機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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PHASE-56 交わらぬ運命

 

 

 緊急事態。

 元々、連合の制圧部隊が来ることは予想されていたが、早くてもあと数日は後だと思っていた矢先の事であった。

 

 タケル達が身を潜めるラボへと、ザフトの……それもミネルバの部隊が調査に来たのだ。

 

「ちょっと兄さん、どういう事よ!」

「僕に聞くな! 知るわけないし通信だってできるわけないだろ!」

「とにかく、ディザスターで迎撃に!」

「ダメだ、ユリス!」

「何よ! まさか討つなとでも言いたいの!」

「違う! 闇雲に応戦するのは危険だ」

「何よそれ」

 

 惑うユリスを尻目に、タケルはコンソールで現在の情報を洗う。

 接近してくるのはインパルスとザク。そして航空ヘリが1機。後方にミネルバが構えているわけでもないその陣容は間違いなく戦闘を前提とはしていない。

 

「僕達がここに居る事を知ってるわけでも、ここが何なのか知ってるわけでもない……恐らく調査に来ただけだ。多分、この間君が派手にやった事でザフトにも情報が回ったんだろう」

「な、なによ! 私が悪いっていうの」

「そこまでは言わないけど……とにかく、こっちは戦える戦力がディザスターだけなんだ。無暗に戦闘を始めてミネルバまで出てこられたら、君だけじゃどうしようもないだろう」

「兄さんが居なければ、あんな艦相手にならないわよ」

「甘く見過ぎだ。シンもサヤも、僕達とそう変わらない……レイもルナマリアも、ハイネだって出てくるはずだ。訓練を見て来たのは僕だ。彼等の実力は良く知ってる」

「じゃあ、どうするって言うのよ? 言っておくけど、投降はあり得ないわよ。私達がどんな存在か、忘れたわけじゃないでしょ?」

 

 そうだ。今でこそ連合とも……正確にはエクステンデッドを保有する組織とも明確に敵対しているが、元々ユリス達は連合の軍人であり、アーモリーワンを襲撃した部隊の人間だ。

 いくら特務隊であるクルース・ラウラが共にいようとも、投降すればユリス達の身の安全は保障されない。

 齎された被害を考えれば、許されるはずは無いのだ。

 

「こうなった以上、脱出するしかない。幸いにもまだこちらの事は感づかれていないし、ミネルバも出張ってきては居ない。猶予さえ作れれば、可能だ」

「猶予って?」

 

 逡巡────タケルは思考を巡らしていく。

 

「MSを降りたところを狙おう。ミラージュコロイドで潜伏して、彼等がラボに侵入してきたところで、MSを行動不能にさせる。彼等が移動する手段を奪ったところで、小型艇を発進させて脱出だ。ある程度離れてしまえば、後から来たミネルバでも追撃はできないはずだ」

「そう、わかったわ。じゃあ私は機体に乗って──」

「ダメだ。僕が乗る」

「はぁ? ちょっとふざけないでよ兄さん」

「こればかりは譲らない」

 

 頑として引かない気配を見せるタケルを、ユリスは険しい表情で睨みつけた。

 数秒の沈黙。互いの思惑が交錯していく中、何かを御し切る様に大きく溜め息をついて、ユリスが手をあげる。

 

「死なせたくないってわけ? つくづく甘ちゃんな事」

「今の僕達はザフトと敵対しているわけでもないだろ。無為に敵を作る必要は無い」

「わかり易いお為ごかしね。私だと信用できないってだけでしょ」

「自分のこれまでを顧みろ。戦闘における君の悪辣さは折り紙付きだ」

「身から出た錆ってわけ? まぁ良いわ。だったら私はスティング達を回収してくるから────ディザスター、壊さないでよ」

「そっちこそ、余計な殺しはしない様に。良いな?」

「はいはい、分かったっての」

 

 そう言ってユリスはラボへと向かって走った。

 タケルもそれを見送ると、ステラへと向き直る。

 

「良いかい、ステラはここから動かない事。直ぐにスティング達が戻って来るから、それまでここで待ってて」

「うん……わかった」

「よし、良い子だ」

 

