機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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劇場版公開が迫る中、残念ながら一緒に盛り上がりきれない作者です。


PHASE-80 反撃の背中

 

 

 ファクトリーの工廠にて、機体の準備が進められていく。

 

 準備とは言っても、それは騒々しく行われる機体の開発では無く“発進”準備の方だ。

 

 

 

「準備は良い、ユリス?」

「未完成の機体で出ようって人が何言ってんのよ」

 

 タケルからの確認の声に、少しだけ不満の声を混ぜてユリスは返した。

 ユリスが乗り込んでいるのは無論ディザスター。変わらずの彼女の機体である。

 そしてタケルが乗り込んでいるのはシロガネ・コクウ。未だ完成を見ない、未完成な状態での出撃を敢行しようというのだ。

 

「現状でも十分に戦えるよ。問題無い」

「大気圏突入で空中分解とか、ホント止めてよ」

「そのレベルだったらとっくに気が付いてるよ」

 

 思わずタケルは苦笑した。

 無理を押している事は百も承知であったが、それでも戦えるだけの状態には仕上げたのである。

 搭載予定であった2つのドラグーン兵装はジンライのみとなっているが、それでもデスティニーやストライクフリーダム等と変わらぬカタログスペックを誇る。何より、ハイパーデュートリオンを搭載して動力制約を受けないシロガネだ。

 その戦闘力は未完成でも十分に高い。

 

 タケルはこれを以て、協力関係を築いたユリスと共に、オーブの救援に向かうのだ。

 

 

「原子炉臨界。制御に問題無し。パワーフローも良好────よし、行ける!」

「はぁ~、私も新しい機体が欲しいわ……流石にもう、このディザスターじゃ型落ちよ」

「言っておくけど、シンゲツは渡さないよ」

「好みじゃない。兄さんの設計は」

「あれはもうほとんど僕の手から離れた機体だけど」

「あら、それなら使ってみるのも悪くないわね」

「君って奴は……」

 

 相変わらずの憎まれ口だ。

 しかし、そこにはこれまであった刺々しさ。張りつめた気配が少し無くなっていた気がした。

 ただその時だけを生きていた彼女が未来を見る様になった────その変化なのだろうと、タケルは思った。

 

「よし、準備完了──行こうか、ユリス」

「はいはい」

 

 ファクトリーのハッチが開かれる。

 眼前に広がるは煌びやかに輝く星々の大海原だ。

 

「タケル・アマノ────シロガネ、出撃する!」

「ユリス・ラングベルト────ディザスター、出るわ!」

 

 

 ファクトリーを飛び出して、白銀と紫紺のMSがオーブに向けて飛翔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────睨み合う。

 

 片やデスティニーとレジェンド。

 シンとレイは、飛び込んで来た大戦の英雄機、フリーダムとジャスティスの姿に畏怖を浮かべて。

 

 片やフリーダムとジャスティス。

 アサギ達の戦線復帰と共に、最前線でカガリとサヤが彼等と戦っている事を知り、戦々恐々で駆けつけたと言う所だ。

 

 

「まったく、こんな最前線の鉄火場まで来てどうする? 君の戦う場所はこんな所じゃないはずだろ、カガリ」

「──すまない」

「サヤも。ザフトから脱出するときにあの2機とはやり合ったんでしょ? 敵わないと知りながら1人で突出するのは、タケルみたいなバカだけだよ」

「耳が痛いですが……キラ・ヤマト、お兄様の侮辱は許しませんよ」

「とにかく、カガリもサヤも一旦下がって。その状態じゃもう戦えないでしょ?」

「カガリは国防本部へ。サヤ、君はその護衛だ──ここは俺達が」

 

 フリーダムとジャスティス。そしてキラ・ヤマトとアスラン・ザラ。

 この場を任せるには申し分ないだろう。この2機と2人に不安など欠片もありはしない。

 カガリとサヤは小さく頷いて、機体を翻した。

 

