機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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PHASE-84 繋がる因果

 

 

 

 暗い宇宙空間の中で、シャトルは彷徨う。

 

 実際には彷徨っているなんてことは無く、確りと目的地が入力されて、自動制御で航行中ではあるのだが……少なくともそれに乗る彼の心は闇の中を彷徨っていた。

 

 オーブを発ち、ユリスと共にファクトリーへと向かったタケルは、そこでメイリン達を回収。

 

 エターナルはオーブの為にファクトリーへと戻らず軌道上に居た為、ラクスやバルトフェルド達と出くわすことも無く、プラントへと向かう途上に就いた。

 

 オーブを出立してから、既に2日。

 その間、タケルの脳は一度も休息を求めず、一睡もできず────ただ、暗黒の宇宙空間を見据えていた。

 

 眠る事が怖かった。

 寝ている間に……何も知らない間に、また何かを失いそうな気がして。

 起きていれば何かあった時動けると考えて、タケルは眠りにつく事ができなかった。

 

 元よりSEEDの反動で酷い頭痛に苛まれていたのに、一切の休息が取れない愚かなタケルに、隣に座るユリスは内心で溜め息をつく。

 

「(気持ちは分かるけど……何もない今張りつめててもしょうがないじゃないの。どっかで戦闘が起きてるわけでもない。身軽になりたくてディザスターもシロガネも置いてきたのよ? 今の兄さんに何ができるわけでもないじゃない……全く)」

 

 相変わらず、タケルから伝わってくる感情の熱は冷たいままであった。

 それは隠し切れず外にも漏れ出ていて、なんとなく状況を察しているメイリンや、わけもわからずでシャトルに乗せられたスティング達は話しかける事を躊躇っている。

 

「はぁ……兄さん」

「何、ユリス?」

 

 呼ばれて、何の用だと不思議そうな顔を浮かべるタケル。どうやら無自覚な様で、再びユリスは溜め息を吐いた。

 

「少し落ち着きなさいよ。いくらロゴスが憎くても、それをステラ達にぶつけるんじゃないわよ」

「そんなつもりは毛頭無い」

「兄さんにそのつもりが無くても、外に出てるの。ステラを見れば分かるでしょ?」

 

 睨みつける様な目でユリスに言われて、タケルはハッとした様に背後のメイリン達を見た。

 メイリン、スティング、アウルの3人はまだなんとなくで何かがあった事を察している。今は話掛けるべきでは無いだろうと意識的に一歩引いている様な気配だ。

 だがステラだけは違った。

 精神年齢幼く、そう言った配慮ができないステラは、それ故に感情の機微に聡い。

 ユリスと同じ顔で、ユリスよりも余程懐きやすかったはずのタケルが、今は全てを拒絶せんばかりに刺々しい色を纏っている。

 ステラの欲求としては懐きたい。が、タケルの気配がそれを躊躇させる。そんなステラの困った気配が伺えた。

 

「──ごめん」

「自分の状態がわかったのなら少し寝なさい。どうせプラントに着いたらあの狸議長とやり合うんでしょ? 万全じゃなくてどうするのよ」

「どうにでもなるさ。議長にとって良い事しかないんだからね」

 

 切り札は多い。

 タケルとユリス……大戦の英雄たる卓越したパイロットの2人。

 今となっては弱いかもしれないが、ロゴスの非道の証拠であるステラ達の身体情報。それに付随するタケルがラボから奪ったデータは、デュランダルにとって良い切り札になり得るだろう。

 

 その対価としてタケルが求めるのは、ステラ達の治療とロゴス壊滅に尽力させろと言う要求だ。

 治療はともかくとして、ロゴス壊滅の為に率先して戦ってくれるのなら、デュランダルにとって断る理由は欠片も無い。増してやそれが最高レベルのパイロットが戦ってくれるというのなら尚更だ。

 

 交渉など、必要無いくらいだろう。

 

「君の言う事は分かるけど、僕が今どんな状態なのかも、君は分かるだろう?」

 

 恐怖、憎悪、疑心……溢れて来る負の感情は、余すことなくユリスに伝わっていた。

 直ぐ近くに居るのだから尚更それは顕著であり、タケルが眠れないこと等、ユリスは百も承知であった。

 

