機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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更新停滞気味……ごめんなさい


PHASE-85 その手を明日へ

 

 

 

 静かな部屋で、ギルバート・デュランダルは久しぶりに心からの笑みを浮かべた。

 

 1人となった執務室。先程まで顔を会わせていた彼等は、既に将官に連れられ必要な場所へと案内されている。

 そうして静寂に包まれた執務室で、デュランダルは向かい合った応接用のソファに亡き友を幻視した。

 

「ラウ……君の見解は正しかったよ」

 

 瞳に宿る憎悪。在りし日の彼程では無かったが、隠し切れないそれが垣間見えた。

 一方で、それを抑えつけての冷静な交渉。こちら側を言いくるめようとする気配は、正に在りし日の彼の様。

 

「彼は、もう一人の君だ。とは言っても、望む未来は違ったがね」

 

 人に……人類に絶望したのは同じ。

 だがその先で滅びの道に進もうとする人類を──ならば突き進めと道を用意した(ラウ)と、滅びの未来を許容できず人類を変える事を望んだ(タケル)

 

 そのターニングポイントは、一体なんだと言うのか。

 

「君が今生きていたのなら……彼の隣で君は私に協力してくれたのかな?」

 

 先程までここに居た、同じ顔をした2人。

 生前の友は、その存在をどことなく親しき者と言う様に語っていた。

 人類の業が生んだ存在────そこにシンパシーを感じていたのだろう。

 共に歩みたかったとすら、語っていたのだ。

 

「世界がどうなるのか……君と同じく、今は私も同じ気持ちだよ。楽しみで仕方が無い」

 

 あれ程世界と人類に憎悪を抱えながらも、彼はそれを内に秘めてこの世界を楽しんでいた。

 世界がどうなるか……人類の行く末がどうなるかを。

 

 今ならば、彼の気持ちが少しは分かる気がしていた。

 

「さぁ、運命はどう転ぶのか……私も君と同じく、世界と人類の選択に委ねるとしよう」

 

 そう呟いたところで秘書官を呼び、デュランダルは切羽詰まった情勢で己が成すべき仕事に注力すべく、プラント最高評議会議長の仮面を被った。

 

 

 “ふっ、どうなるか見物だな”

 

 

 デュランダルの脳裏には、友が小さく笑う姿が過るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──っと、首元が窮屈ねこれ」

 

 そう言って、ユリス・ラングベルトは顔を顰めながら呻いた。

 袖を通すは赤い軍服────ザフトのエリートの証である。

 

「文句を言うな。これからの作戦行動の為に必要だと……議長の格別な計らいだ」

 

 呻くユリスを固い声で窘めながら、タケルも与えられた軍服へと袖を通した。

 赤服──本来であれば、ザフトのアカデミー上位者に与えられる物だ。が、タケルが言った様に今後の動きを考えれば、ユリスに一般の軍服は不相応との判断で、デュランダルよりエリートの証である赤服が支給された。

 

「ふんっ、それで兄さんは晴れてその服だものね」

 

 一方で、タケルが袖を通すのは部隊長や艦長に就く者の証となるザフトの白い軍服である。

 

 デュランダルとの邂逅と交渉を終えたタケルは、特務隊クルース・ラウラの名前でザフトへと戻り、そして今この時は、ユリス・ラングベルトとたった二人だけの新設部隊を任されていた。

 

 対価は、ステラ達エクステンデッドの身体の治療。

 そして、対ロゴス戦における2人の部隊の独自行動権────つまりは対ロゴス戦における、戦闘行為の全てを一任される事。

 タケルのこの要求に、ユリスはデュランダルが難色を示すかと警戒していたが、予想外にデュランダルはこれを快諾。

 寧ろ格別の計らいとしてタケルやユリスへの特例措置を講じた。

 

 こうしてタケルはロゴスとの戦いに必要な大儀と立場を手に入れたのだ。

 

「はぁ……それにしても心配ね」

「心配って、何が?」

「ステラ達に決まってるでしょ。メイリン・ホークが一緒について行ったとは言え、いきなり見知らぬ医療施設に放り込まれるなんて……どうなってるかわかんないじゃない」

 

