機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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PHASE-19 訣別の時

 

 

 

 “救助した民間人である彼女を人質に……そんな卑怯者と共に戦うのがお前の正義なのかキラ! ”

 

 “許さない……彼女は助け出す。必ず! そして俺は、お前達地球軍を許さない! 覚えておけ! ”

 

 

 

 ザフトにいるアスラン・ザラは、今頃どんな顔をしているのだろうか……

 

 別れ際の言葉を。そこに乗せられた怒りを思い出して、キラはラクスとの食事の最中手を止めた。

 食べながらの会話もマナーに欠ける。

 流石にお姫様なだけあって、ラクスは食事をしながらまでおしゃべりを優先する子ではなかった。

 

 必然的に部屋には沈黙が流れ、沈黙はキラにアスランとのやり取りを思い出させてしまう。

 

「また、難しい顔をしておられますわね」

 

 ふとかけられた声に、キラは顔を上げた。

 随分と手を止めていたのだろう。ラクスは食事を終えて、キラの様子を伺っていたようであった。

 

「ご、ごめん。変な雰囲気出しちゃって」

「先程の、フレイさんの事ですか?」

「──ううん、違うんだ。その……ザフトにいる友達の事で」

「ザフトに、ですか……それは、キラ様もお辛いですわね」

 

 聡い子だとキラは感じ入った。

 比較するのは失礼な話だが、フレイの様に相手を気遣う事がないのとは真逆の……まるでこちらの心情を把握し寄り添う様な声音であった。

 

「貴方が人質にされて……彼に、言われたんです。貴方は必ず助け出す、そして卑怯な僕達を許さないって」

「そうですか……」

「勿論、貴方を人質にした僕達が悪い事はわかってるんです……でも、僕は人質にするために救命ポッドを拾ったわけじゃないですし、その事でアスランに恨まれるなんて思っても──」

「アスラン? キラ様、今アスランと仰いましたか?」

「え? そうですけど……」

 

 思いもかけない名前がキラから出されて、ラクスは失礼だとわかっていながら、キラの言葉を遮り問いかけた。

 なるほど、とラクスは理解する。

 確かに彼が今回の事を当事者として目にしていれば、それは怒りも一入だろう。

 朴念仁ではあるが、心優しく、常に紳士的に振舞おうとする彼の事だ。

 民間人の、それも“婚約者”である自身を相手が人質にしたとあっては怒るのも無理はない。

 

「もしかして、アスラン・ザラを知っているのです?」

「はい。アスラン・ザラは、私がいずれ結婚をする方ですわ」

「結婚って、それじゃつまりアスランとラクスさんは婚約を?」

「ええ」

 

 ラクスがアスランを知っている事にも驚いたが、まさかその2人が婚約をしているという事実にさらなる驚きをキラは隠せなかった。

 目の前の天使のような少女と婚約、男としては羨ましさを抱かずにはいられなかったが、それ以上に、救助した民間人を人質にした事が、親友の婚約者を人質にしたことへとグレードアップし、キラの罪悪感が更に膨れる。

 

「キラ様は、アスランとはどのような?」

「僕は……僕達は、月の幼年学校でずっと友達だったんです──僕にとっては親友でした」

「そうだったのですか……仲の良い友達同士で。

 それは悲しくお辛いでしょう」

 

 またも寄り添うようなラクスの声と言葉に、膨れ上がったキラの罪悪感が幾分か和らぐ。

 キラはため込んでいた想いを懺悔する様に、口が動いていった。

 

「彼は、コーディネーターである僕が地球軍にいるのはおかしいって。ザフトに来るようにと誘ってくれました」

「貴方を、討ちたくなかったのでしょうね」

「でも、僕はその手を振り払ったんです。

 だって、アスラン達はヘリオポリスを破壊して……そして今はこの艦を狙ってサイ達を殺そうとしているから」

「友人と友人の間で……キラ様は葛藤に苛まれたのですね」

 

 言葉にせずとも先を理解してくれるラクスにキラは感謝した。

 事細かに心情を語るのは憚れるし、億劫であった。

 言葉にして自ら出せば、より弱く見えるようで嫌であった。

 