「分かっているからよ……だから言ってるの。そんな全力疾走状態が長く続くわけ無いでしょ。本当に必要なその時まで、その気持ちは取っておきなさい」

「経験者は語るという訳か」

「そう言う事よ。私が兄さんを憎んでいた時だって常日頃からそれを剥き出しだったわけじゃないわ。表向きは従順な連合兵士。そうしてずっと埋伏の時を続けてたんだから……兄さんも、今はこれまで通りの兄さんで居なさい」

「それができるなら苦労はしないさ────まぁ、わかったよ。少し休んでみる」

「そうしなさい────ステラ、兄さんの隣で寝てあげて」

 

 ぎょっ、と言う様にタケルとメイリンが目を剥いた。

 今までステラがタケルに懐くのを徹底的に防いでいたユリスからの余りにも驚きな指示に、驚きを隠せない様子である。

 

「ユリス、何を言って──」

「ダメに決まってるじゃないですかそんなっ!」

 

 何故か怒髪天を衝くと言う様に、メイリンがユリスへと詰め寄ってきた。

 

「あら、何よメイリン・ホーク。隣で寝ると言ってもシャトルの座席での話じゃない。何か問題でも?」

「も、問題と言うか……何でそんな事する必要があるんですか!」

「ステラが隣に居たら兄さんも安心して眠れると思ったからよ。ちょっとした親切心じゃない?」

「いや、別にそんな事させなくて良いから」

「良いの? 今の兄さんには寧ろ必要な事だと思うけど?」

 

 どこか挑戦的な雰囲気で、ユリスは言ってのけた。

 いくら憎悪に染まろうとも、タケル・アマノの本質と言うのは変わらない。

 面倒見が良く、特に子供には優しい体質の人間である。

 まるで無垢なステラが直ぐ隣にいれば、憎悪に染まったタケルの心に、幾分か本来の気質が戻りやすいだろうという事だ。

 

「そ、それなら私でも良いじゃないですか!」

 

 だが、メイリンは必死にそれへ待ったを掛ける。

 何故なら今この時こそ、メイリンにとっては大事な時。

 直ぐに崩れてしまいそうなタケル・アマノの背中を支えたいと願った、彼女の本懐を果たすときであった。

 

 オーブの状況は既に聞き及んでいる。

 タケルが今、どれほどの想いでいるかなど、メイリンは想像すらできない。

 一睡もできず、ユリスが言ったように憎しみに染まっているのなら、それを少しでも和らげ安寧の休みを得て欲しい……その為なら、何でもする所存なのである。

 

「貴女じゃダメよ」

「な、何でですか!」

「想いが重いのよ。今兄さんが求めてるのはそう言う事じゃないの────何の気兼ねも無く、自然体で接することができるステラが適任」

「あうっ!?」

 

 哀れ、恋する乙女は撃沈する。

 好きだとか、助けたいとか……普通なら良い感情を抱かせる想いが、それを受け止める余裕のないタケルには逆効果である。

 何も考えず、されど余計な思考を置き去りにしてくれるような自然体のステラの方が望ましいと、ユリスは言うわけだ。

 

「いや、だからユリス。別に僕は──」

「くどい! 刺々しい雰囲気でステラを不安にさせた罰よ。大人しく一緒に寝てなさい」

「──はぁ、わかったよ」

 

 渋々と頷いたタケルは、傍で床にのの字を書くメイリンを見た。

 

「メイリン、気持ちだけ受け取っておくよ。ありがとう」

「うぅ……重い女で……ごめんなさい……」

「いや、そんな風に思って無いからね……」

 

 完全に意気消沈となったメイリンをそっと励ましてから、タケルは後部の座席へと向かった。

 

 1人で窓際に座ってから、一度目を閉じて……そうして、努めて心を空っぽにするように心がける。

 そうして一呼吸置いてから目を開けてステラを見れば、先程よりも随分と不安そうな顔に見えて、途端にタケルは居た堪れなくなった。

 

「──ステラ、おいで」

 

 内に暴れる感情を秘めて、出来る限りいつもの自分を表に出していく。

 優しい声音。自然な笑み────いつもの自分ができているかが不安ではあったが、タケルの言葉にステラは恐る恐ると近づいていく。

 

「タケル、怒ってる?」

 

 あぁ、とても怒っている────と、内で吠える感情は、ステラの不安そうな顔を見て抑えつけた。

 タケルはそっと首を振った。

 

「怒ってないよ。大丈夫」

 

