機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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注意
色々と命を軽んじる様な展開があります。残酷な描写も。
物語上仕方ないところで、何卒ご容赦を。


PHASE-51 反旗の声音

 

 

 

「はぁ……嫌な感触だ」

 

 袖を通すは地球軍の軍服。

 嘗てアークエンジェルに居た頃に見慣れてはいるものの、それを自身が着るとなってはどうにも心地が悪く、タケルは顔を顰めた。

 

 現在は乗り込んで来た兵士達を全て排除した段階。小型艇の艦橋にて準備中と言う所だ。

 続くはラボへの潜入であるが、ここでタケルはアウルの軍服を拝借。ユリスと共に地球軍の一員として潜入していく事にした。

 

「文句言わないでよ。それとも私の着てるのがお望み? それはそれで良い目くらましかもしれないわね」

「断固断る」

「だったらグチグチ言ってないで早く準備しなさいよ」

「くっ……好き放題言いやがって」

 

 何が悲しくてひらひらのスカートにニーソックスという、正に女の子の為の装備を穿かなくてはならないのだ。ザフトの赤服を見習って欲しいものである。

 そんな事を思った所で、ルナマリア・ホークという赤服を魔改造した逸材を思い出し、どっちもダメだとタケルは結論をつけた。

 そうして忌々しそうにユリスを一睨みしてから、以前キラやサイ達が着ていた濃青の軍服を着こんでいく。

 

 頭髪はユリスと全く同じ色合いであるため目立つので、包帯でぐるぐる巻きにして隠し、顔に傷があるかのようにガーゼを。腕も吊って骨折したかのようにカムフラージュ。どこからどう見ても大層な怪我人である。

 

 元々はユリスとステラ達4人での帰還だったが、ザフトの襲撃を受けてステラとスティングは死亡。アウルと共に2人だけ戻って来たという設定で通す予定だ。

 

「なぁなぁ……ユリス。まじでこいつと行くのかよ?」

「本気よ。貴方達は連絡するまでここで大人しく待ってなさい」

「でも、そいつはザフトに居た奴なんだろ?」

「うるさいわね。今は仲間、それだけの事よ」

 

 そんなわけあるかと、むすっとした顔でアウルが不服の気配を見せる。

 タケルはどことなく、アウルからシンに似たものを感じて、思わず口を挟んだ。

 

「アウル・ニーダ……だったね。確かに僕は少し前までザフトに居て君達と戦っていた身だ。疑うのは当然だろう。でも、彼女とステラのお陰で僕は命を救われた。少なくとも僕には、今こうして生きていられる事への感謝がある。裏切るつもりは無い」

「あら、かっこいい。惚れ惚れしちゃうわね」

「死ね」

「3秒で前言覆さないでよ」

「アウル・ニーダ、ゴメンやっぱり訂正させてくれ。僕を拾ってくれたステラには本当に感謝してる。だから、ステラを含む君達を助ける為に尽力させてもらうつもりだ。こいつとはその為に仕方なく手を組むだけだ。少なくとも僕は、君達を裏切るつもりは無いからその点だけは理解して欲しい」

「あ、あぁ……ちっ、わかったよ」

「うん、ありがとう」

 

 アウルへと詰め寄りながらも真っ直ぐに伝えてくるタケルに気勢を削がれて、アウルは渋々と頷いた。

 

「タケル……」

「ん? ステラ、どうしたの?」

「ユリス、嫌い?」

「うん、嫌い。ユリスは悪い子だからステラはこんな風になっちゃダメだよ」

「なっ、このっ! 兄さん、いい加減に──」

「タケル、ステラは?」

「勿論、嫌いじゃないよ。僕はステラに感謝してるから」

「感謝……好き?」

「う~ん、まぁそうだね。好き、かな?」

「タケル、ステラ好き? ステラも、タケル好き!」

 

