世界がヘブンズベースに注目している頃。
オーブ首長国連邦首都オロファトのとある地下施設にて、ある人物達が顔を会わせていた。
「ふむふむ……中々の人物を連れて来てくれたね、アレックス」
まずはユウナ・ロマ・セイラン。オーブの五大氏族セイラン家の跡取り。ついでに言えば、現代表ウナトの息子である。
もう1人はアレックス・ディノ。またの名をアスラン・ザラ。カガリが居ない今、カガリの為になる事として、オーブを護るためにユウナの護衛をしている。
そして対面するは国防軍の軍服を纏う者達。
「トダカ一佐に、ソガ一佐。君達も来てくれて感謝するよ」
トダカとソガ。両名とも、カガリへの信奉が篤い優秀な軍人である。
そして──
「ユウナ・ロマ・セイラン。まさか貴方が反抗勢力の1人とは思わなかったですよ」
タツキ・マシマ。五大氏族マシマ家の現当主である。
「僕もまさか、貴方がこちら側に来るとは思わなかったけどね」
「ホムラ様から聞き及んだのですよ。アスハ元代表がいずれ戻られると。貴方に言うのも気が引けるが、ウナト・エマ・セイランは代表の器ではない。直ぐに取って代えられるだろうと見限ったまでです」
「それでも、僕達にとってはありがたいけどね。
さて、今日ここに来てもらったのは他でもない。今聞いた様に、もうすぐカガリが帰ってくるんだ。いやー、カガリの為にこれだけ必死に頑張ったんだから、きっとキスの1つくらいは僕にくれるだろうね。1つかなぁ、2つかもしれないなぁ。あぁっ! もう想像するだけで昂ってきちゃ──ふべっ!?」
酷く鈍い音と共にユウナが沈んだ。
背後にはどこから取り出したかわからないが、ハンドガンを片手にユウナを沈めたであろうアスランの姿があった。
まさか銃床でぶっ叩いたのか……軍人で在るトダカとソガの2人は血の気が引いたが、もぞもぞと動き出すユウナを見て表情を戻した。
「痛いなぁアレックス。そんなに僕がキスしてもらうのが羨ましいのかい?」
「話を進めろ。お前の戯言を聞かせるために苦労してここへ集めたわけじゃないぞ」
彼にしては珍しく、随分とドスの利いた声である。
若干ちびりそうになりながらも、ユウナは薄ら笑いだけは残してウンウンと頷いた。
「トダカ一佐。ソガ一佐。国防軍を動かしてカガリの帰還と同時に安全な場所へと避難させたい。
彼女はモルゲンレーテの秘密ドックから隠し通路を使ってタケル・アマノ元国防三佐の自宅跡地へと出る。そこからオロファトの政府要人用地下シェルターに入ってもらう予定だ────護衛と露払いの計画を立案してくれたまえ」
護衛と露払い。つまりは到着したカガリの足取りを追われない様、徹底して秘匿する様にしろという事だ。
「了解しました」
「直ぐに取りかかります」
敬礼1つ返して話を終える。淡々としたやり取りにユウナは少しだけ気分が良くなった。
「さて、タツキ・マシマ。貴方については僕の代わりに動いてもらいたい」
「具体的には?」
「カガリが戻ってから、機を見て代表を挿げ替える。当然ながら首長達を懐柔する必要があるだろう。こちら側についてくれる首長を集めて欲しい。僕は表向きには父上寄りだからね」
「そう言う事ですか。過半数を手に入れろと?」
「ある程度で良いさ。どの道カガリならこの世界情勢に鶴の一声で首長達をまとめてくれると信じてる」
「だったら私は要らないでしょう?」
「万全を期したいんだよ。カガリが代表に戻れなかったら洒落にならないし」
「わかりました。ですが、見返りは求めさせてもらいますよ」
「できる限りを僕が図らうさ────勿論、カガリにもちゃんと」
「良いでしょう、期待します」
話が付いたところで、ユウナはアスランへと向き直った。
