機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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最後にキャラ崩壊要素有り。
さらっと流してくださればと思います。


PHASE-73 共に競いて

 

 

 

 ザフトに発見される前に、ファクトリーから目を逸らすべくエターナルは発進準備を整えていく。

 

『エターナル発進後、ファクトリーはサイレントモードへ移行します』

 

 ファクトリーからのアナウンスを聞いて、準備は完了。

 先の大戦から久しく火の入っていなかった艦に、今再び戦う力が宿っていく。

 

「パワーフロー正常。FCSオンライン」

「推力上昇。発進臨界!」

 

 動力部から伝わるエネルギーが機関部で臨界を迎えれば、その報告と共に艦長であるバルトフェルドが声を挙げた。

 

「偽装排除!」

 

 岩塊の偽装ブロックを解除すると、懐かしいローズピンクの艦体が姿を現した。

 

「エターナル、発進します!」

 

 歌姫の(ふね)が、再び戦場に舞い戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「動き出した、か……兄さんも出撃っと。一先ずは護衛につく様ね」

 

 潜伏しているユリスは、状況を把握して口角を上げる。

 舞台は整った。エターナルの発進により、監視していたザフトの艦船は慌てて最大戦速で動き出していた。

 見るからに戦闘態勢を取った3隻に、もはや話し合いの余地は無いだろう。

 

 これで心置きなく討つ事ができるというもの。

 

「わかってるわよ兄さん。本気で行くわ」

 

 脳内で苦言を呈してくるタケルに返すと、ユリスは一度目を閉じた。

 

 彼女にとって、生きる事は戦いであった。

 戦う事こそが自己の証明。戦う事こそが生きている証。

 故に、彼女にとってそこに至る為のトリガーは、戦い。厳密に言えば、“自らを楽しませてくれる戦い”と言う所だろうか。

 仇敵でありながら、最も深い所まで知る理解者。タケル・アマノとの共闘となれば、彼女にとってこの上ない楽しみとなる。

 絶対に並び立つはずの無かった、向かい合う事しかありえなかった人間との共闘だ。

 2年前にラウと並んだ時より余程高い昂揚感が、ユリスをそこへと至らせた。

 

 ──種が開いた。

 

 自然と陥っていくその状態のまま、ユリスはディザスターを走らせる。

 ミラージュコロイドはまだ展開中である。そうしてステルス状態を維持したまま、ラクス・クライン追跡調査部隊グラスコー隊の1隻、ナスカ級ホルストへと接近していく。

 

 展開される肩部2門のプラズマ収束砲シュヴァイツァ────その狙いを定めて、撃ち放った。

 

「はっ! さぁて、戦闘開始といこうじゃない!」

 

 放たれた閃光がホルストの左舷ハッチを破壊した瞬間、ディザスターのミラージュコロイドを解除。

 即座に急接近して、右舷側へと回り込む。

 

「なんだ、敵襲だと? 一体どこから──」

「MS出現! 急速接近!」

「バカな!? こんな近くに来るまで……まさか、ミラージュコロイド……」

 

 ホルスト艦長がその答えに行き着くのと、右舷ハッチが破壊されるのは同時であった。

 大きな振動と共にハッチが全壊。グシャグシャになったハッチは内部に積載されているMSを僅かに覗けるだけとなり、これでホルストからMSが発進する事は叶わない事態となった。

 

 開幕で艦橋を墜としたところで、MSが出て来ては意味が無い。ユリスは優先目標を艦ではなくMSに絞っていた。

 

「トドメ……」

 

 次なる手は艦の後部。メインスラスターがある機関部である。

 巨大なエネルギーが注がれているこの機関部をへと回り込み、シュヴァイツァの砲門を向けた。

 

 狙いは誘爆に因る積載MSも含めた完全破壊である。

 

「あ、あぁ……やめ」

「サヨナラよ」

 

 ユリスは迷うことなく、引鉄を引いた。

 放たれる巨大な閃光がスラスターを打ち抜き、巨大なエネルギーと共に誘爆。

 艦全体が大きな爆発を起こして、ホルストを宇宙の藻屑へと変えていく。

 

「よし、と。これで少しは楽になるでしょ」

 

