機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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PHASE-57 伝わる心と届かぬ思い

 

 

 

 戦闘の連絡を受け、現地へと最大戦速で向かうミネルバ。

 

「インパルス、撃墜との報告です!」

「何ですって!?」

 

 バートの挙げた報告に、艦橋はどよめいた。

 直近での戦果。デストロイとの戦闘でも、ダーダネルスでの海戦でもシン・アスカの戦いは目覚ましいものであった。

 今や誰もが認めるミネルバのエース。それが撃墜となれば信じ難い話である。

 

「バート、シグナルは!」

「途絶はしていません。トライン副長からの報告です。敵は連合の部隊にいた紫のMSとの事。現在はセイバーが戦闘中です」

「確かディザスターとか言ってたな。全く、連合のネーミングセンスはおっかなくていただけねえ」

「ハイネ、そんな事を言っている場合ではないでしょ!」

 

 剣幕鋭くタリアに咎められ、おどけたハイネは思わず肩を竦めた。

 慌てながらも通信機に手を伸ばして格納庫を呼び出す。

 

「エイブス、グフはまだ出られないか?」

『まだ無理ですよ。フライトユニットが終わってないんです』

「ちっ、肝心な時に────待てよ。バート、レイのザクはどうなってる?」

「戦闘には関与しておらず、無傷の様ですが……」

「上々だ。エイブス、ルナマリアのザクをブレイズ装備で出撃させる。準備をしてくれ」

『了解です!』

「ハイネ、貴方まさか──」

 

 ハイネの言葉に訝しんだタリアが何かを言う前に、続いてハイネはブリーフィングルームで待機してるルナマリアへと通信を繋いだ。

 

「ルナマリア、出撃だ。ブレイズ装備で現地に飛んでもらう。ついでに俺を一緒に乗せていってくれ」

『了解って、え? 一緒に乗せてく? 一体何が、どう言う事よ!』

「何だよ、嫌なのか? そりゃあ俺はクルースみたいに小さくねえから一緒に乗ったら狭いだろうが、緊急事態だし少しくらい我慢しろって」

「いや、そう言う話じゃなくて! 何でそんな事を──」

「俺のグフはまだ使えねえ。んでレイのザクが現地で空いてるんだ。それに乗り込むためだよ。元々俺はザクを使ってたんだぜ、扱いはお前らより上だぞ?」

「悪いわねルナマリア。現在敵はインパルスを落としてセイバーと交戦中よ。すぐにでも戦える戦力が欲しいわ」

『そう言う事ですか、わかりました。準備はしておきますので、ハイネは早くこちらに』

「おう、サンキュ」

 

 通信を終えたハイネが艦橋を出ていく。

 既に戦闘中の現地へ、ほとんど的に近いヘリなどで向かうわけにもいかない。ハイネの提案には驚かされるものの、現在打てる手立てとしては最も理にかなってると言えるだろう。

 やりとりは軽く、緊張感を削いでくるが。やはり彼も特務隊である事をタリアはひしひしと感じた。

 そうして少し静かになった艦橋で、眼前のまだ見えぬ戦場を想うと、タリアの胸には新たな不安が過ぎる。

 

「ヤヨイ、逸ってなければ良いのだけど」

 

 デストロイの時もそうであった。

 どこか、戦場に出る事を喜ぶ様な…………そんな危うさが感じられた。

 喪った事。力が及ばなかったことへの贖罪。それを戦火の中で果たそうとしている様に、タリアには思えてならなかった。

 

「ハイネ、ルナマリア…………急いで頂戴」

 

 浮かぶ懸念を抑えつけながら、タリアはまだ見えぬ戦いの趨勢へと想いを馳せるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ディザスターとセイバー。

 機体のスペックで言えばほぼ互角と言う所だろうか。元々ストライクを参考にして仕上げられてXシリーズ後期発展機であるディザスターを技術面でブラッシュアップした機体が、現在の本機になる。近距離から遠距離まで対応できる兵装を備え、攻守両面において隙が無い汎用機だ。

