機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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終結


PHASE-70 新しき旗

 

 

 

「────何だ、何が起こった」

 

 わけもわからず、ミゲルは呟いた。

 戦場で動きを止めるのは愚かな行いだが、ミゲルと同じ様に誰もが目を奪われ、呆気にとられた。

 

 接近してくるザムザザーに、ブラストインパルスが放った閃光が命中し撃墜。

 ミネルバへの接近を阻んだはずだった。

 

 

「まさか……こんなものまで使って来るのか」

 

 

 想定外の声音がデュランダルより放たれる。その声音は僅かに震え、明らかな戦慄を湛えたものであった。

 

 彼の眼前には、壊滅的な被害を受けた前線艦隊の姿が広がっていたのだ。

 

 

 

 

 クラスター爆弾と言う物がある。

 クラスターとは集団の意味合いを持つ単語であり、クラスター爆弾の意味するところとしては、大型の弾頭の中に無数の子弾を搭載した、集団爆弾という事だ。

 

 ロゴスが用いたのはこれに準ずるものであった。

 ザムザザーの機体底面に取り付けられた小型ユニット。撃墜時の衝撃でユニット内部の大型炸薬を起爆させ内部に詰め込まれた無数の炸薬を飛散させる。

 

 それらは洋上に居並んでいた艦体に降り注ぎ、世界を爆発の渦に包み込んだのだ。

 

 正気の沙汰ではない────同盟軍は戦慄する。

 狙えと言わんばかりの特攻をしてきたのはこれを積んでいたからだ。

 撃墜しなければ当然ながらやられる。だが、撃墜すればその場に甚大な被害をもたらす。最悪は自爆装置と連動している可能性すらあるだろう。

 いわばこれは特攻兵器。命を投げ捨てる前提で最大の戦果を拾う、人を人と思わぬ戦術である。

 

 

「これは、まずいわ……」

 

 ミネルバの艦橋でタリアは慄いた。

 特攻兵器への最も簡単な対策は単純だ。近寄らせなければ良い。遠距離で仕留めてしまえば、逆に自陣であるヘブンズベースを破壊する諸刃の剣となるだろう。

 だが、その最も効果的な対策が陽電子リフレクターによって封じられている。

 仕留めるには……あれらを落とすには、攻撃を掻い潜り接近戦を挑むしかない。

 

 初弾の対応は不幸中の幸いと言えた。ミゲルがリフレクターの発生装置を破壊してルナマリアが遠距離からケルベロスで仕留めたのだ。艦隊に甚大な被害は出たが、撃破の手順としては理想形であっただろう。仕留めたインパルスにも被害はない。

 

 だがここからは別だ。全部が全部同じ手で止められるわけもなければ、敵も対策をして来るだろうし、最悪は自爆がある。迂闊に近寄る事は出来なくなった。

 

 確実にあれを止めるには、自爆されることも念頭におきながら相打ち覚悟で仕留めに行く必要があるのだ。

 

 命を賭けろと。そんな命令を軽々しく下す事は、タリアにはできなかった。

 どこか縋る様にデュランダルを見るも、政治家でしかない彼は、この状況をそこまで深くは読み取れていない。

 

 

『艦長、俺があれを止めます!』

 

 

 飛び込んできた声に、タリアは顔を上げた。

 デスティニーを駆るシンからの通信。嫌な覚悟を決めた顔である。

 

「シン、自分が何を言っているかわかってるの!」

『わかってますよ。あれを止めなきゃヤバいって事も……それが俺にしかできない事も』

 

 冷静に返されてタリアは押し黙る。

 確かに、デスティニーなら理論的には可能だ。ハイパーデュートリオンによって確保される無尽蔵のエネルギーとVPS装甲があれば。仮に至近で自爆されても機体は耐えられるだろう。

 だが、それはあくまで機体はだ。PS装甲は、装甲へのダメージは相転移で無力化できても衝撃までは殺せない。

 至近であれ程の爆発に巻き込まれれば、パイロットへの負荷は甚大だろう。

 

