機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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大きな事があると、こうしてそれぞれを描くだけで一話使う。
仕方ないね。関わる人多すぎるし。


幕間 悲しみは寄り辺となりて

 

 

 オーブ首長国連邦。

 

 オノゴロのとある場所に、1人の女性が佇んでいた。

 

 

「これはまた…………派手にやられたわね」

 

 瓦礫に覆われた、嘗ては立派な屋敷があったであろう跡地。

 そう、タケル・アマノの自宅があった場所だ。

 

 カガリが襲撃を受けた日からしばらく経っているが、跡地は手付かずのままでいる。

 持ち主であるタケルもナタルも、今はオーブにいないのだから当然といえば当然だろう。

 

 そんな、襲撃の傷跡が残る場所へと彼女、エリカ・シモンズは訪れていた。

 近くでは瓦礫の撤去作業に入っているモルゲンレーテのスタッフ達もいる。

 理由は一つ。タケル・アマノの仕事の回収である。

 

 ワーカーホリックな彼が自宅でも散々職務に励んでいたのは周知の事実だ。

 彼の自宅であるここには、エリカすらまだ聞き及んでいない、開発関連の様々なデータが眠っている。

 部外者に盗まれることなどあってはならないし、彼が不在である今、できる限りそれらを引き継いで開発を進めるべきだとも考えたわけだ。

 世界とオーブが、今の様に不安定な状況にあっては、彼女達の仕事もまた多くなるのである。

 

「シモンズ主任」

「──見つかったかしら?」

 

 1人のスタッフが駆け寄ってきてエリカは表情を固くする。

 駆け寄ってきたスタッフは、瓦礫の中でも比較的無事な状態を保っていた一つの端末を見つけ出していた。

 

「これはどこに?」

「恐らくは仕事部屋かと……残骸となった別の端末も近くにありました。そちらは今、無事なデータがないか確認中です」

「そう、わかりました。他に目ぼしいものがなければ私達は引き上げましょう。何人か残して国防軍と瓦礫の撤去作業を共同で進めさせておいて。他にも何か見つかれば回収しておきたいわ」

「わかりました。ではその様に」

 

 指示を出したエリカは、そのまま端末を社用の車両の中に持ち込み解析にかける。

 抜き出したデータを閲覧していけば、やはりと言うかそこにはエリカの想像に及ばない様な数々のデータが保管されていた。

 

 呆れ半分。嬉しさ半分。ついでにおまけで怒りもくれてやりたい気分となってエリカは嘆息した。

 タケルとは開発仲間として長い時を過ごしてきた間柄だ。こんな面白いデータを自分にまで秘匿しているとは許して置けないと言うところだろう。

 

「フォルダ名のレヴァリィ────確か空想とか夢想とか、そう言った意味だったかしら。

 なるほど、ずいぶん悔しかった様ね。ザフトの機体に先を行かれたのが」

 

 思わずエリカは小さな笑みを浮かべた。

 己の分野においては根っからの負けず嫌いなのがよくわかる。

 徹夜明けの深夜テンションというか、どこかタガの外れた勢いの様なものを、エリカはこのデータから感じとっていた。

 

「なら、使わせてもらうわよ。いずれ戻る貴方と姫様の為にも」

 

 徐にエリカは通信端末を取り出すと、宛先を選択してコール。

 

「あ、アサギ? 私よ。今から戻るから、30分後にミーティングルームAに集合。開発スタッフは全員に号令かけておいて」

『えっ、えぇ!? どういうことですか。だって今日はアマノ三佐のところへ──』

「話は30分後にまとめてするわ。準備しておいて。良いわね」

 

 有無を言わさずで、そのまま通信を切るとエリカはスタッフ達と共にモルゲンレーテへの帰路についた。

 道中も回収したデータをひたすら閲覧し、浮かんでくる笑みは新しいおもちゃを見つけた子供の様で、エリカは久方ぶりに目を輝かせていた。

 

 

 

 数十分後、モルゲンレーテの技術開発局にて新たなプロジェクトが立ち上げられた。

 

