でもね、ここら辺がseed編で言う閃光の刻の後って感じで色々と動き出すから大事な展開なんです。
許してください。
ダーダネルス海峡を退き、ミネルバは一度ディオキアへと帰還するルートを取っていた。
艦の損傷はそれなりではあったものの、幸い航行事態に影響がある被害は出ておらず、ミネルバは何とか自力での帰還に問題はない状態である。
しかし、それでも艦橋の空気は重く陰鬱なものとなる。
状況を話し合うためにハイネも上がってきていたが、蔓延する悲愴の空気にハイネは顔を顰めた。
「艦長──予定通りならあと3時間程で帰還できるかと」
沈痛な空気を打ち破ろうと、アーサーは努めて平静な声で報告をあげた。
普段から頼りない感じを見せる彼だが、やはり副長としての自覚は持っているのか、軍人足らんとする毅然とした気配であった。
「そう、わかったわ、ありがとうアーサー。
索敵は必要でしょうけど警戒体制は解除。それぞれ順番に休息に入って頂戴────特にメイリン、貴方はすぐに休みなさい」
必死にCIC席で職務に励んでいるメイリンの背中に、タリアは静かに告げた。
そう、必死にだ。敵の影も形もないのに必死に手を動かしている。
どうにか考えない様にと何かに没頭しようとしていたのだろう。
驚いた様子でタリアへと振り返ったメイリンは何を言われているかわからないと言ったら様子であった。
「艦長、私なら──」
「良いから、休んでおけ。メイリン・ホーク」
「ハイネ、さん……」
メイリンの肩に手を置いて、ハイネはやんわりと促した。
気丈に振る舞おうとする姿が痛々しい。必死に自身に大丈夫だと言い聞かせてる様なメイリンの姿が見ていられなかった。
ディオキアで、そしてつい最近の振る舞いを見ても、メイリンがクルース・ラウラに対して特別な感情を持っていた事はハイネの目にも明らかだ。
年端も行かない少女に今の現実は酷だろうと、ハイネは大丈夫だと言い張る事を禁じた。
「トライン副長、しばらくCICを変わってやれ。ブリッジにいるなら門外漢でも何も知らないわけではないだろう?」
「えっ? えぇ、それはまぁ」
「と言う事だ。さぁ、休んでおけメイリン。今はルナマリア達も休息に入ってる。少しでも、気持ちを落ち着かせろ」
「──はい」
ようやく、メイリンは艦橋を退出していく。
本当は直ぐにでも艦橋を出て泣きじゃくりたかったのだろう。去り際の彼女には涙の気配があった。
「助かるわ、ハイネ」
「若い連中にはキツイでしょうからね。このくらいは」
「貴方、自分の事を幾つだと思ってるのよ」
「あいつらに比べりゃ若くないでしょうよ。身も心も」
「ふふ、嫌味な事」
軽口を交わしてハイネとタリアはどうにか落ち込んでいた空気を戻した。
流石に上官の立場にいる2人はよく心得ていると言うところか。
どれだけ悲しい現実を目にしても、それを払拭し皆を引っ張り上げなくてはならないのが彼らの役目だ。
「それにしても、まさかと言う気持ちだわ」
「俺もですね。アイツの実力はマジで折り紙付きでした。短い期間でしたが一緒に訓練をして嫌と言うほどそれを思い知らされたんで」
「戦場に絶対はない、と言う証左ね」
「アイツは絶対落とされねえだろうなって、俺は思ってましたがね」
意図してハイネとタリアはその話を持ち出した。
現実を直視させる様に。幸い今艦橋にいるのはある程度精神的に成熟した年齢の者達ばかりだ。
メイリンの様にタケルの事を特別視している者も居ないため、比較的受け止めやすいだろう。
「メイリンもそうだけど、MS隊の皆はどう?」
「まぁ、なんとか。シンとレイは自力で乗り越えるでしょう。ルナマリアはむしろ他に気を回す余裕があるくらいで…………ただ、淡白なヤヨイが意外にも一番ショックを受けてます」
「そう……ヤヨイが」
僅かに、タリアは納得した。
淡白とハイネが言うのはまだ日が浅いからだろう。
彼女の本質は、むしろ他のパイロット達よりよっぽど情が深い。
タケルがミネルバに来る前は、それこそ彼女がMS隊の隊長として皆を死なせまいと必死だったのだから。
眼前で仲間を失う事が、彼女に取ってどれほど大きいかは、タリアには理解できた。
「──艦長?」
「あっ、えぇ、確かに意外ではあるわね。クルースじゃないけど、あの子も仮面を被っていた、と言う事かしら」
