打倒ロゴス。
ギルバート・デュランダルの宣言によって、世界は新たな転換期を迎えようとしていた。
ナチュラルとコーディネーター。プラントと連合────これまで2色であった世界では、当然ながら互いが互いを敵として討ち合うばかりであった。
だが、今やロゴスと言う名の敵が示されたのだ。世界の大多数がこれ以上の争いを望まないと願う中打ち出された、争いを望む者達の名は強烈に過ぎた。
世界は彼の思惑通りに、打倒ロゴスに沸いていた。
そんな……世界が、大騒ぎになっている等とは露とも知らず。
ユリス・ラングベルト率いる一行のシャトルはメンデルへと到着する。
「よし、港に接舷完了だ。つっても、とても港と呼べるかは疑問だがな……」
スティングが少しだけ険しい声を投げた。
彼等の前には、随分と損傷の酷い艦船ドックが広がっている。
「どこかの誰かさんが2年前盛大に壊したしね」
「私が呼んでるのにさっさと来ない兄さんが悪いんでしょ」
「早々にたどり着いたはずなのに、時間稼ぎでビームを撃たれた覚えがあるけど? 確かムウさんとクルーゼさんがまだ来てなかったからじゃなかったっけ」
「覚えてないわねそんな事」
「都合の良い頭だ全く」
「お前等なぁ、何かある度にいがみ合うの止めろって。見てるこっちは胃が痛くなりそうだ」
スティングの言葉に、タケルとユリスは肩を竦めながらも彼へと謝罪の言葉を溢した。
流石に、周りに気を遣わせるのは本意ではない、という事なのだろうか。タケルはともかくユリスにしては珍しい素直な反応を示した。
しかしながらこの2人。同じ遺伝子故の繋がりで互いの嫌悪の感情は文字通り筒抜けであった。
「(本当、何言ってもこいつは自分の非を認めないよなぁ)」
「(昔のことをいつまでも愚痴愚痴と……この頭でっかちが)」
思考まで筒抜けではないが。ともすれば感情の色とも言うべきものは伝わっているだろう。
スティングの胃痛の種は消えない様である。
「とりあえず、僕とユリスで内部の哨戒をしよう。先の大戦から放置されてるコロニーだ。海賊の類が潜伏してるとも限らない」
「何かあった時困るからディザスターは置いてくわ。有事の際にはアウルが乗りなさい」
「うぇ!? いや、俺には……だったら俺がこいつと中に行くからユリスが残れよ」
流石にディザスターは手に余ると言う所だろうか。元より彼女用に調整されているディザスターは、敵の攻撃を掻い潜りながら接近を狙う、タケルと似たような戦闘を重きに置いている。
エクステンデッドとは言え、機動戦には慣れていないアウルはディザスターに乗るのは勘弁と、ユリスが準備していたノーマルスーツをひったくった。
「あら、私の為に働いてくれるの? お姉さん嬉しくなっちゃうなぁ。よーし、それじゃアウル。兄さんをお願いね」
「──おぇ」
果てしなく気持ちの悪い猫撫で声に、アウルは辟易とした様子を見せた。人間、慣れない事をするものでは無いという典型と言えよう。恐らくは彼等がこれ以上タケルに懐かれない為の予防線だ。
「なんだよユリス、そのキャラ……気持ち悪ぃからやめろよ」
「は?」
「安心して良いよアウル。僕も同じこと思ったから」
思わず漏れ出た殺気からアウルを庇いつつ、タケルはハンドガンをアウルへと渡した。
護身用としてはこれで十分だろう。曲がりなりにもエクステンデッド。戦闘力は申し分ないのだ。
多少敵対勢力が居たところで、タケルと一緒であればいくらでも対処ができる。
「それじゃあユリス。こっちはお願い。哨戒ついでに使えそうな設備がどれだけ残ってるかも見てくるから」
「ふんっ、わかったわよ。それじゃあこっちはメイリン・ホークを使って色々と情報収集しておくわ」
ビクリと肩を震わせてメイリンがタケルを見やる。
彼女は忘れていない。ラボで銃を突きつけられて、無理矢理小型艇を動かすのに協力させられた事を。そんなユリスの指示で情報収集などと……メイリンの胃にも穴が開きそうな事態だ。