 確りと言い含めておかないと、最悪はフラフラとラボにでも向かいかねない。

 保険を掛けてから、タケルもディザスターに向かい走り出した。

 

 

「全く、僕は呪われてるのかね!」

 

 

 いつもいつも思う通りには行かない現実に歯噛みしながら、タケルは仇敵の機体で出撃準備をするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラダーを使い機体から降りて来たシンとレイ。それからヘリから降りて来たアーサーとメイリン。

 4人は眼前にそびえる研究施設らしき場所に驚嘆していた。

 

「思ったより、まともな状態の様ですね」

「つい最近まで使われてたんでしたっけ?」

「ん? あっ、あぁその通りだ。本当につい先日まで、何らかの動きはあったらしい」

「でも……その割には、全く人の気配がないというか……ちょっと静か過ぎる気がしますけど……」

 

 建物自体はまだまだ新しい。年月はそう経っていないだろうし、放置されてから時間がたった様な形跡もない。

 つい先日まで、正にここで研究がおこなわれていたと読み取れる外観であった。

 

「う~む、本来こういった施設は秘匿性を考えて、破棄するならそれなりにしっかりと対応すると思うんだがなぁ……」

「この間あったっていう戦闘で、止む無く撤退していった、とかですかね」

「それにしたってなぁ……」

「ここで手をこまねいていても仕方ありません。先導は俺とシンがします。行きましょう」

「あ、あぁ、了解」

 

 シンとレイが先導して、4人は人気の全く感じられないラボへと足を踏み入れていくのだった。

 

 その先に、地獄の様な光景が待ってるとも知らずに。

 

 

 大きめの入り口を抜けていく。

 まず感じたのは、鼻につく鉄の匂い。そして異臭であった。

 それが、周囲に散乱する死体から漂ってくるものだと理解するのに、そう時間はかからなかった。

 

 研究所の所謂エントランス部分。

 そこでは、首元を刃物で切り裂かれたか、或いは眉間を銃で射抜かれたか。そのどちらかのみで命を絶たれた死体がそこかしこに転がっていた。

 どれも、白衣や制服を来たこの施設のスタッフの様であった。

 

「こ、これは……こんな」

「一体何が」

「メイリン、俺の後ろにいろ。あまり見ない方が良い」

「う、うん……ありがとう、レイ」

 

 耐性がなさそうなメイリンには酷な光景だろうと、レイは彼女を後ろ手に隠すように立った。

 レイはライトを巡らして死体を見るが、どれも目立った外傷は死因となる首から額の銃創のみ。見事な殺し方である。恐らくは反抗どころか自分が殺される瞬間すら認知できていないだろう。

 

「この感じからすると……内部での諍いでしょうか?」

「外部からの襲撃とかであれば、もっと派手に戦闘の痕がありそうなものだしなぁ」

「とにかく、もう少し進んでみないと」

 

 暗闇の中をライトで照らしながら、4人は更にラボの多くへと進んでいった。

 

 

 

 

 

「ちっ、ちょっと遅かったか……」

 

 ラボ内でスティング達と合流したユリスは、近づいてくる足音に表情を険しくさせる。

 

「悪いユリス。状況が掴めなかったもんだから」

「声を潜めなさい……仕方ないわよ。私も兄さんも、どうするべきか直ぐに思いつかなくて、対応が後手に回っちゃったし」

「どうする? あれくらいならやれるぜ?」

「無しよ。あれはミネルバの連中。やれば兄さんの機嫌を損ねるわ」

 

 アウルの好戦的な提案を、ユリスは切って捨てた。

 現状では殺す必要は無い。敵対して銃を向け合っているわけでは無いし、ここは戦場ではないのである。

 今ここで彼等を殺せば、確かに今この場を切り抜けるのは容易になるだろう。だが、その先までは見当がつかない。1人逃せばミネルバへと連絡が飛ぶはずだ。仕留めるなら4人全員を一度に……ではあるが、そうなれば難易度も上がる上に、間違いなくタケルとの関係性は悪化するだろう。