 

 ────プロジェクトreverie。

 

 夢想を現実にする、彼女達の新たな戦いが幕を開けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘は、終わった。

 

 エスペラントの撃墜によってザフトが動きを止めたところで、地球軍は撤退信号を打ち上げた。

 タケルの死はユリスにとっても衝撃的なものであり、戦況を踏まえても戦闘続行はできないとユリスはステラとスティングを回収して撤退。

 シロガネも含めて、大半のカゼキリが戦闘不能状態でタケミカヅチに帰還していたオーブ軍も同時に撤退した。

 ザフトもまた、MS隊がとても戦える状況ではないと判断し、タリアは急いで撤退命令を下し、ミネルバも戦闘海域を離脱。

 

 そして、フリーダムを駆るキラも、長時間に及んだ死闘で機体のエネルギーが付きかけており、一度センサーで周囲を探るも、反応を拾えない事から急いでアークエンジェルへと帰投した。

 

 

 

 犠牲を生んでしまった戦いは、こうして終わりを迎えた。

 

 

 悲劇などと言うものは、戦火の中では常である。

 初めて目にしたと言うのなら、それは運良く当事者にならずに済んでいただけだろう。

 

 故に彼らは今、喪失の悲しみに暮れていた。

 

 

 

「クソぉ!」

 

 

 インパルスから降りてきたシンは、遣る瀬無い気持ちをぶつける様にパイロットスーツのヘルメットを叩きつけた。

 無論そんな事で時間が巻き戻るわけでもないし、ヘルメットを傷つけても己の内に燻る無力感は拭えず増えるばかりで、シンは身を震わせる。

 

「なんで……なんであんたがやられてんだよ! 隊長!」

 

 あと1秒気づくのが早ければ。

 ディザスターの横槍が入る前にカオスを討ち、こんな結果にはならなかっただろう。

 そう思うと、シンの胸の内は更に荒れていく。

 

「くそぉおおお!」

 

 自分を認め、導いてくれた。

 口では反骨心をぶら下げて素直になれなくとも、シンは心の奥では素直に彼に感謝していた。

 暴走した自分の受け皿になってくれたことも、これまで教導してくれたことも、全て確かな血肉となってシンを成長させてくれたことを実感していたのだ。

 

 そんな嘆きに塗れるシンを、ザクのコクピットの中でレイもまた沈痛な面持ちで見つめる。

 

 世話のかかるシンやルナマリアと違い、レイはそこまで関わりを多くは持っていなかった。

 だが、ラウとの事を話したりする内に、レイは(タケル)の背に(ラウ)を見る様になっていた。

 自身より身長も低く、一見幼く見えるがその実、彼の背は広く頼り甲斐があり、在りし日のラウを思わせる安心感があった。

 

「ラウ……隊長……俺は……」

 

 彼が戦死した事実は、思いの外レイの心を空虚にさせており、いつのまにかレイも、ずいぶんと確かな関係を築いていたのだと自覚していた。

 

 

 

 

 

 がしゃんとMSハンガーに固定された赤いザクの中で、ルナマリアもまた嘆息する。

 エスペラントがあるはずの空っぽのMSハンガー。

 他の面々と違って疲労困憊な為、現実を直視はできているが受け止め切れてはいないのだろう。

 彼女はどこか、無感情な瞳で目の前の現実を見つめていた。

 

「本当に……やられちゃったんですね、隊長」

 

 ヤヨイを守る為に…………そう小さく呟いて、ルナマリアはようやくその実感を得た。

 タリア以外で。MS隊で唯一ヤヨイとタケルの関係を知っていたルナマリア。

 強く、頼りになる隊長であった反面、どこか危うさを孕んでいたタケルを、ルナマリアは密かに気にかけていた。

 ミネルバのMS隊がまとまってこれたのは、隊長となったタケルの手腕もあっただろうが、個性の強い面々の良き緩衝材となってくれた彼女の貢献も大きいだろう。

 偏に、隊長となったタケルに余計な負荷をかけない様にと慮っていたが故であった。

 

