機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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いよいよ……


PHASE-65 雷鳴の闇

 

 ミネルバを揺らす大きな振動。続いて艦内に鳴り響く非常事態警報。

 看過できない気配に艦長であるタリア・グラディスはすぐさま艦橋へと上がった。

 

「一体何が起きたというの! 状況は!」

「艦長、格納庫のヴェステンフルス隊長より入電です」

「格納庫? 繋いでちょうだい」

 

 とにかく状況の把握が最優先である。

 ただでさえ基地内には今様々な勢力の部隊が集結しているのだ。些細なことですら、思いもかけぬ起爆剤になりかねない。

 

 艦橋のモニターに格納庫のハイネが映される。

 

『艦長、ヤヨイ・キサラギがセイバーに乗って脱走した』

「ハイネそれは冗談のつもりかしら……そんな事」

『残念ながら事実だ。スパイの嫌疑をかけられたヤヨイは俺の制止を振り切って逃亡。セイバーに追い縋るためにシンとレイが新型のデスティニーとレジェンドに乗って追撃に出ている』

「ふざけないでちょうだい。あの子がスパイ? 一体どこからの指示なの!」

 

 僅かに表情を歪めるハイネに、タリアの嫌な予感が募った。

 

『出所は基地司令部。指示を下したのはデュランダル議長になる』

 

 やはり、嫌な予感は当たった。

 プラントの最高権力者。世界の情勢を変えた時の人である。もはや彼が黒といえば黒になる程に、世界の信を集めつつある人間だ。

 

「証拠は? まさか何もなくそんな嫌疑がかけられてるはずはないでしょう」

『詳しくは俺も知らされてない。こっちもミゲル・アイマンからの緊急連絡で知った身なんでな。ただ……連合の士官と密会をしていたと噂が出てる』

「バカな。あの子はアカデミーからここまでずっとミネルバに居たのよ。外部勢力との繋がりなど作れるはずがないわ!」

 

 オーブに入った時も、ディオキアで休暇を取った時も、ヤヨイ・キサラギはザフトの施設内部からは一歩も外に出ていない。それはレイも同様であるが、つまりは外部とのコンタクトなど取れる状況には居なかったのだ。

 スパイの嫌疑など、どうやってかけると言うのか。

 

「くっ、バート! 基地司令部を呼んで。議長を出せと!」

『その必要は無いよ、グラディス艦長』

 

 ふざけた指示を下した張本人を呼ぼうと指示を下した所で、通信回線に件の男が割って入る。

 僅かに面食らいながらも、タリアは直ぐに怒りを露わに口を開いた。

 

「どう言うつもりか聞かせてもらえるのでしょうね? 優秀な部下をスパイ扱いされたとなっては、艦長として黙っているつもりはありませんわ」

『無論だ。ヤヨイ・キサラギは私が呼び出してレジェンドの受領を促したのだが、これを強く拒否。その後、基地敷地内で連合軍人との密会をしていた。映像記録もある』

 

 デュランダルが言うと、ミネルバのモニターにはサヤとキサカが他国の軍人とは思えぬ距離で話をしている姿が映された。

 

『この報告だけではまだ疑いだけであった。だが、その疑いを持って脱走したと言うことは、それは嫌疑への肯定。彼女は、新型のレジェンドとデスティニーの情報を連合に売ろうとしていたのだろう』

「そんなバカな事が! あの子が一体どうやって連合とコンタクトを取ったと言うのですか!」

『恐らくだが先の連合施設への調査。あの時だと思っているよ。記録を見たが、その場に現れた連合の機体は、以前までとうって変わって手加減する様な素振りだったそうだ。接触回線でやり取りをしていた可能性がある』

 

 その程度であればまだ疑い。ちゃんと調査をすれば、覆すことは可能だ。調査さえできれば。

 しかし、既に事は起こった。ヤヨイ・キサラギはミネルバのハッチを破壊し損害を与えてまで

 脱走を果たしている。デュランダルがいう様に、それは嫌疑への肯定。

 確かめる術がなくなった今、それが事実へと塗り固められる。

 

「──あの子を、どうするおつもりですか」

『帰還を促す様にはレイに指示してある。だが、聞かぬ場合は撃墜も……』

 

