機動戦士ガンダムSEED カガリの兄様奮闘記   作:水玉模様

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PHASE-21 目覚める力

 Nジャマ―に反応。

 

 オペレーターのパルが上げた報告に艦橋内に緊張が走った。

 

「103、オレンジαにローラシア級接近!」

「モビルスーツ熱紋確認。ブリッツ、バスター、デュエル、それに先の戦闘で確認されたジンの改良型がいる模様!」

「総員、第1戦闘配備!」

 

 マリューの声に従い艦内アナウンスにて戦闘配備が発令された。

 

「奴等、合流を目前にして奇襲とは!」

「貴方の想定が当たったわね。でも、ならば艦隊の射程圏内まで逃げ切れば勝ちよ!」

「その通りですが、先遣隊の時と比べてもあちらの戦力は上です」

「ここまできて墜とされてたまるものですか!」

 

 合流は目の前。今この時をしのぎ切れれば、ようやく安全も約束される。

 乗り越えなければならない戦いであった。

 

「ナタル、絶対に乗り越えるわよ!」

「無論です!」

 

 はっきりと応えてくれるナタルの声がマリューの心を奮い立たせる。

 こういう時、毅然と応じてくれる彼女の声が心強かった。

 艦橋の空気を引き締めてくれるのがわかる。

 

「イーゲルシュテルン起動。アンチビーム爆雷用意! 艦尾ミサイル全門セット!」

「斉射後、各機出撃を! ミリアリアさん!」

「了解です!」

 

 艦戦闘の準備が整っていく。

 張りつめる空気の中、射程圏内へと入っていく敵モビルスーツ達をマリューは睨みつけた。

 

「てぇー!!」

 

 ナタルの合図に合わせてアークエンジェルから一斉にミサイルが発射される。

 攻撃目的ももちろんあるがこれは1つの目くらましでもある。

 艦載機出撃の際、一番気を付けなければならないのが出撃の瞬間を狙われることである。

 奇襲への応対となった今回。ムウ達の発進が出遅れた今、それを考慮した射出タイミングを取らなければならない。

 

「ちっ、いきなり派手なお出迎えじゃないか」

「全機散開だ!」

 

 イザークの声に応じて固まっていた4人の機体がバラけていく。

 

「各機発進!」

「進路クリア―。ストライク発進、どうぞ!」

 

『キラ・ヤマト。ストライク、行きます!』

 

『こっちもでるぞ!』

「フラガ機発進、どうぞ!」

 

 漆黒の宇宙へストライクとメビウスが出撃していく。

 

「アマノ二尉は!?」

『すいません、ちょっと追加調整してまして』

「調整って……出られるのですか!?」

『ご心配なく。ちょっと不格好ですけどね』

「不格好って……」

『よし、いける。ミリアリアさん、出撃しても大丈夫かな?』

「あっ、はい! 進路クリアです。アストレイ発進、どうぞ!」

 

『タケル・アマノ。アストレイ、出撃します!』

 

 アークエンジェルを飛び出すアストレイ。

 艦載モニターがそれを映しだし、艦橋に居た面々は驚愕する。

 

 アストレイの下半身は所々内部フレームが剥き出しとなった、まるで未完成のMSだったからだ。

 マリューは最悪の事態を考え、格納庫のマードックを呼び出した。

 

「マードック軍曹! これは一体どういうことですか! なぜあんな状態で──」

『アマノ二尉の要望です艦長。アストレイ自体にPS装甲の機能はない。PS装甲前提のストライクの装甲ではまともに防御力を発揮できないから、最適な重量バランスにするために必要箇所だけ外部装甲を取り付け他はオミットしたんです」

「バカな、そんな事をすれば少しでも被弾した瞬間──」

『PS装甲がなきゃ結局は一緒だそうです。だったら重量バランスだけ考えて、機体の動きを向上させた方が良いって』

「そんな無茶苦茶な」

『私も一応止めたんですがね、あそこまで理路整然と言われちゃあ断れなくて。元々アストレイはウチの機体じゃないから拒否権もないですし、やれと言われりゃやるしかなかったんでさぁ』

 

 不承不承と言った気配は、通信越しのマードックからも感じられた。

 彼が言うように、この状況は彼にも反対の上でタケルによって押し切られたのだろう。

 マリューはひとまず、整備不良や修理が間に合わなかった懸念が払拭されたことに安堵する。

 

