「探索任務……でありますか?」
わかり易く不満を乗せた声音であった。
当然というか、予想通りと言うか。そうなるだろうなとわかっていた様でそれを伝えたハイネは苦笑する。
ミネルバのブリーフィングルームにて。シンとレイ、それからハイネとアーサーと言う取り合わせの中、司令部より通達された任務の確認をしているところだ。
デストロイの戦いから数日。彼等は近くの基地へと帰還し態勢を整えており、機体や艦の整備の最中だ。そんな折、ミネルバには司令部より新たな指令が下されていた。
しかし、それが探索や調査の類だと聞かされ、シンは何とも面白くない顔をしているという訳だ。
「はぁ、そんなわかり易い不満の声を出すなよお前は。上からの命令ってのは基本的に絶対なんだぜ。お前、自分が軍人だってことわかってんのか?」
「わ、わかってるってハイネ!」
「だったらもうちょい素直にしろい。レイを見ろよ。お前みたいに不満なんておくびも出さない……全く表情に変化がないだろ」
「いや、それはいつもの事だし」
俄かに、失敬な、と言いたげなレイの視線がシンへと向けられるも、シンはハイネとのやり取りに夢中で気が付かない。対面に居たハイネはその事に気づいてまたもや苦笑した。
仏頂面ばかりかと思っていたが、一応の感情の起伏はあるらしい。ハイネにとっては新たな発見であった。
「とにかく、任務の内容を説明するぞ。地域住民からの報告でな、この離島に連合の息の掛かった何やら不明な研究施設の様なものがあるそうだ。今は静かだが、つい先日に戦闘音の様なものも聞こえたらしい。以前は航空機、MSなんかも出入りしていたらしく、かなりの規模の施設である事が予想される。
ミネルバも現地に向かうが、先だって2人には明朝0700で偵察調査に入ってもらいたい」
アーサーの説明と共に、該当場所周辺のマップが表示されていく。それを確認しながらも、やはりシンはどこか不服そうな気配であった。
「そんな任務に、ミネルバが遣わされるんですか?」
「ばぁか、お前考えても見ろよ。直近であんな惨事があったんだぞ。地域住民は当然の事、ザフトの司令部だって神経質になってんだ。もしまたあんなのが製造されて、また出てきたらどうするってな。有事の際の対応も可能な俺達が先んじて調査するのは当たり前だろう」
「あ、そっか……それはまぁ」
先の一件。連合による破壊活動である事は周知の事実。そして、そんな連合の息が掛かった施設となれば、第2第3のデストロイがまたどこかに表れるかもしれない。
そう考えるのは至極当然であり、そしてまたその恐怖に人々や司令部が怯えるのも当然だ。
現在の情勢において多大な戦果を残しているミネルバだからこそ、今回の調査に白羽の矢が立ったと言うべきだろう。
「場合によっては十分な戦力を必要とする事態が予測される……という事ですか?」
「そういうこった。インパルスとザク。それから航空機でトライン副長と、ここには呼んでないがメイリン・ホークを行かせる予定だ」
「ハイネ。何故メイリンまで?」
自分達は分かる。MSを駆り十分に戦えるのだから。アーサーもその自分達をまとめる指揮官としていくの理解が及ぶ。だが、最後に付け加えられたメイリンの名前に、レイは疑問を投げた。
「オペレーターとして、彼女は情報分野のエキスパートだからな。クルースにも随分遊んでもらってたみたいだし。研究所らしき施設となれば彼女が居る事で手に入る情報も多いだろう。
つーわけで敵勢力が出てくるようならしっかり守れよ。守り切れなかったら全部お前達に責任を吹っかけるからな」
「だ、だったら、最初から俺達だけで良いじゃないか」
「そうは言ってもな、本格的な調査をするには機材の準備もいる。先んじて入った我々の報告から、ミネルバは調査準備を整えて、到着と同時に直ぐに動き出せるようにしたいわけだ。施設の破棄を考えて連合が動くやもしれん。調査を迅速に進めるためには必要な事なんだぞ」
