機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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これ系描いててすっごく気になるのが、温度差問題。
皆さん風邪をひきません様に。
とっぷり説明回って感じ。
ごちゃごちゃ言いますが、あまり深く考えず、ツッコミどころは流して頂きたくお願いします。政治色や難しい話は、作者の得意分野ではないので。


PHASE-66 遺された心

 

 

「そうですか。タケルは、今やオーブでの立場も……」

 

 

 ファクトリーの一室へと集められ、タケルの現在の状況を聞かされたラクスは、酷く憂鬱な声で呟いた。

 状況は、ある種最悪。混迷する世界のため少しでも戦力が必要という時に、目の前の男が籠の中の鳥となっている状況は嬉しくない話であった。

 

「僕からも聞いておきたいんだけど……ラクスはどうして宇宙へ? 虎さん達も含めて、てっきりアークエンジェルに居るのかと思ってたのに」

「そうですわね。私達の事も話しておきましょう」

 

 今度はタケル達が聞く側となって、ラクス達のこれまでを聞かされる。

 カガリへの襲撃。オーブからの逃亡。ユーラシア連邦とデュランダルとの会談と、同盟の失敗。

 そしてその裏に……ギルバート・デュランダルが何らかの計画を目論んでいる可能性。

 

「そっか……ラクス達も気が付いてたんだね」

「私達も? という事はタケルも何か思う所があったのですか?」

「どう言う事よ兄さん。私も聞いてないんだけど?」

「それは、別にユリスには言っても仕方なかっただろうし……一応ザフトのメイリンも居たから」

「と言う事は、そっちのお嬢ちゃんはザフトの子か?」

 

 メイリンへと目を向けながら投げてくるバルトフェルドの問いに、タケルは小さく頷いた。

 

「本当はザフトに帰す予定だったんだけどね。巻き込んじゃって……」

「タケルさん、私は自分の意思でここに居ます」

「ふぅん……坊やったら、いつの間にか随分と人気者になってるのね」

 

 対面する位置での対話となっている現在。

 タケルの隣にはユリス。逆の隣にはステラが座り、その背後にはメイリンと言う布陣。誰が見てもアイシャの様な感想を抱くだろう。

 特にステラは、わかりやすく懐いている様子を見せているのだ。

 

「アイシャさん、お願いですからこの場で坊やはやめてください」

「自制できない子なんて、坊やで十分よ」

「そう言う関係じゃありませんから!」

 

 隣で息を殺して笑うユリスを睨みつけながら、タケルは不服そうに息を荒げて否定の声を挙げる。

 そうして気を取りなおす様に一度ため息をついてから、再びラクスへと話を切り出した。

 

「はぁ……ラクス、話を戻すよ。サヤの事を調べにプラントで議長に会って、その時の彼の言葉に引っ掛かるものがあったんだ」

「引っ掛かるもの、ですか?」

「うん。恐らくここまでの戦争は議長にとって想定内。勿論、全てが予定通りという事は無いだろうけど、争いが激化しロゴスの打倒を宣言するまでは、きっと織り込み済みのはずだ」

「やはり、そうなのですか」

 

 ここまでの調べの中で、クライン派でも疑惑はあったのだろう。ラクスはタケルの言葉にどこか納得した様に呟いた。

 

「えっと、どういう事なんですかタケルさん?」

「歌姫様とだけ話合わせてないでちゃんと説明してくれない?」

 

 圧の強いユリスからの問いに逡巡。自身の中で考えをまとめてからタケルは口を開いていく。

 

「綺麗すぎる……完璧なんだ、議長の対応は。

 アーモリーワンでのミネルバへの乗艦。動き出したユニウスセブンへの対応。ブレイク・ザ・ワールド後の迅速な救助活動。そして直近の、ユーラシア西の惨劇と打倒ロゴスの声明。