 俄かに、艦橋内にはどよめきと緊張が起きる。

 クソ真面目の堅物とルナマリアに散々評された様に、基本的には品行方正で真面目な軍人。

 人付き合いこそ浅いものではあったが、ミネルバ内に置いて彼女はその実績で信頼を勝ち取ってきた人間だ────大切な仲間である。

 それを脱走者として。裏切り者として討つ。酷く胸をざわつかせる事実である。

 

『君達には申し訳ないと思う。だが、活躍してきた彼女だからこそ、持つ情報は多く重い。逃げられるわけにはいかない』

「状況は、わかりました。ありがとうございます」

『ミネルバには待機してもらいたい。大切な仲間の事だ。罷り間違って、暴走されても困る』

「了解しました。艦内には通達します」

『すまないね、タリア』

 

 言って、デュランダルとの通信は終わる。

 残された彼らにできる事は、ただ追撃に出た2人の報告を待つばかり。

 ミネルバにいる誰もが、その歯痒さに拳を握りしめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 日の光は既に落ち、世界は暗く染められ。更に暗雲と雷鳴に空が覆われる。

 そんな中を、サヤ・アマノが駆るセイバーは巡航形態で翔け続けていた。

 速度は最速。巡航形態で飛行だけに注力していれば、オーブまでバッテリーは十分に持つだろう。

 

 そう、飛行する事だけに注力できればだ。

 

 

「──くっ、やはりそれで来ましたか。ギルバート・デュランダル」

 

 

 セイバーのセンサーが接近する機影を感知。

 ジブラルタルからかなりの距離を飛行しているはずだが、その性能にものを言わせてデスティニーとレジェンドが遂にセイバーを捉えていた。

 

「ヤヨイ!」

「止まるんだ、ヤヨイ!」

 

 牽制にセイバーの周囲の海面が光で叩かれる。

 あくまで牽制だ。当てる気は無いのだろうが、飛翔する先を撃たれて水柱にでも突っ込もうものなら、この速度領域では致命になり得る。

 

 巡航形態では小回りが利かない。狙い撃ちされることを恐れてサヤはセイバーをMS形態へと変形。

 追撃に来た2機のMSと対峙して銃火を交える事を選んだ。

 

 放たれるデスティニーのライフルを躱して、撃ち返す。

 ここでエネルギーを使い過ぎればどの道逃げ切れなくなるだろう。主砲となるバックパックのビーム砲は封じられたも同然であった。

 

「逃げるなヤヨイ! 基地に戻れ!」

「できない相談です! このまま戻っておめおめと殺されろとでも言うつもりか!」

「ギルは拘束を命じただけだ! ヤヨイ、今ならまだ間に合う! 戻るんだ!」

「あれだけの他勢力が集う中で、スパイの疑惑を掛けられた私にどのような処分が下されるか、2人も理解して居るでしょう!」

 

 デスティニーとレジェンド。両機が追い込む様に迫りライフルを向けてくる。

 放たれる光条を必死に躱しながら、サヤはどうにか彼等を振り切るべく、背部の砲塔に備えられたフォルティスビーム砲で海面を叩いた。

 

「何よりも、私が在るべき場所はオーブです。記憶を取り戻し、このような事態となった今、私にザフトへ戻る選択肢などありません!」

 

 瞬間。上げられた水柱を隠れ蓑に転進。接近して、レジェンドへとビームサーベルを翻した。

 

「何っ!?」

「レイ!」

 

 とっさに、レジェンドの腕部に備えられたビームシールド“ソリドゥス・フルゴール”から光の盾が出力されセイバーのビームサーベルを防ぎ切る。

 

「ちっ! 盾が無いと思えばビームシールドですか!」

 

 せめてカタログスペックだけでも確認しておくべきだったと、サヤは少し前の浅慮を悔いた。

 そもそもこの様な事態になる事は想定していなかったのだから仕方ないが、レジェンドと同じくデスティニーもまた未知数。対してサヤが駆るセイバーはその全てを網羅されているだろう。

 厳しい条件である。

 

「えぇい!」

 

 レジェンドのバックパックに備えられたドラグーンシステムの砲塔が可動。バックパックに接続されたままセイバーを狙う。

 

 瞬時にその場を離脱したセイバーの居た所を、幾つもの光条が奔っていく。

 

「くっ、厄介な!」

「投降しろヤヨイ! 逃げられはしない!」

「そう言う事は私を仕留めてから叫んでください!」

 

