機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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PHASE-74 告げられる言葉

 

 

 

 ザフト軍ジブラルタル基地司令部にて。

 

 厳かな雰囲気の中、式は執り行われた。

 そう、先のヘブンズベース攻略作戦の功績を称えた勲章の授与式である。

 

 周りにはザフトの将校等が多数。その中にはこの叙勲を決定したデュランダルの姿もあった。

 

「ヘブンズベース戦での功績を称え、シン・アスカにネビュラ勲章を授与するものとする────これで2つ目だな。素晴らしい事だ」

「ありがとうございます」

 

 皆の視線を一身に受けながら、シン・アスカは少しだけ落ち着かない面持ちで将校からの勲章を受け取った。

 オーブ沖での海戦から続く2度目の勲章の授与。

 ネビュラ勲章はオーブや連合において2階級特進相当の活躍に当たるものであり、短期間でこれを2つ授与されたシン・アスカの功績は正に前代未聞であろう。

 故に、周囲からの賞賛の声は強く大きいものであった。

 

 “デスティニーを任されるのも頷けるものだ”

 “議長に見出された稀有な才能”

 “流石はミネルバのエースか”

 

 口々に放たれる言葉が、嬉しくもあり、詰まらなくもありで、シンは努めて表情と気持ちを抑え込んだ。

 

 確かに活躍はしただろう。皆の声を聞けば、自身がどれだけの活躍をしたのかは、シンにも理解が及んだ。

 

 だがそれは、決して自分だけのものでは無い。

 目の前で導いてくれた人が居た。隣に並んでくれた人が居た────後ろにはミネルバの皆が居てくれた。だから、自分はこれまで戦えて来れたのだ。

 今回だって同じこと。レイが隣で並び立ち、ルナマリアやハイネ、ミゲルが背後で戦線を支えてくれた。だからシンは、自分にしかできない事に傾注できた。

 

 その事実を踏まえれば、自らに向けられる賛辞を素直に受け取る気にシンは成れなかった。

 

「それからこれを、シン・アスカとレイ・ザ・バレルに」

 

 前に出て来たデュランダルは、小さなケースに収められた羽を模したエンブレムを差し出した。

 特務隊FAITHの証である。

 

「議長……」

「不服かね?」

「いえ……むしろ俺、じゃなくて自分が本当に相応しいのかなって……」

「不安、という事か……余計な心配は要らないよ。

 これは我々が君達の力を頼みとしている、その証だ。これを誇りとし、今この瞬間を裏切ることなく、今後も君に力を尽くして欲しいと願いを込めているだけだ。何も新しい事をしろという訳ではない」

 

 FAITHとなれば、部隊長としての権限を有する事となる。そんな器ではないと尻込みするシンであったが、デュランダルは安心させるようにそれを否定した。

 

「君がこれからも、これまでと変わらぬ思いで戦い続けてくれることを願っているよ」

「──ありがとうございます」

 

 納得し、改めて戦う決意をして。シンはその証を受け取った。

 隣でレイも、同様に感謝の言葉を投げながら受け取っていく。

 

 

 そうして、授与式は終了となった。

 

 

 

 

 

 

 

「──では」

「お先に失礼します」

「えぇ、ご苦労様。おめでとう、シン」

「あっいえ……はい。ありがとうございます」

 

 会場となった司令部より離れていく3人の背中を見送り、タリアは一息ついた。

 去り際に見せたシンの表情は、やはりどこか嬉しさとは違う感情が見え隠れしている。

 それが成長したが故の苦悩だと、タリアにはなんとなく理解できた。

 