「一歩間違えれば死ぬのよ……」

『死にません。それに俺は、こんなふざけた兵器で皆がやられる方が納得できないです!』

 

 誰かが命を賭して道を切り拓こうと言うのなら……デスティニーはその先を行く。シン・アスカが先に、その道を切り拓く。

 それが託された自らの使命だと、シンは覚悟の瞳を見せていた。

 

「わかったわ……ルナマリアとハイネ達にレイの援護をさせる。貴方は、思う存分に戦いなさい」

『了解!』

 

 

 

 

 通信を終えた瞬間、シンはデスティニーを飛翔させた。

 光の翼が生み出す最大戦速。機体背部を覆う巨大なそれは、MSとして規格外の推力を生み出して、デスティニーを運んだ。

 

「シン、こっちは任せろ」

「頼む!」

 

 デストロイを放置するわけにもいかない。レジェンドに乗るレイが、その場で戦い続けるのを置き去りにして、シンは動き出したクラスター爆弾ユニットを搭載するザムザザーを見つけた。

 

「お前達は……本当に……」

 

 暗い気持ちが持ち上がった。

 ベルリン。離島のラボ。そして今ここでも────命を弄び、奪い、踏み躙る。

 うんざりであった。このような所業を目にするのが。

 我慢ならなかった。こんなこと続ける愚者共が。

 

 そして何よりも────こんな兵器に仲間の命を脅かされるのが許せなかった。

 

 

「ロゴス! これ以上、お前達の存在を…………許すものかぁああ!!」

 

 

 ──種が開いた。

 

 湧きあがる怒りをトリガーに、シン・アスカは自身の願いを叶えるべくその扉を開く。

 二度と失うものか。奪われるものかと。

 理不尽な世界から大切な者を守り、このふざけた戦いに終止符を打つべく、シンのデスティニーは空を駆け抜ける。

 

 放たれる迎撃の砲火を、その超機動で躱して接近。アロンダイトで両断すると同時に、ソリドゥス・フルゴールを最大展開。機体前面を完全に防御し無数の爆発から機体を守る。

 

 予想の通りに、世界は弾けた。

 

「こっ……っのぉお!!」

 

 ビームシールドで防御しようと、機体を襲う衝撃は殺しきれない。

 意識が飛びそうになる感触の中頭を振り、正に気を取り直して次なる標的へと接近。

 2機目の特攻兵器を破壊する。

 

 再び、シンの視界が弾けた。

 

「ぐっ……こんなもんに!」

 

 意識が飛びそうになる衝撃の中、シンは歯を食いしばって耐えた。

 胸中では、嘗めるなと怒りの声が挙がっている。

 シンは既に、コクピットを襲う衝撃には慣れっ子であった。なぜなら彼は、これまでにタケルが駆るエスペラントにもボコボコにされ、タケルが駆るディザスターにも叩きのめされて気絶させられている。

 同じ轍は踏むまいと、踏んだ場数はちょっとやそっとで意識を落とさない強靭な精神をシンに宿らせていた。

 

「うぉおおお!!」

 

 3機目の特攻兵器を両断。

 今度は最大戦速で駆け抜け様に破壊し、起爆される前にシールドを展開しつつ離脱する離れ業を見せつける。

 クラスターユニットが爆発する分には受けざるを得ない。が、機体の爆散によって起爆する場合はタイムラグが発生する。

 極端な話、コクピットだけを貫いて機体を爆散させない様に撃破すれば、自爆もできないし、クラスターの爆散も無い。

 ユニットは起爆しないで終わる。

 流石に敵機の、それもMAのコクピット位置などわかるわけもないので不可能だが、回数を重ねるごとにシンの神経は研ぎ澄まされ、徐々に離脱の仕方が上手くなっていく。

 4機目。5機目と落とすころには、どこか作業的で被弾の衝撃は最初の半分以下と思えるくらいに小さくなっていた。

 

「やれる……これなら!」

 

 

 

 

 