「ここには、僕の大切な人達がいる。だから、僕は皆を守るために、襲ってくるザフトを討った。

 でも、アスランからすれば、僕は彼の仲間を討つ敵になる。

 アスランだけじゃない。僕に討たれた人の家族達からすれば、僕はその人の仇になる」

「難しいですわね。迷えば、今度はキラ様が討たれることになります。そうすればご友人達もタケル様も、きっとキラ様を討った人を許さないでしょう」

「──どうして良いかわからないんです。

 アスランとだって本当は戦いたくない。もっと言うなら、僕は誰とも戦いたくないし、誰も討ちたくはない」

「それが叶う世界であれば、本当に良かったと思います」

「でも、ずっと見てて思うんです。地球軍もザフトも、戦争の先に何をみているんだろうって」

 

 それはキラだけではない。

 タケルも、カガリも。もっと言うならきっと当事者であるマリュー達ですら心のどこかで疑問を抱いていることであった。

 

 既に戦争は長期化し激化。

 互いに新たな兵器を投入し、互いに失われた分だけ軍備を増強していく。

 

「僕とアスランがまた笑い合えるような世界。それが叶う世界が果たして戦争の先にあるのかなって」

 

 犠牲になる人は増え続け、戦火に巻き込まれた人も増え続け──その先に見えるのはさらなる激化した戦争ではないのか。

 終わりが見えない。それを言葉にせずとも皆感じている。

 

「──キラ様は、アスランに恨まれたままでは嫌ですか?」

「それは勿論……そうですが」

 

 突然の要領を得ない質問に、キラは首を傾げた。

 それを肯定したところで、彼女に何ができるのだろうか。

 キラはラクスの言葉を待った。

 

「先の戦闘の件でしたら、帰還した私からアスランを説得もできます。そして、今この瞬間の緊張状態も、私であれば丸く収める事は可能です」

「それって……」

「但し、地球軍は最高評議会議長の娘という切り札を切って捨てることになります。それを艦長さん達が了承するとは思えません」

 

 ラクスの言う事をキラは理解していく。

 帰還したラクス。切り札を捨てる地球軍。

 この物言いから考えられる状況は1つだ。

 

「僕に……君の脱走を手伝えと?」

「キラ様は私に優しくしてくれましたから。貴方が望むのであれば、貴方が望む未来に尽力させていただきたいと……そう思います」

「そんな、優しくなんて……どっちかと言うと、僕の方が君に優しくしてもらって、助けられて……」

 

 思い出して気恥ずかしくなり、キラは顔を赤くして視線を逸らした。

 忘れもしない。フレイの言葉に傷ついて、それを見透かされたラクスに、良い様に丸め込まれ。

 まるで母に抱かれた様な感覚のままに、彼女の綺麗な歌と共に眠りについたこと。

 そんなキラの様子に、ラクスは口元へと手を当てて小さく微笑みをこぼした。

 

「私にとって、歌う事で貴方を癒せたなら、至上の幸福ですから」

 

 なんてことはない。

 彼女にとってみれば、己の歌が誰かの役に立てたのなら、それは喜ぶべき事なのだと。

 キラはラクスに助けられたのではなく、ラクスがキラを助けたかっただけなのだと。

 

 そんな彼女が提案する話。

 キラは先のラクスが見せた凛とした表情を思い出し、それを信じる事にした。

 

「──わかりました。貴方に、僕の願いを託させてください」

 

 食事を急いで片づけたキラは、彼女を伴い部屋を出るのであった。

 

 

 

 数十分の時を置いて、艦内には緊急のアラートが鳴り響く事となった。

 

 

 

 

 

 ザフト軍ナスカ級戦艦ヴェサリウス。

 

 現在艦内は混乱の最中にあった。

 

 付かず離れずを維持していたヴェサリウスに対して、前方のアークエンジェルからMSの発進が突如確認される。

 アークエンジェル自体の航行はそのままだったこともあり、戦闘の前兆が無かったことから隊長のラウも艦長のアデスも、完全に不意をつかれ対応に悩んだ。

 

 そんな彼等を尻目に、飛び込んでくる全周波放送。

 

『こちら、地球連合軍アークエンジェル所属MS、ストライク! 

