日も沈み、夜の帳が降りた頃。
「────んぁ、あれ? ここは」
ラボの在る離島にて、シンは目を覚ました。
「気が付きましたか、シン」
「ヤヨイ、痛っ!?」
「あぁ、まだ身体は起こさない方が良いです。地面への衝突の衝撃で、頭をぶつけたのでしょう。少し切れていましたし……応急処置はしましたが意識は明瞭ですか?」
「あ、あぁなんとか。状況は……戦闘はどうなったんだ?」
直前を思い起こせば、紫の機体ディザスターとの戦闘が思い起こされ、シンは直ぐに問いかけた。
「状況を説明しましょう。シンのインパルスが敵によって墜とされた後は私が駆けつけて応戦に入りました。しかし、敵の実力は高く、私も地面へと叩き落されてそのまま逃げられています。
現在は、不調が見られたレイの介抱をトライン副長が。私は地面に埋まったインパルスを引き摺りだして、貴方の介抱をしながらミネルバの到着を待っているところです。後は、応援にザクで駆けつけてくれたルナマリアとヴェステンフルス隊長が施設を探索しています」
「あれ……メイリンは?」
シンの問いに、俄かにサヤの表情が歪むのをシンは見逃さなかった。
「──どうやら、あの紫の機体には仲間がいた様です。メイリン・ホークは現在行方不明。恐らくラボに潜んでいた敵勢力に、彼女は攫われたと思われます。トライン副長が、島を離れる小型艇を確認していますので」
「なっ、そんな!? だったら、なんでそんな落ち着いて」
「驚くのはわかりますが、インパルスはエネルギー切れ。私のセイバーも、単独で動くにはエネルギーが心許ありません。今の私達には何もできる事は無いです」
出来る事は無い……一分の反論もできない言葉に、シンは押し黙って悔しそうに拳を握った。
大切な仲間が連れ去られ窮地に居るかもしれないのに、今ここで自分は、こうして何もできずただ待つ事しかできない。
つくづく思い知らされるのだ。自分はまだ弱いのだと。
先の戦闘にしても、あぁまで軽くやられていなければ、駆けつけたヤヨイと連携をとって仕留められたかもしれないというのに。
そうなればメイリンだって、救出できたかもしれない。
そんな仮定が次々と、シンの頭に過っていった。
そんなシンの様子を、サヤはどこか遠い眼で見つめる。
「(無理もありませんね。私とてあちらにお兄様が居る事がわからなければ……この身は彼よりも余程、メイリンを案じて逸っていたでしょう)」
実際に、サヤの中にはヤヨイとしての想いが根深く息づいている。サヤとして、タケルの存在を感じ取れていなければ。ヤヨイは今のシンよりも大慌てであっただろう。
「(お兄様が居るのなら、少なくともメイリンに何かがあるような事は無いでしょう。下手すると望んであちらに……いえ、これは流石に考えすぎでしょうか。メイリンがお兄様の生存を知っているわけがありませんし……)」
「なぁ、ヤヨイは……なんで、そんなに落ち着いていられるんだ?」
何かに縋る様に、シンはサヤに問いかけた。
この苦しい自責の念を御し切るにはどうしたらよいか……そんな心の声が表れた様な問いかけであった。
「私も内心では落ち着いてません。私の中に居るヤヨイ・キサラギは、煩わしい程私の心を揺さぶってきます。ただ、それをサヤ・アマノとして抑えつけてるだけです」
「あ~、何だかよくわかんないな。つまりは一応焦ってるのか?」
「難解で複雑なのは仕方ないでしょう。記憶を失い、別の人格として生きてきた人間が、記憶を取り戻す例など、そう転がっている事では無いでしょうから」
「そ、それもそうか……」
言って、どうにか気持ちを落ち着ける様に、シンは仰ぎ見る空を見つめた。