「どうだい、アレックス?」
「俺から言う事など何もないさ。強いて言うなら、危なくないか、だ」
何が、とは言わなくても分かった。
大々的に動き始めるのだ。否が応でも目に付く。
ユウナの動きが露見すればすぐさま命を狙われるだろう。
「心配ならしっかり守ってくれよ、アレックス」
「それが今の俺にできる事……か」
「そういうこと」
相変わらずの軽い口調に、苛立ちを感じながらアスランは頷いた。
世界が大きく動き出そうとしている中、着々と準備は進んでいく。
沈黙が続くヘブンズベース。
回答期限の刻限までは残り2時間を切っていた。
洋上に居並ぶ同盟軍にも緊張が漂い始めている。皆……誰もが、その時が来たら戦闘が始まる事を予見していた。
「全軍、配備完了しました」
薄暗い指令室で、オペレーターの声が届く。
ヘブンズベース基地司令官は、横に居るジブリールへと目を向ける。
「準備は、整ったようで」
「よし。では始めましょう」
「だが……本当に?」
返答は今だ無し。僅かな可能性に掛けて、まだ対話の道を残している同盟軍に対して不意打ちの先制攻撃……司令官である彼としては、些か気が引ける話であった。
「何を怖気づいているのです? 先手必勝と言うでしょう。どうせ戦うのです。向こうは追い込んだつもりかもしれないが、実際はそうでは無いのだから」
確かにそれもそうだ。
どの道戦うつもりであり、勝利は集ってきた敵勢力を討ち滅ぼすことでのみ手に入る。
躊躇する意味は、戦術的には無いだろう。決着は全面降伏か全面衝突以外ではあり得ないのだから。
「──では、全軍攻撃開始!」
司令官の号令と共に、基地迎撃設備から一斉にミサイルが放たれる。同様に、湾内に並ぶ護衛艦群からもミサイルが打ち上げられていく。
タイミングを合わせて放たれたミサイルは、正に膨大な数であった。
世界の命運を賭けたヘブンズベース攻防戦が、今ここに開始された。
「敵軍、ミサイル発射!!」
ミネルバで、一早くその動きを察知したのは索敵担当のバート・ハイム。
「なっ!?」
「なんだと!?」
降り注ぐミサイルの雨が、前線艦隊に直撃して炎を上げていく。
旗艦であり、デュランダルが搭乗するミネルバは指揮艦として後方に居た為被害は無いが、いきなりの攻撃に同盟軍にはそれ相応の被害と混乱を招いていた。
「続けてMS,MA群に動きあり! 攻撃、開始されました!」
「そんな、未だ何の回答も!」
慌てながらも同盟軍艦隊は次々と戦闘態勢へと移っていき、ミネルバの艦橋は一気に慌ただしくなった。
「次なる手だ────デストロイを出せ!」
更に、混乱の途にある同盟軍の隙を逃さずジブリールは指示を下していく。
ユーラシア西地域を灰燼と化したあの巨大兵器デストロイを、ヘブンズベースでは複数保有していたのだ。
『生体CPU、α、β、γ接続。リンケージ同調率92%。システムオールグリーン』
『X1デストロイ、発進スタンバイ』
乗せられるは悪魔の研究の成果。専用調整されたエクステンデッドの少年達が3人。
先のベルリンでのデータを加えて、より高度に接続調整された、正にこの機体の為だけの生体CPUである。
「デストロイ、発進します」
無機質な声と共に、戦場に暴威の化身が姿を現した。
姿を現した黒灰の機体。デュランダルの声明の中にも映されていた暴威の化身の姿に、同盟軍は揺れた。
取り分け、その脅威を目の当たりにし、どうにか破壊する事に成功したミネルバの面々は、目の前の現実が信じられないでいた。
「あっ、あれは……」
「同型機、5機確認!」
「えぇっ!? あれが5機!?」
議長や周囲の将官達が居る前で情けない声を挙げるアーサーを、本来であれば叱りつけたいところであるがタリアにもその余裕はなかった。