 即座にディザスターを反転させて、エターナルの方へと向かわせる。

 ホルストを墜とし残るは2隻。だが、残る2隻は大きく展開して先回りする様にエターナルを追い込んでいた。

 今頃、発進したMS隊との防衛戦が始まっているだろう。

 

「とは言っても、今の兄さんがしくじるとは思えないけど……」

 

 伝わってくるタケルの意識は、難攻不落を思わせる程に絶対的な自信を湛えていた。

 この場でホルストを撃破しただけで、彼女の仕事は終わったと錯覚してしまいそうな程であった。

 

「私のせいかしら……兄さんがこんなに好戦的で自信たっぷりなのは」

 

 以前はもっと、喪う事を恐れて臆病な気配を内に抱えていたはず。色で表すなら灰色だ。

 それが、今は明るい色と言うべきか……戦場に出る事に前向きになっているのだ。

 どういう心境の変化だと思い至ったところで、それが自身による影響だとユリスは悟った。

 

 どこまでも自身と同じ存在である彼と並び立って戦う事への昂揚感。自分の気持ちに彼も引っ張られているのだと。

 

 ユリスは勿論のことだが、タケルとて自身の実力を過小評価はしていない。長らくやってきたパイロットとしての自負は、むしろ強いと言えるだろう。

 そんな2人が並び立つ……置き換えるのなら、キラ・ヤマトとラウ・ル・クルーゼが並び立って共に戦うドリームタッグだ。

 並び立った時どのような化学変化を起こすのか、楽しみになるのは戦士であれば仕方のない事である。

 

「ふふっ、良いわよ兄さん。見せてあげましょう────私達の戦いをね」

 

 フットペダルを踏んで、ディザスターを更に加速させる。

 

 流星の様に速度を上げて、ユリスは次なる戦場へと飛翔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイシャは、ビャクライユニットのコクピットの中で戦慄する。

 

 ファクトリーから出撃し、ビャクライユニットとドッキングしたカゼキリをタケルはすぐさまエターナルへと向かわせた。

 そうして艦橋前に陣取ると、その位置をキーブし、エターナルのバルトフェルドへと通信を繋ぐ。

 

 “1分間、ミサイルを引き受けて欲しい”

 

 そう願い出たのも束の間、カゼキリはドラグーン兵装ビャクライを2基残して射出。都合6基の小型ビーム砲塔端末が、戦場を蹂躙し始めたのだ。

 

 

「8時方向、ザク4!」

「了解!」

 

 

 アイシャの管制と共に、ビャクライが向かう。

 距離をある程度取り、巨大な砲塔オルトロスを構えるザクの小隊へ、ビャクライから閃光が放たれて砲塔を解体していく。

 これは出力を抑えての苦肉の策であった。

 ただでさえ電力消費の重いドラグーンを、それもほぼフル稼働させての防衛戦なのだ。無駄撃ちはできないし、2年前より装甲強度も増している機体を仕留めるには1機1機時間がかかり過ぎる。

 故に、低出力でガナーウィザードのメイン武装であるオルトロスを破壊するだけに留めて、バッテリーの消耗と、撃退に掛かる時間を抑えているのだ。

 これだけで艦船であるエターナルへの脅威としては殆ど無くなるだろうし、接近して来ればエネルギー消費の少ないビームライフルで仕留められる。無論、接近してこなければ脅威ではない。

 

「2から4時方向でグフ4!」

「問題ありません」

 

 続いてグフの小隊が接近してくると、タケルはビャクライ4基を戻して残る2基で脚部や腕部を破壊。致命的な隙を作り出して動きを止めた所で、ライフルで仕留める流れを繰り返し、4基のグフを撃墜して見せた。

 

 異常だと……アイシャは慄いた。

 

 アイシャの管制から捉敵までの反応が早い事もそうだが、そこからの撃墜までの手順がまるで未来が見えているかのようである。

 波状的に次々と接近してくる敵MSに対して、タケル・アマノはエターナルを守る為に、防衛では無く攻勢に出ているのだ。

 

 動く必要が無いと言ったのはこういう事なのかと合点がいった。

 文字通り、その場で動く必要もなく敵機を沈めていく。動くのは、姿勢制御用に残した2基のビャクライによって機体の向きを変えるだけ。敵機をメインカメラに収める為だけだ。