「どうしてくれるんですか……私の頑張りを無駄にして……メイリンまで傷つけてくれちゃって」

 

 あの妹のことだ。相当に落ち込むことだろう。直近であんなイベントもあり浮かれ切っていたメイリンに、この現実は厳しいはずだ。

 ルナマリアは憎まれ口を叩かずにはいられなかった。

 そんな風に怒りへと矛先を向けないと、讃えた悲しみが瞳から溢れてしまいそうだったのだ。

 

「ダメダメ……私がこんなんでどうするのよ。こんな時こそシャンとしなさい! 泣きたいのはあの子達なんだから」

 

 コクピットの中で必死に被りを振り、囚われそうになった悲愴を追い出す。

 喪失の悲しみは、自身よりもっと重いではずであろう少女が、すぐ近くにいるのだ。

 頼れるお姉ちゃんとして、隊長を喪った今こそそんな彼女達の支えにならねばと、ルナマリアは気持ちを改めた。

 

 ちょうどそこへ、片腕を失ったセイバーが帰投してくる。

 しかしMSハッチから入ってきたものの、そこから先動く気配はなくルナマリアはハッとしてザクのコクピットから降りていった。

 

「ルナ!」

「あっ、シン!」

 

 降りてきたルナマリアを出迎えたシン。やはりその表情には後悔が讃えられている。

 

「ルナ……怪我とかは?」

「えっ? あ、いや大丈夫よ。ちょっと被弾はあったけど、コクピットには全然」

「そっか……良かった」

 

 喪ったばかりが故に仲間の安否に過敏になっているのだろう。珍しく優しい少年にルナマリアは意外な顔をしつつも笑みを浮かべて返した。

 

「お前はどうなんだ、シン。最前線で戦い続けていたはずだろう?」

「レイ……いや、俺もなんとも……」

 

 いつのまにか降りてきていたレイも合流して互いの無事を喜ぶ。

 そうして喜んだところで、3人は同時に同じ方を仰ぎ見る。

 

 未だ沈黙の途にあるセイバーを。

 

「──ヤヨイ」

「降りてくる気配が無いな」

「怪我とか、してるのか?」

「コクピット付近に損傷はない。そんなことは無さそうだが……l

 

 事情を知らない2人は少しだけ不思議そうにするが、ルナマリアはセイバーの様子に意決して駆け寄っていく。

 

「あっ、おいルナ!」

 

 呼び止めるシンの声を流して、ルナマリアはラダーを使いセイバーのコクピットまで登ると、外部スイッチでコクピットハッチを開けた。

 しかしそれでも、中から彼女が出てくる気配は無い。

 

 恐る恐ると、ルナマリアはコクピットを覗き込んだ。

 

 

「うっ……うぅ……あっ……」

 

 

 そこにはシートに身を預けたまま己の身を掻き抱いて嗚咽に苦しむ少女の姿があった。

 あの不遜で、クソ真面目で、涙など自分達の前では一度たりとて見せた事がない様な、仏頂面ばかりの少女が。

 元より小柄な身を更に小さくさせて、孤独の中に泣いていた。

 

「──ヤヨイ」

 

 かけられたルナマリアの声に、少女は肩を震わせる。

 

「ルナ……マリア……」

 

 顔を上げた少女は後悔に塗れた声を挙げる。

 その理由を理解できるルナマリアは沈痛な顔をを浮かべて、静かにコクピット内に潜り込むと、震える少女を胸に抱く。

 

 考えなくて良い。思う存分吐き出しなさいと。

 普段から溜め込みがちな同期の少女を、ルナマリアは赦すように抱きしめた。

 瞬間、堰を切ったように少女は声を上げて泣いた。

 これまでを見れば似つかわしくない姿であっても、今の彼女にはぴたりと当てはまる悲しみの姿であった。

 

「うっ、私は……私のせいで……私などの為に……お兄様を……」

 

