機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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ごめんなさい。


幕間 それは避けれぬ別れの中で

 

 

 オーブ首長国連邦。モルゲンレーテ本社。

 

 開発を主とするモルゲンレーテとなれば、ミーティングルームの機密性は十分。秘匿する話をするにはもってこいである。

 そんなミーティングルームの一室に、ユリス・ラングベルトが率いる一行は連れて来られていた。

 タケルとユリスだけではない。輸送機に乗っていた全員がである。

 そして、その場で彼等と対面するのはアスラン・ザラ。更に大至急で呼び出されたユウナ・ロマ・セイランだ。

 

 

「────ふむ、わざわざアレックスに呼び出されたかと思えば、随分と複雑な状況だね」

 

 ユウナは静かに呟いた。

 視線を巡らせてみれば、見知った顔としてはタケル。しかし、その隣には全くのそっくりなユリス。そして、どう見ても軍人とは思えない姿のその他4人。ちなみにメイリンやステラ達はもう、所属がわかる様な軍服は着ていない。

 

「言ってる場合か。

 タケル、一体どういう事だ。あの時お前はカオスに墜とされて……てっきり死んでしまったかと。それが何で……どうしてそいつやメイリン・ホークを連れて、オーブに戻って来るような事態になるんだ!」

「うるさいわねモテない男は……どうでも良い事で喚いちゃって。そんなんだからフリーダムに墜とされるのよ」

「っ!? お前は黙っていろ、ユリス・ラングベルト!」

「黙らないわよ。兄さんも含めて、私がこの面々を引きつれてるの。応対するのは私──もがっ!?」

「ちょっと君は話に向かな過ぎるから黙っててくれ」

 

 スティングに目配せをしてユリスを抑えさせると、タケルは改めてアスランとユウナへと向き直る。

 

「先に聞いておくよアスラン。何でセイランをここに?」

 

 元々セイランは大西洋連邦寄り……と言うよりは、カガリ以外の文官は皆そう言う気配であったはず。それが、タケルの認識だ。

 何故アスランがタケルとの話し合いの場にユウナを呼んできたのか。タケルには見当がつかなかった。

 

「今の僕達は同志だからね。タケル・アマノ……一応はカガリの兄である君が帰ってきたとなれば、状況を把握しておく必要があるだろう? 死んでたと思っていたのだから尚更さ」

「同志?」

「セイランではなく。ユウナ個人はこっち側ということだ。こっち側と言うのはつまり、その……カガリを擁立する者と言う意味で」

「恥ずかしがるなよアスラン。素直にカガリを愛する者同士と言ってくれ」

 

 思わず、タケルの拳が握りしめられる。

 愛する妹に変な虫が付いたと、湧きあがる感情を必死に抑えつけてタケルはアスランを見た。

 

「ユウナ、今はそう言う話をする場ではないだろう」

「──とりあえず、セイランもカガリの味方という事で良いの?」

「その認識で間違ってないよ。僕達の目的はカガリの代表復帰とオーブの掌握だ」

「という事はつまり……」

「あぁ、現在のオーブは代表となったウナト・エマ・セイランと一部の首長達によって同盟参加国としての立ち位置を取り続けている。この間の遠征で多少はカガリの復帰を望む声が武官からは挙がったが、国元に居ないカガリを非難する声で封殺されている」

「よく言う。自ら追い出しておいて」

「全くだよね……それで? 君は一体何をしに戻ってきたのかな。アマノ三佐」

 

 期待を込める様な声音と視線が、タケルへと向けられた。

 望むべくは、この現状を打破する為の一矢となる話。カガリにとって絶対的な味方となる筈のタケルの帰還は、ユウナやアスランの気持ちをざわめかせる事であった。

 

 しかし、そんな期待の込められた気配に。タケルは僅か、申し訳なさそうに顔を伏せた。

 

「セイラン……今の僕に、その肩書を付ける必要はない……と言うか、つけないでくれ」

「なっ!? どういう事だタケル」

「一体どういう意味か、聞かせてもらおうか?」

 

 射貫くようなユウナの視線にタケルはおずおずと口を開いていく。

 

