機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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ちょっとえっ、て思うかもしれない。


PHASE-60 偽りの帰国

 

 

 

 L5宙域プラント周辺。

 

 その日は、随分と厳しい警戒態勢の中に在った。

 その警戒態勢の一角を担う国防本部所属の艦船ボルテール内で。イザーク・ジュールとディアッカ・エルスマンは艦から覗けるプラントを眺め見ていた。

 

「なぁ、イザーク」

「何だ?」

「本当に何も聞かされてねえのかよ。今日の事」

「知らんと言ってるだろう。そう言う事はミゲルにでも聞け。あいつならラクス嬢の護衛という事で議長の御傍にいるはずだ」

「無茶言うなよ。ミゲルの所在何て全然わかんねえんだからよ」

「ならば考えても意味は無いだろう。大人しく任務に集中してろ」

 

 不機嫌さを増してきたイザークの声音に、ディアッカは押し黙ってやれやれとため息を吐いた。

 本来であれば、L5宙域の周辺を哨戒するのは彼等の任務ではない。

 イザーク達はその戦力的価値からも、有事の際の遊撃部隊であり、定時的な哨戒に当たる部隊ではないのだ。

 

 しかし、今日だけは別。

 何やら重大な発表がデュランダル議長よりされるという事で、既にプラント宙域は封鎖され、外部からの来訪者は遮断。

 更に多くの部隊が動員され、ちょっとしたデブリの破片ですら報告が挙がる程に、警戒網は厳しくなっていた。

 

「ホント、一体なんの発表何だろうな」

「知らんと言ってるだろ!」

「もう聞いてねえっての!」

 

 直ぐ怒鳴る同期にうんざりしつつ、ディアッカは再び最高評議会が在るプラントを流し見た。

 

「──胸騒ぎがするな」

「当てにならんわ」

「ひでえなおい!」

 

 馬鹿なやり取りをしながら時間は過ぎていく。

 

 通達されている予定の時間まで、もう少しであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、そろそろだ」

 

 少しだけ緊張した面持ちで、タケルは呟いた。

 オーブの領空を目前としたところ。そろそろ行動しなければ、危険である。

 

「大丈夫なんだろうな、タケル」

「スティングの心配は分かるけど……一応それなりに名は通ってるし多分、大丈夫……」

「おいおい、何だよそれ」

「仕方ないだろ。カガリも居ない今、オーブがどうなってるか、少し不明なんだから。とりあえず、静かにしてて」

 

 言ってタケルは通信を飛ばした。繋げる先は、オーブ周辺の監視をしている国防本部である。

 

「国防本部、聞こえますか。国防軍所属、認識番号008324。タケル・アマノ三佐です。応答願います」

 

 通信機からは沈黙が返される。

 後ろに居るユリスが小声で、私より階級上なのよね、等と言っているのを黙らせて、タケルはもう一度通信機に呼び掛けようとした。

 

『──こちら、オーブ国防軍ソガ一佐である。アマノ三佐、認識番号は確認されたが一体どのような状況だ。その輸送機はオーブのものでは無いと見受けられるが』

「特務故、仔細は報告できませんが、これはアフリカで調達した輸送機になります。型式も少し古いものです。積載物はアフリカで取れたレアメタル。一佐もご存知かもしれませんが、私の職分であるMS開発における必要物資になります。モルゲンレーテに運び入れたいので、オノゴロへの着陸許可を」

『暫くそのまま旋回飛行で待機されたし。予定に無い話故、判断を仰がねばならない』

「わかりました。燃料が少々心許ない為、出来る限り早くお願い致します」

『了承した』

 

 途絶える通信の音声と共に、大きく息を吐く。

 恐らくは問題無いだろう。

 モルゲンレーテへの搬入物資の検閲は軍側ではしない。専ら受け入れ側のモルゲンレーテで確認している。

 一応、サイーブに頼んでアフリカで採掘されたレアメタルの一部は本当に積載してきているのだ。言い訳は立つ。

 