アーサーの説明に押し黙ると、シンはまた不服そうな表情を見せながらも、何とかそれを飲み下した。
「むぅ、分かりましたよ」
「うん、よろしい」
「本当なら俺が行くべきなんだろうが。グフはこの前の戦闘でまだ修理中だ。悪いけど、しっかり頼むぜ」
「了解、です」
「了解しました」
どうにか納得を見せたシン。
敬礼を残して退室していく2人を見送りながら、ハイネとアーサーは顔を見合わせて、まだまだ未熟な少年に苦笑を溢すのだった。
オーブ首長国連邦オノゴロ島・モルゲンレーテ本社。
大型のシミュレーターが数多く設置されている大規模訓練エリア、その一角にて。
真剣も真剣、超真剣。鬼気迫る集中でもって、訓練に没頭する3人の女性が居た。
「あぁああ!?」
「うっ、くぅうう!」
「はっ、ははは……」
どうやら一勝負が終わった様だ。玉の様な汗を浮かべながら、彼女達はシミュレーターから這い出て来た。
3人は揃って顔を見合わせると、大きなため息を吐いてその場を後にすると休憩スペースへと向かって行く。
「アサギは……どう?」
「3分持ったよ。まぁ……それだけだけど」
「最初は1分も持たなかったんだから凄いんじゃない。私なんて、右腕と左脚しか無事な所無いんだから」
「全部で25個の破片に切り刻まれた時と比べればまだ機体と四肢が繋がってるだけマシじゃないかな……私なんて、接近されてビームサーベルで墜とされるのだけは阻止できてる程度だもん」
「それって一番凄い気がするけど。キラ君、接近するのだってやばい上手いじゃん」
「アサギだって、アマノ三佐のシロガネから3分逃げ切りは、ザフトや連合からすれば勲章ものだと思うけど」
「マユラちゃんだって、あの殺意の塊みたいなアスラン君から機体の原型を保たせているんだから凄いんじゃないかな」
当たり障りの無い互いの成果を褒め称えて、3人の間には沈黙が過った。直後にまた、大きな……それは大きなため息が漏れる。
ぐったりと落とされた肩には、彼女達の疲労の度合いが表れているといえよう。
教官であるタケル・アマノが居ないというのに、彼女達は随分と厳しい訓練に明け暮れている様だ。
「ホント、アマノ三佐って頭おかしいんだよね。速すぎて頭ではどうにか追いついても身体が反応しきれないって言うか……」
アサギはタケル・アマノが操縦するシロガネの仮想データを相手に、武装無しでのドッグファイト。
異常な機動で苛烈に攻めてくるシロガネを相手に、落とされるまで逃げ続けるという頭がおかしくなるミッションを繰り返している。
偏に得意な機動戦における生命線である、回避能力を絶対的なものにするためではあるが……その相手がタケルとシロガネの組み合わせとなっては、それはもはや人類最高峰の速度領域に片足を突っ込む所業である。
反応速度で追い縋れないアサギはどうにかシロガネの動きを先読みする事で生存時間を延ばしていた。
「アスラン君もさ、きっちり軍人上がりっていうか、凄く真面目でしょ。何て言うか、基本を徹底して隙がなくて。逆に隙を晒せば即叩き切られるし……もうトラウマ級に怖いのよ」
マユラの相手はアスランとジャスティスの組み合わせである。互いに突撃からの接近戦で徹底して切り合う、まるで武人の様な戦いをしている。
これもまた彼女が得意とする接近戦での練度を引き上げ絶対的なものへと昇華する為のものではあるが……如何せん先のジュリの言葉にある様に、最速最短最効率を描いて切り付けてくるジャスティスは殺意の塊の様なのだ。マユラは搦手でもなんでも、卑怯と言えるような手段すら用いて必死にそれを捌き、切り返していた。
終わった時にマユラがトラウマを抱える事にならないのか少々不安である。