「2人も知っての通り、ダーダネルスで僕は一度死んだ身だ。カオスに討たれて、墜とされて……ここに居るステラ・ルーシェに拾われた。連合の捕虜となった僕は実験施設で記憶と人格を上書きされて、モルモットにされる予定だった。そして……」

「兄さんは私と手を組んだのよ。ふざけた実験施設送りから助けてやる代わりに、私達を助けろとね」

 

 スティングの制止を払いのけ、ユリスは険しい視線と共に割り込んだ。

 まるで文句はあるかと言わんばかりのその気配に、納得の行かないアスランもユウナも訝しむ表情を見せる。

 

「君達を、助ける? それはまたどういう事だい?」

「メイリンは違うけど……ここに居る彼等は連合が生み出した強化人間。エクステンデッドだ。その非道な実験によって、ただ普通に生きる事すら困難な、特異な身体に作り変えられてしまっている。そして今の僕は命を救われた対価に、彼等の身体を治療する為に動いている」

「お前……それって」

「端的に言うよアスラン。彼等の治療が終わるまで、僕はタケル・アマノとして生きる事を許されない。そう言う状況だ」

 

 静かに、アスランは息を呑んだ。

 命を……人生を対価とした取引。

 タケルは、最も恐れる未来を回避する為にユリスの手を取った。即ち、その時点でタケルは彼等を救う事を約束させられているのである。

 事が済めば解放されるが、それまでは自由のない傀儡……今のタケルは、そういう状態なのだ。

 

「────ふぅん、事情は分かったけどそれで? ならば何でオーブに立ち寄ったのかな?」

「宇宙に上がりたい。少し調べた程度だけど、ステラ達の身体は複雑怪奇な状態に陥っている。設備の整った場所で、分析し治療方法を模索しなければならない」

「なるほど。つまり君はもう、オーブの人間として生きては居ない、という事だね」

「ユウナ!」

 

 どこか責める物言いに、アスランが声を荒げるがそれは他ならぬタケルが制する。

 

「今は、そうだろうね」

 

 大人しく事実を認めるタケルの様子に、その場は静まり返った。

 アスランは何か言える事は無いかと表情を忙しなく変えており、ユリス達は静観の気配を見せた。

 メイリンは1人、不安そうにタケルを見てはユウナとアスランの方へと視線を向けてを繰り返す。

 

「はぁ……全く、折角カガリの助けになるかと思って期待したのに、とんだ期待外れだよ」

「返す言葉も無い。申し訳なく思うよ」

「ホント、肝心な時に役に立たないとはね」

「それでもお前にそれを言われるのだけは釈然としないんだけど?」

 

 散々カガリの政敵として存在していたユウナから向けられた役立たずの言葉に、思わずタケルは反発して睨み合う。

 その最中、アスランは思い立ったかのようにユリスへと視線を向けた。

 

「ユリス・ラングベルト。彼等の治療は、オーブで何とかする……だから、タケルを解放してもらえないか? タケル個人を頼るよりも、オーブと言う一国家を頼った方が、余程有用だと思うのだが」

「お断りね。このオーブでどんな治療ができると言うの? 中立の小さな島国。兄さんのお陰で軍事力こそまともでも、人間の研究なんて何1つ行われてない。潔癖過ぎる中立国だったオーブに、私達の様な身体を弄りまわして改造された者達の治療を……一体どの程度期待できると言うのよ?」

「御尤もだろうね。我が国では残念ながら望み薄だよ」

「ユウナ、しかし」

「だが……だからと言って。我が国の優秀な軍人で在るアマノの人間を、おいそれと君達の奴隷の様に扱われても困る」

「あら、どうしようと言うの? 良からぬことを考えてるのなら容赦はしないけど」

 

 俄かに膨れるユリスの鋭い気配。一触即発になりそうなそれを、タケルは手で制した。

 

「ユリス、やめろ。好戦的になるな。問題を起こせば、オーブからですら身動きが取れなくなる」

「好戦的になるかどうかはこいつら次第よ。手荒な真似をして兄さんを取り戻そうというのなら、私と他ならぬ兄さんが敵となるわ」

「落ち着いてもらいたいな。何も彼を取り戻そう等とは考えていないよ。ただ、彼に預けてあるものは全部返してもらわなければならないということだ」

 