 まるで予定調和だ。上手くいき過ぎてる……と言うか準備が良すぎるんだよ」

「準備が、良すぎる?」

「前提としてプラントは人員規模が小さい。連合と比較すればその差は歴然だろう。公表されたロゴスメンバーの調査には、相当な時間がかかってるはずだ」

「はい。それこそ、彼は議長になってから直ぐにでも動いていたと思われます」

 

 デュランダルは議長となる以前は、1人の学者でしか無い。彼の前の議長がロゴスの事を調べていたかと問えば、穏健派のカナーバは勿論、ナチュラルを殲滅しようとしていたパトリックも、その前任のシーゲルも、戦争の対立構造は連合とプラントの形で捉えていた。

 対ロゴスで動き出したのは、間違いなくデュランダルが議長となってからだろう。

 

「相当な数の人間を使って調べて来た筈だ。

 歴史の裏で世界を動かし続けてきたロゴス。その情報を掴める人間が、旧ザラ派の動きを掴んで無いわけがない。アーモリーワンにしたってそう。その後の連合の動きも含めて、議長はある程度を知り、予見できていた」

「そして、それらに適切なカウンターを用意し対応をする事で世界の求心力を増していく。最も効果的な瞬間を自ら作り上げロゴスの打倒を宣言。世界を自身の下で1つにまとめあげた、と言う事ですわ」

 

 一堂に、嫌な空気が過った。

 タケルとラクスが言う事はつまり、先のブレイク・ザ・ワールドの悲劇を、デュランダルは予見していながら見過ごした……事が起こるのを待っていたという事である。

 あの未曽有の災害がどれ程の被害に繋がったか。直接的な被害に留まらず、今日まで続く争いの火種となった事を考えれば、その影響は計り知れない。

 

「そして──その先があるはずだ」

「はい」

 

 険しい空気と共に放たれたタケルの言葉に、ラクスは頷いた。

 

 ただロゴスを打倒するだけなら、もっと早くにその存在を公表して良いだろう。

 死の商人ロゴスの存在は、間違いなく世界にとって敵となる。地球圏でのその影響力を考えれば、早々にその存在を公表して連合陣営の自浄作用を利用して良いはずだ。

 ロゴスの討伐だけが目的であれば、何もプラントの諜報機関だけで調べ上げる必要はないし、これまでに起きて来た様々を見過ごしている筈がない。

 必然、公表のタイミングを図っていた理由があるのだと想像できる。

 

 その結果である今の世界を見れば分かるだろう。

 人心を掌握し、世界は今ギルバート・デュランダルの名の下に纏まろうとしている。

 これだけの準備をしてきた人間が、ただロゴスを討つだけで終わるなどあり得ない。必然、彼にはその先にみる未来があるはずであった。

 

「ラクス、これを見て欲しい」

 

 タケルは一冊のノートを取り出した。メンデルでダコスタと遭遇する前にアウルと見つけた、例のノートである。

 

「タケル、これは?」

「メンデルで見つけたんだ。設備も死んでて資料も全く見当たらない中、破棄を免れた研究員のメモ帳みたいなもの」

 

 ラクスとアイシャ、バルトフェルドが顔を寄せ、開かれたノートに目を通していく。

 

「んっと────“デュランダルの言うデスティニープランは一見今の時代有益に思える。だが我々は忘れてはならない。人は世界のために生きるのではない。人が生きる場所、それが世界だということを“……うむ、デスティニープラン?」

「仔細はわからない。けど、これがきっと議長の狙う何かだと思います」

 

 デスティニープラン。全く想像のつかない名称に、部屋にいる皆が首を傾げた。

 

「何よ、デスティニープランって。皆で世界の運命を決めましょうっての?」

「安直だねユリス。まぁ、当たらずとも遠からずかも」

「ふぅん……そうだとしたら随分ロマンチストのようね。議長さんは」

「アイシャ、ロマンチストは嫌いかい?」

「坊や達を巻き込んでまで見るロマンなんて、嫌いに決まってるでしょ?」

「はは、それは確かになぁ」

 