「くっ、行かせるか!」

「待て、シン!」

 

 光の翼を展開。アカツキに追い縋ろうとシンが動こうとしたところで、レイは慌てて止めた。

 

「レイ、なんで」

「背中を見せようものなら墜とされる────忘れるな、目の前に居るのはあのフリーダムとジャスティスだ」

 

 撤退していくアカツキとシロガネを気にかけながらも、その実目の前の2機は臨戦態勢。

 いつ2人に飛び掛からんとも言えぬほどの気配を醸し出している。

 

「──ねぇ、アスラン」

「ん、なんだ?」

「サヤから聞いたけど、あっちのデスティニーにシンって子が乗ってて、レジェンドの方にはレイって子が乗ってるって────アスランは彼等を知ってるよね?」

「あぁ、そうだが……もしかしてキラ。ザフトの後輩だから俺が手加減するとでも思ってるのか?」

「うん……なんだかんだ、アスランって結構甘いところあるし」

「はぁ、お前に言われるようじゃ俺もおしまいだな」

「僕は、やる時はやるよ」

「それは俺だって同じだ」

 

 どこかムキになって言い合い、そして僅かに笑う。

 やる時はやる……確かにその通りだ。2人は2年前に親友である事すら忘れてどうしようもない程の憎しみに囚われ、命を取り合った。

 そしてつい先日も、ダーダネルスで望まぬ銃火を交えた。

 

 だがそれでも、今こうして新たな剣を手に肩を並べているのだ。

 自分達の関係はこれからも変わらない。望む未来を同じくして、同じ意志の下戦っていける。

 

 それがわかり、並ぶ親友に否応なく笑みを浮かべてしまった。

 

「行こうか、アスラン」

「やるぞ、キラ」

 

 戦意は昂揚していく。

 元よりカガリが討たれそうになったことで、アスランに手加減する気など無いし。サヤを守ると誓ったキラにとっても、セイバーでの逃走劇や先の戦闘を考えれば、手加減する気など微塵も起きなかった。

 これから先の憂いを絶つのなら、ここで厄介な最新鋭機を撃墜するのが最善だろう。

 

「来るぞ、シン」

「わかってる!」

 

 その気配を察して身構えるシンとレイ。

 前大戦の英雄……ザフトに置いてもその活躍と実力は正に伝説的な2機を相手にしては、シンとレイに、欠片の余裕もありはしなかった。

 

 僅かに流れる緊張の空気。動き出すタイミングを計って、それぞれがコクピットの中で息を呑む。

 そんな張りつめた空気を、ふと飛び込んで来た流れ弾の閃光が断ち切った。

 

 

「いくぞ!」

 

 

 オーブの空で、4人と4機は熾烈な戦いへと突入していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モルゲンレーテの地下ドックを出港したアークエンジェル。彼等もまた、戦線へと参列していった。

 国防軍の護衛艦群と並び、同盟軍と相対。戦闘態勢へと入っていく。

 

 

 

 

「艦長、10時方向より艦影────アークエンジェルです」

 

 齎される報告に、タリアはまた一つ険しい表情を見せた。

 居る事は分かっていた。ユニウスセブン然り、ベルリン然り。

 オーブとアークエンジェルの繋がりは明白であり、この危急の事態に際して出てくるという事も。

 だが、今のこの状況で出て来られるのは苦しいの一言だ。

 

 既に同盟軍艦隊はシロガネによってかなりの損害を被っている。同様に出撃したMS達は散々の状況だ。

 起死回生の一手と言えるはずのデスティニーとレジェンドは、シロガネとアカツキによって抑えられ、更に駆けつけたフリーダムとジャスティスによって今度は逆に攻め立てられている。

 

 デュランダルが言う様に長期戦であれば、まだまだ同盟軍側もやれるだろう。

 しかし今この時。この瞬間の戦況では、既に同盟軍側の不利は否めない。

 

 