 ユリスが言う様に、タケルが対価として要求したステラ達の治療は、プラントが保有する医療機関に運ばれて行われる事となっている。

 目の届かぬ所へと運ばれた彼等に、ユリスは気が気ではなかった。

 

「君が人を信じられないのは百も承知だが、独自行動権を要求した僕や君に、君が連合で付けられた様な首輪はついていない。彼が僕達に対して十分な信頼を寄せている証と取って良いだろう。

 シャトルでも言ったけど、わざわざ裏切ってこの関係を反故にするメリットは、議長にも無いよ」

「つまり?」

「悪い様にはされないって事。ステラ達の治療は、議長にとっても利用価値があるんだ」

 

 連合が生み出した強化人間。その詳細が知れるとなれば、相手の戦力事情が垣間見えると同じ事。

 治療法が分かるとなれば、それは即ち強化人間の弱体化をも模索できる可能性があるのだ。

 治療と言う対価ですら利用価値があるのなら、それを捨てる理由など無い。

 

「さぁ、着替えが終わったなら行くよ。次は工廠……僕達の機体の受領だ」

「ふふ、待ってました」

 

 タケルの言葉に、わかり易くユリスの声は上擦った。

 2人だけの部隊の設立と共に、プラントで開発されていた最新鋭機が2人には与えられる手筈となっている。

 たった2人の部隊でありながら、ロゴスとの戦いに終止符を打てるだけの戦果を、デュランダルは求めているのだ。

 

「のんびり構えている暇はない。スペックを叩き込んだら直ぐにでも出撃する」

「それは上々ね。むしろ望むところよ」

 

 無論タケルとしてはそのつもりだし、ユリスとしても最新鋭の機体で戦えるとなれば楽しみな事この上ない話。

 感情の正負はあるが、タケルとユリスは新たな機体の受領に戦意を高揚させていた。

 

「どんなのかしらね……楽しみだわ」

 

 揚々としていくユリスの声音を軽く聞き流しつつ、タケルもまた、シロガネに変わる新たな剣へと、燻る憎悪と共に思いを馳せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーペンタリア司令部にて。

 事の次第と、ミネルバへの新たな指令がプラント本国より通達された。

 

『ミネルバは直ちにカーペンタリアを出港。宇宙へと上がり、月面のダイダロス基地攻略作戦に参加せよ』

 

 指令には、緊急の通達である旨も示されていた。

 

 

 オーブ本島を狙い撃った大量破壊兵器。

 レクイエムの仔細が、本国にいるザフトの調査で判明したのだ。

 ミネルバは指令に従いカーペンタリアより緊急発進。

 ダイダロス基地攻略作戦へと向かう事となった。

 

 その最中で艦長であるタリア、副長であるアーサーと。それから作戦の要となるMS隊の3人はブリーフィングルームへと集まり、判明したレクイエムの情報共有と作戦の立案を行っていた。

 

「まさか、月の裏側からとはね……」

「表側のアルザッヘルを警戒している隙に、ダイダロスにこんなものを作っていたとはな」

「でも、あんな巨大なビーム……どうやって」

「艦長、目標の詳細は?」

 

 まだ理解の及んでいないシンとルナマリアが疑問を呈すると、レイはタリアに代わり端末を操作し本国より届けられたデータを映した。

 

「奴等は廃棄コロニーに超大型のゲシュマイディッヒ・パンツァーを設置してコロニー自体を巨大な装置にしたんだ。そうして、月面からのビームを数回にかけて屈折させた」

「えぇっ!? それじゃあ、その廃棄コロニーの位置や屈折角度を変えれば……」

「そうねアーサー。中継地点と屈折角度を調整すれば、理論上宇宙のどこだろうと……地上のどこだろうと、狙い撃てるわ」

「悪魔の所業ですね」

「そんな……」

 

 アーサー、シン、ルナマリアの3人は事の重大さに息を呑んだ。

 特にシンとルナマリアは、眼前でオーブに落ちた巨大な光が何をもたらしたのかを目の当たりにしている。

 その威力も、規模も……結末も。

 