「普段は一歩引いてる感じでしたけど、それも内に秘めていたからこそって言う事ですか」
「とりあえず、本艦はこのまま基地に帰還して艦の修理を受けます。また次の侵攻があるとも限らないわ────落ち着いたら、貴方も少し休んで頂戴」
「了解です。まぁパイロット連中のことは心配しないでください」
「どう言うことかしら?」
どこか確信めいた様に告げるハイネに、タリアは訝しんだ。
少なくとも楽観視はまだできないのがタリアの見解である。
ヤヨイを始め、MS隊にとって決して軽い出来事ではないはずなのだから。
だが、そんなタリアにハイネは肩をすくめて返した。
「いつだって遺された側にできることは、先達に恥じない姿を見せることだけだ。アイツはちゃんと、それをシン達に伝えてるでしょう。言葉じゃなくて訓練の中でね」
それはきっと、ハイネのこれまでから出た言葉なのだろうとタリアは受け止めた。
飄々としている彼だが、先の大戦を生き抜いた英雄の1人だ。
同じ様なことは、それこそ幾度となく目にして、経験してきた。その結果の言葉であると。
乗り越え方も、乗り越えさせる方法も熟知している。そんな気がした。
「経験者は語る、と言うわけね。ありがとう、貴方が居てくれて本当に助かるわ」
「いえいえ、それじゃ俺も休ませてもらいますよ」
軽い口調で敬礼を見せてからハイネもまた艦橋を退出していく。
そんな彼の背中を見送ってから、タリアは張り詰め続けていた肩を、ようやく降ろすのだった。
軽く抜ける様な軍靴の音を踏み鳴らしながら、ユリス・ラングベルトはジョーンズ艦内を歩く。
その表情は、軽快な足取りとは正反対に険しいものであり、すれ違うクルー皆が一歩引いてしまう程であった。
艦内から甲板へと。
そうして出てきた先で目当ての人物を見つけると、いよいよを以てユリスの気配は怒髪天を衝くと言わんばかりとなった。
「ロアノーク、貴様!!」
連合の軍用ヘリに乗り込もうとする、一応は上官に“位置していた”仮面男へと、ユリスは罵声を浴びせた。
ずんずんと歩み寄ってくるユリスに、周りの兵士達が銃を構えるが、それをネオは手で制した。
おかげで、彼我の距離を難なく詰める事が出来たユリスは、勢いのままに食って掛かる。
「どういうつもりよ! 私はともかく! ステラ達をラボ送りって!!」
「言葉の通りだ。お前達はラボに突き返される────代わりはもう、手配されている」
「わかってんの!? それが何を意味しているのか。あの子達がどうなるかを!!」
胸ぐらを掴まんばかりな勢いのユリスに、周囲の兵士は戦々恐々といった様子だが、対峙するネオはどこ吹く風と言うようで、まるで意に介していない。
その気配が、更に彼女を苛立たせた。
「あんたにとって……あの子達はその程度だったってわけ?」
「命令……だからな。成果を出せない失敗作は切り捨てて、俺は次の連中を指揮下に加えて作戦に就かなければならん」
「ふざけないでよ……そんな簡単に、あの子達を捨てる様な命令が、あって良い訳……」
僅かに顔を伏せるユリス。
やはり、多分に情が移っているというネオの見解は正しく、今のユリスは嘗てのラウや、方向性は違うがタケルへと向けた時と同じように、ステラ達3人に強い執着を覚えてしまっている。
そしてそれは本来、この連合内で彼女達が生きていく上では不必要な感情であった。
彼女達は兵器としてのみ存在を許される。
元より、人間としての価値を与えられていないのだ。
こんな結果になったところで、文句を言う権利すら、与えられていない。
それでも、ネオ・ロアノークとてそう簡単に割り切れる程、彼女達を兵器としてみる事はできていなかった。
静かに、ネオはユリスの肩に手を置いた。
「戻ればどうなるか……俺も良く知っている。お前はともかく、あの子達はデータの回収だけして処分となるだろう。
もし、あの子達を不憫に思うのなら────苦しまずにお前が逝かせてやってくれ」
ネオは軍支給のハンドガンを取り出し、ユリスへと手渡した。
それが何を意味するのか。そんな事、具体的に言葉にされなくても理解できる。
言外に、ステラ達が生き残る道は無いのだと示されて、ユリスは瞠目した。
「──ふざけないでよ。こんな」
「すまないな。どうするかは、あの子達の一番近くに居たお前に任せる」