アークエンジェルとフリーダム。第三勢力であった彼等とも協力して漸く討ち取れたアレが5機。その脅威はもはや想像がつかない。
「敵機、攻撃態勢!」
身構える。
同盟軍全軍が脅威を認識しながらも動けないでいる中、それは放たれた。
MA形態のデストロイが背負う巨大な砲塔アウフプラール・ドライツェーンが、5機のデストロイから一斉に放たれた、洋上にいる同盟軍艦隊を薙ぎ払う。
その埒外な攻撃範囲に、後に残されるものは数える程であった。
僅か一撃で、同盟軍は多くの戦力を失ってしまう。
「何という事だ! ジブリール!」
非道────その言葉が過り、デュランダルは声を荒げた。
回答もなく不意打ち。更には、巨大兵器による殲滅攻撃。穏健を謳おうとも決して見過ごせるはずのない所業である。
「議長、これでは……」
「あぁ、わかっている。やむを得ん。我等も直ちに戦闘を開始する────タリア」
「はい。コンディションレッド発令! 総対戦用意!」
ミネルバが動き出すと共に。
ヘブンズベース攻略作戦オペレーション・“ラグナロク”が発令された。
指令は空を超えて、宇宙へと────軌道上へと飛ばされた。
軌道上に待機していた、ザフトのMS降下部隊。
宇宙に拠点を置くザフトの最大の利点である、軌道上からの降下攻撃。
基地防衛戦となるロゴス側からすると、洋上と軌道上からの2面攻撃は苦しい展開となるだろう。
まずはこれで、出鼻を挫かれた戦況をひっくり返すつもりのようだ。
予定通りに、降下部隊は大気圏へと突入していく。
「直上にザフト軍降下ポット現出! ルート26から31に展開!」
正に直上。狙われれば最も苦しいルートから降りて来るザフト降下部隊を確認して、ジブリールはほくそ笑んだ。
「ふはははは!! 糾弾も良い、理想も良い。だが、全ては勝たねば意味がないということだ!」
「予定通りだな。“ニーベルング”発射用意!」
最も狙われたくないルート。それは逆を言えば、最も警戒していると言える。
明け透けにされている急所を、守らない道理があることか。
指示と共に、ヘブンズベースに聳え立つ小さな山が開かれていく。偽装シャッターとなっていた山から顔を覗かせるのは直径10kmに及ぶパラボラ状の併設ミラーブロックだ。
「なんで?」
「山の中に、巨大なミラーが……」
降下部隊がその動きに気が付いた時には、もう遅かった。
中心部のアンテナより無数のレーザーが無造作に放たれる。それをミラーブロックが受け乱反射し上方へと拡散。
ヘブンズベースの空を埋め尽くす様な無数の閃光が、降下部隊の全てを蜂の巣へと変えていく。
光の中に呑み込まれて、降下部隊はあっけなく、アイスランドの空に散った。
「──降下部隊、消滅」
バートの声で我にかえり、デュランダルは自失していたのだと気が付いた。
「何と言うものを、ロゴスめ!」
傍らで控えるザフトの将官達は口々に呪詛を吐き出していく。
あれは正に大量破壊兵器。その範囲、射程、その他様々が通常の兵器とは一線を画すだろう。
人としての倫理────抑えが利いてない動きを、同盟軍に予感させた。
「タリア、ここで負けるわけにはいかなくなった。何としてもヘブンズベースを制圧し、あれを破壊しなくてはならない」
「承知しております──アビー、MS隊の発進を。シン達を出して!」
「は、はい!」
タリアは、メイリン・ホークに代わり補充されたオペレーター、アビー・ウィンザーへと指示を下す。
漸く、ミネルバMS隊に発進命令が下された。
『シン・アスカ、デスティニー発進スタンバイ。全システムの軌道を確認しました。発進シークエンスを開始します』
