アークエンジェル艦内。
キラはラクスの食事配達に赴いていた。
他の人達が使う部屋から少し離れた、彼女が待つ部屋につくとパスコードを入れてロックを解除。
それから入室前に声をかける。
「失礼します。ラクスさん食事を持ってきましたよ」
「あ、少々お待ちになってください」
多少なりとも身なりを気遣っているのだろう。
少しの間を置くと中から改めて返事が聞こえた。
「お待たせしました。どうぞ、お入りください」
「失礼します。ちょっと遅くなっちゃってごめんなさい。また少し、色々とあって……」
「存じてます。戦闘がありましたものね」
「あぁ、そっか……ラクスさんのおかげ? で終わったようなものだよね」
「あの方……フレイさんは?」
「フレイなら、今は泣き疲れて眠っている」
「ちょっ、カガリ!? 何でここに」
突然の第3者の声。開かれた扉の方には、カガリの姿があった。
「兄様からキラが彼女の食事に行ってると聞いてな。私も興味があったんだ。プラントのお姫様なんだろ?」
「キラ様、そちらは?」
「あぁ、ごめんごめん。カガリ・アマノだ」
「という事はタケル様の妹さんですのね。初めまして、ラクス・クラインですわ」
丁寧なお辞儀と共に、カガリへと挨拶を見せるラクスを見て、カガリは何故か目を輝かせた。
「うわ~、凄いなキラ。口調から何から本当にお姫様みたいだぞ」
「みたい、じゃなくて本当にお姫様なんだよ、カガリ」
「あっ、そうだったな」
うわ~うわ~と妙に感嘆の声を上げながら、カガリはまじまじとラクスを見ていた。
穴が開くように見つめるとはこの事か。
余り動じないラクスと言えど、カガリのこの対応にはさすがに呆気に取られていた。
「シミ1つ無い真っ白の肌に、綺麗な目。本当ラクスって人形みたいに可愛いな」
「まぁ! そんな風に言われると照れてしまいます。ですがカガリ様だって凄く可愛らしいですわ」
照れ交じりにラクスから返された言葉に、カガリはやや苦笑する。
可愛らしい等とこれまでまともに言われた事が無い。
聞くとしたら、タケルがからかい交じりに言うときくらいである。
ちなみにタケル自身は本気で語っている事を明記しておこう。
「や、やめてくれ……私は女の子らしいとか、可愛らしいとか言われるの好きじゃないんだ」
「あら、どうしてなのですか?」
「私は、その……大雑把で面倒が嫌いな性格だからな。いつもいつも、周りからは女の子らしくないって言われてて……言われてるうちに自分でもそう思うようになって」
「えっそうだったんだ……」
確かにとキラは思う。
あの食堂での姿。フレイを胸に抱き慰める姿は女の子らしいを通り越して、むしろもう母の姿であった。
確かに、もう女の子らしさは湛えていないだろう。
「キラ、バカにしてるのか? ヘリオポリスで私を男の子と間違っていたのは誰だ」
「い、いや!? あれは女の子だと思っていたら男の子にもちょっと見えてただけだから!」
「おまえ! それなんのフォローにもなってないからな!」
「ふふ、ふふふふ」
仲の良い2人のやり取りが面白かったのか、ラクスは口元に手を当て上品に笑っていた。
思わず、キラとカガリは照れ臭そうに視線を逸らす。
「お2人とも仲がよろしいのですね」
「まさか、手のかかる弟みたいなやつだよ」
「えぇ……タケルの妹なのに?」
「文句あるか!」
「い、いえ、無いです!」
一喝されるキラに、ラクスは再び小さく笑みを見せた。
「ふふ、姉御肌、と言うものでしょうか?」
「あー確かに、そうかもしれないね」
姉も通り越して母だとは、思っても口に出せないキラである。
「それでは、カガリお姉様と呼んでも?」
鈴の音の様に可憐な声がコロコロと転がる。そんな彼女の声が紡ぐ言葉が、カガリの背中に言い知れぬ悪寒が走らせる。
「お、お姉様!? だ、だめだだめだ! そんなの絶対だめだ、鳥肌が立つ……」
「良いではありませんか。私もキラ様の様にカガリお姉様の手のかかる妹になってみたいです」
「っっっ!? やめろ──ー!!」
なぜか、顔を赤くしてカガリは部屋を飛び出していった。
キラは状況を全くわかっていないが、ラクスが未だに平常運転なのを見て、1つの真実に辿り着く。
「まぁ、行ってしまわれましたわね」
「凄い、あのカガリを手玉に取ってる……」
ある種、格付けが済んだ瞬間であった。
きっとこれから先、カガリはラクスにだけは終始強く出れないだろう……そんな気がしたキラであった。
「その、とりあえず食事にしますか?」
「はい!」
アークエンジェル格納庫。
固定アームでロックされ吊るされたアストレイのコクピット内で、タケルは1人キーボードを叩いていた。
マードックから修理予定は聞いている。
