機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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すまない。本当に。


PHASE-72 そらの落とし子

 

 

 ──宇宙空間。

 星々の大海は煌びやかであるがその分、彼女ユリス・ラングベルトは後ろ暗いものを見る気持ちであった。

 

 ディザスターに乗り込みファクトリー周辺の哨戒に出ていた彼女の目の前には、ザフトの艦船であるナスカ級が3隻。航行速度から察するにあちらも哨戒に、と言うところだろう。

 但しユリスの様に拠点周囲の安全を確保するためではない────探し物を虱潰しで探り当てるための哨戒だ。

 

「さしずめ、偽物を本物にする為に生かしちゃおけないってところかしらね」

 

 ユリスとて馬鹿じゃない。ディオキアで見たラクス・クラインとファクトリーで邂逅したラクス・クラインが別物である事はわかった。

 タケルの態度からも本物はファクトリーで出会った方。偽物がディオキアで見かけた方であろう。

 俗物的なアイドルに成り下がった偽物と比べると、本物はもっと感情が希薄で恐ろしい印象である。内で何を考えているかが本当にわからない…………ラウと良い勝負だとユリスは思った。

 

 

 ミラージュコロイドを展開して、ユリスはナスカ級の動きを伺う。

 

 ザフト…………と言う事は、狙いは本物のラクス・クライン。

 彼女が宇宙に上がる為に利用した、ミーア・キャンベル用のシャトルを乗り捨てた事で足がついたか。或いは、コロニーメンデルに網を貼られて動きを掴まれたか。

 何れにしても、ファクトリーからそう遠くない距離で確認されたザフトの戦力に、状況は一気に緊張を増す事になる。

 幸いにして歩みは遅い。ファクトリーが見つけられるまでにはまだ時間がかかるだろう。

 しかし、直ぐにでも動き出さなければ無防備を突かれる事も必至。

 

「3隻か…………私1人じゃ厳しいかもしれないわね」

 

 艦載戦力を見積もって脳内でシミュレートしても、やられる事はないが守り切れる自信は無かった。

 元より彼女は防衛戦をした事がない。常に目標を仕留め、堕とすことだけが使命であった。

 自分勝手に戦うことしか、彼女は知らない。

 

「ちっ、急いで知らせないと不味いわね」

 

 現在ファクトリーにはステラ達も居る。

 ザフトに見つかり、襲撃を受けたとなれば治療の話どころではないだろう。余計な諍いに巻き込まれる気は無かった。

 

 ユリスはファクトリーへ向けてディザスターを翻した。

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、ファクトリーでもラクス達に動きがあった。

 資源衛星を拠点とするファクトリー外部に、衛星の偽装ブロックを纏わせて隠していた艦船“エターナル”の発進準備を進めていたのだ。

 

 艦橋には艦長となるバルトフェルドとオペレーター達が忙しなくシステムチェックを進めている。指揮官席には無論、ラクス・クラインが座り世界の情勢をメディアから諜報機関のものまで確認しているところだ。

 

「ラクス」

「はい? なんでしょうか」

「この前タケルに言ってたな。ヘブンズベースの次はオーブだと」

「はい。恐らくはそうなる事かと」

 

 故に、ヘブンズベース陥落の報と同時に彼らは準備を始めたわけだ。

 何かあれば動ける様にと────艦船エターナルを引っ張り出して、フリーダムとジャスティス、アカツキは最終調整を終え積み込まれている。

 

「だが何故だ? 今のオーブは連合寄りとは言え、ロゴスに対しては国内でも反対活動が出ている。プラントの…………いや、デュランダルの敵にはならんだろう」

 

 バルトフェルドの言葉に、ラクスは静かに首を振った。

 

「いいえ、違いますわ。その逆です…………オーブはプラントの敵にはならないでしょう。ですが、彼の敵にはなり得ます」

「なん……どう言う意味だ?」

「カガリさんがオーブに戻るのは議長も読んでいるはずです。ブリュッセルであんな事を仰られたのですから」

「あんな事って、例の代表に戻れと発破をかけたって言う……?」

「はい。議長は恐らく、カガリさんを再び表舞台に立たせたいのです。そして、地球圏を牽引する存在として強いオーブへと戻らせたい。カガリさんは認識されておりませんが、オーブは強いです。その理念も力も。そして彼女自身もまた、今の弱った地球圏において非常に力強い指導者となれます」

