ファクトリー内の工廠では、今日も今日とて騒がしく作業が進む。
ロールアウト間近で最終調整を進めているフリーダムとジャスティス。それとアカツキ。
その他にもファクトリーが開発してきた新進気鋭のMSが3機。こちらもロールアウトに向けて急ピッチで作業が進められている。
そんな工廠の一角で、タケル・アマノは黙々とシロガネの新たな兵装システムの構築を進めていた。
コクピット付近に上げられたリフターの上で、端末を目の前にして。キーボードを叩く音は忙しなく鳴り続ける。とは言っても、周囲の喧騒でそれは耳に届くようなものではない。
隣には、お目付け役としてメイリン・ホークが待機中である。時々システム構築の手伝いもさせてもらえて、存外本人は楽しげだ。
「あの~、タケルさん」
何とも無しに、メイリンは声をかけた。
その視線は目の前にそびえるシロガネではなく、その隣のMSハンガーにかけられている機体に向いている。
「ん? 何、メイリン」
「シロガネの隣にある機体って、確かオーブの量産機ですよね?」
「えっ、あぁ……そうだね。ORB-02機体名はアストレイ-
「えっと、何でカゼキリなんですか?」
至極当然の疑問が、メイリンから挙がった。機体名がちゃんと定まっている中、所謂俗称とされる呼称で呼ばれるのは何故か。
あぁ、それかと言った様子で、タケルは端末から手を離すとカゼキリを見上げた。
「カゼキリがロールアウトした時は、前量産機のアストレイがまだ現役だったからね。元々、M1アストレイもM2アストレイも、呼称はM1かM2。或いはアストレイとひっくるめて呼ばれたりと凄く雑だったんだ。それで、カゼキリの名称はアストレイ-A。呼称にアストレイを使うのは面倒だろうって話が出て、でもエリアルって呼ぶのは面白くないって開発局で揉めてね。それで、カゼキリの設計思想は僕のシロガネから持ってきている事もあって、風を斬る空戦MS、っていう意味合いからカゼキリの呼称を設けたんだ」
「へぇ~、開発裏話というやつですか」
「まぁ、そんなところかな。実際には開発後に出た話だけど」
「凄い機体ですよね。ダーダネルスではインパルスやセイバーとも渡り合ってて」
「性能的にはセカンドステージの少し下かな。ザクでは相手にならないだろうし、グフでも汎用性の点から劣るだろうね。量産機としては破格の性能を自負してるよ」
またもへぇ~と感嘆の声を挙げながら、メイリンはカゼキリを見上げた。
シャープなフォルムは、丸みのある機体が多いザフトの量産機とは随分と意匠が違う。
ザクを見れば分かるが、機体重量は重く、脚部を大きくすることで重心を人より低くしている。射撃時の安定性を考慮してだろう。
それに対してカゼキリは、空戦MSとして胴体部分に重量を集めた、より人に近い重量設計をしている。
重心を胴体に寄せる事で、バックパックに因る推進力を無駄なく機体に伝える事ができ、空戦MSとしては理想形に近い形状をしているだろう。
「ふふ、シロガネもそうですけど、やっぱり細身の機体の方がカッコいいですよね」
空戦MSと言っても、セイバーはやはりザフト製の重量感があるデザインだった。エスペラントも同様である。シャープと言えばインパルスだが、そのインパルスよりも細身のデザインのカゼキリが、メイリンには好ましく見えた。
そんなメイリンの言葉に、タケルは思わず同志を得たと顔を輝かせる。
「あっ、分かってくれる? そうだよねやっぱり。アーモリーワンでザクに乗ったし、その後はエスペラントも使わせてもらったけどさ……議長には悪いけど、やっぱり僕には合わないよ。この感覚は、きっと政治家には分からないだろうね」
「それはまぁ。そんな事気にしない人達でしょうから────あっ、それじゃあっちの機体は何なんですか?」
カゼキリから視線を戻そうとしたところで、更に隣の機体が目に入り、メイリンはまた問いかけた。