 ラクス・クラインを同行、引き渡す』

 

『但し、ナスカ級は艦を停止。イージスのパイロットが単独で来ることが条件だ。この条件が破られた場合──』

 

『彼女の命は、保証しない』

 

 

 

 はっきりと通達された内容に、ラウもアデスも顔をしかめた。

 明確に脅しと取れる文句。先手を取られたと理解し直ぐに艦の停止を指示した。

 

「なんのつもりだ、足つきめ」

「如何されますか、隊長」

「敵の真意が読めん。一先ず向こうに通信を──」

「隊長、自分に行かせてください!」

「アスラン?」

 

 ラウとアデスの会話に割り込んだアスラン。

 上官同士の会話に割り込むなど、本来懲罰ものである。

 模範的ではないその所業にアデスが驚く中、ラウは冷静に返した。

 

「アスラン、いかに君があの機体と因縁があるとはいえ、このような一方的な動き、そう易々と応じるわけにはいかない」

「ですが、このまま手をこまねいていても状況は変わりません。

 我々は動き様が無かった……そんな中先に向こうが動いてくれたんです。これは状況を打開するチャンスではないかと具申します!」

 

 確かに、とラウはアスランの具申を冷静に分析する。

 ラクスがアークエンジェルに囚われている以上、手を出すことはできなかった。

 八方塞がり。打つ手は無しだった状況から、まさかの相手から人質を引き渡すと言ってきたのだ。

 嘘であれ真であれ、これは状況を変えるチャンス。

 それを逃すほど、ラウとて慎重になる事は無い。

 

「アスラン、君が思う勝算は?」

「根拠は述べられませんが、確実かと」

 

 上官の問いに隠し事を含ませた答えをするなど、やはり模範的ではないアスランの回答にアデスが眉根を寄せるが、事情を知っているが故にラウだけはその答えに満足した。

 

「良いだろう。アスラン、直ちにイージスで迎えに行け。非武装でな」

「隊長! 一体何を」

「若者の決意にかけてみる。そう言う事だアデス」

「は、はぁ……了解しました。イージス出撃準備を急がせろ。武装は無しで良い!」

 

 アデスの指示が格納庫へ飛ばされ、整備班が慌てて準備を始める報告が返ってくる。

 

「隊長、ありがとうございます」

「構わん。但し、失敗は許されんぞ」

「はっ!」

 

 敬礼を返し、足早に艦橋を出ていくアスランを見送ると、ラウは格納庫へと通信を繋いだ。

 

「私だ。アスランが出たら私のシグーの準備を済ませておけ。無論、武装も積んでな」

「隊長……?」

「心配するなアデス。姫を助けに行くナイトの邪魔はしないさ──私の狙いは、その背後にある城だからな。エンジン始動の準備だけはしておけよ」

「はっ!」

 

 アデスが再び艦長として指示を飛ばす。

 それを耳に入れながら、ラウは艦橋から覗ける星々の大海を見つめた。

 

「さて、一網打尽にさせてもらおうか。ムウ」

 

 

 

 

 

 その頃、アークエンジェルもまた突然の事態に混乱の極みへと陥っていた。

 

 状況の確認に荒れるCIC。

 キラを呼び戻そうと通信を繋げるマリュー。

 緊急の出撃に備えメビウス・ゼロで待機するムウ。

 ナタルは現在、余りにも急な事態の変遷にタケルが眠る自室へと奔走中だ。

 

 ほんの数時間で良いから安心して寝かせようと、アラートから何から全部切断しておいたのが仇になった。

 タケルは恐らくこの事態に気が付いていないだろう。

 アストレイがまだ完全に修理できていないため何ができるかとなるだろうが、脚部の換装自体は終えているため、いざというときには動ける。

 起き抜けに出撃とならないよう願うばかりだが、とにかくナタルは自室へと急いでいた。

 

「状況は!」

「ナスカ級、艦停止を確認! 通信の通りにイージスが非武装状態で出撃してきています」

「呑んだというの……あの要求を」

『油断してらんないぜ。この状況……あのお姫様を渡したらあちらさんは全力投球してくるだろう』

「フラガ大尉の言う通りよ。警戒を厳に! アマノ二尉とアストレイは!」

「アマノ二尉は現在、格納庫へと向かっているそうです。アストレイは損傷した脚部の換装を終了。事前にアマノ二尉が作業を進めていた事もあり、それなりに動ける状態にはなっていると、マードック軍曹から報告が挙がっています!」

「──できれば、そんな状態では出したくはないわね」

「ストライク、イージスと接敵!」

 

 オペレーターのパルの報告を受け、マリューはまた一つ緊張の度合いを引き上げた。

 これから行われるやり取りがどう転ぼうと、ここで一触即発の戦闘が起こる事は自明の理であった。

 

 カウントダウンが開始された合図である。

 

 

 

 

 ストライクの中で、ラクスを抱えたキラは緊張の面持ちで居た。

 

「大丈夫ですか、キラ様?」

「大丈夫……覚悟はできてるから」

 