 命を対価とした契約ではあるが、どうあがいてもこれから長い付き合いとなる関係を、今この場での浅慮で崩す事は、ユリスにはできなかった。

 

「じゃあどうする?」

「音を立てて別の場所に誘導しましょう。その隙に小型艇に乗り込み脱出よ。その先は兄さんがディザスターで援護してくれる手筈になってるわ」

「大丈夫なのかよ。あれはユリスの機体だろ?」

「できないなら任せないわよ。アウルは兄さんの事を甘く見過ぎ。アーモリーワンであんた達を抑えたザク……あれ兄さんが乗ってたんだから」

「あのザク、タケルの奴が乗ってたのかよ。道理で……」

「身に染みてその実力は知ってるでしょ。だから問題は無いわ。むしろこっちの不手際の方が……」

 

 言ってユリスが視線を向ければ、じりじりと進んでくるザフトの4人が見えた。

 彼我の距離は徐々に詰められており、これ以上の無駄話はできない状況である。

 口を閉ざし、アウルとスティングとアイコンタクトを交わす。ユリスは、近くに落ちていた液薬の容器を取った。

 円筒でガラスではなく樹脂製の容器。派手な音は出ないがこの静寂の中では十分に聞こえるだろう。

 それを、遠目に見える部屋の1つへと放り投げる。

 

 樹脂が床に当たる渇いた音が響き渡る。

 警戒厳しく進んでいた4人が音の出所へと恐る恐る向かう中、その目を盗んでユリス達は動き出した。

 位置取りはどうしてもすれ違う位置関係であった。細心の注意で、ユリス達は歩を進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 何故かはわからない。

 が、メイリン・ホークは落ち着いた心持で状況を見ていた。

 突如飛び込んで来た物音に、警戒しながら進んでいけば、そこは何らかの培養ポッドが並ぶ部屋。

 異様な光景に皆が息を呑む中、前に居たレイが突然身を震わせて情緒を崩した。

 何かに怯える様な、そんな気配であった。

 隣にいたシンは慌てふためき、アーサーもこういった状況の変化にはどうにも頼りない。

 いっそCICで常に冷静な対応が求められる彼女の方が、こういった時には落ち着いていられるのかもしれないとメイリンは思った。

 周囲はやはり死臭に満ちていて、未だ慣れない臭いが気持ちの悪さを助長させる。

 

 その中でも慌てふためく彼等の代わりに周囲に気を配っていた時、不運にもメイリンはそれに気が付いてしまった。

 

 暗闇の中密かに動く、何らかの影を。

 

「────生存、者?」

 

 確かめないわけにはいかない。

 もしこの惨状を引き起こした者がまだここに居たのなら、レイが動けなくなってしまった今、皆が危険だろう。

 仮にこの施設の生存者であるのなら、有益な情報も聞けるはず。メイリンは逡巡して、恐怖を押し殺し暗い通路を進んだ。

 

 影が動いて行った先は部屋が並ぶ袋小路の通路であった。

 ライトで床を照らせば、僅かに埃が揺れているのが見える。間違いなく何かが通った跡であった。

 

「だれか……居ますか?」

 

 僅かに掠れながらも、聞こえる様に声を挙げた。しかし、返ってくる答えは無い。

 意を決して、メイリンは足を進めた。一番手前の部屋。扉は完全に開かれたままである。

 恐る恐ると中を覗き込み、人の気配を確認した……その瞬間だった。

 

 不意に後ろへと身体を引かれる。同時に、口元を覆われると、勢いのままにメイリンは床へと組み敷かれていた。

 

 訳も分からず混乱するメイリンの視界に、ライトで照らされて光鈍い銀色が見える。それは紛れもなく鋭い刃を備えたナイフであり、メイリンは命の危機と恐怖に目を閉じた。

 

 数秒、何もことが起きない事にメイリンは視界を閉ざしたまま違和感を感じた。

 

 

「──貴女、ディオキアで兄さんと一緒に居たザフトの?」

 

 

 聞こえた声は、いつだか聞いたことのある声音であった。

 

 

 

 

 

 

「(ちっ、まずったわね)」

 