『タリア』

「議長────本艦が前に出ます。あの艦に対抗するにはこれが最善です」

『すまないね。頼むよ』

「セントへレンズはもう少しお下がり下さい。今の状況では、そちらも十分に危険な位置です」

『あ、あぁ。わかった』

 

 通信が切れるのを確認してから、タリアは1つ息を吐く。

 顔を上げて前を見れば、そこには迷いのない瞳で眼前の敵を見つめる艦長の顔があった。

 

「離水上昇急げ。面舵10、機関最大────これよりアークエンジェルを討つ!」

 

 応の声は強く頼もしく。

 ここまで共に駆け抜けて来た、ミネルバークルー達のやる気が見える様であった。

 

 

『コアスプレンダー、発進スタンバイ。中央カタパルトオンライン。ハッチ解放、射出システムのエンゲージを確認』

 

 同時に下される、インパルス発進の指示。

 ルナマリアはコアスプレンダーの中で、眼前の戦場を見つめた。

 

「アークエンジェル……敵だと言うのなら」

『コアスプレンダー、発進どうぞ』

「ルナマリア・ホーク────コアスプレンダー、行くわよ!」

 

 発進────すぐさま、フォースシルエットを装着すると、インパルスはアークエンジェル目掛けて飛翔した。

 

 

 

 

 

「お出ましね、グラディス艦長……」

 

 ユニウスセブン。そしてベルリンと共闘した彼女の顔がマリューの脳裏に過った。

 共に並んで戦った事は有れど、ひとたび情勢が変われば向かい合うのが戦火の定め。嘗ての自身とナタルの様であった。

 だが、それで気が抜ける程彼女はお優しいつもりは無い。

 

「ミネルバが来るわよ、良いわね!」

 

 こちらもまた、応じる声は強く頼もしい。

 英雄艦、浮沈艦。先の大戦でその名を欲しいままにしたアークエンジェル。その活躍を成したクルー達だ。

 新参の艦に負けるつもりは無いと言う所だろう。

 

 

「艦長、格納庫のマードックさんより入電です────えっ?」

「どうしたの、ミリアリアさん?」

「それが……ネオ・ロアノークさんがストライクルージュに乗って出撃すると……」

「はっ? んっ、えっ、ちょっとどういう事それは!」

 

 戦闘に入る直前だと言うのに、間の抜けた声を漏らしてしまったマリューは、慌てて表情を取り繕いながらミリアリアへと振り返った。

 先程彼の軍服を返し、そして別れを告げたはず。

 それが一体どうして、彼が格納庫に居てストライクルージュに乗るような話になるのか。

 

 マリューが驚いていると、艦橋のモニターに恐らくはルージュに乗り込んだであろうネオの姿が映しだされた。

 

『あー、なんつーかまぁ……勝手言って悪いな。ただ、この艦はミネルバとやり合うんだろ? だったら俺にも手伝わせてもらいたくてね』

「────貴方は連合の軍人なのよ」

 

 ムウ・ラ・フラガではない、全くの別人。ネオ・ロアノークとして生きている人間だ。

 その彼がこの戦いに介入して良いのか……マリューは言外に問う。

 

『あの艦にあんた達がやられるのはどうもな……それに俺、あのミネルバって艦が嫌いでね』

 

 はっとして、マリューの脳裏に嘗ての彼が過った。

 アラスカ基地で異動命令が下された彼は、その命令を由とできず本来乗るべき脱出艇に乗り込まずアークエンジェルを探した。

 そうしてドタバタの脱出撃の最中、軍の命令に背いてこの艦へと帰還したのだった。

 

 どこか、懐かしいやり取りな気がしてマリューは微かに笑みを浮かべる。

 

「嫌い、ですか……貴方らしいわね。良いでしょう、許可します────ミリアリアさん」

「はい!」

 

 記憶は喪われていても、頼れる兄貴分がまたこの艦を守る為に戦ってくれる。

 クルー等の背中が少しだけ軽くなった気がした。

 