 対するセイバーはセカンドステージの設計思想に基づいた局地戦。その中でも空戦を主とする機体として設計されている。余計な武装を積まず、シンプルな兵装と高い機体性能。汎用性としてはセカンドステージ内でもインパルスに次ぐものだろう。何より現在戦場となる離島では、足下に居るレイやアーサー、インパルスを巻き込まないようにと、タケルもサヤも空戦へと移行している。

 

 ステージを鑑みれば、僅かにセイバーに分があった。

 

 

「はぁああ!!」

 

 

 気合い一閃。舞い降りてくるセイバーのビームサーベルがディザスターを襲う。

 それを僅かに後退して回避したところへ頭部機関砲CIWSで追撃。ディザスターの機先を制したところで変形して突撃。その十分な推力に任せた突撃がディザスターを捉えた。

 

「ぐっ!?」

 

 航空機形態で敢行される思わぬ攻撃に、ディザスターが弾かれる。

 タケルが衝撃に意識を揺らした次の瞬間には、再び変形したセイバーがアムフォルタスプラズマ収束砲で追撃をかけていた。

 

「やる……でも、その大きな砲では当たらないよ!」

 

 高出力故のチャージまでにある僅かな時間。それが、ディザスターに猶予を与えた。

 態勢を立て直したディザスターは、接近してくる二つの光の隙間をすり抜けて接近。

 腕部ビームサーベルを翻す。

 

「(このっ、また!?)」

 

 セイバーのコクピットでサヤは僅かに困惑した。

 踏み込みも浅く、翻される光の刃はセイバーの腕を狙う程度に留まっている。

 どうにも、討つ気を感じられない攻撃であった。

 

「(ダーダネルスでは、針で刺してくるような鋭い気配とこちらをねじ伏せると言わんばかりに苛烈な攻撃を見せていたというのに……どういうつもりですか!)」

 

 馬鹿にしているのか。それとも遊んでいるのか。或いは侮っている。

 いずれにしても、ここまでコケにされて黙って等いられない。

 サヤの戦意は更に増していき、SEEDに陥っている彼女のキレもまた増していく。

 

 翻される光の刃をシールドで受け、更に駆動性に任せて押し返す。即座にビームサーベルを出力。

 逆の腕で応じるディザスターのサーベルと切り結んだ。

 

 だが、そうしてぶつかり合えば尚更、サヤの中で違和感は膨れていった。

 

「どういうつもりですか。反応も十分。こちらの動きにはしっかり対応してくるというのに、肝心なところでまるでこちらを討つ気がない……まるで」

 

 こちらを量っているかの様……続く言葉を、サヤは飲み込んだ。

 敵であるかの機体が何故そんな事をする必要がある。ダーダネルスでは問答無用でその実力差を見せつけられたというのに。

 思い過ごしだと、サヤはセイバーを駆った。

 

 距離を離し、ライフルで牽制。しかしディザスターは飛来する閃光をビームサーベルで切り払って見せると、隙を逃さず接近してくる。

 

「くっ、相変わらず異常な動きを!」

 

 この世界で、あの妙技を繰り出せる人間がどれ程いるのだろうか。恐らく今の自身では真似をできない異常な行動である。

 失敗すれば討たれるのだ。確かに機体を翻させずに回避できる利点はあるが、リスクが過ぎる。

 接近してくるディザスターに捉われぬ様、サヤはセイバーを後退させていく。

 

「そこで退くのはダメだよ。それでは、押してくれと言うようなものだ」

 

 瞬間。僅かに引き気味となったサヤの気勢を察知して、タケルはディザスターを一気に加速させた。

 

 両肩のシュヴァイツァでセイバーの動きを先んじて抑える。次いでライフルに因る牽制。セイバーの動き出しを止める。

 次の瞬間には、距離を詰め接近戦の届く範囲にまでディザスターは潜り込んでいた。

 

「くっ、お手本の様に見事な追い込み……ですが!」

 

 ビームサーベルを2本出力。セイバーも迎え撃つ姿勢を見せた。

 