「──事情は分かりました。一先ず修理が間に合わなかったとかではないんですね?」

『見た目はあれですが状態は問題なく。さっきまで調整してた機体ですが、アマノ二尉の要望通りで軽量化にもなった分、機体の動きは良くなってるはずです』

「了解しました」

「艦長!」

「本人の要望通りにできているのなら私達から口を挟めることでもないわ」

「しかし!」

「今は戦闘中よ、彼とは帰ってきてから話しましょう……」

「了解。火器管制、フレンドリィファイアには細心の注意を払え。あの状態ではイーゲルシュテルンですら命とりになりえる」

「了解!」

 

 乱戦状態へと入ったMS達を確認しながら、突破してきたブリッツへとナタルは狙いを定めた。

 

「ゴットフリート一番二番、てぇー!」

 

 

 艦隊合流までの電撃戦。

 だがそれは、まだ始まったばかり。

 

 

 

 

 

「さぁ行くぞ、ストライクー!」

「デュエル!?」

 

 突撃してくるデュエルを躱し、ストライクはビームライフルで牽制する。

 前のめりで攻め込んでくるデュエルを相手に、キラは冷静にそれを捌いていた。

 

「くっ、攻め手が止まない」

「どうしたどうした!」

 

 次々と追撃してくるデュエルの攻撃をキラは慌てず、だが必死に躱していく。

 アスランがキラを討つ気が無かったからイージスとは渡り合えていたが、敵が本気で討ちに来るとこうも厳しいものかと嫌でも理解させられていた。

 

 だがキラとて、ただ無為にアスランと戦っていたわけではない。

 戦いの定石。MS戦闘の肝。

 それらをイージスとの戦いから徐々に学んできている。

 敵機を見た。サーベルを握る腕。機体の制御状況。スラスターの向き。

 次なる動きが僅かに幻視できる。そしてそれに、反応する。

 切りかかってくるデュエルのサーベルにストライクのシールドを綺麗に合わせた。

 

「何!?」

「これで!」

 

 シールドと逆の手にサーベルを取らせ振り下ろす。

 デュエルはギリギリで後退して躱すが、ストライクの動きに僅かに戦慄した。

 ストライクは合わせてきたのだ。イザークが駆るデュエルの動きに。

 それはキラがイザークの動きをしっかりと把握し対応できているのだと理解させる。

 

「くっ、嘗めるなよぉ!」

 

 再び攻勢に出たデュエルをキラが今度は迎え撃った。

 互いにその手にしたサーベルがぶつかり合い、シールドが幾度も火花を散らす。

 想定よりも高いキラの技量に、イザークはミゲルの懸念の正しさと己の無鉄砲さを同時に理解した。

 オレンジが強い事は想定していた。だが今目の前にいるストライクだって、既に侮れるような相手ではない。

 それも自分達がしっかりと慣熟訓練をしてきたというのにだ。

 

「ちっ、ディアッカ、援護はどうした!!」

 

 思う様にいかない戦況を変えようと、後方支援のディアッカを呼ぶが声が返ってくることは無かった。

 

「ディアッカ! 何をしている!」

『黙ってろイザーク! くっそぉおお!』

 

 飛び込んで来たのは必死の形相で機体を駆るディアッカの姿だった。

 何が起きた──ハッとしてイザークは機体の位置情報を確認する。

 ミゲルのハイマニューバと戦闘中の機体はMA。

 そして、バスターと戦闘中の機体が

 

「──オレンジ。あの野郎!!」

 

 急いで援護に行かなければまずい。即座にそう理解したイザークが動こうとするが、そこへ立ちはだかるはストライク。

 

「逃がさない、お前の相手は僕だ!」

「貴様ぁああ!!」

 

 怒りに任せて、イザークのデュエルはビームサーベルをストライクへと叩きつけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 恐怖に慄く。

 ディアッカ・エルスマンは自機であるバスターを駆りながら悲鳴を上げそうな心を必死に抑えていた。

 接近してくるオレンジの機体──アストレイは、脚部の内部フレームが剥き出しとなり、とてもまともな機体ではないというのに。

 バスターの連結兵装。対装甲散弾砲が面制圧となってアストレイへと向けられた。

 それをアストレイはするりと回避してくるのだ。

 

