プラント本国にて。
「ジュール隊からの入電です」
最高評議会の面々が集まる議場に、ザフトの将官が報告に来る。
デュランダルを筆頭に、議員達が身を乗り出さんばかりの食いつくような視線を向ける中、その報告は挙げられた。
「ミネルバ及びコンクルーダーズは月基地を攻略。作戦目標であった敵大規模破壊兵器と、ダイダロス基地の壊滅に成功したとの事です!」
「おぉ、やってくれたか!」
思わず漏れ出るデュランダルの声と共に、議場が俄かにざわついた。
作戦の可否はそのまま、ここに居た彼等の命運にも繋がっていた話だ。皆表には出さずとも戦々恐々とした心地であったのだろう。
一様に広がる空気は、安堵に浸るものであった。
「また、ゴンドワナと合流したジュール隊も敵中継点の破壊に成功。周辺宙域に同様の中継点が無いかを確認の上、次の作戦に取り掛かると言う事です」
「あぁ、それで対応してもらってくれ。とにかく良かった、これで安心もできると言うものだ」
一先ずの安全確保、それが成った。
戦域の情報はメディアを通じて市民にも流されており、この結果を流せばやがてプラントの混乱は収まる事だろう。
既にプラント直接攻撃と言う痛手は被ったものの、どうにか危機は脱したのだ。
「本当に、良くやってくれたよクルース────いや、タケル・アマノ君」
議場が歓喜に包まれる中、小さく……しかし満足そうに、デュランダルは笑みを浮かべて呟く。
今回の事態に際し、彼等が来てくれたのは正に渡りに船と言う所。
時間も戦力も足りない……そんな難局の最中、彼等は身内の治療を条件に、戦士として自分達を使えと提案してきた。
その身内である治療対象についても驚きの一言ではあったが、治療法の確立は既に済ませ、問題無く事は運んでいる。遺伝子工学の進んでいるプラント本国では造作もない事であった。
それによって得られた対価。それが今こうして結果として示されている。
彼等は最新鋭機のデスティニーを事も無げに使いこなし、ミネルバと共にプラント最大の脅威を排除してみせた。
そして彼、タケル・アマノはロゴス討伐の先────これから動き出すであろうデュランダルの計画にまで、既に踏み込んできていた。
『議長、“デスティニープラン”についてお聞かせ願いたい』
再会し、交渉の先で切り出されたその言葉に、デュランダルは目を丸くした。
どこからそれを探り当てたのか。それは皆目見当がつかなかったが、それを問うた彼の瞳は何かに縋るかのように真剣であった。
嘗て、妹を取り戻すためにプラントを訪れた時と同じく……再び喪わぬ様にと自身を張り詰め続けている、見覚えのある姿だった。
含みは無い。叛意は無い────それどころか、きっと彼は己の計画の強力な味方となってくれる。
直観的に、運命めいたものをデュランダルは感じ取った。
「ふっ、やはり君は戦士には向かないのかもしれんな」
言って、何をバカなことをと自嘲してみるが、デュランダルの見解は変わらなかった。
能力だけ見れば、彼や同じ遺伝子を持つ彼女は素晴らしい戦士の一言に尽きる。そこに疑念を挟む余地は一切ないだろう。
だがその心は別だ。どれだけ戦士として優れた能力を持とうとも、彼の精神構造は決して戦士に適するものではない。
そしてこの結論は、彼が抱く計画への反証とも言えた。
「皮肉なものだな。平和な世界の為にプランを求めてやまない君が……最もわかりやすいその反証になるというのは」
遺伝子が導く世界……反論も反証も出てくることは分かっている夢物語であった。
それでも、デュランダルは計画を成すつもりだ。
この世界に生きる人類の為にも。計画を求めてくれた、亡き友人を思わせる彼の為にも。
彼の計画は世界にとって必要であるのだから。
「ラウ、どうか彼を見守ってやってくれ」
どこか慈しみを感じさせる声音で、デュランダルは亡き友へと語り掛けるのだった。
──込み上げる嘔吐感を吞み下す。
タケルはデスティニーのコクピットの中で、煩わしそうにパイロットスーツのヘルメットを脱ぎ捨てた。
心臓は早鐘を打って暴れている。
全身を嫌な汗が濡らし、瞳は彷徨う様に外に広がる宇宙を見つめていた。
タケルは、ミネルバへと帰投するその途上であった。
“ダメだ、タケル!! ”