 一手。翻されるディザスターの光の刃を受け止める。

 二手。弾かれた勢いを利用して機体を回転。逆手のサーベルでの攻撃もまた、示し合わせたかのように交錯した。

 三手。乾坤一擲で振り抜かれるはセイバーの脚部。2本のサーベルによる攻防から予想外になるだろう追撃でディザスターを蹴り飛ばし制するつもりであった。

 

「なっ!?」

 

 しかし、眼前の光景はサヤの想定したものと異なる。振り抜かれた蹴撃。それを予想していたかの様にディザスターもまた、蹴りで合わせて来たのだ。

 

「隙ありだ」

 

 僅かに硬直したセイバーの動きをタケルは見逃さなかった。

 シールドでセイバーを地面に向けてバッシュ。勢いのついたセイバーに、更に追撃でイーゲルシュテルンの雨を降らして地面へと叩き落した。

 

「くっあぁあああああ!!」

 

 サヤの悲鳴と共に、離島へと落下していくセイバー。勝敗は決した。

 

 

 

『兄さん、こっちはもう離脱したわ。増援も来てるわよ。早く離れなさい』

 

 

 

 ディザスターのコクピットにユリスから通信が入り、タケルはセンサーの情報を確認した。

 見れば新たに赤く染められたザクが向かってくるのが見えていた。

 

「了解、離脱するよ。あと、言い訳くらいは考えておくんだね」

『あら、怖い顔。心配しなくても言い訳くらい用意してるわよ』

「そうかい」

 

 少しだけ怒りの声音を残しながら、タケルは通信を切った。

 戦闘中に飛び込んで来たメイリンの声────何故彼女がユリス達と共に小型艇に乗っているのか、皆目見当がつかない。

 燻る想いを呑み込んで、タケルはディザスターを加速させると、接近中のルナマリアのザクを振り切って離脱した。

 沈黙しているインパルスに落下したセイバー。そしてレイやアーサーが島に残っている以上、ミネルバがわざわざこれ以上の追撃戦に出る事はないだろう。

 どうにか彼等の脱出は叶ったのだ。

 

 

「はぁ……ホント、思い通りにはいかないなぁ」

 

 

 こうして無事に脱出が成ったというのに、タケルの心は1つも安心できることが無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 離島へと落とされたセイバーのコクピットで、サヤはその身を震わせていた。

 

 敵わなかったから……敵を討てなかったから、ではない。

 

「あの動きは……お兄様」

 

 確定ではない。疑惑でしかない。

 だがそれでも。先の戦いの中で見て取れたことは、サヤにその可能性を確信へと至らせていた。

 

 MSによる戦闘となれば本来、腕部は武装を保持するマニピュレーター。脚部は機体のバランスを取る為の構成部分である。

 機体の手足を……人間の徒手空拳の様に敵にぶつける認識で戦うのは、MS戦闘のセオリーではない。連合でもザフトでも、その戦闘方法は見受けられない。

 敵との距離を取る為等ではなく、攻撃の意図をもって機体脚部で蹴りつける発想は、運動性と柔軟な内部フレームを要していたアストレイのパイロット。それも一部の人間だけの特異性であった。

 その発端は無論、アストレイ開発者であるタケル・アマノだ。

 先の戦いから見えてくる事実は、サヤにタケルの存在を確信させるには十分な動きであった。

 

 そもそもが、SEEDに至ったサヤとまともにやり合える人間と言う時点で、かなりの狭い範囲に可能性は絞られてくる。その上で、兄を思わせる動きが見られたのなら、サヤがそう思うのも無理は無い。

 何よりも、そう考えれば別の事に説明がつくのだ。

 

「あの機体は一度も、コクピットは疎か最後までセイバーを墜とす様な攻撃はしていなかった」

 

 最後の攻撃だって、シールドでの殴打の後は実弾であるイーゲルシュテルンでの追撃のみ。

 ビーム兵装は全て牽制だけに留められ、ビームサーベルによる攻撃ですら機体手足の末端のみに狙いを絞られている。

 それは本来のディザスターの動きからすれば考えられない事であった。

 