 瞬間、ステラは表情を輝かせてタケルの隣へと座る。

 刺々しい気配が薄れて、言質も貰えたとなれば、疑念を払拭するには十分。

 余計な事を考えず、タケルの言葉を言葉通りに受け取ったステラは、疑いをなくしてタケルの肩に頭を乗せると嬉しそうに笑んだ。

 

「ステラ、タケルの隣で眠るね」

 

 大好きなユリスに言われたとあっては、その使命感も十分なのだろう。

 宣言をすると、瞳を閉じて一生懸命に眠ろうとする……そんなちぐはぐな動きをするステラに、タケルは苦笑いであった。

 そして同時に、懐かしさを覚えて小さく笑みを浮かべた。

 

 オーブの家でも、良くナタルとソファに並んでこうしていたものであった。

 いつも仕事ばかりなタケルを、仕事から引き剥がす様に。仕事より自分を見ろと言わんばかりにナタルは身を寄せては言葉を投げ、ささやかな雑談に耽らせようとした。

 

「(────ごめんね、ナタル)」

 

 想い出して、タケルは胸の内で謝罪を溢した。

 

 オーブを出立する前に、タケルは怪我で眠る彼女を見て来た。

 命に別状ないとはいえ、頭には包帯を巻かれ、意識も無く眠っている姿は痛々しく、タケルは再び怒りに駆られた。

 そんな彼女の傍に、居てあげられない事が、申し訳なくて仕方なかった。

 

「(──でも、必ず君を守るから)」

 

 愛する人を、もう2度と危険な目に遭わせない為にも。

 タケル・アマノはロゴス壊滅を目指してプラントへと向かう。

 

 そして、その先で────

 

 

 

 

「すぅ……すぅ……」

 

 正に、やる気満々である。

 早速寝息を立て始めるステラに、小さく驚きを見せながらも笑ったタケルは、自身もゆっくり目を閉じた。

 

 途端にずっしりと身体が重くなった様な感触がして、自分がどれほど疲れていたのかを理解する。

 

 

 その意識が落ちていくのに……長い時はかからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月面ダイダロス基地。

 

 静かな通路を歩くアズラエルは、僅かに眉間に皺をよせていた。

 

 予定したレクイエムの試射は成功……ではなく失敗。

 実際には、中継点となる廃棄コロニーとゲシュマイディッヒ・パンツァーによる歪曲は良好であったし、それによる目標座標への狙撃も十分な精度を持っていた。

 試射としては間違いなく成功である。

 しかし、反動があったのだ。

 中継点となる廃棄コロニーの1基が、通過したビームの出力で損傷。一部が崩れ使い物にならなくなった。

 元よりボロボロな廃棄コロニーを使用しているのだ。損傷する事は想定内ではあるが、本当の意味で廃棄となる事態までは行くとは予想外であった。

 お陰で現在は、次なる目標を狙い撃つために別の場所から中継コロニーを移動中である。

 

「全く、余計な投資ができなかったとはいえ、切り札となるレクイエムに廃棄コロニーを使ったのは失敗でしたね……つくづく仕事の詰めが甘い男ですよ、ジブリール」

 

 そうは言っても。

 それこそ廃棄コロニーを使わずに同じ規模の装置を用意しようものなら、アズラエルが進めて来た計画に支障が出ていただろう。

 レクイエムの問題は、アズラエルにとってある種の必要経費ではあった。

 

 問題はむしろ……と言うかやはり、オーブだ。

 

「やっぱり、簡単には落ちてくれませんね。レクイエムの後にあれだけの部隊を送って、結局オーブ軍の全滅は見れないとは」

 

 オーブと言う国自体はもう終わりだろう。国土に面影がない程の壊滅的な被害が出ている。

 しかし、オーブ国防軍の被害は国土の被害に反して少ない。

 代表復帰したカガリのアカツキも生き残り、フリーダムやジャスティス等も、送り込んだ部隊の全滅に一役買っている。

 何より、軌道上で猛威を振るった忌まわしき銀色のMSシロガネ。その活躍は2年前を思い起こさせる嫌なものであった。

 相変わらずの規格外な戦力を取りそろえるオーブ軍には、アズラエルも諸手を上げて、諦めの境地へと陥ったものだ。

 恐らくあれ等は、現状の戦力でいくら数を揃えようと無意味で在ろう。

 対抗するべきは嘗ての様に強化を施された人間と最高性能の機体だが、今の連合の兵器開発にその潮流は無い。

 元よりアズラエルも、その路線は推していなかった。

 