どうしようもない。
それをネオは示し、ユリスは理解した。
ヘリに乗り込んでいくネオを見送り、ユリスは渡されたハンドガンを抱えながら膝をついて。やるせない怒りに震えた。
「こんなの、ふざけんじゃ…………ないわよぉ!」
蒼天の空の下、行き場の無い怒りを、ユリスは天に向かって吠えるのだった。
「──んっ、んぅ」
目覚めは酷いくらいに億劫な倦怠感の中からであった。
ミネルバの自室で目を覚ましたサヤ・アマノは、全身を襲う気怠さの中から、静かに身じろぎをして体を起こす。
「私、は……」
直前の記憶を思い返す。
ダーダネルス海峡での戦い。ミネルバを守る為にディザスターに向かうも破れ、カオスと戦い。勝負を決めようとする刹那、セイバーを衝撃が襲って、そして────
脳裏に刻まれた、その瞬間。
最愛の兄が乗っているであろう純白の機体が、目の前で火花となって散った。
「お兄、様……」
全てを思い出した。
それは直近の眠りにつく前の事だけではない。
文字通り、全て。
ヤヨイ・キサラギは、サヤ・アマノとしての記憶を全て思い出していた。
オーブでの暮らし。厳格な父と優しい兄との生活。
抱き続け、向け続けた恋慕の情。
そして、先の大戦。自らを盾として最愛の兄を守った記憶。
そこから続くは、ヤヨイ・キサラギとしての生。
全てを思い出して、そしてサヤは俯いた。
己の不手際が、大切な兄を殺めてしまった事を。強く、強く自覚していく。
「うっ、ぅ、申し訳……申し訳ありません、お兄様。サヤがお兄様の忠告を聞かずに、戦い続けたばかりに……」
涙交じりにサヤは懺悔した。
聞こえる筈がない兄に向けて、ひたすらに己の不手際を悔いた。
出撃前に戦えなくなったら撤退しろと言い含められていたのに。
武装を扱う腕部を失ったとあれば、撤退する判断は間違いではない。現にフリーダムによる所業で、幾つものMSが撤退させられている。
だというのに、その大切な忠告を蹴りつけ、あろうことか大切な兄の想いを拒絶した。
それが、最後に交わした言葉であったのだ。
その時の兄の気持ちを思い浮かべて、サヤは再び涙した。
「申し訳ありません……申し訳……ありません……お兄、様……」
暗い部屋で1人声を殺して泣き続ける。
すると、不意に小さな音が鳴って、部屋の明かりが灯される。
「起きてたのね」
サヤが顔を起こすと、そこには同期の赤毛の少女が彼女を見つめて立っていた。
「ルナ、マリア……」
不思議と、サヤは安堵する。
格納庫でもそうであった。1人コクピットで悲しみにくれたサヤは、彼女を目にした時、どうしようもなく安心した。
彼女の言葉に、何の抵抗もなく縋ってその胸で泣いたのだ。
サヤ・アマノの記憶から見れば、これは明らかに異常な行為だろう。
しかし、サヤは全ての記憶を取り戻しながら、何も失っては居なかった。
胸の内には、ヤヨイ・キサラギとして抱いていたものが確かに息づいており、それがサヤとしてはあり得ない行動へと彼女を至らせたのだ。
存外、ヤヨイ・キサラギはルナマリア・ホークに対してサヤがタケルへと向ける様な、優しい姉の様な認識を持っていたのかもしれない。
「──思い、出したのよね?」
何を意味しているのかは直ぐ理解できる。踏み入った質問であった。
だが、不思議と悪感情は湧いてこず、サヤは静かに頷く。
そして、そのままおずおずと口を開いていく。
「申し訳ありません、ルナマリア・ホーク。私の本当の名はサヤ・アマノ。
今は亡きユウキ・アマノの実子にしてお兄様……クルース・ラウラでありタケル・アマノの血の繋がらぬ妹です」
「そっか…………」
やはり本人の口から聞くと、事態をより鮮明に理解できて、ルナマリアは感慨深くサヤの告白を受け止めた。
事実を聞き及んではいたが、それでもそれは絶対的な確信には至らないもの。
こうして本人が記憶を取り戻すまで、あくまで周囲の曖昧な認識でしかない。
無論、ルナマリアはタケルとヤヨイの言を疑っていなかったが、こうして言葉にされて初めて。
本当のことなのだと認識する事ができた。
「凄いわけよね。あのアマノ三佐の妹だったら」
「いえ、そんな事はありません。お兄様に比べればサヤなど……こんな愚かで蒙昧な私など比べるべくも──」
「やめなさいよ」
僅かな怒気を孕んだ声に、サヤは俯きかけた顔を上げる。