「どうなってんだよありゃ!?」

 

 別にタケルにとってはどうという事は無い。

 連結兵装は射撃までに時間がかかる。

 元々地球連合の機体だ。詳しい性能、データは閲覧してあるし、パイロットでありながらMS開発に携わるタケルからすれば兵装データでどんな戦い方ができるかは容易に想像がつく。

 接近を許したくないバスターは面制圧の対装甲散弾砲を使うだろうが、ある程度距離を詰めている今、使うタイミングさえ察知できればその瞬間に距離を詰めて、制圧面を極小面積化し回避が可能だ。

 

 面が点になれば、後はタイミング次第なのである。

 

 

「ディアッカ、今援護に──くっ、鬱陶しいんだよこいつ!」

 

 援護に向かおうとするミゲルのハイマニューバを、ムウがメビウスで牽制する。

 アストレイとのドックファイトが念頭にあったミゲルにとって、オールレンジでの射撃ができるメビウス・ゼロは相性が悪かった。

 ミゲルの意識は完全に近接戦闘に向いており、その上ハイマニューバにPS装甲は無い。射撃を受ければ損傷は必至な機体で、メビウス・ゼロの相手はかなり苦しい。

 

「ニコル、こいつの相手を頼む! 俺がオレンジを、ディアッカは艦に回れ!」

「わ、わかりました!」

「頼む、早くしてくれ!」

 

 アークエンジェルと戦闘中だったブリッツが踵を返し、ムウのメビウスへと向かう。

 ミゲルはその瞬間に発生する2:1の数的有利を活かしてガンバレルをマシンガンで一基撃墜する。

 

「ちっ、中々上手く対応してくるじゃないの!」

 

 出撃時に敵の陣形を見てタケルと決めた作戦。

 後方支援の位置を取っているバスターを自由にしては苦しくなると、タケルが一気に肉薄。

 前に出てきているデュエルとハイマニューバをキラとムウが抑える流れが綺麗に嵌っていた。

 

 しかしミゲルもさるもの。機体相性を即座に把握してPS装甲持ちのブリッツにメビウスを。

 砲狙撃戦特化のバスターには清々とアークエンジェルを狙わせる方針にシフトした。

 無論、厄介なアストレイを自身が抑える事が前提だ。

 守るべき艦がバスターの攻撃で苦しく成れば艦載機は動かざるを得ない。

 そうなれば彼らが付け入る隙もできるのである。

 

「ミゲル、行ってください!」

「任せた!」

 

 ブリッツの到着と入れ替わるように、アストレイへと向かうハイマニューバ。

 

「ちっ、タケル! そっちに行ったぞ!」

「了解!」

 

 ハイマニューバが来るまでの僅かな間。この瞬間にとにかくバスターの戦力を削る。

 タケルは集中力を高めて、アストレイをバスターに向けて走らせた。

 

 ここ一番。ディアッカもアストレイの決死の勢いを肌で感じ取る。

 連結兵装が通用しないことを悟り分離。

 アストレイの脚部はあの状態だ。ならばランダム照準で全兵装をフルオープンにし弾幕を張る。

 被弾は怖いはずだ──突っ込めるものなら突っ込んでみろ。

 そう言わんばかりの弾幕である。

 

 果たして、ディアッカの目論見通り。

 被弾を恐れたアストレイは急制動。大きく射線を回避するしかできなかった。

 

「やってくれる!」

「頼むぜ、ミゲル!」

「任せろ!」

 

 アストレイはハイマニューバの接近を許してしまう。

 仕留めきれなかったバスターが悠々とアークエンジェルへと向かう中、2機のビームサーベルが火花を散らした。

 

「君も大概しつこい!」

「あの艦が沈むまでは俺と踊ってもらうぜ!」

 

 まずい──タケルは思わず唇を噛んだ。

 ブリッツならばまだしも、砲狙撃戦仕様のバスターが相手ではアークエンジェルへの危険度が段違いだ。

 

 ムウのメビウスはPS装甲持ちのブリッツに決定打を持たない。時間を掛ければシフトダウンまで持っていく事も可能だろうがその時にはもう遅いだろう。

 キラの方も、エール装備のストライクとデュエルは相性的には互角。

 決めるのがパイロットの腕となれば、やはり厳しい。

 