「ホント、厄介な国だったね、オーブって国はさ────ザフトはまだ動いていないが、とは言えレクイエムが発覚するのも時間の問題でしょう。有事には備えなくてはいけませんね」

 

 通路の先、艦船すらも居並ぶ巨大な格納エリアを一望できる場所へと辿り着いたアズラエルは、エリアを大きく占める巨大な兵器達を見据えた。

 デストロイ……アズラエルが提起しジブリールが推進した高さ50mにも及ぶ巨大MAでありMS。

 現行のチームオペレートであれば、エクステンデッドを用いなくても人数を増やすことで運用は可能であり、この月基地を守るには大きな戦力となるだろう。

 

 そしてその先……更に大きくエリアを占める巨大兵器が鎮座していた。

 格納エリアを一望できるアズラエルの視線ですら上向くそれを見て、アズラエルはまた笑みを深めた。

 

「良い出来ですね……お披露目の時が楽しみですよ」

 

 自信満々な声と共に、アズラエルは満足そうに一瞥してからその場を去っていく。

 

 

 月基地を舞台に、決戦の時は刻一刻と迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──兄様が、消えた?」

 

 

 それは信じられないと言うような。

 もっと言うなら現状ですら一杯一杯な中に放り込まれた、絶望を抱くに十分な報告であった。

 

 カガリが目を見開いて驚く目の前で、この報告を齎したキラとアスランもまた、表情を険しくさせた。

 

「ど、どういうことなんだ……キラ、アスラン。だって兄様は今」

 

 とてもまともな精神状態では無い筈であった────少なくともカガリの認識はそれだ。

 あの日見たタケルの姿は、嘗てアークエンジェルに乗って砂漠に降りた時と同じ。

 どうしようもない自責の念に押しつぶされて、大切なカガリの手を振り払ってしまう程に我を失った、あの時と同じ気配がしていた。

 

「サヤの話だと、アークエンジェルで今後の事を話し合いたいから準備をしてくれって頼まれて、戻った時にはもう姿を消していたんだって」

「同時に彼女も居ない────ユリス・ラングベルト」

「共に行った……って事なのかな?」

「この状況ではそうとしか考えられないだろう────あのバカ野郎」

 

 悔恨の声音が彼等から漏れでる。

 その想いはカガリもまた同じで、悔いる様に目をつぶった。

 

 目を離すべきでは無かったのだ。

 あの時感じた、怖気が走る兄の気配は確かであり、尋常では無かった。こうなる事は予見できた筈だ。

 

「──サヤ、兄様の様子は。何かおかしい所は無かったか?」

 

 この中で最後に彼を見た人間。

 キラとアスランの後ろで俯くサヤにカガリは問いかけた。

 

「────無かったのです」

「何?」

 

 あの不遜なサヤらしからぬ自信のない声。

 自らを掻き抱き、サヤは身を震わせていた。

 

「何も変化が無かったのです! 漸くの再会に喜んでくれて、サヤを抱き止めてくれて……決心した様に今後の事を話し合いたいと! お兄様は、サヤの大好きなお兄様のままだったのです!」

 

 それは懺悔の様であった。

 気が付ける筈であった。気が付くべきであった。サヤ・アマノはこうなる前に気が付けた筈の人間であった。

 

 オーブがこんな事態となって、兄が平静でいられるはずがない。

 いつも通り、知る通り────それこそがあり得ないはずだと言うのに。

 サヤは再会の喜びに現を抜かし、タケル・アマノが正常であると言う異常に気が付けなかった。

 

 申し訳ありません……と、サヤは涙ながらに謝罪を溢した。

 本当に似つかわしくない彼女のそんな姿に、キラ達も何かを言う事は無かった。

 そもそもが彼女のせいという訳でもない。サヤはただ、生きて再会できた喜びを噛み締めていただけだ。それも、一方は記憶を失い別人となり、また一方は目の前で戦死したと思われていた2人。タケルとサヤのこれまでを考えれば仕方のない話である。

 

「──キラ、アスラン。兄様の足取りは分からないのか?」

「ラクスとバルトフェルドさんが動いてくれてるみたいだけど……結果はまだ」

「ラクスも少し、思い至る所はあったらしい。軌道上でロゴスの増援と戦闘に入った時から、あいつの中に渦巻く憎悪が見える様だったそうだ」

「憎悪……」

 

