を止む無く回避したインパルスのコクピットの中で、シンは苛立たし気に海面の敵機を睨みつけた。

 

「ちょこまかと逃げの一手な奴が……煩わしい」

 

 静かに苛立ちを吐き出しながらも、シンの思考は黒い方向へと染まっていく。

 やはり未だ発展途上。SEED時における思考と感情の制御が覚束ないシンは、容易に冷静さを捨て怒りへとシフトしていく。

 感情を乗せた戦いは雑になると、(タケル)からは散々言われてきているが、だがこの感情こそがシンの強さの源泉なのだ。

 そう簡単に、抗えるわけもない。

 

「ミネルバ! ブラストシルエットを!」

 

 呼び出すは現状を打開するための一矢。

 主兵装がライフルとサーベルのみのフォースインパルスでは圧倒的に取れる手立てが少ない。

 水中でも運用が可能なレール砲やミサイルランチャーを備えるブラストシルエットで、アビスを仕留めに掛かる算段であった。

 

「メイリン、急げ!」

『は、はい!!』

 

 鬼気迫る声に、慌てたようにミネルバが動き出す。

 射出されるシルエットフライヤーを確認すると、シンはビームライフルで周囲のウインダムを落としながらフォースシルエットをパージ。

 相対速度を合わせてブラストシルエットと即座にドッキングし、インパルスは白と緑を基調とした装甲色へと変化した。

 

「よし、こいつなら!!」

 

 推力が下がった分、海面でのホバリング戦闘になるがそれでも機動性は十分である。

 海中に居るアビスが顔を出すタイミングを見計らいインパルスはケルベロスを構えた。

 

 対して、アビスに乗るアウルはセンサーの情報を把握し、インパルスが海面付近にまで高度を下げているのを確認。

 勝負を焦って降りて来たと、アウルもまたインパルスへと海中より接近していく。

 

「そぉら、これで──」

「ここだぁ!!」

 

 アビスが海中より飛び出し襲撃を掛ける寸前。

 海中に居るアビスへと、シンはブラストシルエットのデリュージー超高初速レール砲を発射。

 実弾故にVPS装甲がダメージは無力化するだろう。だが、機体を襲う衝撃は殺せない。

 それは、インド洋でシンが身をもって体験している。

 

 飛びだそうと上向いたアビスを弾き返すように、レール砲がアビスに直撃し、青い機体は蒼天の空の下に曝け出された。

 

「なっ!? やばい!!」

「墜ちろぉお!!」

 

 ケルベロスより放たれる極太の光の奔流。

 瞬間的に危機を察知したアウルが機体を翻すが、水中戦闘の要である両肩のシールドが、ケルベロスによって喰い千切られた。

 

「くっ、ざけんなよ、てめえ!!」

 

 憎まれ口を叩きながらも、彼我の実力の差と状況の不利を叩きつけられたアウルは、海中へと逃げ込む。

 無様な背中を晒しながら機体パラメーターを見れば、失ったシールドだけに留まらない損傷箇所が見てとれた。

 たった一合の攻防ながら、ケルベロスによって受けたアビスの損傷は大きく、苦悶の表情を見せながらアウルは機体をジョーンズへと向けることしかできなかった。

 

 

「はぁ……はぁ……よし、これで」

 

 

 面倒な相手を退けたと、シンは次なる戦いに意識を向ける。

 アビス退けたとは言え、それは数にして1機。

 空中を見上げれば、未だ好き放題にミネルバへと向かって行くウインダムの部隊の姿があり、その後方からは半数近く失われてはいても健在な艦隊が援護射撃を撃ち続けている。

 

 またも、シンの感情は怒りへと振り切れていった。

 全てを失い、今再び得た大切な場所。大切な人達。

 

 喪ってなるものかと、少年はその腕に意志を宿して操縦桿を握った。

 

「お前達の好き勝手に、させるもんかぁああ!!」

 

 怒りの咆哮を響かせて。海上へと嵐の様な砲撃が幾度となく放たれるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スティング・オークレーは恐怖に塗れていた。

 