「(ノーです! 勘弁してください! 私嫌ですよ!)」
「(あー、ゴメンね。言ったらもう聞かないし、僕もコロニー内に入っちゃうから……その、頑張って)」
「(そ、そんなぁ~)」
等と、数秒のアイコンタクトでやり取りしたメイリンはがっくりと肩を落として、恨めし気にタケルを睨みつけるのだった。
「そ、それじゃ、行こうかアウル」
「あいよ」
「ほら、貴女も。しっかり働いてもらうわよ。兄さんの助けになるんでしょ」
「うぅ……はい」
開き直るユリスに呆れを覚えつつ、タケルはアウルと共にメンデル内へと入っていった。
それを見送ったユリスもまた、シャトル内でメイリンと世界の情勢を探るべく動き出した。
その先には驚きと焦燥だけが待ち構えている事を、彼等はまだ知らない。
「やれやれ……随分と大きな騒ぎを起こしてくれるもんだ。ギルバート・デュランダルは」
ユーラシア連邦事務次官。ボルト・ミュラーは執務室でごちた。
「ですが、どうするのですか? 私達はプラントと友好な関係を結んでいます。静観は──」
「するべきではないだろう。そのくらいはわかっているアルスター。だが、これは寝耳に水の話だ。そう急いて動く事もできない。ロゴスのメンバーには、ユーラシアに拠点をおく企業の重鎮だっているんだ。情報の精査も無しにいきなり討伐とはいかねえだろう」
世界中に多く存在する市民たちはそれで良い。
与えられた情報を鵜呑みにして、憎しみをロゴスのメンバーだと公表された者達に向ける事ができる。
だが、人を動かす側としては別だ。その情報の精査をして、本当に討伐に足る者かを見極めなければならない。
公表された名前は皆、正に世界を動かせる者達ばかりなのだ。
「アルスター、公式に声明はまだ出さん。至急プラントとコンタクトを取る」
「わかりました。外務省を通じて打診します」
「頼む。あと、アーガイルにはお前の警備を強める様に言っておけ。一応お前はユーラシアの顔になってるんだ。良からぬ動きが無いとは限らねえ」
「ご心配なく……事務次官の周辺も含めて、警備は常に万全を配しています。カガリの件がありましたから」
「そういや、お前さんはオーブで見て来たんだったな。恐らくは連中の所業を……」
「はい……邪魔となれば排除する。それが彼等のやり方です。今や友好関係にないユーラシアも、彼等にとっては敵でしょう」
「ままならんもんだな。同じ地球に住む者達だというのに」
嘗ては地球連合として轡を並べた者達である。
世界は未だ、ブレイク・ザ・ワールドの被害からも立ち直っていないというのに、こうして戦火は広がり新たな動きが世界中を駆け巡っていた。
優先すべきことはもっとあるというのに、それを優先できない情勢に、ミュラーは知らず苦々しく表情を歪めるのだった。
『こちらジブラルタルポートコントロール。LHM-BB01、ミネルバの到着を歓迎する。これより貴艦を2番プラットホームに誘導する。ビーコン確認をどうぞ』
交わされるジブラルタルポートとのやり取りに、艦橋には少しの安堵感が広がっていく。
ジブラルタルへと到着したミネルバは、まだ少しの興奮を湛えたまま基地へと入港した。
ロゴスを討つべし──その言葉の下、ジブラルタルにはザフト地上軍の総力が集結しつつあり、基地内は俄かに騒がしい気配がしていた。
「ジブラルタルに入って……次はどうなるんだろうな、俺達」
「さぁな。だが先日の議長の言葉に沿った形での作戦が展開される事は確かだろう」
「ロゴスを討つ、なんてディオキアで議長に聞かされた時は全然実感沸かなかったけど……これが平和への道だって言うんならやるだけよね」
艦内の休憩スペースで、シン達パイロット組4人は今後の事を話していた。
ロゴスを討つとして、今後はどう動いていくのか。彼等に限らず、艦内はその話題で持ちきりである。
