タケル・アマノはアークエンジェル艦長、マリュー・ラミアスの要請に従い、現在艦長室に訪れていた。
目の前では、妙に形式ばって座る4人。
重要参考人であるキラ・ヤマトを中央に、右をムウ、左をナタル。正面にマリューが囲む構図だ。
キラの背後で待機しているタケルを含めれば正に四面楚歌の構図である。
「被告は、自分の行動が艦の安全をどれほど脅かしたか。全く理解していません」
「異議あり。今の話は類推に過ぎず、本人からは事の顛末を予測しえたと思われる証言がされています」
このやり取りだけでわかるだろう。
簡易的な軍事法廷の場である。
ナタルが検察側、ムウが弁護側というわけだ。
そして正面には判決を言い渡す裁判官のマリュー。
被告人は先の問題行動を起こした張本人、キラ・ヤマト。
独断専行による出撃。艦の安全を保っていた人質の解放。
事が起こらなかったから問題こそ出ていないが、仮に、あそこで戦闘となっていれば、艦が墜とされていた可能性もある。
普通に考えれば、銃殺ものだ。
「キラ・ヤマトには、何か申し開きがありますか? なぜ、あのような勝手な事を?」
「僕は人質にするために助けたわけではありませんから」
「だよなぁ、するなら彼女だよなぁ」
「異議あり!」
「フラガ大尉──さすがに失言でしょそれは」
「弁護人は言葉を慎んでください」
いち早く反応したナタルを始め、タケルやマリューにまで窘められてムウは肩をすくめた。
「キラ、フラガ大尉が言う予測していた結果っていうのは?」
「彼女は、ユニウスセブンの追悼慰霊式典の代表で、最高評議会議長の娘だけでなくいくつか肩書を持っている。その名に懸けて、あの艦に追撃をさせないと約束してくれました」
「そんな確たる証拠もない話を信じて、艦を危険に?」
「フラガ大尉の機体だって損傷したばかりでしたし、タケルのアストレイはもっとひどい状態でした。仮にザフトが彼女の事を気にせず戦闘を仕掛けてくるようであれば、どうなったかはわかりません」
確かに、艦の戦力は厳しいの一言に尽きた。
急ごしらえで整備したメビウス・ゼロと、ほとんど調整がされていないアストレイ。
頼みの綱がキラのストライクだけでは、どうなっていたかわからないのは事実である。
「彼女は、戦いたくないと漏らした僕の為に、戦わなくて良いようにしてくれると約束してくれたんです。だから、僕はそれを信じた。それだけです」
「なるほどね……本来であれば貴方は銃殺刑にするような事をしでかしましたが、簡易的とはいえここは軍事法廷。民間人を裁く権限は持ち合わせておりません」
「えっ?」
「キラ・ヤマトには今後熟慮した行動を求める事として、当法廷は閉廷します」
「えっと、つまり?」
言われた判決を上手く飲み下せないでいるキラが混乱の中、タケルは前に出てキラの肩に手を置いた。
「ここでキラを裁くことはできない。まぁとりあえず勝手な事だけはしないでねって事。これまでのは形だけの茶番っていうわけだよ」
「茶番とは人聞きが悪いですねアマノ二尉。一応、厳粛にキラ君の行いを窘めていたつもりですが?」
「厳粛と言うからにはバジル―ル少尉くらい厳しい口調でないと。ラミアス大尉は最初から結論が雰囲気で駄々洩れでした」
「わ、私は別に……検察官の役割をこなしていただけで努めて厳しくしていたわけでは」
「逆にフラガ大尉は普段の砕けた雰囲気がそのまますぎて茶番感が強かったですよ」
「だそうですよ、大尉」
「こいつは手厳しい」
「あと弁護するなら関連項目の詳細くらいは覚えておいて下さい」
「おまっ! そいつは言っちゃいけねえだろうよ。俺はMA乗りだぜ。軍事法廷でバチバチやり合うような事、想定しているわけねえだろうが」
そんなお勉強してるくらいならシミュレーションで少しでも腕を磨いていたほうがマシだと、ムウはタケルに噛みついた。
「それにしても凄いお姫様だったな」
「本当ね。あのラウ・ル・クルーゼが簡単に言いくるめられるなんて」
「キラ・ヤマト。彼女とは他にどんな話を?」
「えっと、プラントでは歌を歌ってるとか……あとはイージスのパイロットが婚約者とか」
「──あまり有益な情報はなさそうですね」
「あの天使みたいなお姫様と婚約ねぇ、そりゃとんでもないラッキーボーイだ事」
