機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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大事なお父様のターン。
どうしても原作通りではいかないですしね。とても難産でした。


幕間 届く言葉、聞こえぬ言葉

 

 

 

 

『──カガリ』

 

 

 聞こえる懐かしき声に、カガリは小さく息を溢した。

 胸に去来するは温かい記憶と冷たい記憶。大切な父との忘れ得ぬ日々と、別れを齎した過日の事。

 

 忘れる筈もない……獅子と呼ばれた父が最後に見せた、自身を慮る柔らかな表情を。

 

「──お父様」

 

 自然とカガリの瞳は、先程までの弱さを無くし力強さを秘める様になっていった。

 

 

『もしもお前が国を背負い迷う時、その希求に応えて私はこの言葉を贈ろう。教えられなかった事は多くある……が、私が教えるべきはそう多くはない。お前が足りぬと思う事は、お前が学ぼうとさえすれば、必ずやお前を愛し支えてくれる人々から受け取る事ができるだろう。

 故に私はただ1つ、この言葉を贈ろう』

 

 

 カガリだけではない。アスランも、ユウナも、居住まいを正してその言葉を待った。

 

 

『其方の心に従いなさい』

 

 

 静かで短い。しかし万感の込められた声音であった。

 

 

『道のまま、お前が定めた成すべき事を成す為に……其方の心に従いなさい。それこそがお前の幸せに繋がるただ一つの方法だ。父が願う最も確かな願いだ。

 足りぬと嘆くも、届かぬと悲するも、自分に望みすぎる愚と心得よ。手を借りて、知を借りて、道を進むは悪い事ではない』

「ですが、私はお父様の様には──」

 

 届くはずのない声を、しかしカガリは挙げずにはいられなかった。

 敬愛する父。獅子と呼ばれた立派な父。その背中は依然遠く、大きい。

 目指すべき目標でありながら、決して届かぬ目標となっていた父の言葉は、今のカガリを苦しめた。

 

 

『カガリ────今際の際になって、父は其方を羨ましく想う』

「ぇ……」

 

 

 まるで答えをくれるかのように、ウズミの言葉は流れて来た。

 

『其方の周りには、きっと今も多くの者が居るだろう。父は為政者として事を成すことはできたが、終ぞ其方の様に人を惹き付ける事はなかった。託すことができなかった。信ずることができなかった────父はいつも、1人で背負おうとするばかりであった』

 

 それは知られざる葛藤。

 ウズミ・ナラ・アスハもまた、カガリと同じく悩みを抱えながら生きていたと言う事実。

 叔父のホムラの様に傍で支える理解者も確かにいたが、ウズミを理解し支える者は決して多くはなかった。

 後ろに続く者は多くとも、隣に並んでくれる者は居なかったのだ。

 

「お父、様…………私は」

『カガリ、父と道を同じくする必要はない。私は私、其方は其方だ。できる事もやり方も違うのは自然な事。其方が目指すのは、私で無くて良いのだ。

 故に、其方が従うのは私の遺志では無く其方の心。どう在りたいか、どうしたいかは其方の心だけに聞きなさい』

 

 偉大な父に託された国────それがカガリを縛る足枷になると、ウズミは読んでいたのだろう。

 在りし日のオーブ、在りし日の父の姿が。呪いの様にカガリをそこに当てはめようとしていた。

 

 カガリは本心から、亡きウズミの理想である中立のオーブを目指していた。それはウズミに託されたから…………それが理由ではない。

 永世の中立。ナチュラルとコーディネーターで分たれる世界に置いて、それが平和の到達点になると信じたから。どちらも等しく“人間”で在り、違いなど無いのだと示す為に、それを目指した。

 

 だが、そこに至る道までを同じにする必要はない。

 カガリ・ユラ・アスハは武闘派だ。ウズミの様に思慮深く立ち回る様な深い思考性は持ち合わせていない。どう足掻いても彼女は、ウズミと同じ道など歩めはしないのだ。

 

 目指す所を同じとしても。その道程は違くても良いのだと。

 人を惹きつける才覚を持つカガリには、別の道があるのだとウズミは伝えようとしてくれていた。

 

 

『そろそろ時間だな────カガリ、其方に幸多き道が在らんことを』

 

 

 最後に、父としての優しさを溢して。ウズミの遺言は終わった。

 自然と溢れてくる涙を拭うことも忘れて、カガリは噛み締める様に遺言を流していたスピーカーを見つめ続けた。

 