「ユリス、最悪はディザスターが接収されちゃうかもしれないけど、許して」

「はぁ!? 聞いてないわよそれ」

「今言ったからね。一応僕の権限でどうにかするつもりだけど……今はカガリが居ないから、どうなるかはわからない」

「そう言えば、オーブの状況って、今はどうなってるんでしょうか……ダーダネルスでは連合側に居ましたが」

「今もそこは変わらないだろうね。まぁ、艦船一隻で十分な戦闘は見せたからとりあえず連合内での立ち位置は確立したと言う所かな……」

「そう言えば……あの援軍できたオーブの司令官。いけ好かない気障男だったわね」

「恐らくウナト・エマ・セイランの息子。ユウナ・ロマ・セイランだ」

「あぁ、そうそう、そんな名前」

「僕もあいつは嫌いだよ。何と言ってもカガリの婚約者なのが許されない」

「気持ち悪いから急にシスコン拗らせるの止めてくれる?」

「と言うか、アスハ代表って婚約者居たんですか!? あんなにアスランさんとお似合いなのに」

「仮にもオーブの氏族。それも代表を務めるアスハの子だ。そりゃあ政略結婚の話の1つや2つあるものだよ、メイリン」

「うそぉ……なんか幻滅です」

「大丈夫、絶対成立させないから」

「だから、そのシスコンだしてくるの止めてって言ってるでしょ」

 

 ユリスがうんざりとした声を出したところで、通信機が俄かに音を出し始めた。

 

『アマノ三佐。モルゲンレーテへの着陸の許可が出た。オノゴロへと向かえ』

「了解しました」

 

 通信が終わると同時、僅かに一行に安堵の空気が流れた。

 

「アウル、頼むから行儀良くしてよ。メイリン、ステラの面倒をお願い……ふらふらさせない様に」

「あ、はい」

「ちょっと兄さん。何でステラの面倒がこの子なのよ」

「君は余計な問題ばかり起こすから何もしないで。冗談とかおふざけじゃなくて本当に。あとコレ」

「──ラウの仮面?」

「ここじゃ僕はタケル・アマノ。君には別人になってもらわないと困る。僕が2人なんて話、出まわったら厄介だ」

 

 タケルが2人……知る者であれば辿り着く。そこにユリス・ラングベルトが居る事を。そうなれば追跡を差し向けられる可能性があるのだ。

 彼女の秘匿は必要であった。

 

「──改めて見ると、余り良いデザインしてないわねこれ。と言うか、微妙にロアノークとも似通ってるのなんなのよ」

「ロアノークってムウさんの事だよね? 仮面着けてたの?」

「えぇ、似たようなのを……全く、フラガの血族はそう言う趣味なのかしら」

「さてね……あ、スティング。あそこの島だ。着陸場所はあの柵に囲まれたエリア」

「あいよ──ほら、全員席に着け。ちゃんとシートベルトも締めろよ」

 

 しっかり安全への気配りができる辺り、スティング・オークレーは良いお兄ちゃんである。

 全員が座席に着くのを確認してからスティングは輸送機を地上へと向かわせた。

 エクステンデッドはあらゆる任務を想定して訓練されている。工作部隊である彼等なら、輸送機の操縦くらいお手の物であった。

 綺麗に着地を決め、輸送機はモルゲンレーテへと降りたつ。

 

 

「ふぅ……ひとまず第一段階クリア。後はこのまま機体とゆりかごをシャトルに搬入して宇宙へ上がる。仕方ないこととは言え、自分の立場と権力をこうまで利用するなんて」

「何よ、使えるものは何でも使ってもらわないと困るんだけど?」

「わかってるよ……ただ、これでもう僕は今の立場には戻れないだろうなって思っただけ」

 

 今こうして生きていられる──その命の対価である。タケルは落ち込みそうな気持を必死に持ち上げた。

 

 国防軍三佐としての立場を利用した行為──オーブにおける開発者としての地位も、軍人としての立場も、これで無くなる事だろう。

 それでも、ユリスが助け出してくれなければ、この大切な場所に銃を向ける事になったはずである。それも、自身が消えて失われた後で。

 今連合のネオ・ロアノーク大佐として生きているムウの事を鑑みれば、あの時のタケルにユリスの提案を拒否する事は出来なかった。

 

 その結果が今であれば、タケルに悲しみはあれど後悔はない。

 早々に全てを終わらせて、その後に再び再出発するだけである。

 

「とりあえず、色々と手続きを済ませなきゃいけない。スティング達はここで待ってて。僕とユリスは降りてモルゲンレーテに話をつけてくるから。ユリス……行く、よ……」

 

 搭乗口のハッチを開けて、ユリスへと振り返ったタケルの声が途切れていく。

 見ればユリスは、ラウの仮面ではなく目元までをすっぽり覆うバイザーを着けて顔を隠していた。

 

「何それ?」

「顔を隠すならこれで十分でしょ? なんでクソ真面目にあんな仮面着けなきゃいけないのよ。不審者極まりないわ」

「そりゃ、そうかもしれないけど……」

 