「(浮かれていますね……無理もありません。奴等を討てば平和になると。その真偽はともかくとして、明確な答えを示されたのですから。奮うのは当然でしょう────全く大した役者です、ギルバート・デュランダル)」
浮ついた空気の中、サヤは1歩引いたところで皆の様子を伺っていた。
一兵士に、戦争の終わりなど予測はつかない。与えられた命令の儘に敵を討つしか、兵士にできる事はないのだ。
前線に出る兵士はその中で、己が信ずる未来を思い描きながら戦っているに過ぎない。
だが、今は違う。
兵士1人1人が思い描く未来ではなく、ギルバート・デュランダルが思い描いた未来に魅せられて、皆が戦意を上げているのだ。
それはさながら伝染病の様で、その高揚感は快楽的で、酔いしれるには持って来いの未来であった。
「んで? なーにお前は仏頂面してるんだ、ヤヨイ?」
「──ハイネ・ヴェステンフルス。馴れ馴れしいです。あとセクハラです。気安く肩など組まないで下さい」
「おまっ、流石にセクハラまでは言い過ぎだろう」
「相手が不快に感じたらアウトなんですよ。私がこの場でそれを許すとしたら、ルナマリアだけです」
瞬間、ちょっぴりときめく赤毛の少女がいた事をここに記しておこう。
「へいへい……わるうございました。んで、何が気に喰わなくてそんな顔してんだ?」
「別に……そのような顔など」
「してるじゃん」
「あぁ、してるな」
「し、してるわね」
シン、レイ、ルナマリアと続く情け容赦ない肯定の言葉に、サヤは表情を2割増しで険しくさせた。
「あ、貴方達は……もう少し同期を助けようと言う気は無いのですか?」
「むしろそんな顔してる方が良くねえだろって話だ。周りを見て見ろ。お前以外が皆浮かれてるんだぜ。そんな顔してたら、敵のスパイだとか変な噂が立っちまうぞ?」
「気に喰わないのは事実です。仕方ないでしょう」
「だから、何でそうなのかを聞いたんだよ────んで、何が気に喰わねえんだ?」
ハイネの問いを皮切りに、シン達からの視線が一斉に向けられてサヤは諦めたように首を振った。
溜息と共に肩を落とすと、不遜な態度を隠そうともしないで口を開いていく。
「押しつけがましいのです。まるで、そうするべき。そうしなければ悪だと言わんばかり。この間の声明から、ザフトに限らず世界中で打倒ロゴスの声が挙がっています。世界は、彼の声に染められたと言って良いでしょう」
「ヤヨイ、それの何が悪い?」
「あ~もしかしてあれか? 言われたままに戦うのが気に喰わないんだな?」
「なるほど。勉強しようとしたところで親に勉強しろって言われてやる気が無くなるあの現象みたいなものね」
「はは、ヤヨイってたまにそういう子供みたいな所出してくるよな──ふぶっ!?」
哀れ、阿呆な少年は必殺のデコピンで床に沈んだ。
「おいおい、やり過ぎんなよ。お前のそれ、殺人級なんだからよ。後に響いたらどうすんだ」
「ご安心を、加減はしておりません」
「いやしろよ!」
「低俗な例えに当て嵌められるのも不快でしたが、バカにしたシンの顔がもっと不快でした。私は悪くありません」
きっぱりきっかりこれでもかと言わんばかりに、シンへと背を向けたサヤは、僅かに浮かんでくるヤヨイ・キサラギとしての、シン・アスカを慮る感情を押し殺した。
「ヤヨイ……先の言葉は聞き捨てがならないな。議長の言葉が押しつけがましいとはどういうことだ?」
彼にしては珍しい、随分と棘のある声音でレイがサヤへと問いかける。
視線も鋭く、その気配はわかり易くはないが怒っている事を示すものであった。
「言った通りです、レイ。彼の言う事が世界の皆の声だと。そう代弁しているかの様です。今目の前で……世界で沸きあがっている声を見れば、私の言う事も分かるでしょう。彼が正しいと誰もが錯覚している」