 ビームライフルを3発。牽制の射撃と共に、セイバーは吶喊。

 ドラグーンを備える巨大なバックパックを背負ったレジェンドは、懐に入られればどうしても苦しくなる────狙うは至近まで入り込んでの接近戦。そうなれば、シンも下手に援護はできない。

 1対1の白兵戦であればまだ、練度の差でサヤが上回れる。

 

「私は、自分の選択を……二度と後悔しないと誓いました」

 

 接近する途上でサヤは手繰る。必要な想いを。自身を自身たらしめる戦いの信念を。

 

 

 ──種が開いた。

 

 

 SEEDへと至り、迎撃に放たれるレジェンドのライフルを最小限で躱して懐へと潜り込む。

 

「例え嘗ての仲間で在ろうとも、私の道を阻ませはしません!」

 

 翻される光の刃。レジェンドも近接武装であるデファイアント改ビームジャベリンを展開して受け止めた。

 

「甘い!」

 

 そこでセイバーとサヤは恐るべき反応を示す。受け止められた刹那、腕部の空力防循でレジェンドのメインカメラを殴打。怯んだその隙に2本目のビームサーベルを出力。レジェンドを両断せんと刃を振るった。

 

「やめろぉおお!」

 

 しかしそこへ、シンの駆るデスティニーが肉薄。

 背部に背負われた長大な対艦刀アロンダイトを手に、セイバーとレジェンドを切り離すべくその隙間へと振り下ろした。

 

 何とか距離を取って躱したセイバーを見据えて、シンは必死にサヤへと言葉を紡ぐ。

 

「頼む、ヤヨイ! 俺が議長に言うから。絶対悪い様にはしないって約束してもらうから! だから基地に戻ってくれ!!」

 

 自身でも酷く情けない声だとシンは思った。

 だが、自覚しかけていた想いと合わさって、大切な仲間である彼女を討つこと等、シンにはできない。

 それは、これまで必死に生きて来たシン・アスカの戦う理由を完全に否定してしまう。

 彼は二度と、大切な者を喪わない為にこれまで強くなってきたのだから。

 

「何て声を出しているのですか……シン」

 

 泣きそうな声を上げるシンに。静かに、そしてどこか優しい声音でサヤは通信越しに声をかけた。

 思わず、絆されそうになる。

 サヤの胸の内では煩わしい程騒ぐ想いがあった。煩くて、痛々しくて。サヤは頭がどうにかなりそうであった。

 

「シン……これが最後なので、ちゃんと伝えておきます」

 

 だから、もう終わりにしよう────サヤの中で、1つの決心がついた。

 

 胸の内に居座るヤヨイ・キサラギを殺し、この身を全てサヤ・アマノとする。

 この場において、彼女はザフトの彼等の敵となり、脱走した仲間ではなくなる。

 そうでなければきっと、己はこの煩い声に気を取られてこの場を切り抜ける事ができないだろう。

 

「やめろよ……最後何て」

「聞いてください、シン────私は。ヤヨイ・キサラギは。貴方の事を好いていました」

 

 目を見開く。シンは呼吸を浅く早くさせて、目の前に居る真紅の機体を見つめた。

 先程までの刺々しい声では無い。あの、夜の離島で助言をくれた時の様な、自身をまっすぐ見つめて諭してくれる声音。

 怒りと後悔から掬い上げてくれた(タケル)と同じく、自分を慮ってくれる気配であった。

 

「大切な者を二度と失うものかと、自身の弱さに揺れながらも必死に生きる貴方に、私は心惹かれていました」

 

 それはきっと、記憶を失っていても消える事の無かった、サヤ・アマノのタケル・アマノへの想い。それに影響を受けたからだろう。

 失う事に怯えるタケルと、弱いまま奪われることを恐れるシンの姿はどこか似通っていて、ヤヨイはいつしかシン・アスカのひた向きな姿に惹かれていた。

 

「貴方と共に並べた事……私は、忘れはしません」

 

 伝えるべきを伝えて、サヤは一度目を閉じた。

 終わりだ────終わらせたのだ。彼女の声も。彼女の言葉も。

 サヤは全てを御し切り、己の道だけを見据えた。

 

「ヤヨイ、お前!」

「囀るな、レイ・ザ・バレル。詰まらぬ情けを掛けてもらうために、私は彼女の想いを告げたわけではありません!」

 

 優しすぎるのだ、シン・アスカは。それは最愛の兄である彼と同じ。

 だから、こちらから切り捨ててやらなけれならないのだ──胸の内に残り続けた、彼女の想いと共に。

 