 その状態で、エターナルに向かおうとするMSの全てを押し止める──ある種の防御領域と言えるだろうか。

 

「10から14時。ザク、グフ混成8!」

「ちっ!?」

 

 数を増やした攻勢にタケルは舌打ちしながらも即座に答えを出していく。

 オルトロスの破壊、接近してくるグフの撃破。その両立をと考えたところで、ビャクライをザクへと向かわせてカゼキリはビームライフルを構えた。

 

 同時、エターナル後方より巨大な閃光が飛来する。

 

「待たせたわね!!」

「待ってない。丁度1分だ!」

 

 カゼキリのライフルとディザスターのシュヴァイツァで接近中のグフが破壊される中、ビャクライによってザクの部隊はオルトロスを破壊されて無力化されていった。

 

「アイシャさん。攻勢にでます!」

「えぇ、了解よ」

 

 攻勢に出る? 今までのは防衛だったとでも言うのか。

 そんな疑問を抑え込んで、アイシャは動き出すであろうタケル・アマノの機動戦に身構えた。

 

「ユリス!」

「わかってるわよ!」

 

 無力化され残っていたザクへと、ユリスのディザスターが吶喊していく。接近しながらもライフルで数機を巻き込みながら敵陣へと突入していけば、腕部ビームサーベルがザクを次々と叩き切っていった。

 そこへ、隙だらけとなったディザスターの背中を狙う様に、ビーム突撃銃を構えたザクだが、カゼキリのビャクライが瞬く間にザクを刻んでいく。

 ユリスが来た以上、ここから先は節約をする必要もない。一気に殲滅せんと、タケルとカゼキリも前へと躍り出て来た。

 

 

 

 こうなってしまっては、ザフト側にエターナルへと攻撃するだけの余力は無かった。

 元よりホルストの撃沈で戦力の三分の一が削られていたのだ。そこへ更にタケルとカゼキリによる迎撃で残りの半分を仕留められ、増援に来たユリスとディザスターも併せた攻勢を受ければ、壊滅は必至。

 撃墜されていくMSの数は、加速度的に増えていく。

 

「(出だしが遅いんだよ。だから接近中を狙われる!)」

「(兄さんが抑えるの前提に決まってるでしょ! 危険を受け持つのは私なんだから援護しなさい!)」

 

 実際に言葉を交わしているわけでは無いが、脳内で互いの動きを把握していくタケルとユリスに、死角も隙も無かった。

 タケルはライフルとビャクライでユリスの後隙を埋め、ユリスは敵機の射線を全て引き受ける様に前線で踊り続ける。

 

 

 そうしてMSを全て撃ち落とせば、残るはナスカ級2隻のみ。

 

 

 

 

「ば、バカな……戦闘開始から3分の内に、15のザクとグフが全滅……一体何が」

 

 隊長のグラスゴーは、恐怖していた。

 敵の陣営はエターナルとMS1機のみであった。潜伏する勢力であれば戦力はこの程度かと、数の圧倒的に有利に胡坐をかいていたら、後方でホルストが撃沈との知らせが届き、次いで発進したMS隊も次々と撃墜されていく。

 

 まるで、悪夢を見ているような気分であった。

 

「敵MS接近!」

「っ……全砲門開け! 撃ち落とせー!!」

 

 接近してくる、白銀を背負ったMSと、紫電を思わせる色合いのMS。

 居並ぶその2機は各々が備える最大火力の兵装を展開していた。

 

「そんな……」

 

 放たれる閃光が、隣に居たナスカ級カーナボンを破壊する。

 衝撃がその身を揺らす中、グラスゴーは震えのままに歯をガチガチとならせた。

 

「──あ、悪魔め」

 

 合図となったグラスゴーの声。

 艦に降り注ぐ光条と、艦橋へと突き刺さった閃光に、グラスゴーもまた戦火の中に散っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──残存反応無し。終わりよ、坊や」

「はい。ありがとうございました、アイシャさん」

 

 まだ戦域に居るがパイロットスーツのヘルメットを脱いで、タケルは頭を振った。

 額は汗でじっとりと濡れている。

 当然だ。短期決戦だからとSEEDを深めて迎撃に当たっていたのだ。その負担は、今すぐにでも意識を手放したいくらいの頭痛となって、タケルを襲っていた。

 