 鬼神の如き活躍を見せるシンの姿が、ミネルバ艦橋にも映し出される。

 光の翼が戦場を縦横無尽に駆け回り、捕捉した特攻兵器を次々と仕留めていく。先程からアビーはミネルバの索敵をフル稼働させ、最優先でシンへと敵位置の管制を続けていた。

 シンが特攻兵器を捕捉する度に、絶対的な確度で戦場に大きな火花が散る。

 

 特攻兵器のせいで傾きかけた勢い、戦いの流れを引き戻し、奮迅する様は同盟軍の皆を惹き付けるものであった。

 自然と、歓声と勢いは伝搬して上がっていく。

 

「凄い! これはまた凄いですよシン!」

 

 はしゃぐアーサーの声を、タリアも窘める気にはならなかった。

 無茶な進言だと捉えていたタリアの予想をはるかに上回る戦果。身を削る作戦だと思った提案は、しかし彼によって完封と呼べるまでの状況を生み出している。

 驚嘆としか言えない活躍であった。

 

 

 そんな歓声の上がる艦橋内で、周囲には悟られぬ様にデュランダルは笑みを深めていった。

 

 開花したのだ────シン・アスカの才覚は。

 抱き続けた絶望を払拭し。迷い続けた道を定め。今、自らの運命を切り開く力に目覚めた。

 

「(本当に感謝させてもらうよ。タケル・アマノにサヤ・アマノ────君たちのお陰で、彼はこうして羽ばたく事ができた)」

 

 クルース・ラウラとヤヨイ・キサラギ。自らの名を捨て、数奇な運命を辿り。彼の傍で導いてくれた2人の兄妹に、デュランダルは心から感謝した。

 タケルは自らの弱さに絶望していたシンの心を救い上げ、ヤヨイは怒りに迷えるシンに戦う意味を見出してくれた。

 

 今この時、シン・アスカが秘められた才覚を発揮できたのは、彼等とのこれまでがあったからだと。デュランダルは心の底から感謝と歓喜に打ち震えた。

 

「議長、彼の頑張りに報いなければなりませんわ────号令を」

「あぁ、そうだな」

 

 掛けられたタリアの声に、議長の仮面で感情を覆い隠した。

 傾きかけた流れを持ち返し、今や同盟軍は勝鬨の声を挙げようとしている。

 ならば、その号令はしがない艦長である彼女よりも、今や時の人となった彼の方が良いだろう。

 タリアの意図を読み取り、デュランダルは頷く。

 

 

「全軍、ヘブンズベースを墜とせ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アークエンジェル内医務室。

 

 カガリとキラを外へと追い出し、サヤとナタルは2人きりで顔を突き合わせていた。

 

 

「改めて名乗らせて欲しい。ナタル・バジルールだ」

「────サヤ・アマノです」

 

 随分と間を開けてから、サヤは返した。

 

 こうなる事は、必然ではあったのだろう。元よりサヤはその可能性を考える事は出来ていた。ルナマリアから、戦後のタケルがどんな様であったのかは聞き及んでいたのだから。

 以前と変わらず、どこか追い詰められた雰囲気はあったが、それでも再会した兄は元気であったのだ。

 誰かしかが、悲しみに墜ちた兄を救い上げてくれていたのだという事は、容易に想像がつく。

 ただ、それを考えないようにして見ないふりをしていただけだった。

 

「カガリとヤマトから、君の事は良く聞かせてもらっている。君の抱いていたタケルへの強い想いも……たくさん」

「そう……ですか。それはさぞ、貴方には滑稽に思えたのでしょうね」

 

 チクリと胸を痛めながら、サヤは自嘲する様に吐き捨てた。

 ナタルはそれを見て、静かに頭を振って返す。

 

「そんな風になど思わないさ。私の想いはきっと、君の足元にも及ばない」

「どういう事でしょう? お兄様を愛してはおられないのですか?」

 

 俄かに剣呑としていくサヤの気配を遮る様に、ナタルは少しだけサヤへと顔を寄せた。

 