 以前の彼であれば、向けられた賞賛に素直に嬉しさを見せていた事だろう。意地っ張りだと散々言われてきた彼だが、根は素直なのである。

 だが、今の彼は色々と知ってしまっている。理解してしまっている。

 自身に与えられた役割も。双肩に掛けられる重圧も。向けられる期待も。

 今までは頑張るだけで良かった。必死に戦う事しか、頭に無かっただろう……が、これからはかけられる想いに応えなくてはならない。

 導く者を失い、並び立つ者もの失った彼は、FAITHの立場とデスティニーと言う剣を携え、今度は自らがその重責を担う必要があるのだと理解して居る。

 

 子供でいられる時間は、もう終わったという事であった。

 

 

「心配そうな顔だね、グラディス艦長」

 

 

 思わず、胸の内に嫌な感情が昇って来る。

 今一番顔を会わせたくない人間の声であった。

 

「いえ、そのような事はありませんわ」

「シンとレイをFAITHにした事で、絶対何か一言あると覚悟していたのだがね」

「何を今更」

 

 切って捨てる様に顔を逸らして、タリアも司令部を出て歩き出した。

 それを何食わぬ顔で、デュランダルは着いてくる。

 気を抜けば嫌味が漏れ出てきそうで、タリアは口を真一文字に結んで閉口した。

 

「そう怒らないでくれ」

「言いたいことは山ほどありますが迂闊に言える事でもないので黙っているのです。聞く気がないのなら放っておいていただきたいわ」

「聞く気がないだなんて、そんな……」

 

 ヘブンズベース攻略作戦。又の名をオペレーション・ラグナロク。

 大層な名前に見合うだけの、大きな意味を持つ作戦であった。それだけに、作戦前後に掛けて慌ただしく多忙であり、ゆっくりと話す時間も取れなかったのだ。

 デュランダルとて、タリアの態度と言葉の意味は良く良く理解して居た。

 

「では言わせてもらいますが……ヤヨイの件、もう少し穏便に話を進められたのではありませんか?」

 

 投げられた言葉に見るからに肩を落として、デュランダルはタリアに沈痛な表情を返した。

 

「タリア、それについては──」

「あの子がスパイなどと、そんな余裕も接点も無かったことは、議長もお解りだったはずでしょう」

 

 ヤヨイ・キサラギのスパイ疑惑。

 そんなわけがあるかとタリアだけでなくミネルバクルーの皆が思った事だ。

 アーモリーワンで出撃してからそのまま。単身で地球へと降り立ち、ずっと任務に赴いていたのだ。

 更には休暇を与えられても諸々の事情で、ザフトの敷地内から出る事は無かった。

 調べたらわかる事……ではない。調べなくても分かる程に疑い様が無い筈であった。

 

「わかっているさ。だが、報告があったのなら、相応に動かなくてはならない。あの日基地には、あちこちから軍が集まっていたのだ。浮かんできた疑念は、払拭しなければ集まってきた者達ばかりでなくザフトの皆にも不信感が広がってしまう。

 私も、決してあのような事態を招きたかったわけではないよ」

「徒に騒ぎを大きくした事がそもそもの間違いです。騒ぎを大きくしなければ、あの子も素直に話をする機会があったでしょう。弁明の機会も……嫌疑の払拭もできたはず。それを一方的にスパイの疑惑が掛かってると声を挙げ、追求しようとした。

 そうして事は起こり、その尻拭いをシンにさせておいて。貴方は今また、余計な重荷を彼に背負わせた────私が納得できるとお思いですか」

 

 デュランダルから目を逸らし、タリアは俯いた。

 シン・アスカが精神的に脆いこと等、これまでで十分にわかっている事だ。そんな彼に、大切な身内を殺させた。それがどれだけ彼に負担をかけてしまったのか、タリアには想像もつかなかった。

 偏に目の前にいるこの男のせいだとなれば、タリアの怒りも当然と言う物である。

 

「シンだけではありません。クルー達にも、随分と動揺が広がりました……あの子は優秀で、仲間思いの子でしたから」

「──それは、本当に申し訳ない」

「いえ……申し訳ありません。感情的になり過ぎました」

「そんな事は無い。素直に受け止めさせてもらうよ」

 