夜の帳降りた今。離島で明かりの無いこの場所では星々の大海が良く見える。
途端に、何だか自分がちっぽけな存在になった様な気がして、荒れていた心は落ち着きを取り戻していく。
「──なぁ、ヤヨイ」
「何ですか?」
「どうしたら、俺は強くなれるのかな?」
「は? いきなり何を言っているのですか? そう言うのはヴェステンフルス隊長や艦長にでも聞いてください。ザフト内での強さの手に入れ方くらいは分かるでしょう」
「なんだよ、冷たいな。そう言うんじゃなくてさ……」
「強さの定義から提案してくるのは遠慮願います。そう言うのは哲学者に言ってください」
「相談に乗ってくれるくらい良いだろう! なんだよ、以前は色々と話も聞いてくれたのにさ……」
ヤヨイ・キサラギであれば、少なくとも真面目に話をして、語り合う事が出来ただろう。つっけんどんな様子のサヤに、シンは面白くないという表情を浮かべてそっぽを向いた。
途端に、サヤの内で奇妙な感覚が広がる。
それはまるで反逆の声。サヤ・アマノで居ようとする自身を乗っ取ろうとするような、ヤヨイ・キサラギの想いが漏れ出てこようとする感覚。
不貞るシンに対して、思わず罪悪感が滲んできてしまうのであった。
「はぁ……仕方ありませんね。少しは
静かに、サヤは不貞腐れるシンへと向き直った。
「シン」
「なんだよ」
あぁ、完全にこれはタイミングを失してしまった────明らかにご機嫌斜めな声音に思わずサヤは苦笑した。
「貴方が望む強さとは何ですか?」
「──聞きたいのは俺だっての」
「自分の事がわからないのはいただけません。それは貴方のこれからを支える根幹のはずです」
「難しい言い方するなよ。俺はただ、今日みたいに負ける様な……そんな弱いままじゃいられないと思ってるだけで──」
「軽い、のではありませんか。貴方の戦いは。私はそう思います」
「軽い?」
端的に、被せる様に発してきたサヤの言葉に、シンは首を傾げた。
続きをせがむ様に向けられる視線を受けながら、サヤはその意図を語り始める。
「貴方も、お兄──ラウラ隊長が着任した時に私と揃って呼ばれたでしょう? オーブ沖の戦いで起こった変化について」
「あ、あぁ……目をつぶれって言われて、それであの時の事を良く思い出せって」
「オーブ沖の戦い……あの時、貴方は何を想っていたのですか。そして貴方の今日の戦いはその想いに準ずる戦いでしたか?」
静かに、シンは思考を巡らせた。
オーブ沖での戦い……シンの頭にあったのは、どうあがいても仲間を守れないままの無力な自分。そんな自分への怒りに振り切れた時であったように思う。
対して、今日はどうだろうか。
因縁の敵とも言える相手。怒りと言う点であれば変わらない。むしろ喪ったものがあった分その意識は強烈であっただろう。が、それはシンの心の奥底にある願いに沿うものでは無かった。
無力な自分。何もできない自分。そんな自身を憎む怒り。それは転じて、大切なものを守りたいと願う事と同義だ。
討ちたいから強くなりたいのではない。シン・アスカは守りたいから強くなりたい……強く在りたいのである。
故に、今日のディザスターとの戦いは軽いのだ。
シンが望む本当の願いに、想いのベクトルが向いていないのだから。
「ラウラ隊長は言ったはずです。私達にとって、それは大事な想いの筈だと。その想いに……願いに対してブレたままでは、貴方の戦いはずっと軽いままでは無いのですか?」
「軽い、まま……」
「私は、あの日の想いを……そして自身の願いをもう自覚しています」
「えっ、何だよその、ヤヨイの想いって」