 ユリスは、涙を浮かべながらきつく目を閉じる少女を見降ろしながら己の失態を悔いていた。

 

 ザフトの4人の様子を伺いながら殿を務めていたせいで、ユリスはギリギリのところでメイリンに察知されてしまい、仕方なく袋小路の通路へと逃げ込んでしまったのだ。

 その結果、しっかりと嗅ぎ付けて来たメイリンを始末しようと考えたわけだが、それがまだ年端もいかない少女……それも、見知った顔となれば、ユリスに嫌な予感が過る。

 

「──貴女、ディオキアで兄さんと一緒に居たザフトの?」

 

 恐る恐る目を開けたメイリンは、自身を組み敷く女性の顔を見て、問われた意味を理解した。

 タケル・アマノと似すぎている容姿。メイリンとてよく覚えていた。

 小さく、メイリンは頷いて返す。

 

「(どうする? ここで殺すのは容易い……けど、ディオキアで2人で居たって事は浅い関係じゃないわよね? 最悪は兄さんの逆鱗に触れる……かと言って素直に開放とはいかない。今ここで連中に私達の事が知れれば、脱出は難しくなるし兄さんも……)」

 

 思い悩む事数秒。ユリスはある事に気が付いた。

 タケルにとって浅い関係ではない……であるなら、それは十分に利用価値があるという事に。

 ディオキアで会った時も、タケルはこの少女を助ける為にステラを人質にして睨み合ったのだ。

 タケルの手綱を取るのに、良い交渉材料になる可能性がある。

 

「頷くか横に振るかで答えなさい────ここに私達が居る事は知っていたかしら?」

 

 静かに、慌ててメイリンは首を横に振った。

 

「今いるのは貴女も含めて4人で全員?」

 

 メイリンは、小さく頷いて返した。

 

「──貴女、兄さんの事は好き?」

 

 口元を覆われ、目元しか出ていないというのに、ありありとわかる混乱の表情。

 それもそのはず。事情を聞いてきたかと思えば、いきなり色恋話に飛んだのだ。聞き間違いかと疑問符を浮かべるのは無理もない。

 

「タケル・アマノの事を好きかって聞いてんのよ」

 

 僅かに怒気の籠った声に、メイリンは慌てて……だがしかし、小さく頷いた。

 瞬間、ユリスはニヤリと言ったように笑みを浮かべる。

 

「上々、一緒に来てもらうわ。言っとくけど声と音を出したら殺すから」

 

 組み敷いていたメイリンを解放すると、殺気交じりに脅しをかけてからユリスはメイリンの手を取り動き出した。

 幸いにも、アーサー達は未だレイの不調状態に騒ぎの渦中であり見つかる事はなく、ユリスは難なくその場を切り抜けることができた。

 

 

 

「ユリス!」

 

 艦橋へと入ったところで、ステラが飛びついてくるのを受け止めながら、すぐさまスティングへと視線を向ける。

 

「スティング、出港準備は」

「今システムから起ち上げてる。もう少し待て! それより何だそいつは!」

「人質よ。いざという時はザフトに対して。そしてもう一方では兄さんに対してのね」

「何言ってんだお前は……とにかく、今はユリスも発進準備を手伝ってくれ」

「わかってるわよ……貴女、ミネルバの人間よね。艦では何をやってたの? あぁ、もう喋って良いわ」

 

 緊張した面持ちで口を真一文字に結んでいたメイリンを見て、ユリスが思い出したかのように口を開くことを許可するとメイリンはユリスへと詰め寄った。

 

「ど、どういう事なんですか! 何で私、こんな一方的に連れて来られて」

「うるさいわね、私が聞きたいのは何ができるか。早く答えなさい、殺すわよ」

「うっ…………C、CICですよ! 戦域管制官です!」

「じゃあそっちのコンソール。今兄さんがディザスターに乗って出てるから、モニタリングお願い。後、スティングのシステムチェックを手伝って」

「いや、ですから……えっ? ちょっと待って下さい! 今兄さんが乗ってるって」

 