 バルトフェルドもアイシャも、元より彼については懐疑的であった。それが今や警戒や嫌悪に変わっていると言う所だ。随分と刺々しい雰囲気である。

 

 サヤ・アマノを取り込み、タケルを巻き込み。計画のために世界まで巻き込んだ。

 ここまでの話をまとめれば、デュランダルの計画は随分とエゴに塗れたものに思えるだろう。

 

 しかし、今やそれが正義となっているのだ。世界はそれに夢を見させられている。

 あの声明には、それだけの力があった。

 ラクス達はそれに、強い危機感を覚えていたのだ。

 

「タケル。このノートは頂いてもよろしいですか?」

「勿論。僕達の目的には何も必要ないからね。好きにして良いよ」

「その代わり、ステラ達の治療に協力してくれるかしら?」

 

 割り込んだユリスに、タケルは僅かに睨みを利かせた。

 

「ユリス、僕達が見つけなくてもダコスタさんが調べて見つけていたものだ。そんな対価は望──」

「勿論です。私達も協力させていただきますわ」

「ラクス、でも」

 

 あくまでこれは自分達の問題。遠慮を見せるタケルであったが、バルトフェルドは肩を竦めてタケルを見た。

 

「メンデルでは何も得られなかったんだろう、少年?」

「えぇ、それはまぁ」

 

 頼みの綱であったメンデルはコロニーとしても死んでおり、研究施設も2年前には無事だったところが全部破壊されていた。資料も皆無であり、正直な所タケルの目論見は潰えていたと言って過言ではない。

 

「少なくともこちらであれば、精密な身体の検査ができます。有効な治療も見つけられるかもしれません」

「でも──ユリス、良いの?」

「兄さんが掛値なしの信頼をしてるのなら信じてあげる。逆に聞くわ、どうなのよ?」

「それは勿論保証するけど……」

 

 本当に良いのかと視線で訴えるタケルに、ユリスは眉根を寄せた。

 

「くどいわよ。ゆりかごは所詮延命装置。消耗品であるステラ達の身体は戦闘状態に入らなくても常人よりずっと高負荷の状態にある。治療が遅れれば遅れるほど寿命を縮めるって……兄さんが解明したんでしょ? なりふり構っている余裕はないわ」

 

 ユリスとしては本来、手放しに信用はできない。だがタケルが信ずるのであればと、納得の様子を見せていた。

 

 タケルが読み解いていたラボの資料から、生体部品であり消耗品であるエクステンデッドは最初から長生きする事を想定されていない事がわかっていた。そもそも、全うな生き物として扱われていないのだからある意味当然とは言える。

 発現できる能力にのみ振り切った研究は、こうしてある程度の運用ができる状態であった彼等の身体ですら、常に死と隣り合わせの負荷状態に追いやっている。

 手をこまねいている時間はなかった。

 

「わかった。それじゃあラクス。ステラ達をお願いしたい」

「はい。一先ずは精密検査をしましょう。十分な検査には時間もかかります。タケルはしばらくこちらでゆっくりしてくださいな。ずっと張り詰めて、疲れているのでしょう?」

「そうね。兄さん、少し休んでおきなさい」

「そうですよタケルさん。落ち着いて今度こそゆっくり休んで下さい!」

 

 前方からラクスが。隣からユリスが。後方からメイリンが。

 視線と声音に強い強制力を湛えて投げられた言葉に、タケルは思わず残された最後の逃げ道、ステラの方へと身体を傾けた。

 

「えっと、その……僕は大丈夫だから、ね」

「ぷっ、はは、あっはは! いやぁ少年、羨ましい限りだな」

「虎さん、笑い事じゃないですから」

「茶化さないのアンディ。それとも、まさか羨ましいのかしら?」

「いやそんなまさか。だが少年には良い薬だろう? 言われた通りゆっくり休んでおくべきだ少年」

 

 心配と叱責がない交ぜになった様な視線が一斉に向けられ、タケルは居心地悪くなり肩をすくめた。

 