カタパルトへと運ばれていくデスティニーのコクピットの中で、シンはその身を震わせていた。
武者震いというやつだろうか。問答無用のふざけた先制攻撃から始まり、大量破壊兵器による降下部隊の撃破。
こんな事は許しておけないと、以前の自身なら怒りに狂っていた事だろう。
だが、今は違う。
誓ったのだ────もう二度と、戦う意味を違えないと。
守ると決めた。喪わないと決めた。
自分が敵を討つのは、不条理に晒されて大切な人を喪わない為だ。
こんな事は許せないと。間違っているのだと。敵に意識を向けても、湧いてくるのは怒りだけなのだ。
怒りでは何も守れない事を、シン・アスカは身を以て知っている。
故に意識を向けるのは自分だけ────戦う理由は胸の内にある。
自身の想いに準じて戦えと、彼女はあの日教えてくれた。
『シン・アスカ』
「──議長」
ふと、コクピットに飛び込んでくる通信。
真剣なまなざしを向けてくるプラント最強評議会議長の顔がそこにあった。
『出撃前に伝えさせてくれないか?』
「あっ、はい!」
激励だとわかり、シンは素直な気持ちで返した。
『状況はいきなり劣勢だ。厳しい戦いとなるだろう』
「はい、わかっています」
『プレッシャーを掛けるつもりは無いがね。それでも私は、君とデスティニーならこの状況を打破できると確信している。君に託されたその機体は、どんな苦境も跳ね除け、我々の運命を切り拓いてくれる剣だ』
隣から、余計なプレッシャーをかけるなと窘めるタリアの声が聞こえてくる中、シンは胸の奥で確かに脈打つ気持ちがあることを自覚していく。
ずっと抱いていた不安──変われない自分。守れない自分。弱いままの自分。
かけられた言葉が。双肩に乗せられた期待が。弱い己を否定してくれた。
“君は強くなったんだ、シン・アスカ”
初めて認めてくれた彼と同じように。今自分は、世界を束ねようとしている議長に認められ、期待されているのだ。
『見せてくれ。君が見せる可能性を。君が切り拓くこの世界の運命を。君が手にした、覚悟と力を』
「──はい!」
それ以上の言葉は要らなかった。
覚悟を決める。己の存在、その全てを掛けて、この機体を託された意味を証明して見せると。
『ハッチ解放。射出システムのエンゲージを確認しました。カタパルトオンライン射出推力正常────進路クリア。デスティニー、発進どうぞ』
「シン・アスカ────デスティニー、行きます!」
紅蓮の大翼をはためかせ、運命を冠する剣が戦場へと飛び出した。
『続いてレジェンド発進、どうぞ』
「レイ・ザ・バレル────レジェンド、発進する!」
続くようにレイの駆るレジェンドが。
『コアスプレンダー発進、どうぞ』
「ルナマリア・ホーク────コアスプレンダー、行くわよ!」
中央カタパルトより、ルナマリアのコアスプレンダーも飛び出していく。
『グフイグナイテッド。ハイネ機、ミゲル機。発進どうぞ』
「ハイネ・ヴェステンフルス────グフ、行くぜ!」
「ミゲル・アイマン────グフ、行くぞ!」
FAITH2人が駆るグフも、目立つパーソナルカラーを見せつけて戦場へと飛び出した。
こうしてヘブンズベース攻略戦は、熾烈な全面衝突へと突入していく。
「──始まったか」
ファクトリーの一室で戦況を見守る一同。
タケルとラクスは勿論の事、バルトフェルドにアイシャ、エリカも居る。検査を終えたステラ達と並んで、ユリスも同じ様にヘブンズベースで行われている大規模な戦闘を見守っていた。
誇張抜きに、世界の行く末を決める戦いと言えるだろう。
世界にとって不倶戴天の敵となったロゴスと、その存在を許さないと立ち上がった世界中の有志達が集う同盟軍の戦いだ。