「私も……キラ君の狙いつけてから射撃までのタイムラグが無さ過ぎて……回避ばっかりさせられて全然撃ち合えないの。どんどん追い込まれて行って最後にはフルバーストで終了……」
そしてジュリの相手にはキラとフリーダムである。
互いに距離を取った状態からの撃ち合い。ジュリは近接武器を使用しないルールで、どうにかフリーダムとの射撃戦を制するのが目標だ。
しかし、異次元の反応と、異次元の精度で放たれる射撃に正に手も足も出ず。ジュリは自分の武装とフリーダムの武装を研究し、徹底的に戦術を組み上げて対抗していくしかなかった。それでもどうにか、まともな射撃戦に落とし込むのがやっとであった。
「やっぱり思うけど……」
「あの3人って……」
「何と言うか……おかしいよね」
言った。言ってしまった。
あえてそこまでは明言していなかったというのに。アサギとマユラは、ジュリが言葉にしてしまったそれに、内心で同意をしながらも肩を竦めて半笑いを浮かべた。
「ジュリ……そこは濁すところだよ」
「アマノ三佐が聞いたら泣いちゃうんじゃない」
「でも、アサギちゃんもマユラちゃんも、そう思ってるでしょ?」
「それは……」
「まぁ、ね」
それ見た事かと、ジュリはどこか勝ち誇った顔を見せた。
幸いにして彼女達が相手にしているデータは、彼等が持つSEEDの領域までは組み込まれていない。
が、それでも異次元な腕前を持つパイロット達である。おかしいという表現は、もはや否定しようも無い事実だ。
「はぁ~、私達満足いくところまでやれる様になるのかなぁ」
「やるしかないでしょ。それが私達の役目だし」
「せっかく、アマノ三佐が見込んで残してくれたデータだもんね」
そう、何故彼女達がこんなにも厳しいデータでの訓練を行っているか。
それは現在開発中の、彼女達の専用機を乗りこなす為である。
以前にエリカがアマノ邸で発見したデータを元に始まった開発プロジェクト。
それはタケル・アマノがずっとずっと未来の開発事情を夢見て抱えていた、設計思想から始まっている。
シロガネ、アカツキ、アストレイの系譜となる発展機。更には妹のサヤ・アマノの為に考案した専用機まで。正に、彼の夢が詰め込まれたデータであった。
その中で現在優先的に開発を進められているのが、彼女達の専用機である。
M2アストレイより続く、ウェポンパックによってそれぞれ適正を磨いてきた彼女達。その能力と適正に合わせた形で、カゼキリをベースに機動戦、接近戦、射撃戦へと特化させた新たな量産機へと発展させる。今開発されているのは、その試作ベース機であった。
言うなればこれは、フレキシブルにパイロットの要望に応える汎用機カゼキリから、そのままパイロット専用へと発展進化させる最初の一歩であり、テストパイロットとしての彼女達の本分である。
量産機でのテスターであったこれまでとは違う。完全に次なる量産機へと繋げるための先行試作機のテストパイロットとなるのだ。
想定されるスペックだけでも、タケルが帰国した際に持ち帰ったセカンドステージの予想スペックを上回る。つまりはザフトレッドと同等なレベルの実力を備えなければならない。彼女達に求められる技量は、随分と高いものであった。
ザフトレッドと言えば、彼女達は一度イザークやディアッカと模擬戦を経験しているが、1人1人の実力ではまだまだ及ばないというのが結論である。ナチュラルとコーディネーターの差がある以上、それは仕方のない事ではあるが、新たな試作機を乗りこなせるようになるためには、これまで以上の努力が必要であったのだ。
「まっ、でも頑張るしかないよね」
「それだけ期待されてるって事だし」
「いつかシミュレーションで勝てるようになった暁には……3対3で挑んでみたりとか」