 ユウナの言葉に、タケル以外の全員が疑問符を浮かべた。

 ユウナとタケルの間に、以前からやり取りが在ったのか……アスランが見当違いの事を考えている中、その答えを示すべくユウナはタケルへと向き直った。

 向けられた視線を、正面から受けてタケルは静かに頷いた。

 

「覚悟は、できてるみたいだね?」

「元よりエリカさんにそう伝えるつもりだったからね。お前がそれを決めてくれるのなら後腐れも無い。一応はオーブの五大氏族だし」

「潔いね。では────タケル・アマノ国防三佐。現時点を以て、貴官の軍人としての階級、籍、併せてモルゲンレーテにおける開発者の立場。その全てを剥奪する。

 宇宙に上がるためのシャトルは餞別であげよう。今後はオーブの人間として名乗る事を禁止させてもらうよ」

「ユウナ、お前!」

「了解した。ユウナ・ロマ・セイラン。全てに従うよ」

「お前まで、何を言っているんだタケル!」

 

 馬鹿げた物言いをするユウナ。そしてそれを受け入れるタケル。アスランは理解の及ばない事態に2人へと声を荒げた。

 そんなアスランの声を受け流して席を立ったタケルは、ユリス達へと目配せをして退室を促すと、自身もそれに続いていく。

 

「シャトルへの資材の搬入は、手伝ってもらえるのかな?」

「あぁ、ここのスタッフに別れの挨拶がてら手伝ってもらうと良い」

「そうか、助かるよ。ありがとう」

「お、おいタケル!」

「ユリス、皆……そう言う事だから、行こう」

 

 胸の内の全てを、極力外に出さない様に平坦な声をだしながら、タケルは皆を引き連れてミーティングルームを出ていく。

 

 

 部屋に残った静寂の中、アスランは怒髪天を衝くと言う様に怒りを露わにしてユウナへと詰め寄った。

 

「お前、一体何のつもりだユウナ!」

「怒るなよアスラン。僕は取るべきを取っただけだ」

「ふざけるな! あいつが……あいつが今までどれだけこの国の為に」

「だからこそだよ……彼がそれだけの事を成してきた人間だからこそだ。

 残念ながら今の彼に、自らの道を選択する自由はない。彼の立場をそのままにしておけば、彼が成す事全てにオーブ国防軍、タケル・アマノ三佐の名がついて回るだろう……仮にそれが、オーブに敵対する様な事態になったとしてもだ」

「バカな、何でそんな事になる」

「可能性の話だよ。彼に自由がない以上、それは可能性としてあり得る事態なんだ。今彼の手綱を取っている彼女がそれを指示してしまえばね。

 対外的な対応として、彼がオーブの人間であることを、もう許してはおけない。彼はもう、国とは無関係な人間としておかなければ、どこに行くにも何をするにも、彼の名の弊害が出る。彼のネームバリューは、君も良く知っているだろう?」

 

 ユウナに諭されて、怒りに染まっていたアスランは押し黙った。

 個人的な感情を封殺する理路整然とした理由であった。いっそ感情的になった自身よりも余程タケルの事を考えた上での対応である。

 

「彼も望む所だったはずだ。潔い返事だったじゃないか」

「だが……こんな事……」

 

 だがそれでも、アスランはこの結果を容易に受け入れる事はできなかった。

 

「まぁ僕も、ナンセンスだとは思うよ。彼ならばいくらでも頼れる道筋はあるというのに」

「だったら、何故お前はそれを」

「言っただろう。それが彼の望む所だと。なまじできる事が多いから、人に頼る事を善しとできないんだ……これは自身の成すべき事だとね────全く、損な性格だ」

「くっ……あの……バカ野郎……」

 

 再び握りしめられたアスランの拳は、今度は振り下ろす場所を求めて、ただ震えるしかなかった。

 こんな事態に、何の力にもなってやれない自分が情けなく、もどかしかった。

 人生の大半をオーブに捧げてきたはずの彼が迎えた悲しい結末に……アスランはせめてもの情けと、知り合いの顔を思い出してミーティングルームを出ていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 宇宙へと向かうシャトルに積み込まれていくコンテナを、タケルは空虚な瞳で見つめていた。

 