「私もまた心の底から彼を愛してはいる。だが私は、先の大戦で彼を傷つけてしまった。全てを擲ってでも彼を助けようとした君からすれば、私の想いなどその程度だったのだと痛感させられるよ」

 

 そう言って、ナタルもまた自嘲の笑みを見せる。

 

 地球連合の士官として、終戦を迎えるまで戦い抜いた事。

 大切な人となった彼女と敵対する事になったタケルには、決して軽くない心の負担を強いていた事だろう。それが、大切な家族を奪った大西洋連邦の所属だというのなら尚更である。

 ナタルは、タケル・アマノにとって仇と言える男の隣に居たのだ。

 

「違います。私は力及ばずに討たれ、お兄様に癒える事のない傷を遺しました。私とて、同じことです」

「それは仕方のない事だ。戦場ではどんなに優秀な人間だって簡単に命を落とす。自らの道を選べた私とは違う」

 

 軍務であったと言えば周りは納得するだろう。ナタル自身も、そう言い聞かせて戦い続けた。

 だがそれでも、残った結果は変わらない。タケルが戦後、どのような状態に至ったかという事実は変わらない。

 彼女がその原因の一端を担っていた事は変わらないのだ。

 

 

 ナタルの言葉に、サヤは親近感を抱いていく。あぁ、この人も自分と同じタイプなのだろうと。

 先程のキラやカガリの態度から察するに、彼女が兄と随分と仲睦まじい事は良くわかる。だがその裏で、彼女はこうして後悔の念を抱えている。

 表には出さず、心配をかけまいと振舞うのは敬愛する兄や自身と似た部分だ。違うのは、それが兄はわかりやすく、自分や彼女は分かりにくいという事だろうか。

 

 共通する、タケルを想う者同士という事を考えれば。サヤとナタルには似通った点が多いと言えた。

 

「聞かせて頂けますか────お兄様は、どのような状態だったのですか?」

 

 恐る恐る。サヤはナタルへと、自身の罪を問い質した。

 戦後の兄を最も苦しませる事実を作り上げた張本人。最愛の兄を傷つけた、最も罪深い行い。

 その結果がどうなり、どう救われたのか。

 サヤはそれを、一番身近で見たはずのナタルの口から聞きたかった。

 

 贖罪する様に問うてくるサヤの覚悟の表情を見て、ナタルも静かに口を開いていく。

 

「私が彼の元を訪ねる事が出来たのは終戦してから4ヵ月を過ぎた頃だ。

 私とタケルは、平和になったら必ず再会しようと約束していた。その約束を頼りに、地球軍を退役した私はオーブを訪れた」

 

 4ヵ月……ナタルの独白から拾った情報にサヤには後悔が募っていく。

 

 ナタルと再会するその時までは、きっとタケルは地獄を見ていたのだろう。4ヵ月と言う期間は、サヤの自責の念を深くするに十分な長さであった。

 

「酷い姿だった。やせ細り、乾いた笑いを浮かべ、空虚な瞳を宿していた。幸い、ラクス嬢やヤマトが傍にいてくれたから大事には至らなかったが…………服の下には自傷の痕もあった」

 

 一言一言に、タケルの苦悩が見える様で、サヤの表情は変わっていく。

 だからこそなのだろう。そこまでの自責の念があったからこそ、オーブを離れてでもタケルはサヤを取り戻すためにザフトへと赴いたのだ。

 

「後からヤマト達に聞いたが、食事もろくに取れず、毎晩を悪夢に魘されていた様だ────本当に、酷い姿だった」

「それで、貴方はお兄様をどうしたのですか?」

 

 そんな姿に付け込んだ……なんてことはあるまい。が、やはりそんな状態の兄をどう救ってくれたのかはサヤにとって興味が尽きないことである。

 ナタルは少しだけその時を思い出して、穏やかな表情を見せた。

 

「強く抱いて、諭した。我慢せず泣いて良いのだと。泣いた先で、また君が頑張る姿を見せてくれと。それができる時まで……いや、これから先は私がずっと傍にいると誓った」

 