シロガネの隣の、更に隣。カゼキリを挟んで位置するハンガーには、深い夜を思わせる黒青が聳え立つ。
呼ばれて視線を向けたタケルは、僅かに首を傾げた。
「んっと……何だろう。まだ開発途中っぽいけど……僕の記憶の中では思い当たらないかな。ファクトリーの機体かもしれないね────あっ、エリカさん! すいません!」
階下を歩ていくエリカが目に入り、タケルは呼び止めた。
「あら、アマノ三佐。どうしました?」
「カゼキリの隣にある機体って、どこの機体でしょうか?」
「えっ?」
どこか不思議そうに、エリカは驚いた表情を見せた。
タケルとメイリンは、話しやすい様にとリフターを動かしエリカの元へと降りていく。
「どこの機体って……ウチの機体ですよ。と言うか、あれも貴方の設計データから作ったものですけど?」
「えっ? おかしいな……僕、覚えが無いんですけど」
「何を言ってるんですか。あの機体はサヤちゃんの専用機として貴方が設計したものじゃないですか」
「サヤの? という事は…………もしかしてあれは“シンゲツ”ですか?」
「えぇ、ORB-12シンゲツ。貴方が残したサヤちゃんの専用ハイエンド機よ」
ORB-12シンゲツ。
2年前にタケルが設計コンセプトと本体設計だけを整えて、以降は全くの手付かずとなった、言うなれば幻の機体。
手付かずとなった理由は勿論、サヤ・アマノが戦死したからであった。タケルとしては、触れる事も憚れるデータだ。
「でもあれは、殆ど手付かずのままで……」
「そうね。だから、貴方が途中でやめてしまった設計データをここで仕上げたのよ。ファクトリーの技術者と一緒にね」
なるほど。だからか、自分が目にしても思い出せなかったのは。と、タケルは納得した。
機体の随所にはORBとZGMF……オーブとザフトの系譜が見え隠れする。合いの子というやつだ。オーブ謹製の機体ではない。
そもそも設計データも基礎設計だけだ。こうして実物となれば図面より変化する事は多々あるだろう。気がつけないのも無理はない話だ。
「サヤちゃんの能力を考えればいずれ必要になる。だから貴方は設計に着手してたのでしょう? そして、彼女は生きていた。なら、開発しておくべきだと考えたわ」
「ですが、サヤは今記憶を──」
「あぁああああああ!!!」
突然。大きな、それは大きな叫びがメイリン・ホークから挙がった。
格納庫中に響き渡り、何事だとスタッフたちが顔を覗かせる。思わず、メイリンは羞恥に顔を染め、タケルの背へと隠れた。
「ど、どうしたのメイリン? 急にとんでもない声を挙げて」
「何か、気になる事でもありましたか?」
タケルとエリカが心配そうに顔を覗き込む中、メイリンはどこかおずおずと言った様子で口を開いていく。
「その……タケルさん、ごめんなさい!」
びしっ! と、効果音が付きそうな見事なお辞儀と共に、メイリンは全力のごめんなさいを敢行した。
一応は元軍人。その姿勢はとても力強いものである。
対してタケルは、訳も分からず面食らった。
「えっと……何か僕謝られる様な事されたかな? 色々手伝ってもらってるし、お礼を言いたいくらいだよ?」
「違うんです! 私…………色々と目まぐるしくて忘れちゃってて。本当なら、直ぐお伝えすべきだったのに」
「えぇ……何か怖いんだけど」
一体何を告げられるのか。メイリンの様子に、タケルもエリカもどこか身構えた。
そんな2人の様子に一度息を呑んでから、メイリンは告げる。
忘れていた────大切な事実を。
「タケルさん。ダーダネルスの戦いの後で、ヤヨイは記憶が戻ったんです」
告げられた言葉に、格納庫は再び大きな絶叫に包まれるのだった。
ヘブンズベースでの戦いは終わった。
巨大な組織となっていた軍需産業複合体ロゴスは、その構成メンバーのほとんどが捕えられ事実上の解体。