 釈然としなかった。デュランダルに渡されて仕方なくという部分もあったし、浅い縁でもないとラウの仮面を着けたタケルに対して、自分よりも余程ラウとの縁は深いだろう彼女が、彼の形見をその見た目だけで忌避して着けない事に。

 

「よくそんなの持ってたね。用意が良すぎないか?」

「この間オーブのタケミカヅチに乗り込んだ時にね。笑っちゃうことにこんなバイザーで顔を隠してタケル・アマノを名乗る男が居たのよ。それを参考にね」

「あぁ……それって」

「丁度、あんな感じよ」

「えっ!?」

 

 ユリスが見る方向へとタケルは恐る恐る振り返った。

 丁度あんな感じ……その言葉が示す通り、輸送機へと向かってくる1人の男が目に入る。

 濃紺の髪が僅かに怒りで逆立ち、目元はユリスが着けているようなバイザー。ちゃっかりオーブの軍服を身に纏うその男の名は────アスラン・ザラ。

 

 そしてその男は肩を怒らせながら、搭乗口への階段をカツカツと音を鳴らしながら昇って来る。

 瞬間、タケルは色々と察した。

 

「あ、あすらん……ちょっと落ち着いて話を聞い──」

「このっ、バカヤロウ!!!」

 

 怒りと気合の籠った拳が、タケル・アマノを打ち抜くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アークエンジェル艦内。

 医務室は狭すぎる為食堂へと運び込まれたネオ・ロアノークを囲う様に皆が詰め寄り、正に一行は一堂に会していた。

 

 そして、当然だが疑心と疑念に空気は険しいものとなっている。

 絶望的であったタケル・アマノの生存────その情報を齎したのだから。

 

「それで……どういう事なんだ。ネオ・ロアノーク」

 

 第一声はナタルだ。既に悲しみは乗り越え飲み下した身。今更偽報に踊らされるつもりは無いと、覚悟の気配が見える。

 

「兄様が生きているというのは……本当なのか?」

 

 こちらはカガリ。覚悟などできていない。縋れるのなら縋りたい。そんな気持ちが声音には垣間見える。

 ギリギリで表情にまでは出ていないが、カガリもまた失う事にはとんと弱い。

 そんなカガリの声音を聞いて、これで偽報だったらネオを折檻してやるとキラは心に誓った。

 

「な、なぁ……その、なんとなく重要な話だってのは分かるんだが……もうちょいリラックスしてくれないか。流石に怖いってお前等……」

「良いから早く教えろと言っている!」

「勿体ぶるな!」

「はいはい、カガリさんにナタルも……ちょっと落ち着いて」

 

 どんどんと詰め寄っていく2人を引き剥がして、マリューが前に出た。

 

「ロアノークさん……こちらから質問していきます。答えて下さるかしら?」

「それで頼む……下手な事言ったら殺されそうだ」

 

 戦々恐々と言った様子のネオに仕方ないと言わんばかりのため息を吐いてから、マリューは視線でもってナタルとカガリを牽制。どうにか自身の後ろに抑え込んで、代表として聞き込む姿勢を取った。

 

「それではまず教えてください。どうしてタケル君が生きてると?」

 

 のっけから核心に迫る話……とは言ってもそれ以外聞く事はないが、周りで皆が固唾をのんで見守る中、問われたネオはそれに答えていった。

 

「ダーダネルスでの戦いで、俺の部隊に居た奴が戦場でコクピットブロックだけ拾ってきたんだ。んで、中を開けてみて見ればザフトのパイロットスーツ。あの戦闘、ザフト側で墜とされたのはあの機体だけだったしな。そこの坊主がカオスに討たれたって言うもんだからそいつに間違いないだろう」

「キラ君?」

「確かに、ムウさんの言う通りなら、その拾われた人がタケルなのは間違いないと思います。ザフト側で墜とされたのは、タケルの機体だけのはずです」

「幸いなことにコクピットにほとんど損傷はなかった。外傷は、スーツ越しでは特に見受けられなかったよ」

「それじゃあ……」

「兄様は生きているんだな」

 

 喜色をこれでもかと浮かべるナタルとカガリに釣られ、一同から安堵の吐息が溢れた。

 こうである事を願っていた。だが同時に、そうならない事も覚悟していた。不確定でしかなかった事実がネオの齎した情報で確定的となり、本当の意味で安心できたのだ。

 

 しかし、マリュー・ラミアスの怪訝な顔はまだ消えては居なかった。

 

「続けて質問するわよ。貴方は医務室で言い淀んだわね? これが…………耳寄りな情報では無いかもと。一体どういう事かしら?」

 