 あぁ……と、サヤは嘆息した。もはやあきらめの境地と言えよう。

 

 どこまで似通っているのだろうか。その言葉は嘗て、墜ちかけた兄を救おうとした自身の言葉に瓜二つなのだから。

 ずるい、ともサヤは思った。先にそれを言ったのは自分なのに、と…………でもだからこそ。サヤ・アマノを失った兄には良く効いた言葉だったのだろう。

 

「それで、お兄様は?」

「ひとしきり泣いて。それから、タケルは少しずつ調子を取り戻していったよ。オーブの為にとやるべきことを見据えて、以前のように頑張れるようになってくれた」

 

 あぁ……ずるい。再びサヤの胸中に嫉妬が湧いた。

 徐々に自分を取り戻していく兄。それを目の前の彼女は今と同じ様に穏やかな瞳で見守っていたのだろう────それはずっと、自分だけの特権であったというのに。

 だが同時に、そうして兄を救って見守ってくれた彼女には感謝しかないのも事実。

 何とも言えないもどかしさが、サヤを襲った。

 

「ずるいです」

「すまない」

「いえ、貴方の行いが、という事ではありません」

「──それは、どういう事だろうか?」

 

 横からかすめ取っていった自分に罵詈雑言でも投げかけられるだろうかと覚悟していたナタルは、サヤの返しに首を傾げた。

 

「貴方には感謝しかありません。私が不甲斐ないばかりに傷つけてしまったお兄様を救ってくださったんですから。感謝こそすれ、そこに不躾な感情など挟むことはできません」

「そ、そうか……」

「サヤがずるいと申しましたのは、傷心のお兄様が立ち直っていくまでの様を、貴方が独り占めしたという事」

「はっ?」

 

 何を言われているのかわからず、ナタルはポカンと口を開けた。

 逆にその何を言われてるのかわからないという顔が、サヤの表情を険しくさせる。

 

「お兄様を見守るのはサヤの役目でしたのに……何か映像や写真は残していないのですか?」

「そんなもの、残しているわけないだろう」

「何を言っているのです! お兄様と婚約までなさっているのでしょう。今時男女でのお付き合いをしていたら日々の思い出なりなんなりで、写真の1つくらい残すはずです!」

「い、いや……私もタケルもそう言うタイプでは無いというかだな……」

「あぁ、もう、これだから堅物キャラは困るのです……信じられません! 貴方達は幼年学校の学徒ではないのですよ!」

 

 いっそ変な方向で罵詈雑言を浴びせられそうになってきたナタルは、動けないはずのサヤに気圧されて及び腰となり始めている。

 

「と、とりあえず落ち着いてくれサヤ・アマノ。騒いでは身体に障る」

 

 痛みが走る筈の身体に鞭を打ちそうなサヤの気配に、慌ててナタルは彼女を宥めて抑える。

 流石に初対面の人間に迷惑はかけられない。むっ、と顔を顰めながらサヤは落ち着きを取り戻していった。

 

「────悔しいです、本当に。わが身の至らなさが」

 

 再び静かとなったサヤは、呟く。

 あの日、あの時。力を備えており、戦火に散るような事が無ければ。きっと今胸にある後悔は無かったのだろう。

 失った2年間は、彼女にとってあまりにも大きかった。

 

「婚約……という事は、私もカガリ・ユラ・アスハと同じ様に、貴方をお姉様と呼ぶべきなのでしょうか?」

 

 ふと、サヤはその事実に気が付いた。

 アマノの家の子として、戸籍上タケルの妹となるのはサヤ・アマノである。いっそカガリの方が本来であれば妹ではない。

 なれば、サヤこそがナタルを姉と呼び慕うべき間柄といえよう。

 

「お姉様……か。それは何と言うか、少しこそばゆいのだが……」

「ご安心を、いずれ慣れますわ。何より、こうして戻ってきた今、サヤにお兄様の御傍を離れる理由はありません」

「なっ!? まさか私達の家に転がり込む気か!」

「当然です。お兄様の家とはつまりアマノの家。家元であるお兄様の下にサヤが居るのは必然であり必須です」

 