「生きて…………生きているのですね、お兄様」

 

 本当は違うかもしれない。だがその可能性を捨てきるには、先の戦いの印象は強すぎる。

 自然と湧いてくる歓喜に、サヤは身を震わせた。

 

 

「お兄様……」

 

 

 二度と流すものかと決めていた涙は、自然と目から零れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一体どういうつもりだ!」

 

 彼にしては珍しい、怒号の様な声音であった。

 

 ミネルバの追撃を振り切り、小型艇へと帰還したタケルは、一目散と言う様に艦橋へと上がる。

 そして、知っては居たことだが艦橋にメイリン・ホークの姿を見止めて、タケルは怒りの形相をユリスへと向けていた。

 

「わかっているのか。僕達が今どんな状況下に置かれているのか!」

「わかってるわよ兄さん。今の私達は連合に追われる身。それも超特大の災いの種としてね」

「それがわかっていながら!」

 

 まるで掴みかからんばかりにタケルはユリスへと詰め寄った。

 

 明確に反旗を翻したエクステンデッド。

 その保有する情報も含めて、連合からすれば最優先での抹殺対象となるだろう。

 わかり易く言うなら、ブルーコスモスにとってのキラ・ヤマトの様なものである。

 そんな自分達の同行者に、メイリン・ホークを巻き込んでしまったのだ。タケルとしては、もはや弁解の言葉も無い気持ちであった。

 

「僕達はまだ良い……僕とユリスは当然の事、スティング達だって基本は戦闘要員だ。荒事には慣れているしどんな襲撃を掛けられようが問題は無い。だがメイリンは──」

「非戦闘員? それがどうしたの? 戦いなんてのは兵士だけでするものじゃないでしょ」

「だから彼女を利用しようって言うのか」

「えぇそうね。確かに連れてきた理由は利用しようと思ったから。でも悪いけど、兄さんが思うような利用の仕方じゃないわ」

「何?」

 

 意図の読めないユリスの言葉にタケルは訝しむ。

 確かに彼女の言う通り、戦いは兵士だけでやる事では無い。ミネルバを見ても分かる様に、様々な分野の人間が集まって、初めて戦力として成り立つ。

 そう考えれば、CICである彼女を利用しようとするユリスの言葉は、不本意だが理解できた。

 だがそうではない────タケルの疑問は募る。

 

「何を言ってるんだ、ユリス」

「兄さん、ここ最近寝てないでしょ?」

 

 僅か、息を呑んでタケルは押し黙った。

 図星の様ね、とユリスが冷たく笑うのを聞き流して、タケルは再び彼女を睨みつける。

 

「それが、どうした?」

「焦ってるんでしょ。ステラ達を直して、早く元居た場所に戻ろうと。だから必死であの子達を救う手立てを見つけるために寝るまも惜しんで資料を読み漁ってる」

「────それの何が悪い。君にとっても問題は無いはずだ」

「はぁ? 問題大ありよ。今日だってそんな状態でディザスターに乗って戦闘してるのよ。墜とされなかったのは運が良かっただけ。そんな風に生き急いで死なれちゃ、こっちが困るの」

「僕はそんな簡単に墜とされはしない」

「直近でスティングに墜とされたところを命拾いしたのに? 馬鹿も休み休み言って」

「だが、それとメイリンに何の関係がある!」

 

 仮に無理をしているのが分かったとして、それが彼女を巻き込む事とどう繋がるのか。

 タケルは理解及ばず、再び怒りを露わにする。

 だが、そんなタケルにユリスも負けじと声を張り上げた。

 

「監視役よ! ディオキアで見た感じ、決して浅い関係じゃないでしょ。身内には甘い兄さんだもの、この子が居れば兄さんの無茶を止められるわ」

「そんな、ふざけ──」

「忘れないで頂戴! 今の私達にとって、兄さんは唯一の希望なんだから……兄さんの命は、今は兄さんのものじゃない。私達のものなのよ」

 