 居心地の悪い空気に2人の会話が途切れる。

 少しばかりそのまま歩いていると、2人に……正確にはデュランダルへと駆け寄ってくる足音が聞こえてくる。

 

「議長」

「む、なんだ?」

 

 報告に来たのであろう将校へと向き直り、デュランダルが応じると、釣られてタリアも聞き耳を立てた。

 随分と真剣な面持ちに、2人は嫌な胸騒ぎがしていた。

 

「ジブリールの所在が掴めました」

「えっ!?」

「なんだと!?」

「カーペンタリアの情報部からです」

 

 身内からの報告となれば、信憑性は俄然高まると言う物だ。

 思わず2人は身を乗り出した、次をせがむ様に視線を向ける。

 

「それで、彼は今どこへ」

「──それが、オーブとの事です」

「なんですって!?」

 

 齎された情報は、新たな戦いの予感を感じさせるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 オーブ首長国連邦の首都オロファトにて。

 

 現代表首長であるウナト・エマ・セイランはある男を出迎えていた。

 

 ロード・ジブリール。ブルーコスモスの盟主にして、ヘブンズベースから唯一逃げおおせたロゴスのメンバーだ。

 

「引き入れてくれたことを感謝しよう、セイラン」

 

 不遜な物言いだが、ウナトは静かに頭を下げた。

 この場にユウナは居ない。ユウナは現在、国防本部へと顔を出しているところだ。

 

 そう。ウナトはユウナが自身を裏切っている事を知っていた。

 ウナトが代表になってからの息子の変化……頻繁に出入りする国防軍やモルゲンレーテへの視察。密かにロゴスと繋がりを持っていた者達への探り。それに気が付いていたのだ。

 彼は政治家としては決して優れた人間では無かったが、父親としては正しく息子を見ていたと言う事なのだろう。

 故にウナトは、息子とは袂を別って目の前の男と相対していた。

 

 

 ヘブンズベースは落ちた……が、連合にはまだ月基地がある。

 ヘブンズベースでの同盟軍の勝利は決して快勝とは言えない。むしろ辛勝だ。

 先制攻撃とデストロイによる殲滅攻撃。更にはクラスターユニットを積んだザムザザーによる特攻兵器に晒され、同盟軍が被った被害は大きかった。

 寄せ集めの戦力を散らされたデュランダルの手元には、ザフトの正規軍しか残されていないのが実情だ。

 依然として、連合との戦力差は歴然である。

 

 ウナトはまだ、ロゴス側の勝利を疑っては居なかった。

 

 

「ふっ、約束しようセイラン。必ず貴様にも勝利を見せてやると」

 

 

 自信満々と言う所か。月基地からの増援を得るか。或いは月基地へと上がり、宇宙でプラントとの前面衝突となるか。

 どちらにせよジブリールは、決して信じるには値しないで人間なのだが、ウナトはジブリールではなく連合の戦力を鑑みて何も答えずに頷いた。

 これが処世術と言うものであると。強きものに傾倒する事は決して間違いではないと。

 この場に居ない息子に示すように、ウナトは沈黙を守り続けながら、事の行く先を見据える。

 

 

 その頭にオーブの行く末は一切なく。あるのは保身……ただそれのみであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザフトの追撃を辛くも逃れたラクス達は、一度エターナルでファクトリーへと帰還。

 資源衛星であるファクトリーをエターナルで牽引して、拠点となる場所を移した。

 

 

 

 戦闘を終えたタケルとユリス、アイシャの3人は状況を把握するべくエターナルの艦橋へと赴き、ラクス達と対面する。

 

「私に良く感謝する事ね、ラクス・クライン。私と兄さんがここに居なかったら、この艦も拠点も宇宙の藻屑だったんだから」

「はい、ありがとうございますわ。ユリスさん」

 