「兄さん、これでゆりかごと資料は積み終わりよ────兄さん?」

「えっ? あ、あぁごめん。ボーっとしちゃって……ディザスターは?」

「今スティングがトレーラーで」

「了解。それじゃ積み終わったらすぐにマスドライバーに搬送するよ。ユリスは皆を連れて先に乗り込んで」

「良いけど……本当に良かったの? あんな一方的に全部剥奪なんて」

 

 ユリスから見ても、タケル・アマノが国の為に生きてきたことはよく分かる。出なければ三佐の立場も、モルゲンレーテ技術開発局の立場も、任されているはずがない。

 可哀相、等と彼女が思う事は無いが、これまで散々彼に頼っておいてこうも簡単に切り捨てられるのかと、薄情な対応に憤りは感じていた。

 

「覚悟はしてたよ、オーブに入った時に。元より、オーブを離れる前にその予定だったし」

「その────悪かったわね」

「やめてくれ。それでもクソみたいな実験のモルモットにされるよりはずっとマシだから、僕は君と手を組んだんだ。謝られる謂れはない」

「それなら……良いけど」

「とにかく、さっさと行こう。問題が起きない内に──」

 

 言って、タケルが歩き出そうとした瞬間であった。

 

「アマノ三佐!」

「見つけたぁ!」

「ちょっと待って下さい!」

 

 遠めから、タケルを呼び止める声。

 最近久しく聞いてなかった愛弟子たちの声だとわかり、タケルの胸を温かさが埋める。

 

「アサギ、マユラにジュリも……どうしてこっちに?」

 

 現在彼等が居る場所はシャトルの発着場だ。少なくとも彼女達パイロットが来る場所ではなかった。

 

「アスラン君から聞いたんですよ!」

「アマノ三佐、オーブから追放されるって」

「どういう事なんですか!」

 

 1人また1人と詰め寄っては、説明しろと吠えるアサギ達にタケルはタジタジとなった。

 

「あっ、えぇっとね……追放と言うよりかは、離脱? とにかく、まぁ色々と事情があってね。あっ、ユリス。悪いけど先に──」

「シャトルで待ってるわよ……少しくらい時間を遅らせても構わないわ」

 

 アサギ達を一瞥して、シャトルへと向かうユリス。

 言外に、待っててやると言われても、タケルは少しだけ呆けた。彼女にしては本当に珍しく……タケルに気を遣ってくれたようである。

 

「ユリス……ありがとう」

「アマノ三佐、せめて1回だけ!」

「1回だけで良いですから、シミュレーション見てください!」

「私達、今凄く頑張ってるんですから!」

 

 これが最後と必死に頼み込んでくる愛弟子たちの要望とあれば、タケルに断れるはずも無かった。

 小さく笑みを浮かべながら、タケルは頷く。

 

「うん、じゃあ1回だけね。行こうか」

 

 道すがら、様々な知人たちとすれ違い、挨拶を交わしながら……タケルはどこか噛み締める様に、モルゲンレーテへと戻っていくのだった。

 

 

 

「あれ、ユリスさん……タケルさんはどうしたんですか?」

「お別れ会よ」

「お別れ会?」

 

 返された言葉に疑問符を浮かべて、メイリンはシャトルの窓から覗ける外を見た。

 そこには、3人の女性に手を引かれ連れていかれるタケルの姿があった。

 

「あっ、確か……アサギさんにマユラさんにジュリさん。連れ戻しにきた……とかですかね?」

「違うわよ……ただ、この国には兄さんを慕う人が多過ぎるの」

 

 それがきっと、呪いの様に彼を追い詰めてるとも知らず────ユリスは知らず刺々しくなりそうな気持を落ち着けて息を吐いた。

 

「兄さんが戻ってきたらすぐ出るんだから、準備は終わらせておいて頂戴」

「わかりましたけどぉ……ユリスさんもちゃんと手伝ってくださいよ」

「何よ、文句あるの? 私は荒事専門なのよ」

「タケルさんを見習ってください……全く……」

 

 

 

 

 

 

 

 モルゲンレーテのシミュレータールームに来たタケルは、目の前でアサギ達が真剣に取り組んでいる訓練を見せつけられた。

 内容は勿論、タケルやキラ、アスランを相手にしたあの訓練である。

 そしてタケルは、そこで驚きの成果を見せつけられていた。

 