「つぅ──はぁ、半分はユリスのせいだよ全く」

『何がよ?』

「何でもない。こっちの話」

 

 言って、タケルは痛む頭を抑えた。

 ユリスが駆け付けるまでの1分間だけのつもりだったのに……昂揚感に負けて戦闘が終わるまで走り続けてしまった。

 そのまま仮に意識を落としてしまったとしても、彼女が残っていれば問題ないだろうという楽観もあって、止まる事ができなかったのだ。

 

 それ程までに…………不謹慎ながら楽しさが勝ったのだ。

 

「坊や、大丈夫?」

「えっ? あ、あぁはい。問題ありません。少し休めば直りますから」

「という事は、無茶はしてたのね?」

「いえ、無茶と言う程では……」

「ほら、スラスターの制御権をこっちに渡しなさい。帰投は私の方でしてあげるわ」

「あ、あはは……助かります」

 

 優しい声音で言ってくるアイシャの好意に甘え、タケルはシートへと体を預けると、ゆっくりと意識を落としていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オーブへと帰還したアークエンジェルは、ベルリンで受けた損傷を完全に修復するために、現在急ピッチで整備が進められていた。

 その最中、艦内で待機中だったキラは驚きの声を挙げる。

 

「それ本当なんですか、マリューさん!?」

 

 場所は艦橋。ミリアリアやチャンドラ、ノイマン等が共に入っている中、マリューからもたらされた情報にキラは食いついた。

 そんな、詰め寄って来るキラを手で制しながら、マリューは僅かに苦笑いを溢す。

 

「お、落ち着いてキラ君。話は最後まで聞きなさい」

「あっ、すいません」

「ファクトリーがザフトに見つかったというのは本当。それで、ラクスさん達はザフトを引きつけるためにエターナルで発進────戦闘に入ったわ」

「そんな……それじゃ今頃」

「ほーら! 話は最後まで聞く!」

「──す、すいません」

 

 まるで落ち着きのない子供を叱る母の構図だ。

 周囲で僅かに笑い声が挙がるのを、居心地悪く感じながら、キラはマリューへと視線を向ける。

 

「さっきラクスさんからビデオメッセージが届いたのよ。それも、随分と驚きの中身でね」

「驚きの、ですか?」

「百聞は一見にしかずよ。ミリアリアさん、お願い」

「はーい、了解です」

 

 どことなく嬉しそうな声音で答えるミリアリアに、キラが疑問符を浮かべるも、艦橋モニターに映された映像を見て、その理由を理解した。

 これは確かに。マリューが落ち着いているわけだし、皆が笑っているわけだ。

 

 映像の中には、一度は死んだと聞かされていた彼が映っていたのだから。

 

『キラ、ラミアス艦長。メッセージで伝えました通り、私達はこの通り無事ですわ』

 

 陣羽織を羽織り、戦闘態勢であった事が伺えるラクスの姿。その背景には見慣れた艦内が映し出されていた。

 そしてその隣で、酷い顔をしながら頭を抑える見知った顔────タケル・アマノの姿がある。

 

『ね、ねぇラクス……僕今凄く頭が痛いんだけど……』

『我慢をしてくださいな。それと、早く皆さんに無事を報告してください』

 

 柔らかな微笑の裏側で、明らかに刺々しい気配が見てとれる彼女に、キラはいっそ清々しい気持ちであった。

 また何か無茶をやらかしたか。或いは戦死の報を聞かされた事に対してか──両方かもしれない。

 つまり、ラクス・クラインはタケル・アマノに怒っているのである。

 

『う、うん……わかったから、その笑顔で怒るの止めよう? 生きた心地がしないからさ。

 そういう訳でキラ。そこにカガリは居るかな? ナタルも居てくれたら嬉しいんだけど……僕、こうして無事に生きてるから。心配かけてゴメンね』

『見ての通り、彼は無事です。どうか、この事を皆さんにお伝えくださいな────ではまた』

 

 そう言って、映像は途切れた。

 