 花も恥じらう程ににこやかな笑みで返されて、ユリスは白けながら面白くないと言う様にラクスから視線を逸らした。

 天然記念物級の箱入り娘だ……恐らくだが他意は無いのだろう。素直に感謝の気持ちを表しているに過ぎない。

 そう思いたいところだが、何分ユリスのこれまでの人生にそのような素直で無垢な人間は居ない。ステラの様な精神構造が幼い人間でもないラクスの素直な感謝が、ユリスは鼻について仕方なかった。

 

「ユリス、変な勘繰りは止めなよ。勘繰るだけ君の方が惨めになるだけだ」

「うっさいわね。こうも素直に受け止められると調子狂うのよ」

「悲しい奴」

「兄さんが言う?」

「あの……何かお気に障りましたか?」

「あぁいや、何でもないよラクス。素直になれないだけだから」

「うっさいっつってんの!」

 

 振るわれた拳を受け流しつつ、タケルはラクスへと向き直った。

 

「ラクス……それで、状況は?」

「一先ずの危機は脱しましたわ。タケルも、ありがとうございました」

「ううん、僕達も助けられている身だしね」

「当然よ」

 

 ゆりかごの解析とステラ達の身体の解析。タケル一人では絶望的であったそれを、ファクトリーに任せる事が出来たのだ。恩義としては十分。

 だからこそユリスも、何の文句もなしに防衛に出てくれたのだ。

 どこか素直じゃないユリスの態度に苦笑しながら、タケルは当然だと言う様に頷いた。

 

「この後はどうするつもり?」

「ファクトリーの場所をある程度移しましたら、私達はエターナルで軌道上へ。あれ等をキラ達に届けなければなりません」

「随分急いた動きだね。それに届けなければって……」

 

 出来るのであればキラとアスラン、それにカガリを呼んで機体とのテストをしたい所。だが、それを待たずにエターナルに積んである彼等の機体を届けるという。

 ラクスの言葉に、タケルは訝しんだ。

 

「タケル……事は起ころうとしています」

「どういう事?」

「ザフトとやり合ってる間に入った情報だが、どうやらオーブにジブリールが逃げ込んだらしい」

 

 艦長席のバルトフェルドからの声に、タケルは目を見開いた。

 

「そんな、何で……今の状況でそんな事をしたら、世界中からオーブは」

「はい。既にザフトはジブラルタルとカーペンタリアから軍を差し向けています」

「────政府は何をしてるの。カガリは?」

 

 静かにラクスは首を振った。

 

「オーブ政府はまだ動きを見せていません。カガリさんも……オーブには帰国したとの事ですが、まだ表には」

 

 暗くなっていくラクスの表情に、タケルもまたその気配に影を落としていった。

 

 どうにか────何かをしなくては。

 焦燥と、再び訪れた国を焼かれる恐怖に、タケルは身を震わせる。

 

「ユリス……ディザスターを貸し」

「なりません」

「ダメよ」

 

 機先を制する様に重ねられた言葉に、タケルは押し黙った。

 

「タケル、今の貴方はオーブでの立場を失った身です。それにあの機体は元々ユリスさんの……連合の機体でしょう。オーブの防衛に用いるのは後々問題となる可能性があります」

「言ったはずよ。ステラ達の治療を終えるまでは兄さんに自由は無いって。オーブが滅ぼうとも、今の兄さんには関係ないわ」

 

 この時になって初めて、タケルはユリスとの契約を後悔した。

 無論、あの時ユリスの手を払っていれば、今ここでこうして過ごしている事は無かっただろう。それこそ、ヘブンズベースでザフトと戦うために駆り出されていたかもしれない。その可能性を考えれば、ユリスと手を組まない選択肢は無かった。

 

 だがその結果、今この時に自分が完全なる無力であることを示された。

 動く事は許されない。その立場を失い、そしてそれに付随していた力────専用機であるシロガネすらも、今のタケルは自らの意思で乗る事を許されないのだ。

 今のタケルに出来る事は精々、その時が来たら困らない様、開発途中のシロガネを仕上げることくらいであった。

 