「────本当に、凄いね3人共。一体どうしちゃったのさ」

 

 アサギはタケルのシロガネを相手に5分間を逃げ切り。

 マユラはアスランのジャスティスを相手に、機体の損傷を受ける事無く戦い抜き。

 ジュリはキラのフリーダムと、正面から射撃戦で撃ち合ってみせたのだ。

 

「ど、どうですか?」

「何かありませんか?」

「最近、ちょっと詰まってきちゃってて……」

 

 予想外と言う他ない。タケルは言葉に詰まった。

 ここまでの技量、良く身につけたものだと心の底から感心した。

 恐らくはそれぞれの相手に特化してきたが故だろう。相手を変えれば崩れそうな危機感もあるが、それでも仮想とは言え自分達と渡り合う等とは夢にも思っていなかった。

 

「わ、わかったよ……ちょっと待ってて」

 

 その上で更に、彼女達は上を目指そうとしている。

 教官として、タケルは彼女達の声に応えないわけにはいかなかった。

 集中を高めて、先のシミュレーションデータを再生する。何度も何度も、真剣な眼差しと共に見つめ続けた。

 

 アサギ達が固唾をのんで見守る中、タケルは漸くとアサギ達に向き直って口を開いていく。

 

「うん……それじゃ、色々と言わせてもらうね。

 アサギはまず、僕を相手に特化しすぎちゃってるのが怖いかな。ちなみにだけど、どんな風に僕の動きを読んでるの?」

「えっと……機体の挙動とか、自機の状態を顧みて、アマノ三佐ならどう攻めて来るかなって」

「うん、自分の状況から敵がどう攻めて来るのかを予見できるのは凄い事だ。それができるだけでも十分……だから、その先見の目は色んな相手とのシミュレーションでもっと養った方が良い。もっともっと、色んな事が見えてくるようになるはずだよ」

「なるほど……それじゃ、次はキラ君とアスラン君とやってみます!」

 

 やるぞー! と俄然意気を増したアサギを余所目に、続いてタケルはマユラへと視線を向ける。

 

「マユラは以前と比べて本当に素直さが無くなったね」

「えー、どういうことですかそれ!」

「待って待って、褒めてるんだよ。以前のマユラは、どの攻撃も素直でわかり易かった。でも、今は違う。ジャスティスとのやり取りで培ったその豊富な選択肢を扱う判断力と技量は、きっと君に最大の武器になる。僕から言える事は1つ。1つの使い方にこだわらない事」

「1つの使い方にこだわらない?」

「ライフル1つ取っても、牽制、狙撃、接射に搦手で投擲。いくらでも使い方なんてあるんだ。ジャスティスに必死に食らいつこうとして培った、マユラの戦い方は、もっともっと色んな選択肢を見出せると思う。だから、こだわりを捨てて、もっとダーティーに。意表を突く戦い方を覚えてごらん。そしたらもっと上に行けるはずだよ。正統派で凝り固まったアスランなんて蹴散らしちゃって」

「は、はい! 頑張ります!」

 

 ぐっとこぶしを握ってこちらもやる気を満たしていくマユラ。

 タケルは最後にジュリへと向き直った。

 

「最後にジュリだね。戦闘の構築は凄いの一言。まるで予定調和の様に戦いを押し進めていくのは見てて気持ちが良かったよ」

「ふふ、嬉しいです」

「後はそれに対して、ジュリの対応力をもっと上げていこう。3通りの戦術があるなら次は5通り。10通り。20通りと。あらゆる状況を想定して君が乗りこなせるレールを増やすんだ。それを十全に使いこなせるようになれば……君はきっと戦場を支配できる様になってるよ」

「支配、ですか。何て言うか畏れ多いですね」

「それだけのポテンシャルがジュリの戦い方にはあるって事。だから頑張って」

「はい!」

 

 満足そうに頷くジュリに、タケルも嬉しそうに笑みを浮かべる。

 居並ぶ彼女達の勢いに、沈みかけていた気持ちを鼓舞された様であった。

 

 そんな、気持ちの上擦ったタケルとは対称的に、アサギ達が今度は沈んでいく。

 