届いた最愛の女性の声音は、悲痛と憂いを湛えていた。
タケルの脳裏に浮かぶは、悲し気な瞳を向けるナタル・バジル―ルの姿。
瞬間、拒絶反応でも起こす様にタケルの高揚していた戦意はひっくり返った。
守りたかったはずの国を喪い憎悪に染まり。
直視したくない現実から目を背けて。
挙句の果てに、大切な弟達を傷つけようとした。
その行いが……彼女を悲しませているのが自らだと自覚した瞬間に。タケルは戦う事も、言葉を紡ぐ事もできなくなり、逃げる様にミネルバへと機体を翻した。
繋がった……最愛の人からの通信を全てシャットアウトして。タケルは大切な彼女と向き合う事から逃げたのだ。
「──兄さん」
シンも同様に着いてきてはいるが、未だ現状を呑み込めていないのだろう。口を開く気配は無かった。
「何、ユリス?」
「ミネルバの艦長さんから通信が来てるわよ」
ハッとしてコンソールを見れば、通信の通知が入っているのが見えて、タケルは慌ててヘルメットを被り己を取り繕った。
どうにか、死んだような顔を隠し通す事には成功しつつ、タケルは届いていた通信回線を開く。
開かれたモニタには、喉に小骨がつっかえたような表情をしているタリア・グラディスの顔が映り込んだ。
『クルース』
「──申し訳ありません、グラディス艦長。熟考の末素直に引き下がりました」
いけしゃあしゃあとよくも……隣で聞いていたユリスは顔を顰め、シンはまた何とも言えない様に表情を歪める。
売り言葉に買い言葉なやり取りで、タケルもキラもアスランも、どこか投げやりな勢いのままに戦闘へと突入しようとしたのだ。
その寸前に、タケルに対するとっておきの切り札を切られ無理やり止められただけ。知る者からすれば熟考とも、素直とも程遠い。
『賢明な判断だと思うわ。コンクルーダーズは議長直属の部隊なのでしょう? その貴方達が対外的な問題を起こされては困るもの』
「はい、軽率でした。不安を煽ってしまい重ねて申し訳ありません」
ほんの少し前の己の言動を振り返って、タケルは陳謝する。
先程のやり取り……あの場で彼等と戦闘に入る必要性など本来は皆無だ。ただ、手を伸ばそうとしてくる彼等が煩わしく邪魔になっただけである。
これまでの自分を考えれば信じられない言動に、また一つタケルは自嘲を浮かべた。
『とにかく、急ぎ帰投してちょうだい。積もる話もたくさんあるだろうし』
「言いたいことは分かりますが、せめて言い訳だけでもさせて欲しいですね」
『それが聞ける言い訳ならば……聞いてあげるわ』
聞けない言い訳であることは前提か。
普通に考えるならMSが撃墜されれば戦死は必至。再会したデュランダルの表情からも、恐らくザフト内での自身は戦死扱いであったことが読み取れる。
つまりはミネルバの面々……特に艦長であるタリアにも随分と心労を掛けた事だろう。
それも、兄妹揃ってだ。
散々心配をかけた彼女からはお叱りの1つくらいは受けても仕方のない話であった。
離れていく白い翼……アークエンジェルのモニタ越しに、愛する人の背中を見送り、ナタルは大きく嘆息した。
「──タケル」
応えは無かった……否、むしろあったと言うべきか。
ナタルの声が届いた瞬間、臨戦態勢であった白いデスティニーはまるで人が変わったように戦う気配を霧散させてミネルバへの帰路についたのだ。
その予想外過ぎる流れに、キラ達は疎か横に並んでいた2機のデスティニーも置いてけぼりとなってしまっていた。
『アークエンジェル……聞こえるかしら?』
触発の緊張感からの急な展開に皆が惑う中。艦橋に届くはナタルにとって懐かしき顔ぶれからの通信。
艦橋のモニタに映るそれは、愛する人と瓜二つの顔を持つ女性。
嘗てはまだ少女の面影があったが、この2年で随分と顔つきから幼さも消えたユリス・ラングベルトの姿であった。
「ラングベルト……久しぶりだな」
この場において唯一の顔見知りであろうナタルが、いの一番に通信に応じる。
『お久しぶりねバジルール少佐。尤も、今はそんな肩書も無いのだろうけれど』
「あぁ、私はもう連合軍人ではない。それよりも……ラングベルト、貴様が何故彼の隣に居る?」
僅かに嫌悪を交えながら、ナタルは問い詰めた。
タケルの白いデスティニーと並ぶ紫のデスティニー。