 とりあえずの素直な謝罪に、キラは溜め息1つを駄賃にして受け取った。

 漸くである。心配ばかり掛けられた友であり兄の無事な姿……かどうかは、頭を抑えているので何とも言えないが、とにかく無事に生きている姿が見られて肩の荷が降りた気分であった。

 

「どう? 安心した」

「──はい。とても。タケルが居るならエターナルもラクスも大丈夫ですね」

「えぇ。位置を知られた以上ファクトリーはエターナルで牽引して場所を変えるらしいわ。それにもうすぐやるべきことを終えてオーブにも帰ってくるみたい」

「そうですか、良かった」

 

 やはり離れ離れであった事は不安でたまらなかったのだろう。マリューの言葉に、キラはまた1つ安堵の息を溢した。

 

「ところで、聞いても良いかしら?」

「えっ? はい、なんですか?」

 

 どこか改まった雰囲気で問うてくるマリューに、キラは不思議に思いながらも頷いて返す。

 

「あのタケル君の隣に居た彼女がもしかして……この間ロアノークさんが言ってたユリスさん?」

 

 先程の映像。ラクスの横で頭を抑えるタケルの、その隣であからさまに笑いをこらえる女性が居た。

 顔つき、髪の色、背丈に至るまで随分とタケル・アマノにそっくりであったのだ。

 

「はい、彼女がユリス・ラングベルトです────2年前に僕達と戦った連合の紫の機体ディザスターのパイロット」

「因縁の敵……の筈よね?」

「はい。タケルにとっても、彼女にとっても」

「それがどうして一緒になってファクトリーに……訳が分からないわね」

「ま、まぁタケルの行動が突飛になるのはいつもの事ですし……」

「それもそうねぇ。良く知ってるわ」

 

 2年前からそうだ。ヘリオポリスの学生だったはずのキラが歩んだ道程も大概だが、タケル・アマノのこれまでは数奇な運命ばかりである。

 アークエンジェルに乗り込み、ザフトに捕まり、オーブを失い、戦争を止めて。

 直近ではいきなりザフトに入ったかと思えば、連合に捕まり、反乱して脱走して、今はエターナルに居ると来たものだ。

 一体彼はどんな星の下に生まれてきたのだろうと、キラとマリューは苦笑した。

 

「何か僕……割と普通じゃないはずなんですけど、タケルを見ちゃうとまだマシだなって思っちゃいます」

「やめた方が良いわよそう言うの。下を見てマシ、何て考えてると、異常に気が付けなくなるわ」

「それは……嫌ですね」

「とりあえず、ナタルとサヤちゃんにこの事を伝えてくれるかしら? 2人とも安心するでしょうから」

「あっ、そうですね。多分ナタルさん、サヤの所に居ると思うので、行ってきます」

「あら? ナタルったら、そんなに入り浸ってるの?」

 

 キラの発言に、マリューは首を傾げた。

 マリューはキラより、ナタルがサヤへと諸々の関係を話した事を聞き及んでいる。

 とても和気藹々とした関係性は望めない……そう予測していたのだが、意外にもナタルとサヤの関係は良好らしい。

 

「ちょっと……驚きだわ。ナタルはともかく、サヤちゃんがナタルと仲良くできるとは思えないのだけれど……」

「なんというかその……互いに欲してる物が一致している……みたいです」

「どういう事?」

 

 全く意味の分からないキラの言葉に、マリューは心底不思議そうに首を傾げるのであった。

 

 

 

 

 

 

 アークエンジェル医務室。

 本来は静かにしなければならないその部屋で、本来静かなキャラを貫くであろう2人が、何だかとても騒がしい事態となっていた。

 

「そうなのです! お兄様は昔から、あの様に譲らない部分では本当に意地を張ってしまって」

「やはりそうなのか。アークエンジェルでも、機体や整備の事に関しては頑として譲らなかった」

「ですが、そうして真剣に取り組むお兄様がまた素敵なのです!」

「それも良くわかるぞ。オーブの家でも、いつも設計図と睨めっこなんだが……それを横で眺めてる時間の穏やかさと言ったら……」

「あぁああ! 何故その様な自慢話をするのですかお姉様! サヤはいつも、お仕事の時は邪魔にならない様にと別室で控えていたと言うのに!」

「そうは言うがサヤだって、タケルと幼い頃から一緒なのだろう? 私の知らないタケルをもっと知っているのではないか!」

「むっ……そうですね。確かにお兄様がアマノに来たのは10歳の時。それを幼いと捉えるのであればそうかもしれません……そうですね。であれば……」

 