「正しいはずだ、議長の言う事は。それの何がおかしい?」
「確かに、ロゴスを討つのは正しいでしょう────ですが、それと彼が正しいかはイコールではありません」
「意味が解らないな。正しい事を言う人間が正しく無くて、では一体誰が、何が正しいというつもりだ」
「それは自分に問いかけるものです。信じるべき正しさなど……全ては己の中にしかありはしない」
「ナンセンスだな。お前は全ての人が、間違いを犯さないとでも思っているのか? 世界には正しく生きる事ができない人間がごまんといる。議長はそれを──」
「あーもう、やめなさいよ堅物同士で喧嘩とか。聞いてるこっちが頭痛くなるっての!」
ヒートアップしていきそうなサヤとレイに、ルナマリアが割って入った。
これまで基本的には堅物同士で気の合う2人であっただけに、こうして言い合うパターンは初めてだったのか、対応が遅れたのは仕方ない。
撃沈していたシンを支えていたハイネも、シンを放り出し慌ててルナマリアに続いていく。
「ったくどうしたってんだお前等。ヤヨイは妙に議長を疑うし、レイもレイでそんなに言い合うタイプじゃなかっただろうが」
「やっぱり隊長の手腕じゃないですか? ハイネが舐められてるんですきっと」
「良い度胸だなルナマリア。俺が特務隊だって事忘れてるだろう? そういう態度を取るってんならお前達との関係性を改める事も辞さないつもりだぜ」
おらっ! と気合の声と共に、ルナマリアの頭蓋をぐりぐりと拳で締めるハイネ。掛けられたルナマリアは悲痛な声で呻いていく。
わかり易い空気の緩め方に毒気を抜かれて、サヤとレイは一先ず険悪な空気をひっこめた。
「申し訳ありませんレイ。頭ごなしに否定しました」
「こちらも悪かった。だが、お前の言い分はハイネが言う様に疑われかねない危険な物言いだ」
「お気遣い感謝します。ですが、私も妄信するのだけはやめるよう進言させてもらいますよ。先程も言った通り正しさなど己の中にしかありません」
「あぁ、肝に銘じておこう」
言って、2人は言葉を投げ合うのをやめた。
シンの様に後々まで禍根を残すタイプではない。自分は自分。他人は他人と、線を引いて身を引いたのだ。
「────信じるべき己が、俺にも在ればな」
小さく呟かれたレイの言葉は、喧騒の中にかき消された。
「なぁ、タケル~、聞いても良いか?」
メンデル内を探索中の2人、タケルとアウル。
2年前は無事であったコロニーの機能が死んでいたり、研究施設もそのほとんどが完全に破棄されていたりと、既に発覚した問題が山積みでタケルが呻く中、アウルはどこか投げやりに問いかけた。
「んっ、何アウル?」
「何でお前、そんなに俺達なんかの為に必死になってんだよ」
コロニー内を探索し、1つ見つけては呻いて。ブツブツと今後の事を考えるタケルを見たアウルは湧いてくる疑問をぶつけた。
アウルとて理解はしている。タケルとユリスの関係。持ち掛けられた契約。命を救われた対価と言うなら、タケルがそれに尽くすというのはある程度当然の帰結である。
しかし、それでも。大切な居場所であったオーブを追放されてまで果たすべき事か。そうすべきだとするタケルの考えが理解できなかった。
オーブに着いた段階で、彼の立場を以てすればユリスとの契約を反故にする方法はいくらでもあっただろう。
極端な話、ユリスも含めて全員殺すなり捕らえるなりすれば事足りる話であった。
何故、あえて国元を離れてまで自分達を助けてくれるのかが、アウルには理解できなかった。
「ん~、君達の為っていうか、ステラの為って言うのはあるだろうね。僕の命は本当にあの子に救われたわけだし。それであの子が死に行く定めだというのなら、助けるのは当然じゃない?」
「だからって、お前が全部捨ててまでやる事じゃないだろ?」
「オーブでの事を言ってるのならそれは誤解だよ。あれはユウナ・ロマ・セイランの配慮だ。僕が肩書に縛られず動けるようにっていうね」