 相対するは因縁深い紅い機体。

 それが未だ嘗てない程の実力を見せて、彼を翻弄してくるのだ。

 

 セイバーは片腕を失っている。

 MSとしては本来、兵装を扱うマニピュレーターの損失は戦力外と同義である。

 人型とは言えMSは兵器。機械仕掛け。片腕が無くなれば重量バランスが崩れる。本来人間であれば脳が自然と制御する躯体のバランスを、MSは機械的に制御してやらなければ、まともな動きは続けることは難しい。

 特に、空中戦の様に絶妙なバランスの上で成り立っている戦いを繰り広げるなら尚更だ。

 だというのに、眼前の敵の動きは衰えるどころか、むしろキレが増している。

 一挙手一投足をこなす度に、その動きを洗練させ、さらなる次元の高いものへと変貌させていく。

 

 変形して距離を取ったかと思えば一直線に向かってくるセイバーに、スティングはビームライフルを向けた。

 刹那、回避軌道に移ると、セイバーのアムフォルタスプラズマ収束砲が火を噴く。

 奇跡的なタイミングで躱した攻撃に気を取られれば、眼前にはMSに変形したセイバーが迫っていた。

 

「がぁっ!?」」

 

 衝撃は骨身に染みる様で、スティングの身体を大きく揺さぶる。

 恐らくは、速度に任せて蹴られたか、或いはシールドで殴打されたのだろう。

 カオスはくるくると姿勢の制御を失い、海面に向かって落下していた。

 

「反応も……操縦技量でも……俺が負けてるってのか!?」

 

 スティングは憎々しいと言わんばかりに声を荒げた。

 そんな事が認められるか。

 自分達は戦うために生きている。戦う事でしか生きる事ができない存在。

 それが、無様に負ける等、あってはならない。

 

 必死に己を叱咤して機体を持ち直したスティングは、向かい来るセイバーを睨みつけた。

 

「来いよ、紅いの! 俺は負けねえ!」

 

 ビームサーベルと両脚部に隠されたビームクローを出力。

 片腕を失ったセイバーには厳しい白兵戦。パイロットとしての差を、機体状況の差で埋めて勝負に出た。

 

「ファントムペインは……負けられねえんだ!」

「これで、仕舞いです!」

 

 片腕にサーベルを握らせて、ヤヨイもセイバーを走らせる。

 

 激闘の幕引きをするかのように、2機は最大戦速でぶつかり合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 死闘は未だ続いていた。

 

 SEEDを発現した者同士の熾烈な戦いは、互いに武装をいくつか失いながらも決して譲らず。

 しかし着実に終わりへと近づいていた。

 

 SEEDの長時間の発現は、脳に多大な負荷をかける。

 普段は使われていない脳の機能を、人間の意識領域に引き上げるそれは、普段使わない筋肉を酷使する様なものだ。

 ある程度意識的に至れる彼らにおいても、その負荷は決して変わらない。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 ましてや、命を取り合う様なギリギリの戦い。

 例えSEEDを発現していなくても、そんな戦闘を長時間続けては心身を摩耗させる。

 止まる事なく続く死闘は、4人の脳裏に“疲労”の2文字を浮かび上がらせていた。

 疲れが出れば集中は途切れる。決定的な隙こそ見せていないものの、それぞれが被弾を増やし、機体に損傷を刻み込んでいた。

 

「そろそろ、終わらせてみせる!」

 

 奮起を見せるはタケルとエスペラント。

 この中では恐らく、フィジカル的に一番自身を鍛え上げている人間だろう。

 疲れを跳ね除け、ここ1番の集中を見せてシロガネに狙いを定めた。

 

「ちぃ! 嘗めるな!」

 

 対して、アスランも応じる。

 大戦後は隠居生活であったアスランだが、それでもいざという時カガリの助けになるためにトレーニングは欠かしていない。

 仕留めに来るタケルと同じく疲労を忘れ集中力を増して、エスペラントに追従した。

 

 ぶつかり合う両者。

 エスペラントのビームサーベルとシロガネのビャクヤが火花を散らした。

 