 優しく温和な気配に、ステラは以前出会った時の様に大いに懐いた姿をみせ、その胸へと飛び込んだ。

 タケル・アマノの本領発揮と言う所だろうか。マルキオの孤児院でもあったように、子供にはすこぶる受けが良いタケルである。

 

 なぁ!? っとユリスが絶望の表情で悔しさを露わにする中、タケルはたどたどしいステラとのやり取りに、遠い昔のカガリの事を思い出して和んでいた。

 

「(昔はカガリもこんな感じで僕の後ろについてきてくれてたっけ。いつの間にか僕が後ろになってたけど……懐かしいなぁ)」

 

 自然と猫を愛でる様に頭を撫でてしまうのは、きっと不可抗力だ。在りし日のカガリを思わせる、目の前の少女……否、大きな幼女が悪いのである。

 

 タケルは脳内で良い訳を並べつつ、目を細める大きな幼女を撫でつけてやった。

 

「に、兄さん……そろそろステラから離れなさい」

 

 肩を掴んで恐ろしい形相を見せるユリス。

 血は争えない……と言うより2人の場合、遺伝子は争えないと言うべきか。

 どうやら彼女もまた、妹的存在には絶対的に甘く、独占欲が強いらしい。ステラを奪われまいと酷い形相であった。

 

 力づくで2人を引き剥がすと、まるでタケルから守る様にステラを腕に抱いて見せた。

 

「っと。ヤキモチとは全く。君は本当に……」

「何よ」

「まぁいいや。今更とやかく言っても仕方ない」

 

 以前の屈折し歪んだ彼女を思い返せば、随分と人間味が溢れる様になったと言うべきか。あえて口に出すことはしなかったが、2年前の彼女がこうであったなら、世界はもう少し違っていたのではないかと。タケルはそう思わずには居られなかった。

 

「何よ。言いたいことがあるなら言いなさい」

「いや、何も」

 

 言っても詮無き事。タケルは湧いてくるわだかまりを飲み下した。

 彼女が言ったように、全ては人類が元より歩んで来た道筋。彼女もラウも、きっかけに過ぎない。

 先の大戦の業を、彼女1人に押し付けるのも、おかしな話である。

 

「どうでもいいけどよ。さっさと動かなくて良いのかよ? あんまり時間かけると、色々と気づかれるんじゃねえのか?」

 

 年長者のスティングが、目の前の無駄なやり取りに辟易した様に溢した。

 既に彼は準備万端と言うように、艦橋のコンソールへと向いている。

 

 そう、何故今ここに全員が集まっているかと言えば、タケルの準備もそうだが、ここでブリーフィングをしていたからだ。

 先んじてタケルは艦橋のコンソールよりラボへとハッキング。館内の監視カメラの映像を艦橋に全部映し出している。

 これから潜入するタケルとユリスの為に、バックアップでスティングに情報管制をしてもらうのだ。

 

「スティング・オークレー。君はアウルの様に、僕に思う所ある?」

「あん? 別に俺はやれと言われりゃやるだけさ。ユリスの言う事には基本従えって言われて来たし」

「だが、もう今の彼女は連合の駒じゃないよ」

「関係ねえよ。なんだかんだで面倒見て来てもらったんだ。どこぞの顔も知らねえ奴等よりは、ユリスの方がよっぽど信用できる。だから、ユリスが言った以上お前の事だって裏切るなんて思っちゃいねえ」

「そうか……それじゃ、その信用に対しては結果で応えて見せよう」

「援護は任せな。一応はこいつらのまとめ役だったし、視野は広いつもりだ」

「OK、任せたよスティング」

 

 言って、タケルは装備を確認すると、ユリスを見やった。

 わかり易く気配が変わったタケルに触発される様に、ユリスもまた自身の装備を確認してからその気配を戦闘に向けたものへと変えていく。

 

「アウル、ステラ。2人はスティングの護衛よ。私達が居ない間知らない奴が来たら遠慮なく狩りなさい」

「あいよ」

「──わかった」

 