「秘密に決まっているでしょう。乙女の願いを詳らかにするなど、シンは助平な子ですね」
「ち、ちがっ! な、なんだよそれ! 教えてくれたって良いだろ!」
「ダメです。それに、問題は自分の想いに気づいているか。準じているかです。他人の事を知っても仕方ないでしょう」
「それは……そうだけどさ」
「自分を見つめ直す方が賢明ですよ、シン」
流し目と共にふっ、と小さくサヤが笑みを浮かべる。
それが月明かりと夜の中で殊更綺麗に見えて、思わずシンは心臓を跳ねさせた。
「と、とりあえず……ありがとう。なんとなく、分かってきたかも……」
「そうであれば、私もわがままを聞いた甲斐があったというものです」
先程までの猛々しい感じから一転して、少年らしく気恥ずかしそうにするシンに、サヤもまた不覚にも心臓を跳ねさせた。
それを鉄面皮で内に閉じ込めて、心の内に潜むヤヨイ・キサラギの情念に文句を叩きつける。
サヤ・アマノが、タケル・アマノ以外の男に情愛を向ける等、あってはならない。
それはそれは必死に、サヤは胸の奥から漏れ出てこようとする感情に鍵を掛ける。まるで二重人格の気分であった。
主人格としては完全にサヤが出ているというのに、どことなくヤヨイ・キサラギが溶け込んでいるというか、前に出てくるというか。
目の前で庇護欲を駆られそうな、犬の様な少年を、サヤは努めて見ないようにした。
「なぁ、ヤヨイ……」
「何ですか、シン」
「あの人は……隊長はいつも、どんな想いで戦ってたのかな?」
どこか、感慨深い声であった。
自身を見つめ直す。その為に必要な事として彼を知る。妬み、対抗意識、憧れ。様々な感情を抱いていた彼は、それこそどんな心積もりで戦いに望んでいたのだろうか。
シンは、それを知りたかった。知ればきっと、自身の心にも気が付ける気がした。
サヤは、そんな声を出したシンから視線を逸らし空を見つめる。
「────そうですね、あくまで推し量る事しかできませんが。お兄様はきっと、喪いたくない。ただその一心だったと、私は思います」
「喪いたくない?」
「お兄様は節操がないですから。関わった人は直ぐに、お兄様にとって大切な人になり得てしまう」
「それって俺や、ルナ達もそうなのか?」
「愚問ですね。お兄様が貴方達を捨てられるはずが無いでしょう。だからあれ程、熱心に教導してくれたのです……全ては、死なせたくないから」
サヤ・アマノではなくヤヨイ・キサラギにとっても。
クルース・ラウラの教導は決して温いものでは無く、また無駄な事など欠片も無かった。
徹頭徹尾、誰も戦場で死なせないようにと考えた先にあった訓練であった。
それは、ヤヨイの記憶を持つサヤにとっても疑い様の無い事実だ。
「そう、なのか……それなのに俺、いつも突っかかってばかりで」
「もし私が記憶を早くに取り戻していたら、貴方をボコボコに叩きのめしていたでしょうね。お兄様に不遜な態度を取る貴方を」
「お、脅かすなよ……今の俺は、そんなんじゃないって」
「そうでしょうとも。あんなに尻尾を振る犬の様な顔をお兄様に晒していたんですから。そのせいでお兄様まで良く貴方を目に掛ける様になって────シン、やはり許せないので一度だけ殴っても構いませんか?」
「お、落ち着けよヤヨイ……なっ? 目がマジになってるからさ」
「マジで言っております」
「いぃっ!?」
月夜に生える麗しい笑みの中、黒曜の瞳だけが爛々と光を放ち尚且つその目だけは全く笑っていないという、妖しくも怪しい気配のサヤに、シンは冷や汗交じりに返した。
「そう言えばシン、貴方は以前言っていましたね。確か……“俺、アイツの事大っ嫌いだし”。でしたか?