 彼女がそう呼ぶ人間はメイリンにも覚えがある。恐らくそれはたった1人にしか当てはまらない。まるでメイリンにも理解が及ぶと確信しているような口ぶりだ。

 それは即ち、メイリンが思い浮かべた通りの事実が、今ユリスの言葉によって発覚したことになる。

 

「タケルさん、居るんですか!? 生きてるんですか!」

「うっさいっつってんの、言った通りよ! 良いから死にたくなければ早く作業をしなさい!」

「ひぃっ!?」

 

 苛立たし気に懐より銃を取り出したユリスに脅され、慄きながらメイリンはシートに着いた。

 

「あ~悪いな。あいつ短気ですぐ怒るからよ。とにかく、急いで発進するんだ。手伝ってくれ……」

「うぅ……もう何がなんだか思考が追い付かないよぉ……」

 

 嘆きながらも、手は高速でキーをタイピングしている辺り、メイリン・ホークは優秀だ。そして肝も据わってる。

 次々と立ち上がっていく艦内システムに、スティングは舌を巻いた。

 

「へぇ、すげえじゃねえか。良い拾いもんだぜユリス!」

「当然でしょ。私の目に狂いはないわ」

「いや、私別に仲間でもなんでもないんですけど……」

「どの道ここまで連れて来たんだからもう戻れないわよ。大人しく言われた事をやりなさい」

「え、えぇ!? うぅ……なんでこんな事に……」

 

 思えば、1人冷静なつもりになってレイの心配をせずに周囲に気を配ってしまったのが分岐点だったのだろう。きっと仲間思いではなかったから罰が当たったのだ。

 メイリンはそう思い込んで、無理やり自信を納得させた。

 

「発進までは?」

「システムカウント……残り180秒です」

「了解。兄さん、聞こえる? こっちはあと3分で動けるわ」

 

 慣れた仕事の受け答えを返しながら、メイリンはハッと期待に胸を膨らませた。

 予想通りであるのなら。思い描いた通りであるのなら……きっと、望む声が聞こえるはずなのだ。

 

「────兄さん?」

 

 返って来ない声に、ユリスが訝しんだ瞬間であった。

 

 

『ユリス、急げ! ミネルバが来る!』

 

 

 メイリンに届いた声は、酷く切迫した想い人の声であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉおおお!」

 

 翻される光の刃を躱して蹴りつけると、ディザスターはインパルスと距離を取った。

 

「ちっ、本当に呪われてるのかな僕は! 最近思い通りになるような事が1つもないじゃないか!」

 

 言ってタケルはうんざりした様に呪詛を吐いた。

 本来であれば、ミラージュコロイドで身を隠し接近。パイロットが離れてる内に機体をうつ伏せに転ばせてしまえばコクピットが開かなくなり簡単に無力化できる……この予定であったというのに。

 如何せん、シン達がラボに入ってから出てくるまでが早すぎた。

 ディザスターの機体準備、発進。そしてステルス状態での接近までの時間が確保できず。更に不運な事に、レイの不調を知らせる為シンが先んじてインパルスに乗り込んでしまった。

 このままでは出港準備をしている小型艇の動きもすぐに察知されてしまうだろうと、仕方なくタケルはディザスターのステルスを解除。

 標的となり、注意を引く事にしたのである。

 

「この、墜ちろ!」

 

 だがそうなれば必然。この怒りに燃える少年が奮起するのは当然であった。

 機体の挙動1つ1つに、戦意をぎらつかせる様な見事な動きでインパルスはディザスターへと追い縋っていく。

 

 皮肉である。

 本当に悲しい現実だが、慕っていた隊長を奪われた怒りがそこには見え隠れしていた。

 それがまさか、当の本人に向けられているとも知らずに。シン・アスカの気勢はどんどんと勢いを増していく。

 

「お前が……お前達が隊長を!!」

「くっ、本当に……ちょっと見ない間にやる様になったじゃないか、シン!」

 

 叩きつけられるサーベルをシールドで捌き、腕部のビームサーベルで切り返す。しかし、それをインパルスはまさかの方法で躱した。

 

「なっ!? レッグから下を分離!」

 