 ハッとする。

 似つかわしくない、ではなく完全に聞かない物言い。

 少なくともヤヨイは彼を、隊長やあの人などと呼び、名前すら呼ぶことはなかった。

 それは記憶に振り回されないための一種の防衛行動であったのだが、そんな彼女が今明確に彼を兄と呼んだのだ。

 

 記憶を…………今胸の中にいる少女はヤヨイ・キサラギではなくサヤ・アマノであるのだと、ルナマリアは察した。

 

 それでも──

 

「今は、何も考えず泣いてなさい。後悔も反省も後で聞いてあげるから」

 

 ぐしゃぐしゃとなった心に、今はそれが急務だろう。

 あやす様に背中を撫で付け、ルナマリアが促すと、サヤ・アマノは再び声を上げた。

 

 後悔ばかりに塗れた、年相応の悲しみを讃えた声で。

 

 泣き疲れて眠りにつくまで、延々と……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジョーンズ艦内。

 

 ネオは先の戦闘の結果を雇い主であるジブリールへと報告していた。

 

『目的は達せられなければならないのだよ。全ての命令は必要だから出ているのだ。遊びでやっているわけではない。そのためのお前達だということを忘れるな』

 

 通信越しにもたらされる声に、ネオ・ロアノークは仮面の奥で表情を歪める。

 上から指示するだけの人間は気楽なもんだと思うが、それが言えたら苦労はしないだろう。

 実際問題、嫌味の一つでも言われて当然な状況なのだから。

 

 味方に引き入れたオーブの軍も交えての侵攻戦。

 それで大半の艦隊とMS部隊を失い、それでもミネルバを討てず終い。

 フリーダムの介入という予想外があったとは言え、今回の戦闘で得られたことといえば、敵新型機をカオスが討ち取れたことくらいだろうか。

 それが今回で失ったものと比べてどうかなどと、比較するのも愚かであろう。

 

「いやぁ、申し訳ありません。何分予定外が多すぎてですね」

『まぁ、何にでも見込み違いということはある。つまりはミネルバは君の手には余ると、そういうことだったんだな』

 

 これまた言ってくれると、ジブリールの物言いにネオは聞こえぬ様ため息をついた。

 

『ではどうしたものかと考えたんだが、幸いデストロイが完成してね。君にはそちらを任せることにした。君達がミネルバ討ってくれていればこんな作戦は必要なかったのだが、仕方ない。腐った部分は早く取り除かないとどんどん広がるからな。あれを使ってユーラシア西側を早く静かにさせてくれてたまえ。今度こそ────それなら出来るだろう、ネオ?』

 

 デストロイ……馴染みはないがネオには聞き覚えがあった。

 新開発の大型機動兵器。ゲルズゲーやザムザザーの実戦データを元に高度発展させた機体であると。

 そして、その機体のパイロットとして、ユリスを含むエクステンデット達を用いる事も聞かされていた。

 

「では、アイツらを連れて……という事で」

『要らん。パイロットはラボより確保している。君は単身でボナパルトに合流して指揮を取れ。不出来な失敗作達は全員ラボに送っておくように。良いな?』

「つまり、アイツらはお払い箱……という事ですか」

『戦果を挙げられなければそれも当然のことだ。運用するだけでコストがかかるんだからな。だから────次失敗すれば、今度は君だということを肝に銘じておきたまえ』

「──了解しました」

 

 吉報を待っている、と締め括られ通信は終わった。

 嫌味の一つや二つ聞き流しながら次の作戦指示かと思えば、随分ときついお言葉をいただき、暗鬱とした気持ちでネオはまた一つ大きなため息を吐いた。

 

 戦果を挙げられなかった。結果としてはそれまでだが、それで済ませられる程、ネオも人間ができてはいない。

 聞かん坊とはいえユリスを筆頭にステラ達にはそれなりに情があった。

 生きて欲しいとは思っていた。

 それがこんなところで有無を言わさず己の手を離れ退場とは。後悔も一入である。

 

「はぁ……やれやれだぜ」

 

 虚しく響く独り言を置き去りに、ネオは部屋を離れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ヤマト、今何と言った?」