 後には何も残らない、絶対的な破壊の力であることを。

 

「既に宇宙では、ジュール隊とジャニス隊が国防委員会より指示を受けて向かっているわ。ただ……」

「本国からでは月基地は遠すぎる。ジュール隊とジャニス隊の目標は、中継点となる廃棄コロニーの破壊だ」

「でもそれじゃあ」

「えぇ、そうよルナマリア。それでは根本の脅威の排除にはならない。それに、ダイダロス基地ともなれば、防衛戦力はそれ相応。例の巨大MAだって配備されているはず。基地攻略の戦力を送るにも、苦戦は必至」

「だから俺達って事ですか、艦長」

 

 険しい表情で、シンは同意を求める様に問いかけた。

 一度は憎んだ故郷であれど、再び彼の国を焼いたのは連合……否、恐らくは2年前からきっと変わらず、ロゴス。

 なればこの戦いは、ザフトのシン・アスカとしても。またオーブに居たシン・アスカとしても、決して見過ごせない戦い。

 

 悲劇の根源たるロゴスを討つ────シンの決意は今この場で一際強く、深くあった。

 

 そんなシンの気配に、タリアは目を細めながら頷いて見せる。

 

「──そうね、シン。現状であの巨大MAに対抗できるのは私達だけと言うのが本国の見解。白羽の矢が立つのは当然という事よ」

「でも艦長。ダイダロスを私達だけと言うのは厳しくないですか?」

「それを言っていられる状況ではないだろう。俺達だけであろうとも……できなければ、次アレに撃たれるのはプラントだ」

 

 レイの言う事に、タリアも含めて皆が小さく息を呑む。

 それは誰もが考えていた事。事実デュランダルは、オーブにレクイエムが放たれてから真っ先にそれを想定して動き出したのだ。

 レクイエムは既に一度放たれ、そして一つの島国を焼いている。今更プラントを討つ事に躊躇はしない。

 

 プラントの滅亡もまた、現実として目の前に迫っているのである。

 

「ジュール隊とジャニス隊は先鋒で、後続でゴンドワナも動いてるわ。委員会本部でも対抗策は講じているみたい。私達だけとも限らないけど……私達だけでもやれる作戦を立案しなくてはならないわね」

 

 援軍が来ると思ったら来なかった。では、プラントの行く末が掛かっている以上済まない話だ。

 タリアが言う通り、何としてもレクイエムの破壊を成し遂げなければならない。

 一同が真剣な面持ちで頷き合うと、ブリーフィングは開始された。

 

 作戦開始までのわずかな時間を、彼等は必死に。成功率を1%でも上げようと、考えを巡らせ続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうですか……タケルが」

 

 オーブ首長国連邦。離島の病院にて、ナタルは事のあらましをマリューから聞かされていた。

 小さなため息と共に、ナタルの胸中には不甲斐なさが沸き立っていた。

 

 戦後ボロボロとなった彼を────愛すると決めた彼を。ずっと傍で支えると誓ったはずなのに。

 情けなくも一番大切な時に意識を失い、またしても己は傍で手を差し伸べる事ができなかったのだ。

 

 怪我の痛みよりも、タケルの胸中を想って走る胸の痛みの方が、ナタルには余程堪えた。

 

「そんな顔しないのよ。貴女のせいではないわ。

 ただ……今回ばかりは、タケル君もカガリさんも、喪うものが大きすぎたのよ」

「オーブの状況はどうなってますか?」

「不幸中の幸い、といって良いのかしらね。国防海軍の大部分を国民の避難に回していたから、かなりの国民が国外やここみたいな離島へと避難できていたみたい。それでも、割合は良くて8割ってところね」

「8割……ですか」

 

 8割は避難できた……つまり、残りの2割は犠牲になったという事だ。

 オーブの人口は凡そ1000万人。単純計算で犠牲者は200万人ということになる。

 首都オロファトの人口と、避難先であった政庁のシェルターが吹き飛ばされた事を考えれば、不思議ではない数だろう。

 