先程の戦闘では見事な連携を見せ、ロゴスの超巨大兵器をたった2機で完全制圧して見せた。
だが、2年前あれ程憎み合った2人がなぜ今並び立っているのか────ナタルには解せなかった。
それはマリューも同じくで、訝しむような視線をユリスへと向けている。
2人は忘れていない。2年前のかの日、彼女によって喪われた命を。
彼女が目論んだ────世界を舞台にしたタケル・アマノとの殺し合いの行末を。
『逆に聞くけど、貴女は何で兄さんの隣に居ないのかしらね?』
ハッとナタルは目を見開いた。
何故彼の隣に居ないのか────それは無論“置いて行かれた”からだ。
オーブが喪われたあの日。重傷を負いナタルが意識の無い間に、タケル・アマノはオーブを発った。
一番居て欲しい時に……一番支えて欲しい時に支えられなかったナタルを置いて。そうしてタケルは最も憎み合っていた筈のユリスと共にプラントへと向かったのだ。
『貴女だけじゃないわ。キラ・ヤマトも、アスラン・ザラも。歌姫様もそこの艦長さんも皆そう────これ以上兄さんに、貴方達が抱くタケル・アマノ“らしさ”を押し付けないでくれるかしら?』
1つ、艦橋内の空気が重さと冷たさを増した。
厳しい声音と共に放たれた“タケル・アマノらしさ”……その言葉に、皆が口を噤んだ。
キラが騙るタケルの本心とその否定。
カガリとオーブの為に必要だと凄んだアスランの言葉。
らしくないと叫んだ、サヤの想い。
それらは全て、彼等によるタケルへの押し付けだと評したのだ。
「貴様に、タケルの何が──」
『貴方達が知る兄さんは、確かにそんな人間なんでしょうね。でも、私からすれば今の兄さんの方がよっぽどらしい。だから、はっきり言ってあげる────兄さんはもう、オーブに戻る気は無いわよ』
一同が驚愕に目を見開く。
彼が……タケル・アマノが、本当の意味で国を捨てた。ユリスはそう言ったのだ。
「ふざけるな、そんな事あるわけが」
『状況的にはおかしい事じゃないでしょ? 兄さんは既にオーブで在った立場からは排斥されてるし、代わりにザフトで立身してるんだから。逆に、この状況で兄さんがどうやってオーブに戻るのよ』
事が終わればクルース・ラウラとしての立場を捨て、都合よくオーブへと戻る……タケルを知る者であれば、そんな事する人間ではない事は分かった。
サヤを取り戻すためにザフトへ入った時とは違う。タケルは今回、デュランダルの提案に乗るでもなく自らザフトへと身を置いたのだ。
「それほどの覚悟……と言う事なのか」
『さすがに貴女は良く分かってる、バジルール少佐。そうよ、兄さんはオーブを護る為なら何でもするつもり。何が何でもロゴスを壊滅し、何がなんでも平和な世界を作り上げる。その為に、オーブで生きる事すら捨てたわ。
だからこそもう一度言ってあげる────何故、貴女は兄さんの隣に居ないのかしらね?』
向けられる厳しい声音。ユリスの問いかけがナタルにとっては酷い責め苦に思えてならなかった。
離れていった彼を呼び戻したかった。連れ戻したかった。絶望に打ち震える彼を抱きしめ、救い出したかった。
その一心であったが、その想いこそが独り善がりだと思い知らされたのだ。
タケル・アマノはそうして救われることを。許されることを望んでいない。
彼と再会して連れ戻す事では無く、彼の傍でその悲願を支えてやるのが成すべきではないかと、ユリスは言外にナタルに問いかけていた。
『わかった? 兄さんを止めようとか連れ戻そうなんてのは無意味だって事が。貴方達と共に居る事を、兄さんは断ち切ったのよ。一緒に居たいのなら、貴方達がこちらに来る事ね。そっちで抱えてる歌姫様が居れば難しい事でもないでしょう?』
平和の歌姫ラクス・クライン……今でこそミーアが影武者としてプラントに居るが、本物である彼女がプラントへと帰還すると言うのなら、デュランダルは諸手を上げて歓迎する事だろう。
パトリックの息子であるアスランも、そして優秀に過ぎる他の面々も。
デュランダルからすれば喉から手が出るほど欲しい駒だ。
タケル達同様に、迎え入れられる事は間違いがない。
『話はこれだけよ。失礼させてもらう』
「待ちなさい! 今貴女が言った平和な世界と言う話……タケル君はプラントでどうやって実現するつもり?」