サヤが後悔に塗れようとする寸前で、ルナマリアはそんな事は許さないと言わんばかりにサヤを睨め付けていた。
「ルナ……マリア?」
「記憶を取り戻したところで、あんたの評価は変わらないわよ。最新鋭機セイバーを任されたミネルバのエースパイロット。そんなあんたに自分を卑下にされたら、私達の立つ瀬が無いじゃない」
「ですが、私は……」
「隊長が討たれたのはヤヨイの為ではあってもヤヨイのせいじゃない。履き違えるなっての」
「意味がわかりません。その違いに何の意味があると言うのですか」
「大違いよ。分からないの、優等生?」
「だから! 何の違いがあると言うのですか!」
挑発的な態度に、サヤは堪えられず声を荒げた。
こんな気分の時に一体何のつもりだと、先程までの安堵はどこかへ飛んでいき、今のサヤは敵を見据えんばかりの鋭い視線へと変わっている。
それでも、ルナマリアの気配はまるで変わらずサヤの様子に呆れている様であった。
「ヤヨイ……あんたは露知らずな話でしょうけど。先の大戦の直後、あの人は本当に酷い状態だったらしいわ」
「っ!?」
びくりと肩を震わせて、サヤは慄いた。
何故そんなことをルナマリアが知っているのか。そんな疑問など捨て置いて、サヤの脳内にはルナマリアが言う酷い状態というのが幻視できた。
自惚れでもなんでもなく、サヤは自身が兄に十分に愛されている事を理解していた。
それは親愛であり、サヤが知る限り
そして、サヤはそんな優しい兄の事を深く、深く理解している。
目の前で最愛の妹が命を散らして、あの兄がどうなるかなど火を見るより明らかだ。
「私はオーブであの人の知り合いに聞いたんだけど……食事も取れず、悪夢にうなされ、日に日にやつれてボロボロになっていったって。
あんたならわかるはずでしょ。そんな状態になったあの人が、再び目の前であんたを失う事を許容できるわけないじゃない」
「なら、やはり私が──」
「だから、そうじゃないって言ってるでしょ!」
瞬間、サヤを軽い衝撃が襲う。
足早に詰め寄ったルナマリアがベッドに居るサヤを掴み上げていた。
「やめなさいよ。そうやって自分が許せないからって、あの人のせいにするのは」
「何を言ってるのですか貴女は! 私は自分のせいだと──」
「それが間違ってるのよ! あの人があんたを守ったのは、生きて欲しいから。生きて幸せになって欲しいからでしょ! そうやって自分を責める事があの人の望んだことじゃないでしょうが!」
ハッとしてサヤは目を見開く。
ルナマリアの言葉に、兄の最期の言葉が脳裏をよぎった。
“ちゃんと幸せになる道を見つけて。それが僕の願いだから”
ルナマリアの言う事は正にその通りで、彼は最後までその願いを大切な妹に伝えていた。
その事実に気づかされて、ルナマリアの方が自身よりもよっぽど兄を理解して居る様な気がして、またサヤの気持ちは荒れていく。
「でも……ならどうしろと言うのです! お兄様を喪った私に、ヘラヘラ笑えとでも言うのですか!」
「笑ってみなさい! あの人のお陰で今自分は生きているんだって! 助けられたこの命を幸せに生きるんだって! 胸張ってあの人に顔向けできるように、今生きてる事に感謝しなさいよ! 自分を責めるのは、胸張って生きてからにしろ!」
ぐうの音も出ない程の正論に、サヤは完全に押し黙った。
全てに何の反論の余地もない。
何故ならルナマリアが今語った兄の願いは、嘗てサヤ・アマノが抱いた想いと何も変わらないのだから。
あの日サヤも。死に行くと覚悟した時に抱いていたのは、己の死で兄を泣かせてしまう事を申し訳なく思う気持ちだった。
どうか、自身のこと等気にせずに、幸せになって欲しいと願っていた。
兄もまた同じ想いであっただろう事は、サヤの中で疑い様が無い。
「────うぅ、お兄様」
自身が如何に兄の想いを無下にしていたのかを諭されて、サヤはまた1つ己の情けなさに涙を溢した。
その姿を見て、理解が及んだのだと悟ったルナマリアは掴みかかっていた手を放し、1つ嘆息すると落ち着きを取り戻していく。
「大切な人の大切な想い……悪い形で終わらせないであげなさい。泣きたいほど大切な人なら、尚更ね」
「──肝に、銘じます」
「好き放題言って悪かったわね……それじゃ、ゆっくり休みなさい」