「フラガ大尉その言い方はどうかと」
「アマノ二尉の言う通りです。女性の容姿に言及してその様な発言は感心しませんね」
「こいつはまた手厳しい」
再び肩をすくめるムウ。
とりあえず、キラが起こした事についてもひと段落と言うところであった。
ヴェサリウスの脅威が消えた今、ようやくアークエンジェルは月艦隊との合流に邁進できるというわけである。
「それじゃ、僕はこれで失礼します」
キラが艦長室を退室すると、マリュー達は顔を見合わせて真面目な表情へと戻った。
「結果的には、ナスカ級の脅威は去りました」
「あくまで、結果論ですが」
「まぁ坊主も考え無しってわけでもなかったしな」
「それで、状況としてはどうなったんですか?」
「艦隊との合流はもうすぐです。ナスカ級が去った今、別動隊によるさらなる追撃があったとしても、接敵は簡単ではないでしょう」
「ようやくこの着の身着のままな旅も終わりが見えてきた、ということかしらね」
「あのナスカ級にはクルーゼが乗っていたしな。アイツからの追撃が可能性として消えただけでもだいぶ気が楽だぜ」
一先ずは、落ち着いた状況へと至れたという事だろう。
マリュー達の返答に、タケルも1つ安堵の息を漏らした。
艦隊と合流できれば、キラ達ももう解放されるだろう。
タケルとカガリも、晴れて自由の身となりオーブ本国へと帰還できる。
恐らくだが、カガリの正体にも誰も気が付いていないはずだった。
「(でも結局、オーブと連合の繋がりは有耶無耶にはできないだろうな……必要に駆られたとはいえ、アストレイで僕も戦っちゃったわけだし)」
現在はXシリーズに連なる不明機としてアストレイの出自がザフトに伝わっている事はないだろう。
乗っているタケルについてもオーブ軍人だとは思い至らないはずだ。
だが地球軍側には伝わってしまう。マリュー達からその上官。ひいては地球連合本部へと。
そうなればいずれ、その情報はどこかから漏れてプラントに伝わる可能性もゼロではない。
「(父さんには、迷惑を掛けちゃうかな)」
ただでさえヘリオポリスで行われた新型開発の釈明に苦労したというのに、今度は連合の新造戦艦を守るために戦闘までしてしまったのだ。
情報が出回った時、オーブが苦労することは間違い無かった。
「なんだよタケル。そんな思いつめた顔して」
「アマノ二尉 何か?」
「あ、いえ。ヘリオポリスからここまで、ホント色々とあったなぁって思って」
これも間違いなくタケルが思った事だ。
カガリを迎えにヘリオポリスへと赴き、巻き込まれてアークエンジェルへと。
そして実戦を乗り越えて、ここまで。
キラもそうだが、サイやトール達。そして自分自身。
艦の為に良く戦ったと、そう思っていた。
「何やり切った顔してるんだか。まだ合流したわけじゃないんだぜ」
「わかってますけどね……一度ゴールが見えてしまうと、浮かれてしまう。そういうものでしょ」
「まっ、気持ちはわからなくはないがな」
「お2人に気を抜かれては困ります。また戦闘となれば、出撃してもらう事に──」
「そう硬くならなくても良いでしょ、ナタル。アマノ二尉は休憩中だったわけだし」
そうだ、キラによる騒動があったせいで慌てて叩き起こされたタケルだが、正直なところ1時間も休めてはいない。
そのままアストレイで待機となったタケルはその間にOS調整をすすめていたのだった。
「まぁ、もう今更ですから、先にアストレイの調整を終わらせちゃいますよ。その後でまたゆっくり休みます」
「それは助かりますけど……無理はしないでください」
「大丈夫です。バジル―ル少尉にも図らってもらって、士官室で静かに休めましたから」
「えっ? 士官室?」
タケルの言葉にどこか引っかかるものを覚えたのか、マリューは怪訝な表情を浮かべた。
それもそのはず、ナタルからは“タケルは自室で休ませている”と報告を受けていたからだ。
「あ、アマノ二尉。それについては……」
「あれ、何かまずかったですか?」
「い、いえそういうわけではありませんが……」
本当に珍しい、しどろもどろとなったナタルの姿である。
2人の間に何かがあったのは明白だ。それも、タケルには認識されていない、ナタルだけが視線を逸らして誤魔化そうとしたがる、何かが。