 すっ、と豹変していくステラの気配。

 先程までの幼い印象から一転。戦士の顔つきへと変わったステラを見てタケルは目を丸くした。

 

「驚いた?」

「随分な変わり様だね。戦闘中はこんな感じなの?」

「そうよ。兄さんも油断してると噛みつかれるかもしれないから気を付けなさい」

「まさか、君の殺気と噛みつきっぷりに比べたら可愛いもんだ。それに、嫉妬は見苦しいよ」

「殺す」

「やってみろ」

 

 ひゅっ、と風切り音と共にナイフが振るわれる。

 それを首を傾けて回避したところで、タケルはユリスと睨み合った。

 

「──時間の無駄ね」

「気づいてもらえて何より」

「ふんっ!」

 

 わかり易く互いにそっぽを向くと小型艇のハッチへ向かい歩き出す。

 

 酷く不安な出だしではあるが、ミッション──スタートである。

 

 未だ険悪な雰囲気を纏う2人を見送ったアウルとスティングは、嫌な気配と不安を感じずにはいられず、互いに顔を見合わせて何とも言えぬ表情を浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちぃ、何て馬鹿げたものを作りやがったんだ連合は!」

 

 出撃したミネルバの部隊もデストロイの阻止に動き出した、ベルリンの戦場。

 都市部は正に戦火の文字に相応しく、至る所で炎が上がり曇天の空を紅蓮に照らしていた。

 

「あんな形しておきながら、射撃の精度も十分じゃねえか────レイ、ルナマリア! ガナーとスラッシュじゃ、あの射線は躱しきれねえ。ブレイズ装備で出撃しろ!」

「了解」

「わかったわ!」

 

 応じる声と共に、出撃準備を進める2人は機動戦用のバックパックを備えたブレイズ装備へと換装。

 

「レイ・ザ・バレル────ザク、発進する!」

「ルナマリア・ホーク────ザク、出るわよ!」

 

 漸くの準備が整ったところで、2人も出撃。

 ザフト駐留部隊が壊滅している中、ユニウスセブンの時の様にアークエンジェルとミネルバが再び並び、デストロイを撃破するべく挑んでいく。

 

「レイ、ルナマリア。巨大兵器は空戦のできる俺達で引きつける。お前達は出て来たカオス達を抑えろ!」

「ハイネ・ヴェステンフルス! 敵の攻撃範囲は脅威です。貴方は一歩引いてミネルバの護衛に回って下さい。レイとルナマリアがアレの攻撃に巻き込まれないように前線での戦闘管制を」

「あぁ? 一体何の具申だヤヨイ。俺に後ろで縮こまってろってのか!」

「機動性でセカンドステージに劣り、近中距離でしか戦えないグフではあれを相手に何の牽制にもなりません! それよりも視野の広い隊長だからこそできる事があるでしょう!」

 

 アムフォルタスプラズマ収束砲でデストロイを牽制しながら、サヤは叫んだ。

 サヤが言う様に、グフのメイン武装は近中距離を主軸にした装備ばかり。テンペストソードにスレイヤーウィップ。距離を取って放てるのはアームに備えられたビームバルカンのドラウプニルだが、デストロイ相手には豆鉄砲も良いところ。

 かと言って、空戦仕様のセイバーや機動戦用のフォースインパルスに比べればグフのフライトユニットは心許ない。空中戦を可能としている程度であり、その機動性はお世辞にも高いとは言えないのである。

 

「ちぃ、言ってくれるじゃねえか。だが正しい見解だ────わかった、だがお前等2人で何とかなるのか?」

「何を言っているのですか。もう一機、頼みにできる自由の翼が居ます」

「自由ってお前──」

 

 この場にその名を冠するものなど一つだけだ。

 敵対関係ではないかもしれない。だが、決して友軍でも味方でもない。ダーダネルスでは救われたが、かと言って頼みにできるほどまともな連携を取れるのかと、ハイネは訝しんだ。