 瞬間────アスランは悪寒に震えた。

 

 エスペラントの背後。背負われた大型バーニアの影からフリーダムが追従してきていたのだ。

 連携ではない。これはあくまで、タケルが勝負に出た瞬間にキラが乗っかっただけ。

 だが、瞬時になされたその判断は、2門のシュヴァイツァを失い射撃兵装がビームライフルのみとなったディザスターでは止めるに及ばず、結果一足遅れてユリスも追従することとなる。

 その一拍の遅れが戦いの明暗を分けた。

 

 ここまでの戦いでバラエーナと2本のビームライフルを破壊されていたフリーダムは、迷わず2本のサーベルを出力。

 エスペラントの背後から回り込む様に駆け抜けて、光の刃を一閃。シロガネのメインカメラを切り飛ばす。

 続いてニ閃。白銀の腕が宙を舞った。

 

「なっ、くぁ…………キラぁ!」

「ごめん、アスラン」

 

 戦闘継続は不可能。その状態にまで至ったであろうシロガネを、フリーダムは蹴り付けて吹き飛ばした。

 

「キラ!! l

 

 シロガネを仕留めたフリーダムの背後を、ディザスターが急襲する。

 タケルはエスペラントで体当たりを掛けながらフリーダムと入れ替わると、ディザスターのサーベルをシールドで受け止めた。

 

「ちっ、邪魔よ兄さん!」

 

 しかし、勢いのついたディザスターを受け止めきれず、エスペラントは海面に向かって叩き落とされる。

 即座にユリスはネオへと通信を繋いだ。

 シロガネが堕とされた以上形勢は不利。フリーダムを抑えられなかった己の失態ではあるが、撤退の進言をするしかない。

 

 だが、ユリスの考えは逆に飛ばされてきたネオの通信によって覆される。

 

「ユリス! スティングとステラを呼び戻せ、撤退だ!」

 

 瞬間、ユリスの血の気が引いていく。

 ユリスとアスランだけの話ではない。既に状況は連合側の不利へと傾いていた。

 彼らの死闘の余波で被害を受けた艦隊。

 更にはSEEDの発現に至ったシンとヤヨイによって、ミネルバへと攻勢をかけていたウインダム部隊もかなり数を減らしている。

 

 そして────

 

「スティング……」

 

 ドクンと脈打つ心臓。

 競り上がる喪失への恐怖は、奪うことしか知らないユリスにとって経験の無い領域であり、その衝動に抗うことは難しかった。

 

 ミネルバの近くで戦うカオスとセイバー。

 体勢を崩したセイバーをカオスが仕留めにかかり、そしてそのカオスを仕留めようと海面から狙うインパルスの姿があった。

 

「いや、ダメっ!!」

 

 似つかわしく無い悲鳴をあげて、ユリスはディザスターを走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 SEEDによって加速した思考の中で、ヤヨイ・キサラギは呆けていた。

 

 十分な勝算。確信をもってカオスを仕留めにかかったその刹那、セイバーを衝撃が襲った。

 

「(な、んで…………)」

 

 それは不運な事故だろうか。それとも定められた運命だったのだろうか。

 ミネルバへと降り注ぐ艦隊からの射撃。その流れ弾の1つがセイバーの背後を穿っていた。

 完全に意識外からの攻撃。予期せぬ事態にはSEED下においても思考が回らないらしい。

 

 迫り来るカオスはビームサーベルとビームクロウを出力し完全に仕留める体勢。

 制御を失ったセイバーでは受けることも躱すこともできないだろう。

 

「ヤヨイぃ!!」

 

 通信越しに聞こえてくる、同期の少年の声。

 眼科の海面から、彼女を救うべく砲塔を構えたインパルスであるが、そこに横合いから閃光が襲い、インパルスの攻撃を遮った。

 

「(ごめんなさい、シン…………どうやら私は、ここまでの様です)」

 

 死を確信した走馬灯の中で、ヤヨイは遺されるであろう仲間達を思い謝罪の言葉を浮かべる。

 あんな結果はゴメンだというのに。もう大切な人にそんな想いをさせたくなかったのに。

 