「APU起動。カタパルトオンライン。ストライクルージュ・オオトリ装備、発進準備よし。進路クリアー、ストライクルージュ、発進どうぞ」

『ネオ・ロアノーク────いくぞ!』

 

 アークエンジェルより発進するピンク装甲のストライク。

 オオトリ装備のお陰で十分な機動性を得たルージュは、接近してくるインパルスへと向かって行った。

 

 

 

 

 

「あれは、ベルリンで見た」

 

 発進してきたルージュを確認して、ルナマリアは息を呑んだ。

 ベルリンでアークエンジェルより発進が確認されたストライクルージュ。ルナマリアは知る由もないが、カガリが乗っていたそれはアークエンジェルを護衛する様に立ち回り、近づいて来る連合機を制していた。

 感じられる予感は────強者の気配である。

 

 そしてそれは、向かい合うネオにとっても同様。

 インド洋の戦いでは、SEEDへと至ったシンのインパルスに成す術なく敗北を喫した。

 ネオにとっても、インパルスは間違いなく強者である。

 

 そして、そんな理由で臆するわけにいかないのもまた、2人にとっては同様だ。

 

「ザフトのインパルス────どれ、積年の屈辱というやつを、晴らさせてもらおうか!」

「このっ、そんな旧式で!」

 

 引き抜かれたインパルスのビームサーベルと、ルージュの対艦刀がぶつかり火花を散らす。

 機体出力に任せて押し切ったルナマリアは即座にビームライフルで追撃。

 それをシールドで防いだネオは、お返しと言わんばかりにオオトリパックのレールガンとビーム砲を構えて撃ち放った。

 

「当たるもんですか!」

「ちっ、なかなかやるな! だがっ!」

 

 火砲を避けて再び接近してくるインパルス。機動性ではインパルスに劣るルージュで、ネオはオオトリの豊富な火器を使いこなしてどうにかインパルスを牽制し続けていく。

 すると今度は火力と数に押され、回避軌道からシールドによる防御へと切り替えたインパルスが圧され始める。

 

「くっ、やっぱり手練れね……でも!」

 

 手練れの相手など慣れたもの。ルナマリア・ホークはミネルバMS隊という化け物だらけの魔窟で訓練に励んでいたのだ。

 タケルやサヤ、シンといった、才能から違う者達と肩を並べて必死に食らいついて来た彼女の得手は、むしろ格上相手と言える。

 

 僅かな射撃の隙間を狙いビームライフルで狙い撃つ。

 苦手意識を克服したそれは、寸分たがわずオオトリパックのレールガンを撃ち抜いた。

 

「なにっ!?」

「今度は、こっちの番!」

 

 武装1つ破壊できれば、相手の制圧力は落ちる。一気に自由が利くようになった状況に、ルナマリアは再びインパルスを走らせた。

 接近しながら構えていたシールドを投射。

 それに意識を割かせれば、即座に背部のビームサーベルを2本出力。

 距離を詰めて、ルージュが構えていたビーム砲をも切り落とした。

 

「ぐっ、やってくれる!」

「まだまだ!」

「嘗めるんじゃないよ!」

 

 長大なリーチを持つ対艦刀で切り返し、インパルスを追い払う。

 再び睨み合う構図となった両機は、どちらからともなくすぐまたぶつかり合った。

 

 

 

 そうして、ルナマリアとネオがぶつかり合うすぐ傍で。

 アークエンジェルとミネルバもまた、互いを射程圏内へと捉えていく。

 

 

「ランチャー1、10。ディスパール装填。トリスタン、イゾルデ起動、照準アークエンジェル!」

 

「艦尾ミサイル発射管、全門ウォンバット装填。ゴットフリート、バリアント起動。照準ミネルバ!」

 

 

 アーサーとマリューの号令の下、互いに動きを見せる艦載砲。

 その照準を向け合い、戦いの火蓋は切って落とされた。

 