 ここで自分までもがこの機体に捕まってしまえば、アークエンジェルは無防備なのだ。

 

「短時間で仕留めるしかない!」

 

 焦燥を抱き動揺する心を抑えつけ、ハイマニューバへと機体を向ける。

 しかし、先の戦いでタケルとアストレイの底知れぬ実力を目の当たりにしたミゲルは、その驚異的な動きへの警戒を最大限に強めていた。

 攻めきるには難しく、だがアークエンジェルへ向かうには厳しい。そんなつかず離れずの戦いを見せており、タケルもまた決定打にかけていた。

 

 膠着は即ち、アークエンジェルの危機へと繋がり、戦況は一気に劣勢へと傾いていた。

 

 

 

「バスター接近!」

 

 サイの報告でアークエンジェル艦橋に緊張が走る。

 先程までのブリッツであれば大きな脅威とはならなかったがバスターならば違う。

 Xシリーズの中でもアークエンジェルにとって一番の脅威の接近に、対応が迫られた。

 

「ランダム回避運動! 機動性は低い。好きにさせないで!」

「ヘルダートとバリアントで牽制! 直後にゴットフリート照準!」

 

 回避運動を取りながら、ミサイルを斉射。

 バスターの接近を阻み、動きを止めた所で主砲のゴットフリートで仕留める。

 ナタルが思い描く戦術の通りに推移するかと思われた流れは、即座にバスターから放たれた連結兵装超高インパルス狙撃砲が火を噴いたことで覆される。

 

「なんだと!?」

 

 直後、艦全体が大きく揺れる。

 艦尾のスラスター口を1つやられアークエンジェルは推力が低下した。

 

 アストレイによって全兵装をフルオープンしたバスターは残りの弾薬もエネルギーも心許ない。

 だがメインとなる連結砲はサブジェネレーターを積んで機体エネルギーの消費無く使用することが可能だった。

 艦隊合流までの時間も無い事からディアッカはPS装甲任せの相打ちを選び、アークエンジェルに強烈な一打を見舞いしたのだ。

 

「ミサイルの被弾を覚悟した相打ち!?」

「やってくれる、損傷は!」

「1番スラスター損傷。隔壁閉鎖!」

「相手とて装甲に余裕はない! イーゲルシュテルンを集中させ──ぐっ!?」

 

 再び、艦が大きく揺れる。

 続けざまに放たれた今度は対装甲散弾砲。

 アークエンジェルはラミネート装甲による被弾部の排熱によって高いビーム耐性を持つが、代わりに実弾には弱い。

 受けた射撃はそのまま艦左翼側の装甲を大きく損傷させる。

 

「第5ブロック損傷。被害大!」

「まずいわ、迎撃集中、振り払え!」

 

 ミサイルとイーゲルシュテルンの弾幕がバスターを襲い、一度距離を取ってバスターはミサイルを迎撃していく。

 だが、細かな隙を狙って今度は分離した350㎜ガンランチャーで次々と細かな損傷を与えていく。

 

 バスターの動きは初手こそ博打であるがそこからは堅実であった。

 スラスターを狙い足を止めてからはミサイルを上手く迎撃し、影響の少ないイーゲルシュテルンはある程度受けつつ反撃をきっちりと当てていく。

 

 バスターへ決定打を与えられないまま徐々にアークエンジェルの装甲が削られていく。

 

「このままでは! ストライクとアストレイは!」

「デュエル、ジンと交戦中!」

「キラ! アマノ二尉! アークエンジェルが危険です、戻って!」

「フラガ大尉は!」

「ブリッツと交戦中です!」

「ちぃ!」

 

 

 

 

 

 

 バスターとアークエンジェルの交戦を確認。

 タケルの脳裏に、アークエンジェルが墜とされる姿が浮かぶ。

 

 だめだ、そんな事は許せない。

 

「くっ、このぉ!!」

 

 ハイマニューバの攻勢を捌き、アストレイを翻す。だが、ミゲルのハイマニューバがアークエンジェルへと向かう事をさせてくれない。

 

 必死にタケルは記憶を手繰り寄せた。

 あの時の感覚を思い出せ。先鋭化され全てが知覚できるような感覚。

 相手の動きが手に取るようにわかる全能感。

 それがあれば、目の前の敵機等……

 