失った下半身をストライクの予備パーツで補う。前回に続いての対応で、そろそろアストレイと呼べなくなるなと苦笑した。
そして……調整をしながら、コクピット内で記録された戦闘映像を確認する。
「(あの時、フレイの言葉がきっかけになって何かが変わった。失う事の怖さ……それが目の前にあるかのように感じられて、そしたら絶対に失えないって力が湧いて……まるで自分がアストレイになったように機体の動きが細部まで理解できた)」
なぜそうなったのか……それはわからなかった。だが、あの動きが最初からできていたのなら戦局は変わっていた。
フレイが父親を失う事はなかった。ラクスが人質とされることも。
あの力……使いこなせなければ。でないと、自分も失う事になる────大切なヒトを。
そんな考えがよぎった時、タケルは大きく頭を振った。
なんだそれは、と自身を恥じる。
これではまるで、今回の犠牲者がカガリではなくて良かったと言っているようなものではないか。
違う……あの力が使えていれば、ジョージ・アルスターは助かっていたはずだ。
「(彼女の父親を死なせてしまったのは……僕なんだ)」
戦闘記録を眺めれば嫌でもそれを認識させられる。
あの苦戦していたはずのジンをあっさりと退け、直後にジンを流れるように3機撃墜。
自分が操縦しているとは思えない動きでありながら、事実として自分が操縦した動きなのである。
「(守れた……助けられたはずなんだ)」
ムウのお陰で押しつぶされてはいないものの、タケルが抱く自責の念は消えなかった。
次なる戦いを見据えて、疲れた体に鞭を打ち、タケルは予定となるアストレイの修理に合わせた調整をしながら、戦闘記録の解析を続けた。
「アマノ二尉! アストレイに居られるのですか?」
格納庫内に良く通る女性の声が反響する。アストレイの……すぐ近くである。
しかし、タケルは集中しているのか届いた声に見向きもしなかった。
「(やはり重量バランスがかなり難しくなるかな。アストレイと比べると、ストライクの部材は少し重い……もともと僕のは機動と運動性の為に軽量化もかけてたし。PS装甲前提だから、耐久性はまるでない……被弾は、もうできないかな。あとは──)」
「アマノ二尉!!」
「おわっ!? って……バジル―ル少尉? わざわざこんなところに登って覗き込んでまで、どうしたんですか?」
「どうしたのかではありません! その様子……やはり集中していて聞こえていなかった様ですね」
「えっと、もしかして……何度も呼んでお手を煩わせてしまいましたか?」
「煩うとまでは言いません。が、戦闘後まだ間もないというのに、何をしているのですか?」
「何を、って……修理後を見据えて調整を」
「マードック軍曹からも通達があったはずです。少なくとも修理が終わるまでは、アマノ二尉は休息をとるようにと」
「それでは修理後すぐに動けません。今の内に、出来ることはやっておきたいんです……」
「ではいつ、休憩を取られるのですか?」
「一段落したら取りますよ……心配はありませんから」
言外に、今すぐ休めと言うナタルの言葉はタケルには届かない。それどころか、まるでコクピットから出る気が無い。
ナタルはマリューが抱いた懸念が正しかったものだと確信する。
自責の念に駆られて自らを省みる余裕がない──先の戦闘、動きが変わるその直前だって改良型のジンと一進一退の攻防を繰り広げていたのだ。
命のやり取り、神経をすり減らす全力のMS戦闘をこなして疲労が無いはずがない。
こんなところで、調整をしている余裕など、本来残っているはずがない。
ナタルはここまでくる道すがら、あらかじめ考えていた秘策を繰り出した。
「だそうです、カガリ・アマノ……アマノ二尉は休息をまだ取られないようで」
「えっ!? いや、ちょっと待って下さい少尉!! もうすぐ一段落で休憩には入りますから!!」
ナタルが発したカガリへの報告にタケルは慌ててコクピットを出た。
そんな報告をされては、余計な心配をカガリにさせる。
言い訳をしようとタケルがコクピットハッチから覗いていたナタルを押しのけると、そこには誰もいなかった。
「って、あれ?」
「やっと、コクピットから出てきましたね」
「えっ、ってうわ!?」
手の届くところに出てきたのが運の尽きであった。
女性とはいえナタルは軍人。それなりに体は鍛えている。そのナタルに腕を掴まれると、タケルはコクピットハッチから引きずり降ろされた。
「ちょっ、あのっ! 少尉!?」
「艦長からの命令です。ちゃんと必要な休息をとって頂きます」
「いや、だから、調整が終わればちゃんと──」
「今すぐアマノ二尉がやるべきことではありません!」
有無を言わさぬナタルの剣幕に、タケルは思わず押し黙った。