 

「あれのパイロットとは知己の間柄。私ならば、協力は問題なく可能です」

「あぁ、そう言うことかい。ったくお前吹っ切れてから本当に好き勝手言う様になったなおい。分かったよ、全部好きにやれ。その代わり絶対にあれを止めろ!」

「無論です!」

 

 了承を得た瞬間に、サヤはセイバーをフリーダムへと向かわせた。

 

「へっ、ヤヨイの時はただの堅物クソ真面目でしかなかったが、お前の妹は随分生意気な奴だな、クルースよ!」

 

 亡き戦友を想いながら、ハイネはレイとルナマリアの援護をしつつデストロイと距離を取り、ミネルバ近傍での防衛戦にシフトしていく。デストロイの一挙手一投足を伺い警告を促しつつ、ミネルバに向けて放たれたミサイルをドラウプニルで迎撃。前線での戦闘管制に務めていった。

 

 

 

 

 

 次々と放たれる光条を躱しながら、キラは届かぬとわかっているバラエーナの砲撃を撃ち込んだ。

 陽電子リフレクターによって霧散させられる光の束に歯嚙みし、それでも次の一手をまた撃ち込む。そうして攻勢を見せ続け意識を引き寄せないと、アークエンジェルに砲火が向いてしまう。機動力の低い艦船を本格的に狙われては、あの射線だ。ひとたまりも無い。

 

 瞬間、悪寒と共にフリーダムのセンサーが警告を発した。

 

 フリーダムを覆わんばかりの物量で放たれるミサイルの雨。フルバーストで迎撃をしようと構えたところで、気がつく────フリーダムのエネルギーが限界ラインまで枯渇していたことに。

 効かぬとわかっていながらも、苛烈に攻めざるを得なかった状況が災いした。元々豊富な武装で燃費は悪い機体だと言うのに、戦闘の厳しさにエネルギー管理が疎かになっていたのだ。

 

「しま──」

 

 エネルギーが無ければPS装甲も機能しない。デストロイから放たれるミサイルは十分な威力を以てフリーダムを破壊するだろう。

 

「キラ!」

「キラ君!」

 

 カガリが。マリューが慄く声を聞きながら、フリーダムにミサイルが降り注ごうとする刹那。

 

「させるとお思いですか!!」

 

 真紅の機体が背部の大型ビーム砲でミサイルの群れを薙ぎ払って見せる。

 

「キラ・ヤマト! すぐに補給をしてきてください!」

「えっ!? その機体、もしかしてサヤ! 記憶が戻ったの!?」

 

 フリーダムに乗っているのが自分だと知っている。記憶を失っていればあり得ない呼びかけに、キラは思わず飛びついた。

 

「この場で問答する事ではありません! 今優先すべき事だけお考えください!」

「あっ、う、うん! わかった、助けてくれてありがとうサヤ!」

 

 急いでアークエンジェルの元へと向かうフリーダムを見送って、サヤはセイバーをデストロイへと向けた。

 

「全く、戦闘中にどうでも良い事で無駄な問答を……お兄様の弟なのですからもう少ししっかりして欲しいものです」

 

 全くもって酷い言い草である。言われればその通りの話ではあるが、記憶を失ってた身内がいつの間にかその記憶を取り戻して完全復活していたとなれば、本当なのかも含めて問いかけてしまうのは仕方ないだろう。

 

「そう言えば……キラ・ヤマトがお兄様の弟なら、私にとって彼もまた兄になるのですか……」

 

 考えて、サヤは即座に被りを振った。

 

 違う違う。何をバカな事を。兄と結ばれるのは自分なのだ。むしろサヤ・アマノにとってもキラ・ヤマトは弟になると言う事だ。なれば、未来の弟を守るのは姉である自身の務め。あの程度の不甲斐ない姿は寛容な心で許してあげるべきだ。