 やはり、と言う所か。

 あの時カガリが感じた悪寒は間違いでは無かった。

 起き抜けだったから隠し通せなかったのだろう。2年前に砂漠で見た時と同じ危うさがあった。

 それをタケルは、サヤの前では隠し通したのだ。

 憎悪に染まる自分を見て欲しくなかったか。それとも、サヤの前でだけは優しい兄のままで居たかったのか。

 相変わらずサヤ・アマノの前でだけは、その弱さを見せる事はできなかった。

 

「とにかく今は、何をできるわけでもない。ラクスからの報せを待つしかないだろう……」

 

 苦渋に塗れながらも、カガリはそう呟いた。

 どの道、今の彼等にできる事は無い。被害にあった国民の数は計り知れず、今はとにかく目の前で少しでも多くの命を救い出す事だけに注力しなければならない。

 幸いにも、アークエンジェル伝いでスカンジナビアやユーラシア連邦の諸国からは援助の申し出が出ている。

 ジブリールを匿ったオーブとは言っても、開戦直前に出したカガリの声明もあって、この事態に世界は同情的であった。

 政庁が撃たれ、ウナト・エマ・セイランが死亡した事も判明しており、今のオーブをロゴス陣営だと懐疑的に見る風潮は少ない。

 代わりに、世界のロゴス憎しの声は、再び大きな炎となって再燃していた。

 

 だがその一方で、今回のオーブを見て明日は我が身と尻込みをする国も出始めている。

 デストロイによるベルリンへの侵攻なんて目ではない。レクイエムと言う大量破壊兵器を向けられれば、オーブと同じ末路を辿るのだ。

 小国であるほど、その恐ろしさは身近となり、大々的なデュランダル支持の声は出せなくなっていた。

 

 オーブは、正に良い見せしめに成ったのだ。

 

「──サヤ」

 

 暫く逡巡をしていたカガリは、涙をひっこめたサヤを呼んだ。

 

「はい……何ですか?」

「兄様に言われた話はどうなっている? アークエンジェルは動けるのか?」

「それは……お兄様からの言伝にラミアス艦長達からは即応体制で待機しているとのお答えを頂きましたが」

「おいカガリ。こんな時に何を──」

「サヤ、兄様はやるべきことがある……そう言ったんだよな?」

「はい、強い声音でした。まるで今にも戦地に向かわんと──」

 

 1つ1つ、カガリは確認していく。その途上で、サヤもハッとした様に息を呑んだ。

 消えた兄が何を想ったか。何を狙っているか。何が望みか────考えを巡らせれば、それは少しずつ形を作って見えてくる。

 

「向かったというのですか……オーブを討った兵器を破壊しに」

「それしか考えられないだろう。兄様がオーブのこの状況を放り出してまで向かう理由など」

「でもカガリ……タケルはシロガネを置いていったんだよ。ユリスさんのディザスターも一緒に。本当にそのつもりなら、わざわざ自分の機体を置いていくなんて」

「いやキラ、逆だ。その気があったからこそ持って行けなかったんだ」

「どう言う事、アスラン?」

「シロガネは名実共にオーブを護る最強の機体として名を馳せている。そのシロガネがロゴスの兵器破壊の為に動けば、下手すればここにあの兵器の第2射が向けられる可能性がでてくるだろう。あいつがそれを良しとするわけがない」

 

 納得する様に、キラは頷いていく。

 どれだけオーブを想っているか。タケルの想いを、彼等は良く理解していた。

 彼は人生の全てをオーブの為に捧げて生きて来た様な人間なのだ。

 オーブの為に……カガリの為に。

 いくら憎悪に駆られようとも、その感情だけの為に彼が国を捨て置いて戦いに向かうとは考えにくい。

 であるのなら、そうするだけの大切な理由がある。

 一度撃たれた以上、あの兵器が存在する限りオーブが安全である保障はどこにもない────即ち、悲惨な国元を離れてまでも向かう理由は、大元となる脅威の排除だ。

 

「キラ、アスラン、それにサヤ。3人はアークエンジェルと共に急いで宇宙へ上がってくれ。

 ラクスと合流して、兄様が向かった兵器の排除を目的に一緒に動いて欲しい」

 