 きっと戻れば、キラは大変なことになるだろう。

 彼女を連れ出すことに理解を得られるはずがないと、何も言わず勝手に出てきたのだ。

 だが、自分がどうなろうと彼女を引き渡すことでアスランとの……いや、追撃を続けるナスカ級との戦闘が避けられるのなら、やる価値があると思えた。

 

「安心してください。キラ様とアスランの事、それからヴェサリウスとの緊張状態だけは、私の力で回避してみせますから」

「──ありがとう、ラクスさん」

 

 そうこうしているうちに、発進したイージスが装備を持たない状態でストライクの前へと向かってくる。

 キラは警戒をしてビームライフルをイージスに向けながら、近距離通信を開いた。

 

「アスラン・ザラか……?」

『こちらはアスラン・ザラだ──キラ・ヤマト』

 

 わかり易い回答であった。

 ストライクに乗っているのがキラだという事はザフトで彼しか知らないだろう。

 声も合致する以上替え玉である事はない。

 ならばこちらも示さなくてはならない。

 

「コクピットを開け」

 

 言うと同時にキラもコクピットを開く。

 互いにコクピットが開かれ、間に数十mの距離を置いて、2人はヘリオポリス以来に顔を突き合わせた。

 

「ラクス、何か君だとわかるように喋って。君だという事を確認してもらわないと」

「そうですわね────こんにちは、アスラン。お久しぶりですわ」

 

 記憶にある声と口調。柔らかにアスランへと手を振る仕草。

 確実であろう。彼女がラクス・クラインであることは。

 

「──確認した」

「それなら、連れていけ」

 

 硬い口調で答えた友の声を聴いた直後、ストライクのコクピットからラクスがゆっくりと飛び出してくる。

 アスランは慌ててコクピットから抜け出ると、ラクスを受け止めるのだった。

 

「感謝する」

「──僕は、人質にするために、救命ポッドを拾ったわけじゃないから」

「だったら! キラ、お前もこっちに来い!」

「ッ!?」

 

 強くなった語気を纏い、アスランは手を伸ばした。

 キラはそれを、肩を震わせて見つめる。

 

 ここで手を伸ばし、向こうに行けたらどれだけ良いか。

 何も捨てるものが無く、プラントへと逃げ出せたならどれだけ楽か。

 だがキラにはもう、簡単に捨てられないものがアークエンジェルにたくさんあった。

 キラは、アスランの声に頭を振って応える。

 

「彼女を人質とする地球軍。そんな連中と、お前は一緒に居たいのか、キラ!」

「仕方が無かったんだ。艦を墜とされる可能性があるのなら、なりふり構ってはいられない。じゃないと死んでしまうのだから」

「だからと言って、民間人である彼女を人質にして良い理由にはならない!」

「良い事だとは誰も思っていない!」

「キラ……」

「あの艦には僕達を含め、ヘリオポリスの避難民が乗っているんだ。君達の襲撃で住処を奪われたヘリオポリスの人達が、大勢」

「それは──」

「艦長達は艦を墜とされないように必死に守っている。タケルだって、フラガ大尉だって。勿論僕だってそうだ。

 君と戦いたくなんかないけど、あそこには守らなきゃいけない人たちが乗っているんだ!」

 

 あの弱虫で、内向的であったな親友が見せる。精一杯の反抗の声。

 アスランはそこに、並々ならぬキラの決意を感じ取る。

 

「どうあっても、一緒に来ることはできないんだな」

「うん。戦争したいわけじゃなくても、僕にはあそこでこの機体に乗って戦う理由がある」

「──わかった。なら仕方ない……次に会った時は、親友として俺がお前を討つ」

 

 返事を聞くことは無かった。

 アスランは言いたいことを告げると、もう語る言葉は持たないと言わんばかりにイージスへとラクスを抱えて乗り込む。

 

 すぐさまコクピットを閉じるとイージスは踵を返してヴェサリウスへと帰還の途についた。

 

「──僕も、親友として君を討つよ」

 

 できもしないであろう決意を言葉にしてキラはイージスを見送った。

 一人だけとなったコクピットが途端に寂しく思えて、コクピットを閉じたキラはイージスに倣うように踵を返してアークエンジェルへと帰投する。

 

 

 

 だが、その瞬間を──

 

 

「エンジン始動だ、アデス!」

 

 

 ラウ・ル・クルーゼは見逃さない。

 

 

 カタパルトで待ち構えていたラウのシグーが出撃。

 対してアークエンジェルもその動きを即座に察知して、指示が下る。

 