 起死回生。羨ましい話ばかり聞かされたサヤ・アマノは、ここでナタルが食いつきそうなネタを記憶より呼び起こした。

 

「ふっ、ふふふ。お兄様の事ですから絶対この事はお姉様に教えていないでしょう────聞いてくださいお姉様。お兄様は12歳になるまで幽霊の類を信じておりました」

「ほぅ……」

「とある夏の日の事です。テレビ放映でホラー映画をサヤと共に見たお兄様はその夜、怖くて眠れないと父上の部屋の戸を叩いたのです」

「なん……だと」

「しかし、あの厳しい父上がそんな軟弱なお兄様の願いを聞くわけも無く……困り果てたお兄様は恥を忍んでサヤに自身のベッドで共に寝る事を願い出ました。それはもう、嗜虐心に駆られる泣きそうなお顔で」

「なっ!? なんと羨ましい事を……」

「サヤはお兄様の願いを快諾し、お兄様に安心して眠って頂けるようぴったりと寄り添って、それはもう幸せな一時を過ごすことができたのです」

 

 会心の一撃。サヤ・アマノはナタルに向けてどうだと言わんばかりに勝ち誇った笑みを見せた。

 

 宇宙のどこかで誰かが叫んだ気がするが、一先ず置いておこう。一体全体何故、どうしてこんな事態になっているのかと言うとだ。

 ナタル・バジル―ルとサヤ・アマノ。両者は、お互いが知らぬタケル・アマノを話のネタにし、熾烈な鬩ぎ合いをしていた。

 どちらがよりタケル・アマノの素顔を知っているか────あの意地を張って必死で素顔を隠す彼の本当をどちらがより理解しているか。

 それを、どちらからとも無く繰り出しあって、カードゲームの様に己のネタを切り続ける戦いへと発展していた。

 共に過ごした時間で言えば、幼い頃より共に居るサヤに軍配が上がる。が、ナタルは互いに愛を誓う仲だ。共に過ごした時間の密度で言えば、彼女の方が勝るだろう。

 

 そうして互いに繰り出す切り札は、タケル・アマノのこれまでを詳らかにしていき、本人の知らぬところで、本人が明かしたくない出来事がごまんと出てきていた。

 

「タケルはこの間──」

「お兄様は以前──」

 

 互いに気勢は衰えず、また脳内の規制も緩和されていく。もはや止まる事のないデッドヒートである。

 

 

 そして、そんな医務室の扉の外で…………

 

 

 彼の生存を知らせに来ていたキラ・ヤマトは乾いた笑みを浮かべる。

 どう考えても入り込めるタイミングではない。だがしかし、早々に押し入ってこの話を辞めさせなければ、いずれ自分と同じようにこの騒ぎを耳にしてしまう者が出てくるだろう。

 そうなれば、友であり兄である彼の黒歴史が皆に知れ渡るのだ。

 

 流石にキラも、それは可哀相だと思えてならない。

 

 

「タケル……僕は君が本当に不憫で仕方ないよ」

 

 

 再会したら、心配かけられたことは水に流して、少しだけ優しくしてやろうと心に誓いながら、キラは決死の覚悟で医務室へと入っていくのだった。

 

 




やめたげてよっ! もう主人公のライフはゼロよ!

という事で、2人寄れば姦しいとはよく言ったもの。
仕方ないよね……だってサヤもナタルもカガリも、主人公にとって唯一全てを曝せる家族なので。

主人公とユリスの繋がりは、テレパシーで会話できるとかでは無いです。
ただ、何を見てる、どれを見てる、何を抱いている、何を思っている。
そんな感情の揺らぎと言うか、意識の向く先と言いますか。概念的ですがそう言ったものを感じられるのです。
例えば、背後で敵機が狙ってるのを確認したら、反射的に危険だと認識しますが、その意識の向く先や危険と捉える認識が伝わる、と。
こんな感じです。

次回から、また世界が動いて物語が動いていきます。どうぞお楽しみに。

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