 正しく超反応だ。相手のビームサーベルの軌道を読み切り、機体を大きく動かすのではなく、レッグフレイヤ―を一度コアスプレンダーから切り離して、サーベルが通過する隙間を作る。

 即座に合体して、インパルスはディザスターに再び光の刃を叩きつけた。

 

「くっ、そんな方法は教えなかったはずだけどね! 元に戻るまで無防備じゃないかそれは!」

 

 無茶をする。曲芸染みた回避だが、実用性は意表を突く1回のみだろう。

 自身の教えはどこに言ったのだと、タケルは俄かに怒りを覚えた。

 

「くっ、まだ小型艇は動かないか。何をやってるんだユリスは!」

 

 インパルスとの戦闘が始まってから5分は経過している。

 少なくとも連絡は行っているはずだ。ミネルバは来なくとも、先んじてMS隊は発進してくるだろう。

 そうなれば予見していた様に多勢に無勢……脱出は一気に困難に陥る。

 

「ユリス! まだ出られないのか!」

『タケルさん、もう少し待って下さい。後カウント30です』

「ん? はっ? え、待って、え? メイリン!?」

『バカ! 戦闘中に兄さんを惑わしてどうすんのよ!』

『えっ? あっ、ご、ごめんなさい!』

「ど、どういうことだユリス!」

『今は問答してる余裕ないでしょ。戦闘に集中しなさいよ。帰ってきたら説明するから』

「何を言って────あぁ、もうはぁ、もうホントに君って奴は!」

 

 確かに彼女の言う通り、今は余計な事に気を回してる余裕はない。意気の上がった生意気小僧が、全力で自身を潰しに来ているのだ。

 

 意識を切り換えて、タケルは迫りくるインパルスへと視線をやった。

 気になるこちは全て後回し、今は目の前ですべき事に集中していく。

 

 

「インド洋以来だね、シン。君と本気でやり合うのは────悪いけど、今回も手加減は無しだ」

 

 

 ──種が開いた。

 

 

 それはきっと、ミネルバMS隊の隊長を降り、自らを戒めから解いた……そんな心地へと至った故だろう。

 これまでと違う、妙に開放感のある感覚がタケルを襲った。

 

 これまでであれば、責任があった。守らなければならないものが近くに居た。大切な妹がいつも、傍で戦っていたのだから。墜とされないようにと必死であった。

 だが今は違う。戦場に、守らなければいけないものはない。否、正確には死なせたくない者達は皆、己の戦い如何で決まる。

 傲慢とも言えるが、生殺与奪の権利は、相対している己が握っているのだ。

 ただ、自分の戦いだけに集中していれば良い。

 

 不謹慎にも心が躍り、口元は緩んでしまった。

 

 戦士としての性が、タケルを突き動かしていった。

 

「行くよ、シン!」

 

 何も考えていない様な無作為の吶喊。

 インパルスがライフルで応じるのを躱しながら接近していく。

 

 振りかぶられた腕部のビームサーベル。

 しかし、インパルスに叩きつけられたのは振り抜かれた脚部による蹴りであった。

 

「くっ! フェイント!? このぉ!」

「スティングにも言ったかな。振りかぶったからと言って振り下ろすとは限らないよって!」

 

 態勢を崩したインパルスを、シールドで更に叩く。

 嘗ての焼き増しの様にインパルスのコクピットを大きな衝撃が襲った。

 

「このっ、遊んでいるのか!!」

「その反応では遅いよ!」

 

 立て直そうとしたインパルスの背中へとそのままのしかかると、スラスターを全開。地上へと向かって急降下していく。

 同時に、フォースシルエットのバックパックをビームサーベルで切り裂いて、機動性を奪った。

 

「なっ、こいつこのまま!」

「換装してまた起きて来られても厄介だ……また意識を落としてもらう!」

 

 全開機動で地表へと向かい、衝突直前でインパルスを突き飛ばすように落とし離脱。

 PS装甲で機体の破壊は免れても、その衝撃にエネルギーはほとんど持っていかれ、また中に居るシンも意識を落とした。

 追撃にディザスターのイーゲルシュテルンでインパルスをめった撃ちする。PS装甲に全てエネルギーを持っていかれ、インパルスは色彩を失って完全に沈默した。

 