「敵が来るわ、フラガ大尉!」

『了解だ。ムウ・ラ・フラガ、出るぞ!』

 

 構えていたのはムウも同じ。メビウス・ゼロがアークエンジェルより発進した。

 

「隊長!」

「フラガ大尉!」

 

 アスランとキラの声が奇しくも重なる。

 

「アスランはラクス嬢を連れて帰投しろ」

「来ないと思ったか、バカ野郎!」

「違いますフラガ大尉! 撃たないでください!」

「何!?」

 

 キラの言葉の意味を図りかねたムウだったが、すぐにその意味を理解することになる。

 

『ラウ・ル・クルーゼ隊長。直ちに戦闘行為を中止してください』

 

 届いたのは全周波放送。

 聞こえるのはラクス・クラインの声であった。

 

『何故でしょうか? ラクス・クライン』

『お分かりになりませんか? 追悼慰霊団代表である私が乗る機体がここにいる。この場所を戦場とされる、その意味を』

『イージスが帰投すればよろしいでしょう』

『では、ここで開戦となりこれから私が乗るあの艦で戦闘を行うと?』

『ヴェサリウスも下がらせましょう』

『戦闘となれば地球軍の戦艦もヴェサリウスを狙うでしょう。私の安全が保障できますか?』

 

 厄介な……シグーのコクピット内でラウは唇をかんだ。

 なまじ立場と肩書を持つだけに、たかが部隊の隊長程度では対抗できない。

 ラクス・クラインの名はそれほどまでにプラントに置いて大きな意味を持つ。

 作戦を優先し、彼女を危険に晒すようなことになれば、ラウにとって様々な不利益が発生するだろう。

 

『──委細承知しました。ラクス・クライン』

 

 そう言い残し、ラウはシグーを翻させてヴェサリウスへと帰還する。

 ラウと共に戦闘へ続こうとしていたアデスも、シグーの動きにそれを断念。ヴェサリウスは艦を反転させ始めた。

 

 プラントへの帰還の途についたのだ。

 

 

 

 

 その場に残ったのは、呆然と漂うムウのメビウスと、満足そうにヴェサリウスを見送るストライクといった構図であった。

 

「キラ、お前わかってたのか?」

「彼女との約束だったんです。彼女をザフトに還す。その代わりに、彼女はあの艦に一切の追撃をさせないと」

「良く信じたなそんな話。嘘だと思わなかったのか?」

「僕は彼女に、救われましたから」

「あん? なんだそりゃ」

「それより、僕ってどうなりますかね……」

「あーそれは帰ってからのお楽しみだな。艦長も副長もカンカンだろうよ」

「まぁ、ですよね……」

 

 独断専行。

 大目玉、と言うよりもはや軍法会議ものだ。

 必然、キラへの責任追及は大いにあるだろう。

 だが、結果的に、ナスカ級は撤退し、アークエンジェルの安全が確保できた。

 それが予測されたものであると言うのなら、酌量の余地はあるとムウも思えた。

 

「安心しろ、俺が少なからず弁護してやるさ。

 それにお前が裁かれるってなりゃ、タケルも黙ってないだろうぜ」

「──そう、ですかね。あんまりタケルには迷惑かけたくないですけど」

「かー、お前達は揃いも揃って、迷惑だの心配だのと。ガキの癖に余計な事気にしすぎなんだよ!」

「そんな事いわれても……」

「もちっと大人を頼れよ。子供の面倒を見るのは大人の務めってもんだろうが」

「ははっ──それでは、僕の弁護をお願いします」

「おうよ!」

 

 キラはムウと少しだけ親しくなって様な気がして、笑みを浮かべてアークエンジェルへと帰投するのだった。

 

 去り行く脅威と、敵わぬ決意。

 それを背後に残したまま。

 

 

 

 

 

 

懐かしき笑顔、優しい笑顔。

どちらも手を伸ばせば届く距離にありながら、手を伸ばしてもつかめぬ虚構へと消えた。

去り行く友とその想い人を見送れば、また次なる戦いがキラを待ち、再び艦が戦禍にゆれる。

 

 次回、機動戦士ガンダムSEED

 

 『目覚める力』

 

 逃れられぬ戦い、迎え撃て、ガンダム!

 

 

 




原作では無鉄砲過ぎたキラの行動。
本作ではこんな感じ。
冷静でありながら、そうするに至る理由。
そしてただのお嬢様なはずもないラクス。強い

感想よろしくお願いします。
執筆の活力になります。

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