「貴方達の仲間であったヤヨイ・キサラギはもういません。今ここに居るのは、サヤ・アマノ────鬼才ユウキ・アマノの娘であり、オーブを護る剣!」

 

 セイバーが再び臨戦態勢を取った。

 

「そして今や、貴方達の敵です!」

 

 雷鳴に負けぬスラスターのけたたましい音と共に、再びセイバーは吶喊した。

 狙うは動きを止めるシンのデスティニー。翻されるビームサーベルはしかし、間に入ったレジェンドのビームシールドが防いだ。

 

「シン! しっかりしろ!」

「戦いなさい、シン・アスカ! 貴方が望む力と共に、私を────敵を討ちなさい!」

 

 

 

 

 

 ──なぜ。

 

 ──どうして。

 

 ──こんな。

 

 どこか遠くに聞こえる仲間達の声を聞いて、シンは惑う。

 呼吸は早くなり、胸は痛みを訴え、瞳は感情を溢れさせて涙へと変えていた。

 

 何故いつもこうなのか。

 家族を喪い、何も守れず、いつもいつも、自身の手は届かぬばかり。

 オーブ、インド洋、ダーダネルス、ベルリン、そして……今この時。

 何故こうも世界は自分に優しくないのだろうか。

 何故こうも世界は自分に求めるのだろうか。

 必死に生きて、必死に強くなって、必死に守ろうとして。

 それでもまだ足りず、大切な人の命をこの手で奪えと理不尽を押し付けてくるのか。

 

「──はぁ、はぁ、はぁ」

 

 加速していく──呼吸が。

 早くなっていく──心臓の音が。

 止まらなくななる──理不尽に向ける黒い波動が。

 

 

 ──種が、開いた。

 

 

 帰結する。自身の弱さを怒りへと変換し。理不尽な世界へ反旗の声を挙げるべく。

 シン・アスカの心は引き込まれる様にそこへと至った。

 

「お前が……悪いんだ」

 

 それはきっと、対峙する少女に向けたものでは無い。

 

「お前がいつも……」

 

 それはきっと、理不尽な世界へと向けた魂の咆哮。

 

「いつも、裏切るからぁああ!!」

 

 SEEDによって先鋭化された思考は、ただ怒りのみを受け取り少年を怒りの化身へと変えた。

 涙を湛え、世界の全てを憎む様に、少年は己が機体を操った。

 デスティニー背部の大型の力翼。それが開かれると、まるで蝶の羽の様に大きな光の翼が展開される。

 ヴォワチュール・リュミエール────内部に備えられたレーザー発振炉から放たれた光を、特殊な励振装置で受け止め反射。高出力の光圧を噴射し強大な推進力を得る新たな推進機関である。

 

 爆発的な加速を以て、レジェンドと膠着状態にあったセイバーへと接近していく。

 

「早い!? ですが!」

 

 最新鋭機だ。デスティニーの機動性が高いこと等、先に工廠でデュランダルから聞き及んでいる。

 驚きはするがそれは想定内。接近してくるデスティニーに合わせてレジェンドから距離を取ると、タイミングを合わせてビームサーベルを振るった。

 

 しかし、振るわれた光の刃は、瞬間的に動きを変えたデスティニーによって空を切り、更にセイバーを大きな衝撃が襲う。

 

「──ぐっ!? 馬鹿な、マニピュレーターで握りつぶした!?」

 

 セイバーがサーベルを持つ腕部をデスティニーの腕が捉え、そして瞬時に破壊された。

 見れば、デスティニーの掌に当たる所から光が見えた。

 

「掌の……零距離用内臓ビーム砲!?」

 

 砲身を必要としない、単純な機構でエネルギーをそのまま叩きつける零距離兵装。デスティニーの掌部ビーム砲“パルマフィオキーナ”。

 シン・アスカの反応速度を最大限に生かす、零距離戦闘を想定した兵装であった。

 

「うぁああああ!!」

 

 思考は怒りと悲しみに支配され、シンは感情を声にして吐き出しながらセイバーへと追従していく。

 

「接近戦は危険──なら!」

 

 SEED領域なのはサヤとて同じ。むしろ、感情に振り回されていない分冷静に立ち回れるというもの。

 向かいくるデスティニーに向けてアムフォルタスプラズマ収束砲で撃ち払う。

 

 しかし──

 