 ユウナもアスランも。その様子を静かに見守ることしかできなかった。

 

 

 囚われていたのだろう、とカガリは気付かされた。

 父に託された国────その事実に。

 失われた故国────その出来事に。

 在りし日の平和を目指し、失った過日に恐怖し。それらに囚われすぎて、望むべき到達点を見失っていた。

 

 理想を目指そうとしていた自分の意志すらも、見失っていたのだ。

 なるほど、これではユウナが呆れるのも無理はないとカガリは自嘲した。

 

 

 

「なぁ、アスラン」

 

「なんだ、カガリ?」

 

 返ってくる声はとても淡白であった。

 少なからず先のウズミの言葉に感銘くらいは受けてくれているだろう。それを表に出さないところは、らしいな、とカガリは笑みを浮かべた。

 

「オーブの代表首長に相応しいのは誰だ?」

 

「何を今更。2年前に俺は、君を傍で支え続けると決めた…………これが答えだ」

 

 あの日、オロファトの式典会場で。カガリが国民達の前で意志を表明した日に、アスランはそれを胸の内で誓った。

 無鉄砲で危なっかしい兄妹を、傍で支え続けると。

 

 

「ユウナ」

「僕が先じゃないのは甚だ面白くないけど……何かな、カガリ?」

「お前から見て、私に足りないのは何だ?」

 

 

 順番だけで無く、アスランへの問いと違い中々答えの困る内容に、ユウナが気障な笑みを仏頂面へと変化させた。

 

「そうだねぇ。この際だからはっきり言わせてもらうけど…………思慮は浅いし、すぐ胸の内を表情に出すし、声は大きいし、がさつで後先考えないし。あっ、あと女の子なのに見た目を気にしないのもマイナスだね。僕はもう少し淑女らしい子の方が好みだよ」

「ちょ、ちょっと言い過ぎじゃないか? 普通に傷つくぞ」

「でも…………だからこそ僕も君が代表に相応しいと思うよ。そんな君こそが、オーブの顔になるには相応しいんだ。それに、僕はそんならしいカガリが好きだもの」

 

 ゾワっ、と嫌な気配が背筋に走りカガリは最速でアスランへと視線を向ける。

 むっ、と見慣れた仏頂面が清涼剤の如く、カガリの鳥肌立った心を落ち着けてくれた。

 

「──そう言うのは気持ち悪いからやめろと言っているだろう、ユウナ」

「こう言う時に告白したら、カガリもときめいてくれるかと思ってね」

 

 悪びれる気配の無いユウナに、カガリはまた一つ彼への好感度を落とした────報われないものである。

 

 静かに、カガリは瞳を閉じて思考に落ちていく。

 ウズミの遺言を聞き、改めてカガリは自身がゆくべき道を見定めようとしていた。

 

 混迷していく世界。揺れ動く情勢。

 守るべき国民達。目指すべき平和。

 

 カガリの中で、望む未来とそれを形作る心が繋がっていく。

 

 

「良い顔になった、カガリ」

 

 

 いつの間にか側に来ていた想い人の声に、カガリは強く頷いた。

 

「また無茶をする様になるが頼らせて欲しい、アスラン」

「君達兄妹のそれには慣れっ子だ。だから、遠慮せずに頼ってくれ、カガリ」

 

 どちらからとも無く握手を交わす。後ろでまたユウナが面白く無いと言う様に顔を顰めた。

 

「──ユウナ、そんな顔をしないでくれ。私はお前にも感謝している、本当だ。おかげで目が覚めた」

「勿論感謝してくれなきゃ困るよ。君のお父上の遺言を持ってきたのは僕なんだから」

「そうは言うが、単にモルゲンレーテで密かに保管されていたデータをシモンズ主任から渡されただけだろ? 恩着せがましい」

「アスラン、そう言うのをバラすのはフェアじゃないんじゃないかな」

「それを隠してカガリの気を引こうとする方が良くないだろ」

「あー、もうやめろよ2人してそう言うの。今はそんな時じゃないだろ」

 

 そう言って、カガリは居住まいを正した。釣られるように睨み合っていたユウナとアスランもカガリと真っ直ぐに相対して姿勢を正して見せる。

 まだ代表へと戻ったわけでもない。だが、今のカガリが見せるは揺らぐことの無い意志が醸し出す不動の気配。

 芯が一本通った…………オーブの獅子の再来と言われるに相応しい、為政者の顔に戻っていた。

 