動いている兵器の数だけでも、これまでの小さな小競り合いとは隔絶される規模の戦闘である。
「どう見る、少年?」
「何ともです。正攻法では同盟軍の方が有利だと思いますが、ロゴス側は他にも何か切り札がありそうですし」
「さっきは嫌なものを見せられちゃった。2年前を思い出すわ」
アイシャの声に、タケル達は顔を顰めた。
デュランダルはメディアにこの戦闘映像を率先して流している。そうすることで民衆の興味と信奉を集めて、世界中にロゴス討伐の様を見せつけるつもりなのだろう。
お陰で、戦況は逐次観測することができるわけだが、先程放たれたニーベルングの光は嘗てのジェネシスを思わせる光景で、思わず彼等は身を震わせていた。
「先程ユリスさんが申しました様に、核の用意もあると考えますか?」
「無いとは言い切れないよ。平然とあれを撃ってきたのがその証左だ」
「元々がコーディネーター滅ぶべしって叫んでる連中よ。あれくらいの兵器じゃ、撃つ事に良心の呵責は生まれないわ」
「ホント、たまらんね全く」
いつ聞いても。何度聞いても、狂ってるとしか言えない思想だ。
こんなものを見せつけられれば、確かにデュランダルの言う通りロゴスを討つべしと叫びたくなるだろう。
それで平和になると信じ切ってしまうだろう。
考えれば考える程、やはりこの状況は彼の掌の上の様な気がしていた。
「ラクス、エリカさん。開発中の機体の進捗はどうですか?」
タケルはモニターから視線を外して、2人へと投げかけた。
ラクスが言う様に、ヘブンズベースでの事が終われば、どっちに転んでもオーブは次なる戦火に巻き込まれるだろう。
ヘブンズベースが世界の行く末を決める程の戦いだとしても、これで決着とはならない。
嘗ての連合とプラントの大戦の様に、敗北し助けを求めてか、勝利し次なる標的と定められてか。
いずれにしても、小さな島国には不釣り合いな軍事力を持つオーブを、放ってはおけなくなる。
本当に2年前と同じような状況であった。彼等には戦う力が必要なのだ。
「フリーダムとジャスティスは、タケルの協力のお陰で完成しています。できればキラとアスランを呼んでテストしておきたい所ですが……流石に今の状況ではそれも叶いません」
「アカツキも完成しています。こっちも姫様を呼んでテストしたいけど同じ状況かしらね。ただ……残念だけどシロガネはまだまだです」
「えっ? なんでシロガネだけ……」
タケルは思わず困った様な顔を見せた。
フリーダム、ジャスティス、アカツキまで完成を見ているというのに、何故シロガネだけ未完成。それも口振りから察するに、完成間近でもなさそうな気配であるのか。
「バカね兄さん。忘れたの? 兄さん、1回死んだことになってるでしょ」
「あっ、そっ……か」
思い至って、タケルは納得する様に頷いた。
ついでに周囲の皆も、どこか刺々しい視線と共に何度も頷いていた。
ユリスが言った様に、タケルは一度戦死扱いとなった身。生きてるかもわからないバカの為に機体を開発するバカはいまい。
その分を他3機の完成に注力するとなれば、シロガネの開発が遅れるのは当然の事である。
「あ、あはは……身から出た錆って事ね」
「そもそも、兄さんは勝手に動けないんだからそんな事気にしてんじゃないわよ。ステラ達の治療が済むまでは私の管轄下の筈でしょ」
「それは、そうなんだけど……」
「まだ検査結果も出ていないし治療法だってわかってないんだから、勝手に戦う気にならないでくれる?」
「──ごめん」
逃すつもりは無いと言わんばかりに睨みつけられて、タケルは消沈した。
ラクスと再会し、ステラ達の治療の目処が立ちそうな事実に、少し舞い上がっていた様だ。ついでに直近で技術者として久方ぶりの仕事ができた事も大きいだろう。