 

 悲しきかな。未だサヤ・アマノはナタル・バジルールの存在を知らない。

 どうでも良いがちゃんと戦えと、赤毛の同僚から声が飛んできそうでサヤはそこで考えるのを止めた。

 

 MCSでエネルギーをチャージすればキラとフリーダムはすぐにでも復帰するだろう。それまではシンとサヤの2人であれ(デストロイ)を抑える必要がある。

 見ればサヤがバカなことを考えている間に、シンのインパルスはデストロイと熾烈な攻防を繰り広げていた。

 インパルスは巧みな軌道を描いて接近。ビームライフルの牽制を織り交ぜて、アームユニットからの射撃を掻い潜り距離を詰める。だが、直上から降り注いだミサイルの雨に断念して再び距離を取った。

 

「あぁ、何故かはわかりませんが、今の私には貴方の動きが手に取るようにわかります────シン」

 

 機動の一つ。攻め手の一つ。どれもサヤの目には一歩先のインパルスの動きが見える様であった。

 共に過ごしてきた時間が────兄の下でシンと共に研鑽を積んだ時間が。SEEDによって限りなく互いの思考を読み合える繋がりを生み出したのかもしれない。

 

「──これは、貴女が遺した繋がりなのですね。ヤヨイ・キサラギ」

 

 胸の内に残り続ける、もう1人の自分。彼女の意思と想いに従う様に、サヤはセイバーを走らせた。

 向かう先は1人(ソロ)で踊るインパルスの元へ。ここからは2人(デュオ)で翻弄して見せよう。

 

「その後はサヤの義理の弟と、3人(トリオ)で舞いましょう!」

 

 寸分の狂いなくインパルスの動きに合わせながら、セイバーはデストロイへと突撃していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふぅ、と一息ついてタケルは死屍累々な周囲を見て顔を顰めた。

 

 状況は終了。ラボは既に、タケルとユリスの手の内である。

 

「なかなかヘビーなミッションだったな。と言うか、僕がほとんど受け持ったからだけど……」

 

 不服そうに呟くタケルの肩には、どっしりと疲れが乗せられている様であった。

 

 共にラボへと潜入した2人。

 ユリスはまず先んじてザフトに襲撃された旨をネオに報告するとして通信室へ急いだ。事を起こすにしても事態を報告されてはすぐに鎮圧部隊を送られてしまう。タケル達はラボを制圧してからもやるべき事がたくさんあるので通信室の制圧は最優先であった。

 無論、それに被験体であるアウルがついていく必要はないのでタケルはそこでユリスと別れ、ラボのスタッフにメディカルルームへと連れて行かれて早速処置を受ける流れに。

 部屋に着いた瞬間に研究員を全員掃討。ステラ達にとって最も重要な身体調整設備である“ゆりかご”を確保した。

 その間にユリスは通信室を制圧。外部との一切の連絡を遮断してその後も別の人間が来て通信を飛ばされない様に通信室を徹底して防衛。哀れ、何も知らずに訪れたスタッフ達は全員、首輪も取れてウキウキな彼女に狩られることとなる。

 そうこうしているうちに、タケルはメディカルルームを電子的に完全ロック。別の人間が絶対に入れない様にしてから、スティングの管制を受けてラボの完全制圧に乗り出していく。

 ハンドガンとナイフという軽装備でありながら、ダクトを使い、移動と潜伏を繰り返し、敵を見つければ声を挙げさせないで仕留めていくその様は、スティングに完全に殺し屋じゃねえかと言わしめた。

 しかし、タケルからすれば優秀なのはむしろスティングの方である。

 

「スティングの管制が無かったらここまで楽にはいかなかっただろうね。これも訓練させられてるのかな」

 

 そう。タケルが動き出してからのスティングのサポートが完璧であったのだ。死体を隠す場所。接敵の場所を選ぶのがとにかく的確。

 タケルが言う様にステンングの管制がなければ、これほどまでに静かに事が運ぶことはなかっただろう。

 