「本当に……もう帰ってこないんですか?」

「私達、そんなの嫌ですよ」

「もっともっと、アマノ三佐に見てこうして見てもらいたいです」

 

 大好きな教官────その評価はずっと、彼女達の中で変わっていない。

 いつだかラクスに教えたように。好意は有ってもそれは恋慕ではない。男性ではなく教官として、彼女達はタケルの事を慕ってきた。

 先の大戦どころか、タケルがアストレイを開発してからずっと、彼女達はテストパイロットとしてタケルの教え子だったのだから。

 

 そんな彼が、オーブを本当の意味で離れるというのは。彼女達にとって到底受け入れられる事では無いのだろう。その気持ちを嬉しく思いながらも、タケルは静かに苦笑いを浮かべた。

 

「ごめん、ね。中途半端になっちゃって……最近もずっと、オーブを離れっぱなしで見れてなかったし」

「セイランの言う事なんて、聞かなくても」

「ううん。これは必要な事だから。彼の言う事は、何も間違っていない」

「でも!」

「アマノ三佐は、ずっとオーブの為に」

「それを裏切ったのは僕だ。だから、こうなるのは当然。だからさ……教官としての僕の、最後のお願いを聞いてくれない?」

 

 最後の願い……そう言われてハッとした様に、アサギ達は真剣なまなざしをタケルへと向けた。

 

「────死なないで。

 3人は僕が教えた大切な教え子だから。どんな時も必ず生きて帰って来れる様に教えて来たから。だから絶対に自分の命を粗末にしないで。良いね?」

「それ……」

「アマノ三佐が」

「言いますか?」

 

 無理や無茶を繰り返すのは、むしろこの教官の得意技だ。

 余りにも説得力の無いお願いに、アサギ達は苦笑いである。

 

「あはは、確かに説得力無いね。でも、これが本当に、僕からの願いだから……後は、カガリの事も、お願い」

「それは、勿論ですよ!」

「姫様は私達の、大事な友達ですから」

「そんなの、今更です」

「うん、ありがとう」

 

 もう言いたいことは伝えた。

 教えてきた結果も十分に見せてもらえた。

 少しの寂しさと、余りある嬉しさを感じながら、タケルは彼女達に背を向けた。

 

「それじゃ、またね」

 

 いつかきっと帰って来る。全てを終わらせて。

 その意思を示す言葉を最後に、タケルは歩き出した。

 

 

「アマノ三佐ー!」

 

 届くのは重ねられた自身を呼ぶ声。

 だがもう、タケルは振り返らなかった。

 

「本当に、ありがとうございました!」

 

 伝えられる感謝の声を背中に受けて、タケルは漸くモルゲンレーテを後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 マスドライバーで発進準備を終えているシャトルへと乗り込めば、真っ先にユリスに出迎えられて、タケルは肩を竦める。

 

「時間掛け過ぎよ。バカ兄さん」

「辛辣だね。君と違って、僕には慕ってくれる人が沢山居るんだ。仕方ないだろ」

「ふん、嫌味ねホント……で? もう、良いのかしら?」

「あぁ。いつでも」

「だったらその涙をひっこめなさい。みっともない」

 

 口では強がっても、心の根からは強がれない。

 それも、この男のどうしようもなく弱い部分であった。

 指摘された涙を拭い、どうにか取り繕うも、タケルの目からは変わらず感情の波が溢れ出てくる。

 

 大切な国。大切な場所。大切な人。

 長き時を経て育んで来た己の感情を、タケルは必死に押し殺した。

 

 シートに着けば、ユリスがスティングへとゴーサインを出す。

 動き出すシャトル。加速してシートへと縛り付けられる中、タケルは窓から覗ける眼下の祖国を見つめた。

 

 

 

「さようなら、オーブ……またいつか」

 

 

 

 




ユウナの対応は一つの優しさ。
何をするにも制約となるであろうオーブからの解放。同時に、オーブを守るためでもありますね。
本当こいつ優秀になりすぎて困る。相対的にアスランはバカに見えちゃう。

アサギ達はあくまでウン百回と繰り返したが故の成果。同じレベルに至ったわけじゃありません。seedのデータは入ってないしね。


次回からザフト側。また大きな動きが出てくることでしょう。どうぞお楽しみに。

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