無遠慮に踏み入って好き放題言った事を、今更ながらに少し後悔しながら、ルナマリアは部屋を退室していく。
「ありがとうございます、ルナマリア」
その背を見送ったサヤは、静かにまた一つ涙を流すと、虚空を見つめて己の感情と向き合うのだった。
「ってバカか私は!!」
サヤの部屋を出て、少しだけかっこつけて歩いてすぐの事である。
ルナマリアは艦の通路で頭を抱えていた。
「(何偉そうに説教くれちゃってるのよ! お姉ちゃんポジとして優しく慰めに行く予定だったでしょうが!! しかも、考えてみたらサヤ・アマノって事は先の大戦で隊長と肩を並べて活躍している内の一人じゃない。どの面下げて偉そうにご高説垂れ流してるのよ!)」
文句と怒りは間抜けな自分に向けて。
思っていた事と行動がまるっきり正反対となって事を終えてしまった少女は、自身の愚かさをひたすらに恥じる想いであった。
「あ~もう、考えれば考えるほど恥ずかしいじゃない私!」
赤面しそうな先の記憶を振り払う様に、ルナマリアは歩調も荒く、自室への歩みを再開した。
だが、そうしてしばらくすれば、気持ちは落ち着いてくるもの。
徐々に歩調は早足から遅くなっていき、ルナマリアは次第に視線を落としていった。
いつの間にかルナマリアの足は、何かを想い止まっていた。
「ホント、恥ずかしいわよ…………今更自分の想いに気がつくなんて」
散々良いところだけ見せて、人の記憶にたっぷりと己を刻み込んで。
そうして勝手に、戦火に消えていった。
そんな彼を思い浮かべて、ルナマリアは戦闘後初めて涙を流した。
自分より余程つらいであろうと、サヤに回していた気をようやく自身へと割り振って。
そうしてルナマリアに訪れるのはやはり、喪失の悲しみ。
強くて、優しくて、厳しくて……でも、どこか脆い。
喪って初めて気がつくと言うのは良く聞く話だが、本当にその通りであるとルナマリアは思った。
胸に去来する空虚。ぽっかり穴が空いた様な喪失感ーーーー今になってようやく気がつく。ルナマリアは少なからず、タケル・アマノに惹かれていたのだと。
わかりやすく憧れを見せるメイリンや、覚えの無い感情に振り回されながらも徐々に確かな想いを取り戻していったヤヨイ。
そんな2人の想いを隠れ蓑にして、彼女もまた、自覚のないところでその感情を芽生えさせていた。
だから、そんな彼に愛され、守られていながら、あんな姿を見せるヤヨイが許せなかったのだろう。
先の失態は、そんな燻る彼女の想いの証左であった。
「やっぱり……寂しいですよ……隊長」
何かを紛らわす様に自身の肩を掻き抱いて、ルナマリアは自室への歩を再開させた。
その背は少しだけ、泣いている様に見えるのだった。
「ん、ぁ……あれ……僕、は……」
意識も朧な世界で揺蕩っていたタケル・アマノは目を覚ましていく。
開かれた双眸が収める視界は明瞭。目に映るは見覚えのない部屋の天井であった。
続いて、身体の違和感を確認する。
動かそうとして痛みが走る箇所は何箇所かあったがどれも軽微。
怪我としては、嘗て死にかけた時よりは余程マシだろう。
だが、動かそうとした身体は、痛みもそれほどでも無いと言うのに動く事ができなかった。
「(四肢の拘束……って事は少なくともミネルバじゃない……っというか──)」
タケルは唯一自由の効く首を動かして、自身が寝かされているベッドの足下へと目をやった。
「まさか、君が助けた……なんて事はないだろうね────ユリス・ラングベルト」
自身と瓜二つの顔を見つめながら、タケルは視線鋭く彼女を睨みつける。
2対の群青の瞳が交錯する。
銃を手にして冷たい表情を向けてくる、ユリス・ラングベルトの姿がそこにはあった。
目覚めたタケルを確認すると、ユリスは立ち上がりタケルの枕元まで来て、手にした銃を突き付けた。
「おはよう兄さん。目覚めてすぐで悪いけど選んで頂戴。これから歩む兄さんの────
交わらざるはずの運命は、路を外れて交錯するのであった。
まぁ身近に有料物件が居たら多少はね。彼女は本身にはなってません。
最近毎回後書きで言ってるかもしれないけど、これからどんどん物語は動いていくでしょう。
オリジナル路線もあって賛否あるとは思いますが、お楽しみいただければ幸いです。
感想、よろしくお願いいたします。