記憶を失っていたとはいえ、この言葉に何の反発もしなかったとは、本当にヤヨイ・キサラギとは愚かな女です」
「えっ、いや、それはさ……まだあの時は本当に……」
「ふふふ、そんなに怯えないで下さい。まるで私が虐めているようでは無いですか」
「いや、だから……あの……」
それからしばらく────正確にはミネルバが来るまでの間。夜の寒さとは別の寒さに打ち震える少年の姿があったそうな。
ラボを脱出したタケル達は、現在海洋を進みアフリカ大陸へと足を延ばしていた。
小型艇を丁度良い浅瀬に停留させて、そうして上陸。
一面の砂漠が広がるこの地に降り立つと、ラボで積み込んで来た車両を持ち出して目的地へと向かう事に。
目的地はそう……砂漠の民の街、タッシルである。
「もぅ、なんでこんなクソ暑いとこに来なきゃなんないのよ」
「暑いのは今だけ。夜になれば涼しくなるよ」
「タケルさん……それって、涼しいなんてレベルじゃないですよね?」
「極寒だろうね」
「はぁ? ちょっと、何も用意してないわよ」
「今日はどの道街に滞在する予定だ。問題はないよ」
タケル、ユリス、メイリンの3人でタッシルへと向かう途上の一幕であった。
スティング達は小型艇で留守番だ。艦の守りも必要だし、ステラをこんな日差しの強い所に出せるわけないだろうと、ユリスが全力で反対したからである。
こうしてうだる暑さの中、タケル達はタッシルへと向かうのであった。
「おぉ、待ってたぞタケル!」
街についてからすぐ、彼等を出迎えるのは恰幅の良い男性だ。
立派な口髭に、朗らかな顔。随分と記憶より丸みが増えたような気がして、タケルは小さく笑みを浮かべた。
「お久しぶりです。サイーブおじさん」
嘗て、このアフリカの地でアークエンジェルと共に戦ったレジスタンス。明けの砂漠のリーダー、サイーブ・アシュマンである。
「いやいや、急に活動してない明けの砂漠の通信コードで電文が飛んで来たもんだから驚いたぞ」
「流石に現在の直通コードなんて知らないしね。連絡が取れて助かりました」
緊急でラボから脱出したため、現在小型艇には様々な機材を積んではいるが生活物資が無い。
一先ずの補給地点として、タケルはサイーブとの伝手を当てにアフリカへと立ち寄ったわけである。
「とりあえずまずはウチに来な。色々とまた面倒を抱えてんだろう?」
「はい……急な願いを聞き入れてくれて感謝します」
「よせよせ、俺にとっちゃお前は半分息子みたいなもんだ。んで、そっちの嬢ちゃん達は……」
サイーブから向けられる視線を受けて、ユリスとメイリンは日除けに被っていたフードを取り払うと前に出た。
「ユリス・ラングベルトよ」
「メイリン・ホークです」
「2人とも、こっちはサイーブ・アシュマンさん。僕が小さい頃にお世話になった人でね。この街ではすこぶる頼れる人だ」
「サイーブ・アシュマンだ。面倒さえ起こさなきゃ頼ってくれていいぞ」
「2年前のアークエンジェル何て火種の塊みたいなものだったと思うけど?」
「バカ野郎。昔と今じゃ状況が違うだろうが」
バシバシと叩かれる背中をさすりながら、それでも笑みを絶やさないタケルに、ユリスとメイリンは少しだけ呆気にとられた。
「兄さんの人脈がわかんないわ……何でオーブの人間がこんな砂漠の街の人間と繋がりあるのよ」
「そう、ですね。私もびっくりです」
「こっちもわけがわからんな……お嬢ちゃん、タケルとそっくりじゃねえか。ん? だがタケルとカガリと双子って話だったよな?」
「あっ、それ私も気になってました。一体タケルさんとユリスさんって、どういう関係性なんですか?」
ユリスを見て、当然ながら湧いてくるサイーブの疑問にメイリンも乗っかる。
全く持って瓜二つな2人。しかしサイーブとメイリンは、タケルとカガリが双子であることを聞き及んでいる。
隠し子。三つ子。様々な憶測が2人の脳裏に飛び交っていた。
「兄さん、任せるわ」
「はいはい。道すがら……で話す内容では無いですね。とりあえず落ち着けるところで話しますよ」