世界に多大な影響力を与えられる者達の一斉摘発に、地球圏では混乱が巻き起こる事を危惧されていたが、戦闘終結後すぐにデュランダルは動いた。
同盟を結んでいたユーラシア連邦。ボルト・ミュラーを前面に押し出し、連合の新たな指導者として彼を支援すると公表したのだ。
当然ながら、ユーラシアにおいてもロゴスの影響は大きかった。それらが居なくなった今、混乱と同時に改革の時ともいえよう。
ロゴスに支配されていた体勢からの脱却を掲げ、世界は動き始めていた。
ヘブンズベース基地の後処理を進めていくザフト軍。
旗艦ミネルバも、まだ戦域に留まりクルー達は休息に入っていた。
「そんな、ジブリールがいない!?」
「えぇ、なんでよ!」
休憩エリアで、シンとルナマリアは驚きの声を挙げた。
激戦に疲労も一入。特にシンはぐったりしていた所に、レイから告げられたのは拿捕されたロゴスメンバーの中に、ブルーコスモスの盟主ロード・ジブリールが居ないという事実であった。
その驚きは大きい。
「なんで、そんな事に」
「基地が降伏する前に、1人だけこっそりと逃げたらしい」
「全くなぁ、他のロゴスメンバーを全部見捨ててとは、恐れ入るぜその身勝手さにはよ」
ハイネもまた、シンと同様にはっきりと侮蔑の色を表していた。
正しく裏切り。戦友を大事にする彼にとって、仲間を見捨てるジブリールの行いは許せるものでは無いのだろう。
「あれ、そう言えば…………ねぇ、ハイネ。アイマンさんは?」
「ん? あぁ、ミゲルは議長と一緒にジブラルタルに帰還予定だ。戦闘自体は、恐らくもうないだろうからな。本来の任務に戻るんだと」
「えぇ~。折角一緒に戦えたんだし、もう少しお話とかしたかったなぁ……」
憧れの人物との共闘。
先の戦闘では、背中を押されて随分と意気が上がったものであった。
その礼もまだだというのに、あっさりと離れ離れになってしまった事実に、ルナマリアは酷く残念そうである。
「どうでも良いけど、お前ってなんでそんなミゲルにお熱なんだ? そりゃあ優秀だし、気さくなタイプだからわからんでもないけどよ」
「確かにな。一体何がルナマリアをそれほど惹きつけるんだ」
「そりゃあだって、アイマンさんは2年前にアマノ──」
アマノ三佐が乗ってたアストレイを仕留めた人ですよ!
そう言いかけて、ルナマリアは固まった。危ない所である。ミネルバで初めて会った時に固く口止めされていた話だ。
実際、連合の戦艦にオーブの軍人が乗って共に戦っていたなど、過去の話とは言え簡単に流せる事では無いだろう。
こんなところで、その秘密を暴露するのは如何なものかと、ルナマリアは必死に回ろうとした舌を抑え込んだ。
「……アマノ? ルナ、それって」
「あっ、あ、天邪鬼な性格だったらしいのよ! あの気さくで達観した大人っぽい中に、ちょっと子供っぽい意地っ張りなところがあるのなんて、もぅ最高でしょ」
窮地を脱してみせる。良くもまぁどうにかしたものだ。生意気坊主に生意気娘がミネルバ艦内を跋扈していたおかげで、彼女のトークセンスは磨かれていた様である。
「お、おぅ……」
「アマノ……ジャク? なんだそれ?」
思わぬ勢いにハイネは若干引いている。シンとレイは聞き慣れぬ単語に首を傾げた。
「シン、あんたオーブに住んでたのに知らないの? 天邪鬼っていうのはオーブに伝わる妖怪の類で、ひねくれものな鬼なんだって。それにちなんで、オーブではひねくれた性格の子を天邪鬼と言うらしいわよ」
「へ~、初めて聞いた」
「それならいっそ、シンこそが天邪鬼かもな」
「は、はぁ!? レイなんだよそれ!」
騒ぎ出すシンを見て、どうにか窮地を脱したとルナマリアは安堵の息を漏らす。
流石はシン・アスカである。覚悟を決めようと、その才能を覚醒させようと、沸点が低いのは変わらないらしい。