「だとしたら、なんの意味があってカガリの嬢ちゃんを…………」

「受け入れさせる為です。反抗の芽を持つ者達を1つに束ね、それを打ち破り、議長が新たに築く世界…………地球とプラントを1つにまとめた、新たな世界秩序の下にある世界を」

「新たな世界秩序だと? 一体何の夢物語だ」

 

 突拍子もない言葉に、バルトフェルドは首を傾げた。

 ラクスの言う言葉には今現在世界にある社会基盤……その根底を覆す様な意図が見え隠れするものであった。

 

「タケルがメンデルで見つけたデスティニープラン。彼のこれまでの経歴────そして、アーモリーワンから続く争いで見せた彼の動き」

 

 バラバラであった点と点が、徐々に線で紐づいていく。

 確かな事はわからない。だが、何かを求めていて、その何かが朧気であるが見えてきていた気がした。

 

 やはり彼は、ラクスやカガリと手を結ぶつもりでは無かったのだ。

 

「急がねばなりません。議長は用意周到です。私達は、きっと後手に回っています」

『ラクス』

 

 ラクスの憂いの瞳が揺れる中、艦橋に通信が入った。

 モニターにはやや焦りの顔を浮かべるタケルの姿。既にラクスもバルトフェルドも嫌な予感を感じていた。

 

「タケル。どうなさいましたか?」

『緊急事態。哨戒に出てたユリスからの報告────ナスカ級が3隻、こっちに真っ直ぐ向かってきてる』

「なっ!?」

「それは、本当ですか!?」

 

 艦橋を緊張の空気が包んだ。

 ナスカ級3隻…………ただの偵察では出せない戦力だ。確実な目標があるはずである。

 

「狙いは私達、と言う事ですか」

『多分ね…………エターナルは出せる? ファクトリーは工廠であって防衛拠点ではない。一度攻められれば終わりだ。急いで注意を引きたい。今ここにはステラ達が居るから、ユリスもディザスターで迎撃に出させるよ』

「無茶を言うな少年。ナスカ級3隻ならMS20機は下らん。そんな大軍を相手にノコノコ出ていって的に──」

「わかりましたわタケル。バルトフェルド隊長、エターナルの発進を」

 

 有無を言わせない決断の言葉に、バルトフェルドは驚きを浮かべた。

 

「お、おいラクス」

「身動きが取れない状況よりは、少しでも優位な状況を作るべきです。どの道時間の問題だと言うのなら、動くべきですわ」

「だが、今のこいつにはナスカ級1隻とだってやり合う戦力は無いぞ」

「あら? バルトフェルド隊長、お忘れですか。私達の目の前にいるのが誰か」

「誰って…………」

 

 モニター越しにバルトフェルドはタケルを見た。

 ラクスの言いたい事はわかる。タケル・アマノがパイロットとして一流なのは間違いがない。その上で、防衛対象を守る事にかけては輪を掛けて経験豊富だ。

 敵機の危険度の把握。優先順位の判断。そして、撃墜速度の早さ。

 アストレイに乗っていた時はアークエンジェルを。シロガネに乗っていた時はクサナギを。更にはエスペラントに乗って隊を率いながらミネルバを守っていた。

 そして、伝説的に語られるオーブ戦役の防衛戦。

 その経験は、十二分に信用できるものだ────使えるMSがあれば。

 

「少年の腕は知っている。だが、新しいシロガネはまだ使えないんだろう。エリカ・シモンズから聞いているが、とても動かせるレベルではないと」

『はい。ですから、カゼキリで出ます』

「そいつは確かアカツキの開発の為に持ってきた武装もまともに積んでないもののはずだ。そんなもので何ができる」

『エリカさんが新シロガネの開発のためにビャクライユニットを持ってきてくれてたんです。なので、カゼキリにビャクライユニットを搭載します。カゼキリ用のライフルもあったのでこれで武装は十分です』

「無茶を言うな。そんな突貫工事で出撃なんてしたら」

『元々カゼキリはシロガネの設計を流用して開発してるので互換性は大丈夫ですよ。アンバランスな機体の調整は僕の十八番ですから問題はありません』

 

 バルトフェルドの反論をまるで些末な事と言わんばかりに、タケルは切り捨てていく。

 本当に問題ないかもしれないが、緊急事態にはできないこともできると言おうとする危険性が彼にはある。

 MSパイロットの視点から見れば、いくら調整できるとは言えシロガネのスラスター出力は過剰とも言えるものだ。その出力を想定していない機体に載せるのは危険が過ぎる。

 普通の車に競技用のハイパワーエンジンを搭載する様なものだ────バルトフェルドの不安は拭いきれなかった。

 