 自分は“また”、あの日を繰り返してしまうのだと。

 

 

 

 

 

 

 衝撃が襲った。

 

 

 

 

 

 それは予期したものよりずっと小さく、だがどこか重みのある音を響かせて、彼女の身体を揺さぶった。

 

 何が起こった…………ヤヨイが意識を状況の確認に向ける。

 セイバーのメインカメラが写すその映像に、彼女は目を大きく見開いて驚愕する。

 

 

「あっ、そ、そんな…………」

 

 

 彼女の眼前には光の刃に貫かれた純白の機体が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 タケルは、心の底から安堵していた。

 ユリスがスティングの状況に恐慌した時。同じ遺伝子の繋がりが彼女の恐怖をタケルにももたらした。

 そのおかげでセイバーの状況に気がつく事ができ、こうしてギリギリのところで駆けつける事ができたのだ。

 

「間に、合った…………良かった。ヤヨイ、大丈夫?」

 

 彼女が無事であることを問うが、通信越しに聞こえる声はノイズだらけで何も聞こえず。恐らくは受信機が破損しているのだろう。

 タケルは仕方なく、言いたいことだけ告げることにした。

 

 残る時間は、そう多く無いのだから。

 

「ヤヨイ、シン達を大切に思うのは良いけど、皆も君の事を大切だと思っていることは理解してあげて。君が犠牲になって皆を守る様なこと、誰も望んじゃいないんだから」

「いや、いやです、そんな!!」

 

 ヤヨイの元へ、ノイズ混じりに届く通信。

 それにヤヨイは首を振ることしかできなかった。

 否と答えたいのでは無い。ただ目の前の現実を受け入れられなかったのだ。

 

 

 

 “最愛”の兄を、こんな形で失うなど、彼女が決して耐えられるはずないのだから。

 

 

 

「後これだけは絶対────ちゃんと幸せになる道を見つけて。それが僕の願いだから」

「いや! いやですそんな! お兄さ──」

 

 無情にも、彼女の目の前でエスペラントは爆散した。

 

 

 

 戦場では取るに足らない。

 幾つも咲くはずの戦火の花火。

 

 それが何故か、皆の目を引く大きなものに映っていた。

 

 

 

「タケル……そん、な」

 

 信じられないと動きを止めるキラ。

 

「な、なんで…………なんでだよ」

 

 理解が及ばず自問するシン。

 

「隊長…………」

「くっ、そんな」

 

 ルナマリアとレイも、苦悶に顔を歪める。

 

「あのっ、バカ野郎が!!」

「クルース……」

「タケル、さん……」

 

 ハイネも、タリアも、シグナルロストを確認したメイリンも。

 

 彼を知る皆が、それを信じられずに目を見開く。

 

 

 

 

「あっ、あぅうっ──────お兄様ぁああああ!!」

 

 

 

 少女の慟哭は、悲しき戦場に響き渡った。

 

 




もう一度言いますが、早合点しないでください。
本作の主人公ですからね。この作品、マスクドライダー龍騎じゃないです。
まぁそれでも、色々と賛否ありそうな流れですかね。

作者の課題である戦闘描写を頑張ったつもりの今回。
いや、やっぱり難しいんですよ。特に運命編から戦闘に関わるキャラが多いので(ハイネ全然描けてないし)

さて、さて、今後どうなるのやら。作者も書いていくのがどんどん楽しくなります。
どうぞお楽しみに。

感想をいただけると気持ちが上がりますので、応援がてらどうぞよろしくお願いします。

あと、感想欲しさではないのですが、作者の執筆は映像を頭の中に思い描いて文章にしていく感じでして。
特に会話シーンにおいて声優の声はかなり重要な要素なのですが、作者の中でサヤちゃんの声だけがどうにも頭の中でイメージが固まらなくて聞こえなくて。
有識者の読者様におかれましては、サヤちゃんのイメージにぴったりな声優、あるいはキャラクターでも良いです。
作者の想像を膨らませるために、読者様が抱くイメージを教えていただければと思います。
どうぞよろしくお願いします。
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