 

 震える声音。

 それは未だ嘗て聞いた事がないほどに狼狽えたナタルのものであった。

 

「キラ……嘘、だよな? そんな質の悪い冗談──」

 

 カガリもまた信じられないという様に空笑いを見せながらキラへと問いかけた。

 だが、向けられた視線と声に、当人であるキラは沈痛な面持ちのまま静かに首を振った。

 既にナタルを支える様にマリューが。カガリを支える様にラクスが側へと寄り添っている。

 必死に現実に押し潰されない様にと、2人を支えている。

 その最中、キラはもう一度残酷な現実を突きつけた。

 

「タケルは…………サヤが乗ってた機体を庇って、撃墜されました」

 

 震える声音はキラも同じ。

 懺悔の様に漏らしたキラもまた、その身を震わせる。

 

「ごめん……カガリ……ナタルさん……守れなくて……」

「キラ君が謝ることではないわ。それはきっと────どうしようもない事よ」

 

 未だ震える2人を傷つけない様に言葉を選んで、後悔に塗れるキラをマリューは窘める。

 両陣営がぶつかる戦場への単独出撃だったのだ。

 それが量産機ばかりを相手にするならまだしも、渦中の場にはアスランが居てユリスが居てタケルがいた。

 それぞれの思惑が絡み合う中、それでもほとんどのオーブ機を無力化し戦闘を終わらせたのは、キラの頑張りがあっての事。

 結果に文句など言えるはずもない。

 

 だがそれは戦果だけの話。

 キラが出撃した本当の理由はそうではない。

 キラが求めた結果はこうでは無かった。

 

 守れなかった兄妹を。助けられなかった兄妹を助け、在りし日に戻れる様にと願って出撃したのだ。

 その結果がこれでは、キラ自身が何も納得できなかった。

 

「アイシャさん、ミリアリアさん──2人を」

「あ、はい!」

「了解よ。ナタル、少し休みましょう」

 

 今は受け止めきれないだろうと、マリューは指示を出して2人を連れ出した。

 辛い報告ではあるが、戦闘の結果はこれだけではないのだ。

 マリュー達は今後のためにもキラから報告を聞かなければならなかった。

 

「ノイマン、艦をマルマラ海へ────一縷の望みに賭けましょう」

「了解です。急ぎますよ」

 

 もし生きていれば──僅かな可能性だが願わずには居られなかった。

 動き出す艦の振動を感じながら、キラ達は改めて向き合う。

 

「すいません、マリューさん」

「謝らなくて良いわ。貴方のせいではないのよ」

「キラ……気にするなとはいえませんが、せめてご自分のせいにはなさらないでください。タケルもきっと、そんな事は望みません」

「うん……ありがとう、ラクス」

「それで、どうなったの?」

 

 気持ちをまるっきり切り替える事はできなかったが、幾分か楽になったキラは、真剣な面持ちとなって報告に入った。

 

「はい。まずオーブ軍ですが、少数精鋭で来たんでしょう。搭載MSは15機くらいでした。そのほとんどを無力化できたので、恐らく本国へと帰還するでしょう」

「そう、それならひとまずは成功なのね」

「ただ、ザフトの機体に討たれたのもあって…………犠牲は出たと思います」

「そうですか。それもまた、どうしようもなかったのでしょう」

「戦場ですものね。まるっきりゼロにできるなんて事、土台無理な話よ。だからキラ君、背負うのはやめなさい」

「はい…………それで地球軍は撤退。ザフトのミネルバも同様に撤退していきました。損害としては連合の大敗というところでしょうが、感じとしては痛み分けな気がします。ミネルバとしても、新型機とタケルを失った事は大きいでしょうし」

 

 再び、悲しい沈黙が降りる。

 やはり言葉にするとそれが実感を得てくる。

 胸にぽっかりと穴が空いた様で、その感触は簡単に拭い切れるものでは無かった。

 

「マリューさん、キラ。聞いてくださいな」

「ラクスさん?」

「どうしたの?」

 