「おいおい、皆疲れてんだからこんな所で騒ぐんじゃねえよシン。つーかお前何でそんな元気なんだよ。一番疲れてるはずだろ?」
「えっ? 何でだよハイネ」
「いやお前、何でだよって……一番戦場を駆け回ってたじゃねえか」
「別に、デスティニーの機動力が高いから駆けずり回ってただけで、俺が自分の足で飛び回ってたわけじゃないし……」
「だとしても、あんな自爆紛いの戦闘だってしてただろ。全く、あれで良く意識飛ばなかったよな」
「ホントよねぇ。私だったら最初の1発で墜ちてたわよ」
「同感だな。お陰で勝利に繋がったとは言え、無茶をしたものだ」
少しだけ、視線が険しくなる皆の様子に、シンはタジタジとなった。
心配の裏返しだという事は分かる。レイが言ったようにかなりの無茶な戦い方であったのだから。
でもあの時のシンは、それができると信じて疑わなかったし、事実やり遂げた。
いっそ撃墜する度に無駄が削ぎ落されていく己の戦いは気分が良いものだったと記憶している。
「いや、別に俺……無茶とかしてないし。あんな衝撃、隊長のエスペラントに墜とされ────まくった訓練に比べたら、よっぽどマシだったよ」
間一髪。インド洋での出来事を口走ろうとする寸前で、シンも危機を回避した。
あの一件はタケルのおかげで表沙汰にならず、映像記録も残っていない。仮にあの事が明るみに出れば、独断専行に命令違反。更に上官殺しまでついてくる軍規違反のフルコースだ。
シンを対ロゴスの英雄に仕立て上げようとしているデュランダルが、知れば、絶望と共に頭を抱えるだろう。
「よっぽどマシって……クルースの奴、どんだけヤバい訓練してたんだよ」
「あ、あはは、本当あの時はひどかったんだよなぁー(隊長……すいません!)」
恩師と呼べる人間に悪い風評を垂れ流したシンは、胸中で平謝りするしかなかった。
「はぁ……それにしても、ジブリールが捕まらなかったんじゃ、この後どうなるのかしらね」
「さぁな。だが、このままで終わりはしないだろう」
「だったら、次こそは…………俺が絶対に」
拳を握るシンに習う様に、戦意をあらわにする3人。
戦勝の後でも、彼等に油断は無い。いっそ、次なる戦いにもう目を向けている。
「(ホント、逞しくなっちまったな……)」
いつの間にか頼りがいのある姿を見せる彼等に、ハイネは小さく笑みをこぼすのだった。
騒がしい絶叫に格納庫が静寂に包まれる中。
タケルは、目を見開いて身体を震わせていた。
「──メイリン」
「えっ、きゃっ!?」
がしっ、と両の肩を掴まれメイリンは小さな悲鳴を挙げる。
「それ……本当にっ!?」
「えっ、あ、その」
簡単には信じられない事なのだろう。
少なくともタケルがミネルバにいた間は、その予兆をはっきりと感じられることは無かった。
このまま戻らないのではと不安だったことは間違いが無い。
故に、メイリンの言葉が信じ切れず、どこか問い詰める様な勢いになってしまっていた。
「メイリン、本当に──」
「本当ですわ」
メイリンが気圧されて言葉を発せないでいる中、横合いから飛び込んでくる声。
タケルが目を向ければ、ラクスが歩いてくるのが見える。
「──ラクス」
「ほら、メイリンさんが怯えていますよ、タケル」
「えっ? あっ、ごめんメイリン! つい、勢い余っちゃって」
慌ててメイリンの肩から手を放したタケルは、自身の行いを顧みて謝罪を溢した。
「驚きなのはわかりますが、痛い思いをさせてはいけませんわ」
「うん……本当に、ゴメンね」
「い、いえ……大丈夫です」
メイリンとしてはいっそ、真剣な表情で顔を近づけられてドキドキしていたのは内緒だ。
混乱はむしろ、そっちの方が強かったと言えるだろう。
「それでラクス……ラクスもこの事を知ってたの?」
割り込んで来た時の言葉から、彼女も知っていたのだとわかり、タケルはラクスに対してどこか咎める様な視線を向ける。