 表だって、正規の国防軍は動かせない。

 未だ瓦礫の下にいる国民達を放って、作戦行動などできるわけがないし、申し出ている援助の手を取るにも体裁が悪い。

 今オーブは、差し伸べられる助けの手を全て借りたい状況なのだ。その手を振り払うような事はできない。

 

 だが、彼等ならば────キラも、アスランも、そして戦死していたとされており正式に国防軍に復帰していないサヤも。組織に組み込まれておらず自由に動ける立場にいる。

 フリーダムとジャスティス……そしてファクトリーで完成を控えるサヤ・アマノの機体ORB-12シンゲツ。これらを要するアークエンジェルであれば、出来る事は多い筈であった。

 

「頼む……兄様を助けて、連れて帰ってきてくれ」

 

 涙交じりに、カガリは懇願した。

 

 砂漠の時はナタルが居た。落ち着いてからはカガリもいた。それでどうにか、兄は持ち直した。

 だが、今の兄はそれらの手を振り解いて自ら更なる深みへと進もうとしている。

 救いなど許されないと言わんばかりに。大切なはずの人達から逃げているのだ。

 連れ帰れなければきっと、全ての事が終わった後でも

 兄は帰ってこないだろう……そんな気がしてならなかった。

 

「わかった。俺も今回は腹に据えかねる思いだ……必ず連れ帰ってまた殴ってやらないと気が済まない」

 

 カガリの懇願に一早く返したのはアスランだった。

 また……と言った部分にサヤがピクリと眉を潜めたが、後程追及される事だろう。

 

「私は今動くわけにはいかないんだ。だからお願いだ」

「うん、わかってる。僕もサヤの事で色々とタケルには報告があるし、直ぐに終わらせて連れて来るよ」

 

 視線を向けられたキラも、瞳に強い意思を乗せて返した。

 兄への報告とは一体何の話だと、サヤだけでなくカガリまでもが瞬間的に訝しんだのは内緒だ。

 

「サヤ……異存は無いな?」

 

 先程まで後悔の念を露わにしていた、タケルのもう一人の妹に。カガリは挑戦的に問いかけた。

 サヤにとってこれは、先程の後悔を払拭する機会を与えられたと言える。

 オーブを守るためと言う大義名分の元、大切な兄を連れ帰る為の任務である。

 

 にべもなく、サヤは決意の瞳で頷いた。

 

「当然です。願ってもない話……必ずや、お兄様を連れ帰ります」

「頼んだ」

「はい」

 

 気に喰わない古妹……そう言っていがみ合ってきたカガリの言葉に。サヤはこれまでにない素直な気持ちで返事を返した。

 想いは同じ────カガリも本当であれば動きたい筈が動けない。だから託すのだ。その想いを。

 兄を想うカガリの気持ちを、サヤが無下にできるはずもなく、丁重にその想いを受け取った。

 

 

「出立は明朝。作戦行動の決定は全てアークエンジェルに一任する旨を伝えてくれ────頼んだぞ」

「あぁ」

「うん」

「了解です」

 

 

 それぞれが返す強い声と共に、燻る焔が再び熱を取り戻し始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 プラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルの執務室。

 そこで部屋の主である彼は、驚きと困惑、そして大きな期待を胸に膨らませながら待ち人を待っていた。

 

「失礼します」

「あぁ、来たか────どうぞ」

 

 案内の将官の声と共に扉が開かれれば、そこには瓜二つの顔が2人。

 その背後には、ミネルバで見覚えがある少女の姿もあった。

 

「議長。特務隊クルース・ラウラとその客人をお連れしました」

「ありがとう。少し人払いをお願いできるかな?」

「はっ!」

 

 人払い────暫くはこの部屋に誰も近づけるなという事だ。

 重要な案件なのだろうと、案内の将官は足早に執務室を出ていった。

 

 それを見送ってから数秒を待って、デュランダルは柔和な笑みを浮かべる。

 

 

「生きているとは思わなかった。そしてこんな再会が来るともね────タケル君」

「私も、貴方とこんな再会をするとは思っていなかったです────議長」

 

 

 こうして人類の運命を握る者達が、再びプラントの地で再会するのだった。

 

 




ステラが隣……実質ナタル
まだ一人じゃないから闇落ち中だけど、なんとかセーフな感じ。
というか、結構救われてると思います。

そして徐々に見えてくる決戦の気配。どうなることやら。
どうぞお楽しみに

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