「でも、それ以外に方法何ていくらでもあったんじゃ」
「あった……とは思うよ。オーブで君達を預かって、専門の治療機関を探して」
「だったら──」
「でもそんな事をすれば、君達の存在が露見する。連合の標的になる可能性を考えたら、オーブを頼る事は出来なかった。それに、カガリが居るのならともかく、今のオーブをユリスは信じてはくれないだろう────そもそも、彼女が信じてくれるのなんて僕ぐらいだろうしね」
「なんだよそれ。あんなにいがみ合ってるのに」
これまでだって散々に見せつけられている。どちらもが互いを忌み嫌う様で、決して相容れぬ関係性であることがわかるやりとり。
だというのに、ユリスはタケルを信じ、そしてタケルもそうであるとまるで疑っていない。
アウルの脳内に疑問が巡った。
「アウルも聞いてはいるでしょ。僕とユリスは遺伝子が同じ同位体。なんとなくだけど、お互いに通じ合うものがあるんだ。要するに、互いが向ける悪意の様なものに敏感なんだよ」
「つまり、タケルにそんな悪い感じが無いからユリスは信じてるって事か?」
「そんなところ。それがわかるから信じられる。逆にわからない人間を、あいつは信じることができない────そう言う人生を彼女は歩んで来たからね」
人口子宮2号機から産み落とされて、そのまま大西洋連邦の飼い犬となり兵器として仕立て上げられた。
ユリス・ラングベルトの人生はそのほとんどが、ただひたすらに被検体として悪意に晒され続けた時間であっただろう。
即ち、タケルが言う様に味方となる確証が持てなければ全てが敵となる。
「そんなになのかよ……」
「2年前。ユリスは全てを憎んでいた。自分を生んだ世界を……彼女が言うクソッたれな世界を全部。君達は知らないかもしれないけど、今みたいに他人を心配する様な人間じゃなかったんだ────本当、世界の全てを敵だと認識していた」
同じ生まれでありながら、日の当たるところで生きて来たタケルを憎み、自分の様な存在を生み出した人類を憎み、理不尽なばかりの世界を憎んだ。
彼女を理解して居たのは、ラウ・ル・クルーゼ唯一人。それ以外の人間は、ユリスにとって憎むべき対象でしかなかったのだ。
「あの時と、世界は何も変わっていない。ディオキアで言ってたようにユリスにとっては今でも、世界はクソッたれな理不尽に満ち溢れている。それでも、今のユリスが変わったのはきっと、君達の存在が在ったからだと僕は思う」
「だから、なのか?」
「そうだね。少し違ってたら、僕と彼女は入れ替わってたかもしれない。逆の道を歩んでいたかもしれない……僕達は生まれた順番がたった1つ、違っただけの話だ」
被検体No.283とNo.284。それが最初に与えられたタケルとユリスの名前。人口子宮に入れられた順番が、たまたま1つ違っただけの差。それが、タケルとユリスの差。その結果が今の2人の差。
同じ遺伝子なのだ。タケルがもしNo.284として生まれたのなら、恐らくはユリスと同じ道を歩んでいた事だろう。ユリスはきっと、アマノの家で真っ当に生きて来れたはずである。
「どんなにいがみ合おうとも、僕とユリスは他人にはなれない。僕は、大切な妹を奪ったあいつを憎んでいるけど、それと同時に2年前の様な破滅の道を歩んで欲しくないとも思ってる。ユリスが変わったのはきっと……失うものなど何一つない世界で、君達の様に失えないものができたからだ。だから僕は、あいつを変えてくれた君達を助けたい。以前の彼女に戻って欲しくないんだ」
それはきっと、世界がまた2年前の様な終末戦争へと向かう事と同義だ。
ディオキアで聞いたように、ロゴスという争いを望む者達が居るのなら。悪意に満ちた彼女は再びそれを利用して世界を破滅へと向かわせるだろう。
そんな巻き戻しになる世界など、タケルは見たくなかった。