 命を救われた────その命を対価に、彼等を救う契約である。

 それを成すまで、タケルの命はいわば彼女達に預けられたようなもの。彼女が言う通り、勝手に死に急ぐこと等許されはしないのだ。

 

「この子を連れてきた理由はわかったでしょ。まぁ、半分は成り行きもあるけど」

「成り行き?」

「ラボでこの子に感づかれて見つかっちゃったのよ。下手に殺せば兄さんの逆鱗に触れるだろうし、かと言って放置すればミネルバの連中に知らされちゃうしでどうしようもなかったの」

「だったら、気絶させてその場に放置すれば良かったじゃないか」

 

 えっ!? と言った顔で、非情な提案をして来るタケルの言葉に、メイリンが背後で慄いた。

 あの死体がそこかしこで転がってる空間に気絶させられて放置……考えただけで身の毛がよだつ想いである。

 

「兄さん……そう言う事本人の前で言う?」

「巻き込むよりは何倍もマシだと思うけど?」

「はぁ……貴女、こんな男のどこが良いのよ? 思いっきり最低な男じゃない」

「そ、そんな事ありませんよ! タケルさんはいつも優しくて……」

「たった今、それを思いっきり否定する様な事を言ってのけたわけだけど?」

「そ、そんな事ないです。私の事を思ってくれて…………ですし!」

「と、とにかく! ユリスの言い分はわかった。確かに僕が生き急いでいた事は認めるし、今後は自重する。それで良いだろう」

「緊急事態においては、私の意見も尊重してもらうわ。特に今日みたいな戦闘が絡むのなら……戦うのは私の仕事よ」

「あぁもう、わかったよ……わかったから」

 

 ユリスとのやり取りを終えて、タケルは漸くメイリンの方へと向き直った。

 

「どうするつもりよ?」

「メイリンは君との契約には関係ないだろう────メイリン、本当にゴメン。僕達のせいでこんな事になっちゃって。直接ミネルバに送ってあげる事は出来ないけど、せめて帰還の目途は僕が責任もって」

 

 とん、と軽い衝撃がタケルを襲う。

 タケルの胸の中には、縋る様にして身を震わせるメイリンが居た。

 

「──本当に。本当に生きてて良かったです」

 

 涙交じりに嗚咽を漏らしながら、メイリンは嬉しそうに言った。

 通信越しで声を聞いて、目の前で確かに話している姿を見て。そうして、漸く自身に向けてくれた優しい瞳と声。

 ずっと混乱の途に在ったメイリンはそこでようやく、目の前の現実を受け入れる事が出来たのだ。

 死んだと思っていた想い人がそこに居る────涙を流すには十分であった。

 

「ほら、結局泣かせるのは兄さんじゃない」

「うるさいな」

 

 外からのヤジを受け流して、タケルは胸で泣くメイリンを抱きとめてやった。

 普通に接してしまっていたが、本来自分は機体が爆散して戦死扱い。こうして生きている事に驚くのは当然であった。それが生きていたとなれば、このような反応になるのも当然である。

 そして一応、彼女の想いをタケルは知っている。

 

「本当にゴメンねメイリン。悲しい想いを一杯させちゃって……こうして、ちゃんと生きてるから。もう大丈夫だからさ。ね、だから泣かないで」

「うぅ、ぐす、ごめんなさい……ちょっと、簡単には、止められない、です……」

 

 あぁ、それもそうだよね。と、タケルは半ばあきらめて、メイリンをあやすように撫でつけてやった。

 どうにもこういった状況には心苦しくなってしまう。自分のせいで泣かせているとなると、やはり落ち着かなかった。

 

 そんな、なんとも言えない空気に……悪魔はいやらしくも水を差していく。

 

「そう言えば兄さん────ドミニオンの艦長さんとはどうなってるのよ?」

 

 ピシっ、と効果音が聞こえそうなくらいに、タケルは固まった。

 それはこれまでその事から目を逸らし続けて居たメイリンもである。

 