 残念ながら彼女達は、当の本人がオーブを追放された事を知る由も無かった。

 

「それにわたくし達。良く見ると本当の姉妹の様ではありませんか」

 

 先程まで憔悴していた筈の少女が、ナタルの前で妖しく笑った。笑ったというか、いっそ嗤った。

 

 艶やかな黒髪。凛々しさを秘めるその容姿は、鬼才ユウキの才を受け継いだサヤにも十分に当てはまる。

 軍部に置いて才覚を発揮する女傑としての活躍も同じ。

 タケルが関わるとおかしくなってしまうが、基本的にサヤも自他共に厳しく、品行方正だ。

 

 姉妹だと言われても、何の疑いも無く信じられるくらいには、2人は容姿も内面も似通っている。

 

「た、確かにどことなく似ていると思わなくはないが、だからといって……」

「お姉様、サヤは諦めませんよ。例え今は貴女に分があるとしても……サヤ・アマノは、誰よりもお兄様を愛しております」

 

 挑戦的な声音で、挑戦的な言葉を、サヤはナタルへと叩きつけた。

 たとえ2年の月日がサヤにとって不利に働いたとしても、それで簡単に諦められる程容易い想いなら、サヤはシンやキラにもっと愛想を振りまいているだろう。

 彼女の態度に変化が無いのは、偏にその気持ちが不変であるからに他ならない。

 

「良く覚悟をなさってください。サヤはお姉様に負けるつもりは有りません。この呼び方も、いずれは必要なくなるかもしれませんね」

 

 まだ年若い筈の少女が見せる妖艶な笑みに、ナタルは思わず背筋を震わせた。

 もしや自分は、パンドラの箱を開けてしまったのか。或いは、起こしてはならない獅子を目覚めさせてしまったのかもしれない。

 ギラついた黒曜の瞳を向けてくるサヤに、そんな事を思ってしまった。

 

 だが、何はともあれ胸につっかえていた重石を吐き出せた事もあり、調子を取り戻した様相のサヤに安堵も一入である。

 

 

「ふっ、再会するときが楽しみだな────タケル」

 

 

 漏らした呟きはサヤに届くことなく静かに消えていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵MS、湾内に侵攻!」

「上空より熱源多数!」

「デストロイ5号機大破!」

 

 次々と上がる被害報告。

 ヘブンズベース基地司令官が唇を噛んで、必死に指示を飛ばしていた。

 

「何という事だこれは! デストロイを回せ、攻撃を集中させて押し返すのだ!」

「第二防衛ラインも破られました!」

「なんだと!?」

 

 

 変化していく戦況。司令部が混乱の騒ぎに陥る中、ロード・ジブリールは静かにその姿を消していた。

 

 

 

 

 

 

 

『ミネルバよりインパルスへ。ソードシルエット、射出します』

 

 アビーから届く通信管制に、ルナマリアはインパルスを後退させる。

 そこを埋めるように、ハイネとミゲルが前線へと躍り出た。

 旗艦ミネルバの守備はもう必要ない。背後では縦横無尽に駆け抜ける光の翼が、全ての敵機を叩き落してくれている。

 ヘブンズベースには水中からグーンやゾノ、アッシュが次々と上陸を始め、空中ではバビの部隊が特殊兵装を携え爆撃を開始している。

 

 ギルバート・デュランダルの号令の下、同盟軍は遂にロゴス軍を押し始めていた。

 

 ハイネとミゲルのグフが1機のデストロイに肉薄。デスティニーのアロンダイトの様に両断なんてことは叶わないだろうが、グフでもできる事は多分にあった。

 

「そら墜ちろぉ!」

 

 全ての火線を掻い潜り、至近距離で頭部へとドラウプニルを放つ。メインカメラの破壊はMSにしろMAにしろ致命的な損傷だ。

 続くようにハイネのグフは直上より強襲。テンペストソードで6連装ミサイルポッドを破壊した。

 