「はぁ……全く、皆して心配性が過ぎませんか?」

「坊やが頑張り過ぎなのよ。何なら、また子守唄でも歌って欲しい?」

「何っ!? またとは少年、一体どう言う事だ!」

「ちょっ、待ってください虎さん! それ誤解ですから! っていうか本気にしないで下さい!」

「そうよアンディ、子守唄を歌ってあげるために私がベッドまで運んで上げたの」

「何ぃ──!!」

「えぇ──!!」

 

 久しぶりに玩具が返ってきたということで、全開モードのアイシャにその場はかき乱されていく。

 バルトフェルドが目を血走らせてタケルへと詰め寄り、メイリンはいつの間にかタケルの両肩をがっちり掴んで逃さない態勢だ。

 

「待って、それは事実だけど色々と理由があるんですって! あの日の僕はちょっと余裕なさ過ぎたと言うか、死にそうだったと言うか」

「だから私が慰めてあげたのよ」

「いや待って、アイシャさん。ホントやめて下さいよ!」

「少年、君という奴は!! 男の風上にもおけん奴だ!」

「って言うかそもそも虎さんはその時死んだことになってたじゃないですか!」

「知るか、天誅!」

「ひぃ!? 何ですかその腕! 仕込み銃!? っていうかその口径、人に向けるものじゃないですよね!? あぁ、もぅ!」

「逃がすか、待てぇい少年!!」

 

 離れていく足音と怒声を耳にしながら、ラクスとアイシャ、ユリスは愉快そうに笑い、メイリンはプンスカと怒りを露わにし、完全に置いてけぼりとなっていたエクステンデッド3人組は目を丸くして呆然としていた。

 

 世界はとんでもないことになってると言うのに。こうして訪れた些細な平和が、酷く心地よい気がしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジブラルタル基地。

 日も完全に落ち夜の帳を迎えた中で、基地指令室には緊急事態に際して多くの関係者が集っていた。

 無論、ミネルバ艦長であるタリア・グラディスも同様である。

 

 

「──セイバー、撃墜との報告」

 

 僅かに、指令室の中には安堵の息が漏れる。

 ヤヨイ・キサラギに掛けられた疑惑……連合のスパイであるその懸念を考えれば、撃墜と言う報告は確かに喜ばしい事だ。

 

 正反対に表情を歪めるタリア以外には。

 

「デスティニー、レジェンド帰投。損傷はないとの事です」

「そうか、ありがとう」

 

 再び、タリアの表情が悲痛に歪む。

 MS隊の同僚。アカデミーからの同期。これまで轡を共にし、命を預け合ってきた者達が討ち合い、そして結果を示してしまった。

 彼等の胸中を想像するだけでタリアは吐き気がする想いであった。

 

「クラエバー、事の次第を簡単に文章に纏めてくれ。集まってきた連合側もあれこれ聞いてき始めている」

「はい」

「これまでの経緯とこちらから調査隊を出すので現場海域には立ち入らない様に要請する旨も」

「わかりました」

「それから、脱出直前に彼女と接触していたというルナマリア・ホークとハイネ・ヴェステンフルスを呼んでくれ。一連の事態を報告し、色々と訊きたいからね。これは君の方に任せて良いかな?」

「はっ!」

 

 冷静なものだ。次々と必要な事を指示して回していく。こちらは腸煮えくり返る想いだというのに、いい気なものだとタリアの中で怒りが湧いていた。

 

 努めて、タリアは感情を押し殺す。

 指揮官としては正しい判断しかしていない。それはタリアにも分っていた。逃せば不利益になる以上、連れ戻すか始末するしかない。そして、セカンドステージでも最速の航行速度を持つセイバーに追従するには、最新鋭のデスティニーとレジェンドで追うしかなかった。

 そうするしかなかったのだ。

 