「てぇ!」

「てぇ!」

 

 閃光とミサイルが放たれる。

 互いのミサイルを迎撃し合い、すれ違い様に主砲の光が艦体を叩いた。

 

 新旧の英雄艦同士もまた、オーブの空で鎬を削りあう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザフトの水中用MSジオグーン。

 周囲の土壌や岩盤を粉砕し液状化させるスケイルモーターを搭載し、海中からそのまま地下を進み上陸することができるMSである。

 オーブ国防軍と言えど、水中潜行でなく地中潜行は想定外であり、遂にジオグーンはオーブ本土へとその姿を表した。

 

 現れた場所は国防本部の眼前。

 防衛線を指示する頭を潰そうという事なのだろう。

 ジオグーンはすぐさま国防本部へとフォノンメーザー砲を向けた。

 

「でぇええい!」

 

 間一髪。直上よりカガリが駆るアカツキが飛来。

 デスティニーとの戦闘で残った片腕に握られた、双刀型ビームサーベルを突き立ててジオグーンを破壊した。

 

『あぁ、助かったよカガリ! 流石僕の女神!』

「だまれ、うるさい、気が散る! それよりユウナ、ジブリールはまだ見つからないのか!」

 

 通信で飛び込んでくる気色悪い声へ辛辣に返しながら、カガリは問いかけた。

 彼が見つかりさえすれば、停戦の道も拓けるはずである。

 防衛線を繰り広げるオーブにとってもまた、彼の確保は目下一番の問題だ。

 

 そんな考えが過れば……同じ目的を持ちながら何故ザフトと撃ち合う事になっているのだと、カガリの心は沈んでいく。

 

 こうしてジオグーンによって本土への侵攻すら許した。

 流れ弾や迎撃しきれなかった攻撃が、ヤラファス島やオノゴロ島に降り注ぎ、既に決して少なくない被害を出している。

 

 代表首長となったのがつい先程である彼女にできた事は多くなかったが、それでも2年前の父達と比べると、余りにも酷い惨状を生んでしまった事に……カガリは不甲斐なさを感じるばかりであった。

 

『カガリ様!!』

 

 飛び込んできた通信にカガリは我にかえった。

 アカツキのセンサーが、新たに地中より現れていたジオグーンが接近してくるのを捉えていた。

 

「この大馬鹿者!」

 

 再び直上より、今度はサヤの駆るシロガネが飛来。

 ビャクヤのサーベルを突き立てて、ジオグーンを撃墜する。

 

「戦場で何を呆けているのですか、この古妹! ご自分が大将機だと言う自覚がお有りですか!」

「うるさい! 私を守るのは護衛として一緒に退いてきたサヤの仕事のはずだ!」

「なっ!? このっ、助けられておいて抜け抜けと……」

 

 相変わらず噛み合うのか噛み合わないのかわからない2人は、口ではいがみ合いながらも国防本部の前でその煌く装甲を見せつける様に機体を身構えさせた。

 

「ふんっ、守るのがサヤの仕事と嘯くのであれば、貴方は当然己の仕事を果たすのでしょうね?」

 

 挑戦的なサヤの言葉に、カガリは湧いてくる怒りを力へと変えていく。

 そうだ。カガリ・ユラ・アスハの戦いはMSで戦う事では無い。

 

 切羽詰まった戦線を押し上げるために前には出たが、カガリが駆るアカツキは大将機。

 果たすべき仕事は最前線には無い。

 

「わかっているさ────ユウナ、指揮権限を私に」

『はいはい了解っと。見せておくれ、僕の花嫁の素敵な勇姿を』

 

 いちいち返される気色悪い声と言葉を、不動の心で聞き流してカガリは戦場を見た。

 大将機に乗る彼女の仕事とは皆を指揮し、鼓舞し、奮わせる事。そうしてこの戦局を覆す事である。

 国防軍の者達は余程、ユウナの声よりカガリ(オーブの獅子)の声を望んでいるのだ。

 