「本当、良い顔になったね」

「茶化すな────それでユウナ。今の状況は?」

「そうだね。ひとまず状況の整理をして今後の事を決めようか。まずは──」

 

「失礼します!!」

 

 議場によく通る声。軍人らしい宣言と共に訪れてきた、国防軍の軍服姿。

 覚えのある顔が見え、カガリ達は揃って訝しむように彼、トダカ一佐へと目を向けた。

 

 

「トダカ一佐、何事だい? カガリの所在が割れぬように不用意にこちらに来ない様にと言っておいただろ?」

「緊急事態です────ロゴスのロード・ジブリールがオーブに入ったとの情報が世界に流れております」

「何っ!?」

「どう言う事だトダカ!」

 

 

 思わず声を荒げて問い詰めるカガリには、トダカは次いで報告を述べていく。

 

 

「それを受けてプラント及び各国同盟軍は、戦力を終結させて現在オーブ領海へと進軍中との事。急ぎ国民の避難のご指示を」

 

 

 それは、再び訪れるオーブ崩壊の足音であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 洋上を進むは大艦隊。

 ジブラルタルから駆けつけたミネルバを先頭に、カーペンタリアやヘブンズベースで生き残った戦力をかき集めた各国の反ロゴス同盟軍は、中立であったはずのオーブを目指していた。

 

 そう。もはやオーブは中立であった国。

 世界中で騒がれるロゴス打倒の風潮の中、その筆頭とも言える指揮をしてきた人間ロード・ジブリールを密かに引き入れたとなれば、それは世界への反逆である。

 各国同盟軍の意気は高いものであった。

 

 

 

 ミネルバ艦橋で、タリアは神妙な面持ちを見せていた。

 

『兎も角我々は彼の身柄の引き渡しを要求する。ヘブンズベース戦での彼の責任、また既に得られた様々な証言から彼の罪状は明らかなのだ。それを匿おうというのは到底許せるものではないだろう』

「ですがオーブは、簡単な国ではありません。ダーダネルスで我々はそれを痛感しております。武力の依る呼びかけは、些か危険では無いかと具申します」

 

 通信越しで対面するデュランダルの言葉に、タリアは素直に頷く事はできなかった。

 オーブの戦力はタリアが言う様に、その練度の高さを知らしめている。

 ダーダネルスでの戦いの直後、タリアはハイネより報告を受けていたが、前線のパイロットは1人1人がザフトでは特務隊レベルと言って差し支えないと言う。

 小さな島国と言う、羊の皮を被った狼であった。

 ともすれば、この居並ぶ大艦隊の戦力ですら退ける可能性を、タリアは想定していた。

 

『連戦で疲れているところを本当に済まないと思うがね。だが頼む、グラディス艦長。

 オーブはその軍事技術の高さを誇るだけでなく、マスドライバーなどの宇宙(そら)への道をも持つ国だ。私はそれが、気に掛かって仕方ない』

「と、言いますと?」

『ジブリールがオーブの軍事力をも持って月の連合軍と合流するようなことになれば、プラント本国がまた危機に曝される可能性も出てくる……ということだ。彼こそがブルーコスモスの盟主であるということを忘れたわけではあるまい』

「オーブが、中立を捨てるだけで無く反プラントを掲げると?」

『現に彼はオーブにいるのだ。我々が彼を捜していることをあの国だけ知らないはずはないだろう』

 

 やはりオーブはロゴスの陣営か。

 ブルーコスモスだったか。

 だからロゴス打倒の呼びかけにも動かなかったのか。

 

 通信の背後で、ザフト将校達の声が次々と聞こえてくる。

 

『オーブはユニウスセブンの件があるまでは友好国として親しくしてきた国だ。それを思うと残念でならないが。だが、我々もこの度の件に関しては一歩も引くことはできん。ロゴスの暗躍、これ以上は許さん。今度こそ必ず彼を押さえる。頼んだよ』

「────それはつまり、目標のためには侵略的戦闘行為を辞さないと?」

『あぁ、残念だが』

 

 思わず、タリアの脳裏にカガリの顔が過った。

 目の前の狸に比べると未熟で、だがそれ故に実直。共に艦内で過ごした時間では、とても反プラントに傾倒するとは思えない人柄であった。

 彼女の図らいで、傷ついたミネルバは修理され、地球軍に待ち構えられてはいたものの無事に脱出することができた。

 それを思えば、情勢の変遷があったとはいえ、彼の国に砲火を向けるのは気が引けると言うものだ。

 努めてそれを表に出さない様にして、タリアは通信先のデュランダルへと頷いて返した。

 