 

「────ごめん、少し頭を冷やしてくるよ」

 

 

 無力な己に耐えられず……タケルはその場を後にしていく。

 艦橋に、沈黙だけが残された。

 

 ラクスも、バルトフェルドも、アイシャも。タケルが今どんな気持ちでいるのかは容易に想像がついた。

 

 彼は背負う事を辞められない人間だ。止まる事の出来ない人間だ。

 1つを成せば次へ。次が終われば先へ。できる事をやっている。そう言えば聞こえは良いが、その出来る事が多い為に背負い過ぎてしまう。

 強迫観念に近い責任感で、タケルは自らが関われない事を極端に忌避してしまうのだ。

 

「坊や、大丈夫かしら」

「どうだろうな……2年前も見た気がする。あの感じは」

「────ユリスさん。タケルの事は本当に?」

 

 オーブが滅んでも、今のタケルを自由にはさせない。そう言ったユリスに、ラクスは尋ねる様な視線を向けた。

 

「ダメよ。少なくとも今の兄さんは、解放させられない」

「今の……ですか?」

「えぇ、貴女が言ったようにディザスターをオーブの防衛のために貸すことはできない。でも、そう言われたら兄さんはあの量産機に乗って行っちゃうでしょ?」

「そう、ですわね」

「それであっさり死なれたら困るのよ。兄さんには治療が終わった後のステラ達を面倒見てもらわなきゃいけないんだから」

「貴女は、どうなさるのですか?」

 

 嫌な気配を感じて、ラクスは問いかけた。

 ステラ達を大切に想う気配はユリスから十分に感じられる。それでいて、随分と他人まかせ……そんな気がした。

 

「私は、ステラ達が治ったら死ぬ予定なのよ。大人しく兄さんに殺される……それが契約よ」

「おいおい、一体何の冗談だ?」

「そんな事、坊やがすると思うの?」

「お2人の言う通りです。タケルがそれを了承するとは思えません」

「それぐらい差し出さないと兄さんは私を信じてくれなかったのよ。それに、あの子達が治ったのなら私の心残りももう無い。罪滅ぼしには丁度いいわ」

 

 先の大戦で、ラウと共に核の撃ち合いという滅びの道を人類に敷いた事。その罪は表に出ていないだけで大きいだろう。

 そのそもユリスは、2年前にラウと同じく自身の命を捨てた身だ。心残りが無くなれば素直に死を受け入れる事に抵抗は無かった。

 

「──そんな事は、許しませんわ」

「お人好しね」

「そうではありません。貴方がそれで亡くなってしまえば、残されたステラさん達は悲しみます。後を任されたタケルにもきっと……傷を遺す事でしょう」

「心外ね。兄さんも承知の事よ」

「そうだとしてもです。貴方1人の感傷の為に、彼等を傷つける様な事、私は認めません」

 

 ラクスの強い瞳がユリスを射抜いた。

 生きる事から逃げるなと……そんなラクスの責めるような視線がまた面白く無くて、ユリスは誤魔化すように肩を竦めた。

 

「まぁ、とにかくあんな死に急ぐ様じゃ解放できないわよ。解放して欲しいなら貴方達が説得する事ね」

 

 キョトン、と言った様子でラクス、アイシャ、バルトフェルドは呆けた。

 数秒の間抜けた顔を晒したかと思えば、次いで妙な含み笑いを見せ始め、ユリスはいよいよ捨て置けないと視線を鋭くさせた。

 