「あれ? この子と良い仲な気がしたから聞いてみたんだけど、まずかったかしら?」

 

 言動と表情がこれ程一致しない事も珍しい。酷く醜悪な笑みを浮かべて、ユリスは声音に愉快さを乗せながら問いかけた。

 そもそもだが、ユリス・ラングベルトはタケル・アマノとナタル・バジルールの関係性を知っているのだ。

 なにせヤキンの戦いでタケルは、彼女の目の前でナタルに想いを告げたようなものだったのだから。

 

 つまりは、完全に確信犯である。

 

「あれ? どうしたの兄さん? そんな固まっちゃって?」

「そういう君はえらく楽しそうだな、ユリス……」

「そりゃそうでしょ。目の前で知人の不倫現場見せつけられてるようなもんじゃない。面白いに決まってるわ」

「ふっ、ふり!? 私とタケルさんはそんな関係じゃありません!」

「あら? 兄さんじゃなくて貴女が否定するの? それじゃあ聞かせて頂戴。貴女は兄さんとどういう関係なのよ?」

「やめろってユリス。僕とメイリンは別に……」

「私はタケルさんの……えっと……タケルさんを後ろから支えてあげられる、使用人の様な関係です!」

 

 色々と思考を回していった結果出て来た単語に、タケルは目を丸くし、ユリスは酷く蔑んだ視線をタケルに向けた。

 

「えっ?」

「うわぁ……」

 

 ちなみにだがこの時、サヤ・アマノが何かを感じ取りタケル達が居る方向を睨みつけていたりする。

 何はともあれ、いたいけな少女の気持ちを弄び、使用人扱いするクソ野郎のレッテルがタケルに貼られていた。

 

「兄さん、流石に人としてどうかと思うわ。要するにあれでしょ? 好意を持ってくれてるから都合よく利用してるわけでしょ? 自分の近くに侍らせてキープとか……最低」

「ちょっ、待って待って、どう考えても誤解。って言うかユリス、君は分かってて言ってるだろ!」

「近づかないでよ。ステラの教育に悪いわ」

「悪くないわ!」

「まぁ、この子もステラ程じゃないけど可愛いもんね。そりゃあ兄さんも男だから近くに侍らせたくもなるか」

「だから違うから!」

「まぁ良いんじゃねーのタケル。お前も男ってことだろ?」

「なんだよそれスティング! それはつまり、これを否定したら男じゃなくなるって言うの!?」

「なぁなぁユリス。つまりタケルはステラに近づけちゃいけない最低野郎って事で良いのか?」

「良いわよアウル」

「良くない!」

「タケル……最低?」

「ぎゃふん!?」

 

 哀れ、タケルは一番入り込んできて欲しくないステラの無垢な声音と言葉に、とうとう撃沈した。

 艦橋に入ってきたときの怒りの様相など欠片も感じられない、見事な崩れ様であったと、後にメイリン・ホークは語った。

 

 

 

 

「何故でしょう、胸騒ぎが……何やら、とても立場を脅かされそうな気配を感じました」

 

 1人、サヤ・アマノは強敵の出現を感じ取って身を震わせるのであった。

 

 




やめて、石投げないで!
主人公君はナタル一筋のはずだから!

冗談はさておき。ここからいよいよ運命編も盛り上がってくるところ。
ロゴスの公表、ヘブンズベース。オーブ戦役、んでレクイエム出てきてメサイア攻防戦へと。
色々予定されてる中で、色々と本作としても変わってくる箇所はありそうですね。
どうぞお楽しみに。

感想お待ちしております。
よろしくお願いします。

運命編 ここまでのヒロインランキング。ヒロインムーブ最強は誰だ(あくまで運命編限定)

  • 正妻の余裕ナタル
  • 記憶戻りそうなサヤ
  • 妹ムーブが消えたカガリ
  • 立派になったフレイ
  • 思わぬ伏兵メイリン
  • 原作ヒロインのステラ
  • 弱さも見えてきたラクス
  • 変わらぬ教え子3人娘
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