力強く手を引かれ、タケルはナタルと艦内通路を歩いていく。
だが、しばらく歩いていくとタケルの中に疑問が湧いてくる。
タケルの手を引くナタルの足は、タケルが宛がわれてる部屋に向かってはいなかったのだ。
「あの……少尉、一体どちらへ?」
「士官用の部屋です」
「その……なんででしょう?」
「貴方は自室に連れ戻したところで素直に休息など取られないでしょう。なので、鍵をかけて軟禁します」
「いぃ!?」
予想外の言葉にタケルが驚いてる間に、ナタルは一つの部屋で足を止める。
「えっと、ここが?」
タケルが呈す疑問には答えず、ナタルはカードキーを切って部屋のドアを開けた。
そして、またもや有無を言わさずタケルを部屋へと連れ込んだ。
されるがままに入った部屋は、タケルが予想していたものと異なり、荷物が綺麗に整理された“誰か”の部屋であった。
「そこに座ってください。大したもてなしはできませんがコーヒーくらいは出せます」
「って事は、やっぱりここは」
「私の部屋です」
「で、ですよね」
使われていない部屋に放り込まれると予想していたタケルは、完全に予想外の展開に思考が追い付いていない。
いかに優秀な頭脳を持っていようと、それを操るは心であり今の彼に余計な事を考える余裕はなかった。
言われるがままに示された椅子に座り、ナタルがコーヒーを用意している後ろ姿を見つめる。
なぜ、自分はここに居るのだろうか?
アストレイのコクピットを覗いた時から、幾分か不機嫌さがにじみ出ていたナタルを考えるに、ここで一つ先の戦闘についてでも聞かれるのだろうか……
確かに傍から見れば、先の戦闘はタケルが手を抜いていたとも取られかねない。
皆の前での聴取とならないのは、多少なりとも気を遣ってなのだろうか。
「そう緊張しないで頂きたい──どうぞ」
「あっ、その──どうも」
差し出されたコーヒーを受け取ると、タケルは一先ず口に含んだ。
ナタルはその様子を見ながら、軍帽を取るとデスクへと置いてタケルの傍らに佇んでいる。
「それで……なんで僕はここへ?」
「艦長とも話して、少しアマノ二尉に確認したいことがあります」
「確認、ですか」
やはり、先の戦闘の事か……タケルはどう答えるかと惑った。
ありのまま報告するのも良い。だが、果たしてそれが信じられるのか……自分でもわからず急にあんな動きができる様になったなどと、にわかには信じられないだろう。
タケルの考えがまとまらぬ内に、ナタルは口を開く。
「戦闘後、フレイ・アルスターの元へ謝罪に行ったそうですね?」
「えっ、まぁ……はい。僕達は、彼女の大切なヒトを守れませんでしたから」
「僕達、ですか……アマノ二尉にとってそれは、“僕のせいで”、ではないのですか?」
ナタルの言葉に、タケルは思わず息をのんだ。
まっすぐに……実直なナタルらしくタケルを見つめる瞳が、まるで心の内を全て見透かしている様で、タケルは思わず目を逸らした。
「その様子、やはりですか」
居た堪れないと雰囲気が物語る。
視線を逸らし、罰が悪そうにし、表情には後悔が見え隠れする。
ナタルの言葉を、タケルは無言で肯定していた。
「それはそうですよ……バジル―ル少尉も戦闘記録は見ましたよね。
僕はあれだけ容易くジンを撃破できる能力を持っていながら、それを隠していたんですから」
「これまでのアマノ二尉を見る限り、貴方が能力を隠して出し惜しむような人とは到底思えません」
「僕達はまだ出会って間もないじゃないですか。カガリならまだしも、バジル―ル少尉が僕の何を知っていると言うんですか?」
「ヘリオポリスを脱出したあの日。自責の念に囚われたアマノ二尉を見れば、貴方がそんな人ではない事くらいすぐにわかります」
これは手強い。まるでカガリを相手にしているようだとタケルは思った。
全くもって見透かされている。
何を反論しても返される。先程懸念した戦闘の事で問いただされるより余程堪えるやり取りだった。
「アマノ二尉、私も……それに艦長も、貴方が先の戦闘で自責の念に囚われる事を懸念しております」
「僕のせいではないと?」
「あの日も私は言ったはずです。戦場に正解は無い。結果だけを見て特定の個人を断ずるのは貴方がすべきことではありません……それが己自身だとしてもです」
戦闘中に問題行動でもあれば別だろう。
だがあったとしても、艦長であるマリュー、副長であるナタル。それから士官であるムウが決定するべき話だ。
少なくとも、戦闘における責の在処を決める権利はタケルには無い。
「いえ、これは僕個人の問題です。僕個人が清算するべき問題なんです」
「貴方が背負うべき事ではないと言っています!」
「僕にはできたはずなんだ!」
「それは推論です!」