 ユニウスセブン、ブレイク・ザ・ワールドに続く大きな犠牲を生んだ事件となる事は間違いが無い。

 

「渦中で生き残れた私は、幸運……なのでしょうね」

「変な認識も持たないの。生き残った事が悪いとでも言うつもり? タケル君を更に悲しませたいの?」

「そういう訳ではありません。ですが……」

 

 この惨状で良く生き残れた。そう思うのと同時、生き残れてしまったと言う申し訳なさはついて回る。

 犠牲者の規模が多すぎるのだから、それは尚更である。

 公私ともに実直で責任感のある彼女にとって、それは簡単に御し切れるものでもない。

 

「貴女がそんなんでどうするのよ、ナタル。そうやって抱え込みすぎるのはタケル君だけで十分。しっかりしなさい」

「簡単に言ってくれますね」

「そうやって思い悩むより、私達にはやる事があるもの」

 

 やる事……やるべき事。

 マリューも、そしてナタルも。その表情を嘗ての軍人のものへと変えた。

 

 今この時のオーブの為に、カガリがアークエンジェルへと下した願い。即ち、オーブを撃った大量破壊兵器の排除だ。

 マリューがナタルの居る病室へと来たのもこれが理由である。

 

「無論、負傷している身ではありますが私も行きます」

「オーブは既に私達の国でもあるものね。このまま引き下がっては居られないわ」

 

 視線を合わせて、2人は小さく頷き合った。

 タケルと共に過ごしてきたナタルはもとより、マリューも戦後を過ごしてきたオーブを自身の国として見ていた。

 平穏な日々を、この国で過ごしてきたのだ。

 その大切な場所を奪われたとあって、黙ってなど居られようか。

 

「出立は明朝よ……ナタル」

「わかりました。明け方には艦橋に入ります」

「えぇ、待ってるわ」

 

 退室していくマリューを見送り、病室には静寂が訪れる。

 

 すると、ナタルの表情は直ぐに憂いを帯びたものへと変わっていった。

 

「──タケル」

 

 思わず零れるのは愛しい人の名。

 2年前と同じく、自責の念で闇を彷徨っているであろう大切な人を想う表情であった。

 

 

「お願いだ、タケル……」

 

 

 

 ────どうか、あるべき幸せから逃げないでくれ。

 

 

 

 紡がれた言葉は、誰に聞かれる事もなく静寂の中に溶けていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 同じ時、宇宙へと上がる準備を進めているアークエンジェルでは。

 

「アスラン、そっちはどう?」

「こっちはどうにか終わった……それよりもそっちの方だろう」

「うん……まぁこっちも、一応は何とかなりそうだよ」

 

 格納庫では新型のフリーダムとジャスティスに乗り込み、細かな調整を進める2人の姿があった。

 周囲ではマードック等を中心に物資の積み込み等も進められており、随分と喧騒の中だ。

 周りの音に消されない様にコクピット内で通信回線を開きながら、2人は再び手にした愛機を己に100%フィットさせるべく、キーボードを叩き続けて居た。

 

 そう、この2人……いくら自分達に合わせて設計された機体とは言え、テスト無しのぶっつけ本番で戦場に出て、更にはザフトの最新鋭機とやり合って完封してきたのである。

 先の大戦を戦い抜いたその実力は、やはり伊達ではないという事だろうか。

 調整する姿には、どこか余裕めいたものすら感じられた。

 

「何とかなりそうって、この間の進捗ではドラグーンのシステム構築に難航していたんだろう?」

「そうだったんだけどね。ラクスの話じゃ、あっちに居たタケルが引き受けてくれたみたいで」

「あぁ……そう言う事か」

 

 納得した様で、呆れた様で。アスランは小さく呻いた。

 

 MSを触らせたらタケル・アマノの右に出る者は居ない。

 オーブの兵器開発を一手に引き受けて、国防戦力のほとんどに手をつけていたのだ。少なくとも技術者としては、間違いなく一級である。

 本来キラが自分で調整するつもりであったドラグーンの制御システムは、既に十全な状態で組み込まれていた。

 