「グラディス艦長。ミネルバの彼女の部屋を調べさせてもらう事になると思うが……」

「どうぞ。ですが、その前に少しお話させていただきたいですわ」

「そう睨まなくても。ちゃんとそうさせてもらうよ、タリア。どの道こちらも君に詳しく訊かなくてはならんし。クルースに続いて彼女まで……ショックなのは私も同じだ」

 

 ならば何故、穏便に事を運べなかった────競り上がって来る言葉を、タリアは飲み下した。

 

「後で必ず時間は作るから、君も少し落ち着いてくれ」

「わかりました。一先ずは艦に戻って待機しております。動揺しているクルーも多い事でしょうし」

「すまない。迷惑を掛けてしまうが頼むよ、タリア」

「いえ、これも務めですので────では」

 

 そっけないタリアの態度に眉を下げながら、デュランダルは指令室を去っていく背中を見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 その夜、基地司令部より呼び出されハイネ・ヴェステンフルス、ルナマリア・ホーク、及びミゲル・アイマンは聴取を受ける事となった。

 内容は、脱走直前のヤヨイ・キサラギと何を話していたか。ハイネは淡々と、ルナマリアは涙交じりに事実を報告。ミゲルだけは、彼女の正体と彼女の思惑を知っていた為に全てを明かすことは無かった。

 

 

 

「ん? ラクス様」

「ミゲル……あの、私は」

 

 聴取から戻ったミゲルを、ミーアが出迎えた。

 その表情から察するに、事が大きくなったのに責任を感じているのだろう。自分がミゲルに知らせなければ、こんな大事にはならなかったのではないかと。

 そんな彼女の姿に、ミゲルは首を振った。

 

「わかってます。大丈夫ですラクス様。貴方は議長とレイのやり取りを聞いて、あいつを助けてくれようとしただけです。貴方のせいではありません」

「ですが、貴方にとっても大切な方だったのではないですか」

 

 記憶喪失だったヤヨイ・キサラギの身元引受人。それがミゲル・アイマンである。

 だからこそミゲルは直ぐに彼女の元に向かい、デュランダルへと取りなそうとした。こんな結果にはならない様にと。

 

「全部、あいつが決めた事です。貴方が責任を感じる必要はありません」

 

 少しだけ悲しそうに笑うミゲルに、ミーアの表情もまた憂いを帯びていった。

 後に引きずるタイプでは無いだろうが、それは何も感じないわけでは無い。普段から軽い調子のミゲルではあるが、悲しみを湛えている姿にミーアはそれ以上言い募る事は出来なかった。

 

 

 たくさんの悲しみを抱えて、夜は更け、そして明けていく。

 

 

 

 

 

 翌日。

 

 帰投時にはジブラルタル基地の工廠へと戻ったシンとレイは、そのまま基地内で夜を明かした。

 翌日になってから、2人はデスティニーとレジェンドを正式に受領。来たるロゴス打倒作戦に向け、機体と共にミネルバへ配備される事となり帰還した。

 

 

「これが……」

「デスティニーとレジェンドか」

 

 格納庫へと入ってMSハンガーへとかけられた機体を見て、整備班のヴィーノとヨウランは呟いた。

 

「シンとレイが……乗るんだよな」

「そうだろうな」

「でも、2人はヤヨイの事……」

「よせよ。その事は言うな──もう絶対に」

 

 悲痛な面持ちで呟くヴィーノを、ヨウランはきつく窘めた。

 彼自身も、今回の件では思う所はあった。だが、シン・アスカの友人として、ヨウランが絶対的に思うのは、彼は仲間を討って戦果を喜ぶような人間ではないという事だ。

 その証拠に、デスティニーから降りて来た彼の表情は、苦悶の気配がありありと表れている。

 

「シン」

「ヴィーノ、ヨウラン……俺」

 

 何かを言おうとするシンを止めて、ヨウランは首を振りながらシンの肩に手を置いた。

 

「何も言うなよ。俺達も言わない……お前の気持ちは、わかってるつもりだ」

「──ごめん」

「謝るなよ、バカ」

 