「しかし……」

『アンディ、坊やなら大丈夫よ』

「アイシャ!? その格好は」

 

 驚きを見せるバルトフェルド。通信モニターに割り込んできた彼女は、パイロットスーツに身を包んでいた。

 

「何をしている。まさか君まで出──」

『ビャクライユニットは元々私が乗ってたんだもの。当然でしょ?』

『アイシャさんには僕の後ろで戦域管制をしてもらいます。まぁ、要するにお目付け役です────押し切られちゃって』

 

 苦笑いを浮かべるタケルに、何となくだがラクスもバルトフェルドも行われたであろうやり取りを察した。

 恐らくはエリカやメイリンに無茶をするだろうと詰められ、アイシャがお目付け役で一緒に出ると提案して、そうしてつまりはこうなったのだろう。

 その光景が目に浮かぶ様であった。

 

『とにかく時間がありません。ラクス、発進準備を進めて。エターナルの発進に合わせて潜んでるユリスがザフトの出鼻を挫く。そこからは僕も動くから』

「わかりましたわ。バルトフェルド隊長────よろしいですか?」

「ううむ……致し方あるまい。少年、アイシャ、無茶だけはするなよ────エターナル発進準備! ターミナルに通達! ファクトリーには俺が話す。回線を回せ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジブラルタルへと帰還したミネルバは、ヘブンズベース攻略戦における諸々の戦後処理の為に、しばらくの待機命令となった。

 厳しい戦いを乗り越えたのだ。休息は十分に取るべきである。

 だが、クルー達が基地内で英気を養う中、シン達MS隊の面々はタリアに呼び出されブリーフィングルームへと赴いていた。

 

 集められたのはハイネも含めたMS隊と、アーサー・トライン。

 すわ何事かと、シン達は首を捻る。

 

「集まったわね」

「えっと、一体何なんです、艦長? 俺達皆を集めて……また偵察任務ですか?」

「バーカ。それこそ今のお前にそんな事やらせるわけねえだろ。ザフトのスーパーエース様によ」

「や、やめろってハイネ。俺別にそんなんじゃ……」

「とか言って、ニヤケてんじゃないわよ。嬉しさが隠せてないじゃない」

「だ、だからルナ。俺は別に」

「はいはいはい、仲が良いのは分かるけど、じゃれるのは後にしなさい」

 

 手を叩いて、姦しくなりそうな2人を止めると、タリアはハイネへと視線をやった。

 それを受けて頷いたハイネは、シン達の前に躍り出る。

 

「明日付けで、俺はミネルバを降りる事になった」

 

 驚きの顔と声が、アーサーも含めて皆から挙がった。

 突然の事態と言えよう。クルース・ラウラが戦死し、折れかけたMS隊をまとめ直した指揮官との別れを突きつけられ、シン達は惑った。

 

「な、何でだよハイネ! 何で今」

「元々俺は、単独行動となっていたミネルバの補充戦力として来ただけだしな。んで、今の情勢ではもうミネルバを含めた大部隊での大きな戦闘が主となる。わざわざ俺がここに居る必要は無いんだよ」

「でも、だからってミネルバを離れる必要何て」

 

 納得できない。その意思がシンやルナマリア、レイからも向けられ、ハイネは肩を竦めた。

 存外慕われていたという事なのだろうか。真っ直ぐ見つめてくれるヒヨッコ達の視線に、ハイネは少しだけ胸が温かくなった。

 

「艦長、伝えても?」

「良いわ。その方が納得もしやすいでしょう」

「つーわけで、理由を説明しておく。シン・アスカとレイ・ザ・バレルにはヘブンズベース攻略戦の功績を見て特務隊FAITHへの任命が決まった。併せてシンにはネビュラ勲章も授与される。まぁつまり……俺がわざわざここで隊長やる必要も、もうねぇってこった」

 

 元々タケルにしろハイネにしろ、新人だらけでありながら単独任務ばかりとなったミネルバが、上手く立ち行く為の保険。

 まだ若いパイロット達を上手く纏める為の隊長役として、立場的に上となるFAITHの彼等が隊長の任に当てられたのだ。

 今となっては十分な経験を積み特務隊入りを果たした彼等を、新人だのヒヨッコだのと軽く見る事は無い。

 ハイネはもう、ミネルバでの責務を果たしたのである。

 