『私に聞かれても困るわね、マリュー・ラミアス。兄さんがあの議長と何を画策してるかなんて私は知らされていないもの────まぁ、歌姫様は見当くらいついてるんじゃないの?』
その言葉に皆がラクスへと意識を移したその隙に。
それじゃあね、となんとも軽い言葉を残してユリスは通信をシャット。キラ達をその場に置き去りにしてミネルバへの帰路についた。
タケルがオーブに戻る気は無いと言う特大の爆弾を彼等に残したまま。
こうしてレクイエム攻防戦は完全なる終着を迎えるのであった。
ミネルバの格納庫は、ある種の熱気に包まれていた。
まず1つに、大きな作戦となったレクイエム攻略作戦が上手く言った事。その戦勝の結果に、格納庫に居た整備班は大いに沸き立っていた。
そして次に、レクイエムの破壊。これを成したのがミネルバのエース、シン・アスカと彼に託されたデスティニーだと言う事。ヘブンズベースから続く、驚異的な戦果の報は、仲間としてやはり皆を熱くさせるものだ。
そして最後に……紅蓮の翼をもつデスティニーと共にミネルバへと着艦してきた、白と紫のデスティニー。
彼等の戦友であった、クルース・ラウラが戦死の報より生還した事。
格納庫にはタリアより遣わされたアーサー・トラインも顔を見せており、皆がMSハンガーへと掛けられた白いデスティニーから彼が降りて来るのを待ち構えていた。
「ほら兄さん、皆さんお待ちかねよ。さっさと仮面を被りなさい」
「うるさい、わかってる」
デスティニーのコクピット内で、投げ込まれたユリスの声に悪態を吐きながら、タケルは首を振って気持ちを切り替えた。
既にラウの仮面は着けている。ユリスが言うのは、ぐちゃぐちゃの胸の内を晒さない様に、心に蓋をしろと言っているのだ。
今だけは、同じ遺伝子故に何もかも筒抜けな彼女の存在がタケルは疎ましくて仕方なかった。
「先に言っておくけど、余計な事は言わないでくれよ。特に連合に居たとかそう言う話は」
「はいはい、そのくらい分かってるっての。そもそも……私この艦との因縁ってそんなに深くない気がするし」
振り返ってみればタケルとの再戦ばかりで、ユリスがまともにミネルバの面々とやり合った事があるのは、せいぜいがインド洋でインパルスとやり合ったくらいである。
ダーダネルスでは潜伏してミネルバのタンホイザーを破壊して見せたが、結局その後は駆けつけたフリーダムやエスペラントとの戦いとなり、直接的にミネルバと相対していたとは言えない。
スティング達からするとミネルバは因縁浅からぬ敵と言う認識であったが、ユリスからするとミネルバと言うよりはタケルとの戦いと言う認識が強く、特段ミネルバへ乗り込むのに抵抗は抱かなかった。
「──よし、準備できた。降りるよ」
「りょーかい」
返された軽い口調に少しだけ気持ちを柔らかくしながら、タケルはコクピットを後にした。
「おぉ、シン。良くやったな!」
愛機のデスティニーから降りれば、整備長のエイブスから手荒い歓待をされながらも戦果を褒め称えられ、揉みくちゃにされながらシンはやってやったぞと言う様に笑んで見せた。
議長に託された運命の剣。それを駆り、プラントを守った事実はやはり誇らしく自然とシンの気持ちは上擦っていく。
隣にはヴィーノやヨウランも居て、彼等もまたプラントを守れたという事実に満面の笑みを見せていた。
本当に、嬉しい事ばかりである。
対面に座する白い翼のデスティニー。
降りて来る人影を認めて、シンはその顔に喜色を浮かべた。
死したはずであった人。ミネルバやインパルスが墜とされると言う刹那駆けつけてくれた、嘗ての上官。
「隊長!!」
クルース・ラウラ、その人である。
シンが挙げた声を皮切りに、格納庫の視線と人が集まってくるのは、彼が慕われていたという証拠だろうか。
シンやレイ、ルナマリアに限らず、エイブス等整備班も死したはずの彼の生還に沸いて集まっていった。
仮にここにヤヨイ・キサラギが居たのなら、きっとシンの後ろにぶんぶん振られる尻尾を幻視したに違いない。
機体から降りて来たタケルがヘルメットを取れば、そこには見知った仮面の彼が居た。
「久しぶりだな、シン」
「隊長……」
ヘルメットを取った先の見知った姿に、パッと顔を輝かせたかと思えば、しかしどこか気恥ずかしそうに顔を背ける。