 しかし、そう思えば思う程。

 タケルの戦闘への集中力は散漫になっていく。

 当然だろう、今タケルの脳裏にあるのは、あの時の感覚にどうやって入るかであって、目の前の敵をどうやって退けるかではない。

 

 戦いに意識が向いていない人間に、高い戦闘力が発揮できるはずもなかった。

 

「(このままじゃ、カガリが!!)」

 

 焦燥だけが募る中、タケルは必至にハイマニューバを捌く事しかできなかった。

 

 

 

 

 ストライクでデュエルと必死に戦うキラもまた、アークエンジェルの状況を確認していた。

 バスターの攻撃を受け、徐々に損傷が増えていくアークエンジェル。

 

『キラ! バスターが! お願い戻って!』

 

 CICのミリアリアからは必死に呼びかけがあり、艦がいかに切羽詰まった状況なのかを嫌でも察する事が出来た。

 

 だが、目の前にいるデュエルを振り切る事ができない。

 攻勢は依然として苛烈。パイロットの気性が現れるかのように、デュエルは機体性能を十分に活かしながら、ストライクへ猛攻を浴びせ続けていた。

 

 キラとて、それを捌くのに必死なのだ。

 訓練を受けてきて、なおかつエリート部隊の所属であるイザークの猛攻を、未だ墜とされず捌けているだけでもキラは十分に健闘していると言って良い。

 

 だが、健闘が結果をもたらすかは別だ。

 焦燥が募る。削られていくアークエンジェルに、足元が消えてなくなっていくような、奇妙な感覚と恐怖が競り上がってくる。

 

 何をしている、このままではアークエンジェルが! 

 

 そう自分を鼓舞しても、できないものはできないのだ。

 自分の力量以上は出せるはずもない。

 

 縋るようにキラはアストレイの状況を確認した。

 しかし、こちらも望む状況とはかけ離れていて思う様な戦況ではない。

 ムウのメビウスも同様。

 

 守れないのか……あそこにいる大切な人達を。

 

 サイ、トール、ミリアリア、カズイ、フレイ。

 今ではタケルが必死に守ろうとしているカガリだって、キラにとってはもう大切な人達だ。

 

 

 “君と戦いたくなんかないけど、あそこには守らなきゃいけない人たちが乗っているんだ! ”

 

 “戦争したいわけじゃなくても、僕にはあそこでこの機体に乗って戦う理由がある! ”

 

 

 自分はそう言ったはずだ。

 親友の前で、差し出された手を振り払い、そう言ったはずだ。

 なのに、タケルを頼り、ムウを頼り、正規の軍人でないことを言い訳に目の前の敵を捌いているだけで良いのか。

 違う、絶対に違う。

 

 守ると誓ったのは──自分のはずだ! 

 

 

 

 キラの中で何かが弾けた。

 自分を抑えていた枷が……決意と共に弾け、キラが持つ潜在能力の全てを開放する。

 

 クリアになった知覚領域。

 極限の集中力がもたらす、先読み。

 相対するデュエルの挙動だけではない。

 己が駆るストライクが、まるで自身の体の一部となったかのように動かせた。

 

 何度目であろうか。デュエルから振り下ろされたビームサーベルを、ストライクはシールドで受け止めるのではなく勢いと共に受け流す。

 

「なに!?」

 

 前のめりになったデュエルの背中を蹴りつけ、跳躍を加速に追加し、アークエンジェルへとストライクを走らせた。

 

「ディアッカ!! ストライクが行ったぞ!!」

「何だって!?」

 

 アークエンジェルに集中していたディアッカに、イザークから通信が飛び、センサーの情報を拾うディアッカ。

 確認してまだ距離が十分である事がわかり、ガンランチャーで迎撃しようと構えた。

 

「この距離で、オレンジみたいに近づかせるかよ!」

 

 バスターから放たれる砲火。

 それをキラはデュエルとの戦闘でボロボロとなったシールドを投げつける事で対応する。

 2機の間で、ガンランチャーを受けたシールドは爆散。

 ディアッカは視界が塞がれた事を警戒し、ストライクの動きを予測してバスターを迂回させた。

 だが、ストライクは速度を緩めぬまま爆炎へと飛び込み、まるで見ていたかの様に逃げた先のバスターを強襲する。

 

「嘘だろ!?」

 