「おう、そうか……それじゃ、付いてきな。これでもこの街じゃ一番の家を建てたんでよ」
朗らかに笑いながら街を先導していくサイーブに、タケル達も賑わう街へと歩みを進めた。
憎らしいほどの日差しが降り注ぐ中、しばらく進めば確かに他の家とは少しサイズ感の違う家が見えてくる。
それが目的地だとわかるのにそれほどの時間はかからなかった。
「おーい、帰ったぞ。ついでに客人だ、もてなしてくれ!」
こうして、3人はサイーブの家に招かれるのだった。
ラボのある離島へとミネルバが到着し、漸く本格的な調査へと乗り出したザフト。
不調を訴えたレイは艦内でメディカルチェックを受ける中、他のパイロット達はまた潜伏している敵が居ないとも限らないという事で、武装状態で共に調査に入った。
艦長であるタリア。副長のアーサーと共に、先に少し探索をしていたハイネの先導の下、ラボを進んでいく。
道中でもそこかしこに転がる研究員の死体に皆が慄いていた。
そして、とある扉の前で先導していたハイネが足を止める。
「ここからは少し、覚悟が要ります」
普段の軽い空気は一切なし。堅い声音で掛けられた言葉にタリアが小さく頷くと、ハイネは扉を開けて部屋へと押し入った。
瞬間、口元にハンカチを押し当ててタリアが呻く。それはアーサーも、この惨状を知らなかったシンとサヤも同様。
恐らくは訓練エリアだろう。そこにはまだ年端もいかない被検体がそこら中に転がっていた。
無論、その全てが息をしておらず。非道な研究であった事は推測できていたが、こうまで酷いものなのかと皆が戦慄する。
被検体の数は正に数多。そのどれもが、証拠隠滅を図ってか全て眉間を銃で射抜かれて殺されていた。
「これは……言葉がでないわね」
「ここだけじゃないです。至る所で、この様な子供の被検体がまとめて殺されています」
「内乱……と言うよりは、処分と言った方が正しいかしら?」
「施設の破棄、という事でしょう。ルナマリア、ヤヨイ、きつかったら艦に戻ってても良い。誰も咎めはしない」
「いえ、私は問題ありません」
「私も、なんとか」
「そう言うのであればルナマリア。私の背中に隠れるのはやめて下さい。歩きにくいです」
「これがあって何とか耐えられてるの! と言うかサヤ、あんたなんでそんなに余裕なのよ」
「いえ、流石に私も取り繕っているだけです」
そういって、深く息を吐いてサヤは気持ちを落ち着けた。
いくら澄まし顔で取り繕っても、人間の……それも子供の死体を見せつけられる忌避感は、簡単に御し切れるものではない。
知らず拳には力が入り、胸の内はゾワゾワと言い様のない感情に揺れていた。
「何で……何でこんな子供ばかり」
「その方が作るのも育てるのも簡単だからでしょうね……連合のエクステンデッド、貴方だって聞いたことはあるでしょアーサー」
「し、しかし、こんなにも……」
「連合やブルーコスモスが、コーディネーターに対抗する為に生み出した、生きた兵器……差し詰めここはその実験と製造の施設という事かしら」
「施設の破棄自体はしっかりされてるようだ。被検体は一人残らず処分。端末を見たが、データも全て抹消。ご丁寧に保存用のストレージ基盤を念入りに破壊までしてやがる」
「ハイネ、それはつまり……」
「えぇ、拾えるデータは精々ここに残されてる死体位でしょう。研究員も一緒に死んでるってのが、ちょっと腑に落ちないですがね」
確かに、とタリアは訝しんだ。
実験施設の破棄として被検体とデータの類を処分するのはまだわかる。しかし、そこで研究していた人員まで処分するのはどういう意図なのだろうか。
研究を知る物を全て抹消、となれば恐らく研究自体が凍結、ということになる。が、現状の連合にそれをする余裕はないはずだ。
戦線は決して良いわけでは無いのだから。エクステンデッドの様な強化人間は、いくらでも欲しいだろう。
「とにかく、今はできるだけのデータを取るしかないわね。可哀相だけど、この被検体達からも……ジブラルタルへと連絡を入れて専門のチームを送って貰うわ。これだけの施設なら連合が放っておくのも考えにくい。増援部隊がくるまで、ミネルバは調査を進めつつ、周辺の警戒に当たる。良いわね」