「あ、いいかもそれ!」
「個人じゃ敵わないけど、私達で連携すれば!」
「勝負くらいはできる様になりたいもんね」
自然と、目標は明確に。そして彼女達は更なる上を目指していく。
だから彼女達は強くなっていくのだろう。いつまでも、どこまでも……彼女達の先には、ひた走り続ける教官が待っていて、早く来いと呼んでいるから。
「さっ、休憩終わり! 次は5分だ!」
「私も、次こそアスラン君に一矢報いてやるんだから!」
「私も……フリーダムを必ず撃ち落とすよ!」
意気も揚々と休憩室を出ていく3人。
今日も今日とて、彼女達は隠し持った刃を研ぎ澄ましていく。
来たるべきその日が、訪れるまで……
「はぁ……」
端末を操作しながら、タケルはため息を吐いた。
連合より送られて来た調査部隊をユリスが徹底的に壊滅させてから、また何度か日を跨いでおり、今は小型艇に積み込んだ資料の類を読み漁っているところである。
ユリスはアウルとスティングと共に、まだまだ残ってる機材の搬入にラボへと出向いており、小型艇にはタケルとステラしかいない。
そしてタケルがこれ見よがしにため息を吐く理由が……
「ん、タケル……なぁに?」
可愛らしく小首を傾げるステラであった。
親から離れられない子供の様に、ずっとくっついてきては何だか嬉しそうに鼻歌を歌う。
タケルにとっては別に、この程度で集中を削がれる様な事は無いが、かと言って邪魔じゃないかと言われればそんな事もない。
いちいち動くのにも気を遣うし、あれこれ資料を読み耽ろうにも、全く構ってやらないと幼子らしく微妙に癇癪を起こして腕を引いてくるのだ。
その都度頭を撫でつけてやるのだが、流石に煩わしい……とは思いつつも、やはり撫でつけられて目を細める姿は猫の様で、在りし日のカガリを思い出しタケルはどうにも怒る気にはなれなかった。
「はぁ……甘いよねホント」
「あま、い?」
「ステラは可愛い子だねって事」
それを聞けばぱぁ、と顔を輝かせるステラ。タケルも釣られて笑みを浮かべるしかなかった。
そうして片手でステラをあやしながらも、一方で資料を読み進めていく。
幾つも呼んでる内に、忌避感はある程度薄れてきていた……慣れとは怖いものだと、タケルはつくづく自嘲しながら資料を読み進めていった。
「(なるほどね……ゆりかごの機能は基本的には催眠暗示による記憶の操作と洗脳操作。薬物の噴霧は身体調整と言うよりも……中和、と言うべきか。恐らくはドーピングの様に、戦闘時における高いパフォーマンスを引き出す成分の反動を中和剤で抑制している。
つまりゆりかごによる身体調整とは、戦闘に因ってオンとなった身体の状態を催眠暗示でオフに切り替えて、その上で中和剤で身体への負荷を極低レベルに引き戻してるわけだ)」
ふと、何かに思い至りタケルはステラを見た。
何だろうと、またも可愛らしく首を傾げるステラを見ながら、タケルは周囲の気配を探った。
近くにユリスの気配はない────意を決した様に、タケルは口を開いた。
「ステラ、ちょっと上の服を脱いでくれる?」
「服? わかった」
羞恥心など欠片も無いのだろう。何の疑問も抱かずに、ステラは連合の軍服の上着を脱いでいく。
「うん、ありが──って待った待った、そこまでは良いよ! 下着は着てて!」
いくら精神年齢が幼いとはいえ、ステラは肉体年齢的には十代後半の体つきをしている。
ユリスによって必要なものはしっかりと着けている。着けなければ身体に良くないのだから当然だ。
脱げと言われて包み隠さずと言わんばかりに全てを脱ごうとするステラを慌てて止めて、タケルはまた1つ疲労のため息を吐いた。
「全く……こんな事ナタルに知られたら終わりだよ。とりあえずステラ、後ろを向いてくれるかな?」
「うん」
言って、ステラはタケルに背を見せた。