そんなタケルの視線を受けても、ラクスはむしろ微笑みを深めるばかりだ。
「知っていた、ではありませんね。私も先程聞きました」
「どういう事?」
「アークエンジェルから連絡があったのです──サヤ・アマノを保護したと。
どうやら記憶を取り戻し、ザフトから脱走してきたみたいで。多少怪我をしているみたいですが、命に別状は無く、元気だそうです」
「そう、なんだ……良かった」
崩れ落ちる様にその場で座り込んで、タケルは喜びの声を漏らした。
記憶喪失の症例は決して多くない。人類が未だ脳のメカニズムを解明できていない今、サヤ・アマノの記憶が戻るかは、神に祈るくらいの余地しかない運任せ。
二度と戻らない可能性すらあったのだから、タケルの喜びは、それは大きなものであった。
「ほらほら、シャンとなさい。情けない姿見せないの」
「あでっ!? ちょっ、エリカさん」
座り込んだタケルの頭を持っていたバインダーでひっ叩き、エリカは彼を立ち上がらせた。
「えっと……とりあえず、そういう訳ですいませんでした。私、知ってたのにずっと想い至らずお伝えする事を忘れちゃってて」
「いや、それは別に。気にしないでよメイリン。サヤが記憶を取り戻してくれただけで嬉しいし、メイリンも、ずっと大変だったんだから。それも……僕達のせいで」
頬を掻きながら、タケルはバツが悪そうに苦笑いである。
ユリスによって完全に巻き込まれた。何なら彼女は命の危機にすらあったのだ。
自身の人生の急展開ぶりについていけず、サヤの事を思い至らなかったとて、タケルが文句を言える筈も無いだろう。
「ラクスさん。ところで、アマノ三佐にその事を伝えるために?」
「あっ、いえ。嬉しい話であったので勿論それもありますが……」
穏やかな雰囲気から一転。ラクスは気を引き締める様に表情を固くすると、タケルへと目を向けた。
それだけで、タケルもラクスの用件を察して身構える。
「────ヘブンズベースが墜ちました」
告げられた事実に、タケルは世界の転機を感じるのだった。
オーブ首長国連邦オノゴロ島。
モルゲンレーテ本社地下艦船ドック。
展望室で、ユウナとアスランは漸くの帰還を果たしたアークエンジェルを出迎えていた。
ドック内の排水が成され、艦内から待ち人が出てくるのを見て、直ぐに彼等もドックへと赴き出迎える。
「あぁ、おかえり、カガリ!」
両手を広げて迎えようとするユウナを見て、あからさまに表情を歪めたカガリは、足を止める。
「──ユウナ」
「あ、あれ? なんか怒ってる?」
「当たり前だ!」
「えっ、えぇ!?」
「落ち着けよユウナ。カガリは別にお前に怒ってるわけじゃないさ」
カガリの剣幕にたじろぐユウナを余所目に、アスランは久方ぶりの穏やかな表情を見せてカガリと向かい合った。
対するカガリも、先程までの険しい表情から一転。わかり易く嬉しさを顔にみせる。
「──おかえり、カガリ」
「ただいま、アスラン……色々と、苦労を掛けた」
我慢できず、互いに抱擁を交わす程度には2人とも離れていて寂しかったのだろう。
自然と交わされたそれは、これまで会えなかった時間を埋めるには物足りないものであったが、それでも互いの心を温かくさせるものであった。
「あのさ~、普通それを僕の前でわざわざ見せつける?」
不満たらたらな声でユウナは責める様に告げた。
瞬間、2人は皆の前であった事を思い出し、羞恥心と共に身体を離す。
「ご、ごめん。つい」
「すまない。私も我慢できなくて……それよりユウナ、どういう事なんだ?」
「え? どういう事って?」
「だから、何でオーブの首長達の中にロゴスのメンバーが居るんだ!」
そう、カガリの怒りの理由はそれだ。
国元を離れているカガリの代わりに、オーブをできるだけ揺らがない様に立ち回る。
それがユウナ・ロマ・セイランの使命であった。