嬉しい事には嬉しい。が、ここで素直にその嬉しさを表に出せない所も彼らしい気がして、タケルは仮面から覗く口元を微かに緩めた。
出会った当初は不安定で生意気ばかりだった少年が……様々な経験を経て立派に皆の期待を背負う様になって。そして戦っている。
彼の成長の証が、議長より託されたデスティニーだと言う事を鑑みれば、その成長は著しいのだろう。隊長であり教導した身としては、鼻も高いと言うものであった。
「活躍、してるみたいだな」
「──はい」
ヘブンズベースからの彼の活躍はタケルも聞き及んでいた。
対ロゴス同盟の旗頭────デュランダルからの期待を一身に背負って戦う彼の活躍が、目覚ましいと言う事を。
素直な賛辞を込めて言葉を投げれば、珍しく素直に応える姿勢を見せて来る。どうにも調子が狂う態度であった。
「あれ~、シンってばもしかして照れてる?」
「なっ!? 違うってルナ! そんなんじゃ」
「お久しぶりです隊長。ご無事に戻られた事、嬉しく思います」
「ホントですよ隊長。あの日からシンもヤヨイも酷かったんですからもう」
相変わらずの静かな雰囲気で来るレイと、分かりやすく怒っている様に見せておどけるルナマリア。
懐かしさを覚える嘗ての部下達のやり取りに、吐きそうになる程揺れ動いていたタケルの心は、次第に落ち着きを取り戻していった。
「レイ、ルナマリアも久しぶりだな。活躍は聞いている。随分な戦果の様じゃないか」
「隊長のご指導があったからこそです」
「私も……ガルナハンで先んじてインパルスに乗ってなかったら、今みたいには乗りこなせてなかったですよ」
「ものにしたのは全て君達の成果だ。素直に誇ると良い……それと、もう私はここの隊長じゃない。名前で呼んでくれて構わないよ」
今はコンクルーダーズの隊長であり、ミネルバMS隊の隊長ではない。
部隊間の垣根を越えれば、そこには同じザフトのパイロットとして在るだけ。
オレンジ髪の同僚の事を思い出し、タケルは彼等とのやり取りから上下関係を取り去った。
「しかし、我々にとって隊長は隊長ですから」
「そこはハイネに倣おう。赤も緑もFAITHも関係ない。ここに居るのは、ザフトのパイロットそれだけだ。そう言えば、ハイネは?」
あの陽気で気さくな男の姿が見えないことに違和感を覚え、タケルは問いかけた。
彼の性格なら真っ先に飛んできそうなものなのに、影も形も見当たらない。
投げられたタケルの疑問に、シン達は微妙な顔を見せていた。
「ハイネはヘブンズベース戦の後、議長と一緒にプラント本国へ。国防委員会直属に戻ったみたいですよ。聞けば今回の作戦でジュール隊と中継点の破壊に出てたらしいです」
「イザーク達と一緒に? と言う事は、あそこに居たのか……」
「ちょっと。自分だけ馴染んでないでせめて私の紹介くらいしたらどうなのかしら?」
話が弾む彼等に、横合いから飛び込んでくる声。
機体色に合わせたダークパープルのパイロットスーツに、未だヘルメットを外さずに居たユリス・ラングベルトが、タケルの肩を掴んでいた。
「あ、あぁ、すまないユリス」
似合わぬ口調に、内心でタケルを嘲りながら、次いでヘルメットを取った瞬間にここにいる彼等が浮かべる驚愕を想像してユリスは更に笑みを深めた。
「紹介する。コンクルーダーズ副隊長のユリス・ラングベルトだ」
場所を空ける様にタケルが退いてから紹介すると、周囲が俄かにざわつく。
戦場に出て実際にその戦いを目にしていたパイロットと同じく。整備班の皆も戦闘の模様はモニタリングしていた。
タケルのデスティニーと並び立つ紫のデスティニーが、正に一糸乱れぬ見事な連携でロゴスの巨大兵器を仕留める様を見ていたのだ。
タケルと並んだコンクルーダーズのもう1人となれば、その興味は強く大きいものであった。
そんな、皆の興味を一身に受けたユリスは、おもむろにヘルメットを脱いでその素顔を晒して見せる。
溢れ出る山吹色の長い髪。コーディネーターらしく整った端正な顔立ちの中、ひと際目立つのは彼女のこれまでの人生が紡いだ、鋭さを湛える双眸。
その冷たさを纏う双眸が大きく開かれ、楽し気に周囲を睥睨する。
無論、晒された彼女の素顔に、ここにいる者達は唖然とした。