 視線を逸らしながら、それでもシンは彼等に感謝した。何も言わないでくれる2人の気持ちがシンにはとてもありがたいものであった。

 

 何故なら、その先には今最も顔を会わせたくない人達が居たからだ。

 

「ハイネ……ルナ」

 

 格納庫から艦内通路へと入った先の事である。

 待ち構えていたかの様に……と言うよりは、正に待ち構えていたのであろう2人が居た。

 

「ハイネ。ありがとうございました」

「あん? 何のことだレイ」

「貴方が格納庫でヤヨイの足を止めてくれなければ、俺とシンは彼女に追いつくことができませんでした。ヤヨイを討つ事ができたのは貴方のお陰です」

 

 俄かに、周囲から嫌な気配が漏れ出た。

 軍人としては正しいのだろう。ハイネの功績も、レイの言う事も。しかし、仲間を討った事を良しとするレイの物言いに、皆の感情は暗いものへと変わっていく。

 

「やめとけよレイ。そうやって悪ぶるんじゃねえ」

「何のことでしょうか?」

「そこで泣きそうなシンの矢面に立とうってんだろ? そもそも、誰もお前等を責める気はねえんだ。無理に悪役になる必要は無いっての」

「買いかぶり過ぎです。彼女を討ったのは俺。その一助となってくれた事に感謝しているだけですよ」

 

 ──失礼します。

 

 そう言って、レイはその場を後にした。

 相変わらずの仏頂面に本音の思惑は読めないが、少なくともハイネの言ったことは見当はずれではないだろう。

 漂っていた嫌な気配は周囲から霧散していた。

 

「おらシンも! いつまでもそんな面でぼーっとしてんじゃねえよ。レイがあんな風に言ったって事はお前がそれだけ情けねえ面晒してるからだぞ? シャキッとしろ」

「──できるわけ、ないだろ」

 

 調子の良い事を言って、持ち上げたくも無い気持ちを持ち上げようとしてくる。煩わしさに、シンはハイネから視線を逸らした。

 

「お前等がそんなんじゃ、俺の立つ瀬が無いだろうが」

「何だよそれ。意味わかんないって」

「お前達がそんな顔してると、俺まで申し訳なくなるって事だよ。

 あの時、俺は格納庫でヤヨイの奴を捕まえてたのに……軽く退けられて逃げられた。俺があいつをしっかり捕まえていれば、こんな事にはならなかったはずだ。

 お前もレイも、俺の不手際の清算をしたに過ぎない────だから、そんな顔をするのだけはやめてくれ。胸のエンブレムを投げ捨てたくなる」

 

 静かに、赤服に添えられたFAITHのエンブレムを握りしめるハイネに、シンもまた彼の苦悩を悟った。

 止められるはずだった……防げるはずだったのだ、この結果は。

 ハイネにしろ、ルナマリアにしろ、脱走しようとするサヤ・アマノに手が届いていた。ハイネは文字通り。ルナマリアもまた、脱走するサヤが唯一の心残りとして。ルナマリアに会いに来ていた。

 掴んだ手を離さなければ。抱きついてきたその身を離さなければ。この様な結果にはならなかったはずであった。

 

 その自責の念が、シンにはありありと見えた。

 

「ごめん……本当に、ごめん……」

「もう良いって、謝るな。誰も、何にも悪い事はしてねえ」

 

 胸の内の苦痛を吐き続けるシンを引き寄せると、ハイネはあやす様に軽く頭を叩いてやった。

 やるべき事をやった。果たすべきを果たした────褒められこそすれ、悪く言われる様な事はない。

 言外に、シンにそう伝えてくれた。

 

 

 だが、それは違う────少年は頭を振った。

 

 

 本当に自分のせいなのだ。この結果は己が招いた事なのだと。

 シンはハイネの優しさを否定した。

 

「────ねぇ、シン」

 

 断罪かの様に、少女の静かな声が通路に響いた。

 どこか呆然と。感情が抜け落ちたかの様な表情で、ルナマリアはシンを見つめる。

 