「道理で……ジャスティスのリフターのシステムも出来が良かったわけだ」

「こっちも、宇宙に上がるから確り仕上げておこうと思ってたからさ……ちょっと驚いちゃって」

 

 構築されたシステムを見れば、楽しそうな笑みを浮かべながら好き放題2機を弄り倒している友の姿が、何となく思い浮かんだ。

 

 そして、それこそが彼の本当の姿だとも。

 キラとアスランは、神妙な面持ちとなって、憎しみに囚われてしまった友を想った。

 

「本当に……守りたかったんだろうね」

「あぁ……だが、守れなかった。

 あれだけ多くの開発に手を付けて。国を追い出されてからも、オーブを守る為に俺達の機体を仕上げて……それでも、オーブは撃たれてしまった」

「でもそれは、タケルが足りなかったわけじゃないよ」

「そうだが。そう素直に受け止められる程、あいつは利口じゃないんだ」

 

 あのバカ野郎は…………吐き捨てる様に言うアスランの声音は、むしろ自分を責めている様にキラには聞こえた。

 

 タケルがサヤの為にプラントへと渡る前。オーブを守ってくれと任されていた事への責任を感じているのだろう。

 タケルもそうだが、目の前の親友もまた、そういった自責の念が人一倍強い人間であることを、キラは良く理解して居た。

 

「キラ。必ず任務を遂行して、あのバカを連れて帰るぞ」

「うん、必ず。その為にも今は──」

『キラ・ヤマト。それにアスラン・ザラも。少し良いですか?』

 

 コクピットへと飛び込んでくる通信。映りだすのはサヤ・アマノの姿であった。

 

「サヤ?」

「どうしたんだ?」

 

 一体何用だろうと。2人はコクピットを抜け出て、ラダーを使い降りていく。

 降りた先で、サヤは少しだけ申し訳なさそうに頭を下げていた。

 

「作業中に申し訳ありません。少々尋ねたい事があります」

「それは勿論……構わないけど」

「一体どうしたんだ?」

「ネオ・ロアノークを、見ませんでしたか?」

 

 投げられた問いに、キラとアスランは顔を見合わせた。

 ネオ・ロアノーク。またの名をムウ・ラ・フラガ。

 先の戦闘ではアークエンジェルの護衛として、ストライクルージュに乗り参戦していた事は、彼等も聞き及んでいた。

 

「見てないけど……艦橋じゃない?」

「何かあったのか?」

 

 アスランに問われて、サヤは少しだけ不機嫌さを醸し出した。

 瞬間的に、キラとアスランはこれが恐らくタケルにもかかわる事柄であることを悟った。

 

「カガリ・ユラ・アスハから言伝を預かったのです」

「カガリから?」

「その……ネオ・ロアノークに、シロガネを託したいと」

「はぁ!?」

「ちょ、ちょっと待ってよサヤ。いくらムウさんでもあの機体は無茶だって」

「あっ、すいません。紛らわしい事を……正確には旧型のシロガネの方です。お兄様が置いていった新シロガネではありません」

 

 思わず、キラとアスランは胸を撫で下ろした。

 新シロガネ……ORB-0000シロガネ・コクウは、タケルが設計した無理無茶無謀を突き詰めた機体である。

 旧シロガネですらその全開機動はとんでもないと言うのに、更にその上を目指した新シロガネを、凄腕とは言えナチュラルであるムウに乗せるなど、命が危うい話であった。

 

「びっくりしたよ。カガリまで乱心したのかと思った」

「今のは聞かなかった事にしておきましょう」

「だが何故だ。何で急にそんな話が……サヤ、カガリは何て?」

「それが理由は……尤もだとは思います」

 

 サヤは、噛み締める様にカガリから渡された話を2人に聞かせた。

 

 曰く、現在の国の惨状で大々的に国防軍を派遣することなどできはしない。

 しかし、かといって同情を寄せる周辺諸国や手を差し伸べてくれる友好国におんぶにだっこのままでは、今後のオーブが自立するときに体裁を保てない。

 再び中立国を目指し、独立する為にはここでやられたままで……撃たれたままの姿を見せるわけにはいかないという事。

 