了解の声を聞きながら、タリアは毅然として踵を返した。
ここの雰囲気と事実に吞まれそうな皆を叱咤するその姿勢に、アーサーを始めルナマリアやシンもまた少しだけ落ちていた視線を持ち上げていた。
それから、数日の時を要して、ジブラルタルより調査チームが派遣される。
同時に、施設周辺の警備のために寄越された部隊も合流し、ミネルバはジブラルタル基地へと帰還の命を受ける事となるのだった。
任務中の行方不明者に、メイリン・ホークの名を刻みながら。
「そう言う事なのかお前達…………すまない。俺には掛ける言葉が見当たらん」
サイーブの家に着いたところで。タケルとユリス、2人の事を聞かされて、サイーブは何とも言えない声音で呟いた。
メイリンもまた、多大なショックを受けてその身を震わせている。
人口子宮を研究する過程でクローニングされた受精卵クローン。遺伝子的には全く同じ2人。タケルとユリスは双子ではなく同位体と言うべきだろう。
「んで、タケルの方が先に生まれてるから兄さんってわけか」
「厳密には違うし、僕は嫌だと言ってるんだけどね」
「呼び慣れちゃってるから今更変えられないのよ」
「ってわけなんだ」
「でも良かったのか? こんな話、俺やそっちの嬢ちゃんに聞かせちまって」
「う、うん……特に困る事は無いし、わざわざ吹聴する様な事は、2人ともしないでしょ」
「したら殺すわ」
「黙ってろユリス」
殺気混じりに、タケルはユリスへと咎める視線を向ける。
これまでにあった軽いやりとりではない。サイーブに対して向けられた言葉に冗談を感じさせない鋭い気配を見せた。
「吹聴されたら困るのは私達なのよ。釘を刺すのは当然でしょ」
「そんな事はありえないから話したんだ。要らぬ疑いを向けるな」
「ふんっ、お人好しのバカ兄さんが」
「おいおい、同じ顔並べてそんな喧嘩するなよお前達」
「そ、そうですよ。お2人は今、大事な目的のために手を取り合う仲間じゃないんですか? 仲良くしましょうよ」
瞬間、メイリン・ホークはとてつもない重圧を感じてその場にヘタった。
文字で表すならギンっ、と言った感じで目を見開く同じ顔の2人。そのままメイリンに詰め寄る様に一歩足を踏み出すと、それはものすごい剣幕を見せた。
「良いかいメイリン」
「私が兄さんと仲良くなんて事」
「100%──」
「絶対に──」
「「ありえないから!」」
まるで突風の様な重圧にさらされて唖然としながら、そっぽを向く2人にメイリンは表情を引き攣らせて乾いた笑いを漏らした。
正直言って息ピッタリ過ぎて仲良しにしか見えないと思ったのは内緒だ。
実際問題、遺伝子的繋がりのおかげで互いの感情が伝わるせいか、息ピッタリと言うのは紛れもない事実なのである。
「あー、とにかくだ…………タケル、そろそろ本題に入れ。こんなところにわざわざ、一体何の用で来たんだ?」
いよいよ本題。わざわざこんな砂漠だらけの場所に来てまで要求する事とは何か。
サイーブの問いに、俄かにタケルが居住まいを正した。
「うん。色々と無茶なお願いにはなるんだけどね…………オーブにもどるために輸送機を1機。調達して欲しいんだ」
投げられた言葉に、サイーブは眉を顰めて返すのだった。
シン・アスカ育成計画。そろそろ佳境か?
ラボ絶対許さないマンの主人公は、2度と研究できない様にデータは徹底破棄。本当は死体も全部処理する予定だったけど、ミネルバが来るのが早過ぎたのです。
主人公とユリスは完全に互いを嫌いだと思い込んでるけど、契約上必要な関係性という免罪符で何となく仲良くなってきてる感じ。それでも互いに譲れない部分で衝突するけど。
seed編では終生の仇敵だったはずの2人の関係性も、これからどうなることやらです。
そしてごめんよアフメド。本当はサイーブと一緒に出そうと思ってたけど、カガリとの事でめんどくさくなるから出演キャンセルさせてもらったんだ。本当にごめんよ。いつか短編で出してあげるから許して
感想よろしくお願いします。