だが、彼等の治療は一切進んでいないし、タケルの自由はまだまだ約束されていない。
がっくりと項垂れながらも、自ら選んだ道だと納得してタケルは顔を上げた。
「エリカさん、シロガネはどのくらい進んでます?」
「ちょっと兄さん。今言ったことが理解できなかったのかしら?」
「そうじゃ無いよ。でも、ディザスター1機だけじゃ不安だったのも事実だ。使える札は多い方が良い。今現在何もできないのなら、僕はできる事をするだけだから」
「完成させたとして、私の使いっ走りである兄さんに、その機体を託して貰えるのかしら?」
タケルではなくエリカに向かって、ユリスは問いかけた。
タケル・アマノはオーブを追われた身。既に国防三佐ではなく、更に今は自由に動けない身。
そんな人間に、モルゲンレーテだけでなくファクトリーの技術まで取り込んだシロガネを、好きにさせられるわけが無いだろう。
「そうね、今の彼には渡せないわ」
「でしょうね」
「でも、彼等の治療が済めば彼を解放して貰えるのでしょう?」
「えぇ、そのつもりよ」
「だったら、早いうちに完成させておきたいわね。戻ったらすぐ使える様に」
「戻れる事前提なんですね」
「戻らなかったら承知しないわ」
「あっ、ハイ」
予想外の流れで掛けられたエリカからのプレッシャーに、タケルは縮こまっていく。
どうやら拒否権も、逃走する道もないらしい。無論タケルにそんな気は無いが、迷惑を掛けてる自覚があるだけにエリカの言葉には頭が上がらなかった。
「とりあえずシロガネの進捗だけど、肝心要のバックパックが未完成なのよ。それも全然」
「と言う事は精々5割ってとこですかね」
「3割よ。バックパックもそうだし武装の根幹である新システムもまだ全然」
「3割…………そうですか、わかりました。僕の方でシステム周りはできるだけ仕上げて置きます。メイリン、悪いけど少し手伝ってもらって良い?」
「えっ、それはもちろん良いですけど…………私なんかでお手伝いに?」
「設計データと照らし合わせて計算とシミュレートを手伝って欲しいんだ。僕はシステム構築に集中しちゃうからさ。お願い」
ミネルバにいた頃から、タケルの為にMS隊の訓練データの解析を行なっていた彼女だ。
実績という意味では十分だろう。やっていく内にMSについてもある程度詳しくなっていた実感がメイリンにはあった。
そして、そんな自分の頑張りと成長を知ってくれていたと、思わずメイリンは心が躍った。
「そういう事でしたら……はい、任せてください!」
「ごめん、ありがとね。助かるよ」
「いえ、私もお手伝いできるのは嬉しいですから。それじゃ、行きましょう!」
「う、うん────ラクス、状況が動いたら教えて」
「ふふ、わかりましたわ」
声を上擦らせて喜ぶメイリンを見て、あらあらまぁまぁ、とでも言いたげなラクスの視線をタケルは必死に受け流した。
非常に居心地の悪い視線はユリスやアイシャ、バルトフェルドからも向けられており、タケルは逃げる様にメイリンと共に格納庫へと向かうのだった。
ここからーーいよいよから漸く。
シン・アスカ活躍計画にシフト。いや別にシン・アスカ育成計画も、活躍計画も立案して本作をl描き始めたわけでは無いですけどね。
単純に、本作のオリジナル部分によって原作より良く成長し、活躍できるシンになってるだけです。ハイ
ヘブンズベース戦はここまで原作通りのはずなのに、既に超劣勢な気がしてます。
描いた内容は原作通りなんですけどね……本番はこの後。
死ぬ死ぬ詐欺のせいでシロガネは未完成。まぁそらそうよって感じです。
そして、心踊るメイリンは可愛い。良いね?
感想よろしくお願いします。