「ふーん、どうやらバジル―ル少尉は私のお願いを忠実に全うしてくれたようね」
「えっと、とりあえず僕は行きますね。それでは」
「あ、アマノ二尉!? お待ちを」
手を伸ばすナタルの前に、艦長として最大級の威厳を手にしたマリュー・ラミアスが立ちはだかった。
「さて、ナタル。聞かせてもらえるかしら。貴方がアマノ二尉を相手に一体どんな手段に出たのかを」
「へーあの堅物の副長がね。面白そうな話じゃない」
標的を捉えた上官2人は、ナタルにじりじりと詰め寄っていく。
年頃の少年を連れ込み自身の自室で寝かせたなどと……公私をきっちりわけ、模範的な軍人であらんとする彼女であれば、絶対に行わないであろう行為。そんな事を知られては邪推をされる。
いや、邪推も何もナタルとしては正真正銘タケルの体調を想ってなのだが、このいたずら顔の大尉2人に話せば虚が実になりえると危機感を覚えた。
かと言って、体の良い言い訳は今の彼女には出てこない。
「も、黙秘権を行使します!」
「却下します。報告の義務有。上官命令です!」
「艦長命令もつけてやれ!」
「そんな横暴な!?」
焦るナタルは普段と違い、冷静な弁論ができなかった。
結果、余裕のなくなった彼女は洗いざらいマリューとムウに曝け出すことになる。
この日、マリューの機嫌は大層良かったと後にクルー全員が証言した。
プラント本国へと向かう戦艦ヴェサリウス。
先の戦闘を停止させ、ラウをその存在と言葉でもって押しとどめた少女。ラクス・クラインはヴェサリウスの客間で一人静かに過ごしていた。
「失礼します。ラクス嬢、お食事をお持ちしました」
「あら、アスラン! どうぞ」
「失礼します」
やはり見知った仲の者が来てくれるのは気が楽であった。
キラやタケルは良き人物であり接しやすい者達ではあったが、所詮は一時顔を合わせただけの相手。
互いを良く知るには時間が足りず、どこかしか他人行儀となって緊張もする。
それに比べて、目の前にいるアスラン・ザラであればラクスの気も休まるというものであった。
「ご気分は如何でしょうか? 人質とかにもされましたし、もし食事が難しいようであれば、栄養剤やドリンクなども──」
「お気になさらず。私は元気ですわ。あちらでも良い方達に巡り合い、良くしていただきました。キラ様とも」
親友の名前がラクスの口から出てきて、アスランは顔をしかめた。
「そう、ですか」
「優しい方でしたわ。優しく、そして強い方」
「やめて下さい。今の俺達は敵同士なんです。ここで貴方にそんな事を聞かされても──」
「あの方は、貴方と戦いたくない、と」
「僕だって同じです! なんで、大切な友人とこんな風に……」
何度も呼びかけている。
こちらに来いと。先の邂逅でも、直接会って手を伸ばしたというのに。
キラ・ヤマトは、それを振り払ったのだ。
「仕方ありませんわ。あの方の大事な人達が、あちらにもいるのですから」
「だから、キラは向こうを選んだと」
「アスラン、キラ様を見縊らないで下さい」
「っ!?」
ラクスの声音が変わった。
アスランは思わずびくりと身体を震わせる。
はっきりと。冷たさすら感じる強い声。そして目を向ければ、淡い蒼白の瞳がアスランを射抜いていた。
「あの方に友人の優劣はつけられません。あちらにおられる友人も、貴方も。等しくキラ様にとっては大切な友人でしょう。
貴方の友と呼べる人は、友人に優劣をつけられるような方なのですか?」
「それは──」
そんな奴ではない事はラクスに言われるでもなく知っている。
長い時間を共にしていた。長い時間を友で居た。
キラは、友人を大切にする良い奴だった。
「あちらでは、コーディネーターである事が、キラ様を深く傷つけていました」
「だったら! なんでこっちに」
「それでもキラ様を受け入れてくれる方達もたくさんいてくれました。だから、キラ様はあちらを捨てられなかったのでしょう」
ザフトに、プラントに来ようとすれば、キラは彼等を捨て去らなければならない。
キラにとって、大切な人を捨て去ること程難しい事はないのだろう。
「アスラン、貴方は如何ですか?」
「それは、どういう意味ですか?」