心の底から互いに憎んだ相手。だがそこには、絶対的に存在する、自分もこうであったかもしれないと言う可能性があった。
故にどうしても、同情の念は捨てきれないのだ。
「まぁ……口は悪いけど、一応俺らにはいつも優しいしな」
「アウルも、そのままでいて欲しいでしょ?」
「まっ、まぁな……一応、俺達の為に怒ってくれたりしてるのは知ってるし」
「ちゃんと見てるんだね。本人には言わない方が良い。照れ隠しに酷い目に遭わされるだろうから」
「わかった…………とりあえず、理由も聞いたし大変な時は言えよな。ステラはともかく、俺やスティングは色々できるんだからさ」
どこかぶっきらぼうで。どこか照れ交じりで。そして素直な物言いにもならないアウルの言葉に、タケルはミネルバで噛みついてきた少年を思い出した。
「あはは……アウルはシンみたいだね。勿論、助けが欲しい時には頼らせてもらうさ。現にスティングには色々と手伝ってもらってるし」
「誰だよ、シンって」
「ミネルバに居たアウルにそっくりの素直じゃない子でね。でもその分、わかりあえたなら良い友達になれるんじゃないかな?」
「いらねえよそんなの。嬉しくもねえ」
不服そうに口を尖らすところがまたどうにも彼を想わせる。
タケルは思わず笑みをこぼした。
そんな時ふと、探索していたタケルは足を止めてある物を手に取った。
薄汚れてボロボロな、一冊の本の様な何かである。
「ん? なんだよそれ?」
「ノートだね。今時手書きで実験の記録は取らないだろうし、日記や日誌の類かな?」
引き寄せられるように顔を寄せて、タケルとアウルはノートを開いた。
中には様々な図形や数式、手書きで書き進められた理論が所狭しと書き記されている。
「どうやら、研究課程のメモ書きに近いかな」
「うへぇ……俺もこういうの無理」
「アウルも? はぁ、これじゃスティングしか頼れないじゃないか」
「作業くらいなら手伝えるけど、難しいのは無理なんだって。んで、何が書いてあるんだよ」
「内容は……」
乱雑にかかられた文字や数式を手繰りながらタケルはノートの中身を読み進めていく。
その中で1つ、気になる単語をに目を止めた。
「デスティニープラン……」
意味深に書かれた単語。そしてメモには、ギルバート・デュランダルの名が挙げられていた。
どこか、奇妙な引っ掛かりを感じたタケルは、ノートをさらに読み進めようとページをめくる。
しかし、次の瞬間。
物音と人が動く気配を感じ取り、2人は物陰に身を隠した。
「アウル」
「わかってる」
即座の臨戦態勢。共に銃を手にして様子を伺う。
察する気配は、彼等と同じくこのコロニーを探索している者の様であった。
物音はひっきりなしに聞こえて来ている。
「アウル。先に手を出しちゃダメだよ。僕が動くまでは待機」
「わかってるって」
音のする方へ向かって、2人は通路を進んでいく。
嫌が応にも緊張感が高まる中、とある部屋の前で2人は視線を合わせた。
「動くな!」
扉から身体を出して銃を突きつけると、物音の正体であるノーマルスーツを着た人間を1人見つける。
「手は頭の上に。ゆっくりこっちへ振り返って下さい」
指示の通りにゆっくりと振り返って来るその人物へと銃口とライトを当てながら、タケルは遂にその人物の顔を見た。
「えっと、もしかして……ダコスタさん?」
「その声……タケル・アマノさんですか?」
ひょんなところで邂逅するは、互いに予想だにしない人物であった。
この間Xで見かけちゃったから改めて言っておきます。
作者はseed編執筆時から本作の劇場版までプロットを組み立てております。
今後本作ではどの様な展開が起きようと、現在情報が解禁されている劇場版との関連は一切ありません。
御承知おきくださいませ。
作者は本作完結を果たしてから劇場版を観る予定です。
感想、よろしくお願いいたします。