 ビームサーベルを抜く。

 脅威となるバスターが手にした二門の兵装を切り落とす。

 そのまま機体を蹴りつけ距離を取ったところでライフルを構えメインカメラを破壊。

 流れるようにバスターを解体していく。

 

「貴様ぁああ!!」

 

 追い付いてきたデュエルがストライクの背後を狙う。

 それを察知したキラは、ストライクを翻しデュエルの勢いを受け流して背後へと回り込む。

 

「どうなってんだお前は!」

「うおおおお!!」

 

 アーマーシュナイダーを2本。がら空きの背後から腰のジョイントと頭部メインカメラを繋ぐジョイントへと突き立てて最後にバスター同様蹴りつける。

 

「まずい、ニコル! ディアッカを連れて撤退しろ! 俺はイザークを……おい、イザーク!!」

 

 ストライクによって吹き飛ばされていくデュエルに動きが無い。

 態勢を整える事もしないその姿に、ミゲルは異変を感じた。

 

『ぐっ……あぁああ……痛い……痛い!』

 

 恐らくはコクピット内の損傷と併せて負傷しているのだろう。

 ミゲルはタケルのアストレイを捨て置き、デュエルの下へと急いで向かう。

 

「くそっ、逃がすか!」

「追うなタケル! 艦隊から離れてまで、追撃してもしょうがない!」

「──そうでしたね」

 

 焦燥が募っていたタケルは、どこか冷静さを欠いていた。

 結局一度たりとも、思うような戦いはできず。

 一瞬たりとも、あの時の感覚に入れることは無かった。

 

「(キラが居なければ……アークエンジェルは……くそっ!)」

「戻るぞタケル──反省は後だ」

「はい」

 

 通信越しに、タケルの落ち込み様が見えたのだろう。

 ムウの声には戦闘の疲労も見られたが、タケルを労う声音であった。

 

 

 

「──はぁ、なんとか、なったわね」

「ギリギリでした。ストライクとキラ・ヤマトの活躍が無ければ、恐らくは……」

 

 戦闘の終了を確認して、静かになった艦橋にマリューの疲れた声が響き渡った。

 ナタルが言うように、損傷もひどくギリギリの戦いだったであろう。キラとストライクの目覚ましい活躍が無ければ間違いなく落ちていた。

 

「キラ君の活躍……この間のアマノ二尉と言い、ちょっと妙な変化……よね」

「それを考えるのは詮無き事かと。戦闘中に出し惜しみする様な者でないことは、艦長も良くお分かりのはずです」

「わかってるわ……あんな子達だから、また余計な重荷を抱えなきゃ良いけど、って心配なだけ」

「その為に、私達がいるのでしょう?」

 

 言外に重荷を背負せないように対処するのが、艦長であるマリューと副館長であるナタルである。

 そう、彼女の視線が物語っていた。

 

「そうね。また貴方にお願いするかもね」

「──キラ・ヤマトは艦長が担当だったはずでは?」

「あら? という事はアマノ二尉はナタルの担当で良いのね?」

「そ、そうは言っておりません! あくまで私は艦長の補佐であり──」

 

「センサーに感──第8艦隊です!」

 

 穏やかな会話の中にチャンドラの報告が入り、艦橋内に安堵の声が挙がった。

 

 戦闘が終わったところでの艦隊との合流の報。

 

 アークエンジェルは長い旅を終え、遂に第8艦隊との合流を果たしたのだ。

 

 

「ふぅ……艦隊に打電。フラガ大尉達を回収して」

「了解」

「微速前進。アークエンジェルは、艦隊との合流に向かいます!」

 

 

 ボロボロとなった大天使が、威風堂々と漆黒の宇宙を駆けていく。

 

 

 それが旅の終着ではない等と、露ほども知る事無く……

 

 

 

 

戦った。それは守る為。

戦った。それは生き残る為。

自分達の明日の為切り拓いた血路。しかし振り返れば残してきた足跡は重く。

消せない過去は彼らの心に重く降り積もった。

知らぬ頃には戻れぬ今。新たに、子供達が選ぶ未来は。

 

 次回、機動戦士ガンダムSEED

 

 『戦いへの選択』

 

 新たな戦場へ、飛べ、ガンダム!

 




いかがでしたか。
これが原作主人公の力。そんなお話

感想よろしくお願いします。

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