だが、デュランダルによってロゴスメンバーが公表され、オーブの首長の名前が並んでいた事もあり、国内は混乱。
該当の首長は雲隠れしたようだが、だからと言って国民の不安は消えない。
大西洋連邦寄りであったセイランの人間であれば、こうなった経緯も分かるだろう。
何故こんな事態になっているのだと、カガリは問い詰めたかったのだ。
「無茶言わないでよカガリ~。下手に踏み込めば僕も仲間入りだし……誰がどこと繋がってるかなんて、僕だけで把握し切れるわけないじゃない?」
「くっ、だがこれでは国民に申し開きが──」
「それを納得させるための、君の復帰でしょ?」
挑戦的に、ユウナはカガリの言葉を遮り、言葉を被せた。
僅かに、カガリは怯んだ。
「はっきり言って丁度良かったよ。大西洋連邦と同盟を結んだのも、連合の要請で軍を派遣したのも、内にロゴスのメンバーが居たからだって事で体裁は保てる。そして、そのおかげでやっぱりオーブに必要なのは永世中立を謳ったカガリ・ユラ・アスハだって論調を繰り出せるからね。
カガリの退陣も……まぁ、これは実際に外部からの工作があったわけだけど、これも連中のせいにできる────君が戻る為の舞台は整ったんだよ、カガリ」
ユウナの言葉に、カガリは俯いていく。
代表首長の地位……そんなものにカガリは興味は無かった。ただ、大切な国を守る為には必要であっただけだ。
本当なら代表退任後も、出来る事をするつもりであったのに、命を狙われた事でそれができなくなった。
アークエンジェルでオーブを脱出し、再起を図るためにブリュッセルへ。ボルト・ミュラーやギルバート・デュランダルと会談を行い、改めて己の至らなさを自覚した。
何もできず、もどかしい日々が続く中でベルリンの惨状を知り駆けつけ、再び戦火へ。
振り返ってみれば、はっきり言って空回りであった。国の為に何もできず……時を追うごとに、世界が動くたびに、政治家としてデュランダルとの格の違いを見せつけられていたのだ。
そうして、漸くオーブに戻ってきてカガリが思うのは、今のこの国の代表に己が本当に適任かという事であった。
カガリ・ユラ・アスハは戦士である。少なくとも彼女自身は、その認識であった。
兄に鍛えられ、その辺の兵士より余程腕が立つ自信はあるし、先の大戦でも活躍した英雄と呼ばれている人物だ。
どうしても、カガリの自意識は政治家に納まる器ではない気がしてしまうのである。
政治家としての彼女は、父と比べれば至らない事ばかり。直ぐ熱くなるし、腹芸はできない。世間知らずで直情的だ。
偉大な為政者であったウズミと比べれば、お世辞にも向いてるとは言えない。
それならばいっそ────今カガリが戻る舞台を整えて見せた目の前の男の方が、余程適格なのではないか。
そう、思えた。
「迷ってるのかい? 一度追いやられた自分が、またその座について良いのかと」
「──あぁ」
「要らぬ心配だよ。他の誰でもない、オーブの代表は君じゃなきゃダメなんだ」
「しかし、私よりも今のお前の方が──」
手振りでもってカガリを制して、ユウナは冷めた視線を彼女へと向けた。
その表情に写るのは落胆……望まぬつまらない言葉に、うんざりとしているようであった。
「弱気な君と言うのも、それはそれでそそるものだけど……残念ながら僕が欲しいのはそんな君じゃないんだ。
そのような体たらくでどうするつもりだい? これから君は混迷とする世界で、オーブの代表にならなければならないと言うのに」
「それは、お前でも良い筈だろう……」
「それは逃げだよ。国民が真に望み期待するのが君だ。僕なんて欠片もお呼びじゃない。今更その責から逃げ出すというのかい? 就任演説で吠えた君はどこに行ったのかな?」
ユウナに言われる程に、あの時抱いていた己と国の理想が今とかけ離れている事実に、カガリの胸は締め付けられた。