「何よラクス・クライン。何が言いたいのかしら?」

「い、いえ、その……随分とタケルの事を心配してくれているのですね」

「はっ……はぁ!? どこをどう聞いたらそうなるのよ! 私が言ったのは兄さんが生きてくれないとステラ達が困るから!」

「聞いていた限りじゃ嬢ちゃんは、悪辣の限りな奴だと聞いていたんだが……」

「やっぱり、坊やの妹なのね」

「ちっ、違うっての! 大体兄さんと私は厳密には兄妹関係じゃないって言ってるでしょ」

「ふふ、良いではありませんか。カガリさんもサヤも、タケルとは厳密には兄妹ではないのに、同じような関係を築いていますわ」

 

 まるで温かく見守る様な視線を向けられて、ユリスはどんどんと怒りのボルテージを上げていく。

 宿敵。仇敵。怨敵。様々な呼び方で対立してきたはずのタケルとの関係を、ふざけた認識で上書きされてユリスは怒り心頭だ。

 

「ふっざけんなぁあああ!」

 

 いくら怒ろうとも、ステラ達を任せている以上決定的な事までは起こせず、ユリスは怒りの儘に声を荒げる事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オーブ首都オロファトの政庁にある地下シェルター。

 緊急時の議場となる少し広い部屋で、カガリは自らの進退を決めかねていた。

 

 望まれている。求められている。代表の座へと再び己が立つ事を、周囲は願っていた。

 だが、そうして双肩にかかる想いが、今のカガリを臆病にさせていた。

 

 大戦を経て、代表となって。必死に今日までを駆けて来た。

 だが、戦火は再び広がり漸く訪れた平和は終わりを告げた。

 中立の意志を貫くために、再び訪れた大西洋連邦の侵攻を退けるも、直ぐ後に代表を追われ、国を追われた。

 国民の意思は、決して自分が思う程まとまっていないのだと思い知らされた。

 

 父と……政治家としての器の違いを、思い知らされたのだ。

 

「どうすれば、良い……何が正しいんだ、兄様」

 

 いつも、こんな時に前を向かせてくれる兄はもう居なかった。

 いつも、無鉄砲な自分を後ろから見守ってくれていた兄はここには居ない。

 

 生きているとは聞いたが、兄がオーブを発った事も聞かされていた。

 

「──カガリ」

「決心はついたかい?」

 

 聞こえてくる声に、カガリは目を向けた。

 見ればアスランを傍に控えさせて、ユウナがこちらに来るのが見えた。

 

 決心────その言葉に、カガリは2人から目を背けた。

 

「ユウナ、アスラン……」

「その様子だと、まだのようだね」

「──うるさい」

 

 お気楽な声と気障な笑みが腹立たしく、カガリはぶっきらぼうに返す。

 目の前のこの男こそが、自身がいない間オーブを守り続けていたと言う。

 父であり代表となったウナトの懐に居ながら、カガリを擁立するために陰で動いていた。連合との繋がりを最小限にし、いずれは戻るであろうカガリの復帰を受け入れさせるべく、首長達の中に少しずつ根を張らせていった。

 

 腹芸のできないカガリにはできない事を、目の前の男はなしたのだ。その事実が、カガリを躊躇させる。

 

「はぁ、本当はその気になるまで待ってるつもりだったんだけどね────アスラン、準備してくれるかい」

「あぁ」

「ユウナ、どう言う事だ──アスラン?」

 

 靴の音が少しずつ離れていく。

 アスランは会議用のデータ投影端末で何かを始めていた。

 

「ユウナ。一体何を──」

「カガリ、君へと遺された大切なメッセージを持ってきたんだ。心して聞いてごらん」

「メッセージ?」

 

 オウム返しに聞き返してくるカガリに、今度は戻ってきたアスランが告げた。

 

 

「カガリ…………今から聞かせるのは、ウズミ様からの遺言だ」

 

 

 告げられた言葉に、カガリは驚き琥珀の瞳を揺らすのであった。

 

 




原作とは中身が違うだろうけど、大事な遺言のターン。

ユリスネキもどうやら、妹枠から逃れられなかった様ですね。御愁傷様。

次回から、オーブ激動。どうぞお楽しみに。

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