「承知しました。第一目標をジブリールの確保として、オーブへの交渉と侵攻をします────吉報をお待ちください」

『苦労を掛ける。タリア』

 

 少しだけ素の顔を見せると、デュランダルは通信から消えた。

 

 艦橋には沈黙が続く中、タリアは皆に聞こえない様に大きくため息を吐いて、御しきれない想いを胸の内から吐き出すのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カタカタカタと音は鳴る。

 

 ファクトリーの工廠内で、タケルはひたすらにシロガネのシステム構築を進めていた。

 

 出来ることは、これしか無かった。

 ラクス達は既にエターナルで地球への降下軌道へと向かっている。オーブへの侵攻が判明した今、もはや迷っている暇は無く軌道上から降下ポッドでフリーダムとジャスティス、アカツキを射出する予定だ。

 オーブを守る為に皆が動いている中、タケルはここから自らの意思で離れる事も出来ず、また戦う力もその手には無かった。

 

「どうして僕は……いつも肝心な時に」

 

 悔しさに、握った拳に力が込められていく。

 2年前もそうであった。

 SEEDの事を調べるため、孤島に居たマルキオを訪ねている間に大西洋連邦の侵攻を受けた。

 タケルは随分と遅れての参戦となり、その間にもオノゴロは随分と焼かれていたし、国防軍には大きな負担と犠牲を出してしまった。

 

「何でいつも、僕の手は届かないんだ……」

 

 失うときはいつもそうだ。

 力が足りず、届かぬ事ばかり。オーブを奪われた時も。2人の父を失った時も、大切な妹を目の前で墜とされたときも。

 いつもいつも、何もできないまま終わってしまっている。

 

「────くそっ!!」

 

 ガタンと音を立てて端末に拳を落とす。

 それが無意味なことなど理解しているが、今のタケルは己の不甲斐無さを払拭できず物に当たることしかできなかった。

 

「こーら、物に当たらないの」

「っ!? エ、エリカさん…………」

 

 横から聞こえてくる声に、タケルはびくりと肩を震わせて罰が悪そうに歩み寄ってくるエリカから視線を逸らした。

 

「相変わらずね。そうやって危なっかしい背負い込み方をして」

「ほっといて下さいよ」

「そんな状態の貴方をほっとかないわよ。私は貴方の事を、アマノ総括から任されてるんだから」

「えっ…………それって」

 

 予想外な言葉に、タケルは目を丸くした。

 慌ててエリカの方を見れば柔らかく笑みを返されて、タケルは彼女が嘘を言っていない事だけはなんとなく理解する。

 

「どう言う、事ですか?」

「あの日、クサナギが発進する直前にね。通信でアマノ総括から言葉を受けたの」

「父上から……」

「えぇ────“厳しくする事しかできなかった己に代わり、1番身近に居た貴女に息子を見守って欲しい”って。あの御方は最後に父として、貴方の事を案じておられたわ」

 

 目を見開いて、タケルは信じられないものを見る様な視線をエリカへと向けた。

 厳格な…………厳格すぎた父が遺した言葉。それが自分を案じた言葉とは、直ぐに信じられることではない。

 

「貴方は優秀過ぎるから。きっといつか背負い過ぎて耐えられぬ時が来るだろうって。本当、良く貴方を理解しているわね」

「そんな事…………」

「あるわけが無い? でもね、貴方を案じていたのは事実よ。そして、それはきっとウズミ様も一緒」

「父さんも、ですか?」

 

 静かに、エリカは頷いた。

 

「神妙な顔をしてらしたわ。姫様より余程心配だったみたいで」

「それはなんか……心外ですね」

「的を射てるわよ。今の貴方を見れば」

「──すいません」

 

 少しは強くなれた……そんな根拠のない強がりは誰からも見破られていて。その上どうあっても強くはなれない自分に。タケルは心底嫌気がさしてくる。

 

「私はね、貴方にとってはただの仕事仲間。技術者としてただの同僚でしかないのかもしれないけど…………」

「いえ、そんな事は──」

 

 とすん、と小さな衝撃。気がつけば、タケルはエリカの腕に抱え込まれていた。

 