「──SEEDには、入れてなかったみたいだね」

 

 ここまで一方的に戦いが決まったという事はそう言う事であった。そしてこれが、タケル・アマノとシン・アスカの絶対的な差とも言える。

 精神的な未熟さ。その時々で感情に振り回されてそこへと至れないのは、どうしても見劣りする部分であった。

 1対1の勝負において、SEEDに入っているか否かはそれだけの差を生むのである。

 それを覆した事があるのはタケルが知る中で唯一人、キラのフリーダムと渡り合ったラウ・ル・クルーゼだけであった。

 

 

 タケルは地面に埋められたインパルスを見降ろした。

 バックパックは破壊している。VPSが落ちている事からエネルギーも枯渇。これでは意識を取り戻したところでもうまともに機体は動かせないだろう。

 

『兄さん、出るわよ』

「了解……合流ポイントを送るよ。先に向かってて」

 

 むっ、と不可思議な指示に疑問符を浮かべるユリス。それはスティングや、アウルも同様。なぜそのまま戻ってこないかと訝しむ。

 唯一、状況を監視していたメイリンだけはその意味を理解して居た。

 

『一体どう言う──』

「追撃の手を払う────それに、僕の為に怒ってくれてるみたいだから。ちゃんと受け止めないと」

 

 ディザスターが見据える先、真紅の機体が接近していた。

 ZGMF-X23S、機体名はセイバー。そしてそれを駆るのは、シンと同じく怒りに燃えるサヤ・アマノだ。

 恐らくはシンの通信を受けて、速度に長けるセイバーだけミネルバより緊急発進してきたのだろう。

 

 

 接近するセイバーに応じる構えを見せたディザスターを見て、サヤは口元に獰猛な笑みを浮かべた。

 

「良い覚悟です。もはや討って何かが変わることはないでしょう────ですが、私の気持ちは存分に晴れます」

 

 無様を晒した己への憤りも、兄を死なせてしまった後悔も。

 全て置き去りにして、サヤ・アマノはこれからを生きると決めたのだ。

 全てを思い出し、乗り越えた先で、少女は受け継いだ才覚を見せつける。

 

 ──種が開いた。

 

 黒曜の瞳に憎き敵を映して、サヤ・アマノは紫の悪魔を睨め付けた。

 

 航空機形態から変形。ディザスターの頭上をとると、開戦の合図と言わんばかりにアムフォルタスプラズマ収束砲を撃ち放つ。

 

「良いよ────おいでヤヨイ。全部僕に叩きつけて君の糧にすると良い」

 

 光の束を回避して、ディザスターはビームサーベルを出力。直後に踊り掛かってくるセイバーを迎え撃った。

 

「これが僕からの最後の訓練だ!」

「この胸に巣食う怒りも後悔も、全てぶつけて差し上げます!」

 

 翻弄される運命(さだめ)のままに、2人は空で交錯した。




メイリンは強い子。したたかで強い子。

シン君は弱い子ってわけじゃなくて、まだムラムラしてるだけ(変な意味じゃないよ)
原作でも意識的には扱えてないし、もう一押し成長する要素が必要な感じ。スペックは主人公達と変わらない認識です。

サヤちゃん……乗り越えて覚悟ガンギマリ。気分的には某ブシドーさんみたいな振り切れ方。


ちょい話が出そうなんで補足。
余計な殺しするなと言いつつラボの人間掃討してるやんって思うかもしれませんが、主人公からすると記憶上書きされて良い様に利用される恐れがあるので生かしてはおけないです。ついでにクソ研究だとわかったのもあってラボのスタッフは全員ギルティ。そこに罪悪感も忌避感もありません。主人公もユリスも、そういった研究で生まれた被験体ですので。2度とこんな研究できない様にとデータも全てデリートしてます。
ミネルバの面々が仲間であったと言う部分も大いにありますが、前提として殺すべき敵と殺さなくて良い敵という違いはあります。


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