 そこへ、ソードシルエットに換装したインパルスが来着。

 

「レイ!」

「あぁ!」

 

 背部レーザー対艦刀エクスカリバー。2本の内1本をレジェンドへと投擲する。

 

「行くぞ!」

「えぇ!」

 

 受け取ったエクスカリバーを構えて、レジェンドが正面から。インパルスが上空より飛来し、ミゲルとハイネが手をかけたデストロイ4号機を強襲する。

 長大なリーチを持つエクスカリバーであれば、デストロイに対して十分な攻撃効果が見込めるだろう。

 レジェンドが胸部のスキュラをを横薙ぎで叩き切り、インパルスは上空からアウフプラール・ドライツェーンの砲塔を切り落とす。

 おまけでリフレクターの発生装置を破壊すれば、残るはレジェンドがドラグーン一斉掃射でデストロイをハチの巣にして見せた。

 

「ナイスよレイ!」

「ルナマリアこそ、大したものじゃないか!」

「嬉しい事言ってくれるじゃない。次、行くわよ!」

「あぁ!」

 

 残るデストロイは1号機と3号機。

 レイとルナマリアは、味方の進軍を援護するべく3号機へと狙いを絞り、機体を走らせた。

 

 

 

 

 

 ミネルバの艦橋で、デュランダルは勝利の喜びを浮かべていた。

 それは目の前の戦況についてもそうだし、全ての特攻兵器を撃ち落として尚衰える事の無い戦いを見せる、シン・アスカの覚醒についてもそうだ。

 

 この戦果を見れば、彼を阻める様なパイロットはそうはいないだろうと思えた。

 

 

「さぁ、終わらせてくれ────シン・アスカ」

 

 

 

 討つべきを討ち果たし前線へと戻ったシンのデスティニーは、最後に残るデストロイを見据えた。

 

「これで……こいつを討てば終わる! 全て!」

 

 繰り返される戦いの世界も。喪うばかりの理不尽な世界も。

 これを討てば漸く、正しく平和な世界へと向かう。

 

 放たれたスーパースキュラをソリドゥス・フルゴールで受け止めると、そのまま正面突破で接近していく。

 切り離されたアームユニットを、肩のフラッシュエッジを1つ投射して破壊。もう1つで陽電子リフレクターの発生装置を破壊する。

 更に、構えた長射程ビーム砲がデストロイの脚部を打ち抜いて態勢を崩させた。

 

 瞬間、デスティニーは吶喊。危なげなく接近するとパルマフィオキーナで頭部メインカメラを破壊。

 即座に機体を翻しアロンダイトを抜剣。ベルリンでの戦闘で、コクピットの位置は割れている。

 

「うぉおおおお!!」

 

 光の翼を羽ばたかせ一直線に突撃し、デストロイのコクピットへと突き立てた。

 

 最後に残ったデストロイ1号機も、遂に戦場に倒れるのだった。

 

 

 

 

「イワノ隊より入電。敵司令部に白旗を確認。敵軍、戦闘の意思無き模様です」

 

 

 

 

 

 こうして、ヘブンズベース攻略戦は幕を閉じた。

 多くの被害を出しながらも同盟軍は勝利し、ロゴス主要メンバーのその大半を拿捕。

 連合・ザフト両陣営の下、国際裁判に掛けられる事となる。

 

 

 しかし、捕らえられたロゴスメンバーの中に彼、ロード・ジブリールだけは、影も形も見当たらず。

 

 世界は次なる混迷へと向かい、動き出そうとしていた。

 

 

 




クラスター爆弾が禁止されてるかは知らない。
ただ、自爆兵器でクラスター爆弾背負ってて、リフレクター持ちとか厄介すぎると思って考えました。

遂に、シン・アスカ爆誕。
言うてデスティニー弱いやん、とか言わせないです。本作のシンならきっとやばい強いですから。

そしてアークエンジェルでは新たな戦いがなりを潜める。
でも、サヤとナタルは割と似たもの同士。今後がどうなることやら。


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