「エリカ、さん?」

「あの日、アマノ総括に託されてから。私は貴方の母親代わりになろうと決めたの。だから、そんな危うい状態の貴方を放っては置けないわ」

 

 掻き抱かれて伝わる温もりは、言葉の真偽を語る様であった。

 言われて気がつく。確かにエリカは、オーブを脱出したあの日から少しだけ距離感が変わった。

 ヤキン・ドゥーエで最後の戦いに赴く時、彼女の言葉に背中を押され、そして見送られた事をタケルは良く覚えていた。

 

 

 “ 長い間頑張り続けてきた貴方を見てきたんだから────だから、最後まで頑張りなさいと見送ってあげる”

 

 

 それは、失う事を恐れて戦場に赴くのを躊躇するタケルにとって、厳しくも力となる言葉であった。

 あの日、タケルはエリカの言葉に母の優しさを覚えていた。

 

「教えてくださいエリカさん────僕はどうすれば良いんですか?」

 

 だからこそタケルは、何の気兼ねもなく問いかけた。

 仮にユウキが存命であれば、きっとこんな事は聞けなかっただろう。いっそ情けないとボロボロに叩きのめされていたかもしれない。

 

 優しい声で送ってくれた彼女だから、答えを無条件で示してくれそうで、縋る様にタケルは己の為すべきを問いかけた。

 

「好きになさい。どうしたいかを言葉にしなくては、貴方の気持ちは伝わらないわ」

「良いんですかね。好きにやっても?」

「良くない理由があるのかしら? 人は貴方が思うより、もっと自分勝手よ」

「それは……確かにそうですね」

 

 ユリスを見れば、あれ程までに不遜で勝手な人間もいないとわかる。タケルは思わず乾いた笑みを浮かべた。

 

「もう一つ、良い事を教えてあげるわ」

「何ですか?」

「アマノ総括が遺した言葉はもう一つあるの────“お前ができなかった事など他の誰にもできはしないだろう。お前をそれ程優秀に育てた自負が私にはある。故に、己に足りぬと嘆くは父を愚弄することと心得ろ。“だそうよ。あの御方も結局は、親バカだったってことね」

「酷い暴論ですね…………要するに自分が育て上げたから、下を向いて歩く事は許さんぞって事でしょ。最期に遺す言葉までスパルタとは恐れ入るよ本当」

 

 言って嘗ての苦い記憶を思い出し、タケルは身を震わせた。

 しかし、その表情にはどこか憑き物が落ちた様な軽やかな気配があった。

 最後の最後に一度だけ褒めてくれた父は、心の奥でタケル・アマノを誇りに思っていてくれたのだと。その事実がわかったから。

 

「ありがとうございました、エリカさん。僕、言われた通りに、少しだけ好きにやらせてもらいます」

 

 決意は自ずと湧いてくる。

 タケルは先ほどまでとは打って変わって、前を見据える強い眼差しを宿していた。

 

「手伝いはいるかしら?」

「シロガネの仕上げを手伝ってください。できれば、ここにいる技術者みんなで」

「りょーかい、皆大喜びで手伝ってくれるわ。フリーダムやジャスティスと違ってシロガネは純オーブ製で最高の機体。触りたくてウズウズしている位」

「あ、あはは…………壊さないでくださいね」

「バカにしないの。さっ、やる気が出たなら頑張りなさい」

「はい!」

 

 2年前と同じ様に背中を押してくれる声を受けながら、タケルはシロガネ完成に向けて作業を再開した。

 数分後には、スタッフが集まり工廠全体が一挙に慌ただしくなって行く。

 

 

 

 ORB-0000。機体名シロガネ・コクウ。

 

 主役達の居なくなった工廠で、この世界における最強に相応しい機体が、今生み出されようとしていた。

 




いかがでしたか。

さて、機体名が判明の新主人公機。シロガネ・コクウとなります。
意味は虚空から。転じて、核動力搭載機のフリーダムを見た主人公が、制約度外視で設計した「空想」の産物であることから来ております。
完成した設定を作者はもちろん持ち合わせておりますが、まぁ何と言うか強さと言うよりは発想という意味で、非常におかしい設計となっております。
活躍する時をお楽しみに。
ツィじゃなくてXには以前投げましたが、この後アサギ達も専用機あるしアカツキもオリジナル強化してますし、サヤのシンゲツもあってでオリ機体が盛りだくさんとなります。
そちらもどうぞお楽しみに。

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