あの時、あの能力を発揮していれば……先遣隊も守れた。だが、それはあくまでタケル個人の推測でしかない。
そもそもタケルが堕とせたのはジンだけだ。直接的な撃沈の原因となったナスカ級にまで手を出せたわけではない。
「アマノ二尉。貴方は地球軍ではありません……私達の戦いに、貴方が背負う事などありません」
「わかってください……それでは僕が僕を許せないんです」
ナタルが何を言おうとも、タケルは頑なであった。
これは重症だと、ナタルは胸中でため息をつく。
ストライクの時と違い、目の前で人の命が失われたからこそタケルも頑なにならざるを得ないのだろう。
これを解きほぐすには、妹のカガリでなければ難しいだろう。
少なくとも、軍人であるナタルが何を言ったところで、タケルの胸には届かない。
「タケル・アマノ。あの日貴方は、弱音を吐く私に手を差し伸べてくれました」
ならば、軍人の仮面をはぎ取ろう。
あの日弱音を吐き、意図せず見せてしまった────ナタル・バジル―ル個人を。
軍人として正論を述べるだけで解きほぐせないのなら、タケル・アマノの情に訴えかける。
「貴方が見せた戦いが、成り行きで副長となり頼るべき拠り所もなく宇宙へと投げ出されたこの私に希望を与えてくれた」
ならば、今目の前で自責の念に溺れる少年を助けるのは自分である。
否、自分でありたいとナタルは考えた。
「あの日、鮮烈な戦いを見せた貴方がそんな自責の念に駆られる姿を、私は見たくありません」
「バジルール、少尉……?」
少し雰囲気の変わったナタルに惑うタケル。
そんなタケルを尻目に、ナタルは彼の手を取った。
「どうか、自愛してくれないか? 必死に戦った君がそれでは、あの戦闘を指揮した私達も辛く、苦しくなってしまう」
「そ、それは……」
嫌な言い方だとナタルは思った。
タケルが己を責めれば、それは巡り巡って艦の戦闘を指揮したマリューや自分への責になる。
この心優しい少年がそれを許すはずがない。
マリューやナタルを苦しませない様に、タケルは自責の念を解かずには居られないだろう。
「お願いだタケル・アマノ。君がそう自分を責める事は、私と艦長を責める事と同義だ。
私達のやった事を……過ちだと言わないでくれ」
それは軍人のナタルでは絶対にしないであろう。マリューが言った“お願い“であった。
ナタル自身、マリューが命令とお願いの2つの言葉を使い分けた真意はわからない。
だが、このお願いはナタル・バジルール少尉ではなく、ナタル・バジルール個人の言葉だとタケルに思わせる何かを持っているのではと……そう思ったのだ。
「ずるいですよ……そんな言い方されたら。僕がお2人を責める事なんてできるわけがないじゃないですか」
「ずるくて構わない。あの戦闘で君が責めを受ける謂われはないのだからな。他ならぬ君自身にも、それを許すわけにはいかない」
「この間も思いましたけど、バジル―ル少尉ってホント素直に落ち込ませてくれませんよね」
「当たり前だな。そんな事をしていても、何の意味も無い」
「カガリと一緒で手厳しいや」
ふとタケルから漏れる笑みに先までの自嘲が無くなったことを、ナタルは感じ取る。
観念したのだろう。自責の念に囚われる事を、やめたとわかる、少年らしい笑みであった。
「もう、大丈夫のようですね」
「すいません。余計な心配をおかけして」
「地球軍ではないはずの貴方が、現在このアークエンジェルが保有する戦力の要です。
フラガ大尉のゼロも、最新鋭のストライクも、恥ずかしながらアマノ二尉とアストレイには及びません」
「一番損傷が大きいですけどね」
「それだけの戦いをしておられるという事でしょう。そんな貴方の心のケアは、艦を取り纏める立場である私の責務となります。
ですから、その……余計な心配などと、私は思っていません。お忘れなきようお願いします」
「あっ、ありがとうございます……」
心配をかけるな、ではない。心配をかけても良いと言われた気がして、タケルは少し顔を赤くしてナタルから視線を逸らした。
妙に気恥ずかしかった。
家族であるカガリが相手ならこうはならなかっただろうが、相手は厳格な印象が強いあのナタル・バジル―ル少尉である。
カガリを相手にしたときの様に、素直に好意を受け取り甘えるのはどこか躊躇した。
「ありがとうございました、おかげ様でもう大丈夫です。
それじゃ、僕は部屋に戻りますね」
「ダメです」
「へっ?」
またも予想外の答えがタケルを惑わせた。
ナタルの言葉に納得し、素直に休むつもりであっただけに、まさか否定をされるとは露ほども思っていなかったタケルは間の抜けた返事を返した。
「えっと、何故でしょう?」
「私がここに連れてきた目的をお忘れですか?