端正の取れた綺麗な背中……このラボの事実を考えれば不自然なくらい、傷跡の1つも無く綺麗である。
タケルはそんなステラの背中に視線を巡らせていく。
「(戦闘状態へのスイッチが入るとしたら、都度外部的な薬物の接種が必要なはずだと思ったけど……定期的な注射の痕は無い、か。だとすれば、外科的に分泌腺を備えてる? 脳内麻薬やそれに準ずるものを。でも、その程度では能力強化としては弱い。大なり小なり、通常の人間が備えている機能だ)」
首から背骨を伝って腰まで。次に肩、二の腕。どこにも注射による痕はステラの体には見受けられなかった。
となれば、能力強化を担う成分は身体1つで自己完結している可能性が高くなる。
だが、そんな事が可能なのか……。人間が本来持つ能力を上回るような能力の発現が、体内で完結する様な事が。
タケルは必死に思考を巡らしていった。
「ステラ、注射って知ってる?」
「う、うん……痛い、嫌い……ステラ、注射するの?」
「ううん、しないよ。最近注射した事ある?」
「──ない。嫌い」
言って、怖さを誤魔化すように、ステラはタケルの服の裾を掴んだ。
記憶を操作できる以上、ステラの記憶だけでは確証にはならないが、わざわざその記憶だけ消す様な処置もしないだろうと、タケルは外的な薬物の接種の線は無いと結論付けた。
「(しかしそうなると……一気に難しくなるな。体組織は薬物による成長促進で能力をコーディネーターに近づけたとして。戦闘状態への移行をもたらすものは何だ……それでどうやって、本来の能力を上回る戦闘状態を発現……)」
ハッとして気付く。その可能性を見出す要素が己の内にあった────タケルは天啓の如く舞い降りて来た可能性を掴む。
「(SEEDと同じだ。あれもマルキオ様の見解では、本来意識下に引き出せない脳領域の解放。
SEED同様に、無意識にセーブされてる身体機能の能動的発現。それに必要な、脳内麻薬の分泌や促進ホルモンを後天的に処置、投与……これで、ナチュラルとしての限界を超えている。もしそうだとすれば、戦闘後早めの処置を施さないと体が壊れると言うのも説明がつく……つまりは自身の肉体を顧みない暴走状態に等しいんだ。単なる筋力的な部分に限らず、神経系や内臓器官の動きに至るまで……あらゆる身体機能が過剰活動を開始。そうなれば、エネルギーを急速に消耗し衰弱して死に至る)」
「ねぇ、兄さん」
「何だよユリス。今良いとこ……ろ……」
聞こえた声に、その齎す意味に、タケルは表情を固めていった。
「ふぅ~ん、良い所? それは邪魔して悪かったわねぇ~」
さて、状況を説明しよう。
タケルはまず、ステラに上の服を脱げと頼んだ。故に、ステラは上半身は下着のみと言う状態である。
次に今のタケルとステラの状況だが、注射の事で不安になったステラがタケルの腕を取り、まるで離れないと言わんばかりにタケルの腕を抱きしめている状態だ。
思考の海に落ちていてタケル自身は全く気が付いていなかったが、非常に柔らかな感触が伝わってきている。
結論。その姿はステラを剥いて、手を出しかけている変質者のそれである。
「まさかこんなに早くステラに手を出すとは思わなかあったわよ……ロリコン兄さん」
「────言いたいことは良く分かるが、せめて弁解させてくれ。正真正銘本当に僕にそんな気はないから」
「遺言は、それで良いかしら?」
「断固としてこんな事で殺されるのは御免被る」
「ユリス……ステラ、注射嫌」
アウト! タケルは内心で頭を抱えながら叫んだ。
思わせぶりな単語を何故そこで発してしまうのか。少し怯えながらステラが漏らした言葉に、一気にユリスの視線は絶対零度を纏い始め、ステラを強引に引き寄せると、上着を着させ始めた。
「待って、ユリス、誤解だって!」
「うっさい! 金輪際、ステラに近づかないで頂戴!」