「ロックオンが──ズレる!?」

 

 放たれた巨大な閃光は、デスティニーの直ぐ側を通り過ぎていく。

 

 デスティニーの光の翼は機体周囲へとミラージュコロイドを散布し自機を投影。コロイド粒子の質量によって、光学カメラとセンサー類を誤認させ射撃兵装のロックオン機能を殺してしまう、射撃機体にとっては悪魔の様な機能を持つ。

 

「なら、お望み通り接近戦で!!」

 

 正に撃つ手立てが無くなったサヤは接近戦のみに集中した。

 迫り来るデスティニー。長大な対艦刀を掻い潜り、零距離へと至る前にビームサーベルで断つ。

 

「うぉおおお!!」

「はぁあああ!!」

 

 ぶつかり合う、セイバーとデスティニー。

 その結末は──

 

「──くっ!?」

 

 シンの反応速度によって先の先。つまりはリーチの差でビームサーベルを保持する腕を切り落とされたセイバーの敗北であった。

 既に両腕部を失い、接近戦はもう望めない。

 最後の足掻きと至近距離で背部ビーム砲塔を展開するが即座にパルマフィオキーナで爆散させられる。

 

 それでも、サヤ・アマノはその爆発を隠れ蓑にセイバーを変形。

 再び逃走を図ろうとした。

 

「あっ……あぁあ……ああああああ!」

 

 未だ涙を流し続けたまま、シンは追い縋った。

 ビームライフルを数射。逃げ惑うセイバーを牽制すれば回避軌道で速度は落ちる。

 いや、その様なことをしなくても、光の翼を展開したデスティニーから逃げられるわけもなかった。

 

 アロンダイトを再び構える。衝動は衰えぬまま、真紅の機体にデスティニーは突撃していく。

 

「うぁあああああ!!」

 

 叫ばなければきっと、機体を動かせないのだろう。正常な思考をSEEDによって置き去りにしなければ、きっと討てないのだろう。

 彼我の距離は後僅か。シンは反射的に目を伏せようとした。

 

「──はっ」

 

 閃光は突然。後方より飛来した。

 レジェンドの高出力ビームライフルが、セイバーのバックパックを射抜いていた。

 

 力を失ったかの様に、海へと落ちていくセイバー。

 飛行速度のせいで、水面を転がる様にして機体がバラバラになっていく。

 

 その光景に、シンの意識は急速にSEEDから覚めていった。

 

「あっ、あぁ…………レイ、なんで!!」

 

 なぜ討った! そうシンの声音が訴えていた。

 それはきっと、討とうとしていたのは自分だと言う声と、本当の意味でどうして討ったと問い詰める意味の2つを持っていた。

 

「────お前は優しすぎる。お前は絶対に、彼女を討ってはならないんだ」

「なんで! なんで!」

「彼女は戻る事を良しとしなかった。俺はザフトの軍人として任務の為に討った。これは────それだけの事だ」

 

 悔恨の声。それがレイにも見てとれて、シンはそれ以上言い募る事はできなかった。

 彼も決して、討ちたくて討ったわけでは無い。それがわかってしまった。

 行き場のない怒りと悲しみは、シンの心は張り裂けそうであった。

 

 

「ぅぅ……う゛わあ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ!!」

 

 

 慟哭の叫びは、雷鳴と共に悲しき空に響き渡った。

 

 

 




シン……つらたん。

ここまでじゃなくても、原作のシンはこのくらい追い詰められた末のグフ撃墜だと思います。

少し解説。
サヤとヤヨイは半端な二重人格と言う感じ。サヤはお兄様一途だし、それに引っ張られてヤヨイはシンに心惹かれていた。サヤはヤヨイの想いをちゃんと伝える事で、区切りとし、お前の気持ちはここで終わりにしろと抑えつける為に告白しました。
シンとレイに切り捨てろと言うのと同時、自身にも心残りを断ち切らせるための告白でした。

デスティニーは原作より優遇?ミラコロによる分身にちゃんと意味を持たせました。多分原作じゃ映え意外に意味は無かったきがする。

SEED編だとキラアスはタケルとミゲルのお陰で大分救われていたのに。運命編はサヤがシンの心をむしろ抉ると言う……ごめんよシン。
でもその分強くなれるから。

許せシン……これで最後だ。

感想、どうぞよろしくお願いします。


プチネタ……シンの最後の叫びは運命編プロローグと同じ
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