 その為にアークエンジェルの作戦行動にはオーブが関わっている事を知らしめる必要がある。

 一番にわかり易いのは当然ながらカガリが乗るアカツキが同伴する事だが、それは当然ながら叶わない。

 この状況で、国の代表である自分が国を空けるわけにはいかない。

 

 故に、アカツキと同じだけの名と実を備えるシロガネを派遣する。

 崩壊し、亡国と成り果てたオーブ────その外聞を払拭するのだ。

 そしてそのパイロットとして適役なのが。

 

「フラガ少佐、という事か?」

「それは確かに……ムウさんならドラグーンも使えるだろうし、乗りこなせるとは思うけど」

「既に本人には通達してあるとの事なのです。ですが、サヤにはどうしてもあの男がお兄様のシロガネを乗りこなせるとは思えません」

 

 今にもネオを虚空に思い描いて噛みつかんばかりである。

 サヤの様子に、キラとアスランは予感が当たった事を察して苦笑した。

 

「あ、あはは……」

「目を付けられてしまったな」

 

 聞こえぬ様に呟いて、2人は胸中で彼に合掌する。

 恐らくだがこの後は彼を見つけ出して、シロガネの扱い方を叩き込むのだろう。

 それも参考資料は、タケル・アマノ搭乗時のシロガネだ。

 

 2年前、モルゲンレーテで真っ白に燃え尽きていたムウの事を、キラは思い出していた。

 

「とにかく、存じていないのでしたら仕方ありませんね。失礼させてもらいます」

「うん……ちゃんと加減はしてあげて」

「作戦に支障が出る様じゃ困るからな」

「無論です」

 

 そう言ってキビキビと離れていくサヤを、2人は見送った。

 丁度その先で、格納庫へと搬入されてくる旧シロガネが目に入る。

 その置かれる先では、サヤが探していたムウ、もといネオの姿があった。

 

「あーあ……大丈夫かな、ムウさん」

「悪い事じゃないさ。戦力としては間違いが無い以上、俺も宛にしたい。彼女も…………限度は弁えているだろう」

「そう、かなぁ……そうだと良いんだけど」

 

 厳密には関わっていないが、タケルが関わるとおかしくなるサヤである。

 

 キラは一抹の不安を隠し切れなかった。

 

 

 

 

 

 格納庫内へと運び込まれてくる白銀のMSを見つめる。

 ライトアップで照らされる光を反射するその煌びやかな装甲をみて、ネオは僅かに目を細めた。

 

「ダーダネルスでも見たが、綺麗なもんだな」

 

 まるで日の光を浴びて輝くために造り出された様だ。そして、こうしてこの機体を目の前にしてみると、酷く懐かしい気持ちが過って来る。

 この感覚は、アークエンジェルに拾われてから度々涌いて来るものであった。

 

「あの美人艦長も。あの坊主達も。そしてこの機体も。きっと俺は知っているという事なんだろうな」

 

 そう言ってネオは、己の記憶を見返した。

 

 ネオ・ロアノーク。CE42.11.29生まれ。大西洋連邦ノースルバ出身。ブラッドタイプはO型。

 CE60に大西洋連邦で軍に入隊。現在は第81独立機動軍、通称ファントムペインの指揮官で大佐。

 

 呼び起こせばはっきりと過る記憶が、しかしどうにも違和感を拭いきれないでいた。

 懐かしさを感じる顔ぶれ。何かを想起させようとしてくる感触。

 この艦で見て、聞いて、感じる全てが。今思い浮かべたネオの記憶を否定しようとしていた。

 

「はぁ……さて、どうするかね。

 立場上月基地に攻め込むの何て協力できないはずなんだが。どうにも俺の心はやる気に成っちまってんだよなぁ」

 

 崩壊したオーブを見て悲しむ面々の顔が、随分とネオをイラつかせていた。それは無論、彼等にではなくこんな光景を作った何かに、である。

 