 数秒、気持ちを落ち着けてからーーーーカガリは全軍への通信回線を開いた。

 

 

『国防軍各位、これよりカガリ・ユラ・アスハが指揮を執る────良いか!』

『はっ!!』

 

 

 通信越しに届く力強い声。そこに否と言わせる様な気配は微塵もない。

 有無を言わさず聞く者の心を奮わせるその声は、2年前と同じくオーブの勇士達を焚きつけた。

 待っていましたと言わんばかりに揃って返される声こそが、その証であろう。

 

『残存するM2アストレイ隊はタカミツガタに集結。防衛線を張れ! カゼキリ二個小隊を上空援護に。オーブの国土を守るんだ!』

『はっ!』

 

 繰り返される応答と共に、即座に動いていくオーブ軍。

 幾度となく繰り返された訓練の賜物と言えよう。

 展開される防衛戦線は、堅牢の構えであった。

 

『第十六機甲大隊は海岸線を死守しろ! 背後には国民が居る。MS一機足りとて通すな!』

『はっ!』

 

 流れる度に。指示が飛ぶたびに、何故か返される声は強さを増していく。

 それが彼女の声によって奮う彼等の高揚故である事が、サヤには簡単に見て取れた。

 そうして次々と下される指示に、オーブ国防軍は応え、動き、そして戦場を優位へと変えていく。

 

『特殊試験機甲部隊! 聞こえるか!』

 

 最後に、カガリは呼び掛けた。

 特殊試験機甲部隊────カガリが良く知る彼女達の事を。

 

『はっ!』

『問題無く!』

『感度良好です!』

 

 応えを返すは新型機に乗り、縦横無尽に戦場を駆けている良き友人達。

 互いに立場の仮面を被せたままの応答であるが、カガリが告げる事も彼女達の答えも、既にお互い知れている様な気がしていた。

 

『────貴様等が嘗て見た背中を、今度は皆に見せてみろ!』

 

 投げられた指示は抽象的でありながら、その意味は容易に伝わった。

 2年前…………一心不乱で戦いながらも押されていた戦線をひっくり返すべく駆け抜けた白銀の背中。

 抱き続けた尊敬。目指し続けた憧憬。

 彼女達のそれらを肯定するに相応しい、圧倒的な戦果を見せた教官の背中は彼女達を大いに奮わせた。

 それを今度は、自分達が見せる番だとカガリは言うのだ。

 

 

 カガリの声を受け取ったアサギ達は、ドクンと心の臓で音が聞こえた気がした。

 やはりずるいものだ。

 大好きだったあの教官も、その妹も。声と言葉だけでこうも自分達を昂らせてくれる。

 欲しい言葉をくれて、大切な想いを預けてくれる。

 

 いつもいつも、簡単に彼女達の心を鷲掴んでいく。

 

 

 

『了解!!』

 

 

 故に、応の声は一度。声を揃えた彼女達は戦場を翔ける3羽の鳥となった。

 

 

 向かう先は、この戦線を決める敵陣の最中────同盟軍旗艦でありギルバート・デュランダルが乗艦しているセントへレンズへと向けて。

 

 

 

 

 この無意味な戦いに終止符を打つべく、獅子の国は反旗を翻した。

 

 




西川ニキの主題歌リピートして執筆してます。
サビ部分が凄く耳に残りますねアレ。

何度も申し上げておりますが、執筆当初に作ったプロットに影響が出ない様、作者は劇場版は見ずに運命編を書き終えるつもりです。
なので、映画を観た人にとっては色々と解釈や受け取り方が変わる展開もこれからあるかも知れませんが、どうぞそこはご容赦いただきたいです。

後、楽しみにしてくださってる読者には申し訳ないですが、年始から仕事ヤバい予定でして、ちょっと更新がこれまで通りにはいかないかも知れません。お許しを。

それでは。
楽しかったら感想頂けますと嬉しいです。
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