「キラ様の様に、キラ様の友人達の様に。ナチュラルの方々を受け入れることができますか?」
「──それは」
「できないのでしたら、きっとあの方がこちらに来ることは無いと思います」
「なんでそんな事が!」
まるで親友であった自分よりもキラの事を理解しているように告げてくるラクスへ、にわかに怒りが募る。
だが、それもすぐに消えていく。冷淡で変わらない口調が次の言葉を紡いだ。
「キラ様は、ちゃんと戦争を見定めようとしているからです」
「戦争を……見定める?」
「何を求めて戦争をするのか。どんな未来を掲げて戦争をしているのか。
キラ様は貴方とも、あちらにいる友人達とも笑い合える世界を望んでいました。
貴方は、そんな世界を望むことができますか?」
それは夢物語だとアスランは思った。
いくら思い描こうが、ナチュラルとコーディネーターの溝は埋まらない。
それができるのなら、今のような戦争に発展することは無かっただろう。
「無理ですよ、そんな事……今更この世界でそんな夢物語、望めるわけがないじゃないですか」
「私も──そう思っていました」
「ラクス?」
「でもあの方は。いえ、あの方達はきっと。それを求め続けることができると。私は信じています」
ラクスは思い出す。
キラだけではない。ナチュラルとコーディネータの兄妹であるタケルとカガリ。
彼等を取り巻く友人達。
そんな彼らを見守る大人達。
地球軍の戦艦に乗りこみ、それを見てきたからこそ、ラクスはその可能性を信じていた。
「諦めるより、信じてみませんか? 人は夢を見てここまで発展してきたのですから」
「ラクス……」
ラクスの一言一言にアスランは考えさせられる。
何も言えなくなってしまったアスランに、ラクスは気を取り直すように手を合わせた。
「つい、話し込んでしまいましたね。さぁ、せっかく貴方が持ってきてくれたんですもの、楽しいお話をしながら食事にしましょう」
「えっ、えぇ。そうですね」
気持ちを切り替えたラクスに、先程までの少し冷たさを感じるような気配は無かった。
いつも通り、優しく柔らかで、まるで夜空を守る月の光の様に神秘的な。そんな不思議な気配を纏う。
久方ぶりの彼女との食事に、アスランは自然と笑みを浮かべる事が出来たのだった。
ローラシア級戦艦ガモフ。
現在ブリーフィング中である、イザーク、ディアッカ、ニコル。そして、本国へと戻る前にガモフへと送られたミゲルの4人が宙域図を見つめていた。
ガモフの航路とアークエンジェルの航路が矢印でするされ、矢印の先には地球連合軍第8艦隊の本体を示すマーカー。
接敵の可能性を読んでいるところだった。
「艦隊との合流前に追いつくことはできますが、この計算だと月艦隊の射程を考慮して撤退するまでは精々10分しかありませんよ」
「おいおい、10分はあるってことだろ?」
「臆病風に吹かれる貴様なら10分しかと捉えるだろうが、俺とディアッカからすれば10分もあるわけだ。このまま合流を見逃し足つきを見送るなんて、俺はごめんだがね」
「同感だな。奇襲の成否はその実働時間で決まるもんじゃない」
「それは、わかってますけど……」
イザークとディアッカに反論され、慎重論を展開するニコルは勢いを失う。
だが、一緒に宙域図を見ていたミゲルはにわかに口を開いた。
「なら、どんな作戦を考えてるんだ? デュエルにバスター、ブリッツと俺のハイマニューバ。これだけの手札を抱えて、作戦の1つも無しにその自信ってわけじゃないんだろ?」
ミゲルの言葉に数秒呆気に取られるも、イザークは鼻で笑った。
「ナチュラル相手に作戦何て必要か? ミゲル先輩」
「向こうはストライクとオレンジ。それにちょこまかとうるさいMAが1機だぜ。こっちは前回からたっぷり慣熟訓練をしてきてんだ。下手な作戦なんて無くても行けるだろうさ」
イザークとディアッカの反論に、ミゲルは呆れたようにため息を吐いた。
ニコルの提言は決して間違っていない。こんな行き当たりばったりな奇襲作戦では、戦果も何もないだろう。
第8艦隊との接敵のリスクを考えればしない方がマシまである。
「お前達、忘れたわけじゃないよな? あのオレンジ相手に何もできずにやられた事を」