「ユリス・ラングベルトよ。兄さん共々よろしく頼むわ」
冷たさを感じさせる風貌には少し似つかわしくない、女性らしく高くて綺麗な声であった。
「────に、兄さん?」
溢された疑問符は誰のものであるか。それは定かでは無いが、きっとここにいる皆の気持ちを代弁している気がした。
漂う空気は、嵐の前の静けさと言う様に酷く落ち着いており、まだ誰もがその情報の処理に追いついていないが故のそれだ。
そして、落とされた爆弾の処理に、タケルは1人大きく溜め息を吐いて口を開く。
「戸籍上の関係は無いが、遺伝子上は私の双子の妹だ」
「えぇええ!?」
「ふぅん、そう言う設定でいくの?」
小声で訊いて来るユリスにタケルは頷くでもなく胸の内でこれ以上喋るなと、正に念を押した。
嘘である……があながち嘘とも言い切れない。ユリスがタケルを兄と呼ぶ以上……何より、同じ遺伝子故の2人の容姿を鑑みれば、それなりの事実が必要なのだ。
そんな偽りの事実に、格納庫に居る皆は驚愕で目を丸くするのであった。
「ちょっ、ラウラ隊長。それは本当なのかい?」
「トライン副長、今述べたとおりです」
「副長? この人が、この艦の? 随分と頼りなさそうね」
「のっけから失礼ぶちかまさないでくれユリス。これからもう暫く、ミネルバには世話になるんだ」
「はいはい」
「えっと、暫く世話になるって本国までって事?」
タケルの言葉尻に、妙な胸騒ぎと違和感を覚えて、アーサーは確認する様に問いかけた。
問われたタケルと隣のユリスは、その問いに緩んだ空気を引き締めて応える。
「いえ、我々コンクルーダーズは議長よりダイダロスの大規模兵器の破壊指令と共に、もう1つ任務を請け負っています。そしてそれは、ミネルバにも同様です」
もう1つの任務────その言葉に、戦勝で浮かれていたこの場の空気が一挙に険しい物へと変わった。
「隊ちょ──じゃなかった。クルース、どういう事でありま……どういう事だよ」
「ぶっ!?」
「シン、別に無理して言葉遣いまで変えなくても良い」
隣で思いっきり吹き出しかけたユリスを一睨みして背後へと追いやってから、タケルは整備主任のエイブスへと目を向けた。
「エイブス主任。機体の整備を急がせてくれ。詳細はグラディス艦長から通達してもらうが、ミネルバは直ぐに次の戦地へと向かう」
「次の戦地……ですか?」
「えぇっ!? どうにか敵の兵器を破壊したばかりなのに?」
「だからよ、副長さん。敵は叩くときに叩いておかないと」
驚きを溢すアーサーに、ユリスがまた口を挟み、そしてまた余計な事を言うなとばかりにタケルに視線で抑えられた。
改めてシン達へと向き直ったタケルは、待ち構えた彼等に向かって、次なる戦いを告げる。
「我々コンクルーダーズとミネルバの次なる目標はもう1つの月面基地────アルザッヘルだ」
戦火の音は、未だ止まず鳴り響いていた。
作者も大分混迷の最中、どうにか必死に紡いでいます。
お仕事で更新頻度下がってますが、応援どうぞよろしくお願いします。
この組み合わせ気持ち良すぎだろ!!
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タケル&ユリス
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キラ&アスラン
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シン&サヤ
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イザーク&ディアッカ
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ミゲル&ハイネ
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タケル&キラ(SEED編より
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ラウ&ユリス(SEED編より
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アサギ&マユラ&ジュリ