「ユリス、そっちはどう?」

『いま通信記録を洗ってるわ。定期連絡は明後日の様ね』

「となると、滞在できるのはせいぜい1週間ってところか」

 

 タケルはユリスの報告に思案していく。

 定時連絡がない事を怪しんで動きだすにしても、部隊の編成などもあるだろう。

 当然ながら移動の時間だって必要だ。秘密裏に存在しているラボであるなら、大っぴらな行動もし難い。

 制圧部隊を送るにしても、空路では目立ちすぎるため、彼等が小型艇で来た様に海路で来ることになる。

 

「どの道あまり時間に余裕はないね。スティング、とりあえずステラ達を連れてこっちに来て。ゆりかごってやつで調整を済ませたら、色々と手伝って欲しいから」

『あいよ。すぐそっちに行く』

「あっ、艦内システムと索敵を有効にしておいて。こっちの警報装置と連動させるから」

『そんな事もできんのかよ。わかった、やっとくわ』

『兄さん、私は被験体達を先に処理しておくわ。罷り間違って騒ぎや反乱を起こされても面倒だし』

「淡々と非情な事言ってくれるね。良心の呵責とかないのか君は」

 

 思わずタケルはため息と共に顔を顰めた。

 彼女が言う様に、必要な事ではあるだろう。被験体として十分に訓練されていれば戦闘能力は高い。騒ぎや反乱は当然だが、鎮圧部隊が送られた時に利用されるリスクもある。敵となる可能性があるのなら、処分をしておくに越した事はないのである。

 

 それがステラ達より幼い子供達ばかりであろうとも……だ。

 

 幸いにも被験体達はそのほとんどが鍵付きの部屋に押し込められているし、洗脳も十分なためか自ら動き出す事がないから処分自体は難しくはないだろう。

 倫理的、精神的な負荷を除けば。

 そんなタケルの気持ちを察して、ユリスは通信越しにありありと疲れた声を漏らした。

 

『はぁ……兄さん、被験体は生体部品よ。連合にとってはそう言う存在なの。と言うか、兄さんにやらせないだけずっと有情だと思いなさい』

「嬉しいけど嬉しくない気遣いだね……」

『悪いのはこんなラボを作った奴。そして嬉々としてこんな研究を繰り返してる奴等よ。私達は生き残るためにすべき事をしているだけ』

「そう簡単に割り切れるものじゃないさ」

『割り切りなさいよ。被験体達がどうなろうと、兄さんが背負うものじゃないわ。そんな事で思考を鈍らせないで』

「──わかってるよ」

 

 言われるがままに嫌な気持ちを飲み下して、タケルは前を向いた。

 どの道目的のためにこの研究所の人間を手にかけたのは自分も同じ。生き残るために戦い命を奪うのは、MSでも生身でも変わらない。

 そう無理矢理納得させて、タケルは死屍累々となった部屋を後にしてメディカルルームへと急いだ。

 

 

「僕も、生きて必ず帰ると決めたんだ……」

 

 

 ラボのどこかで聞こえる銃声を耳に残しながら、タケルは自分がやるべきことに思考を割いていくのだった。

 

 




と言うわけで、前書きの通りちょっと嫌な展開となりました。
そう言うわけであまり細かに描きたくなくて、ラボ制圧は地の文だけの全カットです。2人の戦いとか期待してた読者さんはごめんなさい。

そしてサヤちゃんは色々と吹っ切れて平常運転に。
ただ含みがあった様に、彼女の中にはヤヨイも息づいてて色々と複雑な感じ。
次回はデストロイとの戦いがメインになる予定。どうぞお楽しみに。

感想、いつもありがとうございます。
いつもいただけてる読者のお声が、本当一番のカンフル剤です。
これからもお楽しみいただければ幸いです。
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