 死んだと思われていた人間が生きていた。既知の仲であれば手放しで喜ぶ話だ。

 生きていたという話だけであれば、あの時言い淀む必要などない────嫌な気配を、マリューは予感していた。

 

「──ここから先は俺の手を離れた話だからな。確かな事は言えない。それでも良いか?」

 

 幾分かの間を取り、ネオは静かに呟いた。

 無論、ここに居る面々はそれに肯定の意思を示し、ネオは自信なさそうに口を開いていく。

 

「あのパイロットは連合のとある研究施設に送られた。人を強化し、意のままに操る術を研究する施設へとな」

「まさか、あの3機のパイロットの様な……」

 

 キラの脳裏によぎるのは、先の大戦で討ち合った連合の3機。カラミティ、フォビドゥン、レイダーのパイロット達の事。

 ナチュラルではありえない戦闘力と、味方への攻撃などの問題行動が散見された彼等は、後にユリスと邂逅したタケルによって連合の強化人間であると伝えられていた。

 そんな強化人間を生み出す施設へ送られたという事実。キラは慄いてネオへと詰め寄った。

 

「何で、どうしてそんな場所に!」

「利用するために決まってるだろ。洗脳に投薬、記憶や人格の書き換えまであそこじゃできるんだぜ。あれだけの能力を持つパイロットだ。連合のお偉方が放っておくわけないだろ────とは言っても。聞いた話じゃ、そいつを乗せた艦がどうやら途中で消息を絶ったらしいがな」

「どうなったか、貴方にはわからないのかしら? 何が起きたか推測は?」

「予想は────ついては居るが、確信ではない」

「話して頂戴。それ次第で、私達は動く必要も出てきます」

「あの船は元々うちの部隊に居た被験体達をラボへと送り返すための船だった。成果を出せなかった失敗作としてラボで処分するためのな」

「はぁ……聞くだけで滅入って来る話だな。貴様等は、命を何だと思ってるんだ」

 

 酷い話の内容に、カガリは思わず吐き捨てた。

 一切の余地がない、唾棄するべき所業の話であった。それはここに居る皆が思う事であり、カガリに限らず表情にその声は見え隠れしている。

 

「俺に言うなよ。強化人間関連はもっと上の人間が動かしてる話だ。俺は運用を任されてるしがない軍人でしかない」

「それで、その船にタケル君が乗せられてるとして、どうなると言うのかしら?」

「被験体の中には1人、これからあいつ等がどうなるか知ってる人間がいた。比較的まともでいわゆる監督役を任されていた人間だ。そっちの坊主はダーダネルスで戦っただろ? 紫の機体、ディザスターのパイロットだ」

「──ユリス・ラングベルト」

「知ってるのか坊主?」

「一応、2年前に面識はあります。散々戦いましたし」

「拾われたザフトの奴とも色々と関係あるみたいだな。ユリスは随分とあのパイロットにご執心だった」

「そう、でしょうね」

 

 この中で唯一、ユリスとの面識を持っているキラ。彼女がタケルへと向けていたその強い想いを、キラは知っている。

 世界を、人類を滅びに導くのと同じだけの憎しみ。それを彼女はタケルに向けていた。

 

「んで、本題の話だがまぁ簡単な事だ。反乱したんだろうさ…………そのザフトの坊主も利用して」

「反乱? そんな大それた事を?」

「乗っていたのは小型の輸送艇。運用人数は数える程度だ。あの利かん坊の能力は良く知っている。焚き付けられたユリスが動いたのなら、それくらいはやってのけるだろう」

「焚き付けられたって、貴方まさか」

「まぁ、な…………俺も、普通に生きることすら許されないあの子達を見て、何も思わないほど人でなしにはなれなかったってわけだ」

 

 ネオは静かに自嘲した。軍人としては完全に不適格。自軍に反する行いであろう。

 あの時、ユリスと別れの間際に渡した銃も。辛ければ自ら処分しろとユリスを追い込んだのも。もしできるならそうなって欲しいと彼女に発破をかけるがためであった。

 ネオとて、お偉方の命令に納得はしていなかったのだ。

 

「────そう言うところは、結局変わってないのね」

 

 嘗てのアラスカを思い出し、マリューはどこか温かい気持ちを覚えて嘆息した。

 やはりこの男はムウ・ラ・フラガなのだと。その気持ちが再び湧き上がって来る。

 