「俺が、FAITH……それって」

「本当だぞ。というわけで、俺の代わりの隊長にはレイが就け。シンは監督よりプレイヤー向きだ。お前の方が良い」

「はい、承りました」

「ふっ、最後までお前はお堅いまんまだな」

「性分ですので」

 

 呆れたように笑うハイネに、レイも珍しく柔和な笑みを浮かべて返した。

 同期だと思って遠慮なく接しろとハイネが命令しても、レイは結局頑なに自分を曲げなかったが、今ではレイとのこの距離感が心地良い気がしていた。

 

「ルナマリア。置いてかれたからって不貞腐れるなよ」

「だ、だれが! 大きなお世話ですよ!」

「勲章も肩書も、俺達ザフトのパイロットにとっちゃ飾りだ。結局やるべきことは、赤も緑もFAITHも一般も変わらねえ。自分のできる事をやるだけだからな」

「────肝に、銘じておくわ」

 

 言外に焦るな。お前はお前でやれば良い。そう言われた気がして、ルナマリアは素直に頷いた。

 同期のルナマリアよりも、FAITHであるハイネの方がよっぽど焦りを覚えていたのだろう……そんな気がする言葉である。

 シンも、ヤヨイも、その戦果は凄まじく、前任であったクルース・ラウラと比較しても、パイロットとしてのハイネは劣っていた。

 そんな中でも、胸中の焦りと苦悩を表には出さず、唯成すべきことを成してきた彼の姿勢は、ルナマリアにとって十分に尊敬に値するものであった。

 静かに、ルナマリアは頭を下げた。

 

「シン────って、何お前泣きそうな顔してんだ?」

「べ、別にしてない! ただ……ラウラ隊長が墜とされて、ヤヨイまで居なくなって、その上ハイネまで……」

 

 これで3人目。嘗ては轡を共にした者達が、次々と傍からいなくなっていく。

 その誰もが、シンに取って大切な人になり得ていただけに、訪れる別れの時は辛いものであった。

 クルースとヤヨイの時は突然の事態であったが故に、ある種受け止めきれずに現実感が薄かったが、こうして目の前で別れを告げられる事のなんと寂しい事か。

 

「ったく、そんな情けない顔してんじゃねえよ。さっきも言ったが今やお前はザフトのスーパーエースだぞ? 漸くお前を皆が認めてくれてんだ。それ相応しい顔と背中を見せられるようにしろい。

 大体、もう会えなくなるわけじゃないんだぜ。俺かお前が戦死でもしない限りよ」

「なっ、冗談でもやめろよ、そんなこと言うの!」

「だったら弱気な面見せんな。さっさとこんな戦争終わらせて、平和な世界でまた再会しよう位言って見せろ」

 

 ニヤリといつもの快活な笑みを見せてハイネは笑う。

 彼にはこれで良い……と、能力は十分なのに不安定な後輩へ、ハイネは引っ張り上げる様に言葉を掛けた。

 反骨心もたっぷりなこの少年は、こうして発破をかけられるくらいが丁度良いのである。利口でもないのに悩みやすいから、悩む分だけドツボに嵌るタイプというのが、これまでにハイネが見てきた結論だ。

 

「──わかったよ、俺がこんな戦争早く終わらせてやる。だから、死なないでくれよ、ハイネ」

「おう。つっても、俺はこれから安全な国防委員会勤務だぜ。危ないのはお前等の方だよ。墜とされるんじゃねえぞ」

「あぁ!」

 

 挑戦的な声音で返すシンに、ハイネは漸く安心した様に笑った。

 

 タリアへと振り返りもう十分だと視線で促すと、最後にハイネはアーサーと握手を交わしてからブリーフィングルームを去っていく。

 明朝にはミネルバを離れるだろうその背中を、シン達は目に焼き付けて見送るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 途切れた通信先の動きを見送りながら、タケルは背後を振り返った。

 隣にはアイシャ。そして背後にはメイリンとエリカ────やはり、どこか責めるような視線が、彼を囲っていた。

 

「アマノ三佐、本当にカゼキリにビャクライユニットを? 技術者の観点から、無謀と言わざるを得ません」

「リミットを設けるだけの話です。使いこなせますよ」

「そんなわけっ!」

 

 声を荒げようとして、しかしエリカは踏み止まった。

 事態は切迫しているのだ。こういった時にこの男が無理無茶無謀を躊躇う事はない。それはこれまでが証明している。

 