陰っていく表情が、再びユウナの神経を逆撫でる。
「────がっかりだね。カガリ、時が来るまでに覚悟を決めておきなさい。君は未来の僕のお嫁さんだ……君にはそれに相応しい代表になってもらわないと困る。
トダカ一佐、ソガ一佐、手筈は大丈夫かな?」
ユウナが背後に控えていた、2人の軍人を呼びつける。
「準備は抜かりなく」
「警備も人員も問題ありません」
「上々だ────予定通り、カガリを政庁のシェルターまで護送してくれ」
敬礼を返した2人に合わせて、私服を身に纏う国防軍の者達が、カガリを連れていく。
今後は政庁のシェルターを隠れ家として、これからの動きを決めていく事になるだろう。
背後でマリュー達が困惑を見せる中、オーブの獅子はその日、国へと帰還を果たしたのだった。
月面ダイダロス基地。
デュランダルのロゴス打倒の宣言を受けて、ダイダロス基地では次々と戦いの準備が進められていた。
そんな慌ただしい基地の中で、軍属としての証である軍服を纏わない、スーツ姿の男が一人。
ムルタ・アズラエルは、のんびりと私室で構えていた。
目の前の端末には、ヘブンズベースの攻防が映されている。
メディアを通じて流れて来る映像の他にも、彼だけが持つ伝手で情報は集まってきており、既にヘブンズベースが墜ちた事は把握している。
「全く、だらしがないですねぇ。あれだけ息巻いておいて、デストロイは全滅。デュランダルに良い様にしてやられてロゴスは壊滅ですか。
やっぱり、金と勢いだけしか能がない奴ではこの程度なんですかね」
元よりベルリンでこの結果は見えていた事だろう。
僅か数機のMSに虎の子のデストロイは破壊されたのだ。
敵陣営が反ロゴス同盟として大きくなり、更には新鋭の機体までロールアウトされた以上、たかが5機のデストロイを切り札とした程度では、話にならないこと等容易に読み切れる。
地位に胡坐をかき、現場で起きていることから目を背けていた人間に、事由が読めない事は必然であったのだ。
「ヘブンズベースが墜ちたとなれば、残るはここ月基地のみ。いずれはこちらにも軍を差し向けてくることでしょうね。デュランダルは」
その前に、準備を進めなくてはならない。
新たな駒の建造と、戦う術を。
「ふっ、それまでは精々逃げ回って、奴の注意を引いておいてくれ────ジブリール」
妖しく笑みを浮かべたアズラエルは端末を閉じて、指示を飛ばしに基地司令部へと向かうのであった。
世界が注目する中、ヘブンズベースは落ち、ロゴスは壊滅した。
新たに動き出す世界の中、ヘブンズベースより逃げ延びたロード・ジブリールは、オーブ首長国連邦代表ウナト・エマ・セイランの手引きで密かにオーブへと亡命。
そこから月面へと向かい再起を図ろうとしていた。
しかしそれは、用意された逃げ道であり、監視されていたルート。
ジブリールがオーブ国内へと入った話は、デュランダルもアズラエルにも知れるところとなっていた。
同時期に、アークエンジェルはオーブへと帰還を果たし、元代表であるカガリ・ユラ・アスハは、待ち構えていたユウナとアスラン、トダカやソガ等と共に政庁地下のシェルターへと密かに入る。
そこから国内のロゴス派閥に対して反撃の時を待ち構える事となる。
刻一刻と、オーブ首長国連邦に崩壊の足音が忍び寄り始めていた。
オリジナル機体、シンゲツ。夜と月をイメージにするサヤの機体という事で、月明かりの無い新月となりました。
さて、これ以外にもアストレイズの3機とか、新シロガネとか。新たな機体にテンションも上がることでしょう。
どうぞお楽しみください。
あとアスランの時みたいに、さてはおめえユウナじゃねえなって感じになってきてますね。
でも正直このくらいできる子なユウナとか良い……良くない?
今後が楽しみです。
感想よろしくお願いします。