「だから、今どうなってるかは知らん。が、ユリス達と共に追われる身となってでも生き延びてるんじゃないかってのが俺の予想だ。確定ではないがな」

「ラボの場所を教えてもらえないかしら? 調査に向かいたいのだけれど」

「悪いが、聞かされてないんでな。それは答えられない?」

「まだ連合は裏切れないと?」

「本当だって、知らないんだ。言ってあんた等が潰してくれるってんなら喜んで吐いてるさ」

「それもそれで軍人としてはどうかと思うけど……まぁ、貴方らしいわね」

「どう言うことだよ。俺らしいってのは……」

「別に────さて、タケル君の状況はわかった様でわからないけど。とりあえずできる事は無さそうね」

 

 まとめという様に、マリューは皆へと向き直った。

 本当であれば改めて捜索に出る事も考えていたが、どうにも不確定にすぎる状況である。できる事はと考えるが、マリューには思いつかなかった。

 

「オーブやユーラシアの人工衛星から、足取りを掴め無いだろうか……」

「そのラボとやらがどこかわからなけりゃ、望み薄でしょうよ。場所の見当だって付かないんですから」

「そう、か……」

 

 答えたマードックの言葉に、カガリは沈黙した。

 生きている可能性。逃げ延びている可能性が見えてきたところで、結局その足取りは掴めない。

 

「それに、今はアークエンジェルも身動きが取れないわ。フリーダムも破壊されてるし、ストライクルージュだけで動くのもね……」

「──すいません」

「あぁ、違うのよキラ君。別にキラ君を責めてるわけじゃないの」

「とりあえず、俺はもう良いか? 聞きたい事は全部聞いただろ?」

「えっ? あ、えぇそうね。誰か、ロアノークさんを医務室に連れて行ってくれる?」

「わかりました」

 

 了承の声と共にトノムラが動き出し、ネオを食堂より連れ出していく。

 それを皆が見送る中、ナタルはどこか鋭い眼差しを見せており、出ていくネオの背に声を掛けた。

 

「ロアノーク大佐、もう一つ聞いても良いですか?」

「あん? まだ何かあるってのか?」

「先程聞いた強化人間の話…………記憶や人格の上書きと言うのは、本当ですか?」

「本当だよ。実際にこの目であの子達が変わるのを見ている。それがどうしたってんだ? そんな事は不可能だとでも言いたいのかい?」

 

 ネオの言葉に、ナタルは疲れた様に肩を落とす。そこまでの事実がありながら何故……ナタルはそう思わずにはいられなかった。

 

「全く、相変わらず少佐は少し抜けている────その事実がありながら何故、貴方は御自分がムウ・ラ・フラガではなくネオ・ロアノークだと言いきれるのですか?」

 

 目を見開く。それはネオだけでは無い。ここに居る皆が。

 記憶や人格の上書き…………その実例が正しく目の前のこの男。ムウ・ラ・フラガでありながらネオ・ロアノークとして生きている事実。

 彼もまた、そのラボで処置を施された人間である事の証左である。

 

「俺、も……?」

 

 その事実を……可能性を認識した瞬間、ネオの脳裏に何かが過ぎる。

 具体的な映像では無い。霞掛かってはっきりとは見えないそれは夢の様な感触。それでも、拭いきれないネオ(現在)との違和感を覚えた。

 

 呆けるネオに、ナタルは歩み寄った。

 

「何としても取り戻してください。本当の貴方を────これ以上マリューに、貴方を失った悲しみを背負わせないで欲しいのです」

 

 最後は聞こえない様に声を潜めて、ナタルはネオとすれ違い食堂を後にした。

 どこか自失した様に呆けたままネオはトノムラに連れて行かれ、その場に残った皆も解散していく。

 

 

「────ありがとう、ナタル」

 

 

 そんな中1人残ったマリューは、友人の厳しい優しさに一筋の涙と感謝を溢すのだった。

 

 

 




当然ながら思う話。目の前で記憶操作されてる人間がいるのに自身の記憶が弄られてないと確信持てるわけはない。
ましてや自分の知らない人間が自分を知っているのだから。

そして主人公……バカヤロウされちゃった。まぁそうなるだろうねと言う意見もあると思う。
作者の認識として、原作アスランは提示されたその道しか無くてザフトへ。
主人公は色んな道が取れる中で、捨てられないもののためにとザフトへ。そうしてアスランと同じく世界に翻弄されて沼にハマってる感じ。
迷いながら、示された一本の道を進んだ原作アスランと。迷わずに迷宮を奔走しているタケル。そんな感じ。
これから先もすれ違い歯痒い展開が続いていく事でしょう。

そんな本作を見守っていただけましたら幸いです。
感想よろしくお願いします。
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