 だがそれでも、危険度は高い。

 

 互換性があり接続できるとはいっても、ビャクライユニットはあくまでシロガネ専用。シロガネに装着する分には何ら問題はないが、突貫でカゼキリに接続するとなれば、それは本当に接続できるだけ。

 カゼキリのバックパックを覆い隠してしまい、機動性はビャクライユニットのみに依存する事になる。

 可動性多角スラスターであるビャクライユニットは、そのスラスター部とドラグーン兵装を兼任している為、ドラグーン兵装としてビャクライを射出すれば、カゼキリは完全に機動性を失うのだ。

 

 攻めに転じれば動きを止めざるを得ない。恐ろしいまでの欠陥兵器となる。

 無茶としか言えないだろう。

 

「大丈夫です。僕が動く必要は無いですから」

「タケルさん……それってどう言う事ですか?」

 

 動く必要がないとは、まるで意味のわからない言葉である。

 彼の戦闘は気本的に高速高機動を主軸とした戦い。動かない戦いなど、彼の戦法ではない。

 メイリンの問いに、どこかあいまいの笑って返すと、タケルはアイシャへと向き直った。

 

「アイシャさん、いきましょう。よろしくお願いします」

「えぇ……大丈夫よエリカ、子猫ちゃんも。私も一緒に行くんだから。坊やが私を死なせるわけないもの。アンディに怒られちゃうわ」

「そうですね……虎さんに怒られたくはないです」

 

 肩をすくめてカゼキリへと向かっていくタケルと、準備されていくビャクライユニットへと乗り込むアイシャ。それを、エリカとメイリンは酷く不安を抱えたまま見送った。

 

 

 

 

 

「本当に大丈夫なの、坊や?」

 

 乗り込んだカゼキリのコクピットにアイシャが映し出されて、タケルは小さく笑った。

 皆の心配も不安も良くわかる。だが、タケルはそんなもの欠片も抱いていなかった。

 

 何故なら、今ここには彼女が居るのだから。

 

「問題ないですよ────本当に」

 

 どこか強い声音で断言してみせるタケル。

 わかってしまった。同じ遺伝子であるが故の繋がりで。先に出撃して潜んでいるユリス・ラングベルトの昂揚が、見事なまでに彼にも伝播し、引っ張られる様にタケルを好戦的な意識へと落とし込んでいた。

 

 タケルとユリス……2年前こそ絶対的な仇敵となった2人だが、その実彼等は遺伝子まで同じ存在である。それ故の繋がりがあり、それ故に同じ方向を向いた時には掛け値なしに信頼ができた。

 全身全霊で殺し合ったからこそ、互いの実力は完全に把握しているのだ。

 

 自分が、2人いる様なものであった。

 

 単純戦力だけならこの戦いはユリスとディザスターだけで事足りるだろう。たかがザフトの量産機が20、30と出てきたところで、ユリス・ラングベルトを落とす事は敵わない。

 ならばタケルがすべき事は、彼女を好きに暴れさせるだけで良い。後方を──防衛対象を気にしなければ、本気になった彼女は恐るべき勢いで敵機を殲滅していく。

 

 それを、互いの実力を全て理解しているタケルとユリスだからこそ、可能とさせるのだ。

 

「あぁ、わかってるよユリス。今出るから」

 

 煩いくらいに逸って叩いてくる意識に、タケルは小さく苦言をこぼした。

 それがアイシャには知らない表情に見えて、僅かに彼女は息を呑む。

 似合わない笑みだ。戦う事を楽しみにする様な、彼らしくない気配。

 

 発進準備が完了すると同時、エターナル発進の知らせが届いた。

 応じる様に、ファクトリーの偽装ハッチが開かれていく。

 湧き上がる雑念を捨てて、アイシャは今より向かう戦場へと意識を集中した。

 

 

「タケル・アマノ────カゼキリ、出ます」

「アイシャよ────ビャクライユニット、発進するわ」

 

 

 ハッチから産み落とされる様に放り出されながら、2人は戦火の潜む宇宙へと飛び出した。

 

 




ごめんなさい。天空のキラとストフリお披露目はこう言う事態故に無しです。
原作内では凄く印象的なシーンではありますが、タケルとユリス居たら別になぁって話。
2分で狩ろうが5分で狩ろうが変わらないでしょう


感想よろしくお願いします。
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