アマノ二尉には休息が必要です。ですが共同エリアでは休もうにもしっかり休めないでしょう。人の良いアマノ二尉は頼まれたら休憩そっちのけであちこち動き回る事が目に見えています」
「それは、否定しづらいですが……休めと言われましたしちゃんと」
「でしたらこの部屋でどうぞ。外の音は聞こえにくくなっていますし、宣言通りドアはロックをかけておきます。誰かが訪ねてくることも無いでしょう」
「そこまでしてもらう必要も──」
「先程申し上げたように、アマノ二尉は戦力の要です。貴方が体調を整えるのは、この艦の生存に直結します。事の重要性をご理解ください」
問題が片付いたと認識したところで、また有無を言わさぬ軍人の仮面を被るナタル。
その剣幕。そして根本が自身を心配するものだとあっては、否を唱える事もタケルにはできない。
「その……ではお言葉に甘えて、部屋を使わせてもらいます」
「ゆっくり、休んでください。後でカガリ・アマノは呼んでおきます」
「あっ、それだけは……」
もうナタルにも散々に心配をかけている。
問題の自責の念も背からおろし、ゆっくりと休むと決めたのだ。
わざわざカガリにこの事を伝えて心配をかけたくは無かった。
「そうですか……では後程、私が起こしに来ます」
「はい。何から何まで、ありがとうございます」
「いえ、それでは」
ナタルは手短に応対を済ませると、部屋を出た。
宣言通り、カードキーによる施錠を施す。
一応、中からは開けられるように設定してあるがあの様子ならちゃんと休息を取るだろうと、1つ安心を胸に抱きつつ部屋を後にした。
「(お願い……か。存外馬鹿にはできないものだな。命令に服す軍人のままでは、彼を説き伏せる事は出来なかっただろう)」
未だ、マリューが言う命令とお願いを使い分けた真意は理解できないが、軍人の家門に生まれたナタルの中で絶対であった、“軍人”であることが通用しない事は1つの大きな発見であり、彼女に大きな変化をもたらす事実であった。
「(軍人らしく、正論を並べるだけではどうにもならない事が、ままあるという事なのだろうな)」
軍には厳しく統制するための規範が必要。
でなければ部隊は勝つことも生き残る事も出来ない。
それは根っからの軍人であったナタルの根幹にある格言であった。
個を殺し、群から軍へと。
そうすることで作戦を遂行するに必要な能力を持った部隊が完成する。
だが、今この艦の行く末。その一端を握るタケルへの対処として、必要だったのは個であるタケルに対する個としてのナタルであった。
恐らくこれは、キラに対しても同じだだろう。
なるほど、そう考えればキラに対して自身よりマリューが適するというのも良くわかるというものであった。
ナタルから見ればマリューは情に厚い……言い換えれば人間的で軍人としては甘い。
だからこそ民間人であったキラに対しては自身より寄り添えるだろう。
「(慧眼、だな……軍人であるだけの私では至らなかっただろう)」
ナタルは素直に感嘆した。
そして、今後彼女の補佐として自分にはどんな役割が求められるのかを考える。
思い描く未来。
そこに厳しい軍人であるだけのナタル・バジル―ルはもう、存在していなかった。
いかがでしたか。
こんな話しか書いてない気がするけど
感想よろしくお願いします