「だからなんだ。あの時と今では機体への慣熟度が違う。乗りこなせてなかった時を引き合いに出してどうする?」
「ならオレンジがそこからどの程度成長しているか。ストライクのパイロットも含めて現状の戦力がどうなってるかは確認したのか?」
「おい、ミゲル。さっきからどうしたんだよ。プライドの高いアンタらしくないぜ」
「ニコルが言う事がもっともでお前達が言う事が無鉄砲すぎるからだよ。
俺は直近でオレンジとやり合ってきてる。あのチューンしたハイマニューバで全力のドックファイトだ。それでも、結果的には完敗だった」
互角だと思い込まされたあの一戦。
動きが変わった……そう認識する暇すらなかった。
交錯は一瞬、一合でミゲルはメインカメラを飛ばされ撤退させられた。
認めざるを得なかった……彼我の実力差を。
「何だと?」
「それだけじゃないぜ。こいつを見な」
その直後の動きを記録した映像であった。
ミゲルのハイマニューバを退けた直後、3機のジンを立ちどころに撃墜したアストレイ。
その動きはもはや、常軌を逸していた。
「なんだ、この動きは!?」
「オイオイオイ、嘘だろ」
「ここまで……なのですか」
「俺のハイマニューバのメインカメラを切り飛ばしてから、ジンを3機撃墜するのにかかった時間は僅か1分足らず。しかも射撃武装も無しにな。
お前たちにできるか、この芸当が?」
ミゲルの言葉に3人は息を呑んだ。
不可能だ──ここまで予定調和の様な撃墜の流れ。
そもそも敵機が射撃体勢に入っていると言うのに迂回も何もせず全力で正面から突撃していくなど正気を疑う。
「嘗めてかかるなよマジで。あのオレンジがこれなら、ストライクのパイロットだっていつこんな風になるのかわからないんだ。今の俺達にはニコルぐらい慎重な意見が必要だってことだよ」
「だ、だが……どの道手をこまねいていても仕方あるまい。ここで見逃す選択肢はないはずだ」
「ミゲルの心配はごもっともだが、ならどうするよ?」
「ニコル、お前の意見はどうだ?」
ミゲルからの問いに、ニコルは考えるそぶりを見せた。
無鉄砲なイザークやディアッカとは違う。
臆病と言えば聞こえは悪いが言い方を変えれば慎重。もっと言うなら思慮深い。
ニコルには今見た戦闘記録から戦う方針が巡っていた。
「行くのであれば、陣形、戦術、タイミング。色々と詰めていくべきだと思います」
「あれは? ブリッツの消える機能」
「向こうが合流の為に航行中ですからね……スラスターも使っての接近になるでしょうから、ステルスのままは難しいでしょう」
ミラージュコロイドは、急速接近しての奇襲には向かない。
早く動き過ぎればコロイド粒子を剥がしてしまいステルス機能は消えてしまう。
艦隊の合流の為にそれなりの速度で航行しているアークエンジェルに接敵するには、ミラージュコロイドを展開する余裕は無いだろう。
「つまりは奇襲ではあるが正面からやり合わなきゃいけないと」
「ミゲルとイザークで前衛を。2人なら相手とのドックファイトにも強いでしょうから。僕のブリッツはMS戦での相性が悪いので艦船への牽制に。接近さえできればミラージュコロイドで搦手も使えます。
ディアッカには2人を後方支援でサポートしてもらう形が良いと思います」
「悪いがイザーク。オレンジの相手は俺が頂くぜ」
「別に構わないさ。代わりに俺はアスランが仕留めきれてないストライクをもらうからな」
ミゲルもイザークも、互いに因縁となる相手へと標的を定めた。
ミゲルは無論アストレイ。イザークもまたライバルであるアスランと因縁があるストライクだ。
「ミゲル、頼むから抜かれてくるなよ。オレンジの接近だけはトラウマだからよ」
「約束なんざできないな。前回もやられちまったし」
「おいおい、勘弁してくれ」
ディアッカがミゲルの言葉に戦々恐々としている中、ニコルは居住まいを正して声を張り上げる。
「とにかく、油断だけはしないようにしましょう。決して侮れない相手ですから」
「あいよ」
「ふんっ」
「そうだな」
第8艦隊との合流の前に、アークエンジェル最後の戦いが迫っていた。
いかがでしたか
ナタルさんの牙城を崩したい。そんなお話
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