「いや……まぁ、それは別に良いけど……じゃあアウルとスティングに──」
「手あたり次第!? 嘘でしょ兄さん!」
「君の頭の中に広がってる世界が全部嘘だらけだよ! 少しは頭を使ってくれ!」
「一体何をどう考えたら、ステラ達の服を脱がす様な事になるのよ!」
「それがわからないから君は僕に助けを求めてるんだろうが!!」
「意味わかんないわよ!」
「わかる努力をしろ!! せめて話は聞け!」
ぜぇはぁぜぇはぁと、その場に息も絶え絶えな2人の吐息だけが漏れ聞こえる。
静まり返った空間に、荒ぶった感情が引いていき、少しずつ2人は冷静になっていった。
「────はぁ、分かったわよ。一応事情だけは聞いてあげるわ」
「甚だ疑問なんだけど、僕が居ないとこれからどうにもならない事、わかってるんだろうね?」
「ステラの純潔は重いのよ」
「勝手に僕がそう言う目を向けてることにしないでくれるかな? さっきのはステラの身体を診てただけ。見るって言うのはただものを見る方じゃなくて、医療行為の診る方ね。検診の方だからね」
「そこまで馬鹿じゃないわよ」
そこまで馬鹿だからさっきみたいな事になったんだろ!
と叫ぼうとして、タケルはギリギリで踏みとどまった。言っても理不尽な反論で返されるだけだと思った。それならばさっさと話を進めた方が何倍も有意義だ。
「ユリス、君にも確認しておきたい。ステラ達は戦闘前に経口摂取による薬物の類はあった?」
「無いわ」
「じゃあ注射器によるものは?」
「無い。ステラ達はそう言った戦闘前に準備が必要な運用ではないもの。代わりに戦闘後には調整が必要になって来るけどね」
「確か、以前の君の仲間であるブーステッドマン達は、戦闘前に摂取していたんだよね?」
「クロト達のあれは、効き目が強すぎる上に短時間しか持たない。その上切れた後は禁断症状と余計な制約が多すぎたから廃れたのよ。ステラ達は準備無しで戦闘に入れるし、ゆりかごの調整までも日単位で持たせられる。大分運用しやすくなってるのよ」
「その戦闘状態へのオンオフについて、何か聞き覚えは?」
「えっ? そうね……研究員が話してたのを聞きかじった程度だけど、人間が元々持つ成分に連鎖反応して一気に戦闘状態へと身体を持っていくとかどうとか」
「そうか……やっぱり」
取っ掛かりは見えた────掴めた。先程まで描いていた推測は、当たらずとも遠からずと言う所だろう。
メンデルにたどり着いたら時間を掛けてステラ達を身体を分析していき、異常戦闘状態へと至るメカニズムを突き止めれば、解決の道は見えてくる。
タケルは、そう確信した。
「何よ兄さん。嫌らしい笑み浮かべちゃって。まさかステラの裸思い出してるんじゃないでしょうね?」
「裸じゃないし。下着は着けてたし。後、別に嫌らしい笑みとか浮かべてないから。とにかく、道は見えて来た────機材の搬入はどうなってるの?」
「今スティング達が作業してるので最後。使えそうなものは全部搬入したわ」
「上々。それじゃ2人が戻ったらすぐにでも──」
次の瞬間。まるで先日の焼き増しかの様に警報が鳴った。
即座にタケルとユリスは表情を変えて、艦橋へと向かう。
コンソールへと手を伸ばし状況を確認していくと、やはり接近してくる熱源が検知されていた。
「索敵に反応、ってこれは!?」
ユリスが驚きを見せる中、タケルもまた驚愕に目を見開いた。
モニタに映るのは良く見知った機体。
「────インパルスに、ザク」
共に並び、共に戦った戦友たちの機体。
無論、その出所はつい先日まで過ごしていた艦であろう。
「なんで……何でザフトが、ここに」
続く道は、新たな交わりを見せていた。
本作ではSEEDも独自解釈故にね……勝手に色々と理屈づけしてます。
感想お待ちしております。