 徐に、ラクスは口を開いた。

 

「私は宇宙(そら)へ────プラントを見てきます」

「えぇっ!? そんなラクス」

「何故、今この時にプラントへ?」

 

 慌てふためくキラとは対照的に、マリューは落ち着いた声音でその真意を問う。

 既にプラントではもう1人のラクスが表舞台に立っているのだ。

 不用意に彼女がプラントになど赴けば、最悪は無用な嫌疑でもかけられて拘束されるだろう。

 ただでさえデュランダルは信用を置けないという見解なのだ。

 わざわざ危険な渦中に飛び込む様なことをする意味があるのかと、マリューは視線で促した。

 

「議長は私とカガリさんとの関係を拒んでいる──バルトフェルド隊長が言ったこれが事実であるのなら、議長には何かもっと先の……大きな思惑があるのだと思います」

「それを、探りに?」

「はい。恐らくはサヤも、タケルも。そうして彼の思惑のために望まぬ戦場に駆り出されたのだと思います。

 私達は知らねばなりません────本当に戦うべき敵は、なんなのかを」

 

 徒に戦火を拡大する連合は、目に見えてわかる敵であろう。

 だが、本当に恐ろしいのは姿形を見せずに潜んでいる敵だ。

 それは無論、味方を装っている敵なども含まれる。

 暗にラクスは、今世界で起きている争いのその先で、デュランダルが敵となることを仄めかしていた。

 

「で、でも……やっぱりダメだよ。そんなわざわざ危険に飛び込むなんて」

 

 目の前でタケルの死を目の当たりにしただけに、今のキラはラクスの言葉に素直の頷く事ができなかった。

 どれだけ強い思いがあろうと、周りが必死に頑張ろうとも。死ぬ時には死ぬ。

 その現実をまざまざと見せつけられたばかりなのだ。

 キラの不安は拭いきれなかった。

 

 だが、ラクスの決意は固く、まるで折れる気配を見せない。

 

「ならせめて、行くなら僕も一緒に」

「いえ、それはいけません、キラ。貴方はアークエンジェルにいてくださらなければ。マリューさんやカガリさんはどうなります? 今この艦を守れるのは、貴方だけなのです」

「でも──」

「わたくしなら大丈夫ですわ。必ず帰ってきます。貴方の元へ。それに、今ここで動けなくては、

 いずれ戻ってきたサヤとタケルに笑われてしまいますから」

「えっ? ラクス、それってどう言う」

「サヤが生きていたのです。ならば、同じ様にタケルが生きていても不思議ではないでしょう? 私は信じます。タケルがカガリさんやバジルールさん、サヤを残して死ぬなんて事、ありませんから」

 

 何と無茶な論法か。

 だが、それを信じさせるだけの声と言葉を持つのが、本当のラクス・クラインであった。

 確かにそうだ。あれだけ身内を大切にする男が、先に死して遺されたものに悲しみを背負わせるなど。

 そんな事、本人が一番嫌う所業だ。

 そう思えば、ラクスの無茶な論法に釣られて、キラは気持ちを上向かせる事ができた。

 

「あっ、はは……確かに、タケルなら怨霊となって化けてでも帰ってきそうだね」

「あら、怨霊は失礼じゃないかしらキラ君。それを言うなら守護霊でしょ?」

「ふふ、そうですわね。ですからキラ、私も動かねばなりません。行くべき時なのです。行かせてくださいな、ね?」

 

 可愛らしく問うてくるラクスに、キラは押し黙った。

 逡巡、大きく深呼吸をしてから、静かに頷いてみせる。

 

「────わかったよ、ラクス」

 

 やはり、彼女には敵わないのだと、キラは改めて思い知らされるのであった。

 

 




ちょっと疑問が出そうですが、サヤとヤヨイについては次話で補足されますので。

それぞれの悲しみを描きつつ、次なる展開の布石がちらほらと。
今後の展開が楽しみです。

感想よろしくお願いいたします。


seed世界に守護霊って概念あるんかな……
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