 命令に従いオーブと同じような光景をベルリンに作り出した時も、大概ネオの胸中は胸糞悪くなる想いであったが、どうにも今回は我慢できそうない。

 

 ネオはそれを、己の内に眠る(ムウ)に因るものだと信じて疑わなかった。

 

「まっ、俺自身もお偉いさんに1度は文句を言おうと思っていた所だ。やってや──」

「ネオ・ロアノーク!!」

「うぃえ!?」

 

 独白しながらちょっと気合いと共にカッコつけようとした矢先、罵声の様な呼び声が投げられて、ネオは素っ頓狂な声を挙げる。

 

「ったく……何なんだよ嬢ちゃん。人が気持ちよく気合い入れようとしている時に……」

「ご挨拶ですね。互いに戦場で銃を向け合った仲だと言うのに」

「あん? 銃を向け合った? 何の話だ」

 

 意味の分からない言葉に訝しむネオに、サヤは冷ややかな視線を向けた。

 

「あぁ、貴方とは一応初対面でしたか。では改めまして……私の名はサヤ・アマノ。貴方が乗るシロガネの正パイロット、タケル・アマノの妹です」

「アマノ……妹だって? って事はミネルバに居たっていうタケル・アマノの妹か」

「その通り。ついでに言うのであれば、お兄様のエスペラントと共にミネルバに居た赤いMS、セイバーのパイロットが私です」

「はぁ? なんでミネルバに居たやつがこんな所に……って俺も人の事を言える立場じゃねえか」

「そんな事よりもです。カガリ・ユラ・アスハから話は伺っているのでしょう」

「あ、あぁ……この機体を使って戦ってくれとな。俺としては是非もな──」

「貴方のお気持ちなどどうでも良いですが、その機体を駆る以上貴方に無様は許されません────来てください、サヤがシミュレーターでシロガネの扱い方を叩きこみます」

「はぁ? 曲がりなりにもこっちは連合軍大佐だぞ。お前さんなんかに」

「そういう台詞は一度でも私に勝利してからにしなさい。さぁ、行きますよ」

「お、おい!? 待て引っ張るなって!?」

 

 有無を言わさず、サヤに首元を掴まれてネオは連れられて行く。

 向かう先はアークエンジェルの訓練エリア。モルゲンレーテ謹製のシミュレーターがある場所。

 オーブを守る剣として名を馳せたシロガネとタケル。

 大切な兄の名誉を守るため、サヤは納得がいくまでネオを鍛え上げるつもりの様である。

 

 

 

 

 こうして、決戦を目前にオーブの夜は更けていく。

 

 どうしようもできない現状。御する事のできない感情。

 それらを抱えたまま時は過ぎる。

 

 

 その先で、まだ掴めるであろう未来がある事を信じて。

 

 

 

 

 

 余談だがこの後、兄の名誉を守るためと言う大義名分を得たサヤはSEEDにまで至り、徹底的にネオ・ロアノークを叩きのめして見せた。

 幾度も行われたその訓練は、キラが危惧した通り嘗てのモルゲンレーテでの出来事を彷彿とさせ、ネオはまた一つ懐かしい記憶を取り戻しかけたと言う。

 

 




完全に平常運転に入ったサヤちゃん。
そして兄妹に揃って叩きのめされ燃え尽きるムウさん。
と言うわけで、ムウさんの乗機は旧シロガネとなりました。

本作のアカツキはもう完全にカガリ専用機なので、他の人は載せません。
逆にシロガネもタケルも、ホイホイ乗り手と乗機を変えてますね。

さて、次回から決戦モードな展開になります。
ロゴスとの決戦。どうぞお楽しみに。



オーブ崩壊編から低評価ポンポン貰っちゃって……結構不安を抱えております。
楽しんでる読者からのお声が欲しいので、感想や評価等頂ければ幸いです。

運命編、主人公は俺だ! 選手権

  • へなちょこ主人公タケル
  • 黒幕主人公キラ
  • 殺意の塊主人公アスラン
  • 忠犬主人公シン
  • ヒロイン主人公サヤ
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