「ルナ……」

「あの子……何か言ってた?」

 

 びくりと肩を震わせて。シンはルナマリアの言葉に昨夜の記憶を過らせた。

 

「────自分の選択を後悔しないって。自分はもうヤヨイじゃない、サヤ・アマノだって。だから、敵として自分を討てって」

 

 言い訳がましく聞こえる気がして、シンの声は徐々に小さくなっていく。

 

「他に……は?」

「俺の事…………好きだったって、言ってくれた」

 

 自分の事は何か言ってなかったか。そんな些細な願いを持っていたルナマリアだったが、逡巡したシンが躊躇いがちに吐いた言葉に、目を丸くする。

 次いで、彼女からは小さな溜め息が漏れ出た。

 

「そっか……それなのに、討っちゃったんだ」

 

 思わずハイネが険しい気配となるが、シンには寧ろルナマリアが自分を慰めてくれる様に思えた。

 

 そうだ────想いを告げられたのに、自分は討とうとした。

 最終的にレイが撃墜したとしても、その寸前までいった。デスティニーのアロンダイトを、セイバーに突き立てようとしていたのだ。

 助けられたはず……止められたはずの事が、できなかった

 

 全ては、シン・アスカの未熟が招いたものであった。

 

 デスティニーの性能は別格である。

 核動力とバッテリーを併用した、持続性と瞬発性に優れる動力エンジン。これだけでも他セカンドステージとは一線を画すと言うのに、機体に使われる技術は全てが最新鋭を用いられており、デュランダルが言った様に全ての能力で他の追従を許さない性能を誇る。

 ザフトが生み出した究極のMSだ。

 

 十全に扱えるのなら──例えば、パイロットがクルース・ラウラであったなら。

 逃走するセイバーのコクピットのみを残して、完全なる無力化の末に帰還してきただろう事は容易に想像がつく。

 現に、シンの駆るデスティニーは、セイバーの攻撃能力のほとんどを奪うまではできたのだ。

 

 足りなかったのは、シン・アスカの強さ。

 容易に怒りに呑まれ、見境なく力を振るってしまう脆弱な心のせいであった。

 逃げ出した彼女に。理不尽を突きつける世界に。シンは衝動のままに戦ってしまった。

 思考を捨て、感情だけに支配されて彼女を討とうとしてしまった。

 レイが彼女を手を掛けたのは、討ってしまえば本当にシンが壊れてしまうと危惧したからなのかもしれない。

 

「あの子……最後に言ってくれたの。私の事お姉ちゃんみたいに思ってたって」

 

 ハッとして、シンは目を見開いた。

 感情のない声音から一転。次第にルナマリアは涙と悲愴を湛え始めていた。

 

「──平和になったら、また会える事を願いますって」

 

 背筋を駆け抜けていく悪寒。

 声と瞳に涙を溢れさせて。ルナマリアが溢した言葉に、シンはたまらず彼女を抱きしめた。

 

「ごめん……ごめん……ルナ……本当に…………」

「あや……まらないでよ……シンのせいじゃ……ないでしょ」

 

 嗚咽混じりになってく泣き声はどちらのものか────否、2人のものであった。

 少女の姿に自身の罪を見せつけられる少年と。

 自責に溺れる少年に、悲しみを押し殺して慈愛を向ける少女の。

 

 

 誰も救われない────互いを慰める自己満足の涙であった。

 




本当思うんですけど……

アマノ兄妹、タチ悪いなって

なまじ優秀だったり色々と好かれてたりで、死んだ死んだ詐欺の時置いてくものが大きすぎる。
大迷惑じゃないか。
でも、原作キャラの色んな成長を描くための必要悪と言うか、欲しい出来事と言うところで、重たく描きたいのです。
御了承くださいませ。

さてさて、次回より物語がまた進み、ロゴス討伐編と言うところ。
どうぞお楽しみに。
感想よろしくお願いします。
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